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北帰行 (角川文庫) 佐々木譲

廃墟に乞う」(2009年)で直木賞を受賞したその翌年2010年にこの小説の単行本を発刊、2012年に文庫化された長編小説です。ジャンルはお得意の警察ものや歴史ものではなく、現代のハードボイルド作品です。

主人公は旅行会社から独立をして、たったひとりで旅行代理店や海外からの旅行者のアテンドをやっている男性で、ロシアから来た女性のアテンドをしたために、大きな事件に巻き込まれてしまいます。

そのアテンドをした旅行客は、数週間前にヤクザに殺された出稼ぎにきていた女性の姉で、殺された妹の復讐のためロシアンマフィアから送り込まれた殺し屋という設定です。ちょっと「007ロシアから愛を込めて」を思い出してしまいます。

実際的にはどうも現実感がなく、さらにこの主人公は自分が運転手となってアテンドをした女性が、自分の目の前でヤクザの組事務所を襲った後も、逃走に手を貸し、その際に怪我をしたロシア女性に哀れみの感情さえ持ってしまいます。したがって警察に通報することもせず、ヤクザからの追跡から逃げ回る結果となり、飛躍しすぎていて、とうてい考えられないアホなことを始めます。わずかばかりのアテンド費用で命張ってどうするよ。

その結果、警察からもヤクザを殺した女の共犯者として追われ、偶然顔見知りだったヤクザからは脅され、実家の家族にまで被害が及ぶことになります。いくらハードボイルドでも、ボディガードを頼まれたわけでもなく、自ら墓穴を掘っていく姿が情けないやら哀れだったり。

ちょっとそういうことで、内容的には東京-新潟-稚内というロードムービー的な要素を持つ面白そうなハードボイルド逃避行小説ながら、エンタメ要素を無理矢理詰め込んだせいで、設定にかなり無理があり、同氏の作品にしてはやっつけ仕事っぽくてイマイチかなぁというのが感想です。

著者別読書感想(佐々木譲)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

天地明察 (角川文庫)(上)(下) 冲方丁

2009年に発刊され吉川英治文学新人賞や第7回本屋大賞を受賞し、直木賞にもノミネートされた長編時代小説で、映画やドラマに引っ張りだこの岡田准一主演で2012年に映画化もされ人気を博した出世作です。

主人公は江戸城に勤める囲碁棋士で、算術に強くやがて天文暦学者になる安井算哲(渋川春海)という実在の人物で、知る人ぞ知るというユニークな人生を歩んだ人物にうまくスポットライトをあてたのはさすがと言えます。

春海は、徳川4代目家綱から5代目綱吉の時代に活躍し、それまで日本で利用されていた800年も前に唐からもたらされた宣明暦を、緻密な観測と中国と日本の位置からくる違いを計算し、新しい和暦(貞享暦)を初めて作りました。

暦の基本形を作るのはいまは国立天文台ですが、当時は主に祈祷師や神社などが中国の暦を元に勝手に作っていて、地域によっては1年が数日違っていたりすることもあったとか。

今でも旧暦という太陰暦は特に占いや年中行事などではよく使われていますが、当時もやはり暦と占いや年中行事は切っても切れない関係にあったようです。また各地の有名神社が独自の暦を発行することで、大きな収益を得ていたと言うこともあるようです。

様々な妨害や、伝統や権威と戦い様々なプレッシャーにも負けず、粘り強く日本の暦を新しく変えた主人公の成功物語と言ったところでしょうか。

余談になりますが、日本初の和暦となった貞享暦は、その後宝暦暦、寛政暦、天保暦と変わっていき、ついに明治5年11月9日(西暦1872年12月9日)には世界標準となっていたグレゴリオ暦(新暦)へと変更されます。

この新暦への変更時は、年末まであと2ヶ月近くあると思っていた国民が、いきなりあと3週間で年が改まると聞かされ、そこで起きる様々なドタバタは小説や、映画、落語などでもよく出てきます。

著者別読書感想(冲方丁)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

微笑む人 貫井徳郎

2012年に単行本が発刊された小説で、まだ文庫は出ていません。Twitterでなにかと話題が多かったこの作品ですが、私はなにも予備知識を持たないまま読みました。

小説はある突拍子もない事件を取材した小説家の語りで始まります。最初は貫井氏本人が取材したノンフィクションか?と思いましたが、そうではありません。

事件とは川に遊びに来ていた家族の幼い子供と妻が溺れて亡くなるという悲惨な出来事が起きますが、それはただの事故ではなく、目撃者と火葬直前だった遺体から発見された証拠から、一緒に現場にいて救急車を呼んだ夫の殺人事件だったということが後に判明します。

しかし犯行を認めたものの、殺害の犯行理由が「自宅の本の置き場がなくて」という信じがたい理由だったことや、犯人をよく知る人に聞くと誰もが「絶対に信じられない」と口を揃える好人物なのです。

取材を進めていくと、過去にこの男の周辺では謎の多い事故が起きていることが徐々にわかってきます。しかし、もしそれらが男の周到な殺人だったとしても、妻や子供の犯行と同様、犯行の動機がまったく想像がつきません。

そのように、取材で次々と出てくる犯人とされる不思議な男の感覚が、ふわふわというかジワジワと漂ってきて、気味悪さでいっぱいになってきます。

さらに男の子供の頃の話しまでさかのぼっていきますが、やはりそこでも虚言癖がある同級生との関係など、さらに謎が深まっていくことになります。

このような周囲から見ると信じ難い犯行動機が存在していても、決して不思議ではないということや、誰もが口を揃えて「いい人」「優秀なエリート」という犯人をあえて登場させることに著者はこだわったようで、今までのミステリー小説の常識や、事前に伏線を敷かれた謎が、スパッと解明される明快なミステリー小説に一石を投じたということかも知れません。

それだけに著者も期待はしていないでしょうけど、エンタメ映画やテレビドラマには不向きで、一種の最後まで科学的な謎が解明できないホラー小説を読んでいるという感覚に近かったかもしれません。

著者別読書感想(貫井徳郎)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ジェノサイド (角川文庫)(上)(下) 高野和明

5年ほど前に「13階段」(2001年)という著者のデビュー作となる小説を読んで、この人はストーリーテラーとして一流だと感じましたが、その著者の最新作がこの「ジェノサイド」(2011年、文庫2013年)です。2011年の直木賞にもノミネートされた小説ですが、その時は池井戸潤氏の「下町ロケット」に持っていかれました。

タイトルのジェノサイドとは一般的に「大量虐殺」という意味で使われていますが、それは物理的な数のことを指すのではなく、「特定の集団等の抹消行為」をいい、ナチスのユダヤ人虐殺のホロコーストやルワンダで起きた内戦による民族同士の大量虐殺などがそれに認定されています。

タイトルからすれば悲惨で暗そうなストーリーに思えますが、舞台が日本、アメリカ、イラン、コンゴなど場面は次々と変わっていき、前半部分はある種フレデリック・フォーサイスの国際陰謀小説を読んでいるかのような錯覚を覚えます。後半はまたちょっと毛色が違って、瀬名秀明著の「BRAIN VALLEY 」など先端医療サスペンスの様相を呈してきます。

主人公は二人いて、ひとりは日本の大学で薬学部で創薬を研究している大学院生、もうひとりは子供が難病にかかっているためその巨額の治療費を稼ぐため、アメリカ陸軍特殊部隊グリーンベレーを辞めて今は民間軍事企業で傭兵として働くアメリカ人です。

大学院生の父親は日本の大学でウイルス研究をおこなっていましたが、ある日突然亡くなります。その亡くなった父親から自動送信で謎のメールが息子宛に届き、それが発端となり父親が表沙汰にしていなかった研究を知ることになります。

この小説では国際陰謀小説ではよくありがちな権力欲にまみれたアメリカ大統領とその取り巻き一味が悪者で、好戦的で私腹を肥やすことに目がない権力者達が、世界一の軍事力、諜報力、政治力を使って陰謀に手を染めていくという構図です。

そうした壮大な国家権力に振り回されながら、日本人の大学院生は韓国人の留学生の協力を得て新薬開発に乗り出すことになり、元特殊部隊の傭兵も他の傭兵や元CIAなどの力を借りて、殺されるはずだった新生物を救いだし、証拠隠しのために自分たちも抹殺されることを知り、果敢に立ち向かっていくというエンタテーメントとしてはうまい仕上がりになっています。

ジェノサイドというタイトルの言葉は、この小説の中に時々出てきますが、タイトルとして適当かどうかは個人的に疑問があり、どちらかと言えば内容的にはエヴォリューション(Evolution)が妥当かなと思っています。

話しが壮大なだけに、日本で映画化はかなり難しそうですが、いっそハリウッドが「エイリアン 」や「ブレードランナー 」「ブラックホーク・ダウン 」などを手掛けたリドリー・スコット監督を起用して制作すると興味あるものができそうな気がします。ただその場合はきっと、原作とは違いアメリカ政府が悪者にはなりませんね。

著者別読書感想(高野和明)


【関連リンク】
 1月後半の読書 二人静、ザビエルの首、真夜中の男、殺し屋 最後の仕事
 1月前半の読書 冷血、クリフトン年代記 第2部(上)(下)、八つ花ごよみ
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789
二人静 (光文社文庫) 盛田隆二

2010年発刊、2012年に文庫化され、第1回Twitter文学賞第1位に輝いた話題作で、その評判をいろいろなところから聞いていたので早く読みたかった作品です。

そのタイトルからすると内田康夫著「天河伝説殺人事件」にも出てくる世阿弥作と言われている謡曲「二人静」をモチーフとした作品かなと思っていましたが、読んでみるとそうでもなさそうです。

謡曲「二人静」は義経討伐のあと、子供とも生き別れとなり、うち捨てられた静御前の霊がある女性に乗り移り、それを証明するために舞を踊ってみせるというストーリーです。

それならばもうひとつの「二人静」、明治から大正時代に活躍した柳川春葉の家庭小説からきているのかと調べてみるものの、その内容はわかりませんでした。

もしかすると文庫本の解説に書かれているのかも知れませんが、今回は単行本を読んだので不明です。

主人公は母親は既に亡くなり、認知症を患っている父親と二人で暮らしている会社員の男性。ある昔の出来事がきっかけとなり女性を心から愛することができず、30代半ばになった今でも独身で、会社の同僚女性からモーションをかけられても興味を持ちません。

そして認知症で身体も弱っている父親を抱え、毎日朝から夜遅くまでの会社勤めをすることにやがて無理が生じ、一時的な介護施設へ入居させることになりますが、そこで出会った担当の女性介護士との間に愛情が芽生えていきます。

しかしその女性介護士にも暗くつらい過去があり、まだ小さな子供(しかも人前では言葉が出なくなる場面緘黙症)を抱え、前の夫とのあいだにはDVや離婚裁判の怨恨で今も悩まされ続けています。

と、現代の社会問題が山積みされた内容ですが、どれをとっても日本国民は目をふさぐことはできず、今後ますますこうしたことがすぐ身近な問題として降りかかってくる可能性があります。

この主人公は、正規社員としてバリバリと働いていて、同僚にも恵まれ、さらに父親が買った自宅があるという、経済的にはまだ恵まれた環境にあるとも言えます。

現実的には長引く不況で職場を失ったり、地方への転勤を余儀なくされたり、また父親が住む家は借家で大きな財産もなく、認知症が判明した時点で火事の心配もあり借家から追い出されるというケースも考えられます。

この小説は決してすべて解決しハッピーエンドに終わるお気楽ものではありません。読書中にはこれでもかというぐらいに重石がどっしりと肩の上に乗っかってくる気分を味わされますが、読後には少しそれが和らいでいることに気がつくでしょう。

著者別読書感想(盛田隆二)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ザビエルの首 (講談社文庫) 柳広司

2004年に「聖フランシスコ・ザビエルの首」として初出、2008年に改題されて文庫化された小説です。大ヒット作となったD機関シリーズ第1作目の「ジョーカー・ゲーム」(2008年)が、来年2015年に映画公開されることが決まり、いままさにノリにノッている作家さんのひとりでしょう。

この作品はいくつか雑誌に連載されたものを再構成し、ひとつの小説にまとめ上げられたものですが、物語の構想というか目の付け所がいつもながら素晴らしく感心します。

ストーリーは貧乏なフリーライターがオカルト雑誌の取材で四国で発見されたというザビエルの首を取材しに行くところから始まります。

ザビエルの遺骸はインドのボン・ジェズ教会に安置されているので、日本に首だけがあるというのも変なのですが、そこはオカルト雑誌の手前、一応下調べをしてノー天気なカメラマンと一緒に出かけます。

フランシスコ・ザビエルは小・中学生の教科書に出てくるほど、日本へキリスト教を初めて伝えた伝道師として有名ですが、それ以前の活動や、その後の人生についてはほとんど知られていません。

主人公のフリーライターは、そのザビエル(とされる)首を見ると同時に感化され意識が飛んでしまい、ザビエルに誘われるがごとくザビエルが生きたその時代に移っていきます。

それは当時の日本、インド、パリ、そして生まれ故郷、さらには終焉の地、中国へと変わっていきます。

著者はこのような歴史上の有名人物を主人公としたり、あるいはモチーフとして使い、新たなフィクションを創り出した小説が多いのが特徴ですが、いずれも事実とフィクションがうまく混ざり合い、時にはコミカルで、そしてなにより大昔に習って、もうすっかり忘れていた歴史の知識を再確認できるという優れものです。

クライマックスでは、なぜザビエルは死後もまるで生きているかのように、身体が腐らなかったのかという奇跡の謎が明かされ、さらには続編を意識させる終わり方で突然閉じられています。

この小説の初出から10年も経った今でも続編は出てきていませんが、もし今後出てくればぜひ読みたいものです。

著者別読書感想(柳広司)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

真夜中の男(光文社文庫) 結城昌治

日本のハードボイルド作家の草分け的な作家さんで、その後そのジャンルで有名になった生島治郎氏のペンネームの名付け親とも言われています。

残念ながらすでに故人となられていますが、残された作品は全部で100冊近くに及んでいます。1970年には「軍旗はためく下に」で直木賞、1985年には「終着駅」で吉川英治文学賞を受賞されています。私は2006年に「軍旗はためく下に」を読んだだけでこれが2冊目です。

この本は今から30年以上前の1979年初出の作品ですが、読んでみるとその内容に古臭くは感じられません。

もちろん携帯電話やパソコンなどは出てきませんが、元刑事が主人公のハードボイルドミステリーですので、その世界においては30年前も今も、環境にはほとんど変わりがないとも言えます。

これが中途半端に90年代頃の探偵小説だと、ダイヤルアップでパソコンをつないでメールを読んだりネットを見たり、ヤクザが高級車に搭載された自動車電話で指示をしたりと時代を感じさせるものですが。

主人公は若いチンピラヤクザに足を洗わせようとなにかと世話をしていたために、癒着を疑われ刑事の仕事を追われてしまい、現在は退職した元刑事達で作る探偵をしている中年男性。

その主人公が世話をしていた若いヤクザの実姉と、ふとしたきっかけで姉の自宅で一度だけ関係を持ちます。そしてそのことが忘れられずに、翌日再び女の家に行くと、その女は自宅で亡くなっています。元刑事の勘から、自分が殺したと一番に疑われると判断し、指紋を消すなど偽装工作をしてそのまま逃げます。

しかし当日アパート近くに主人公がいたという目撃者が現れ、翌日には逮捕され、当初からなにも知らないと嘘をついたり、偽装工作をしていたことで、無実だという言葉は誰にも信じてもらえず、7年の実刑判決を受けて服役することになります。

場面は変わり、7年後に出所し、殺された女性のことや、なぜ自分が犯人と間違われたのか、そして真犯人と思われる、自分が女性の家を訪問する直前にアパートから走り去った不審な男の行方を捜すために行動を開始します。

探偵小説の定石通り、わずかな手掛かりを元にして関係者を探しだし、直接会って話しを聞いていきます。そうしていると定石通りに暴かれたくない真犯人と思われる者から邪魔が入るものなのですが、この小説では自分を目撃したと証言したキーマンが、会う直前に何者かに殺されてしまい、事態が動き出すことになります。

こうした最初は遠いと思える地道な調査から、少しずつ関係者に近づいていき、そして過去を知られたくないという真犯人をあぶり出していくというパターンはボストンの探偵スペンサー曰く「藪をつつく」ですが、必ず望むような結果に結びつき安心して読んでいられます。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

殺し屋 最後の仕事 (二見文庫) ローレンス・ブロック

2008年にアメリカで発行、翻訳された文庫は2011年に出版されています。タイトルにあるようにシリーズ化されてきた殺し屋ケリーの最終版となりますが、その後アメリカではKindleの電子書籍だけで続編が出ているそうです。そしてこのシリーズは連作短編のものが多いのですが、この作品は長編小説となっています。

◆殺し屋ケリーシリーズ(Wikipediaより)
 『殺し屋』 Hit Man(1998)- 連作短編集
 『殺しのリスト』 Hit List(2000)
 『殺しのパレード』 Hit Parade(2006)
 『殺し屋 最後の仕事』 Hit and Run(2008)
 『Keller in Dallas』(2009) Kindleのみ

さて、このケラーシリーズ最終作?は、巻末の解説でも書かれていましたが、できれば過去の作品を1冊以上読んでからのほうがいいでしょう。

それは主人公ケラーとその周辺の人達との関係、殺しの手法、、趣味の切手コレクションのこだわり方などある程度の予備知識があるほうが面白く読めるからです。

そしてこの長編に関しては、シリーズの従来スタイルではなく、著者ローレンス・ブロックの代表作、マット・スカダーシリーズと同様なハードボイルドタッチで描かれていることも、この作品の前に前作を読んでおくひとつの大きな理由です。

それは過去の作品のようにコミカルで軽快なところはほとんどなく、今までは準備万端で難なく仕事をこなしてきたクールな殺し屋ケラーが、大きな罠にはめられてしまい、追い詰められていくというシリアスなドラマとなっているからでもあります。

しかし捨てる神あれば拾う神ありで、しかも今までの流れからすると考えられない結末へと向かっていきます。考えられないというのは、「まさかあのクールな殺し屋ケラーが、安い週給で大工の見習い仕事を始め、まともな××をして○○までできちゃうなんて!」ということです。

もちろん先に書いたように電子版の続編が出ていると言うことは、少なくともここで主人公が死んで終わってしまうということではないのはわかってしまうのですが。

個人的には、こうしたシリアスな展開は「マット・スカダーシリーズ」やマイクル・コナリー著の「ハリー・ボッシュシリーズ」に任せておいて、ケラーはケラーのお気楽で計算し尽くされた殺し屋というイメージを最後まで貫いて欲しかったなというのが本音のところです。

ところで、本当の最終版、Kindle版の「ダラスのケラー」?は、日本語版では電子版だけでなく文庫版も出してくれないものかと書籍は絶対アナログ派だけに、ひたすらそう願うばかりです。

著者別読書感想(ローレンス・ブロック)

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784
2013年の1月から12月までに新旧刊の小説、ビジネス書など全86話(上下巻など分冊をすべてカウントすると98冊)を読みました。

月間に換算すると8.17冊となります。その中で、私のもっとも感動した本、ためになった本、人に推薦できる本をあげておきます。

予算の都合上、最新作(単行本)はまず読んでいませんので、あまたある書評の類とはタイミングが大きくずれています。

まずは昨年は気乗りせず、あまり読まなかったのですが、新書やビジネス系部門では、「寝ながら学べる構造主義 (文春新書)」内田樹著、「発達障害に気づかない大人たち (祥伝社新書 190)」星野仁彦著、「脳に悪い7つの習慣 (幻冬舎新書)」林成之著、「なぜ日本でiPhoneが生まれなかったのか?」上村輝之著、「「対話」のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの (PHP新書)」中島義道著あたりがその候補になりますが、特に「すごーくよかったなぁ」、「ためになったなぁ」と言い切れるものはありませんでした。

たいていの新書やビジネス本は、自己啓発、ポジティブシンキング、やる気を出す方法、クリティカルシンキング、もっと勉強しろ、意外な数字と統計、新発見ネタ、世の中の仕組みに騙されるな的なものが多く、それに対して最近私の気持ちが、先のことを考えばかりにどうもネガティブすぎるのかも知れません(反省してます)。

中島義道氏や内田樹氏の毒舌?やら愚痴などは気軽に読めて参考になる(二重取消線)面白いのですが、役立つ、タメになるかと言われると、私的にはちょっと違います。

若者や万人向けの本を読んで自己啓発するにはもう歳をとりすぎているのかもしれません。なんでも歳のせいにするのはよくないのですが(反省してます)。

したがって昨年の新書・ビジネス書大賞は「該当なし」ということで。今年はもう少し気合いを入れて新書・ビジネス本を読むよう心掛けます(反省しています)。

さて、世の中には、真面目に「小説を読む意味が分からない。」と言う人もいて、世間は広いようで狭く、狭いようで広いものです。これは価値観の相違というものでしょう。

なにも小説を読むことに理由は不要で、「人生に役立てよう!」とか「生きる糧となる」とか「ストレスが発散できる」というもっともらしい理屈で読むわけでもありません。強いて言うなら「そこに面白そうな小説があるから」読むわけです。私の場合。

ただ学生の頃や若いビジネスマン時代には、もう少し違った読み方をしていたかも知れません。例えば「恋愛の仕方」とか「日本経済の歴史」とか「大人の会話」とか「いろんな業界のこと」を知りたいがために小説を読んでいた時期もあります。

話しを戻し、次はノンフィクション・エッセイ部門です。全体の中では少ないのですが、こちらはキラッと光ったものがいくつかありました。

対象は、「タクシードライバー―一匹狼の歌 (幻冬舎アウトロー文庫)」梁石日著、「ガセネッタ&シモネッタ (文春文庫)」米原万里著、「遠野物語(角川ソフィア文庫)」柳田國男著、「三陸海岸大津波 (文春文庫)」吉村昭著、「父・こんなこと (新潮文庫)」幸田文著などで、その中から今さらと言われそうですが、「三陸海岸大津波」を強く推します。

もしこの本が東北沿岸各地の学校や企業の防災教育の教材として本格的に使われていたら、津波に対してもっと警戒心が保て、被害は最少に抑えられていたかもしれません。

吉村昭氏はすでにお亡くなりですが、この本をベースとして2011年の津波の話しも盛り込み、「続・三陸海岸大津波」を出版し、50年後、100年後のその時にぜひ役立ててもらいたいものです。また地震や津波の発生が多い国や地域に、各国語翻訳版を日本国が発行し、津波の怖さと知識を世界に向けてぜひ伝えてもらいたいものです。

遠野物語」柳田國男著は、最初は読むのに苦労しましたが、それもやがて慣れてくると旧漢字や文体も普通に飛び込んでくるようになります。現在では青空文庫でも読めますので、デジタル版で読むのが苦痛でない人はあらためて購入する必要はないでしょう。

小説部門ですが、外国人作家と日本人作家に分けて、多くの中から、私が推薦する作品からあげていきます。

まず日本の小説部門では、

きもの (新潮文庫)」幸田文著
神去なあなあ日常 (徳間文庫)」三浦しをん著
神様のカルテ2 (小学館文庫)」夏川草介著
東京セブンローズ (文春文庫)(上)(下)」井上ひさし著
ハルカ・エイティ (文春文庫)」姫野カオルコ著
一刀斎夢録 (文春文庫)(上)(下)」浅田次郎著
マンチュリアン・リポート (講談社文庫)」浅田次郎著
写楽 閉じた国の幻 (新潮文庫)(上)(下)」島田荘司著
そして、警官は奔る (講談社文庫)」日明恩著
散る。アウト」盛田隆二著
兎の眼 (角川つばさ文庫)」灰谷健次郎著
恋愛時代 (幻冬舎文庫)(上)(下)」野沢尚著

がイチオシってところです。

古い本もあり、新刊本中心の書店ではまず置いてないだろう作品も多く含まれています。

外国の小説部門では、読んだ作品中のほとんどがノミネートされますが、

死への祈り (二見文庫)」ローレンス・ブロック著
盗まれた貴婦人(ハヤカワ・ミステリ文庫)」ロバート・B・パーカー著
緋色の研究 (新潮文庫)」アーサー・コナン・ドイル著
時のみぞ知る クリフトン年代記 第1部 (新潮文庫)(上)(下)」ジェフリー アーチャー著

が秀逸作品。

外国人作家の小説は、それぞれのジャンルで一時代を築いたすでに著名な作家さんの作品ばかりでハズレはありませんでした。

で、いよいよその中から小説部門の大賞を発表します!

ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、デン!

日本人作家部門からは「東京セブンローズ(上)(下)」井上ひさし著 1999年初出

外国人作家部門は「緋色の研究」アーサー・コナン・ドイル著 1887年初出

にそれぞれ独断で決定!

いずれも最近の話題本ではなく、古い本ですが、いいものはいつまでもいいものです。

読後の感想は、

「東京セブンローズ」 1月後半の読書 2013/2/6(水)

「緋色の研究」 9月前半の読書と感想、書評 2013/9/18(水)

にあります。

東京セブンローズ」の舞台は太平洋戦争前後の東京で、そこで暮らす普通の庶民が、戦時中という非日常生活の中で力強く一生懸命生きる姿を描き、文章からは下町の懐かしい風景と香りが漂ってきます。

おそらく私より10歳以上上の世代(団塊世代以上)には、一部自身の経験と重なる部分があったりしてたまらないでしょう。

セブンローズの由来は7人の占領軍の幹部達を相手にする娼婦達の名称ですが、それがこの小説の主題というわけではなく、あくまで市井の庶民が主役の小説です。

著者の井上ひさし氏は太平洋戦争終結の時はまだ東北の児童養護施設から小学校へ通っていた少年で、上京したのは戦後10年近く経って大学生になってからです。

それなのに、この小説では戦争前後の東京下町とそこで暮らす人々を、まるで見てきたように詳細に再現しているのは驚きです。


次点としては「写楽 閉じた国の幻」(島田荘司著)をあげておきます。現在でも謎が多い奇想天外な謎の浮世絵師写楽を、人気役者を思い切りデフォルメし、過去の常識やテクニックにとらわれない作風から、手慣れた当時の浮世絵画家ではなく、まったく異質の芸術家の作品ではないかと大胆な推理で読ませてくれます。
読後感想は、4月後半の読書 2013/5/1(水)

緋色の研究」は世界的に有名になったシャーロック・ホームズシリーズの第1作目作品で、軍医として赴いていた戦地から、ロンドンへ帰ってきた青年医師ワトソンが、独りで住むには家賃が高いとルームシェアができる借家を探していたところ、風変わりな学者(ホームズ)が住んでいる家を紹介され、そこに住むようになってから、二人の関係と役割が決まっていくという過程がわかって興味深いです。

そして主人公シャーロック・ホームズの活躍をワトソンという準主役が事件簿として語っていくという当時としては珍しいスタイルはこれも有名ですがエドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人 」を真似たとも言われています。

このホームズシリーズはその後40年に渡り、短編を中心に60編が世に出され、テレビドラマ化、映画化、コミック・アニメ化はその数は知れません。

以上、いかがだったでしょうか?

もし推薦していただける本がありましたら、ぜひご連絡(コメント)をください。よろしくお願いいたします。どんなジャンルのものでも構いません。ただ読後の感想は当然ながら私の主観で書きますので、予めご了承ください。

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783
冷血 (新潮文庫) カポーティ

1958年に発刊された「ティファニーで朝食を」が映画化されそれで一躍有名になったアメリカの作家さんですが、19歳の時に始めて作品を世に出し、60歳の時に心臓発作で亡くなるまで40年あったわりには作品数は少なく、短編集を含めて12作品だけです。

この作品は1966年に書かれたカポーティの最後の長編作品で、1959年に実際にアメリカで起きた一家殺人事件が元となっています。

またこの作品はノンフィクションノベルという新しいジャンルを切り開いたものとして注目されています。

ノベルと言えばフィクション(想像で描いた物語)なわけですが、その前にノンフィクションがつくとどういう意味か混乱しそうですが、起きた事件と加害者と被害者、その双方の周辺にいた人達の事実を積み重ねていき、ある部分は作者の想像で描きながらも、重要なポイントは裁判記録や徹底した取材で、事実を元にして忠実に描かれた小説とでもいうのでしょうか。

もし現代で同じことをおこなえば、遺族や数多くの実名での登場人物から名誉毀損やプライバシィ情報漏えいなどですぐに訴えられそうなことも含みます。

事件は平和なカンザス州で牧場を経営する比較的裕福で、誰からも好かれている一家(夫婦と子供二人)の自宅で起きます。自宅といっても広大な牧場の中にあり、近くに住み込みで働いている夫婦の住まいを除くと、隣家といっても何キロも遠く離れた場所にしかない土地柄です。

一方、刑務所を出たばかりの二人の男が、同じ刑務所で耳にしたお金持ちの話しを思い出し、計画的に犯行をおこなうため、アリバイを準備し、遠くにあるカンザスの牧場を目指します。

そして犯行がおこなわれ、その殺害方法には相当の恨みがあるようにみえましたが、目撃者もなく、捜査はすぐに行き詰まってしまいます。マスコミは警察の無能ぶりを激しく叩く論調で、警察もほとんど犯人に結びつく証拠が残されていない中で必死の捜査を続けていきます。

犯人は誰からも疑われることなくまんまと犯行現場から逃げることができましたが、結局牧場には金は置いてなく、しかし元の仕事に戻ることもできず、メキシコや南部を二人で詐欺や泥棒を重ねながら放浪することになります。

しかし犯人のツキもそこまでで、やがてたれ込みから犯人が絞り込まれ、その足取りも警察の知ることになっていきます。

結果はわかっているものの、二人の犯人の考えや、心理状態などが迫真にせまる内容で、ノンフィクションと言いつつも十分に小説としての価値を見出せ読み応えがありました。

あとこの作品は1967年に映画化もされています(日本公開は1968年)。

著者別読書感想(トルーマン・カポーティ)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

死もまた我等なり:クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)(上)(下) ジェフリー アーチャー

時のみぞ知る:クリフトン年代記 第1部」では紆余曲折あった主人公が客船の乗組員としてアメリカに向かう途中、Uボートの攻撃をうけて船は沈没してしまい、かろうじて別の船に救助されたものの、訳あって同じ乗組員として働いていたアメリカ人が死んだことで、その男にすり替わろうとします。

しかしそれが裏目に出てしまい、上陸したとたん、いきなり殺人罪で逮捕されてしまうという盛り上げ方をして終わりましたが、そこからの続編です。

この小説では、貧しい家の生まれながら頭の良さをかわれ名門大学へ進むメーンの主人公以外に、その主人公と婚約する女性、ハイスクールの同級生で親友かつ主人公と婚約する女性の兄、その父親、主人公の母親という準主役達がいます。

そして一見するとバラバラに動いているその準主役達の目でも章ごとに時代が語られていきます。時代はナチスドイツの勢力がヨーロッパ中で猛威をふるい、主人公がアメリカに渡ってすぐ、アメリカも重い腰を上げて第二次大戦に参戦するという大きく世界が動いたタイミングです。

ストリーはぜひ読んでいただきたいのであえて書きませんが、第一部の感想でも書いたように、アーチャーの得意な「貧しさの中から努力をして身を立て、貴族や金持ちに対して自分の頭脳と周囲の仲間達に助けられながら、成功者に上り詰めていく」という物語で、エンタテーメントとしては一級品です。

さらに今回はアーチャー自身収監された経験から、主人公が刑務所に入れられ、その中でも才能を発揮していくという話しが手厚くなっているのが、過去の長編とは違う点でしょうか。

唯一残念なのは、世界的にベストセラー作家としてアーチャーも売れっ子となり、書けば売れるということからか翻訳(出版)権も高騰しているのでしょうけど、文庫の上下巻とも薄っぺらな約280ページ程度で各662円、上下巻で1,324円、第一部(上下)と第二部(上下)計4冊で総額2,690円。文庫でこれですから嫌になります。

だいたいページ数から言って上下巻に分ける必要すら感じません。今読んでいる盛田隆二氏の「二人静」(980円)は1冊の文庫で634ページです。

翻訳本ということを差し引いてもちょっと高過ぎるような気がします。デフレなのですからもっと安く刊行する努力が出版社にはないのでしょうかね。

今回は(文庫の)新刊本ということもあり、書店で購入しましたが、こうした文庫まで強気の値付けから、多くの人は図書館やブックオフなどへ流れてしまうのではないでしょうか?

著者別読書感想(ジェフリー・アーチャー)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

八つ花ごよみ (新潮文庫) 山本 一力

2009年に単行本、2012年に文庫版が刊行された8つの短編をまとめた時代小説です。

著者の山本一力氏は一昨年読んだ小説の中で私のベスト1となった「あかね空」で直木賞を受賞された時代小説が多い作家さんです。

この作品はタイトルにあるように花にちなんだ8つの短編集で、時代はいずれも江戸時代で、深川など下町辺りの庶民が主人公です。

こうした短編小説の場合、最近の傾向では独立した短編でも互いに関連があったり、同じ人物が登場したりという連作短編というパターンが多いのですが、これは時代背景は同じながらそれぞれがまったく別もの仕立てとなっています。

 1)路ばたのききょう
 2)海辺橋の女郎花
 3)京橋の小梅
 4)西應寺の桜
 5)佃町の菖蒲
 6)砂村の尾花
 7)御船橋の紅花
 8)仲町のひいらぎ

短編の場合、その人物や舞台設定の説明などに多くを費やしてしまうと、それだけで終わってしまいかねない危険性があります。それゆえに前の短編で使った同じ人物を次の短編でも登場させることで、その人物のことや時代背景などを省略できるというメリットがあります。

しかしその場合は、前編を読んでいるということが必要となり、週刊誌や月刊誌などに一編ずつ掲載する形だと、必ずしも前編が読まれているわけではなく、途中から読む人には意味がわからないということにもなりかねないので難しいところです。

著者の短編はこれが初めてですが、過去に読んだ長編と比べると、やむを得ないとは言え、いずれもストリーにメリハリがなく迫力もありませんので物足りなく感じました。

夫婦愛や親子愛、師弟愛などそれぞれに感動を呼びそうなテーマなのですが、なんだかボヤーとしたあっけない結末で、おそらくは読者がそれぞれに想いと余韻をふくらませればいいということなのでしょうけれど、どうもそれがうまくいっていないようです(私だけかも)。

短編の上手い作家は他にもいっぱいいるので、あえて著者の短編はもういいかなと。著者の書く長編小説の素晴らしさはよく知っているだけに、今後はまた長編を読んでみることにします。

著者別読書感想(山本一力)


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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。



今年のブログ1発目は読書感想です。ちょっとどうかなと思いましたが、私にとって夏休みと冬休みはまとめて本が読める貴重な連休ということもあり、またネタ不足の折、いいかなと。

-◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇-

植物図鑑 (幻冬舎文庫) 有川浩

阪急電車」や「図書館戦争」で一躍有名作家となった有川浩さんの2011年(文庫は2013年)作品です。例によってほんわかとしたライトノベルな恋愛小説です。

夢見る乙女には最高なものでしょうけど、夢など見ない中年オヤジでも昔懐かし野草を食べるという興味をひき結構楽しめます。

タイトルが植物図鑑ですから、小説の中身もそれに近いものがあります。つまり主人公の女性が、ある日偶然出会った行き倒れの男を自宅へ連れ込み、そのイケてる男がやたらと雑草に詳しく、自宅の近所で取れる雑草を次々と料理に代えていくという物語です。

しかし連れ込んだ男に対して、元彼が残していった服や避妊具を使わせようとするなんざ、ちょっと考えられないことをする人だと思うのですが、今の若い女性にとっては、別に気にすることもない普通のことなのでしょうかね?おお怖。

そう言えば「阪急電車」の中でも電車の中で出会う男女が、電車の沿線の崖に生えている山菜かなにかを一緒に取りに行くとかそういうシーンがありました。著者にはそういう趣味が元々あるのでしょうね。

私の子供の頃にはまだ近所には畑や田んぼが残っており、そこに生えているヨモギを摘んでよもぎ餅をつくってもらったり、ツクシも白味噌であえて食べたり、はこべは飼っていたジュウシマツの餌にと子供ながらに野草を選び分けてそれなりにうまく付き合っていたことを思い出します。

この小説のタイトルを見て阿刀田高著「花の図鑑」を思い出した人は、かなりの日経新聞連載小説通か、阿刀田高ファンでしょう。その小説はバブル時代がいままさに開かんとする1980年代後半に日経新聞朝刊で連載されていた小説で、私は通勤中に全部読みました。

その中では女性のタイプを花で例えて書いてあり、いかにも当時の日経新聞の主たる読者の中年以上のオッサン向けの小説だなぁと思っていました。

一方の「植物図鑑」では、その「花の図鑑」の逆をいったか、『男の子に美少女が落ちてくるなら女の子にもイケメンが落ちてきて何が悪い!ある日道端に落ちていた好みの男子。』とPRには書かれています。

つまり女性が書いた女性向けのお花(雑草)の、甘く切なく元気の出る夢の物語と言ったところでしょうか。

ちなみに出てくる植物は、ヘクソカズラ、フキノトウ、ツクシ、ノビル、セイヨウカラシナ、タンポポ、イヌガラシ、スカシタゴボウ、ワラビ、イタドリ、ユキノシタ、クレソン、ノイチゴ、イヌビユ、スベリヒユ、アップルミント、アカザ・ソロザ、ヨモギ、ハナミズキなど。

著者別読書感想(有川浩)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

四畳半神話大系 (角川文庫)  森見登美彦

2003年に「太陽の塔」でデビューした森見登美彦氏の2005年(文庫は2008年)の作品です。

私の年代で「四畳半」と言えば、永井荷風著「四畳半襖の下張り」(あるいはそれを原作とした宮下順子主演『四畳半襖の裏張り』)とか、松本零士氏の「男おいどん」の世界なのですが、若い人(著者は30代前半)にとってはもう死語化していると思いきや、こういった小説があるとはちょっと驚きです。

この森見氏と「鴨川ホルモー」の万城目学氏とは年代こそ違えど、京都大学へ通う貧乏学生の話しをコミカルに書くことなどがよく似ていて時々作者と作品を間違います。

森見氏のほうが京大では3年ほど後輩ですが、作家デビューは在学中にデビュー作を書いた森見氏が逆に3年ほど早いようです。

さてこの小説、、、変わっています。

京大に入学した主人公が、さぁ青春を楽しもうとキャンパス内で勧誘をしている様々なクラブやサークルの中からこれはと思った4つの不思議なサークルに所属した場合の4つのキャンパスライフが描かれています。

どうなんでしょう。それぞれの物語に主人公と周囲にいる人達には微妙な違いが発生しているわけですが、登場人物はどの話でも限られていて、その中だけで終始し、完結していきます。

読者はどの人生が気に入ったとか、これは酷いと思ったかなどの感想をもつことを期待されるのかもしれませんが、4つのストーリーに分かれているものの、その中の半分ぐらいは前のストーリーと一字一句変わらない場面が繰り返されるので、なんとも言えない既視感というか、一度読んだ本を間違って買ってきてそれを読み進めていくうちに「あ!これ前に読んだぞ」と自らのミスに失笑してしまうような感じというか、「あ、また出てきた」と読み進めるモチベーションが次第に薄れていってしまいます。

こうした、人生の岐路でもし別の選択をしたらどうなるか?というパラレルワールド的な小説はいくつかありますが、結局は大差ない結果となり、ちょっとつまらないかな。

コミックからテレビドラマとなった「JIN‐仁‐」もその手の物語でしたが、タイムスリップをうまく使って、人生と世界を変えてしまうという試みなどなかなか面白い設定でした。

著者別読書感想(森見登美彦)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

アイの物語 (角川文庫) 山本弘

著者の年齢は公表されていないようですが、たぶん私と同い年か近い年齢のSF作家です。この作品は、2006年に発刊(文庫版は2009年)された長編のSF小説ですが、私はこの著者の小説は今回初めて読みます。

SF作家として活躍する他にもゲームクリエイターや、トンデモ本やトンデモ品を品評することを目的とする「と学会」会長としても知られているそうです。私はなんのことかさっぱりわかりませんが。

この小説は未来の地球が人工知能をもったロボットに支配されているなかで、古い歴史の語り部役の人間の男性が、ロボットに軟禁され、そこで怪我の治療を受けながら女性の姿形をしたアンドロイドから毎日架空の物語を聞かされるというもので、千夜一夜物語にヒントを得たものと思われます。

そのアンドロイドから聞かされる物語は、小説の設定からはずっと過去の話しになる現代の地球上で起きている様々な話しや今から少し未来の物語で、その中で強く印象に残ったのが、超高齢化社会となった2030年頃の話しとして、人工知能を備えた人型アンドロイドが介護施設において初めてテスト導入される話しです。

65才以上の高齢者が2030年には3660万人に達し、全人口の30%を超えるのは確実ですが、その時果たして認知症患者1千万人を含む高齢者の介護を誰がどのようにおこなうのか?という問題はまったく解決されていません。

個人的には外国から若い人の移住を受け入れるよりも、日本の優秀な製造技術をもって介護ロボットの開発のほうが脈がありそうな気がしています。

私も中高年になって初めて知りましたが高齢になってから、見知らぬ人のやっかいになるというのは、気を遣い嫌なものです。その点相手がロボットなら気を遣う必要もなく楽です。

別に介護ロボットと言っても看護師の姿形をした万能ロボットでなくても、ベッドから起き上がったり、食事や排泄の世話や日常の生活の手伝いをするロボットで構わないわけです。

その他にもリハビリサポート用ロボットだったり、会話の相手を務めるロボットだったり、認知症患者のための行動把握、安全監視用ロボットなど、人それぞれの要望や症状に合った役割分担で使い分ける専用機でいいわけです。

個人的な考えはさておき、小説では著者の趣味もあってか、かわいらしい女性型アンドロイドで、老人の話し相手にもなれば、介護のすべてを自律的におこなえるという設定です。

最初のうちは仕事を学ぶために人間の介護士の言うことを素直に聞いていましたが、次第に学習効果が高まり、「人間は間違ったことをする」ということを学び、次第にロボットが自らの正しい考え、行動を主張し始めるところから、人間とロボットの間に溝が生じてきます。

そのような人間とアンドロイドの歴史が6つの象徴的な話しとして語られ、最後はその語り手のアンドロイドが生まれた時代へさかのぼり、なぜ人の命令を聞かなくなったか、そして地球上で人とアンドロイドが対立するようになってしまったかが明かされます。

確かに宇宙開発のように、場所によっては移動のために地球の時間で何百年、何万年もかかり、空気も水もない(あるかどうかわからない)世界では、生身の人間ではなく、アンドロイド(ロボット)が向いているというのは当たり前のことで、無理をして人間が乗り出さない方がいいのかも知れません。

580ページの長編作品で、途中少しかったるい部分もありますが、この最後の7編目の話しが壮大な物語で、読み応えは十分です。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

タクシードライバー 一匹狼の歌 (幻冬舎アウトロー文庫) 梁石日(ヤン・ソギル)

1993年に発刊(文庫は1997年)された、著者が10年間に渡り経験したタクシードライバーのドキュメント本です。当初「タクシードライバーほろにが日記」として出版されましたが、発刊直後に出版元がなくなったため、変わりに幻冬舎からタイトルを変えて発刊されました。

著者は若い頃から詩を書いたりするのが好きで、いずれはそれでメシを食っていけたらいいなぁと思い、そのためにはまず経済基盤を作ってゆとりある生活を手に入れようと、様々な事業に手を出しますが、失敗して食い詰めることになります。

そして生まれ育った大阪を離れ、東京で毎日空腹でどうしようもなくなったときに、賃金の日払いが可能で、いつも募集をしているタクシードライバーになります。

そしてその経験を生かし、運転手の仕事は続けながら書いた小説「タクシー狂躁曲」を上梓し(1981年)デビュー。

その後この小説を原作とした映画「月はどっちに出ている」(1993年)が作られ、これが大ヒット、ブルーリボン作品賞や日本アカデミー賞最優秀作品賞など数多くの賞を受賞し、一躍人気作家へと登っていくことになります。運命ってわかりませんね。

このタクシードライバーという職業、一度この仕事に就くとそこからなかなか抜け出せないと言われている中で、死亡者も出た大きな交通事故に2度遭い、やむを得ず離れることになります。

そのような著者が経験してきたタクシー乗務の出来事や、同僚達の話し、そして、タクシー業界が抱える様々な問題にまで切り込んでいきます。

この本が書かれてすでに20年以上が経っていますので、現在の業界慣行や就労条件などに変化はあるのでしょうけど、昨今でもタクシー運転手の年収の低さや労働環境の厳しさなど相変わらずといった話しもよく出てきます。

私自身、以前は雨の日の通勤で、仕事で、プライベートでよくタクシーにもお世話になっていたものの、ここ数年タクシーにはほとんど乗ったことがないぐらい、縁遠い存在になってしまいました。

タクシー料金が上がると利用者が減り、利用者が減ると収入が下がり、不景気になって働く場が減るとタクシー運転手の応募が増え、運転手が増えると1人当たりの収入が減るという、わかりやすいけど、認可権を持つ国と政治的判断の要素と社会の景気の動向に大きく左右され、それに翻弄される運転手という構図がよくわかります。

著者別読書感想(梁石日)


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