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偉大な創業社長、本田宗一郎氏が1991年に84歳で亡くなり、それから今年で35年が経ち、その本田氏から直接薫陶を受けてきたホンダの社員は、もうほとんどが退職していて、そのホンダイズムは消えかかっていると思われます。

本田宗一郎

そのせいかどうかはわかりませんが、ここ10数年間のホンダの低迷と迷走ぶりが目に余ります。

個人的には、本田宗一郎氏の経営理念や、公私のけじめを付けるため、親族を雇わず後継者にはしなかったなど、創業経営者としては珍しく素晴らしい経営者だと思いますが、やはり明日潰れるかわからないベンチャー企業から、すっかり官僚的な組織となった大企業では、苦労を積み重ねてきた創業経営者をしのぐような優れた後継者はうまく育たず、単に順繰りでサラリーマン社長がホンダを窮地に追い込んでいるように見えます。

わずかここ数年間に起きたホンダの迷走ぶりです。

まずひとつ目は、2013年にアメリカのGMと提携し、燃料電池の共同生産や、小型の低価格EVの生産販売、自動車部品の共用化などで合弁会社を設立しましたが、この提携がまったくうまくいかずに2026年中には完全に提携解消となります。

ホンダGM提携

2027年以降は北米に投入するクルマはすべてEVか燃料電池車にするとか、2029年にはホンダが生産するすべてをEVにするとか無謀な計画を2020年頃に発表しましたが、その後アメリカでトランプ大統領が就任し、EV政策が後退した不運もありますが、先を見通せない経営者は無能だったということでしょう。

  ◇   ◇   ◇

二つ目は、2022年にホンダとソニーは共同で「ソニー・ホンダモビリティ(SHM)」を設立し、エンタメとEVを融合した新しいコンセプトのクルマを販売する計画で、プロトタイプは完成し、2026年、まもなく北米で予約販売がされるというタイミングで中止が決まり、会社は休止することになりました。

ホンダソニー提携

これも単に世界的企業のホンダとソニーがEVを作ればバカスカ売れるだろうという、机上の妄想が膨らんだだけの提携でした。

  ◇   ◇   ◇

三つ目は、2024年にホンダは、資金提供を受けていたルノーから離れ資金難に陥っていた日産と、次世代EVやソフトウェア開発で協業、経営統合を目指すとトップ同士が華々しい記者会見をおこないましたが、互いの利害が一致せず、1年後の2025年に破談となりました。

ホンダ日産提携

EV専門企業を目指そうとしていたホンダが、EVでは先行している日産を安易に取り込もうと考えたのですが、2005年に堀江社長だったライブドアが、ニッポン放送やフジテレビを手に入れようとしたように、あまりにも双方の歴史や会社文化の違いなどがあり、無謀な試みで、経営者の無能ぶりを世界にさらしただけでした。

  ◇   ◇   ◇

四つ目は、F-1への復帰と撤退の繰り返しの迷走ぶりです。

ホンダとF-1の歴史は古く、1964年~1968年までの第1期、1983年~2000年(1992年から2000年は無限として参戦)の第2期があり、それぞれに強力なエンジンでF-1界に新風を巻き込みました。

ところが本田宗一郎亡き後の第3期以降、1998年にはフルワークス(シャシーとエンジン両方自社開発)参戦を社長自らが発表しておきながら、2年後の2000年には無理と悟り方針変更し、BARチームにエンジンを提供するだけにしました。

しかしそのBARが2006年にF-1から撤退することになり、浮いてしまったチームをホンダが買い取り、表面上はフルワークス体制となりましたが2007年、2008年と成績不振が続きわずか3年後2008年でF-1から撤退します。

しばらくおとなしくしていたものの、2015年からトップチームのマクラーレンチームにエンジンを供給する形で参戦しますが、しばらくF-1から離れていたこともあり、期待されながらもエンジンの戦闘力が完全に不足していて3年間の成績は散々で、マクラーレンから三行半を突きつけられます。

ホンダf-11

2018年からトロロッソ、2019年からは強豪チームのレッドブルチームにエンジンを提供することになり、2006年以来ようやくホンダのエンジン搭載車が優勝。その後は2021年までは常にトップを争えるまで戦闘力が復活していたものの、2021年でエンジン供給の撤退を発表します。2015年の復帰時には「二度と撤退はしない」と言っていたにも関わらずです。

そして完全撤退してわずか2年後の2023年に、「2026年からアストンマーチンへエンジン供給する」と発表します。まさにどっちなんだ?という迷走ぶりです。

ホンダf-12

しかし当然ながら数年のブランクがあり、日進月歩の技術革新にまったくついて行けず、現在の2026年シーズンはぶっちぎりで最下位争いをしている散々な状態です。

  ◇   ◇   ◇

五つ目は、売れ筋の乗用車だったフィットやVEZELの販売不振です。

4年前に記事を書いています。

ホンダ国内販売凋落の兆しなのかも知れない 2022/9/3(土)

ヴェゼル

コンパクトSUVのホンダVEZELは2014年に初代が登場したときには、SUVの中でNo.1の売り上げ台数を続けるヒット作でしたが、2021年に2代目に代わってからはその半分も売れない散々な失敗作(ホンダはもちろん認めていないが)です。

またVEZELのベースは小型車の売れ筋のフィットですが、2020年発売の現行の4代目フィットは、そのライバルでほぼ同時にフルモデルチェンジしたトヨタヤリスと販売台数では登場直後は互角だったものの、その後大きく差が付き、現在は約5倍の開きがあります。

前代モデルの時はフィットとヴィッツ(ヤリス)との差は僅差でしたが、モデルチェンジ後のフィットの凋落がVEZEL同様に激しいのです。

結果的にホンダで販売目標以上に売れているのは価格が安い(利益も薄い)軽自動車と一部のミニバンだけで、国内販売においては危機的な低迷期に入っています。

国内販売が低調でもそれをずっと上回る利益をもたらしてくれていた北米での販売は円安の影響で好調でしたが、それもトランプ大統領に代わってから関税や現地生産重視の政策で苦戦しています。上記のF-1挑戦に関係しますが、今の状況が改善しない限り、お金のかかるF-1の継続はまた難しくなりそうです。

  ◇   ◇   ◇

六つめは、詳しくは触れませんが、中国での事業の失敗です。EVシフトに移った中国は、国を挙げてEVの国産車化を進め、それまで一番中国でクルマを販売していたドイツのフォルクスワーゲンは窮地に陥ることになります。

ホンダは好調だった北米に続き、新たな市場として、さらにフォルクスワーゲンの縮小に乗じて、世界に通じる(はずの)HONDAブランドで、中国に合弁会社が製造するハイブリッドやBEVで食い込みを図りましたが、高市政権下で日本との関係悪化というアンラッキーもあり、また中国政府の方針でもある国産企業支援とEVシフトで、性能や価格ではまるで歯が立ちません。

ホンダが中国で四輪車の生産能力削減、開発体制も見直し(ロイター)
ホンダが中国のガソリン車工場4拠点のうち、1拠点を休止することが分かった。もう1拠点も休止を検討している。販売​が落ち込む同国で生産能力を適正化し、収益改善を図‌る。

これも机上の金計算だけは得意な経営者層が中国のカントリーリスクや、ホンダブランド神話を完全に見誤った結果と言えるでしょう。

  ◇   ◇   ◇

青山一丁目にあったホンダの本社は、当初の計画では全面ガラス張りのお洒落な高層ビルになる予定でしたが、万が一大きな災害に見舞われたとき、ガラスが上から降ってくるようなことがあってはならないと、本田宗一郎氏の一言で、デザインの変更が求められ、シンプルなベランダがある白い外壁のビルに変わりました。

ホンダ青山ビル

そのビルも老朽化したため、一部を三井不動産に売却し、本社を虎ノ門へ仮移転、そして2029年頃には八重洲の再開発地区へ移転する計画となっています。

八重洲は、ホンダが初めて東京へ進出したときに拠点を置いた場所ということですが、いずれにしても、ホンダが一番輝いていた時代にお洒落な文化の発信地でもあった青山から、雑多で無国籍でビジネスライクな八重洲に移るメリットがあるのだろうか?と首をかしげます。

ホンダの70年代から80年代のクルマは、技術的にもデザイン的にも他車とは違うという独特の魅力がありました。

2022年に亡くなった辛口のジャーナリストの三本和彦氏は、テレビ番組や雑誌でいつも「ホンダのびっくり箱」と言って、ホンダの独創的な技術やアイデアを称賛していました。

ところが最近のホンダ車は、以前の金太郎飴のようなトヨタ車と同じく無難にほどほどでまとめる80点主義でつまらなくなったという感想を持ちます。「そんな無難なほどほどの車なら、ホンダじゃなくてもいいよね!」ってことです。

90年代頃から、寄らば大樹の陰で、有名大学卒のサラリーマンばかりがホンダに集まり、そしてそれらのクルマが好きで好きでという人ではなく、計算高く勉強が出来るエリート会社員が経営幹部を占めるようになってきたことと関連がありそうです。ちなみに本田宗一郎氏の最終学歴は小学校卒業です。

もう一度、ホンダの理念や、オヤジさんの技術のこだわりを思い出して、ホンダらしいホンダならではのクルマ作りをおこない、同時に日本のものづくりの素晴らしさを世界に見せつけてもらいたいものです。

今月から販売が始まった、ホンダが生き生きとしていた頃のシティターボとよく似た電動BEV「Super-ONE」が、ホンダ再生のきっかけとなればいいなと思っています。

この文章を書いているとき、偶然同じようにホンダを憂う雑誌記事が出ていました。

元ホンダ社員が赤裸々告白!! 「庶民のためのクルマ作り」はどこへ!? 本田宗一郎氏が目指したホンダとの決定的な違い!(初出:『ベストカー』2026年5月10日号)
今のホンダの苦境は、なるべくしてなったという感想ですね。(社長の)三部さんが頼りにしている人たちに問題があると感じます。出世のことしか考えていないような人たちの意見ばかり聞いているからこうなった、ということでしょう。
本田宗一郎さんの思いから始まるホンダの原点は「技術で人と社会の役に立つこと」です。それでお金をいただいているのに、今の経営陣にはそんな意識がおそらくない。

決して上の記事を参考にしてこれを書いたわけではなく、このブログは掲載日の1ヶ月ぐらい前から少しずつ書き始めていました。証拠を出せと言われても上書き上書きしていてありませんけど。

【関連リンク】
1660 ホンダ国内販売凋落の兆しなのかも知れない
1212 EVシフトと言いつつも当分需要はそれほどでもなさそう
1197 2017年の乗用車販売台数に思うこと

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