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小説の中で事件が起きるのは昭和35年と書いてありますから1960年頃のちょうどあこがれの団地生活がブームとなり始めた頃で、実在する東京世田谷区の新興大規模団地「大蔵団地」がこの事件発生場所のモデルとなっているようです。
 
小説では「日の出団地」となっていますが、随所に出てくる「近所にある映画撮影所(東宝スタジオ)」「歩いて小田急S駅(成城学園)へ」「最寄りのバス停は団地名(大蔵団地前)」「高台からは川崎方面が望め」「近くの多摩川からボートを借りてくる」などなどから簡単に推測ができます。この団地の近所に横溝正史氏自身が住んでいたと言うことですが、実は私にとっても何度か訪れたことのある非常に懐かしい場所でもあります。
 
横溝ミステリーと言えばやはり金田一耕助シリーズで、しかも地方に伝わる伝承や忌まわしい過去の出来事が引き金となった事件が謎として登場するイメージが多いのですが、この作品は金田一耕助シリーズでありながら、上記のように東京都内の新しくできたばかりの巨大団地の中で、次々に殺人が起きる内容という少し変わった趣向となっています。
 
タイトルの「白と黒」は、殺人現場に残された手紙の切れ端に書かれていた言葉なのですが、一般的には様々な意味で使われることが多い表現です。「白黒つける」「白星と黒星」「囲碁」「陰陽道」「目が白黒」「犬の名前でシロとクロ」「白人と黒人」・・・昭和35年の小説ですから、私がすぐに白黒ですぐに連想した「オセロゲーム」は含まれません。
 
この小説には、意外とエロチックな場面も多く、妖しげな関係が多く登場するのは、大人が毎月発行される文芸誌を買って、密かに楽しんで読む連載小説という側面があったのではないかと推測しています。なかなか最後は想定外の展開となり、やはり名作ミステリーはこうでなくっちゃと思った次第です。最近の安易なミステリー小説があまりにもミエミエ過ぎるか、逆にあり得そうもない複雑な設定や展開になっているのと大違いです。
 
但し、こういう小説はもう普通の書店には滅多に置いてないので、ふと手にとって買ってみるということがなくなっているでしょうね。私もこの本は購入したのではなく、会社の書棚に誰かが置いていったのを借りたもので、そういう機会でもなければまず読むことはなかったでしょう。
 
 
服部真澄と言えば、国際的なスリラーから国内の金融事情にも詳しく、カバーエリアの広いエンタテーメント小説家だと理解しています。この小説のタイトルの意味は「刀」ですが、その文字は「KATANA」、はて、どういうことか?ということでまったく内容は知らずに読み始めました。
 
前半は数多い登場人物達の説明を兼ねた地味な話しが長々と続くので、ちょっとつらいですが、そこでの役割や事情を知っておかないと、あとで苦労することになります。もっとも海外ミステリー小説のように本文の最初に「登場人物一覧」が書かれているので、もし混乱したらいつでも確認することができます。
 
内容は読んでからのお楽しみということですが、少しだけネタバレすると、この小説の中でアメリカ政府が進めようとする「KATANA」プロジェクトとは、安土桃山時代の日本で豊臣秀吉が天下統一を果たした後におこなった有名な「刀狩り」から来ているものです。アメリカでの刀狩りとはつまり銃規制のことです。
 
100年以上前の治安が悪かった時代に作られたアメリカの憲法に、武器の携帯を認める条項があり、それを盾にして一般市民が銃を持ち、政財界に多大な影響力を持つ銃器メーカーが新しいモデルを提供するという関係を政府は断ち切ることができるのか?そしてその方法は?と興味が尽きません。
 
それと同時に2000年頃から増えてきているらしい軍隊のアウトソーシング化についても触れられていて、その行き着く末もなかなか面白く描かれています。
 
 
新世界 (角川文庫)  柳 広司
柳広司氏の作品を読むのは「トーキョー・プリズン」に続いて2作目ですが、この「新世界」のほうが数年早く書かれています。「トーキョー・プリズン」はその主人公や舞台の設定にたいへん驚きとても面白く読めましたので、今回も多大な期待をして読み始めました。
 
物語は、日本のある作家のところにアメリカ人がアメリカの出版社では出版できない原稿を持ち込むところから始まります。その原稿の作者は原爆の父と呼ばれるロバート・オッペンハイマー氏が書いたもので、第2次世界大戦中に原爆の開発をおこなっていたロスアラモス国立研究所で起きた殺人事件に関するものです。
 
ただ場面があちこちに飛ぶので、いったいこれは誰が語っているのか(基本はオッペンハイマー氏の友人の語りのはずなのだが)が混乱してしまうことがあります。
 
時代もドイツ降伏後、当初はドイツに先を越されないようにと開発を始めた原子爆弾を開発を中断することもなく核実験をおこない、成功するや広島や長崎へ投下することや、その原爆投下直後、広島の街の中で起きた地獄絵図、研究所内で放射能漏れを起こし被曝する研究者、そして研究所内でおこなわれた戦勝パーティの殺人、やがてより強力な水爆開発に反対をしたオッペンハイマーが、赤狩りのターゲットとされて軍や警察にマークされていることなど時代を行きつ戻りつします。
 
作者的にはプロットを組み立てて、あちこちが最後に結びつくように意外性を持たせたのかも知れませんが、最初から最後までを一気に読んでしまうならともかく、毎日少しずつ寝る前に読む私としては結構つらいものがありました。
 
 
のぼうの城 (小学館文庫)  上・下巻 和田竜
今年の9月に映画として上映されるとかで、急に文庫の販売に力が入りはじめ、多くの書店で平積みされていますが、元々は著者が2003年に映画のオリジナル脚本として書いた「忍ぶの城」を、2007年に小説化して出版された和田竜氏のデビュー作といっていい小説です。
 
舞台は戦国時代の末期、ほぼ天下を手中に収めた豊臣秀吉が、最後に残る関東攻め(関東を治めていた北条氏の本拠小田原城を攻撃した小田原の役)と同時に、側近の石田三成に手柄を立てさせようと、現在は埼玉県行田市にあった北関東の小さな城「忍城」を攻めろと指示します。
 
実はこの忍城の当主から内密に「刃向かわず、すぐに開城するから助けてくれ」と秀吉に密使がきていて、単に形だけの攻撃をするつもりでしたが、当主が小田原へ出向いた後に留守役として忍城に残った甥がとった行動は「降伏はしない」でしたから、敵も味方も出来レースと知っていましたので唖然とします。このあたりは、本当は生きるか死ぬかの緊迫する中にあって、笑い事ではないのですが思いっきり笑えます。
 
ちなみに忍城側は付近の農民を入れて2千名、攻撃する三成勢は2万と言われています。しかし勇猛果敢でならした坂東武士の活躍と地の利を生かした防戦でなかなか城は落ちません。そこで三成がとった史上最大級の作戦とは、、、この城が後世に「浮き城」と呼ばれることから想像ができると思います。
 
映画では、忍城を守る側は臨時総大将となる成田長親役に野村萬斎、武将役には佐藤浩市や成宮寛貴、山口智充など、攻める側は豊臣秀吉に市村正親、石田三成役に上地雄輔となかなかユニークな配役と思えます。ちなみに「のぼう」とは野村萬斎演じる成田長親のことで、でくのぼうの省略形です。
 
 
会社に転がっていた本ですが、暇つぶしに借りて読んでみました。元々は様々なアングラっぽい仕事を取材をして1998年頃に「怪しい人々」として書かれたもので、内容は、例えばインターネットではなくパソコン通信や草の根BBSが出ていたりします。そのあたりが今読むとちょっとレトロっぽく思えます。
 
この著者の北尾トロという人、年齢は私とほぼ同年代で主にフリーライターとして活躍されている一方、早くからネットを使った古書店を開設したりとなかなかアイデアマンです。
 
おそらく一番有名な著書は「裁判長!ここは懲役4年でどうすか-100の空論より一度のナマ傍聴」と思われますが、その裁判の傍聴体験やこの怪しいお仕事の従事者へのインタビューなどフリーライターの本領発揮で体験型執筆を得意とされているようです。
 
この怪しいお仕事の中では、悪徳興信所、競馬の予想屋、野球賭博師、お寺売買のコーディネーター、「車で融資」の金融業者などが経験談を元に取材されています。ま、概ね想像の範囲内で、特にビックリしたという内容はありませんでしたが、お寺や住職の生臭い世界はちょっと興味がわきました。これからの超高齢化社会、お寺と坊主の仕事は当面数少ない成長産業でしょうから。
 



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