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三千枚の金貨(光文社文庫)(上)(下) 宮本輝
 
2010年に単行本が発刊、2013年に文庫化された長編小説です。著者の作品はライトで、また国内外問わず様々なところを旅する紀行もの的な要素が含まれる小説も多く、旅をした気分になれるので割と気に入っていてよく読みます。

数えてみると全部で30冊あり、上・下巻を合わせて1編、その他ダブって買ったものを除外すると23冊(編)を読んだことになります。

もちろん実際にはその何倍かの小説が出ていますので、熱烈なファンからするとその程度でファンと言うのはおこがましいと非難されそうで名乗っていません。

この小説ではいきなりなんの脈絡もなく主人公がシルクロードの砂漠の旅から返ってきたその足で、馴染みのバーへ寄ったところから始まります。

その旅の情景は後々詳しく語られています。おそらく創造だけで書けそうもない細かなデテールを含んでいますので、実際に取材旅行へ行って著者自身が体験されたことも含んでいるのでしょう。

個人旅行では見たり聞いたりしたことを身近な人に喋ることはあっても、なかなか人に読ませる文章にはしないものですが、作家さんが行く旅は取材旅行であるなしに関わらず、その時の情景や感動をうまく文章に表現しなければならず、そうしたものも一種の慣れか特技をお持ちなのでしょう。

ストーリーはその旅をした砂漠の旅の話し・・・ではなく、主人公が5年前に病気で入院したときに、同じく入院中で余命少ない謎の初老男性から聞かされた「和歌山にある見事な桜の木の下に1億円相当のメイプルリーフ金貨3000枚を埋めた」という話しを思い出し、半ば冗談で仕事仲間に話したところ、探し出そうということになります。

と、同時に「亡くなる前にその男性と主人公が長く話し込んでいた」という情報を得て、目つきの鋭いお供を連れた男が面会にやって来ます。つまり信じてはいなかった埋められた金貨を他にも探しているグループがあるとわかります。

こうした宝探し物語というのは一種男のロマンで、昔から宝を積んだ沈没船や徳川埋蔵金、山下財宝など、海外にもエジプトの古代埋蔵金やキリストの遺骸や聖杯など数限りなく噂や偽の古文書などが存在しています。

インディジョーンズの各シリーズや人気アニメONE PEACE、人気映画パイレーツオフカリビアンなどの海賊も財宝探しが主たる目的の話しです。

そして知り合いから手に入れた謎の男の探偵会社の調査報告書を元に、金貨が埋められた場所を探すことになります。

その調査報告書はとても探偵が書いたとは思えない内容で、例えば「釣り忍」の詳細などうんちく話しがたっぷり書かれているとかはご愛敬ですが、その男の正体と壮絶な過去が徐々に顕わになってくるところが最大の山場になります。

著者別読書感想(宮本輝)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書) 酒井穣

フリービット株式会社 非常勤取締役(人材戦略研究所・所長)、特定非営利活動法人NPOカタリバ 理事、株式会社 BOLBOP 代表取締役など多くの肩書きを持つ著者ですが、経歴は一貫してなく、よく言えば時代の波に乗りながら柔軟性があり、悪く言えば場当たり的に利を求めて動いてきたという印象が強い方です。でもそれだけに先見性と頭脳は飛び抜けていい方なのでしょう。

人材育成法は正解やルールがあるわけではないので、古くから言われてきて今もってしても明確な手法が確立できていません。

それは業種やその時の景気、経営方針や立場や性格など無限の関連するパターンが存在するからに他なりません。

しかし人材コンサルタントと自称するからにはなんらかの実績や経歴を並べておかなければなりませんので、得てしてそういう職種の人の経歴は、権威志向のやたらと長いだけの落ち着きがないつまらないものとなります。

新書にありがちなこうした釣りのタイトルもありきたりで、ずいぶん前に買っておいたものの、読もうかどうか迷っていたのですが、最初の数ページを読んでみると「分かり切った当たり前のことがとても慎重に書かれて」いて、つまらないテレビのバラエティを見るぐらいなら、といった感じで、そのまま全部読み切りました。

要は、高度成長期に見られた「OJT研修=ほったらかし」から、「優秀な社員が会社に残ってもらうための研修」をしなければならないということで、その手法や効果が論理的にかつ自己満足いっぱいで書かれているところを除き悪くはありません。

しかし本人はこの道一本というオーソリティではないので、どうしても他人が調べたデータや述べた言葉ばかりを羅列した構成になってしまい、せっかく優秀そうなこの著者の本音はなかなか知ることができません。

それとできればもっと世代別の特性やライフ(恋愛・結婚・子供・住宅ローン・親の介護・定年・老後など)を考慮した企業研修なんかも取り入れると、また違った観点で面白かったのになと感じた次第です。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

下町ロケット (小学館文庫) 池井戸潤

もう10年も前に出た半沢直樹シリーズ「オレたちバブル入行組」(2004年)、「オレたち花のバブル組」(2008年)がテレビドラマになって大ブレークした作家さんですが、もちろんそれ以前に作家としての実力も十分備わっていて「空飛ぶタイヤ」(2006年)、NHKでドラマ化された「鉄の骨」(2010年吉川英治文学新人賞受賞)など順風満帆で、この「下町ロケット」(2010年、文庫は2013年)では2011年直木賞を受賞しています。

私もデビュー作「果つる底なき」(1998年)以降、著者のほとんどの作品を読んでいます。2000年頃まではビジネス小説といえば城山三郎氏、源氏鶏太氏、梶山季之氏、清水一行氏、高杉良氏、山田智彦氏などが主流で、それを好んで読んできましたが、こうした新しい現代のビジネス小説の書き手が増えてきて喜ばしい限りです。

但しビジネス小説というのは割とパターンが決まっていて、ナイスミドルの主人公が巨大企業の悪や権力を振りかざす傲慢な上層部、接待、裏金、官製談合、融資停止、敵対的買収、理不尽なクレーム、利権政治家や官僚達の介入などに押しつぶされそうになりながらも、果敢に戦って一矢を報いるというもので、個人的には飽きてきたかなという感じもあります。

しかし想定している読者層は、主人公に自分を重ね合わせて現実のモヤモヤを少しでも吹き飛ばしたいと思っている30代~40代の中堅ビジネスマンということでしょうから、そうした水戸黄門的ワンパターンで正解なのでしょう。漫画の島耕作シリーズもこの流れでうまくいった例ですね。

昨年亡くなった山崎豊子氏も「華麗なる一族」や「沈まぬ太陽」でビジネスの現場を描くことが多かったのですが、企業に限らず幅広い社会全般をとらえ、著者の思いや願い、社会意義などが語られ、単なる勝った負けたのビジネス小説ではなく社会派小説と言われた所以ではないかと思います。

著者も「空飛ぶタイヤ」では、実際に起きた三菱自動車の欠陥車が引き起こした死亡事故をモチーフに、巨大自動車メーカーとその系列銀行の傲慢さと内部腐敗をえぐり出しましたが、これはまだデビュー間もない時期でもあり、そこまで書いて大丈夫か?と並半端な決断ではできなかったのではないでしょうか。実際に出版後に映像化されるまでには様々な妨害工作などもあったのではないかと思われます。

著者別読書感想(池井戸潤)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ふたたびの恋 (文春文庫) 野沢尚

人気脚本家としても脚光を浴びていた著者ですが、2004年に自殺して亡くなりました。その亡くなる1年前の2003年に単行本が発刊され、2006年に文庫化された3編+αの中編小説集です。

昨年読んだ著者の1996年の作品「恋愛時代」はお互いに好意をもったままだけど、別れてしまった男女の切ない恋愛がテーマでしたが、脚本家らしく映像がすぐ目に浮かびそうなわかりやすいストーリー展開がなかなか面白く読めました。それだけに44歳という作家としてはまだ若手の部類で自ら世を去ったのは残念でなりません。

この小説の1編の主人公としても出てきますが、テレビドラマの脚本家として、売れだすと次々と仕事が舞い込んでくる反面、一度視聴率が取れなくなると一気に仕事を失ったり、あるいは自分の作家、脚本家としてのプライドやこだわりと、作品監督やプロデューサー、果ては出演者との意見の食い違いなど、心の葛藤や多くのストレスがあったのではないかと思われます。

一つめの作品はテレビドラマ脚本家が主人公で、弟子だった女性と関係を持つようになり、その女性が若手脚本家として成功して独り立ちするようになった頃、自分は視聴率が取れなくなり自然と別れ、ひとりすさんだ生活をしていたところ、偶然同じリゾートホテルに泊まることになる「ふたたび恋」、二つめは高校生の息子の同級生に淡い「恋」をしてしまう中年女性が主人公の「恋のきずな」、そして三つめは最愛のひとり息子を交通事故で亡くし、その後妻とも別れ、アル中になり仕事にも身が入らなくなった料理人が立ち直るきっかけとなるのは?という「さようならを言う恋」。

中でも最後の「さようならを言う恋」は現実的には起こりそうもないことですが、別れた妻や雇ってくれたお弁当屋の経営者と言った主人公をとりまく人達がすごく「いい人」ばかりで、人生捨てたモンじゃないとほっこりさせてくれます。男から見た女の理想像でしょうかね。

収録されている+αの「陽は沈み、陽は昇る」は、未完に終わった中編小説の詳細なプロットです。プロットとはいえ読むと十分に内容や場面がわかり、ぜひ完成版を読んでみたかったなと思わせるものでした。

許されるのなら同じ脚本家で小説を書いている高野和明氏に「共著」としてそれを完成してもらいたいものです。そういうのはチャンドラー、マイケル・クライトン、伊藤計劃などの未完の原稿を、別の作家が完成させたという例はいくつもあります。

著者別読書感想(野沢尚)


【関連リンク】
 2月後半の読書 神様のカルテ3、卵をめぐる祖父の戦争、シューカツ、迷惑メールやって良いこと悪いこと
 2月前半の読書 北帰行、天地明察、微笑む人、ジェノサイド
 1月後半の読書 二人静、ザビエルの首、真夜中の男、殺し屋 最後の仕事

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神様のカルテ 3 (小学館文庫) 夏川草介

松本市に実在している365日24時間オープンの地域基幹病院をモデルとし、そこの病院に勤務する若い内科医が主人公の小説です。

前作「神様のカルテ」(2009年)、「神様のカルテ2」(2010年)ともかなりハイレベルで満足度が高く、今回の3作目(2011年)も2014年2月に文庫化されたと同時に買ってきて読みました。ちなみに著者は現役の内科医です。

この小説のいいところは、人間関係や医療の話しだけでなく、実在する美しい信州の名所旧跡がところどころに登場し、紀行もの小説としても読めることにあります。それと今回は長野産のリンゴの品種もいろいろと出てきたりします。そのうち著者は長野県から表彰されるかも知れません。

原作は映画化もされ第1作目は櫻井翔、宮崎あおい主演で2011年に公開、第2作目は今月21日から公開されますが、上記の美しい自然や名所がうまく物語のアクセントになっていることを期待しています。

ただこの3作目はまだ映画化されるかどうかわかりませんが、もしされるとなると心配なことがひとつあります。

主人公の妻役でプロ写真家という設定の宮崎あおい。彼女はオリンパスのカメラのCMに出ていて映画の中でも1作目ではオリンパスの(当時の)最高峰モデルカメラOM-4を使っていましたが、この原作3作目では主人公が妻にドイツ製の高級カメラ「ライカM9-P」をプレゼントされ、大喜びするというシーンがあります。

果たしてそのスポンサー(映画にスポンサードしているかは不明)に背を向ける場面は使えるのでしょうか?しかしM9-Pってすでに生産終了していますが、当時定価81万9千円ですって、めちゃ高なんですねぇ。

宮崎あおいを全面的にイメージガールとして使っているオリンパスとしては困るでしょうねぇ。ここでスポンサーや映画監督の太っ腹なところを見せられるか、著者がオリンパスと脚本家、映画監督に放った意地悪な矢のような気もします。

物語はさすがに3作目となるとちょっとマンネリ気味になってきましたが、地域医療に尽くす医者や看護師達、松本に暮らす人々、前編で亡くなった内科医の代わりにやってきた風変わりなベテラン女医、同期で仲のいい外科医が大学病院へ異動、主人公が住む昔は旅館だったシェアハウス「御嶽荘」の面々との変わらぬやりとりなど、主人公の周りで起きる日々の出来事が綴られています。

今回の3では、真夏の7月におこなわれる「深志神社の天神祭」、12月下旬から2月にかけておこなわれる松本市の隣の上田市鹿教湯温泉の「氷灯ろう夢祈願」、同じく寒い冬におこなわれる「国宝松本城 氷彫フェスティバル」、風光明媚な場所にあり由緒のある長野県大町市の「国宝 仁科神明宮」などが登場します。どこも一度は実際に足を運んで見に行きたいなと思わせるものです。

そして第1作目で悲しい別れをした「御嶽荘」に住む通称「学士殿」がこの3作目で、本当の学士殿となって再び御嶽荘に戻ってきたのは、唐突でもあり、最後に心が温まるという設定です。

著者別読書感想(夏川草介)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV)  デイヴィッド ベニオフ

2010年に単行本、2011年に文庫化され、Twitterで評判の高かった作品として名前が挙がっていた作品です。この著者はデビュー作「25時」という小説が2002年に映画化され有名になりましたが、これもたいへんユニークな作品でいずれ読みたいと思っています。

物語は風変わりなタイトル通りの内容で、主人公の祖父がソ連に住んでいた時に、ドイツ人を二人殺したことがあると知り、その時の話しを聞かせてくれと頼み、祖父が今まで決して明かさなかった過去を孫に聞かせるというものです。

主人公の祖父はソ連の第二の都市レニングラード(現サンクトペテルブルク)出身で、少年時代に第二次世界大戦が始まり、街はドイツ軍から攻撃を受けて包囲されました。

これが後に有名となる「レニングラード包囲戦」で、およそ900日(2年4ヶ月)の間、食料など支援物資が届かない窮乏の中、餓死者など100万人とも言われる多くの犠牲を払いながらも堪え忍びました。

そこで来襲するドイツの爆撃機などの監視をしていた少年時代の祖父は、同じ少年少女の仲間達とパラシュートで降下してくるすでに事切れたドイツ兵を見つけ、そのドイツ兵が持っていた装備を略奪していたところ、運悪く警備中の兵士に見つかり、少年だけが逃げ遅れて捕まり、残忍非道で有名なソビエトの秘密警察へ連行されます。

そこで少年は所属している連隊から離れ、女の家に遊びに行っていたところを捕まり、少年と同じように秘密警察へ連行された若いソ連兵と出会います。

略奪行為と軍からの脱走ですので、通常ならばすぐに銃殺されてもおかしくないところ、二人とも秘密警察の大佐から呼び出され「来週、娘の結婚式に豪華なケーキを作りたいのだが卵がないのでそれを調達してくれば許してやる」という話しになり、独ソが互いににらみ合っているさなか二人は卵探しの旅に出るというストーリーです。

前述のように街はドイツ軍に包囲されていて、まともな食料がない中で、二人の卵探しは難航します。食料は配給制となっていて、闇でなんの肉かわからないようなものが売られている状態です。人肉喰いはいても卵などはどこにもなく、二人は仕方なく戦前までは養鶏場があったドイツ軍の占領地域へと入っていきます。

そしてドイツ軍が接収した農家に若い女性が囲われる売春宿があり、そこで起きた脱走を試みた女性の無惨な最期の話しを聞いて、怒りに燃えた二人は無謀にも拳銃一丁でドイツ兵と戦おうと待ちかまえていたところ、ドイツ軍に抵抗するパルチザンの狙撃兵が売春宿にやってきたドイツ兵を先に射殺します。

そのパルチザンと一緒にドイツ軍の追っ手から逃げようとしますが、やがて追い詰められ、ドイツ軍の捕虜となり、さらに卵は無事に手にはいるのか!?っていうのが最大の見せ場で、まぁ祖父は生き延びているわけですから、結果は見えているものの、その過程を十分に楽しめる話しです。

そして物語の最初からつながっている一番最後のオチにグッときます。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

シューカツ! (文春文庫) 石田衣良

2008年に単行本、2011年に文庫化されたタイトル通り大学生の就職活動にまつわる真面目なライトノベルです。

早稲田大学と思われる大学の3年生6人が、人気が高く競争率の高いマスコミ企業へ入社するため就活チームを組んで、様々なノウハウを提供しながら取り組む姿を描いています。

大学生がこれを読んだからといって、就職活動がうまくいくというものではないでしょうけど、おそらくこれはもう就職活動が終わった人に対しては、「現在の就職活動ってこんな感じになっているんだ」と学生の苦悩を伝え、これから就職活動をする人には、「みんなが不安に押しつぶされそうになりながら必死にもがいている。

あなただけが苦しんでいるわけではないよ」と気持ちを楽にさせる意味合いがあるのかなぁと。

ただこの小説に登場してくるのは、私立でも一流といわれる大学で、しかも友人達にも恵まれ、部活やアルバイトなど青春を明るく謳歌している人達ばかりで、目指す目標も一段と高く、そうではない多くの一般の人には、読んでいると頭に来たり、あきらめが先に立ったりしてあまり参考にはならないかなぁと。

しかしこれに出てくる優秀な学生達が目指すのが、今や凋落激しいマスコミ業界(テレビ局や出版社、新聞社)っていうのは、なんだか違和感がありありなのですが、それでもなぜか学生には今(書かれた2008年当時)も大人気なんですね。

入社できたとしても、一番自由に本領が発揮できる二十年後に、それらの業界がどうなっているかを考えたことがあるのか?ってマスコミを目指す人に聞いてみたい気がします。

もちろん卒業後最初に就職するのは大企業に越したことはありませんが、この小説を二十年後にブックオフで見つけて読んだ若い人から、「へぇ、あの頃の学生って出版社やテレビ局にあこがれていたんだ。笑えるね」って言われている可能性が高いように思います。

いまから30年ぐらい前には就職人気企業で常にトップクラスだった航空会社や家電メーカーが、やがて倒産したり、何度も繰り返して社員を退職させる大リストラをおこなっているように、企業は栄枯盛衰していくものです。

せめてひとりぐらいは、現在の不人気業界ながら、自分が一番活躍できる30年後のことを考えると、この業界に入っておくのがベストという気骨のあるギャンブラーキャラがいてもよさそうに思いながら読んでいたら、最後の最後で、就活メンバーの中で一番有能な男性が大手新聞社の内定を蹴って、いきなりフリーで仕事をしていこうと決断するのは、いかにも早稲田の学生らしいなぁとちょっと見直しました。やっぱそうでなくっちゃね。

著者別読書感想(石田衣良)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

迷惑メールやって良いこと悪いこと 須藤慎一

パソコンやスマホでは欠かせない電子メールですが、その送られてくるメールには数多くのスパム(迷惑メール)が含まれています。そしてそれにはいくつもの罠や仕掛けが施されているというごく当たり前のリテラシー教育本です。

ネットの初心者にとっては決して当たり前ではないのかもしれませんのでこういう解説書も必要なのでしょう。とは言え、本の中身はネット中級者以上向けの言葉で書かれていますので、内容と文章表現がちょっとアンバランスな気もします。

騙されちゃいけないと頭ではわかっていながらも、それでも騙される人が後を絶たないオレオレ詐欺の例を見るまでもなく、「怪しいメールに返事を出さない」ということがわかっていても、知人の名前や有名芸能人の名前でメールが送られてくると、すっかり信用してしまうような人がいるわけで、騙す方と騙されないようにする側との知恵比べはいたちごっこで、今後も永遠に続いていくのでしょう。

ある程度のIT知識を持っている人ならあえて読む必要はないぐらいの話しですが、現在よくある騙しのテクニックがいくつも書かれているので、どういう人が騙されやすいのか、自分の親や子供にどう注意をしておけばいいのかなど参考にはなります。

迷惑メールがなくならないのは、それに引っかかる人が確実にいるからで、あとはその引っかけ率を高めていくというのがオレオレ詐欺が巧妙化していくのと同様、迷惑メール送信者が知恵を絞って考えることです。それをもっと善良なことで社会のためになることに使ってくれるといいのですが。

その内容には、なにかに当選したというような「美味しい話し」だけでなく、「生まれたばかりの子供に心臓移植が必要で助けて欲しい」というような人の同情や社会貢献につけ込むようなものまであるようです。

あとメールアドレスだけでなく、趣味や年齢、性別などの個人情報を入手すれば、より適確なスパムを送ることが出来、そのためには、豪華賞品が当たる懸賞などを利用して、そこに様々な個人情報を入力をさせるケースが多いと言うことです。

まるで大手企業が新商品紹介のためにやっているかのように見せかけたプレゼントやモニター企画にはこの不況時にはつい引っかかってしまいそうです。

有名企業が運営する懸賞だと安心していたら、そこに入力した個人情報は、別の企業へ提供することが小さく書かれていたなど、よくあるパターンです。そして賞品が当たらないというのも、先日懸賞品の水増しが明らかになった有名中堅出版社の例があるように決して珍しくはありません。

とにかく、怪しいメールは開かない、知らないサイトには登録しない、必要に応じてメールアドレスを使い分ける(フリーのメールアドレスを取っておき、重要なところ以外はそれを使い、迷惑メールが増えたらメールごと削除してしまうとか)など、初心者向けのポイントがわかりやすく書かれていました。


【関連リンク】
 2月前半の読書 北帰行、天地明察(上)(下)、微笑む人、ジェノサイド(上)(下)
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793
北帰行 (角川文庫) 佐々木譲

廃墟に乞う」(2009年)で直木賞を受賞したその翌年2010年にこの小説の単行本を発刊、2012年に文庫化された長編小説です。ジャンルはお得意の警察ものや歴史ものではなく、現代のハードボイルド作品です。

主人公は旅行会社から独立をして、たったひとりで旅行代理店や海外からの旅行者のアテンドをやっている男性で、ロシアから来た女性のアテンドをしたために、大きな事件に巻き込まれてしまいます。

そのアテンドをした旅行客は、数週間前にヤクザに殺された出稼ぎにきていた女性の姉で、殺された妹の復讐のためロシアンマフィアから送り込まれた殺し屋という設定です。ちょっと「007ロシアから愛を込めて」を思い出してしまいます。

実際的にはどうも現実感がなく、さらにこの主人公は自分が運転手となってアテンドをした女性が、自分の目の前でヤクザの組事務所を襲った後も、逃走に手を貸し、その際に怪我をしたロシア女性に哀れみの感情さえ持ってしまいます。したがって警察に通報することもせず、ヤクザからの追跡から逃げ回る結果となり、飛躍しすぎていて、とうてい考えられないアホなことを始めます。わずかばかりのアテンド費用で命張ってどうするよ。

その結果、警察からもヤクザを殺した女の共犯者として追われ、偶然顔見知りだったヤクザからは脅され、実家の家族にまで被害が及ぶことになります。いくらハードボイルドでも、ボディガードを頼まれたわけでもなく、自ら墓穴を掘っていく姿が情けないやら哀れだったり。

ちょっとそういうことで、内容的には東京-新潟-稚内というロードムービー的な要素を持つ面白そうなハードボイルド逃避行小説ながら、エンタメ要素を無理矢理詰め込んだせいで、設定にかなり無理があり、同氏の作品にしてはやっつけ仕事っぽくてイマイチかなぁというのが感想です。

著者別読書感想(佐々木譲)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

天地明察 (角川文庫)(上)(下) 冲方丁

2009年に発刊され吉川英治文学新人賞や第7回本屋大賞を受賞し、直木賞にもノミネートされた長編時代小説で、映画やドラマに引っ張りだこの岡田准一主演で2012年に映画化もされ人気を博した出世作です。

主人公は江戸城に勤める囲碁棋士で、算術に強くやがて天文暦学者になる安井算哲(渋川春海)という実在の人物で、知る人ぞ知るというユニークな人生を歩んだ人物にうまくスポットライトをあてたのはさすがと言えます。

春海は、徳川4代目家綱から5代目綱吉の時代に活躍し、それまで日本で利用されていた800年も前に唐からもたらされた宣明暦を、緻密な観測と中国と日本の位置からくる違いを計算し、新しい和暦(貞享暦)を初めて作りました。

暦の基本形を作るのはいまは国立天文台ですが、当時は主に祈祷師や神社などが中国の暦を元に勝手に作っていて、地域によっては1年が数日違っていたりすることもあったとか。

今でも旧暦という太陰暦は特に占いや年中行事などではよく使われていますが、当時もやはり暦と占いや年中行事は切っても切れない関係にあったようです。また各地の有名神社が独自の暦を発行することで、大きな収益を得ていたと言うこともあるようです。

様々な妨害や、伝統や権威と戦い様々なプレッシャーにも負けず、粘り強く日本の暦を新しく変えた主人公の成功物語と言ったところでしょうか。

余談になりますが、日本初の和暦となった貞享暦は、その後宝暦暦、寛政暦、天保暦と変わっていき、ついに明治5年11月9日(西暦1872年12月9日)には世界標準となっていたグレゴリオ暦(新暦)へと変更されます。

この新暦への変更時は、年末まであと2ヶ月近くあると思っていた国民が、いきなりあと3週間で年が改まると聞かされ、そこで起きる様々なドタバタは小説や、映画、落語などでもよく出てきます。

著者別読書感想(冲方丁)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

微笑む人 貫井徳郎

2012年に単行本が発刊された小説で、まだ文庫は出ていません。Twitterでなにかと話題が多かったこの作品ですが、私はなにも予備知識を持たないまま読みました。

小説はある突拍子もない事件を取材した小説家の語りで始まります。最初は貫井氏本人が取材したノンフィクションか?と思いましたが、そうではありません。

事件とは川に遊びに来ていた家族の幼い子供と妻が溺れて亡くなるという悲惨な出来事が起きますが、それはただの事故ではなく、目撃者と火葬直前だった遺体から発見された証拠から、一緒に現場にいて救急車を呼んだ夫の殺人事件だったということが後に判明します。

しかし犯行を認めたものの、殺害の犯行理由が「自宅の本の置き場がなくて」という信じがたい理由だったことや、犯人をよく知る人に聞くと誰もが「絶対に信じられない」と口を揃える好人物なのです。

取材を進めていくと、過去にこの男の周辺では謎の多い事故が起きていることが徐々にわかってきます。しかし、もしそれらが男の周到な殺人だったとしても、妻や子供の犯行と同様、犯行の動機がまったく想像がつきません。

そのように、取材で次々と出てくる犯人とされる不思議な男の感覚が、ふわふわというかジワジワと漂ってきて、気味悪さでいっぱいになってきます。

さらに男の子供の頃の話しまでさかのぼっていきますが、やはりそこでも虚言癖がある同級生との関係など、さらに謎が深まっていくことになります。

このような周囲から見ると信じ難い犯行動機が存在していても、決して不思議ではないということや、誰もが口を揃えて「いい人」「優秀なエリート」という犯人をあえて登場させることに著者はこだわったようで、今までのミステリー小説の常識や、事前に伏線を敷かれた謎が、スパッと解明される明快なミステリー小説に一石を投じたということかも知れません。

それだけに著者も期待はしていないでしょうけど、エンタメ映画やテレビドラマには不向きで、一種の最後まで科学的な謎が解明できないホラー小説を読んでいるという感覚に近かったかもしれません。

著者別読書感想(貫井徳郎)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ジェノサイド (角川文庫)(上)(下) 高野和明

5年ほど前に「13階段」(2001年)という著者のデビュー作となる小説を読んで、この人はストーリーテラーとして一流だと感じましたが、その著者の最新作がこの「ジェノサイド」(2011年、文庫2013年)です。2011年の直木賞にもノミネートされた小説ですが、その時は池井戸潤氏の「下町ロケット」に持っていかれました。

タイトルのジェノサイドとは一般的に「大量虐殺」という意味で使われていますが、それは物理的な数のことを指すのではなく、「特定の集団等の抹消行為」をいい、ナチスのユダヤ人虐殺のホロコーストやルワンダで起きた内戦による民族同士の大量虐殺などがそれに認定されています。

タイトルからすれば悲惨で暗そうなストーリーに思えますが、舞台が日本、アメリカ、イラン、コンゴなど場面は次々と変わっていき、前半部分はある種フレデリック・フォーサイスの国際陰謀小説を読んでいるかのような錯覚を覚えます。後半はまたちょっと毛色が違って、瀬名秀明著の「BRAIN VALLEY 」など先端医療サスペンスの様相を呈してきます。

主人公は二人いて、ひとりは日本の大学で薬学部で創薬を研究している大学院生、もうひとりは子供が難病にかかっているためその巨額の治療費を稼ぐため、アメリカ陸軍特殊部隊グリーンベレーを辞めて今は民間軍事企業で傭兵として働くアメリカ人です。

大学院生の父親は日本の大学でウイルス研究をおこなっていましたが、ある日突然亡くなります。その亡くなった父親から自動送信で謎のメールが息子宛に届き、それが発端となり父親が表沙汰にしていなかった研究を知ることになります。

この小説では国際陰謀小説ではよくありがちな権力欲にまみれたアメリカ大統領とその取り巻き一味が悪者で、好戦的で私腹を肥やすことに目がない権力者達が、世界一の軍事力、諜報力、政治力を使って陰謀に手を染めていくという構図です。

そうした壮大な国家権力に振り回されながら、日本人の大学院生は韓国人の留学生の協力を得て新薬開発に乗り出すことになり、元特殊部隊の傭兵も他の傭兵や元CIAなどの力を借りて、殺されるはずだった新生物を救いだし、証拠隠しのために自分たちも抹殺されることを知り、果敢に立ち向かっていくというエンタテーメントとしてはうまい仕上がりになっています。

ジェノサイドというタイトルの言葉は、この小説の中に時々出てきますが、タイトルとして適当かどうかは個人的に疑問があり、どちらかと言えば内容的にはエヴォリューション(Evolution)が妥当かなと思っています。

話しが壮大なだけに、日本で映画化はかなり難しそうですが、いっそハリウッドが「エイリアン 」や「ブレードランナー 」「ブラックホーク・ダウン 」などを手掛けたリドリー・スコット監督を起用して制作すると興味あるものができそうな気がします。ただその場合はきっと、原作とは違いアメリカ政府が悪者にはなりませんね。

著者別読書感想(高野和明)


【関連リンク】
 1月後半の読書 二人静、ザビエルの首、真夜中の男、殺し屋 最後の仕事
 1月前半の読書 冷血、クリフトン年代記 第2部(上)(下)、八つ花ごよみ
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789
二人静 (光文社文庫) 盛田隆二

2010年発刊、2012年に文庫化され、第1回Twitter文学賞第1位に輝いた話題作で、その評判をいろいろなところから聞いていたので早く読みたかった作品です。

そのタイトルからすると内田康夫著「天河伝説殺人事件」にも出てくる世阿弥作と言われている謡曲「二人静」をモチーフとした作品かなと思っていましたが、読んでみるとそうでもなさそうです。

謡曲「二人静」は義経討伐のあと、子供とも生き別れとなり、うち捨てられた静御前の霊がある女性に乗り移り、それを証明するために舞を踊ってみせるというストーリーです。

それならばもうひとつの「二人静」、明治から大正時代に活躍した柳川春葉の家庭小説からきているのかと調べてみるものの、その内容はわかりませんでした。

もしかすると文庫本の解説に書かれているのかも知れませんが、今回は単行本を読んだので不明です。

主人公は母親は既に亡くなり、認知症を患っている父親と二人で暮らしている会社員の男性。ある昔の出来事がきっかけとなり女性を心から愛することができず、30代半ばになった今でも独身で、会社の同僚女性からモーションをかけられても興味を持ちません。

そして認知症で身体も弱っている父親を抱え、毎日朝から夜遅くまでの会社勤めをすることにやがて無理が生じ、一時的な介護施設へ入居させることになりますが、そこで出会った担当の女性介護士との間に愛情が芽生えていきます。

しかしその女性介護士にも暗くつらい過去があり、まだ小さな子供(しかも人前では言葉が出なくなる場面緘黙症)を抱え、前の夫とのあいだにはDVや離婚裁判の怨恨で今も悩まされ続けています。

と、現代の社会問題が山積みされた内容ですが、どれをとっても日本国民は目をふさぐことはできず、今後ますますこうしたことがすぐ身近な問題として降りかかってくる可能性があります。

この主人公は、正規社員としてバリバリと働いていて、同僚にも恵まれ、さらに父親が買った自宅があるという、経済的にはまだ恵まれた環境にあるとも言えます。

現実的には長引く不況で職場を失ったり、地方への転勤を余儀なくされたり、また父親が住む家は借家で大きな財産もなく、認知症が判明した時点で火事の心配もあり借家から追い出されるというケースも考えられます。

この小説は決してすべて解決しハッピーエンドに終わるお気楽ものではありません。読書中にはこれでもかというぐらいに重石がどっしりと肩の上に乗っかってくる気分を味わされますが、読後には少しそれが和らいでいることに気がつくでしょう。

著者別読書感想(盛田隆二)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ザビエルの首 (講談社文庫) 柳広司

2004年に「聖フランシスコ・ザビエルの首」として初出、2008年に改題されて文庫化された小説です。大ヒット作となったD機関シリーズ第1作目の「ジョーカー・ゲーム」(2008年)が、来年2015年に映画公開されることが決まり、いままさにノリにノッている作家さんのひとりでしょう。

この作品はいくつか雑誌に連載されたものを再構成し、ひとつの小説にまとめ上げられたものですが、物語の構想というか目の付け所がいつもながら素晴らしく感心します。

ストーリーは貧乏なフリーライターがオカルト雑誌の取材で四国で発見されたというザビエルの首を取材しに行くところから始まります。

ザビエルの遺骸はインドのボン・ジェズ教会に安置されているので、日本に首だけがあるというのも変なのですが、そこはオカルト雑誌の手前、一応下調べをしてノー天気なカメラマンと一緒に出かけます。

フランシスコ・ザビエルは小・中学生の教科書に出てくるほど、日本へキリスト教を初めて伝えた伝道師として有名ですが、それ以前の活動や、その後の人生についてはほとんど知られていません。

主人公のフリーライターは、そのザビエル(とされる)首を見ると同時に感化され意識が飛んでしまい、ザビエルに誘われるがごとくザビエルが生きたその時代に移っていきます。

それは当時の日本、インド、パリ、そして生まれ故郷、さらには終焉の地、中国へと変わっていきます。

著者はこのような歴史上の有名人物を主人公としたり、あるいはモチーフとして使い、新たなフィクションを創り出した小説が多いのが特徴ですが、いずれも事実とフィクションがうまく混ざり合い、時にはコミカルで、そしてなにより大昔に習って、もうすっかり忘れていた歴史の知識を再確認できるという優れものです。

クライマックスでは、なぜザビエルは死後もまるで生きているかのように、身体が腐らなかったのかという奇跡の謎が明かされ、さらには続編を意識させる終わり方で突然閉じられています。

この小説の初出から10年も経った今でも続編は出てきていませんが、もし今後出てくればぜひ読みたいものです。

著者別読書感想(柳広司)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

真夜中の男(光文社文庫) 結城昌治

日本のハードボイルド作家の草分け的な作家さんで、その後そのジャンルで有名になった生島治郎氏のペンネームの名付け親とも言われています。

残念ながらすでに故人となられていますが、残された作品は全部で100冊近くに及んでいます。1970年には「軍旗はためく下に」で直木賞、1985年には「終着駅」で吉川英治文学賞を受賞されています。私は2006年に「軍旗はためく下に」を読んだだけでこれが2冊目です。

この本は今から30年以上前の1979年初出の作品ですが、読んでみるとその内容に古臭くは感じられません。

もちろん携帯電話やパソコンなどは出てきませんが、元刑事が主人公のハードボイルドミステリーですので、その世界においては30年前も今も、環境にはほとんど変わりがないとも言えます。

これが中途半端に90年代頃の探偵小説だと、ダイヤルアップでパソコンをつないでメールを読んだりネットを見たり、ヤクザが高級車に搭載された自動車電話で指示をしたりと時代を感じさせるものですが。

主人公は若いチンピラヤクザに足を洗わせようとなにかと世話をしていたために、癒着を疑われ刑事の仕事を追われてしまい、現在は退職した元刑事達で作る探偵をしている中年男性。

その主人公が世話をしていた若いヤクザの実姉と、ふとしたきっかけで姉の自宅で一度だけ関係を持ちます。そしてそのことが忘れられずに、翌日再び女の家に行くと、その女は自宅で亡くなっています。元刑事の勘から、自分が殺したと一番に疑われると判断し、指紋を消すなど偽装工作をしてそのまま逃げます。

しかし当日アパート近くに主人公がいたという目撃者が現れ、翌日には逮捕され、当初からなにも知らないと嘘をついたり、偽装工作をしていたことで、無実だという言葉は誰にも信じてもらえず、7年の実刑判決を受けて服役することになります。

場面は変わり、7年後に出所し、殺された女性のことや、なぜ自分が犯人と間違われたのか、そして真犯人と思われる、自分が女性の家を訪問する直前にアパートから走り去った不審な男の行方を捜すために行動を開始します。

探偵小説の定石通り、わずかな手掛かりを元にして関係者を探しだし、直接会って話しを聞いていきます。そうしていると定石通りに暴かれたくない真犯人と思われる者から邪魔が入るものなのですが、この小説では自分を目撃したと証言したキーマンが、会う直前に何者かに殺されてしまい、事態が動き出すことになります。

こうした最初は遠いと思える地道な調査から、少しずつ関係者に近づいていき、そして過去を知られたくないという真犯人をあぶり出していくというパターンはボストンの探偵スペンサー曰く「藪をつつく」ですが、必ず望むような結果に結びつき安心して読んでいられます。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

殺し屋 最後の仕事 (二見文庫) ローレンス・ブロック

2008年にアメリカで発行、翻訳された文庫は2011年に出版されています。タイトルにあるようにシリーズ化されてきた殺し屋ケリーの最終版となりますが、その後アメリカではKindleの電子書籍だけで続編が出ているそうです。そしてこのシリーズは連作短編のものが多いのですが、この作品は長編小説となっています。

◆殺し屋ケリーシリーズ(Wikipediaより)
 『殺し屋』 Hit Man(1998)- 連作短編集
 『殺しのリスト』 Hit List(2000)
 『殺しのパレード』 Hit Parade(2006)
 『殺し屋 最後の仕事』 Hit and Run(2008)
 『Keller in Dallas』(2009) Kindleのみ

さて、このケラーシリーズ最終作?は、巻末の解説でも書かれていましたが、できれば過去の作品を1冊以上読んでからのほうがいいでしょう。

それは主人公ケラーとその周辺の人達との関係、殺しの手法、、趣味の切手コレクションのこだわり方などある程度の予備知識があるほうが面白く読めるからです。

そしてこの長編に関しては、シリーズの従来スタイルではなく、著者ローレンス・ブロックの代表作、マット・スカダーシリーズと同様なハードボイルドタッチで描かれていることも、この作品の前に前作を読んでおくひとつの大きな理由です。

それは過去の作品のようにコミカルで軽快なところはほとんどなく、今までは準備万端で難なく仕事をこなしてきたクールな殺し屋ケラーが、大きな罠にはめられてしまい、追い詰められていくというシリアスなドラマとなっているからでもあります。

しかし捨てる神あれば拾う神ありで、しかも今までの流れからすると考えられない結末へと向かっていきます。考えられないというのは、「まさかあのクールな殺し屋ケラーが、安い週給で大工の見習い仕事を始め、まともな××をして○○までできちゃうなんて!」ということです。

もちろん先に書いたように電子版の続編が出ていると言うことは、少なくともここで主人公が死んで終わってしまうということではないのはわかってしまうのですが。

個人的には、こうしたシリアスな展開は「マット・スカダーシリーズ」やマイクル・コナリー著の「ハリー・ボッシュシリーズ」に任せておいて、ケラーはケラーのお気楽で計算し尽くされた殺し屋というイメージを最後まで貫いて欲しかったなというのが本音のところです。

ところで、本当の最終版、Kindle版の「ダラスのケラー」?は、日本語版では電子版だけでなく文庫版も出してくれないものかと書籍は絶対アナログ派だけに、ひたすらそう願うばかりです。

著者別読書感想(ローレンス・ブロック)

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784
2013年の1月から12月までに新旧刊の小説、ビジネス書など全86話(上下巻など分冊をすべてカウントすると98冊)を読みました。

月間に換算すると8.17冊となります。その中で、私のもっとも感動した本、ためになった本、人に推薦できる本をあげておきます。

予算の都合上、最新作(単行本)はまず読んでいませんので、あまたある書評の類とはタイミングが大きくずれています。

まずは昨年は気乗りせず、あまり読まなかったのですが、新書やビジネス系部門では、「寝ながら学べる構造主義 (文春新書)」内田樹著、「発達障害に気づかない大人たち (祥伝社新書 190)」星野仁彦著、「脳に悪い7つの習慣 (幻冬舎新書)」林成之著、「なぜ日本でiPhoneが生まれなかったのか?」上村輝之著、「「対話」のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの (PHP新書)」中島義道著あたりがその候補になりますが、特に「すごーくよかったなぁ」、「ためになったなぁ」と言い切れるものはありませんでした。

たいていの新書やビジネス本は、自己啓発、ポジティブシンキング、やる気を出す方法、クリティカルシンキング、もっと勉強しろ、意外な数字と統計、新発見ネタ、世の中の仕組みに騙されるな的なものが多く、それに対して最近私の気持ちが、先のことを考えばかりにどうもネガティブすぎるのかも知れません(反省してます)。

中島義道氏や内田樹氏の毒舌?やら愚痴などは気軽に読めて参考になる(二重取消線)面白いのですが、役立つ、タメになるかと言われると、私的にはちょっと違います。

若者や万人向けの本を読んで自己啓発するにはもう歳をとりすぎているのかもしれません。なんでも歳のせいにするのはよくないのですが(反省してます)。

したがって昨年の新書・ビジネス書大賞は「該当なし」ということで。今年はもう少し気合いを入れて新書・ビジネス本を読むよう心掛けます(反省しています)。

さて、世の中には、真面目に「小説を読む意味が分からない。」と言う人もいて、世間は広いようで狭く、狭いようで広いものです。これは価値観の相違というものでしょう。

なにも小説を読むことに理由は不要で、「人生に役立てよう!」とか「生きる糧となる」とか「ストレスが発散できる」というもっともらしい理屈で読むわけでもありません。強いて言うなら「そこに面白そうな小説があるから」読むわけです。私の場合。

ただ学生の頃や若いビジネスマン時代には、もう少し違った読み方をしていたかも知れません。例えば「恋愛の仕方」とか「日本経済の歴史」とか「大人の会話」とか「いろんな業界のこと」を知りたいがために小説を読んでいた時期もあります。

話しを戻し、次はノンフィクション・エッセイ部門です。全体の中では少ないのですが、こちらはキラッと光ったものがいくつかありました。

対象は、「タクシードライバー―一匹狼の歌 (幻冬舎アウトロー文庫)」梁石日著、「ガセネッタ&シモネッタ (文春文庫)」米原万里著、「遠野物語(角川ソフィア文庫)」柳田國男著、「三陸海岸大津波 (文春文庫)」吉村昭著、「父・こんなこと (新潮文庫)」幸田文著などで、その中から今さらと言われそうですが、「三陸海岸大津波」を強く推します。

もしこの本が東北沿岸各地の学校や企業の防災教育の教材として本格的に使われていたら、津波に対してもっと警戒心が保て、被害は最少に抑えられていたかもしれません。

吉村昭氏はすでにお亡くなりですが、この本をベースとして2011年の津波の話しも盛り込み、「続・三陸海岸大津波」を出版し、50年後、100年後のその時にぜひ役立ててもらいたいものです。また地震や津波の発生が多い国や地域に、各国語翻訳版を日本国が発行し、津波の怖さと知識を世界に向けてぜひ伝えてもらいたいものです。

遠野物語」柳田國男著は、最初は読むのに苦労しましたが、それもやがて慣れてくると旧漢字や文体も普通に飛び込んでくるようになります。現在では青空文庫でも読めますので、デジタル版で読むのが苦痛でない人はあらためて購入する必要はないでしょう。

小説部門ですが、外国人作家と日本人作家に分けて、多くの中から、私が推薦する作品からあげていきます。

まず日本の小説部門では、

きもの (新潮文庫)」幸田文著
神去なあなあ日常 (徳間文庫)」三浦しをん著
神様のカルテ2 (小学館文庫)」夏川草介著
東京セブンローズ (文春文庫)(上)(下)」井上ひさし著
ハルカ・エイティ (文春文庫)」姫野カオルコ著
一刀斎夢録 (文春文庫)(上)(下)」浅田次郎著
マンチュリアン・リポート (講談社文庫)」浅田次郎著
写楽 閉じた国の幻 (新潮文庫)(上)(下)」島田荘司著
そして、警官は奔る (講談社文庫)」日明恩著
散る。アウト」盛田隆二著
兎の眼 (角川つばさ文庫)」灰谷健次郎著
恋愛時代 (幻冬舎文庫)(上)(下)」野沢尚著

がイチオシってところです。

古い本もあり、新刊本中心の書店ではまず置いてないだろう作品も多く含まれています。

外国の小説部門では、読んだ作品中のほとんどがノミネートされますが、

死への祈り (二見文庫)」ローレンス・ブロック著
盗まれた貴婦人(ハヤカワ・ミステリ文庫)」ロバート・B・パーカー著
緋色の研究 (新潮文庫)」アーサー・コナン・ドイル著
時のみぞ知る クリフトン年代記 第1部 (新潮文庫)(上)(下)」ジェフリー アーチャー著

が秀逸作品。

外国人作家の小説は、それぞれのジャンルで一時代を築いたすでに著名な作家さんの作品ばかりでハズレはありませんでした。

で、いよいよその中から小説部門の大賞を発表します!

ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、デン!

日本人作家部門からは「東京セブンローズ(上)(下)」井上ひさし著 1999年初出

外国人作家部門は「緋色の研究」アーサー・コナン・ドイル著 1887年初出

にそれぞれ独断で決定!

いずれも最近の話題本ではなく、古い本ですが、いいものはいつまでもいいものです。

読後の感想は、

「東京セブンローズ」 1月後半の読書 2013/2/6(水)

「緋色の研究」 9月前半の読書と感想、書評 2013/9/18(水)

にあります。

東京セブンローズ」の舞台は太平洋戦争前後の東京で、そこで暮らす普通の庶民が、戦時中という非日常生活の中で力強く一生懸命生きる姿を描き、文章からは下町の懐かしい風景と香りが漂ってきます。

おそらく私より10歳以上上の世代(団塊世代以上)には、一部自身の経験と重なる部分があったりしてたまらないでしょう。

セブンローズの由来は7人の占領軍の幹部達を相手にする娼婦達の名称ですが、それがこの小説の主題というわけではなく、あくまで市井の庶民が主役の小説です。

著者の井上ひさし氏は太平洋戦争終結の時はまだ東北の児童養護施設から小学校へ通っていた少年で、上京したのは戦後10年近く経って大学生になってからです。

それなのに、この小説では戦争前後の東京下町とそこで暮らす人々を、まるで見てきたように詳細に再現しているのは驚きです。


次点としては「写楽 閉じた国の幻」(島田荘司著)をあげておきます。現在でも謎が多い奇想天外な謎の浮世絵師写楽を、人気役者を思い切りデフォルメし、過去の常識やテクニックにとらわれない作風から、手慣れた当時の浮世絵画家ではなく、まったく異質の芸術家の作品ではないかと大胆な推理で読ませてくれます。
読後感想は、4月後半の読書 2013/5/1(水)

緋色の研究」は世界的に有名になったシャーロック・ホームズシリーズの第1作目作品で、軍医として赴いていた戦地から、ロンドンへ帰ってきた青年医師ワトソンが、独りで住むには家賃が高いとルームシェアができる借家を探していたところ、風変わりな学者(ホームズ)が住んでいる家を紹介され、そこに住むようになってから、二人の関係と役割が決まっていくという過程がわかって興味深いです。

そして主人公シャーロック・ホームズの活躍をワトソンという準主役が事件簿として語っていくという当時としては珍しいスタイルはこれも有名ですがエドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人 」を真似たとも言われています。

このホームズシリーズはその後40年に渡り、短編を中心に60編が世に出され、テレビドラマ化、映画化、コミック・アニメ化はその数は知れません。

以上、いかがだったでしょうか?

もし推薦していただける本がありましたら、ぜひご連絡(コメント)をください。よろしくお願いいたします。どんなジャンルのものでも構いません。ただ読後の感想は当然ながら私の主観で書きますので、予めご了承ください。

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