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弁護側の証人 (集英社文庫) 小泉喜美子

1963年というから今から50年も前に書かれた小説で、著者は1985年に亡くなっています。この著者の作品を読むのは初めてで、全然知らなかったのですが、私の好きなハードボイルド作家生島治郎氏の最初の妻だった方です。

読んでいると、なんの違和感もなくとても50年も前の小説には思えない新鮮さがあります。つまり法廷ドラマというのは何十年経っても進歩がないということなのでしょう。そう言えば法廷サスペンス映画「十二人の怒れる男」は1957年制作ですが、モノクロ映画ということと、登場人物の服装がみな年代物という以外、ストーリーには古臭さは感じられず、見応えのあるものでした。

主人公は身寄りがなくストリッパーで生計を立てていた女性で、ふとしたきっかけで名門の大企業のオーナー会長家の跡継ぎとされる男性から求婚され、身分の違いを超えて男性の家族の反対を押し切り結婚したものの、当然その男性の家族、親戚、雇われ人からは白い眼で見られています。

そのような中、夫の父親で大企業の会長を務める父親が自宅で何者かに殺されてしまいます。あとはびっくり仰天な仕掛けがあったりしますので詳しくは書けませんが、途中であれれ?と、一番最初に戻って読み返してみたりと、してやられたぁって感じです。

最後はもう少し身寄りも財産もない主人公にとって、ハッピーエンドで終われるとよかったなぁと感じた物語です。


十三の冥府 (光文社文庫) 内田康夫

いったい何作品あるのかわからないほど数多くある浅見光彦シリーズのひとつで、この作品もすでに2008年にテレビドラマ化がされています。

この浅見光彦シリーズの楽しみは、紀行もの小説の体をとっていますが、ちょっと切り口を変えて日本各地の歴史や伝承に絡めたミステリーが楽しめるということです。その多くは有名な誰でも知っている観光地ばかりではなく、日本地図でしか知らないようなところもあり、読んでいるといつかは行ってみたいなと思わせるものです。

今回は青森が舞台です。青森といえば、私はまだ未踏の地で、ありきたりに、いつかは奥入瀬渓流、恐山、竜飛岬などに行ってみたいなとぼんやりと思っていましたが、この「十三の冥府」を読み、面白そうなところがいっぱいあるので、もっとジックリと各地を回ってみたいなという気になりました。

例えばシジミ料理が美味しい十三湖、ウミネコ繁殖地で有名な蕪島、ちょっとマニアックな戸来(へらい)のキリストの墓などなど。主人公も食べる十三湖のシジミラーメンはぜひ食べたいものです。

それはさておき、旅行ルポライター浅見光彦が行く先には不可解な死や殺人が起こり、傲慢無礼な刑事が登場しと水戸黄門のようなワンパターンですが、それでもはまってしまうとなかなか抜け出せないのもやっぱり黄門様と同じです。

こうした紀行ものとミステリーがうまくマッチした小説がテレビ2時間ドラマ(実質90分)には最適なのでしょう。見る方も読むだけではわからない当地の美しい風景も楽しめます。

今回のミステリーの謎は、細かなところでは違っていましたが、なんとなく中盤でわかってしまいました。ただ年齢も近く、顔もそっくりよく似た人同士が偶然知り合い、それを使ったアリバイのトリックというのは、ちょっと無理があるなぁって思わなくもない。それなら時々見かけますがまだそっくりな双子が身代わりになるトリックのほうが現実的でしょう。

タイトルの「十三の冥府」はこの事件に関連して亡くなった人の数や、事件の鍵となる人が住む十三湖、そして忌み数である13をうまくかけたようです。


ハルカ・エイティ 姫野カオルコ

私とほぼ同学年(1歳違い)の姫野カオルコ氏の作品は意外にも今回初めて読みます。この「ハルカ・エイティ」(2005年初出)は直木賞候補にあがったものの、残念ながら受賞には至りませんでした。

主人公は大正9年(1920年)生まれの持丸遙、本書発刊当時の2005年時点では85歳になる女性の、ほぼ一生を描いた大河小説で、そのモデルは著者の伯母とのことです。

嘘か誠かNHK朝の連続ドラマを狙っているという通り、過去の朝ドラのパターンが踏襲されています。現代に生きる老女が過去を振り返るパターン(これは姪の作家聞いたことを書くパターン)で、その主人公は学生時代には品がよく仲のよい友達が多くのびのびと育ち、やがて太平洋戦争中のどさくさで見合い結婚し、夫はすぐに出征、残された夫の両親と厳しい時代を乗り越える。

戦争が終わり、夫は無事に帰ってきたものの、仕事がなかなか安定せず、当時としてはまだ珍しいキャリアウーマンになるべく偶然見掛けた幼稚園園長の仕事に応募し見事に就職。やがては教育委員会へと順調に出世していきます。

惜しいかなNHKが朝の番組で取り上げるには、仕事もうまくいかないのに次々と外で女に手を出す女癖の悪い夫や、30半ばにして女に目覚めて浮気を繰り返す主人公、そのような両親を見ていて距離を置こうとする一人娘と、あまりにも現実的すぎるかもしれません。

しかしこのような戦前から戦中を描いた作品を読むといつも思うのですが、吉村昭氏や井上ひさし氏ならいざ知らず、この姫野氏や浅田次郎氏や柳広司氏、北村薫氏など、戦後生まれにも関わらず、まるで見てきたようにその時代の風景をうまく描写します。「小説家は読者を騙すのが仕事だ」と誰か作家先生が書いていましたが、「騙す」というのが違っているとしても、聞いたり読んだりしたものを自分なりに想像して表現することに長けているということなのですね。

戦国時代や江戸時代のことなら、例え事実に大きく反することを書いたとしても、小説なら許され、そしてそれが事実に反するということは誰にも証明ができないのですが、太平洋戦争前後のことならば今でもよく知っている100歳前後の人がまだ多く読者にいるはずです。あとがきにも書かれていましたが、それに文句を付ける人も少なからず出てくるのでしょう。


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