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冷血 (新潮文庫) カポーティ

1958年に発刊された「ティファニーで朝食を」が映画化されそれで一躍有名になったアメリカの作家さんですが、19歳の時に始めて作品を世に出し、60歳の時に心臓発作で亡くなるまで40年あったわりには作品数は少なく、短編集を含めて12作品だけです。

この作品は1966年に書かれたカポーティの最後の長編作品で、1959年に実際にアメリカで起きた一家殺人事件が元となっています。

またこの作品はノンフィクションノベルという新しいジャンルを切り開いたものとして注目されています。

ノベルと言えばフィクション(想像で描いた物語)なわけですが、その前にノンフィクションがつくとどういう意味か混乱しそうですが、起きた事件と加害者と被害者、その双方の周辺にいた人達の事実を積み重ねていき、ある部分は作者の想像で描きながらも、重要なポイントは裁判記録や徹底した取材で、事実を元にして忠実に描かれた小説とでもいうのでしょうか。

もし現代で同じことをおこなえば、遺族や数多くの実名での登場人物から名誉毀損やプライバシィ情報漏えいなどですぐに訴えられそうなことも含みます。

事件は平和なカンザス州で牧場を経営する比較的裕福で、誰からも好かれている一家(夫婦と子供二人)の自宅で起きます。自宅といっても広大な牧場の中にあり、近くに住み込みで働いている夫婦の住まいを除くと、隣家といっても何キロも遠く離れた場所にしかない土地柄です。

一方、刑務所を出たばかりの二人の男が、同じ刑務所で耳にしたお金持ちの話しを思い出し、計画的に犯行をおこなうため、アリバイを準備し、遠くにあるカンザスの牧場を目指します。

そして犯行がおこなわれ、その殺害方法には相当の恨みがあるようにみえましたが、目撃者もなく、捜査はすぐに行き詰まってしまいます。マスコミは警察の無能ぶりを激しく叩く論調で、警察もほとんど犯人に結びつく証拠が残されていない中で必死の捜査を続けていきます。

犯人は誰からも疑われることなくまんまと犯行現場から逃げることができましたが、結局牧場には金は置いてなく、しかし元の仕事に戻ることもできず、メキシコや南部を二人で詐欺や泥棒を重ねながら放浪することになります。

しかし犯人のツキもそこまでで、やがてたれ込みから犯人が絞り込まれ、その足取りも警察の知ることになっていきます。

結果はわかっているものの、二人の犯人の考えや、心理状態などが迫真にせまる内容で、ノンフィクションと言いつつも十分に小説としての価値を見出せ読み応えがありました。

あとこの作品は1967年に映画化もされています(日本公開は1968年)。

著者別読書感想(トルーマン・カポーティ)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

死もまた我等なり:クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)(上)(下) ジェフリー アーチャー

時のみぞ知る:クリフトン年代記 第1部」では紆余曲折あった主人公が客船の乗組員としてアメリカに向かう途中、Uボートの攻撃をうけて船は沈没してしまい、かろうじて別の船に救助されたものの、訳あって同じ乗組員として働いていたアメリカ人が死んだことで、その男にすり替わろうとします。

しかしそれが裏目に出てしまい、上陸したとたん、いきなり殺人罪で逮捕されてしまうという盛り上げ方をして終わりましたが、そこからの続編です。

この小説では、貧しい家の生まれながら頭の良さをかわれ名門大学へ進むメーンの主人公以外に、その主人公と婚約する女性、ハイスクールの同級生で親友かつ主人公と婚約する女性の兄、その父親、主人公の母親という準主役達がいます。

そして一見するとバラバラに動いているその準主役達の目でも章ごとに時代が語られていきます。時代はナチスドイツの勢力がヨーロッパ中で猛威をふるい、主人公がアメリカに渡ってすぐ、アメリカも重い腰を上げて第二次大戦に参戦するという大きく世界が動いたタイミングです。

ストリーはぜひ読んでいただきたいのであえて書きませんが、第一部の感想でも書いたように、アーチャーの得意な「貧しさの中から努力をして身を立て、貴族や金持ちに対して自分の頭脳と周囲の仲間達に助けられながら、成功者に上り詰めていく」という物語で、エンタテーメントとしては一級品です。

さらに今回はアーチャー自身収監された経験から、主人公が刑務所に入れられ、その中でも才能を発揮していくという話しが手厚くなっているのが、過去の長編とは違う点でしょうか。

唯一残念なのは、世界的にベストセラー作家としてアーチャーも売れっ子となり、書けば売れるということからか翻訳(出版)権も高騰しているのでしょうけど、文庫の上下巻とも薄っぺらな約280ページ程度で各662円、上下巻で1,324円、第一部(上下)と第二部(上下)計4冊で総額2,690円。文庫でこれですから嫌になります。

だいたいページ数から言って上下巻に分ける必要すら感じません。今読んでいる盛田隆二氏の「二人静」(980円)は1冊の文庫で634ページです。

翻訳本ということを差し引いてもちょっと高過ぎるような気がします。デフレなのですからもっと安く刊行する努力が出版社にはないのでしょうかね。

今回は(文庫の)新刊本ということもあり、書店で購入しましたが、こうした文庫まで強気の値付けから、多くの人は図書館やブックオフなどへ流れてしまうのではないでしょうか?

著者別読書感想(ジェフリー・アーチャー)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

八つ花ごよみ (新潮文庫) 山本 一力

2009年に単行本、2012年に文庫版が刊行された8つの短編をまとめた時代小説です。

著者の山本一力氏は一昨年読んだ小説の中で私のベスト1となった「あかね空」で直木賞を受賞された時代小説が多い作家さんです。

この作品はタイトルにあるように花にちなんだ8つの短編集で、時代はいずれも江戸時代で、深川など下町辺りの庶民が主人公です。

こうした短編小説の場合、最近の傾向では独立した短編でも互いに関連があったり、同じ人物が登場したりという連作短編というパターンが多いのですが、これは時代背景は同じながらそれぞれがまったく別もの仕立てとなっています。

 1)路ばたのききょう
 2)海辺橋の女郎花
 3)京橋の小梅
 4)西應寺の桜
 5)佃町の菖蒲
 6)砂村の尾花
 7)御船橋の紅花
 8)仲町のひいらぎ

短編の場合、その人物や舞台設定の説明などに多くを費やしてしまうと、それだけで終わってしまいかねない危険性があります。それゆえに前の短編で使った同じ人物を次の短編でも登場させることで、その人物のことや時代背景などを省略できるというメリットがあります。

しかしその場合は、前編を読んでいるということが必要となり、週刊誌や月刊誌などに一編ずつ掲載する形だと、必ずしも前編が読まれているわけではなく、途中から読む人には意味がわからないということにもなりかねないので難しいところです。

著者の短編はこれが初めてですが、過去に読んだ長編と比べると、やむを得ないとは言え、いずれもストリーにメリハリがなく迫力もありませんので物足りなく感じました。

夫婦愛や親子愛、師弟愛などそれぞれに感動を呼びそうなテーマなのですが、なんだかボヤーとしたあっけない結末で、おそらくは読者がそれぞれに想いと余韻をふくらませればいいということなのでしょうけれど、どうもそれがうまくいっていないようです(私だけかも)。

短編の上手い作家は他にもいっぱいいるので、あえて著者の短編はもういいかなと。著者の書く長編小説の素晴らしさはよく知っているだけに、今後はまた長編を読んでみることにします。

著者別読書感想(山本一力)


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779
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。



今年のブログ1発目は読書感想です。ちょっとどうかなと思いましたが、私にとって夏休みと冬休みはまとめて本が読める貴重な連休ということもあり、またネタ不足の折、いいかなと。

-◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇-

植物図鑑 (幻冬舎文庫) 有川浩

阪急電車」や「図書館戦争」で一躍有名作家となった有川浩さんの2011年(文庫は2013年)作品です。例によってほんわかとしたライトノベルな恋愛小説です。

夢見る乙女には最高なものでしょうけど、夢など見ない中年オヤジでも昔懐かし野草を食べるという興味をひき結構楽しめます。

タイトルが植物図鑑ですから、小説の中身もそれに近いものがあります。つまり主人公の女性が、ある日偶然出会った行き倒れの男を自宅へ連れ込み、そのイケてる男がやたらと雑草に詳しく、自宅の近所で取れる雑草を次々と料理に代えていくという物語です。

しかし連れ込んだ男に対して、元彼が残していった服や避妊具を使わせようとするなんざ、ちょっと考えられないことをする人だと思うのですが、今の若い女性にとっては、別に気にすることもない普通のことなのでしょうかね?おお怖。

そう言えば「阪急電車」の中でも電車の中で出会う男女が、電車の沿線の崖に生えている山菜かなにかを一緒に取りに行くとかそういうシーンがありました。著者にはそういう趣味が元々あるのでしょうね。

私の子供の頃にはまだ近所には畑や田んぼが残っており、そこに生えているヨモギを摘んでよもぎ餅をつくってもらったり、ツクシも白味噌であえて食べたり、はこべは飼っていたジュウシマツの餌にと子供ながらに野草を選び分けてそれなりにうまく付き合っていたことを思い出します。

この小説のタイトルを見て阿刀田高著「花の図鑑」を思い出した人は、かなりの日経新聞連載小説通か、阿刀田高ファンでしょう。その小説はバブル時代がいままさに開かんとする1980年代後半に日経新聞朝刊で連載されていた小説で、私は通勤中に全部読みました。

その中では女性のタイプを花で例えて書いてあり、いかにも当時の日経新聞の主たる読者の中年以上のオッサン向けの小説だなぁと思っていました。

一方の「植物図鑑」では、その「花の図鑑」の逆をいったか、『男の子に美少女が落ちてくるなら女の子にもイケメンが落ちてきて何が悪い!ある日道端に落ちていた好みの男子。』とPRには書かれています。

つまり女性が書いた女性向けのお花(雑草)の、甘く切なく元気の出る夢の物語と言ったところでしょうか。

ちなみに出てくる植物は、ヘクソカズラ、フキノトウ、ツクシ、ノビル、セイヨウカラシナ、タンポポ、イヌガラシ、スカシタゴボウ、ワラビ、イタドリ、ユキノシタ、クレソン、ノイチゴ、イヌビユ、スベリヒユ、アップルミント、アカザ・ソロザ、ヨモギ、ハナミズキなど。

著者別読書感想(有川浩)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

四畳半神話大系 (角川文庫)  森見登美彦

2003年に「太陽の塔」でデビューした森見登美彦氏の2005年(文庫は2008年)の作品です。

私の年代で「四畳半」と言えば、永井荷風著「四畳半襖の下張り」(あるいはそれを原作とした宮下順子主演『四畳半襖の裏張り』)とか、松本零士氏の「男おいどん」の世界なのですが、若い人(著者は30代前半)にとってはもう死語化していると思いきや、こういった小説があるとはちょっと驚きです。

この森見氏と「鴨川ホルモー」の万城目学氏とは年代こそ違えど、京都大学へ通う貧乏学生の話しをコミカルに書くことなどがよく似ていて時々作者と作品を間違います。

森見氏のほうが京大では3年ほど後輩ですが、作家デビューは在学中にデビュー作を書いた森見氏が逆に3年ほど早いようです。

さてこの小説、、、変わっています。

京大に入学した主人公が、さぁ青春を楽しもうとキャンパス内で勧誘をしている様々なクラブやサークルの中からこれはと思った4つの不思議なサークルに所属した場合の4つのキャンパスライフが描かれています。

どうなんでしょう。それぞれの物語に主人公と周囲にいる人達には微妙な違いが発生しているわけですが、登場人物はどの話でも限られていて、その中だけで終始し、完結していきます。

読者はどの人生が気に入ったとか、これは酷いと思ったかなどの感想をもつことを期待されるのかもしれませんが、4つのストーリーに分かれているものの、その中の半分ぐらいは前のストーリーと一字一句変わらない場面が繰り返されるので、なんとも言えない既視感というか、一度読んだ本を間違って買ってきてそれを読み進めていくうちに「あ!これ前に読んだぞ」と自らのミスに失笑してしまうような感じというか、「あ、また出てきた」と読み進めるモチベーションが次第に薄れていってしまいます。

こうした、人生の岐路でもし別の選択をしたらどうなるか?というパラレルワールド的な小説はいくつかありますが、結局は大差ない結果となり、ちょっとつまらないかな。

コミックからテレビドラマとなった「JIN‐仁‐」もその手の物語でしたが、タイムスリップをうまく使って、人生と世界を変えてしまうという試みなどなかなか面白い設定でした。

著者別読書感想(森見登美彦)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

アイの物語 (角川文庫) 山本弘

著者の年齢は公表されていないようですが、たぶん私と同い年か近い年齢のSF作家です。この作品は、2006年に発刊(文庫版は2009年)された長編のSF小説ですが、私はこの著者の小説は今回初めて読みます。

SF作家として活躍する他にもゲームクリエイターや、トンデモ本やトンデモ品を品評することを目的とする「と学会」会長としても知られているそうです。私はなんのことかさっぱりわかりませんが。

この小説は未来の地球が人工知能をもったロボットに支配されているなかで、古い歴史の語り部役の人間の男性が、ロボットに軟禁され、そこで怪我の治療を受けながら女性の姿形をしたアンドロイドから毎日架空の物語を聞かされるというもので、千夜一夜物語にヒントを得たものと思われます。

そのアンドロイドから聞かされる物語は、小説の設定からはずっと過去の話しになる現代の地球上で起きている様々な話しや今から少し未来の物語で、その中で強く印象に残ったのが、超高齢化社会となった2030年頃の話しとして、人工知能を備えた人型アンドロイドが介護施設において初めてテスト導入される話しです。

65才以上の高齢者が2030年には3660万人に達し、全人口の30%を超えるのは確実ですが、その時果たして認知症患者1千万人を含む高齢者の介護を誰がどのようにおこなうのか?という問題はまったく解決されていません。

個人的には外国から若い人の移住を受け入れるよりも、日本の優秀な製造技術をもって介護ロボットの開発のほうが脈がありそうな気がしています。

私も中高年になって初めて知りましたが高齢になってから、見知らぬ人のやっかいになるというのは、気を遣い嫌なものです。その点相手がロボットなら気を遣う必要もなく楽です。

別に介護ロボットと言っても看護師の姿形をした万能ロボットでなくても、ベッドから起き上がったり、食事や排泄の世話や日常の生活の手伝いをするロボットで構わないわけです。

その他にもリハビリサポート用ロボットだったり、会話の相手を務めるロボットだったり、認知症患者のための行動把握、安全監視用ロボットなど、人それぞれの要望や症状に合った役割分担で使い分ける専用機でいいわけです。

個人的な考えはさておき、小説では著者の趣味もあってか、かわいらしい女性型アンドロイドで、老人の話し相手にもなれば、介護のすべてを自律的におこなえるという設定です。

最初のうちは仕事を学ぶために人間の介護士の言うことを素直に聞いていましたが、次第に学習効果が高まり、「人間は間違ったことをする」ということを学び、次第にロボットが自らの正しい考え、行動を主張し始めるところから、人間とロボットの間に溝が生じてきます。

そのような人間とアンドロイドの歴史が6つの象徴的な話しとして語られ、最後はその語り手のアンドロイドが生まれた時代へさかのぼり、なぜ人の命令を聞かなくなったか、そして地球上で人とアンドロイドが対立するようになってしまったかが明かされます。

確かに宇宙開発のように、場所によっては移動のために地球の時間で何百年、何万年もかかり、空気も水もない(あるかどうかわからない)世界では、生身の人間ではなく、アンドロイド(ロボット)が向いているというのは当たり前のことで、無理をして人間が乗り出さない方がいいのかも知れません。

580ページの長編作品で、途中少しかったるい部分もありますが、この最後の7編目の話しが壮大な物語で、読み応えは十分です。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

タクシードライバー 一匹狼の歌 (幻冬舎アウトロー文庫) 梁石日(ヤン・ソギル)

1993年に発刊(文庫は1997年)された、著者が10年間に渡り経験したタクシードライバーのドキュメント本です。当初「タクシードライバーほろにが日記」として出版されましたが、発刊直後に出版元がなくなったため、変わりに幻冬舎からタイトルを変えて発刊されました。

著者は若い頃から詩を書いたりするのが好きで、いずれはそれでメシを食っていけたらいいなぁと思い、そのためにはまず経済基盤を作ってゆとりある生活を手に入れようと、様々な事業に手を出しますが、失敗して食い詰めることになります。

そして生まれ育った大阪を離れ、東京で毎日空腹でどうしようもなくなったときに、賃金の日払いが可能で、いつも募集をしているタクシードライバーになります。

そしてその経験を生かし、運転手の仕事は続けながら書いた小説「タクシー狂躁曲」を上梓し(1981年)デビュー。

その後この小説を原作とした映画「月はどっちに出ている」(1993年)が作られ、これが大ヒット、ブルーリボン作品賞や日本アカデミー賞最優秀作品賞など数多くの賞を受賞し、一躍人気作家へと登っていくことになります。運命ってわかりませんね。

このタクシードライバーという職業、一度この仕事に就くとそこからなかなか抜け出せないと言われている中で、死亡者も出た大きな交通事故に2度遭い、やむを得ず離れることになります。

そのような著者が経験してきたタクシー乗務の出来事や、同僚達の話し、そして、タクシー業界が抱える様々な問題にまで切り込んでいきます。

この本が書かれてすでに20年以上が経っていますので、現在の業界慣行や就労条件などに変化はあるのでしょうけど、昨今でもタクシー運転手の年収の低さや労働環境の厳しさなど相変わらずといった話しもよく出てきます。

私自身、以前は雨の日の通勤で、仕事で、プライベートでよくタクシーにもお世話になっていたものの、ここ数年タクシーにはほとんど乗ったことがないぐらい、縁遠い存在になってしまいました。

タクシー料金が上がると利用者が減り、利用者が減ると収入が下がり、不景気になって働く場が減るとタクシー運転手の応募が増え、運転手が増えると1人当たりの収入が減るという、わかりやすいけど、認可権を持つ国と政治的判断の要素と社会の景気の動向に大きく左右され、それに翻弄される運転手という構図がよくわかります。

著者別読書感想(梁石日)


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774
NHKにようこそ! (角川文庫) 滝本竜彦

地元川崎(多摩区生田辺り)が舞台の小説という知識だけで買ってきましたが、結論を先に言ってしまうと「損をした」ということになります。

NHKといえば一般的には日本放送協会のことですが、それを勝手に自分流に「日本ひきこもり協会」と解釈し、引きこもり自慢をしているのがこの小説の主人公です。

その引きこもり生活は著者の実体験らしいのですが、それにしても文章力のせいなのか、まったく真に迫るものも盛り上がりにも欠け、ちょうどギャグが出てこないギャグ漫画を読んでいるようで、私にとっては時間の無駄でした。

しかしながらAmazonなどでこの本を検索すると、小説だけでなくコミック化もされていたりと、この作品をそれなりに高く評価している人もいるわけで、これはもしかすると50代のオヤジが読むにはハードルが高かったのかなと読後になって反省です。中年オヤジが雑誌CanCamを読んでも役にも立たないし面白くないのと同じ理由で。

前半は親のすねをかじって大学を中退し、そのまま就職もせず引きこもり生活。しかも贅沢に実家を出てマンションに1人住まいと、個人的な感情ではまったくもって許し難い状況。

後半ではいよいよ親からの仕送りが止まり、生活費がなくなりやむなく夜間道路工事の誘導係などちゃんとバイトをしているので、これは引きこもりとは言えず、単なるその日暮らしのフリーター。

そのような堕落した生活の中で、毎日しっかり食べ、コンビニで買い物し、公園で知り合った女性とデートし、次々と合法ドラッグを買ったり、いったいどこにそれだけの金銭的余裕があるのかまったく不思議な世界です。孤独死間際の単なる夢の中?って感じ。

ま、学校出て、その後は自分のため、家族のためと、働きづめに働いてきた普通の中高年にとっては、頭にくるだけのしょうもない話しなので、私のような人はくれぐれも読まない方がいいかもしれません。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

舟を編む 三浦しをん

2012年の本屋大賞で第一位に輝いた三浦しをん著「舟を編む」は、松田龍平、宮﨑あおい主演で映画化もされ、今年の4月に公開されていました。本を読む限り盛り上がりもなく淡々としたストーリーですが、映画の成績はどうだったのでしょうかね?

松田龍平と言えば同じ著者原作の映画やTVドラマ「まほろ駅前多田便利軒」でも準主役を演じていますので、三浦しをん作品とは切っても切れない関係にあるのでしょうか。

著者の作品は、過去に箱根駅伝を描いた「風が強く吹いている」、三重県の山奥で営林業で働く若者を描いた「神去なあなあ日常」を読みましたが、いずれの作品も面白くて読み応えがあります。真面目に働く現代若者群像を描かせると「西の有川浩」(出身地が高知県)に「東の三浦しをん」って感じかな。

ストーリーを簡単に言えば、「老舗出版社が新しく辞典を出すにあたり、人選をしたところ、営業部でくすぶっていた入社3年目の大学院卒の変わり者を発見し、その彼が様々な難関(社会人にとっては当たり前のことで難関とはとても言い難い程度ものだが)をくぐり抜け、成長していく姿を描いたもの」で、その主人公が学生時代から住み続ける老朽化したアパートに、年老いた大家の孫が帰ってきたことで、新しく出会いが生まれ恋愛が始まったりもします。

物語は特に大きな波乱もなく淡々と進んでいき、長い月日を経てやがて辞書が完成するまでの行程が描かれているに過ぎません。そう言うことに興味がない人は薄味過ぎて退屈するかも知れません。

いっそ小説としては今回は脇役で、主人公と結婚することになる板前修行中の香具矢が、男の世界で一流の板前にのし上がっていく話しをもっと膨らませ、女性版「前略おふくろ様」っぽく書いたほうがずっと面白そうに思ったりします。

辞典がもうひとつの主役ですから、日本語についてのもうんちくも数々出てきますが、これって映画となり日本国外で上映された際、どういう見せ方をするのか不思議です。外国人に日本語の言葉の深い意味や語源、使われ方なんてわかるわけもないので。その辺りはうまく作られているのでしょうね。

巻末にはこの本を書く上で岩波書店(広辞苑)と小学館(大辞泉)の辞書制作担当へ取材したことが明記されていましたが、面白いのは映画化にあたっては、三省堂(大辞林)が制作協力し、制作者の中にはこの原作本の発行元光文社が入っています。

その他の国語辞典を発行している大手出版社(例えば角川書店、新潮社、旺文社など)は、原作にも映画にも加われず、悔しい思いをしているでしょうね。

この小説ではテーマには上がっていませんでしたが、私の世代では普通に国語、漢和、英和、和英、現代用語、百科事典などが各家庭にありましたが、これだけ電子化が進んでくるとなかなか家それぞれで各書を購入すると言うことはないでしょう。

救いはまだ学校では辞書を使った学習を教えていますが、IT教育が進むとやがてはそれもなくなってしまいそうな気がします。こうした辞典や辞書は、やがて紙の書籍から、デジタル化されたデータでしかなくなってしまうのでしょうかね。

著者別読書感想(三浦しをん)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

死への祈り (二見文庫) ローレンス・ブロック

マット・スカダー・シリーズ15作目のこの「死への祈り」はアメリカで2001年に発刊され、日本語に翻訳されたこの文庫版が出たのは2006年になります。

このニューヨークの刑事(のちに退職して探偵)を主人公としたマット・スカダー・シリーズが始まったのは「過去からの弔鐘」の1976年ですから、この15作目の「死への祈り」の2001年までには25年の月日が経っています。

私がこの著者の作品を最初に読んだのは1993年に短編集の「おかしなこと聞くね」でしたが、今回のマット・スカダー・シリーズに初めて触れたのは1999年になってからで割と遅めからでした。

同じく探偵が主人公のハードボイルド小説、ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズは1973年から亡くなる2010年まで書かれてきましたが、その間37年、主人公のスペンサーはほとんど年をとらない、いわゆる国民的漫画サザエさんと同じく、どれから読んでも主人公達の若々しい肉体とスーパーマン的活躍が期待できました。

しかしこのマット・スカダー・シリーズは、書かれた時期に合わせてそれなりに年を取っていき、その点主人公とともに自身も年を重ねていき、本当に現代を生きている主人公のようなリアル感があっていいものです。

今度スペンサーとマットと、もう1人マイクル・コナリーのハリー・ボッシュの年表でも作ってみると面白いかな。著者のローレンス・ブロックもマット・スカダーの第1作を書いたときには意気盛んな38才でしたが、現在(2013年)はもう75才です。

さて本編のストーリーは、探偵の免許を取り上げられ、妻のエレインと悠々自適の生活をおくっていたある日、自宅の近くで弁護士夫婦が惨殺され、その後犯人と思われる二人が自殺死体となって発見される事件が起きます。

警察もマスコミも犯人が死んだことで一件落着としましたが、殺害された弁護士の妻の姪が、この殺人事件にはなにかスッキリしない疑問があることを主人公に相談したことから、暇にあかせて独自に捜査を開始します。

そうした中で、主人公の元妻の病死が伝えられ、現在の妻エレインに多少気兼ねしつつ葬儀に参列したり、ほとんど交流のなかった元妻との子供達の微妙な関係なども話の中に入ってきて、マットも年老いてきたなぁと感じさせられます。

やがてマットの執念が実ることになりますが、そこはミステリー小説ですから読んだ人だけのお楽しみです。しかしこんなにツキのある犯人って他には見たことがないです。

著者別読書感想(ローレンス・ブロック)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

美しい隣人 (集英社文庫) 花井良智


2011年に仲間由紀恵と壇れい主演でテレビドラマ化され話題となった作品の小説版(ノベライズ)です。そのテレビドラマは見ていませんが、この小説では内容は少し違っているそうです。

郊外の住宅地の高台に建つ2軒の新しい住宅が舞台となり、その1軒に住む夫が大阪に単身赴任中で幼稚園児がいる専業主婦が主人公です。

その隣の家に、ひとりの美しい女性が引っ越してきます。その女性の夫はアメリカ人で、まだしばらくアメリカで仕事をしているのでここに住むのはインテリアコーディネーターの仕事をしている自分ひとりとのこと。

そしてこの隣人が引っ越してきてから、主人公に様々なトラブルが降って湧いてくることになります。無言電話、仲のよかったママ友との仲違い、姑との関係、そして大阪に単身赴任中の夫の浮気、、、

いや、ま、元々がテレビドラマですから、次回以降の番組を盛り上げるため次々と事件や裏切りが起きるのは常套手段ですが、ちょっとサイコ的な色彩が強く、私には抵抗があります。

以前読んだ石田衣良著「眠れぬ真珠」でも主人公に災難が降りかかる同じようなサイコチックな展開がありましたが、それに似ている感じです。幸せそうな夫婦の家庭が壊れていく様子は湊かなえ著の「夜行観覧車」にも似ていたりします。

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770
三陸海岸大津波 (文春文庫) 吉村昭

Wikipediaによると「初版は中公新書で、1970年(昭和45年)に『海の壁 三陸沿岸大津波』の題名で刊行された。1984年(昭和59年)に中公文庫版が刊行された際に現行のタイトルに改題された。」とあるとおり、今から40年以上前に、定期的に起きる三陸地域の津波について警告を発するルポルタージュ作品です。

2011年3月11日の東日本大震災で三陸海岸を始め、多くの太平洋沿岸で本書に書かれていた通りの大津波の被害を受けたことで、あらためてこの作品が注目されることになりました。

小説として首都直下型大地震が起きたらとか、東南海連動巨大地震が起きたらと言う架空の想定災害小説は数多くありますが、この本では過去の記録や災害を切り抜け生き残った人から直接話しを聞きとりまとめられたもので、今さらながら読むと、ちょうど2年半前に見た光景がまざまざとよみがえってきます。

津波被害経験者やその子孫からの聞き取りは主として1896年(明治29年)の明治三陸地震による大津波、1933年(昭和8年)の昭和三陸地震による大津波、1960年(昭和35年)のチリ大地震大津波ですが、江戸時代の1856年に起きた安政八戸沖地震等、過去に判明している津波被害についても、わずかに残されていた記録や、地元の言い伝えとして触れられています。

過去に起きた津波の様子は、まったく2011年に起きたものと瓜二つで、海に面した地域の建物は軒並み津波に持って行かれ、生き残った人はいちはやく早く山や高台へ避難ができた人か、もしくは流されても運良くなにかに引っかかったという一部の人だけで、現代の技術の粋を集め巨大な防波堤や鉄筋の建物を作ってみても、それは自然の前では役に立たなかったということです。

中には海面から50メートルほど切り立った崖の上にある家にまで津波が駆け上がってきたことが証言として出てきますが、2011年の津波も、狭い場所によってはそれぐらいの高さまで届いていたところもあるのでしょう。

それなのに、10mの防波堤で十分だという根拠はどこにもなく、依然自然の前にはなすすべがありません。

最後に「津波との戦い」の死者数と流出家屋数が書かれています。

明治29年(1896年)の大津波 死者26,360名 流出家屋9,879戸
昭和8年(1933年)の大津波 死者2,995名 流出家屋4,885戸
昭和35年(1960年)のチリ地震津波 死者105名 流出家屋1,474戸

で、この近代から現代に起きた3度の大津波(チリ地震はちょっと意味合いが違いますが)で、死者数が激減していることを指摘し、それは津波の認識が高まってきたことや防潮堤など設備が整ってきたことによると書かれています。

しかし大津波ごとに減ってきた死者や倒壊家屋は、2011年の震災では死者・行方不明合わせておよそ18,400名、全壊家屋は12万戸を超えています。死者の9割以上が津波による水死や圧死と言われています。

つまり、115年前に起きた津波の死者数こそ下回りましたが、最後に起きたチリ地震による津波被害から51年が経ち、巨大津波を経験した人の数は減り、残念ながら著者が述べているような津波の認識が高まっていたとは言えず、住人や役所に油断があったとも考えられます。

それと115年の間には、多くの知恵と大金をつぎ込み、数々の防災対策が行われたはずなのに、全壊家屋(そのうちかなりの割合が津波による流出)が10倍以上もあるというのに驚かされます。
※明治29年頃の日本の総人口はおよそ4500万人ほどで、現在の人口の37%ほど

おそらくこの震災による生々しい記憶は、実際に厳しい経験した若い人達が住まう50~60年間は残ると思いますが、やがて津波を経験した人が少なくなってしまうと、悲劇はまた風化していき、同じことが繰り返される可能性があります。そうならないことを願うばかりです。

著者別読書感想(吉村昭)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

聖女の救済 (文春文庫) 東野圭吾

2008年に単行本が発刊され、2012年に文庫化された物理学者・湯川学が登場するガリレオシリーズと言われる作品です。私がこのシリーズで過去に読んだのは直木賞を受賞した「容疑者Xの献身」だけです。

そしてこの「聖女の救済」は今年(2013年6月)にテレビの人気ドラマで放映されていますので、見た人も多いのではないでしょうか。

読んでみての感想としては、よくもまぁこうした思いも付かない複雑な殺人トリックを考えつくものだとあらためて著者に敬意を称します。普通こうしたミステリーでは、様々な伏線が敷かれ、読者も一緒になって推理をしていくものですが、同氏の作品で使われるトリックは、「容疑者Xの献身」でもそうでしたが、あとで判明すると決して現実的に不可能ではなく、実際に十分に実行可能でありながら、読者がふと気がつくというような安易なものではなく、精緻によく練られています。

主人公は、趣味が高じてパッチワークで教室を開いている30過ぎの女性。その主人公には1年前に結婚したIT企業を経営する夫がいて、絵に描いたような裕福な家庭が舞台です。

しかしながら夫から子供ができないことを理由として、結婚するときの約束としていた「子供ができない場合は離婚」を告げられ、それが引き金となって殺人事件が起きることになります。

ガリレオシリーズでは警察の調査で行き詰まる事件を、殺人課刑事の大学同期という物理学者湯川教授が、複雑に仕掛けられたトリックを見破るという水戸黄門様も真っ青なワンパターンな流れですが、このクセのある教授がなかなか面白く、ユニークでストーリーを膨らませてくれます。

まぁ実際には警察のメンツや秘密主義、それに公務員の守秘義務もあり、捜査上の秘密や個人情報を刑事の友人というだけで教授にすべて漏らすなどと言うことは現実にはあり得ないでしょうけど、本当なら捜査や事件解決、犯人逮捕を効率よくやっていくには、こうした民間活力、専門知識、現役の医者でもあり作家の海堂尊氏が導入を提言しているAI(死亡時病理画像診断)などの積極導入などを計っていくのが正しいのかも知れません。

著者別読書感想(東野圭吾)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

覇王の番人(講談社文庫)(上)(下) 真保裕一

著者の作品は「ホワイトアウト 」や「黄金の島 」など過去16作品をどれもたいへん面白く読ませてもらいましたが、時代小説は初めてで、どのような内容になるのかワクワクドキドキ、しかし今までの現代小説とガラリと変わってしまうのでちょっと心配しつつ読みました。この長編小説は2008年に単行本、2011年に文庫版が出ています。

警察ものなど現代小説が多く古くても幕末ぐらいの時代設定だった直木賞作家佐々木譲氏も、ある時突然「天下城」というたいへん面白い安土城建設にまつわる戦国時代の時代小説が出てきて意外な感じがしましたが、この著者に対しても同じ思いです。

タイトルに出てくる「覇王」とは魔王とも鬼とも呼ばれていた織田信長のことです。あるきっかけで運命の糸が結びつけたかのような出会いから始まり、旧来の織田勢には知るよしもなかった朝廷のしきたりや学識にも秀でている上に、忠実で勇猛な家臣として勢力をつけ、やがては天下一の謀反人として名を馳せた明智光秀を主役とした時代小説です。

実は私は織田信長も嫌いじゃありませんが、明智光秀は結構好きな武将で、美濃を出立して以降、なかなか思い通りにはいかない中で、ふとした縁から年下の信長に長く仕え、時には足蹴にされながらも、理知的で家臣や領民からも慕われていた人柄は、単に自分で天下を取りたいがために主君を裏切った謀反人とも思えず、今になってはその理由はわからないけれど、なにか原因があったに違いないと思えて仕方ありません。

特に現在記録として残っているものは、当時の勝者たる秀吉や家康に命ぜられて、あるいはご機嫌をとるために書かれたものが多く、その場合は秀吉や家康の主君であった信長を葬った明智光秀についてよく書かれるはずもないからです。

この小説の主役は明智光秀とともに、光秀が情報戦に使ったとされる甲賀の忍者衆にも準主役がいます。その忍者は子供の頃に、信長勢と思われる武士に親や兄弟を皆殺しにされ、その復讐をするために忍びの世界に入ることになりましたが、やがてはその信長の家臣となった光秀の軍勢に加わることとなり、絶対的な主従関係を結びます。

そして明智光秀の天下太平を願う姿勢にうたれ、その光秀が従う信長に対しても復讐の思いは次第に薄れてきますが、信長の世では一向に戦乱の世が治まらず、敵なら僧侶や女子供も惨殺し、気分次第で無理難題を部下に押しつけてくる信長に対して光秀の心に反目の灯火が点いたことにいち早く感づくと、それなら自分もその場にいたいと願いますがかないません。

そして、クライマックスでは明智光秀対豊臣秀吉、そして忍者対忍者の死闘が始まり、光秀は敗れ去り、忍者小太郎も光秀の密書を毛利軍へ届ける役目を果たせず、片腕と片足を失うという悲劇に見舞われます。

明智光秀の最期は、通例では坂本へ逃げる際、落ち武者狩りに竹槍で刺され絶命することになっていますが、この小説では、瀕死の重傷を負いながらも生き延び、坂本とは目と鼻の先の比叡山に匿われて生き延び、その後徳川時代においても密かに活躍する姿が描かれています。時々出てくる光秀=天海説ですね。

来年の大河ドラマは光秀とほぼ同時代に生きた黒田官兵衛ですが、当初は明智光秀が大河の主役になるのではと噂されていました。結局は見送られたわけですが、きっと何年か後にこの明智光秀が主役となる大河ドラマが作られるのでしょうけど、その時はやっぱり保守的に山科の山の中で竹槍で最後を遂げることになるのでしょう。

文庫版の上下巻で1000ページを超える長い小説ですが、時代背景や戦国時代の登場人物をそこそこ知っていると、意外にスラスラと読めてしまいます。あと忍者の活躍と忍者同士の死闘の場面に迫力があり、時代小説にエンタテーメントの要素をうまくミックスさせたところが著者のこだわりでしょう。

著者別読書感想(真保裕一)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

うつくしい子ども (文春文庫) 石田 衣良

1998年に「池袋ウエストゲートパーク」の短編集でデビューした著者の、1999年に単行本、2001年に文庫版が発刊された初めての長編と言われている小説です。

最初は新聞記者の目と、ひとりの植物好きな中学生の目を通して、筑波と思われる研究施設などがいっぱいある学園都市の平和な風景が描かれますが、そこで小学生の女の子が惨殺されるという悲惨な事件が発生します。

これはこの小説が書かれた直前の1997年に起きた「神戸連続児童殺傷事件」通称酒鬼薔薇事件をモチーフにしていると考えられます。

そう書いてしまうと犯人は少年と言うことがわかってしまいますが、小説の中でも犯人は前半であっさりと判明しますので、犯人捜しがこの小説の主要なテーマではありません。

なかなかの力作なのですが、期待していた最後のクライマックスが、凝りに凝った前半部分でとうとう力尽きてしまったのか、ありきたりというか、安っぽいテレビドラマを見ているような感じなのが残念無念。もう一ひねり二ひねりあってもよかったかな。

しかし登場してくる中学生がどの子達も博識で思慮深く、会話も大人が滅多に使わないような難しい語彙を含んでいたりと、私の中学生の頃とは天と地の差があるようです。

今の優秀な学校に通っている中学生達というのは、実際こういう感じなのでしょうね。末恐ろしい気もします。

著者別読書感想(石田衣良)


【関連リンク】
 11月前半の読書 ダブルファンタジー、一刀斎夢録 上・下、小太郎の左腕
 10月後半の読書 時のみぞ知る(上)  クリフトン年代記 第1部(上)(下)、湾岸リベンジャー、新・世界の七不思議
 10月前半の読書 私の男、恋愛時代(上)(下) 、小説・震災後、通天閣

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ダブル・ファンタジー (文春文庫)(上)(下) 村山 由佳

2009年刊(文庫は2011年刊)の長編小説で、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞の文学賞トリプル受賞という高評価な作品で期待をしつつ読み始めました。

結婚している35才の売れっ子女性脚本家が主人公で、旦那はそれまで勤めていた会社を辞め、妻が仕事に集中できるよう家事を一切を引き受け、また仕事のマネージャーとして妻をサポートしています。

しかしいきなり冒頭で、自宅に出張ホストを呼びつけての濡れ場が展開され、いったいどういうストーリーなのか、単なる女性向けのエロ小説か?とも思いつつ読み進めると、次には主人公と師匠と仰ぐ売れっ子演出家の男性との退屈でベタな不倫を匂わすメールのやりとりが延々繰り返されます。ここらで読むのを断念するかと何度思ったことか。

これはおそらく週刊文春への連載小説という性格があったのでしょうね。飽きられないように時々は激しい濡れ場を挟むのは一種読者サービスで、そうしないと毎週買ってくれません。

村山由佳氏と言えば2003年の直木賞受賞作「星々の舟」を読んだときは、内容はいちいちくどいところがあるものの、終盤はそれなりに面白かったからと気を取り直して読み進めていくことにしました。

しかし結局、どこまでいっても女性主人公の異常とも思える旺盛な性欲が、世の中の倫理や道徳など吹き飛ばし、勘違いしている旦那とは別れられないまま、男をとっかえひっかえしつつ、ただ官能の世界を重ねていき、その都度男のテクニックを事細かく評価していくという困ったちゃんです。

きっと現実社会で欲求不満な女性読者(週刊文集にどれほどの女性読者がいるのかは知りませんが)にとっては「その夢のようなモテモテの環境に一度は浸ってみたい」と気持ちのいい気分にさせてくれるのかもしれません。おぞましい限りです。

したがって枯れつつある中年男性が読んで面白いわけもなく、文学賞受賞作だからといって、必ずしも読む価値があるとは限らないという見本のようなものでしょう。

著者別読書感想(村山由佳)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

一刀斎夢録 (文春文庫) 上・下 (文春文庫) 浅田 次郎

単行本が2011年刊、文庫本は2013年刊の浅田次郎作品文庫新作で、新選組の中で一番腕が立つとも言われていた新選組三番隊長・斎藤一(さいとうはじめ)が主人公の小説です。

新選組が壊滅した後は会津で闘ったものの降伏とあいなり、その後改名して藤田五郎と名乗り警視庁勤めをしていた時、腕はべらぼうに立つが、散々人を斬ってきた斎藤一の本名が警視庁の中で出てくるのはさすがにまずかろうと、名前をひっくり返した一刀斎という隠語で語られるようになり、それがタイトルとなっています。

著者は新選組がたいへんお好きなようで、過去には「輪違屋糸里」「壬生義士伝」などの作品がありますが、いずれも新選組が好意的に書かれています。この作品を合わせて新選組三部作と言われているそうです。

映画になった「壬生義士伝 」では大正時代まで生き残った斎藤一を佐藤浩市が、大河ドラマ「八重の桜 」では会津藩とともに戦う斎藤一を降谷建志が、いずれもイケメンで格好良く演じていましたが、近年では新選組の中では土方歳三、沖田総司に次いで人気がありそうです。

その一刀斎の小説ですが、物語の出だしは皇居のそばをひとりで馬に乗って名残惜しく散策する乃木将軍です。

乃木将軍といえば世界に日本という強国があることを知らしめた日露戦争で活躍した武人で有名ですが、明治天皇が崩御されたあと、天皇に殉じるため妻と一緒に自害を果たし、それはつまり明治という世が名実ともに終わったことを指しているわけです。

やがてもうひとりの主人公で、陸軍近衛師団の梶原中尉が、剣道仲間から教わり、老いた斎藤一が住む家を訪ね、1週間連続してその壮大なる剣士の語り部を聞くという流れです。

壬生浪士組の成り立ち、芹沢鴨の暗殺(暗殺には立ち合わず、芹沢と仲のよかった永倉を見張っておく役目、坂本竜馬の暗殺(自分がひとりで得意の居合いで斬り、自分が去った後、つけてきた京都見廻組がとどめを刺したと語る)、伊東甲子太郎ら御陵衛士暗殺の油小路事件、負け戦だった鳥羽・伏見の戦い、勝安房守(勝海舟)にはめられた感のある甲州勝沼の戦い、死に場所を求めて最後の砦となる会津へ下る話しなど戊辰戦争のこと、降伏し謹慎後に警視庁に勤めるようになり、その警察官として参加した西南戦争など新選組というか幕末から明治にかけての話しがこれでもかというほど(著者の想像や推測も含め)登場してきます。

特にクライマックスの西南戦争では、鳥羽伏見の戦いでは薩摩藩に裏切られ、敗走する結果となった新選組など幕府側の志士達の生き残りが、今度は逆に官軍となり西郷隆盛率いる旧薩摩藩士と戦うという構図に不思議な縁を感じます。

これはもしかすると武士世界が終わり、全国にはびこっていた不平士族達を抑え込み、明治政府を安定させるために大久保利通と西郷隆盛の策略にはめられたか?との疑念をもちます。

そう考えると、明治政府に楯突き、多くの官軍兵士を殺したはずの西郷どんが、戦争終結後まもなく首都東京の上野公園に銅像が建てられ英雄視されるのも不思議ではなかろうと。

そして最後に待ち受けていたのは、不思議な縁を持つ二人の鬼と呼ばれる師弟が激突することになります。

いや~面白い、楽しい、こうした江戸前の頑固一徹オヤジの語りをさせると浅田次郎氏の右に出る者はいません。

余談ですが、読み続けていて、斎藤一の語りの聞き役だった梶原という近衛師団の陸軍中尉が陸軍内で一二をを争う剣道の達人という設定になっているので、その梶原中尉が新選組の中で斎藤一がただひとり実戦的な居合いを教えた元浮浪児だった弟子市村鉄之介の子供だったとか、ゆかりがあったというオチが最後につくのかなと思っていましたが、残念ながらそれはありませんでした。

著者別読書感想(浅田次郎)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

小太郎の左腕 (小学館文庫) 和田 竜

映画化もされた「のぼうの城」で文学界にデビューを果たした著者の3作目にあたる小説です。この作品は2009年に初出(文庫化は2011年)で、前2作品と同様に戦国時代が舞台のエンタテーメント小説です。

ちなみに映画「のぼうの城」は戦国時代に埼玉県行田市に実在した忍城の攻防を描いた作品で、この難攻不落の城を石田三成が周囲の川をせき止める大土塁を築き上げて水攻めをすると設定でしたが、その公開予定がちょうど東日本大震災の津波災害直後だったということもあり、諸般の事情をくみ1年遅らせて公開されたといういわくつきの映画です。

この小説のストーリーは、祖父と山で暮らしている小太郎という子供が、雑賀衆の血筋に目覚め、メキメキと射撃の腕を上げていき、その子供を不利だった隣国との戦争でうまく利用した武将との関係をドラマチックに描いた小説です。

雑賀衆とは、16世紀頃、和歌山で発達した鉄砲など武器製造や、それを扱う専門家を養成していた武装組織で、戦国時代には織田信長や豊臣秀吉とも闘いました。

タイトルにもなっている小太郎という子供がその雑賀衆の末裔で、その天性で身についた射撃の腕にいちはやく気がついた武将が、鳥を撃つのにも心で詫びているその優しい心をもった子供に対し、躊躇なく人を撃つことができるように、少年の唯一の心の拠り所であり、身内である祖父を殺め、その責任をすべて敵方になすりつけ、復讐のためと味方につけます。

しかしその純粋な子供を騙して殺人マシンに変えてしまった後ろめたい気持ちが、やがては武将を追い詰めることになり、想定はしていたものの驚愕のクライマックスへと突入していきます。

内容は映画化にも向いていそうなエンタテーメントですが、上記の「のぼうの城」と比べると、派手さや迫力に乏しく、しかも史実に沿った内容でもないので、時代劇や歴史ファンの心をつかむのはちょっと難易度が高そうです。

著者別読書感想(和田竜)


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