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正体(光文社文庫) 染井為人

正体
昨年デビュー作の「悪い夏」(2017年)、今年には3作目の「震える天秤」(2019年)を読み、社会派小説が読み手にとっては心地よく(中身はドロドロな話ですが)、今回は2020年に単行本、2022年に文庫化された死刑とえん罪をテーマにした長編(文庫で610ページ)小説を読みました。

この小説を原作として、2022年に亀梨和也主演でテレビドラマ化(WOWOW)、2024年には藤井道人監督、横浜流星主演で映画化されています。

建築現場で働く日雇い労働者や、8年間も妻と離婚してくれると信じて不倫をしていた中年の独身女性、認知症高齢者のお世話をする介護福祉施設、悪徳新興宗教、痴漢えん罪で弁護士の仕事を失った男性など、社会の底辺や現代社会の問題を浮き彫りにした内容が盛り込まれています。それだけに変化があって映像化に向いている作品なのかも知れません。

第一章では、最後にまた出てくるグループホーム、第二章は、東京オリンピック直前でテニス競技場を作るため突貫工事で働く日雇い労働者、第三章では、ネット情報誌でフリーライターが書く原稿を編集する編集者、第四章では、菅平高原のスキー場ホテルでリゾートバイトをしているメンバー、第五章では新興宗教にはまった主婦、第六章と第七章では第一章のグループホームが舞台で、それぞれに語り手が代わっていきます。

赤ちゃんを含む一家殺人事件から始まるだけに、内容は重苦しく、読み進めるのが最初のうちは大変です。

しかし中盤ぐらいから、徐々に殺人犯とされていた人物に対する見方が徐々に変わっていくことになり、展開や読むスピードも上がっていきます。

小説での最後と映画の最後は違っているとのことでしたが、インパクトは断然こちらの小説にあるように思います。詳しくは書きませんが。

実際に一度死刑判決が確定しながら、再審で無罪が確定したケースは、免田事件(1983年無罪確定)、財田川事件(1984年無罪確定)、松山事件(1984年無罪確定)、島田事件(1989年無罪確定)、袴田事件(2024年無罪確定)があります。

いずれも、警察や検察の取り調べに問題があり、自白を強要されたり、証拠がねつ造されたりしたことが何年も後になってから明らかになりました。

再審の壁を高くしてきた検察官の抗告の権利をなんとしても残そうとする権力側の横暴を見ていてわかるように、ゆがんだプライドから99.9%の有罪率を誇る検察は、絶対に自分たちの間違いを認めたくない機関だけに、再審でえん罪を証明し無罪を勝ち取るのは相当にハードルが高そうです。

こうした「人(特に権力者)の判断は誤ることがある」という事実から、世界では実施が少数派となっている死刑制度の維持について日本でも考えなければいけない状態になっているように思います。

1年前にそのことを書いています。

死刑制度廃止と終身刑 2025/6/28(土)

★★★

著者別読書感想(染井為人)

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歴史と人生(幻冬舎新書) 半藤一利

歴史と人生
2018年に出版された著者の過去に出版した著書からテーマごとに一部を抜粋した内容です。

著者は2021年に亡くなっているので、その3年前に総集編的なものを編集者から提案されてそれにのったというところでしょうか。想像ですが。

同じようなスタイルでは、浅田次郎氏の「僕は人生についてこんなふうに考えている」という作品がありましたが、著者自ら選んだわけではなさそうで、編集者の趣味趣向、それに商売気が表に立った選択ばかりでうんざりした記憶があります。

過去の著者から抜粋したものなので、過去に読んだ本と同じ内容も出てきますが、総集編と思えばそれも仕方ありません。

選ばれたテーマは、著者が得意とする江戸時代から昭和までの歴史について、和歌や俳句、著者の配偶者が夏目漱石の孫という縁から、夏目漱石の文学論、そして最後に「近ごろ思うこと、憂うこと」です。

太平洋戦争中はまだ子供だったとはいえ、戦中派の著者だけに、反戦感情は強く、昨今(2018年頃)の憲法改正問題や、防衛力増強については猛烈に批判しています。もし2026年の今、著者に話を聞けば、「戦争が出来る国」へと1強状態で政治が動きつつある状態をさらに憂慮されることでしょう。

★☆☆

著者別読書感想(半藤一利)

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祈りのカルテ 再会のセラピー(角川文庫) 知念実希人

祈りのカルテ
2022年に単行本、2025年に文庫化された医療がテーマの連作短篇集です。後先になりまだ読んでいませんが、2018年(文庫は2021年)に出版された「祈りのカルテ」の続編になります。

短篇は「救急夜噺」「割れた鏡」「二十五年目の再会」の3篇とその間に幕間があります。

また、これらの作品を原作として、玉森裕太や池田エライザが出演するテレビドラマが2022年に放送されています。

主人公は、すでに大学付属病院で循環器内科医となっていますが、同僚や若手の研修医と飲みに行った際に、研修医時代の話しを聞かれます。

その内容がそれぞれ医療ミステリー仕立てとなっていて、その謎を解いていきます。

特に最後の「二十五年目の再会」は、緩和ケア科の研修中に、悪性中皮腫で余命幾ばくもない前科持ちの患者の主治医を命ぜられますが、なかなか話が込み入っていて感動ものです。タイトルから想像ができそうですが。

★★☆

著者別読書感想(知念実希人)

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犯人のいない殺人の夜(光文社文庫) 東野圭吾

犯人のいない殺人の夜
今から36年前の1990年に単行本、1994年に文庫化された短編ミステリー小説集です。実質1985年にデビューしたので、そのデビューから5年後の初期の作品と言うことになります。

収録作品は、「小さな故意の物語 」、「 闇の中の二人 」、「 踊り子 」、「 エンドレス・ナイト 」、「 白い凶器 」、「 さよならコーチ 」、「 犯人のいない殺人の夜」の7篇で、1985年から1988年までの、主に小説宝石や小説現代に掲載された短篇作品がまとめられています。

すでにミステリー界で不動の地位を築いている現在とは違い、まだ作家としては駆け出しの頃の作品と言うこともあり、内容ではやや無理なところがあちこちに見られますが、それがまた初期の頃の熱さが伝わってきてなかなか良いものです。

「小さな故意の物語」は他の複数の短篇集にも収録されている作品ですが、高校生が学校の屋上から謎の転落死をし、その幼なじみで親友だった高校生が、その謎を解いていくというストーリーで、意外な結末が用意されていました。

それぞれに、一筋縄ではいかないミステリーがうまくまとめられていて、「長編で長々読むのはタイパ悪くてしんどい!」って人にはお手軽に楽しめそうです。

★★☆

著者別読書感想(東野圭吾)

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