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鬼火(上)(下)(講談社文庫) マイクル・コナリー

鬼火
2019年に出版された後、2021年に日本語訳版が出版されたハリー・ボッシュシリーズの22作目です。

また同時に、今回の捜査でボッシュと事件捜査でコンビを組む、ロス市警深夜勤務レネイ・バラードのシリーズのひとつにも数えられそうです。またちょい役ですが、リンカーン弁護士として有名なミッキー・ハラーも登場して賑やかです。

原題は「The Night Fire」で、「鬼火」はちょっと怪しげな自然現象を意味しますが、ほぼ直訳っぽいですね。

ボッシュはハラーとともに、裁判判事の殺人事件で逮捕された男の無罪を証明することに成功するとともに、その捜査に疑問を感じてその真犯人を追うことになります。

またレネイは、公園で焼死したホームレスの捜査と、ボッシュが刑事の新人時代に師匠としていろいろ教わった名刑事の死後、その家に残されていた20年も前の未解決殺人事件の調査調書を家族から託されたボッシュから引き継ぐことになります。

ホームレスの焼死は、一見するとストーブが倒れた事故のように見えますが、実家の莫大な遺産を引き継げる男という身元が判明したところで殺された可能性が高まり、またもうひとつ、公式の未解決事件の調書が無断で持ち出され、引退した元刑事が保管していたのか?その事件の真犯人は誰なのか?など、ひとつひとつ真実へと向かっていきます。

複数の事件の捜査が同時に進んでいくので、登場人物も多く、少し混乱しますが、それはいつものこととして、読み応えのあるストーリーでした。

★★☆

ハリー・ボッシュシリーズはまだ未完 2020/10/3(土)

著者別読書感想(マイクル・コナリー)

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心にナイフをしのばせて(文藝春秋) 奥野修司

心にナイフをしのばせて
フリージャーナリストの著者が、1969年に起きた凄惨な少年事件を振り返って遺族の苦しみを書いたノンフィクションで、2006年に単行本、2009年に文庫化されています。

ノンフィクションとしては異例の累計で8万部を超えるベストセラーになりました。私も当時書店で平積みされていたことをよく覚えています。

1969年(昭和44年)4月に川崎市で起きた高校生首切り殺人事件から28年が経ち、すでに事件は風化していましたが、1997年(平成9年)に神戸で起きた「神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇事件)」が、その被害者の首を切り取る残忍性や、加害者が少年法で守られた高校生が起こした事件として共通していたことからこの古い事件が再度注目されることになりました。

ただ、加害者はいずれも少年法に守られ、加害者側の関係者に直接取材をすることはできず、話のほとんどは、被害者側の遺族、母親と妹、親戚などに集中しています。父親は取材時には病気で亡くなっています。

事件後30年以上が経過していて、記憶にあやふやなところもあったそうですが、文章に起こしてから遺族に確認してもらうなどして苦労が偲ばれます。

被害者は私立高校の1年生で、同じクラスの生徒が加害者という関係です。被害者遺族や、被害者と仲良かった友人からの聞き取りなので、どこまでが真実か?というのは不明ですが、被害者に大きな非はなく、なぜ?どうして?という疑問が誰にもわからない事件です。

加害者は法律で守られ、数年の医療少年院に3年間ほど収容されたあとは、社会復帰し、名前を変えてその後大学へ進学、弁護士事務所を経営するという順調な生活を送ることになります。

一方の被害者の遺族は、残された家族のうち、母親が精神的に不安定となり長く寝込み、そのせいで父親や妹にも大きな負担が増すことになります。

その対比を見ると、当時の加害者だけを守る少年法の実態や、遺族へのサポートがまったくない状態が大きな話題となりました。

私は発売直後に、書店でよく見かけていましたが、内容は知らず、タイトルや表紙を見て少年犯罪の小説かな?と思っていましたが、今回初めて読み、そうではないことがわかりました。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

母の待つ里(新潮文庫) 浅田次郎

母の待つ里
2022年に単行本、2024年に文庫化された小説です。いかにも「泣かせの次郎」的なタイトルでしたが、意外にそうでもなかったです。

主人公というか語り手は3人いて、大手食品メーカーに勤め、上が不祥事などでいなくなって押し出される形で社長になった独身中年男、製薬会社のサラリーマンを定年で退職したとたんに妻から離婚されたばかりのバツ1中年男性、そして、母親を亡くしたばかりの院卒で循環器医療の女性医師。

この3人に共通しているのが、東京出身で、ふるさとというものがなく、さらに年会費35万円という高額でプレミアムなクレジットカードを持っていること。

そのプレミアムカードのサービスのひとつに「ふるさとを、あなたへ」という擬似的なふるさとを体験できるサービスがあり、それがタイトルになっている「母の待つ里」という設定です。

それがどういうものかは読んでもらうことにして、独身で親がすでに亡くなっている主人公の3人が、人生の終盤になってそれぞれ葛藤を抱えつつ、このサービスを利用することで何かが変わっていくという内容です。

今までの著者の作品とは趣きが違っていて、なにかSF小説を読んでいるような感覚です。

それも悪くはないですが、やはりこの著者に期待するのは、長編で泣ける物語ですから、それは裏切られたような感じです。

★★☆

著者別読書感想(浅田次郎)

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怖い絵 死と乙女篇(角川文庫) 中野京子

怖い絵 死と乙女篇
怖い絵」(2007年)、「怖い絵 泣く女篇(単行本では怖い絵2)」(2008年)に続く、怖い絵シリーズ第3弾です。

2009年に単行本として、2012年に改題して文庫化されています。改題前は「怖い絵3」でした。

この「怖い絵シリーズ」は、描かれた時代や神話、聖書などの知識を知ることで、その絵の意味や特徴、描かれた背景がよくわかり理解が進むという美術の解説という位置づけです。

紹介されている絵画は下記の22作品に及び、それらに関係する他の絵画もいくつか紹介されています。

作 者 作 品 名
01 レーピン 皇女ソフィア
02 ボッティチェリ ヴィーナスの誕生
03 カバネル ヴィーナスの誕生
04 ベラスケス フェリペ・プロスペロ王子
05 ヨルダーンス 豆の王様
06 レオナルド・ダ・ヴィンチ 聖アンナと聖母子
07 ミケランジェロ 聖家族
08 セガンティーニ 悪しき母たち
09 伝レーニ ベアトリーチェ・チェンチ
10 ルーベンス メドゥーサの首
11 アンソール 仮面にかこまれた自画像
12 フュースリ 夢魔
13 ドラクロワ 怒れるメディア
14 伝ブリューゲル イカロスの墜落
15 レッドグレイブ かわいそうな先生
16 フーケ ムーランの聖母子
17 ベックリン ケンタウロスの闘い
18 アミゴーニ ファリネッリと友人たち
19 ホガース ジン横丁
20 ゲインズバラ アンドリューズ夫妻
21 ゴヤ マドリッド、一八〇八年五月三日
22 シーレ 死と乙女

解説されて初めてわかるようなことや、絵をジックリよく見ないと発見できないようなものなどに理解が進みます。

例えば、下の伝ブリューゲル作(近年では無名の画家がブリューゲルの作品を模写したものと言われている)「イカロスの墜落(イカロスの墜落のある風景)」は、そのメインテーマ?のイカロスはというと、映画「犬神家の一族」の犬神佐武のように水面から足だけ出した姿(赤丸で示したところ)という目立たないところでコミカルな感じですが、この絵にもなかなか深い意味が込められていることが解説でわかりました。

イカロスの墜落

またその絵が描かれた時代背景や宗教観も重要で、誰の求めで描かれたものとか、当時の画家の立場や経済状態なども関わってきます。

タイトルの「怖い絵」はいくつか本当に怖そうな絵はありますが、それがすべてではなく、明るくハッピーな絵画も含まれていて、それは第3弾でネタがなくなってしまったのか、それともあまりタイトルに引きずらない方針なのかは不明です。

ただ、気になるのは、著者がキッパリと決めつけて想像するその絵の本質や画家の意志が、どこまで正しいかは確かめることはできず不明で、いわゆる「諸説あり」と思える内容が多そうです。

そうした決めつけで説明されることは、受け身であれば面倒がなくて良いとも言えますが、「いやいや、そうじゃないだろう?」と思ったりすることもあり、最後は見て感じた人が考えるべきことかも知れません。

★★☆

著者別読書感想(中野京子)

【関連リンク】
 7月後半の読書 O・ヘンリーミステリー傑作選、白夜を旅する人々、手鎖心中、破船
 7月前半の読書 アヒルと鴨のコインロッカー、ブルックリン・フォリーズ、ザ・ヒート、ノースライト
 6月後半の読書 霧(ウラル)、流出、神の時空 鎌倉の地龍、極楽カンパニー

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1901
ドキュメント72時間ほぼ毎週、楽しみにしているテレビ番組に「NHKドキュメント72」があります。

72時間カメラを据えて様々な人間模様を浮き彫りにして描き出す希有なドキュメンタリーですが、その取材地が毎回変わります。

その取材場所ですが、過去に行ったことのある場所は懐かしく、また行ったことがない場所だと行ってみたいなと思います。ちょっとしたロードムービーを見ているような雰囲気もあります。

3年前には、放送前後に行ったリストを作り、それを自己満というか備忘録的にブログにもアップしました。

◇「NHKドキュメント72で放映された場所へ行った

その時に紹介したのは下記の場所と放送タイトルです。

成田市さくらの山
◇「大空に飛行機を見上げて」2018年4月6日放送

山形県鶴岡市立加茂水族館
◇「ゆらゆら くらげに誘われて」2017年6月16日放送

長野県阿智村
◇「長野 天空の絶景を眺めて」2019年12月13日放送

青森県むつ市恐山
◇「恐山 死者たちの場所 」2014年6月6日放送

川崎市子ども夢パーク
◇「“どろんこパーク” 雨を走る子どもたち」2022年9月2日放送

三陸海岸沿い(青森、岩手、宮城)
◇「東北 春を探して 国道45号線を行く」2018年4月20日放送

横須賀市ヴェルニー公園
◇「横須賀 軍艦の見える公園で」2017年2月17日放送

川崎市東扇島西公園
◇「東京湾 真夏の海釣り公園」2020年8月12日放送

その後、新たに訪問したり、過去に訪問した場所が、後日番組で放送されたりしたので情報をアップデートし、第2弾として紹介しておきます。

特に今回は、関東に住んでいる身として非日常感を味わえる遠くの場所がメインです。写真はすべて私が現地で撮った写真です。

  ◇   ◇   ◇

八戸市 蕪島
◇「青森・八戸 ウミネコが舞う神社で」2023年6月2日放送

蕪島


鳥取砂丘
◇「砂丘に呼びよせられて」2013年11月15日放送

鳥取砂丘


松江市 黄泉比良坂(よもつひらさか)
◇「島根・黄泉比良坂 あの世との境界で」2023年10月6日放送 

黄泉比良坂

黄泉比良坂2


北海道 苫小牧西港フェリーターミナル
◇「巨大フェリーの人生航路」2014年4月11日放送

苫小牧フェリーターミナル


北海道函館市 ラッキーピエロ 昭和店(訪問したのは函館市の別店舗)
◇「函館 ハンバーガーと幸せと」2018年10月26日放送

ラッキーピエロ

ラッキーピエロ2


北海道羅臼町 熊の湯
◇「知床半島の秘湯にて」2022年10月28日放送

熊の湯

熊の湯2


北海道稚内市 宗谷岬
◇「最北のバス停で」2014年2月28日放送 

宗谷岬

宗谷岬2

  ◇   ◇   ◇

ドキュメント72時間は熱心なファンも多く、下記リンク先のようなわかりやすいロケ地MAPを作ってくれている方には感謝です。

ドキュメント72時間 ロケ地巡り用MAP完全版を作った(941::blog)

【関連リンク】
1691 NHKドキュメント72で放映された場所へ行った
1338 防衛大学校の深い闇
1205 老人ホームは男性高齢者にとって快適ではないという話し
895 「ドキュメント72時間」を見て日本経済を考えた

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1900
O・ヘンリーミステリー傑作選(河出文庫) O・ヘンリー

O・ヘンリーミステリー傑作選
著者の小説を読むのは、O・ヘンリ短編集(1)~(3)を34年前の1992年に読んで以来です。

34年前というと、私の年齢も重要な仕事を任されていた34歳で、当時は怖いものなしでバリバリのビジネスマン(笑)時代だった頃です。

その頃読んだO・ヘンリーは、仕事や家庭の雑事から一時離れることができて、心の清涼剤になった記憶があります。

心が温まるような話もありますが、それよりもどちらかと言えば皮肉っぽい、ウイットに富んだブラックジョークのようなものもあったと記憶しています。

作家時代に書いた短篇は300に及ぶそうですが、日本語に翻訳された作品で読めるのはそのうちの1/3もないでしょう。

少しでも日本語翻訳版を提供しようと、過去に出版された作品以外から28作を選抜したのが本書で、1984年に出版されました。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

白夜を旅する人々(新潮文庫) 三浦哲郎

白夜を旅する人々
1984年に単行本として、1989年に文庫化された自伝的長編の私小説です。

時代は著者が生まれた昭和6年から始まり、著者の家族、特に兄2人と姉3人を中心とした家族の物語です。

その家族は、姉の二人に遺伝的な障害(先天性色素欠乏症)を抱えながらも、住まいのある青森県八戸市で、仲良くそして明るく暮らしています。

母親の実家が呉服店の本家と言うことで、そののれん分けで呉服屋を営み、番頭や丁稚を抱えている当時としては裕福な一家でした。

前半のその家族のそれぞれの思いや行動については、まだ幼かった作者の創作に違いありませんが、当時の地方の生活感がよく出ています。

そして後半からは一転して、家族の問題が噴出していき、一気に暗い内容となっていきます。

それは、著者の略歴にあるとおり、三男三女の兄弟姉妹のうち、二人の姉が若くして自死を選び、二人の兄が失踪してしまうという自らの家族を描くことでそうなってしまうでしょう。

当時の田舎では、大家族で、子供が何人もいるという家が普通でしたので、この主人公たる一家も子供が6人という賑やかさでしたが、それが順に減っていく悲しさは読み進めていくと気持ちが沈んでいきます。

当然、祖父母や、叔父や叔母など登場人物も多く、現代の核家族や縁遠い親戚とはかなり違った複雑な人間関係があります。

そうした家族や家系というしがらみの中で、たくましく生きていくということは、今は忘れ去られてしまった感がありますが、私が生まれた昭和30年代でもまだ多少は残っていて、昔はそうだったなぁと思い出しました。

★★★

著者別読書感想(三浦哲郎)

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手鎖心中(文春文庫) 井上ひさし

手鎖心中
1972年に出版され、1975年に文庫化された作品で、1972年の直木賞を受賞した作品ですが、今回購入したのは2009年に発刊された文庫の新装版というものです。

2009年というと、著者が75歳で亡くなる1年前の頃で、あらためて、著者の代表的作品として見直されていた時期なのかも知れません。

著者の作品では14年前に「東京セブンローズ」を読んだきりですが、著者の名前は小学生の頃に毎日楽しみに見ていた人形劇の「ひょっこりひょうたん島」(1964年~1969年)の作者ということでよく知っていました。

本書は、直木賞を受賞した「手鎖心中」と、もう一つ「江戸の夕立」という中篇小説が収録されています。

まず「手鎖心中」の主人公は大阪の売れない絵草紙の作家で、一旗揚げようと江戸にやってきて、1年前の大河ドラマの主人公、日本橋通油町で耕書堂を経営する蔦屋重三郎の元に居候をしながら店を手伝いながら作品を作り続けますが芽が出ません。

そんな時、深川の材木屋問屋の若旦那が、絵草紙を書きたいけど才能がないので、お金を払うから主人公達に代わりに描いてもらえないかと頼みに来ます。

タイトルの手鎖とは、若旦那の希望として、禁令を犯して幕府から手鎖50日の処分を受けた山東京伝にあやかり、自分が描いた作品で手鎖の処分が下るように町奉行に頼み込むという暴挙に出ることから騒動が起きるという内容です。最後に主人公達が何者かというオチまで付いています。

大河ドラマ「べらぼう」に登場してきた蔦屋重三郎他、山東京伝、大田南畝、朱楽菅江などが登場してきて、なにかふと懐かしいような、先にこの本を読んでいれば、「べらぼう」に登場する作家たちの人間関係がもっとよくわかったなと思ったりしました。

もうひとつの「江戸の夕立ち」は、江戸で指折りの薬種問屋の若旦那と、語り手で主人公のたいこもち(男芸者)がふとした失敗で、品川で乗った小舟が流されてしまい、釜石まで着岸しない商船に助けられるものの、あきれるほどにどうしようもない若旦那の世話をしながら、ほうぼうへ流れていくという内容です。

★★☆

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破船(新潮文庫) 吉村昭

破船
1982年に単行本、1985年に文庫化された江戸時代、僻地にある貧しい小さな漁村を舞台とした小説です。

実話を元にしたわけではなく、日本海沿岸に残る古文書に、難破した商船から荷物を奪っていた記述や、治癒が見込めない感染症患者を隔離するため老朽船に乗せて海に流していたことが書いてあり、それを元にしてこの小説を思い立って書いたと言うことでした。

平地がなく土地も痩せていて農業ができず、近海の漁業だけしか生活の糧とならない僻地の漁村は貧しく、男も女も次々と厳しい出稼ぎに出るしか家族を養えません。

ただ数年に1度、貴重だった米や絹織物、砂糖、酒などを積んだ商船が漁村近くで難破することがあり、その時には村民が総出で、傷ついた船を襲い、口封じのため水夫を皆殺しにして荷物を奪うという風習があります。

その千載一遇の「お船さま」が来ることを願う祈祷があり、さらには冬の海が荒れた夜には塩焼きと称して大きな明るいたき火をすることで、船を座礁しやすい湾内に呼び込むことまでしています。

そうした漁村の10才になり、出稼ぎに出た父親に代わり、漁で家族を支えている子供が主人公で、村民仲間に魚のうまい捕まえ方などを教わり成長していきますが、まだ「お船さま」は見たことがありません。

そして、いよいよ荷物を満載した「お船さま」がやってきて、村には明るい雰囲気が漂いますが、続けてやってきた別の異様な「お船さま」で、当時治療が出来なかった感染症の天然痘が広がってしまい、、、

貧しい村の希望の星だった「お船さま」と、多くの家族が苦しみ死んでいく絶望の「お船さま」のふたつの難破船をを際立たせ、同時に貧しい漁村の生活を細かに描き出している良い小説でした。

ただちょっと気になったのは、奪った米を2年や3年も保つようなことが書かれていましたが、例え籾殻米としても冷蔵施設もない時代に果たしてそんなことが可能なのかどうか?

あと難破船から奪った上等な絹織物など、隣の村まで山を越えて2日ほどかかるとはいえ、身分不相応な衣類などを見た近隣の村民や、口の軽い漁民から、生活が楽になった自慢話を聞かされ破船を略奪した噂が広がるのを止めるのはいかにも難しそうです。

本当に果たしてそういうことが可能だったのだろうか?と思ってしまいます。

★★☆

著者別読書感想(吉村昭)

【関連リンク】
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1899
愛と哀しみの旅路(原題:Come See the Paradise) 1990年(日本公開1991年) 米
監督 アラン・パーカー 出演者 デニス・クエイド、タムリン・トミタ

愛と哀しみの旅路
原題を直訳すると「楽園を見に来て」という意味ですが、日本向けには大層なタイトルに変更されています。

1982年のリチャード・ギア主演の大ヒット映画「愛と青春の旅だち」(原題:An Officer and a Gentleman)にあやかったのかなと思わずにいられません。

内容は、太平洋戦争が始まり、アメリカに在住していた日系人が、敵性国民として収容所に集められたことがテーマになっています。

同時期に読んだジェイミー・フォード著の小説「あの日、パナマホテルで」(2009年)は、この映画で主人公達が逃避行するシアトルが舞台で、同じように日系人が収容所に送られる物語でした。

どうも低予算で作られたのかな?と思うようなあっさりした内容ですが、戦中にアメリカ国内に住んでいた日系人のいわれがない差別と迫害には悲しい限りです。

でも逆に言えば、鬼畜米英と言って、日本に住む欧米人を迫害していた日本人も同じだったことも忘れてはいけません。

こうしたアメリカの恥ずかしい歴史を、日系人とアメリカ人の恋愛を主軸において映画(元は小説)にするところが、アメリカ人の懐の深さだと思いますが、現在のような身勝手なMAGAが主軸のアメリカ人にはそういう反省を描くような映画は作れないでしょう。それは国民人気が高いことを利用し、身勝手で高ピーな女王様が実質的に君臨する日本も同じですけど。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

東京暗黒街・竹の家(原題:House of Bamboo) 1955年 米
監督 サミュエル・フラー
出演者 ロバート・ライアン、ロバート・スタック、山口淑子、早川雪洲

東京暗黒街・竹の家
タイトルを見たときは東映か日活の日本ヤクザ映画かと思っていたら、まったく違って戦後10年近く経った東京で撮影がおこなわれたアメリカ映画でした。

アメリカ人(監督)が見たステレオタイプな日本と東京という図式で、やたらと富士山や芸者、格子戸、竹すだれ、庶民の着物姿などが強調されます。

Wikipediaによると、オープニングで出てくる富士山の前を走る蒸気機関車のロケでは、山梨県の富士山麓電鉄(現・富士山麓電気鉄道富士急行線)の富士吉田駅と河口湖駅の区間約5kmを、20世紀フォックス社が借り切って撮影したそうです。

公共的な旅客鉄道を3日間運休させて映画のロケに使うという、当時のアメリカと日本の力関係がよくわかります。

内容は、アメリカ人の犯罪組織が、東京で次々に現金輸送車などを襲う事件を起こしますが、警視庁にアメリカ軍が協力し、犯罪組織へアメリカ軍人のスパイを潜入させて一網打尽にしようと画策します。

が、ストーリーの内容や、登場人物の日本語、所作などがかなりいい加減で、おそらくセリフのあるエキストラの多くはアメリカから東洋人俳優を連れてきてそれを使っているような感じです。

準主役の山口淑子や早川雪洲は、アメリカで映画に出ていて、アメリカ流の映画撮影に慣れていることもあり、監督としても使いやすい俳優だったでしょう。

そうした内容より、この映画の魅力は、1955年の東京がフルカラーで撮られた映像にあり、記録としても価値があるものです。

ロケ地は、東京都は八ツ山橋(古い京急が走っています)、国際劇場、佃島、日本橋箱崎町、隅田川、銀座、法務省旧本館、桜田門、帝国ホテル、浅草の松屋デパート屋上遊園地などで、それらがカラー映像で見られるのは珍しいです。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

トラフィック(原題:Traffic) 2000年(日本公開2001年) 米
監督 スティーヴン・ソダーバーグ
出演者 マイケル・ダグラス、ベニチオ・デル・トロ、エリカ・クリステンセン

トラフィック
アメリカとメキシコを舞台に、3箇所で起きる麻薬撲滅対策を同時進行でドキュメンタリー風の群像ドラマとした作品で、アカデミー賞で監督賞、助演男優賞、脚色賞、編集賞の4部門を受賞しています。

その同時進行する三つの物語は見る人がわかりやすいように、カラーの色味を変えてあり、舞台が変わったことがよくわかります。登場人物が多いので、そうした工夫はぼんやりと見ている観客(私)としては助かります。

麻薬撲滅担当の大統領補佐官に任命された判事役がベテラン俳優のマイケル・ダグラスで、離れて暮らしている若い一人娘が麻薬に溺れていく問題を抱えながら、着々と手を打っていきます。

メキシコとアメリカ国境付近では、メキシコの麻薬取締官のコンビが摘発を続けていますが、軍に手柄を横取りされたり、警察上層部の腐敗に悩まされ続けます。

ロサンゼルスでは、捜査官が人種問題を抱えながらも麻薬取り締まりに力を入れ、ようやく元締めの麻薬王を捕らえ、裁判に持ち込みますが、部下の証言を阻止するためにそれまで夫が麻薬王とは知らなかった妻が、証人の殺害を仲間に指示をします。

人間ドラマと、ドキュメンタリーのような動き回るカメラワークをうまく組み合わせ、スピード感を持ちつつ淡々と進んでいく内容で、これは新鮮で良かったです。

★★★

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

トゥモロー・ワールド(原題: Children of Men) 2006年 英・米
監督 アルフォンソ・キュアロン
出演者 クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーア

トゥモロー・ワールド
原作はP・D・ジェイムズ著のディストピア小説「人類の子供たち」です。

公開の2006年から21年後の2027年の近未来ということですから、設定はもう1年後ということになりますが、原因不明ながら世界中で女性が次々と流産し、子供がまったく生まれなくなってから18年が経ち、人類の危機が迫り世界中が混乱しています。

そんな中ではイギリスだけが、国内の暴動を軍がかろうじて抑えていますが、あるテロ組織の中に、奇跡的に妊娠した不法移民の女性を匿っていて、安全に出産と育児ができるヒューマンプロジェクトの船へ送り込むため、役人の主人公を脅迫し通行証を要求します。

巻き込まれた主人公は、妊婦や助産師、テロリストのリーダーなどと一緒に検問所へ向かいますが、そこで暴動に巻き込まれ、そこから逃亡劇が始まります。

人類の希望となる赤ちゃんは無事生まれるのか?そして生き延びることができるのか?という話ですが、とにかく主な登場人物が次々と死んでいくという悲惨な内容です。

また、撮影と映像には、長回し手法があちこちで使われていて、長いものは5分以上主人公を追いかける迫力のある緊迫した映像が使われていて見どころは満載です。

しかし後味はスッキリとはしない、命の重さを実感する重たいドラマでした。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

アウトロー(原題: Jack Reacher) 2005年 米
監督 クリストファー・マッカリー
出演者 トム・クルーズ、ロザムンド・パイク

アウトロー
アイドル映画と言ってしまうと申し訳ないですが、人気絶頂のイケメン男優が、美人弁護士を救うために身体を張ったアクション全開映画です。

主演のトムは、今回は陸軍の憲兵隊でイラク駐留経験があり、現在は退官後自由気ままなアウトロー生活をしています。

そのイラク時代に4名の味方側ではあるものの集団レイプ犯を射殺した米軍の狙撃手が、今回、無差別狙撃事件で罪を着せられ、移送中に暴行を受け意識不明になりますが、その前にイラク時代に自分を捕まえた主人公を呼べと警察と検察に伝えていました。

その意識不明の狙撃手の弁護士と、主人公の元憲兵が、事件を追っていくと、妨害が入り始めます。

カーアクションあり、銃撃戦あり、素手での殴り合いありと、持ち前の魅力を振りまいていますが、トップガンのような最新兵器や、ミッションイン:ポッシブルのようなユニークな装備、スマートなアクションではなく、汚れた泥臭い男を演じています。

この監督と主演のトムとで、ミッション:インポッシブルの5作目以降はタッグを組むことになりますから、この映画での相性が良かったのでしょう。

★★☆

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劇場版 TOKYO MER~走る緊急救命室~ 2023年 劇場版『TOKYO MER』製作委員会
監督 松木彩 出演者 鈴木亮平、賀来賢人、中条あやみ
 
劇場版 TOKYO MER
2021年にTBSのドラマとしてスタートした作品をさらにスケールアップした劇場版です。

ところでドラマを見ていないと、「MERとはなに?」と思いますが、「Mobile Emergency Room」の略称で、手術室がある大型車で機動的に緊急医療をおこなうチームのことで、実在はしません。

こうした日本製パニック映画は数々見てきましたが、今回出動したオープニングの航空機火災や横浜ランドマークタワーの火災など、CGを多用しながらも本物を見るような迫力がありました。

しかし実在する横浜ランドマークタワーがテロリストにより爆破され、火炎にまみれるという設定で、よくタワー側が協力し、撮影を許可したものだと思います。

どうして横浜の災害にTOKYO MERが出動?と思ってしまいましたが、大規模災害時には広域協力が決められているようで、当初はサポート的に出動しますが、展望台のある最上階に残された客に重傷者が出たことで、「待っているだけじゃ、救えない命がある」がポリシィのTOKYO MERが同じく協力に来ていた東京消防庁即応対処部隊とともに70階の階段を駆け上っていきます。

ちょっと危険な場面や情緒的なシーンで引っ張りの時間が長く、そこだけはちょっとしらけてしまうのと、あれこれと物語を多く詰め込みすぎって気もしました。

★★☆

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去り行く男(原題:Jubal) 1956年 米
監督 デルマー・デイヴィス
出演者 グレン・フォード、アーネスト・ボーグナイン

去り行く男
監督のデルマー・デイヴィスは、「折れた矢」や「襲われた幌馬車」などの西部劇映画を多く撮っています。

今から70年前の私が生まれる1年前の1956年映画ですが、豪華なシネマスコープでカラー化されていて、また西部のワイオミング州をロケ地としてロッキー山脈など壮大な自然の中で撮影されています。

当時はまだカメラやフィルムの性能が悪く、屋外ロケばかりでフルカラー映画というのは難しかったと思われますが、さすがにハリウッド映画は優れています。

原題は、主人公の名前ですが、それでは意味不明とばかりに、日本語版のタイトルは、主人公の放浪するカウボーイを表現しています。

物語は、行き倒れていたカウボーイの主人公を助けて自身の牧場で雇ってくれることになりますが、そこには意地の悪い同僚の牧童がいて、なにかと対立していきます。

そして牧場主の妻と主人公が姦通していると同僚が牧場主に伝えることで、妻に本当はどうなのかと詰め寄りますが、モーションをかけてもまったく相手にしてくれない主人公を恨み、ウソの関係を伝えます。

こうした妻の不義を疑って嫉妬に狂う物語は、シェイクスピアの「オセロー」から着想を得たという内容で、主人公の牧童が牧場主の妻を寝取ったという虚偽から、殺人に至る事件が起きてしまいます。

70年前のアメリカ映画だけに、勧善懲悪は必須で、穏やかなエンディングです。

それにしても脇役ながら、窮地に主人公を助ける役として、まだブレークする前の当時35才のチャールズ・ブロンソンが出演しています。

★★☆

【関連リンク】
2026年3~4月にみた映画 フォードvsフェラーリ(2019年)、裸の拍車(1953年)、陸軍中野学校(1966年)、荒野に生きる(1971年)、女相続人(1949年)、プロフェッショナル(1966年)、ドライブ・イン・マンハッタン(2023年))

2026年1~2月にみた映画 奇跡のシンフォニー(2007年)、新解釈・三國志(2020年)、スターゲイト(1994年)、99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE(2021年)、閉ざされた森 (2003年)、キャメラを止めるな!(2022年)

2025年11~12月に見た映画 サンセット大通り(1950年)、メカニック:ワールドミッション(2016年)、インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア(1994年)、マッド・シティ(1997年)、黒蜥蜴(1968)、1917 命をかけた伝令 (2019年)、アフタースクール(2008年)、ダンケルク(2017年)

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1898
アヒルと鴨のコインロッカー(創元推理文庫) 伊坂幸太郎

アヒルと鴨のコインロッカー
2003年にデビューした著者の5作目の書き下ろし長編小説で、2003年に単行本、2006年に文庫化されています。つまり今ではすっかりベテランの売れっ子作家さんですが、その初期の頃の作品と言うことです。

2007年には、観てませんが、監督が中村義洋、濱田岳、瑛太などの出演で映画が製作されています。

変わったタイトルだなぁと、本屋さんでずっと以前から見て思っていましたが、今回ようやく読むことが出来ました。

タイトルの意味を理解するには、読んでもらうしかありませんが、アヒルは元々野生のマガモを原種とし、それを人間が食用や羽毛採集の利用がしやすいように飼育、改良して作られた鳥だと言うことを初めて知りました。一般に鴨肉として流通しているものはほとんどがアヒルだそうです。

主人公は、仙台の大学に入学するために、単身アパートに引っ越ししてきた男性が語る現在と、同じ仙台でペットショップの女性店員が語る2年前に起きた過去が、同時進行で進んでいきます。

最後に大どんでん返しが待っていますが、ミステリーなら嫌というほどに読んでいるので、気がつきそうながらまったく気がつきませんでした。うまいやり方です。

鍵は、2年前と現在の両方の話に登場する、主人公男子大学生の隣室に住む河崎という男です。ムフフ。しかし映画では、そのどんでん返しがどのように作られているのかちょっと不思議です。

★★☆

著者別読書感想(伊坂幸太郎)

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ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫) ポール・オースター

ブルックリン・フォリーズ
1980年代に書かれた「ニューヨーク三部作」が有名な著者ですが、まだその三部作はいずれも読めていません。本書は2005年に出版され、2012年に日本語翻訳版が出ています。

原題は翻訳版と同じ「The Brooklyn Follies」で、「Follies」は愚行という意味で、主人公が過去の行いで愚行だったと思えることを日記風にノートに書き綴っていることからきています。

ニューヨークを舞台とした小説は様々ありますが、その中でもローレンス・ブロックの小説が好きでよく読んでいますが、今後は機会があれば上記の「三部作」を読んでみたいと思っています。

今回の作品はタイトルからわかるように、ニューヨークが舞台で、保険会社をリタイアしたあと、余生をゆっくり過ごそうと、中心地のマンハッタンから少し離れたブルックリンに引っ越してきた初老の主人公が語るドラマです。

妻とは離婚していて、一人娘はすでに結婚していて、蓄えもあり、ひとり住まいの寂しさはあるものの、悠々自適の老後です。

娘との仲が悪くなり、悩んでいるときに、親戚の中では一番優秀で学者だった甥と偶然出会うところから一気に物語は思わぬ方向へと加速していきます。

主人公が語り手で、一方的な考え方やものの見方を強いられますが、ゲイやレズビアン、前科者、実家住まいの美人妻、突然親元から家出してきた喋らない幼い姪など、登場人物がそれぞれユニークで愛すべき人達ばかりです。

なんだかんだありますが、結局は自然と収まるところに収まり、ハッピーエンドと言えるほのぼのするドラマでした。

★★☆

著者別読書感想(ポール・オースター)

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ザ・ヒート(ハルキ文庫) 浜田文人

ザ・ヒート
1949年生まれの著者の作品は今回初めて読みました。元々、警察やヤクザなどをテーマにした作品やシリーズものが多い方です。

本書は、タイトル買いで、特に内容は気にしていませんでした。書き下ろし作品で、文庫の発行は2015年です。

主人公は、東京で表と裏の名簿屋としてビジネスをおこなっている関西出身の強面の男で、様々な思惑からヤクザと刑事に挟まれながら危機を脱していくハードボイルドテイストな作品でした。

作品の中では、主人公のビジネスの個人情報の取り扱いについては、現在でも頻繁に不正に流出したり、売買が普通に起きています。

匿名流動型犯罪などにも、個人情報がよく利用されていることから、そうした名簿売買のビジネスが今も実際に繁盛しているのでしょう。

ネットでなにかを買うときはもちろん、問い合わせをしたり、記事を読むためだけでも過剰に個人情報を入力しなければならない世の中はリスクがいっぱいです。嫌な世の中になってきたものですが、ほとんどの人は気にならないみたいです。

末端の犯罪者だけを捕まえても、数ある個人情報の流出元を取り締まらない限りいくらでも次々と犯罪に利用されていくのでしょう。

それが嫌なら、一切の入力を拒否し、ネットでは買わない、情報を入れないことに徹するしかありませんが、現代人としてそれも難しそうです。

そして一方では、なりすましを防ぐための、ログインセキュリティが厳しくなり、様々なサービスを使うときの手間が何重にも複雑化して不便になっていきます。

ユーザー側に面倒をかける認証だけを厳しくされても、元々のデータ管理はどうなんだ?と思いますが、どうしたものでしょうかね。

★★☆

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ノースライト(新潮文庫) 横山秀夫

ノースライト
2019年に単行本、2022年に文庫化された長編ミステリー小説です。

読み進めていく中で戦前にドイツから日本へ亡命してきたドイツ人建築家「ブルーノ・タウト」の話が出てきて、それにかすかな記憶があり「あれ、前に読んだっけ?」と頭をよぎりました。

それはこの小説を原作にしたテレビドラマをNHKが製作し、2020年に「土曜ドラマ」として2回に分けて放映していました。それを全部ではないものの、ドラマ内で出てきた「ブルーノ・タウトの椅子」を見た記憶が残っていて既視感が蘇ってきたということでした。

内容は、ミステリー仕立てで、主人公は、バブルが弾けた後、仕事が激減し、勤めていた会社を辞めて、現在は大学時代の友人が経営する小さな建築設計事務所に勤務している中年男性です。

仕事は一級建築士の資格をもった建築デザイナーで、1年前には降ってわいたような自由度の高い住宅デザインを任され、それが建築雑誌に掲載されるなどして評価を上げました。

その信濃追分に建てた住宅は、南向きの太陽の光を直接ではなく、北向きの大きなガラス窓から光を間接的に取り入れる変わった工夫がされているデザインで、それがタイトルにもなっている特徴的な「ノースライト」です。

太陽光が直接入ると読書に適さない図書館や、一定の室温や照度が必要な精密工場などではそうしたデザインがよく使われていますが、一般住宅では珍しいデザインです。

しかしその住宅を見学に行った顧客から「どうも誰も住んでいないようだ」と聞かされ、不審に思い家主に連絡を取りますがつながらず、「なにかとんでもないことが起きている?」と心配し、信濃追分まで出掛け、4ヶ月前に完成して家主に引き渡した住宅を見に行きます。

そして誰もいない空き家になっている住宅は鍵が壊されていて中に入ってみると、引っ越しをしてきた様子はなく、独特の作りの椅子だけがリビングに置いてあるのを発見します。

その椅子が、戦前ドイツから日本へ渡ってきて、建築や工業デザインなどを日本人技師に教えた世界的な建築家「ブルーノ・タウト」のデザインした椅子に似ているということがわかり、それを手がかりに行方がわからない家の注文主家族を探していくことになります。

登場人物はそう多くはなく、読みやすいですが、人捜しのプロではない建築デザイナーですから、いろいろと遠回りをしながら、また「ブルーノ・タウト」つながりで新聞社の記者などにも協力してもらいながら消えた一家を探していきます。

テレビドラマを見ていたので、途中で思い出してきて、大きな謎はすっかり解けましたが、細かなところまでは見てなかったので、面白く最後まで読めました。

★★☆

著者別読書感想(横山秀夫)

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