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霧(ウラル)(小学館文庫) 桜木紫乃

霧(ウラル)
2015年に単行本、2018年に文庫化された終戦後の北海道の東端、根室を舞台にした長編小説です。

小説に出てくる根室や、野付半島は、終戦間際にソ連軍に攻撃され奪われた国後島と10数キロという近さで、戦後にはそこに住んでいた日本人が多く逃れてきて住んでいるという事情があります。

また百田尚樹著「錨を上げよ 第3巻 漂流篇」で読みましたが、ソ連の警備艇に追われながら根室から近い歯舞群島の貝殻島周辺へウニの密漁に出掛ける港として裏の漁業が盛んでした。、

そうした根室の街で生まれて育った3姉妹の物語ですが、真ん中の次女が主人公で、国後島から逃げてきた男性と芸者時代に知り合い、やがて結婚することになります。

その結婚相手の男性は、国後島から逃げ出すときに家族を全部失い、漁業のボスに拾われ、ボスの身代わりで賭博場の責任者として刑に服しますが、出所後には独立し、土木工事を兼ねる裏組織の組長として根室で力を付けていきます。

3姉妹の長女は政略結婚で、やがて国政に出ようとしている根室の運送業業者の長男と結婚し、そして3女も政略結婚で、地元根室で金融を支配している次男と婚約することになります。

そうした3姉妹の様々な事情や思惑がこの小説の醍醐味で、内容は全然違いますが、40年ぐらい前に読んだ谷崎潤一郎の「細雪」の4姉妹をふと思い出しました。

昭和の時代、しかもこうした地方では、まだまだ親が決めた結婚というのは当たり前にありましたが、主人公の次女だけは、中学校を卒業した後、自分の意志で家を飛び出し、芸者の修行をするという独立心が旺盛で自我の強い女性です。

著者の小説はいくつか読んできましたが、こうした時代がかった愛憎の小説は初めてで、新たな発見でした。

★★★

著者別読書感想(桜木紫乃)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

流出(上)(下)(新潮文庫) フリーマントル

流出
過去にも同じようなことを書いたような気がしますが、英国のスパイと言えば007ジェームス・ボンドが有名ですが、007はMI6という主として対外国の諜報活動をするスパイですが、今回の主人公チャーリー・マフィンは主に国内のテロ防止や諜報活動をおこなうMI5所属です。

本著はその「チャーリー・マフィンシリーズ」の第11作目で、原題は「Charlie's Chance」、1996年(日本語版は1999年刊)に出版されています。

このシリーズは過去に3作を読んでいますが、比較的新しい作品で、過去に遡って読んでいるという感じになっています。

本当なら、作品をまたがって登場する人物との関係性から最初から順番に読む方が正しい読み方ですが、たまたま手に取った順で読んできたので仕方がありません。

その「チャーリー・マフィンシリーズ」は下表のようになっています。著者は2年前に亡くなっているので、誰かが権利者の許可を取って続編を書かない限り、もう続きはありません。

チャーリー・マフィンシリーズ 読後感想
01  消されかけた男 Charlie Muffin 1977年
02  再び消されかけた男 Clap Hands,Here Comes Charlie 1978年
03  呼びだされた男 The Inscrutable Charlie Muffin 1979年
04  罠にかけられた男 Charlie Muffin's Uncle Sam 1980年
05  追いつめられた男 Madrigal for Charlie Muffin 1981年
06  亡命者はモスクワをめざす Charlie Muffin and Russian Rose 1985年
07  暗殺者を愛した女 Charlie Muffin San 1987年
08  狙撃 The Run Around 1988年
09  未訳 Comrade Charlie 1989年
10  報復 上・下 Charlie's Apprentice 1993年
11  流出 Charlie's Chance 1996年 2026/7/4
12 待たれていた男 上・下 Dead Men Living 2000年
13 城壁に手をかけた男 King of Many Castles 2002年
14 片腕をなくした男 上・下 RED STAR RISING 2008年 2025/11/15
15 顔をなくした男 上・下 RED STAR Eclipse 2009年 2024/10/5
16 魂をなくした男 上・下 RED STAR FALLIN 2013年 2025/7/5

主人公のチャーリー・マフィンは、ジェームズ・ボンドと違い、小男で風采が上がらず、足を悪くしているので走れず、靴は履き古したハッシュパピーしかダメという対照的な主人公が魅力です。

今回の舞台は、冷戦後のソ連が崩壊し、失業した軍人やKGB職員、核開発技師などが世界中に流出し、核兵器の原料がロシアンマフィアの手によって国外に流出する危険が迫っていることから、アメリカからはFBIが、英国からはMI5の主人公がロシアに渡り、協力して核の流出を防ぐため、対マフィア戦を繰り広げることになります。

それにしてもロシアの社会全体の腐敗やアメリカのFBI、英国のMI5のそれぞれの権力闘争など、これでもかというほど醜い国際関係が出てきます。

主人公は、そうした動きにくい中で、英国やアメリカ、ロシアを説得して、やがて自分自身がマフィアの中へ飛び込んで囮捜査を提案しますが、、、

少し時代は古い国際陰謀小説になり、今読むとやや古ぼけた感じもしますが、ドキドキハラハラは相変わらずで、楽しめました。

しかし英、米、露、独、伊など、それぞれの国の登場人物が多いのと、さらにロシア人名の名前が難しく(覚えられず)、誰が誰だった?と思い出しながら読むのが大変でした。

★★☆

著者別読書感想(ブライアン・フリーマントル)

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神の時空 鎌倉の地龍(講談社文庫) 高田崇史

神の時空 鎌倉の地龍
QED(桑原崇&棚旗奈々)シリーズ」や「古事記異聞シリーズ」など、いくつもシリーズがある作品の中で、2014年から始まった「神の時空シリーズ」の第1作目となります。このシリーズは他に8作品が出版されています。

そのシリーズ第1作目のこの小説は、2014年に単行本、2017年に文庫化されています。

主人公というか語り部は、少しネタバレになってしまいますが、7年前に事故で亡くなっている歴史好きな青年で、いわゆる妖怪の「ぬりかべ」となっています。

この普通の人には見えない主人公と、代々シャーマン的な能力を持つ家族とが、過去の怨念を解き放ち混乱させようとする勢力に対抗しようとします。

その家族の一員で次女の女子高生が、突然襲われて危篤状態になります。それは、鎌倉時代に殺された武人達の封じられた怨念を解き放とうとする妖怪に気がついて後を付けたことから始まります。

修善寺で謀略により暗殺されその地に封じられた源範頼や源頼家の怨霊を謎の集団が解き放ち、続いて鶴ヶ丘八幡宮の一の鳥居、二の鳥居を次々と倒壊させ、最後の三の鳥居が壊されると、鎌倉幕府を打ち立てた源頼朝の怨霊まで解き放つこととなります。

それを阻止するため、主人公とシャーマン家系の家族が、どうして頼朝が怨霊になってしまったかなど、歴史の暗部を推測していきます。

2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、その源頼朝を将軍まで押し立てた北条一族、義時や、その父親の時政、姉の北条政子をメインにした面白いドラマでしたが、似たような名前が多く人間関係にやや混乱することがありました。

それを見る前に、この小説を読んでおけば、その人間関係や思惑、権力闘争の暗部など、さらに面白く見られたのになと思いました。

★★☆

著者別読書感想(高田崇史)

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極楽カンパニー(集英社文庫) 原宏一

極楽カンパニー
著者は1954年生まれの作家さんで、ミュージシャンやコピーライターのあと、作家としてのメジャーデビューは40歳を過ぎてからという比較的遅いデビューの方です。

本著はメジャーデビューから3作目となり、1998年に単行本、2009年に文庫化されています。この著者の作品を読むのは初めてです。

内容は、サラリーマンを定年退職し、毎日やることがなく、図書館で時間をつぶしていると、同じ境遇の男性と話が合い、「会社員の様式美」を再度経験するため、フェイクの疑似会社を作り、そこへ毎日出社し、擬似的な取引をおこなうことになります。

同じく定年退職後に暇を持て余していた同輩が次々と集まり、やがては支店や各都市ごとに疑似会社がが作られていくブームに発展していきます。

ちょっとフェイクの会社で取引をするというイメージがわきにくいですが、そこは、ま、小説なので。

そしてその疑似会社の社長の息子が、独立しようと勤めていた商社を辞め、そのフェイク会社をベースに起業を目論みますが、、、

この小説が書かれたのが、1998年以前なので、まだ超高齢化社会には至ってなく、団塊世代はまだ現役で働いている頃です。

したがって、高齢化社会という点ではまだあまり緊迫した社会状況ではありませんが、戦後から猛烈に働き、高度成長時代に企業の中枢部にいた団塊世代より少し前の世代にとっては共感を覚えるのかも知れません。

しかしその世代というのは、一般的には、退職金をがっぽりもらい、年金も60才からフルに支給されていて、今からすれば中年以降はずっと恵まれてきた世代で、引退後は好きなことをなんでも出来そうです。

それだけに、団塊世代の次のしらけ世代の私にとっては、面白く読めるというより、残念ながら嫉妬が混じった古びた歴史物語というイメージしかわきません。

★☆☆

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