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絆 (講談社文庫) 江上剛

著者は元銀行員でビジネス書やビジネス系の小説が多い作家さんですが、この小説は二人の幼なじみの少年二人が、昭和の時代をそれぞれ違った道で生きてきた大河ドラマ的な小説で、2007年に単行本、2009年に文庫版が発刊されています。

私は著者の作品では過去に「非情銀行」だけ読んでいますが、著者と私は4歳違い(著者のほうが年上)ということもあり、生きてきた時代はほぼ同年代と言ってもいいでしょう。

この作品の中で、主人公がまだ少年だった頃の描写は、著者が子供の頃の情景を元に描いたものと考えられますが、それは現代の日本からすると、考えがたいほど貧しく、そして差別や古くからの風習がまだ根強く残っていた社会で、大阪万博が開催された1970年頃以前は、それが田舎というか地方の現実だったことを思い起こさせます。

いまでこそ格差社会などという名前を付けて貧富の差や勝ち組負け組などと騒いでいますが、昭和30年代と言えば、今よりももっと差別や貧富格差は激しく、それこそ子供を育てるお金がない人は、実質的に子供を売り飛ばすがごとく赤子の時に養子へと出したり、「捨て子」と言って、親から捨てられ養護施設に収容される子供の数は決して少なくありませんでした。

この主人公も丹波の田舎町で母ひとり子ひとりの貧しい暮らしをしていましたが、小学生の時に唯一の肉親の母親に先立たれ、意地悪なお金持ちの同級生の家に引き取られることになり、その同級生と母親に奴隷のようなひどい扱いを受けながら、どうにか高校まで進みます。どうしてこの家に引き取られたのかは最後のほうで明かになります。

引き取られた家の同級生が女性を襲い、その共犯にされそうになり、同級生を殴ったことから、家出同然に大阪へ飛び出しますが、捨てる神あれば拾う神もあり、そこで偶然知り合った愛知県尾西市(現一宮市)にある染色会社の社長に気に入られて入社することになります。この子供時代の苦労話しはまるで男性版「おしん」です。

主人公は工場で働き、やがては子供がいない経営者に信頼されて養子となり、会社の跡継ぎになってからも、この幼なじみとの縁は切れず、逆に様々な場面で騙されたり無理難題を押しつけられ、それでもあきれるほど我慢を続ける主人公には、さすがに読んでいてもあきれるばかりです。しかしそれは最後の最後でひっくり返されます。

巻頭に「アセ興株式会社 社長森雄三氏」に捧げる旨のことが書かれていますので、この小説のモデルとなった方なのでしょう。現在その会社は匠染色という社名に代わり、経営者も変わっているようです。

著者別読書感想(江上剛)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

裁きの鐘は:クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫)(上)(下) ジェフリー・アーチャー

時のみぞ知る:クリフトン年代記 第1部死もまた我等なり:クリフトン年代記 第2部に続く第3部です。2014年4月1日に文庫版が発売されました。

簡単に1部と2部のあらすじを書くと、貧乏な家の生まれだった主人公と名門家で大金持ちの少年が、寄宿舎で知り合い親友同士となります。

しかしその後この二人は父親が同じで異母兄弟ではないかという疑いがかかり、その親友の妹と恋仲になっていた主人公は、恋人と結婚することをあきらめ、逃げるように一人アメリカへ旅立ってしまいます。

イギリスからアメリカへ向かう客船に船員として乗船中に、Uボートの攻撃を受け、船は沈んでしまいますが、主人公は幸い近くの船に救助されます。このどさくさを利用して、新しく生まれ変わるチャンスだと考え、アメリカへ上陸する時には沈没で亡くなった同僚の船員の名前を告げます。

ところが名を騙った同僚船員は殺人犯として手配されている男で、主人公は捕まり、裁判にかけられ、そして弁護士にもうまく騙され結果的に有罪判決を受け、刑務所で服役することになります。

イギリスに残してきた親友の妹の恋人は、主人公の子を産み、そして主人公が生きていることを信じ、ニューヨークまで追いかけてきますが、その居場所が判明したとき、主人公は刑を減免してもらうのと引き替えにアメリカ軍に入隊し、ヨーロッパ戦線へ旅立ったあとでした。

ここまでが1部と2部のおおまかなあらすじです。

さてこの3部は、第二次大戦が連合国軍の勝利で終わり、主人公は勲章を得て帰国を果たし、そして恋人と無事に結婚することができて平穏な日々をおくっています。

ところが名門家の財産を引き継いだ妻の兄である親友が、結婚相手に選んだ女性が、財産目当てと思われる高慢な貴族階級出身者で、母親が亡くなった後の財産を巡って一悶着が起きます。

結局はその女性とは別れることになりますが、主人公とその親友に対して執拗な悪意を持つ学生時代のライバルと組み、イギリスの国会議員である庶民院の選挙で邪魔をされたり、インサイダー取引に利用されたりと散々な目に遭います。

また、主人公の息子は成績は悪くないものの、数々の校則違反を犯し、卒業間近に停学処分を喰らうことなったり、奨学生として入学が決まっていたケンブリッジ大学の推薦が取り消されそうになる事態が発生します。

さらに両親が用事でアメリカへ渡っている隙に、ロンドンへ遊びに行き、同級生の家へ行くと、今度はそこの父親に利用され、本人が知らないうちにアルゼンチンから偽札の運び屋の仕事をすることになります。

もうジェットコースターのように次々と危険と謀略がいっぱいで、これはもう漫画の世界と言っていいでしょう。

この第3部は第二次大戦が終わってしばらく経った1950年代までで、最終的にはサッチャー首相が登場する1980年頃までの第10部まで続くそうで、前回に書いた宮本輝氏の「流転の海」シリーズや五木寛之氏の「青春の門」シリーズと同様、現在74歳の著者が、あと何年かかるかわからないシリーズの最後までちゃんと書けるのか?ってちょっと心配なところもあります。

もしかすると、緻密に計算され、人間の機微をうまくとらえ、しかもウィットに富んでいた「ケインとアベル」のような過去の多くの作品から、ただ乱雑で派手なばかりのB級アクション映画のようなストーリーへと最近毛色が変わっていることからすると、すでに実際は誰か別人のゴーストが書いているのかなぁって気もしないでもありません。

著者別読書感想(ジェフリー・アーチャー)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

男の作法 (新潮文庫) 池波正太郎

鬼平犯科帳」や「剣客商売シリーズ」「真田太平記」など多くの時代小説を残した著者ですが、1990年に亡くなっています。この本は1981年に発刊されその後文庫化されたもので、やはり数多くあるエッセイ作品のひとつです。

実は私はこの著者の本では20年前に「鬼平犯科帳」を1冊だけ買って読んだものの、あまり面白いとは思わず、その後は一冊も手に取ることはありませんでした。なんというか波長が合わないというか、いまいち肌に合わない感じがしています。

しかし実際に数多くのファンがいるわけで、20年も経ってあまり食わず嫌いもなんだかなと思って、これから少しずつ読んでみようと思っています。で、いきなりエッセイかい!って気もしますが、まずは著者のことをよく知ろうと思ったわけで。

このエッセイでは江戸っ子気質そのままの著者が考えてきた料理、酒、服装、家、妻、女などの様々な作法や考え方について、、インタビューをうけて好き放題に語ったものをまとめた形式になっています。

したがって決して厳格なマナー本ではなく、しかも30年以上前の話しでもあるので、平成の男子がそのまま真似をするとただ変人扱いされてしまうこともありそうです。

あと文章は口語をそのまま使っていますので、「あれ」とか「これ」とか「こうして」「こういうふうに」とか、いったいなにを言っているのか読む側にはさっぱり想像がつかず、イライラするような部分もあり、もう少しなんとかならないのかなぁと思ってみたり。熱烈な池波ファンならそれも味があっていいと許せるのでしょうね。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

きみの友だち (新潮文庫) 重松清

元々小説新潮に掲載された短編連作の小説で、2005年に単行本、2008年に文庫化されています。2008年には石橋杏奈主演で映画も作られていますが、あまり評判にはならなかったようです。

短編ごとに主人公というか登場人物は変わりますが、その中心にいるのは小学生の時に、自分の不注意でクルマにはねられ松葉杖の生活を余儀なくされた少女です。

あえて言うまでもなく、もうすぐ思春期を迎えようとする、心身ともに不安定な今どきの10代の少女や少年のキラキラした姿を、中高年の著者が描き、そして「きみたち」として描かれたものを、中高年の私が読むという、こっぱずかしい側面もあります。

収録されている短編は「あいあい傘」「ねじれの位置」「ふらふら」「ぐりこ」「にゃんこの目」「別れの曲」「千羽鶴」「かげふみ」「花いちもんめ」「きみの友だち」の各編から成り立っています。

途中少し中だるみするところもありましたが、上記の足の悪い主人公の元へ集まってきた、成長した彼女ら彼らが登場する最後の短編で、あらためて友達の意味を考えさせられるいい仕上がりとなっています。

今まで著者の作品の中では「その日のまえに」や「カシオペアの丘で」などの、壮年や中高年男性が主人公で、昔の仲間や友達、恋人、故郷などを懐かしく振り返るというテーストの作品を中心に12作品読んできました。

こうした思春期の少年少女を主人公とした作品も数多くあるのは知っていましたが、「いまさら少年少女ばかりが主人公の小説なんて」と思う気持ちもあり、なかなか手を出せませんでしたが、こうして読んでみると、今の若い人の悩みや考え方が多少は理解できるようになったかなと、勝手に自分に言い訳めいたような気分になります。

著者別読書感想(重松清)


【関連リンク】
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823
塩狩峠 (新潮文庫) 三浦綾子

1968年に発刊された小説で、実話を元にした感動作品です。これを原作として映画もできましたが1973年と約40年も前なので目にした方は少ないでしょう。

私は著者の作品ではデビュー作で代表作の「氷点」を15年ほど前に読んでいますが、こちらは繰り返しテレビドラマ化がされていて、最近、と言ってももう8年前になりますが2006年にヒロイン石原さとみ主演でありました。

タイトルになっている塩狩峠は北海道の道央と道北と結ぶ境にある険しい峠で、1899年(明治32年)には国鉄の前身の官設鉄道天塩線(現在の宗谷本線)が敷設されています。

そこで1909年(明治42年)に実際に起きた鉄道事故で、身を挺して犠牲となった鉄道院(国鉄の前身)職員の長野政雄氏がこの小説の主人公のモデルです。

明治時代といえばまだ仏教が当たり前の日本ではキリスト教やその信者は差別的にヤソと呼ばれ、大都会東京でも一般世間からは変わり者と言われ、のけ者にされていました。

主人公の母親もキリスト教徒であったため、子供を産んですぐに姑に家から追い出されてしまいます。主人公はその姑が亡くなるまで、母親はずっと前に死んだと聞かされていました。

姑が亡くなり家に母親が戻ってきたと思ったら、今度は父親が急死してしまい、中学(旧制、現高校)を卒業した後は一家の大黒柱として働かざるを得なかった主人公ですが、札幌に住んでいる中学校時代の親友から北海道へ来て仕事をしないかと誘われます。

自分の母親や妹、そして親友の妹で好きになった障害者の娘さんもキリスト教の信者ということもあり、北海道へ渡って鉄道会社に就職していた主人公は、やがては自然とキリスト教へ入信することになります。

私自身、キリスト教のことはよくわかりませんが、こうした自己犠牲と宗教というのはとても相性がいいようで、この鉄道事故が起きた後は日本でもキリスト教と信者が大層持ち上げられ、見直されるきっかけとなったそうです。

しかしその後日本は宗教とは直接関係がないとはいえ、自己犠牲を美徳とする教育とマスコミの煽動を徹底しておこない、国全体で多大な代償を払う太平洋戦争へと突入していくわけですから、そうした自己犠牲を清らかに賞賛する社会の風潮は美徳と言うだけでなく、なにか恐ろしいものだという感じもします。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

医療にたかるな (新潮新書) 村上智彦

昨年2013年に刊行された新書で、その刺激的なタイトルもあり、ベストセラーになりました。著者は負けん気の強い方なのでしょう、ユニークな経歴で、まず最初は薬科大学を卒業したものの、医者から「薬剤師のクセに」と一段も二段も下に見られて腹が立ち、それならばと医学部へ入り直し医者へ。

しかし実家が半端なくメチャクチャ裕福でないと薬科大学と医学部の両方を卒業するなんて絶対に無理でしょうね。

大学病院で勤務していたとき、北海道瀬棚町の町長に請われて町営の病院へ移り、再建と町民の意識改革に手を尽くしたものの、町長が替わったとたん政策が大きく変わってしまい、新町長と喧嘩別れして新潟の湯沢町の病院へ。その後財政破綻した夕張市の管財人からの依頼を受けて夕張市へ行きます。

そこでは既得権益者やたかり、甘え体質が蔓延していた役所や住民達とも対立し、一方的な批判記事が書かれたり、議会でつるし上げにあったりと散々な目に遭いながらも、1億円を超える当面の資金を自分で工面し、無駄をなくし予防医学を中心とする医療改革をおこなっていく過程が書かれています。

批判は国の制度や自治体や役所の問題だけでなく、医療現場にたかろうとする北海道の住民体質に向けても舌鋒鋭く、持論を述べています。

実際に双方の言い分を聞いてみないとどっちがどうでという判断は難しいのですが、とかく新しい風を吹き込もうとすれば、先日「政治家の殺し方」でも書いたように過去何十年間にわたり強大な力を蓄えている既得権益者との激しい戦いがあり、この著者もそれに巻き込まれることになります。

あと残念なこととして、この新書では触れられていませんが、既婚の著者の自宅(単身赴任?)で、著者の愛人と思われる二人の女性が刃傷沙汰を起こした事件が2012年に起き、自分が借金までして作った「医療法人夕張希望の杜」の理事長を辞職するに至っています。

著者の医療に関する信念と、プライベートのスキャンダルとは関係がないと言ってしまえばその通りですが、せっかく改革者として既得権益者やそれに与するマスコミに対して正面から攻勢をかけていたのに、つまらないことで勢いをそがれてしまうことになったことは無念なことでしょう。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

オレたちバブル入行組 (文春文庫) 池井戸潤

テレビドラマで人気を博した半沢直樹シリーズの第1作目の小説として有名です。この文庫が発売された2007年から2008年前半頃には店頭に平積みをされていた時期がありましたが、当時はそれほど人気が高かったわけではありません。

私も著者の本では、デビュー作の「果つる底なき」や「BT’63」をすでに読んでいましたが、「またお得意の銀行小説(著者は元銀行マン)か」ぐらいに思い、買うことはありませんでした。その後出てきた主人公は銀行員ではない「空飛ぶタイヤ」「鉄の骨」「下町ロケット」などは面白く読ませていただきました。

しかしご存じの通り2013年にはテレビで大ヒットし流行語大賞にも選ばれるほどの人気となり、再び書店では「半沢直樹フェア」が仰々しく開催されていました。

著者にとってはこうしたテレビや映画で作品が映像化され、それがきっかけでベストセラーとなり、その影響で別の作品も一緒に売れるのはとっても旨味があるでしょう。

それだけに作品の映像化による原作使用料は、大ヒットして興行収入58億円と言われる映画「テルマエ・ロマエ」でさえ、その原作者ヤマザキマリ氏に支払われた原作使用料はたったの100万円だったというように、おそらく信じがたいほど安くても我慢せざるを得ないのが現状かも知れません。ヒットするかどうかまだわからない時に契約するわけですからね。

物語は、主人公の半沢直樹がバブル真っ盛りの中、就職活動をおこない、悠々と都市銀行の内定をとり、順調に階段を駆け上がっていたところ、バブルが弾けてしまいます。

支店の営業成績を上げるため、支店長命令でろくな審査もせずに企業融資をおこなったところ、それが不良債権になってしまい、あとは支店長以下に責任を押しつけられ、窮地に追いやられそれを同期の仲間達にも助けられ奔走するというものです。

「すさまじきものは宮仕え」とはよく言ったもので、特にエリートが集まる大手企業ではこうした社内政治力学や、上司の不正行為、ミスが発生したときのスケープゴート探し、子飼いの部下や社内派閥の構成、ゾンビとか妖怪と呼ばれても権力にしがみつく老人など、事実は小説より奇なりということは、大手企業に勤務したことがない私ですら知っていますが、今の若い人達は、こうした現実ではあり得ないようなビジネス下克上物語で少しは溜飲を下げたりするものでしょうか。

著者別読書感想(池井戸潤)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

それでも、警官は微笑う (講談社文庫) 日明恩

昨年読んだ武本・潮崎シリーズの「そして、警官は奔る」の前作になります。つまり2作目を読んで面白かったので1作目も読もうと買ってきました。著者のその他の作品では「鎮火報 Fire's Out」を読みましたが、こちらは消防士が主役の小説で、こちらもとても面白かったです。

著者の名前は日明恩と書いて「たちもりめぐみ」と読みます。普通の人は読めませんよね。ということは、書店によって著者順に並べてあったとしても「タ」のところにちゃんと置いてあるかどうか怪しかったりします(多くの書店員さんは賢いから大丈夫かも知れませんが)。

そしてこの著者は警官や消防士という、男臭くて汗臭い男を主人公とした小説を書きますがなんと女性です。

主人公の武本は高卒で警視庁に入り、硬派で真面目一方のたたき上げの刑事。コンビを組まされている後輩の潮崎は、大卒で国家試験を通り警視庁に入庁してきたキャリアではないもののエリートで、しかも実家が茶道の名門家元とかで、警視総監クラスの上流社会にコネをもち、警察組織の中でどう扱っていいか困って、本人希望で現場の所轄に配属された刑事。年は若く経験も少ないものの、役職は武本よりも上というありがちな設定です。

そしてこの二人は経歴と同様に、性格も対照的で、無口で人嫌いな主人公と、とにかくよく喋り、誰とでもすぐに仲良くなれる潮崎は、お互いに自分にない、いいところを認め合っています。

前述の通り、このシリーズの2作目は昨年春に読んでいますが、その時謎だった二人の関係や主人公の武本、潮崎二人の素性がこれを読んでようやくわかりました。やっぱりシリーズものは最初から読まなきゃダメですね。

第2作目を読んだときの感想文では「堂場瞬一氏の作品と共通する匂いがある」ような事を書きましたが、この1作目を読むと暴力的指向性が楡周平氏の作品のイメージに似たところがあるなぁって感想。いずれにしても刑事や知能犯を派手目に描くと味付けは似てきてしまうのは仕方がないところで、最近ちょっとそういう作品が多すぎるかなぁという気がします。

著者別読書感想(日明恩)


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チルドレン (講談社文庫) 伊坂 幸太郎

2004年に単行本、2007年に文庫本が発刊された短編集です。「バンク」、「チルドレン」、「レトリーバー」、「チルドレン2」、「イン」の5編からなりますが、「短編集のふりをした長編小説」というちょっと不思議な体裁になっています。

というのも、この5編には陣内という同じ男性が登場してきますが、主人公(語り手)はこの陣内ではなく、それぞれに違っています。

「バンク」は陣内の大学の友人が主人公で、ふたりで銀行の閉店間際に預金を下ろそうと飛び込んだところ、偶然にも銀行強盗と出くわしてしまい、他の客ともども人質にされてしまいます。

「チルドレン」と「チルドレン2」では陣内が働く職場(家庭裁判所)の後輩が、「レトリーバー」と「イン」は前の「バンク」の銀行強盗事件で陣内らと一緒に人質になっていた盲目の青年とその彼女が主人公です。

このすべての短編に出てくる陣内という男がなかなかユニークで笑わしてくれます。確かにクラスにひとりぐらいはこういうおしゃべりで自信過剰なお調子者は必ずいるもので、どちらかと言えば無口だった私はいつも羨ましく見ていました。

「チルドレン」の中で、家庭裁判所調査官が非行少年に宿題として渡した芥川龍之介の「侏儒の言葉」は面白そうなので買おうとメモっていましたが、青空文庫に入っていることがわかり、とりあえずそれをスマホにダウンロード。暇なときにでもじっくり眺めてみたいと思います。

著者別読書感想(伊坂幸太郎)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

親鸞 (講談社文庫)(上)(下) 五木寛之

2010年に単行本が、2011年に文庫本が発刊されました。上下巻で750ページの長編小説で、すでにこの続編「親鸞 激動篇(上)(下)」も発刊されています。

さらにその後「親鸞 完結篇」まで続くそうです。五木寛之おん歳81歳、まだまだ続きそうな「青春の門」もそうですが、大丈夫なのか?

先に述べておくと、この実在した歴史上有名な僧侶をタイトルにした歴史小説は、その多くの部分はフィクションで、根拠に乏しい話しがかなり含まれています。

それは著者が小説として創造したもので、仏教や親鸞の研究をしようという人や、真面目に学ぶために読むものではなく、歴史小説の場合はほとんどそうなのですが、エンタテーメントとして読むのが正しそうです。

親鸞は平安末期~鎌倉時代に生きて、師匠の法然上人とともに仏教を日本の各地に広めると同時に、自ら法然上人の浄土宗を元にしてもっと先へと進めた浄土真宗の開祖で、中学校の教科書などにも出てくるほどの有名人ですが、自伝的な記録がほとんどなく、その生涯についてはあまり知られていません。

ちなみに現在の日本の宗派ごとの仏教信徒(門徒)数は、この親鸞が広めた浄土真宗(本願寺派と大谷派の合計)がもっとも多いとのことです(2位は曹洞宗、3位に浄土宗)。そういやうちの実家もそうだったかも。

親鸞はまだ子供の頃に父親が家族を捨てて出家してしまい、母親は病死、仕方なく兄弟はバラバラになり親戚に預けられます。長男だった親鸞は比較的まだ恵まれた叔父の家に預けられ育てられますが、まだ幼い兄弟が下にいるので、9歳の時にお寺へ預けられ、やがて出家することになります。

親鸞が幼少の頃(1180年頃)に住んでいた京都は、後白河法皇が治める平安末期で源氏と平家の戦乱と、度重なる飢饉のため荒廃していて、京の都ですら餓死者が道のあちこちに放置されているようなひどい状態です。余談ですがこの時代を描いたSF時代映画「五条霊戦記 GOJOE」(2000年)はなかなか秀逸でしたのでぜひご覧ください。

そうした中で、親鸞はふとしたことから町の底辺に住むの男達と縁ができ、その後の人生にも大きな役割を果たすことになります。

比叡山(延暦寺)は最澄が開いたとされる名門中の名門の寺社で、親鸞は幸いそこで修行を積むことがかないますが、上流家庭の子弟でないことで出世はかなわず、また僧侶の生活の乱れにもヘキヘキし、修行も途中のまま山を下ります。

そして同じく比叡山で修行を積み、現在は袂をわかち、庶民から武士まで幅広く布教をして人気を集めている法然に影響を受けることになります。

法然も親鸞も今風に言えば、苦学して三流大学から財務省へ入省したものの、東大派閥に嫌気がさし数年で辞め、その後ベンチャー企業を立ち上げて成功したみたいな感じでしょうか。

しかし仏教を高貴な人達だけではなく、広く大衆に布教していこうとする法然やその弟子の思想が、古くからの既得権益者だった仏教界から危険視され、やがて当時の政権や比叡山など権力者によって排除されていくことになります。

この小説では親鸞の子供時代から、比叡山での修行、そして山を下りてから六角堂の百日参籠後に法然の元へ通い、その後弟子となり、やがては京の都から越後へと流される34歳までの半生をエンタテーメント性たっぷりで描かれたものです。

たいへん面白かったので続編の「親鸞 激動篇(上)(下)」も買ってこなくっちゃ。

著者別読書感想(五木寛之)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

政治家の殺し方 中田宏

典型的な血気盛んな若手政治家(と言っても著者は松下政経塾で政治家のプロを目指し、衆議院選挙で当選もしたことのあるプロ政治家)が、前市長の長期多選の弊害を訴え、巨大な横浜市の市長に当選し、そこで財政健全化を目指して公約を実現しようと突っ走った結果、過去何十年と脈々と築きあげられてきた与党や既得権益団体に徹底していじめ抜かれて、最終的にはこういうことになりましたという新書で、2011年に発刊されています。

中田氏が市長を務めた横浜は、私が住む川崎とは隣の市で、当選時は「政治の風向きが変わった!?」と大きな話題となりました。その後のスキャンダルについても報道が刺激的で過激だったので、自然と刷り込まれています。

しかしその数年後に様々なスキャンダルについて勝訴した裁判のことなどはまったく情報として入ってきませんので、「あぁ、あのなんかよくわからないけどスキャンダルまみれで辞めた市長」ぐらいの知識しかありませんでした。それが普通の国民・市民の感覚でしょう。

今まで波風を立てないようにオール与党体制でやってきた横浜市ですが、新市長誕生で既得権益者にとってはタブーだったところに手を入れだしてきたものだから、当然反感を買い、様々な手法で市長の追い落としが始まります。その内容が書かれています。

既得権者側は、数年後に裁判で明らかになる真実などどうでもよく、次々に市長とその家族、支援する取り巻きのスキャンダルをでっち上げて市民に悪いイメージを植え付けることに注力します。

それにより辞めさせる(逃げ出す)ことが狙いだったということが書かれています。今さら聞いても遅いわいと思わなくもないです。

でも政治家になる以上、こうした反発やスキャンダル捏造は多かれ少なかれあると想定した上で、毅然とした対応や、サポートしてくれる仲間作りをしておかなくっちゃなと思うのですが、既得権益者ばかりではなく、ほとんどのマスコミにもこの市長は不興だったようで、周囲に善意の味方が少なかったのが最大の敗因だったような気がします。

あれほど地元から人気(票)を集め、敵も多けれど怖いものなしだった大阪市長でも、既得権益団体や他の政治団体、マスコミから失言や過去のスキャンダルを必要以上に大きく取り上げられ、窮地に陥りそうなところで、かろうじてどうにか踏ん張っているという状態とも似ています。いや~政治の世界というのは本当に一歩先は真っ暗な闇って感じです。

先月読んだ真保裕一氏の「ダイスをころがせ!」は、完全な架空の小説ですが、中田氏と同様に無所属で長年波風が立たなかった選挙区への立候補という状況が似ていて、やはり既得権益者と思われる団体から様々な嫌がらせや脅し、捏造スキャンダルなどで苦しめられる様子が描かれています。

しかしそれが現実がそうだとして、こうした政治や政治活動を長い間「良し」と受け入れてきた我々「国民や市民が結局は愚かなんだ」と言われているようで、読後の後味は決してよくありません。

できれば元市長本人ではなく、誰かノンフィクションライターがインタビュー形式で、私感や第三者から見た元市長の奮闘なども織り交ぜながら書いた方が、ずっと説得力も違っただろうになというのが感想です。それが売れるかどうかはわかりませんが。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

平成関東大震災 いつか来るとは知っていたが今日来るとは思わなかった (講談社文庫) 福井晴敏

週刊現代に連載されていた小説が2007年に文庫として発刊されたものです。

2011年の東日本大震災前に書かれましたので、その際に実際に震度5.5に襲われしばらく都市機能が停止した東京とはまた少し違うものですが、もし2011の時より被害が大きくなる想定の首都直下型地震が起きた時に、最低知っておくべきことがたくさん書かれています。

著者福井晴敏氏は当初「亡国のイージス」や「終戦のローレライ」など戦争物、歴史物が多い作家と思っていましたが、先日読んだ「小説・震災後」やこの小説のように現代の生活や思想に直結した作品もあり、また昨年に映画化された「人類資金」など多様な作品を生み出しています。

小説の内容は、仕事で東京都庁を訪れていた主人公が、いきなり東京湾北部で発生したマグネチュード7.3の地震に遭い、想定される都内の惨状と、墨田区にある自宅と家族の元へ帰るための奮闘を描いたシュミレーション風のものとなっています。

巨大地震が起きた時、都内の超高層ビルのエレベーターに乗っていた場合にどうなるのか?、歩いて帰宅する場合はなにが必要か?、火事場泥棒と遭遇した時は?、被害の大きな地域ではどういう行動が求められるかなど、その場面ごとにエレベータに乗り合わせた謎の男性(甲斐節男:お節介とも解説男とも読み取れます)の解説と適確なアドバイスでコンパクトにまとめられています。

2011年震災前のこの時のシュミレーションでは想定が多少甘く感ずるところもあり(東京下町の液状化には触れられてはいますが、津波が川をさかのぼってくることや、ガスタンクや工場の爆発炎上、道路の大渋滞と帰宅困難者の群れなど危険箇所の特定やルートの危険度がない)、東日本大震災の時の教訓を追加して、面白く読める役立つ実用本として多少アップデートした版を再発行してもいいかも知れません。

東京都内の地域危険度マップ(小説の主人公が住む墨田区やその隣の荒川区は真っ赤です)

著者別読書感想(福井晴敏)


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下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫) 内田樹

2007年に単行本として発刊された本で、2009年に文庫化されました。イメージ的には新書なのでしょうが、なぜか単行本→文庫の流れで発刊されています。

内容は著者が講演したセミナーの内容をまとめたもので、様々な本や自分が勤める大学の学生を見てきて、自分なりの分析と感想を述べたもので、「学ばない子供」や「働かない若者」をどうにかしたい!っていう実用書として役立てるものではありません。

ズバズバと斬って斬りまくる相変わらずの内容ですが、決して古今東西老人が若者に対して抱く「最近の若者は・・」といった愚痴ではなく、具体的な(極端な)例をひとつひとつあげていきながら、現代の(一部の)若者達が陥ってしまっている問題を指摘していきます。

中でも注力しているのは「今の若者は子供の頃からすべて物事を自分に決定権がある消費者の意識として考える」傾向にあり、したがって、例え親や友人が「間違っている」と言い聞かせても、本人は自らが消費者意識なので「自らで決めたことなので間違っていない」という錯覚に陥ってしまうということ。

つまり学校で真剣に学ばないのも、社会に出ても積極的に働かないのも、それらは自分が決めたことで、それが自分にとって合理的で最善だと信じこんでいることが危険だということです。そしてそこに様々な格差が生じてしまう社会になってきたとも言えます。

格差社会とは決して今に始まったわけでもなく、戦前にはれっきとした身分制度があり、性差や納税額の多寡によって政治家を選ぶ選挙権があったりなかったりしました。戦後の高度成長期においても、また一億総中流と言われたバブル時代においても歴然とした格差は常に存在してきました。

失われた20年と言われたバブル期以降に流行語となった「勝ち組と負け組」、「情報弱者」、「ワーキングプア」、「(悪意を持って言われる)ゆとり世代」などは現代の格差の象徴とも言えるものでしょう。

しかしこの本でいう格差は、自らの意志で、役に立たないと判断して学ばない、働かないという自分にとっては最善の道を選択した結果において新たな格差を作っていくという流れができてしまっていることを懸念しています。

章立ては大きく「学ばない若者」「働かない若者」を中心に、なぜそのようになってのか?を分析していきます。タイトルにあるように、自らの意志で「勉強せず」「働かず」、上を目指すことは本意ではないという若者が増えてきた社会に警鐘を鳴らしています。

ところどころに理解ができない(私の能力の問題)ところもありましたが、社会や教育のゆがみを痛烈に批判している内容です。

著者別読書感想(内田樹)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ダブル・ジョーカー (角川文庫) 柳広司

2009年に吉川英治文学新人賞受賞を受賞した「ジョーカー・ゲーム」のD機関シリーズ第二弾で2009年に単行本、2012年に文庫版が出ています。その「ジョーカーゲーム」はすでに映画化が決まっていて、来年2015年に公開される予定です。

小説に出てくるD機関とは第二次世界大戦前に日本陸軍内部に組織したスパイ養成・運営部隊で、そこで中心的な役割をなすのが魔王と怖れられる結城陸軍中佐です。D機関のモデルは昨年亡くなった小野田寛郎氏も卒業したエリートが集まる陸軍中野学校ですが、D機関はあくまで想像の産物です。

このシリーズはいずれも1話完結の短編で構成されています。本のタイトル「ダブルジョーカー」は最初の短編のタイトルで、自分の思いのままに動かせないD機関を苦々しく思っている陸軍の幹部が、有能な部下にもうひとつのスパイ組織「風機関」を組織させ、「陸軍に二つのスパイ組織は不要」という名目でD機関をつぶそうと目論みます。そして双方に諜報活動で競わせるというストーリーのものです。つまり「スパイ組織=ジョーカー」で二つのスパイ組織という意味のタイトルです。

その他に、ソ連に内通する軍内部のスパイをあぶり出す「蠅の王」、民間人の通信技術者を利用してインドシナ(ベトナム)で暗躍する犯罪者を一斉検挙しようとする「仏印作戦」、「柩」「ブラックバード」の5編(文庫版は「眠る男」の6編)からなります。いずれも見事なストーリーテラーぶりで、この著者の才能はいったいどこまでいくのか大いに楽しみです。

著者別読書感想(柳広司)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

真珠湾―十二月八日の終戦 (角川文庫) 池上司

単行本が2002年、文庫本は2004年に発刊された歴史実話をモチーフとした小説長編小説です。著者の作品は好きで、この本を含め全5冊とも読み終えましたが、なぜだか2005年に「ミッドウェイの刺客」が出て以来、その後新しい小説は出てきません。

この小説は著者の作品で以前読んだ、終戦間際の北方領土に不可侵条約を一方的に破棄し、ソ連軍がなだれ込んできた時の模様を描いた「八月十五日の開戦」とタイトルは対をなすものですが、直接その小説とは関係がありません。

内容は、海軍軍令部から連合艦隊司令長官に異動した山本五十六と、ハワイのホノルルでアメリカの太平洋艦隊の情報収集活動をおこなった予備役下士官(実在した吉川猛夫氏がモデル)を中心として、無謀と言える対米開戦を決意せざるを得なかった日本のリーダー達の苦悩と決断、そして挫折を描いたものです。

これを読んで当時の日本が様々な問題を抱え、そして軍部はもちろん、世論やマスコミなどにも煽動され、かなうはずのないアメリカとの戦いを決定せざるをえない状況に追い詰められていく過程と、さらに最後まで開戦を反対していた山本五十六が、どうしてもやるなら「奇襲攻撃で太平洋艦隊を殲滅+アメリカ世論の厭世観を背景に早期講和」しか日本を救う道はないと職を賭けて提案する場面はなんど読んでも胸が熱くなります。

しかし結局はアメリカに宣戦布告書を手渡すのが大きく遅れてしまうことになり、結果、宣戦布告前の不意打ち、だまし討ちという汚名を着せられてしまい、アメリカの国民感情の反日意識を刺激してしまいます。また奇襲攻撃したハワイにはいるはずだった太平洋艦隊主力の空母がなく、それらによって山本五十六が最後の手段と考えていた「早期講和」が消えてなくなり、逆に卑怯な日本をこらしめろ的な世論に火がつき、この戦争の行方は知れたことになってしまいます。

最近きな臭くなってきた、中国との関係において、再び日本でも好戦派が盛り返してきている雰囲気がありますが、正しい歴史を学ばないと、何度でも同じ過ちを繰り返すことにつながりかねません。政治は世論やマスコミの動向を気にして動くもので、後から見れば決して正しい判断をしているとは言い難いこともよくあり、誠意ある国民は常に注視していかなければなりません。

著者別読書感想(池上司)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

星の王子さま (集英社文庫) アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ

1943年に発刊された世界で8000万部を超える世界的ベストセラーで、私も小学校の時に学校で習い、その後に1冊をちゃんと読む機会もありましたが、すでにその記憶がほとんどなくなっているのと、米Amazonの「一生のうちに読むべき100冊」にも入っていることからもう一度ちゃんと読んでおこうと思い買ってきました。

ま、その内容についてはあらためて語るのは野暮というものですから特に書きませんが、この本がアメリカで初めて出版された1943年というと日本では太平洋戦争が泥沼化し、山本五十六連合艦隊司令長官が自殺に近い前線視察へと出掛け、米軍の攻撃で亡くなった年です。

アメリカでは、ヨーロッパ戦線と太平洋戦線の両面で財政的にも世論的にも厳しい社会だったにもかかわらず、そのような状況下でもドイツに降伏したフランスから逃げてきたパイロット兼作家(サン=テグジュペリ)の一種ファンタジー小説が出版できる国内状態だったというのはまったく驚きです。その米国と精神論と特攻や玉砕しか戦う方法がなく、内地においても食糧はもちろん燃料や紙までが配給制だった日本が長引く戦争でかなうはずもなく。

サン=テグジュペリは、アメリカでこの本を出版した翌年、自ら志願をしてアメリカ軍の偵察機パイロットとしてアフリカ戦線へ出向き、ドイツ降伏まであと10ヶ月という1944年7月に地中海上空でドイツ空軍に撃墜され死亡します(公式には偵察中未帰還)。撃墜したとされるドイツ軍パイロットは「サン=テグジュペリの著作本のファンだった。もし彼が乗っているとわかっていれば撃墜などしなかった」と後で述べたとか。


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809
慈雨の音: 流転の海 第六部 (新潮文庫) 宮本輝

宮本輝氏の自伝的なライフワーク作品として続いている「流転の海」の第6作目の作品です。

シリーズの過去の作品は、

1「流転の海」(1984年)
2「地の星 (流転の海 第二部)」(1992年)
3「血脈の火(流転の海 第三部)」(1996年)
4「天の夜曲(流転の海 第四部)」(2002年)
5「花の回廊(流転の海 第五部)」(2007年)
6「慈雨の音(流転の海 第六部)」(2011年)

となっています。( )内は単行本の発刊年

小説の主人公はいずれも著者の父親をイメージした松坂熊吾という人物で、大阪で様々なビジネスを起こし、そして事業の失敗や、仲間からこっぴどい裏切りに遭ったりする、憎めないが魅力のある剛胆な大阪商人とその家族を中心に描かれています。

第1部は敗戦の2年後、事業の再起をかけて闇商売に奔走しているところから始まり、そして主人公が50歳にして初めての息子が授かります。この息子が著者自身です。

愛読者が困る点は、前作から次の作品が発刊されるまでに8年、4年、6年、5年、4年といずれもかなり間隔が開きますので、読み始めてもなかなか前作までの流れが思い出せずに苦心します。

五木寛之氏のやはり自伝的小説「青春の門」シリーズも似たようなところがありますが、こちらは比較的登場する人物が少なく助かっています。

このシリーズでは複雑な人間関係が絡み合っていて、前作や前々作に登場していた人物が、主人公や家族とどういう関係だったか、誰が誰の産みの親で、誰が育ての親で、など、あらためて説明がないので、記憶力のいい人以外は混乱必至です。外国小説のように主な登場人物の説明がせめてカバーにでも書いてあると助かるのですが、新潮さんなんとかなりませんかね?

ちょっと数えてみたら、第1部から第6部までに主な登場人物はざっと50名にのぼります。それ以外にもちょい役で登場する人や、話しの中に出てくる人(何々ちゃんのお母さんとか)も含めると軽く100名以上にのぼるでしょう。自分のためにも人物相関図を作ってみようかと思いましたが、かなり時間と労力がかかりそうなので断念しました。

この第6部は昭和34年の皇太子ご成婚や東京オリンピックの準備で日本が高度成長時代へまっしぐらの頃で、第1部では50歳だった主人公はこの6巻で60過ぎになっています。

昔の商売仲間から大阪駅近くの学校跡地の有効利用を任され、そこに住み込みながら巨大なモータープール(駐車場)の経営を成功させ、また事務所を構えず身ひとつでおこなう中古車売買(エアブローカー)の仕事も順調にいき、貧しさや病気、差別、裏切りなどで重苦しかったこのシリーズの中では割と安定した生活をおくっています。

私が小学生に上がる前のまだ幼児だった頃(1960年代初め)の大阪をふと思い出しましたが、中心部以外では焼け跡に建てられたようなバラック小屋がまだ多くあり、駅には戦争で手足をなくした人が空き缶を前に置いて物乞いしている姿も多く見た記憶が残っています。

この小説ではまだ一部に焼け野原が残る1950年代の大阪で、たくましい商人達が懸命に生きる姿と徐々に復興し、近代化されていく大阪の街の姿がなんとなく懐かしい思いです。

著者別読書感想(宮本輝)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

天使のナイフ (講談社文庫) 薬丸岳

2005年の江戸川乱歩賞を受賞した著者の作家としてのデビュー作品で、文庫版は2008年に発刊されています。著者は私も以前とても面白く読んだ高野和明著の「13階段」を読んで感動を受け、小説を書くようになったということです。

「作家としてのデビュー作」と書いたのは、すでに映画の脚本や漫画の原作などを書いていた経歴がある方で、その頃はまだ紆余曲折の仕事人生だったようです。

死刑囚を匂わせる「13階段」とは違い、例え殺人という重犯罪を犯しても刑罰を受けることがない少年犯罪をテーマとし、ある殺人事件をきっかけに起きた新たな犯行と、その中に潜む人間関係の謎を主人公が追いかけるというミステリー長編小説となっています。

主人公は毎朝愛娘を保育園に預け、セルフ式カフェのオーナーとして働いている男性です。ひとりで子育てをしているのは、結婚して子供が生まれたばかりの時、自宅にいた妻が空き巣に入ってきた中学生の少年達に殺害されたからです。

妻を殺された主人公は、少年犯罪として少年達の名前すら少年法の壁で知ることができず、少年達が謝罪のために来ることもなく、なぜ妻が無惨な殺され方をしなければならないのか理解できません。そして当時の法律では少年犯罪は原則的に刑法で罰せられることはありませんでした。

そのような中で、主人公の男性は、あるマスコミの取材中に感情的になり、思わず「司法が殺人犯を裁けないなら自分の手で犯人を殺してやりたい」と言い放ち、それが大きく報道されます。

そして事件から4年後のある日、自分の店の近くの公園で、妻を殺した犯人のひとりが何者かによって殺害されます。その時間帯は閉店後でアルバイトが帰り、ひとりで店で残務処理をしていた時間でアリバイはなく、過去の発言から主人公に疑いの目が向けられます。

ジャンルからすれば主人公を追い詰めていく謎の人物の存在とその理由は?というミステリー小説ですが、一方では頼りにならない警察を信用せずに、自分ひとりで殺された妻や殺した少年達のことを調べて回るというハードボイルド小説の要素も含まれています。

さすがに江戸川乱歩賞を受賞しただけのことがある、最後は見事な話の展開と、妻の殺人に秘められた謎があったことを解き明かす過程がとても印象に残った作品です。

著者別読書感想(薬丸岳)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ある微笑 (新潮文庫) フランソワーズ・サガン

1954年に「悲しみよこんにちは」で衝撃的なデビューをしたサガンの1956年の作品で、アメリカで映画にもなっています。

麻薬漬け、浪費癖、多くの愛人の存在などスキャンダラスで破天荒な人生を歩んだ著者ですが、当時の抑圧された民衆の中にあって、読者の願望や夢を自らが体現していくことで、多くの大衆から支持を得たのかもしれません。

著者の代表作「ブラームスはお好き」も、離婚を経験した経済的に自立したキャリアウーマンが、二人の独身男性とうまく付き合っていくというある意味では束縛された結婚よりも、金と自由を手に入れて、しかも二人の男性との恋も手に入れるという一種生活に疲れて欲求不満な女性の理想型のようなスタイルが描かれています。

この小説では、主人公はフランスの中流家庭の女子大生で、付き合っている大学生の恋人がいながら、その恋人の叔父の既婚男性からの誘惑も受け入れ、2週間の夏休みをリゾート地で一緒に過ごすという、1950年代当時としてはかなり先進的な考えの持ち主で、それがいかにもフランス的です。

日本の女性作家の中にはこうしたサガンの作品を現代風に変えたストーリーで恋愛を描いていると思われる作家さんも少なくなく、この作品が書かれてから60年後の今読んでも、十分に現代恋愛事情として通用してしまいそうなところが面白いところです。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ダイスをころがせ! (講談社文庫) 真保裕一

「ダイスをころがせ(Tumbling Dice)」と言うと音楽好きならローリング・ストーンズや、それをカバーしたリンダ・ロンシュタットの1970年代の曲かと思われそうですが、こちらは2002年初出の長編小説です。

著者の小説は好きで、「ホワイトアウト」や「黄金の島」「奇跡の人」など数えてみると今までに15作品読みましたが、いずれもハズレはなく、どの作品も安心して読める作家さんです。すでにいくつもの文学賞を受賞されていますが、直木賞だけはどうも縁がなく、時間の問題のような気がしていましたが2003年の「繋がれた明日」以来なぜか最近はノミネートにも上がりません。

この小説の主人公は34歳で総合商社に勤務していた時に、関わっていた開発事業の失敗の責任を押しつけられて、子会社へ飛ばされます。その子会社でも上司のミスの責任をかぶることになり、嫌になって後先考えずに退職したものの、まともな仕事にありつけず困っていたときに、高校の同級生で新聞社に勤めている恋人を取り合った仲でもある元ライバルと出会います。

その同級生から新聞社を既に退職し、1年後の衆議院選挙に地元の静岡から無所属で立候補することを告げられ、その選挙参謀兼秘書をやってくれないかと頼まれます。

小説とはいえ、あまり知られていない国政選挙に出るときの諸々が書かれています。選挙資金はこれだけ必要で、どうやって事前運動を始めるのかなど、まるで立候補マニュアルのようなところがあります。

この本のタイトルは、せっかく国民の意志を反映するための唯一の選挙に、特に若い人が投票に足を運ばないことを危惧して「手の中にあるサイコロをなぜふろうとしないのか?」という辻立ちの演説の中からとられているようです。

政党に所属せず無所属で立候補することの難しさが強調され、それは結局、現職の国会議員が自らの首を絞めるような改革や制度設計ができるはずがないという流れにもっていってますが、一方ではある一定規模の政党の縛りがないと、単にテレビで有名人だからとか、無所属で特定のスポンサーや極端な思想に偏った政党に所属しない候補者が選挙で乱立してしまう可能性も否定できません。

被選挙権のすべてが自由・平等・公平というのは言葉では美しく響きますが、現実の中ではそれがいいとは言い切れません。例えば、被選挙権者の中にも当然貧富の差があり、運動員や施設、PRにより多額のお金を使えるお金持ちしか政治家になれないとうのでは、自由・平等であっても公平とは言えません。

特に現在の選挙のように浮動票が過半数を超えるような社会では、その移り気な浮動票の行方次第で頻繁に政治の風向きが変わってしまうことになり、メリットばかりではなくデメリットも生じてくるのは想像ができます。

この小説では、そのような現在の選挙制度や政党にしか配られない交付金、企業や組合、宗教団体の組織で戦う旧来の選挙についての問題提起もありますが、これからはもっと若い人が選挙に関心をもって、自分で一票を投票する行動で、日本の政治に責任をもってもらいたいという著者の願いが込められているようです。

著者別読書感想(真保裕一)


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