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夢の終わりとそのつづき(創元推理文庫) 樋口有介

夢の終わりとそのつづき
著者の作品を読むのはこれが初めてですが、本作品は、単行本の「ろくでなし」(1997年)を大幅に改稿・改題した作品で、2007年に文庫化されたものです。

著者は1950年群馬県生まれで、大学を中退後に様々な仕事を経験した後、作家活動にはいった方で、1988年に「ぼくと、ぼくらの夏」でデビューしています。

その後は、中年探偵や、青春もの、時代小説などのシリーズなど多数の作品があり、その中の「柚木草平シリーズ」はテレビドラマ化されています。

デビュー作がサントリーミステリー大賞読者賞を受賞し、1990年には「風少女」が直木賞の候補になりましたが受賞は逃し、その後は大きな賞とは縁がありません。そして2021年に自宅で亡くなっています。

本作品は、単行本では元々独立した作品でしたが、主人公そのものを変更して「柚木草平シリーズ」に後から加えられています。

この小説の書き出しが妙に引き込まれるように素晴らしく、最後のほうでその意味がチラッとでてきますので、ちょっと引用しておきます。


「自分が入るための着グルミというやつがあったら、さぞ便利だろう。女の匂いに頭も混乱せず、瞳孔も開かず顔も赤くならず、硬質な仮面に守られて淡泊に人生をやり過ごす。そうやって青春を懐古し、土手に寝そべっていつまでも田舎の汽車を眺めている。青い空と白い雲はワンセット、日差しを受けて水トンボが青く舞い、そよ風が色濃くコスモスの花粉を飛ばしてくる。俺は自分の着グルミのなかで寝返りをうち、社会からの隔絶に心地よく欠伸する。風も日射しも遠ざかっていく汽車も、すべてが他人事。青春も人生も他人事で、嬉しくても悲しくても、俺の神経は茫洋と仮定のなかを浮遊する。」

主人公は曰くのある事件をきっかけに刑事を退職した元刑事で、離婚した後、決まった仕事をせずに、毎日飲んだくれて、女を口説く毎日を送っていますが、ある日、絶世の美女wが自宅兼事務所にやってきて、ある家から出てくる男を1週間尾行し、誰と会ってなにをしたかを教えて欲しいと頼まれます。その報酬は100万円です。

そういうまずあり得そうもない話から始まるだけに、ストーリーにはあまりリアリティはないですが、さらに、エイリアンだ、製薬会社の人体実験だ、ロシアから来たスパイなど様々な謎が展開していきます。

ま、どうってことない話ですが、ハードボイルドタッチで、周囲には美女ばかりが登場し、エンタメ向きの小説と言うことにしておきましょう。

★☆☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

クリスマスのフロスト(創元推理文庫) R・D・ウィングフィールド

クリスマスのフロスト
著者は1928年生まれ(2007年死去)の英国の作家さんで、「フロスト警部シリーズ」が有名です。そのフロスト警部シリーズの第1作目がこの作品で、1984年(日本語訳版は1994年)に出版されています。

本作品の原題は「Frost at Christmas」で、1984年の出版となっていますが、1970年に同小説を書いた後、出版社へ持ち込んだもののその時は出版を断られてしまいます。

その後、同じ警部を主人公として書いたラジオ劇がヒットし、過去に書いた小説の本作品が浮上し出版されたという事情があるそうです。

ストーリーは、英国のロンドンから100km以上離れた田舎町の警察署に勤務する警部が主人公で、娼婦の娘が行方不明になり、それを調べていくうちに、他の事件にも同時に関わっていくという内容です。

この主人公は、いわゆるハードボイルドでもなく、清廉潔白な警察官でもなく、あまりにも平凡で、ポカや間違いをしょうっちゅう犯し、上司の署長命令はろくに聞かず、事務処理が苦手で、現代の感覚なら確実にセクハラオヤジという女好きで、さらに強引な違法捜査もお構いなしという曰く付きです。

しかし過去に犯人逮捕の際に撃たれ重傷を負った過去があり、最高栄誉のジョージ十字勲章を授与されていて、周囲の同僚達からは慕われています。

そんな一見ドジとも思える警部が、不眠不休の行き当たりばったりで事件を引っかき回しているうちに、真実が見えてくると言う流れです。

さらにネタバレになりますが、クライマックスでは、犯人に撃たれ、病院の手術室で生きるか死ぬかの境をさまよったままで終わります。

なので、決して鋭い推理や、犯人との行き詰まる駆け引き、派手なアクション、不死身の主人公などを期待すると肩すかしを喰らいます。また主人公の周囲の他の登場人物は、出世願望が強いとか手癖が悪いとかなど、それぞれにひと癖があってわかりやすい面もあります。

それでも、犯行の設定や動機などには無理がなく、そこそこリアリティがあって楽しめます。

★★☆

◇著者別読書感想(R・D・ウィングフィールド)

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世界を変えた10冊の本(文春文庫) 池上彰

世界を変えた10冊の本
2010年から2011年に女性向けの雑誌CREAに連載されたものをまとめ、2011年に単行本、2014年に文庫化されています。

なぜ女性誌に連載?と不思議に思ったら、あとがきに書かれていましたが、文藝春秋の女性編集者から出版を依頼されていながらずるずると延ばし延ばしになっていたところ、その編集者から「書き下ろしを待っているといつまで経っても本にならないから」と、雑誌に毎月お勧めの1冊を取り上げて連載することになり、10ヶ月経って1冊の本が出来上がったということだそうです。

私はこの10冊はいずれも読んでいませんが、女性向け雑誌ということもあり、宗教や経済にあまり詳しくない人が読んでもわかりやすく、ごくごく簡単ながら要約もされていますので助かります。

著者が独断で選んだというのは、
「アンネの日記」 アンネ・フランク著
「聖書」 
「コーラン」 
「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」 マックス・ウェーバー著
「資本論」 マルクス、エンゲルス著
「イスラーム原理主義の「道しるべ」」 サイイド・クトゥブ著
「沈黙の春」 レイチェル・カーソン著
「種の起源」 チャールズ・ダーウィン著
「雇用・利子および貨幣の一般理論」 ケインズ著
「資本主義と自由」 ミルトン・フリードマン著
の10冊です。

世界を変えた10冊ということで、人種差別や政治、思想、宗教、環境、経済などが話題の中心になっています。

大学生が専門性を学ぶときに読む書籍が多く、一般人にはあまり馴染みがない書籍ばかりという感じもしますが、その中では「アンネの日記」や「沈黙の春」は一般書籍としてベストセラーでもあり、なじみ深いものでしょう。

最後のふたつの著者、ケインズとフリードマンの同世代の経済学者としての対立の話は読んでいてもなかなか興味のわく内容でした。

★★☆

◇著者別読書感想(池上彰)

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悪と仮面のルール(講談社文庫) 中村文則

悪と仮面のルール
2010年に単行本、2013年に文庫化された長編のクライムノベルです。2018年には中村哲平監督、玉木宏主演で映画が製作されています。

名古屋の裕福な家に生まれ育った主人公男性の、子供時代と現在が序盤は交互に展開していきますが、子供時代に異常な父親を殺害することで、その後にも影響が及んでいきます。

「悪」を描くことが多い作家さんで、それも一流のワルが多いですが、これも一種の「嫌ミス」にあたるのかも知れません。ミステリーと言えるほどの謎や展開はありませんけど。

主人公が別人になりたくて、整形手術を受けますが、顔や耳の形を変えても声や仕草、クセ、体臭、雰囲気などは変えようがなく、その辺りは無視されているのは小説とは言え残念です。

つまり、過去の主人公や、顔をその人物に変えてなりすました他人のことをよく知っている人達と近くで話をしても、それが同一人物、あるいは別人だとまったく気づかれないというところ。

また細かいようですが、外国で行方不明になった日本人の身元と顔を主人公が闇組織から買い取りますが、その人物が帰国したという入国証明を偽造したのかも不明です。その人物の名前と顔のパスポートを持っていることから、そうした点はクリアされていると考えるべきですが、口で言うほどは簡単ではなさそうです。

諸々、突っ込みどころは豊富ですが、それはともかく、こうしたユニークなストーリーを創作できる能力にはただただ尊敬しています。

★★☆

◇著者別読書感想(中村文則)

【関連リンク】
 9月前半 本質を見抜く「考え方」、祈りのカルテ、黒牢城、まだ見ぬ敵はそこにいる
 8月後半 もののふ戦記、磯田道史と日本史を語ろう、煙が目にしみる、泥棒は哲学で解決する
 8月前半 鬼火、心にナイフをしのばせて、母の待つ里、怖い絵 死と乙女篇

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