リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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NHKにようこそ! (角川文庫)
地元川崎(多摩区生田辺り)が舞台の小説という知識だけで買ってきましたが、結論を先に言ってしまうと「損をした」ということになります。
NHKといえば一般的には日本放送協会のことですが、それを勝手に自分流に「日本ひきこもり協会」と解釈し、引きこもり自慢をしているのがこの小説の主人公です。
その引きこもり生活は著者の実体験らしいのですが、それにしても文章力のせいなのか、まったく真に迫るものも盛り上がりにも欠け、ちょうどギャグが出てこないギャグ漫画を読んでいるようで、私にとっては時間の無駄でした。
しかしながらAmazonなどでこの本を検索すると、小説だけでなくコミック化もされていたりと、この作品をそれなりに高く評価している人もいるわけで、これはもしかすると50代のオヤジが読むにはハードルが高かったのかなと読後になって反省です。中年オヤジが雑誌CanCamを読んでも役にも立たないし面白くないのと同じ理由で。
前半は親のすねをかじって大学を中退し、そのまま就職もせず引きこもり生活。しかも贅沢に実家を出てマンションに1人住まいと、個人的な感情ではまったくもって許し難い状況。
後半ではいよいよ親からの仕送りが止まり、生活費がなくなりやむなく夜間道路工事の誘導係などちゃんとバイトをしているので、これは引きこもりとは言えず、単なるその日暮らしのフリーター。
そのような堕落した生活の中で、毎日しっかり食べ、コンビニで買い物し、公園で知り合った女性とデートし、次々と合法ドラッグを買ったり、いったいどこにそれだけの金銭的余裕があるのかまったく不思議な世界です。孤独死間際の単なる夢の中?って感じ。
ま、学校出て、その後は自分のため、家族のためと、働きづめに働いてきた普通の中高年にとっては、頭にくるだけのしょうもない話しなので、私のような人はくれぐれも読まない方がいいかもしれません。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
舟を編む
2012年の本屋大賞で第一位に輝いた三浦しをん著「舟を編む」は、松田龍平、宮﨑あおい主演で映画化もされ、今年の4月に公開されていました。本を読む限り盛り上がりもなく淡々としたストーリーですが、映画の成績はどうだったのでしょうかね?
松田龍平と言えば同じ著者原作の映画やTVドラマ「まほろ駅前多田便利軒
著者の作品は、過去に箱根駅伝を描いた「風が強く吹いている
ストーリーを簡単に言えば、「老舗出版社が新しく辞典を出すにあたり、人選をしたところ、営業部でくすぶっていた入社3年目の大学院卒の変わり者を発見し、その彼が様々な難関(社会人にとっては当たり前のことで難関とはとても言い難い程度ものだが)をくぐり抜け、成長していく姿を描いたもの」で、その主人公が学生時代から住み続ける老朽化したアパートに、年老いた大家の孫が帰ってきたことで、新しく出会いが生まれ恋愛が始まったりもします。
物語は特に大きな波乱もなく淡々と進んでいき、長い月日を経てやがて辞書が完成するまでの行程が描かれているに過ぎません。そう言うことに興味がない人は薄味過ぎて退屈するかも知れません。
いっそ小説としては今回は脇役で、主人公と結婚することになる板前修行中の香具矢が、男の世界で一流の板前にのし上がっていく話しをもっと膨らませ、女性版「前略おふくろ様」っぽく書いたほうがずっと面白そうに思ったりします。
辞典がもうひとつの主役ですから、日本語についてのもうんちくも数々出てきますが、これって映画となり日本国外で上映された際、どういう見せ方をするのか不思議です。外国人に日本語の言葉の深い意味や語源、使われ方なんてわかるわけもないので。その辺りはうまく作られているのでしょうね。
巻末にはこの本を書く上で岩波書店(広辞苑)と小学館(大辞泉)の辞書制作担当へ取材したことが明記されていましたが、面白いのは映画化にあたっては、三省堂(大辞林)が制作協力し、制作者の中にはこの原作本の発行元光文社が入っています。
その他の国語辞典を発行している大手出版社(例えば角川書店、新潮社、旺文社など)は、原作にも映画にも加われず、悔しい思いをしているでしょうね。
この小説ではテーマには上がっていませんでしたが、私の世代では普通に国語、漢和、英和、和英、現代用語、百科事典などが各家庭にありましたが、これだけ電子化が進んでくるとなかなか家それぞれで各書を購入すると言うことはないでしょう。
救いはまだ学校では辞書を使った学習を教えていますが、IT教育が進むとやがてはそれもなくなってしまいそうな気がします。こうした辞典や辞書は、やがて紙の書籍から、デジタル化されたデータでしかなくなってしまうのでしょうかね。
◇著者別読書感想(三浦しをん)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
死への祈り (二見文庫)
マット・スカダー・シリーズ15作目のこの「死への祈り」はアメリカで2001年に発刊され、日本語に翻訳されたこの文庫版が出たのは2006年になります。
このニューヨークの刑事(のちに退職して探偵)を主人公としたマット・スカダー・シリーズが始まったのは「過去からの弔鐘」の1976年ですから、この15作目の「死への祈り」の2001年までには25年の月日が経っています。
私がこの著者の作品を最初に読んだのは1993年に短編集の「おかしなこと聞くね」でしたが、今回のマット・スカダー・シリーズに初めて触れたのは1999年になってからで割と遅めからでした。
同じく探偵が主人公のハードボイルド小説、ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズは1973年から亡くなる2010年まで書かれてきましたが、その間37年、主人公のスペンサーはほとんど年をとらない、いわゆる国民的漫画サザエさんと同じく、どれから読んでも主人公達の若々しい肉体とスーパーマン的活躍が期待できました。
しかしこのマット・スカダー・シリーズは、書かれた時期に合わせてそれなりに年を取っていき、その点主人公とともに自身も年を重ねていき、本当に現代を生きている主人公のようなリアル感があっていいものです。
今度スペンサーとマットと、もう1人マイクル・コナリーのハリー・ボッシュの年表でも作ってみると面白いかな。著者のローレンス・ブロックもマット・スカダーの第1作を書いたときには意気盛んな38才でしたが、現在(2013年)はもう75才です。
さて本編のストーリーは、探偵の免許を取り上げられ、妻のエレインと悠々自適の生活をおくっていたある日、自宅の近くで弁護士夫婦が惨殺され、その後犯人と思われる二人が自殺死体となって発見される事件が起きます。
警察もマスコミも犯人が死んだことで一件落着としましたが、殺害された弁護士の妻の姪が、この殺人事件にはなにかスッキリしない疑問があることを主人公に相談したことから、暇にあかせて独自に捜査を開始します。
そうした中で、主人公の元妻の病死が伝えられ、現在の妻エレインに多少気兼ねしつつ葬儀に参列したり、ほとんど交流のなかった元妻との子供達の微妙な関係なども話の中に入ってきて、マットも年老いてきたなぁと感じさせられます。
やがてマットの執念が実ることになりますが、そこはミステリー小説ですから読んだ人だけのお楽しみです。しかしこんなにツキのある犯人って他には見たことがないです。
◇著者別読書感想(ローレンス・ブロック)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
美しい隣人 (集英社文庫)
2011年に仲間由紀恵と壇れい主演でテレビドラマ化され話題となった作品の小説版(ノベライズ)です。そのテレビドラマは見ていませんが、この小説では内容は少し違っているそうです。
郊外の住宅地の高台に建つ2軒の新しい住宅が舞台となり、その1軒に住む夫が大阪に単身赴任中で幼稚園児がいる専業主婦が主人公です。
その隣の家に、ひとりの美しい女性が引っ越してきます。その女性の夫はアメリカ人で、まだしばらくアメリカで仕事をしているのでここに住むのはインテリアコーディネーターの仕事をしている自分ひとりとのこと。
そしてこの隣人が引っ越してきてから、主人公に様々なトラブルが降って湧いてくることになります。無言電話、仲のよかったママ友との仲違い、姑との関係、そして大阪に単身赴任中の夫の浮気、、、
いや、ま、元々がテレビドラマですから、次回以降の番組を盛り上げるため次々と事件や裏切りが起きるのは常套手段ですが、ちょっとサイコ的な色彩が強く、私には抵抗があります。
以前読んだ石田衣良著「眠れぬ真珠
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11月後半の読書 三陸海岸大津波、聖女の救済、覇王の番人(上)(下)、うつくしい子ども
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三陸海岸大津波 (文春文庫)
Wikipediaによると「初版は中公新書で、1970年(昭和45年)に『海の壁 三陸沿岸大津波』の題名で刊行された。1984年(昭和59年)に中公文庫版が刊行された際に現行のタイトルに改題された。」とあるとおり、今から40年以上前に、定期的に起きる三陸地域の津波について警告を発するルポルタージュ作品です。
2011年3月11日の東日本大震災で三陸海岸を始め、多くの太平洋沿岸で本書に書かれていた通りの大津波の被害を受けたことで、あらためてこの作品が注目されることになりました。
小説として首都直下型大地震が起きたらとか、東南海連動巨大地震が起きたらと言う架空の想定災害小説は数多くありますが、この本では過去の記録や災害を切り抜け生き残った人から直接話しを聞きとりまとめられたもので、今さらながら読むと、ちょうど2年半前に見た光景がまざまざとよみがえってきます。
津波被害経験者やその子孫からの聞き取りは主として1896年(明治29年)の明治三陸地震による大津波、1933年(昭和8年)の昭和三陸地震による大津波、1960年(昭和35年)のチリ大地震大津波ですが、江戸時代の1856年に起きた安政八戸沖地震等、過去に判明している津波被害についても、わずかに残されていた記録や、地元の言い伝えとして触れられています。
過去に起きた津波の様子は、まったく2011年に起きたものと瓜二つで、海に面した地域の建物は軒並み津波に持って行かれ、生き残った人はいちはやく早く山や高台へ避難ができた人か、もしくは流されても運良くなにかに引っかかったという一部の人だけで、現代の技術の粋を集め巨大な防波堤や鉄筋の建物を作ってみても、それは自然の前では役に立たなかったということです。
中には海面から50メートルほど切り立った崖の上にある家にまで津波が駆け上がってきたことが証言として出てきますが、2011年の津波も、狭い場所によってはそれぐらいの高さまで届いていたところもあるのでしょう。
それなのに、10mの防波堤で十分だという根拠はどこにもなく、依然自然の前にはなすすべがありません。
最後に「津波との戦い」の死者数と流出家屋数が書かれています。
明治29年(1896年)の大津波 死者26,360名 流出家屋9,879戸
昭和8年(1933年)の大津波 死者2,995名 流出家屋4,885戸
昭和35年(1960年)のチリ地震津波 死者105名 流出家屋1,474戸
で、この近代から現代に起きた3度の大津波(チリ地震はちょっと意味合いが違いますが)で、死者数が激減していることを指摘し、それは津波の認識が高まってきたことや防潮堤など設備が整ってきたことによると書かれています。
しかし大津波ごとに減ってきた死者や倒壊家屋は、2011年の震災では死者・行方不明合わせておよそ18,400名、全壊家屋は12万戸を超えています。死者の9割以上が津波による水死や圧死と言われています。
つまり、115年前に起きた津波の死者数こそ下回りましたが、最後に起きたチリ地震による津波被害から51年が経ち、巨大津波を経験した人の数は減り、残念ながら著者が述べているような津波の認識が高まっていたとは言えず、住人や役所に油断があったとも考えられます。
それと115年の間には、多くの知恵と大金をつぎ込み、数々の防災対策が行われたはずなのに、全壊家屋(そのうちかなりの割合が津波による流出)が10倍以上もあるというのに驚かされます。
※明治29年頃の日本の総人口はおよそ4500万人ほどで、現在の人口の37%ほど
おそらくこの震災による生々しい記憶は、実際に厳しい経験した若い人達が住まう50~60年間は残ると思いますが、やがて津波を経験した人が少なくなってしまうと、悲劇はまた風化していき、同じことが繰り返される可能性があります。そうならないことを願うばかりです。
◇著者別読書感想(吉村昭)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
聖女の救済 (文春文庫)
2008年に単行本が発刊され、2012年に文庫化された物理学者・湯川学が登場するガリレオシリーズと言われる作品です。私がこのシリーズで過去に読んだのは直木賞を受賞した「容疑者Xの献身
そしてこの「聖女の救済」は今年(2013年6月)にテレビの人気ドラマで放映されていますので、見た人も多いのではないでしょうか。
読んでみての感想としては、よくもまぁこうした思いも付かない複雑な殺人トリックを考えつくものだとあらためて著者に敬意を称します。普通こうしたミステリーでは、様々な伏線が敷かれ、読者も一緒になって推理をしていくものですが、同氏の作品で使われるトリックは、「容疑者Xの献身」でもそうでしたが、あとで判明すると決して現実的に不可能ではなく、実際に十分に実行可能でありながら、読者がふと気がつくというような安易なものではなく、精緻によく練られています。
主人公は、趣味が高じてパッチワークで教室を開いている30過ぎの女性。その主人公には1年前に結婚したIT企業を経営する夫がいて、絵に描いたような裕福な家庭が舞台です。
しかしながら夫から子供ができないことを理由として、結婚するときの約束としていた「子供ができない場合は離婚」を告げられ、それが引き金となって殺人事件が起きることになります。
ガリレオシリーズでは警察の調査で行き詰まる事件を、殺人課刑事の大学同期という物理学者湯川教授が、複雑に仕掛けられたトリックを見破るという水戸黄門様も真っ青なワンパターンな流れですが、このクセのある教授がなかなか面白く、ユニークでストーリーを膨らませてくれます。
まぁ実際には警察のメンツや秘密主義、それに公務員の守秘義務もあり、捜査上の秘密や個人情報を刑事の友人というだけで教授にすべて漏らすなどと言うことは現実にはあり得ないでしょうけど、本当なら捜査や事件解決、犯人逮捕を効率よくやっていくには、こうした民間活力、専門知識、現役の医者でもあり作家の海堂尊氏が導入を提言しているAI(死亡時病理画像診断)などの積極導入などを計っていくのが正しいのかも知れません。
◇著者別読書感想(東野圭吾)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
覇王の番人(講談社文庫)
著者の作品は「ホワイトアウト
警察ものなど現代小説が多く古くても幕末ぐらいの時代設定だった直木賞作家佐々木譲氏も、ある時突然「天下城
タイトルに出てくる「覇王」とは魔王とも鬼とも呼ばれていた織田信長のことです。あるきっかけで運命の糸が結びつけたかのような出会いから始まり、旧来の織田勢には知るよしもなかった朝廷のしきたりや学識にも秀でている上に、忠実で勇猛な家臣として勢力をつけ、やがては天下一の謀反人として名を馳せた明智光秀を主役とした時代小説です。
実は私は織田信長も嫌いじゃありませんが、明智光秀は結構好きな武将で、美濃を出立して以降、なかなか思い通りにはいかない中で、ふとした縁から年下の信長に長く仕え、時には足蹴にされながらも、理知的で家臣や領民からも慕われていた人柄は、単に自分で天下を取りたいがために主君を裏切った謀反人とも思えず、今になってはその理由はわからないけれど、なにか原因があったに違いないと思えて仕方ありません。
特に現在記録として残っているものは、当時の勝者たる秀吉や家康に命ぜられて、あるいはご機嫌をとるために書かれたものが多く、その場合は秀吉や家康の主君であった信長を葬った明智光秀についてよく書かれるはずもないからです。
この小説の主役は明智光秀とともに、光秀が情報戦に使ったとされる甲賀の忍者衆にも準主役がいます。その忍者は子供の頃に、信長勢と思われる武士に親や兄弟を皆殺しにされ、その復讐をするために忍びの世界に入ることになりましたが、やがてはその信長の家臣となった光秀の軍勢に加わることとなり、絶対的な主従関係を結びます。
そして明智光秀の天下太平を願う姿勢にうたれ、その光秀が従う信長に対しても復讐の思いは次第に薄れてきますが、信長の世では一向に戦乱の世が治まらず、敵なら僧侶や女子供も惨殺し、気分次第で無理難題を部下に押しつけてくる信長に対して光秀の心に反目の灯火が点いたことにいち早く感づくと、それなら自分もその場にいたいと願いますがかないません。
そして、クライマックスでは明智光秀対豊臣秀吉、そして忍者対忍者の死闘が始まり、光秀は敗れ去り、忍者小太郎も光秀の密書を毛利軍へ届ける役目を果たせず、片腕と片足を失うという悲劇に見舞われます。
明智光秀の最期は、通例では坂本へ逃げる際、落ち武者狩りに竹槍で刺され絶命することになっていますが、この小説では、瀕死の重傷を負いながらも生き延び、坂本とは目と鼻の先の比叡山に匿われて生き延び、その後徳川時代においても密かに活躍する姿が描かれています。時々出てくる光秀=天海説ですね。
来年の大河ドラマは光秀とほぼ同時代に生きた黒田官兵衛ですが、当初は明智光秀が大河の主役になるのではと噂されていました。結局は見送られたわけですが、きっと何年か後にこの明智光秀が主役となる大河ドラマが作られるのでしょうけど、その時はやっぱり保守的に山科の山の中で竹槍で最後を遂げることになるのでしょう。
文庫版の上下巻で1000ページを超える長い小説ですが、時代背景や戦国時代の登場人物をそこそこ知っていると、意外にスラスラと読めてしまいます。あと忍者の活躍と忍者同士の死闘の場面に迫力があり、時代小説にエンタテーメントの要素をうまくミックスさせたところが著者のこだわりでしょう。
◇著者別読書感想(真保裕一)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
うつくしい子ども (文春文庫)
1998年に「池袋ウエストゲートパーク
最初は新聞記者の目と、ひとりの植物好きな中学生の目を通して、筑波と思われる研究施設などがいっぱいある学園都市の平和な風景が描かれますが、そこで小学生の女の子が惨殺されるという悲惨な事件が発生します。
これはこの小説が書かれた直前の1997年に起きた「神戸連続児童殺傷事件」通称酒鬼薔薇事件をモチーフにしていると考えられます。
そう書いてしまうと犯人は少年と言うことがわかってしまいますが、小説の中でも犯人は前半であっさりと判明しますので、犯人捜しがこの小説の主要なテーマではありません。
なかなかの力作なのですが、期待していた最後のクライマックスが、凝りに凝った前半部分でとうとう力尽きてしまったのか、ありきたりというか、安っぽいテレビドラマを見ているような感じなのが残念無念。もう一ひねり二ひねりあってもよかったかな。
しかし登場してくる中学生がどの子達も博識で思慮深く、会話も大人が滅多に使わないような難しい語彙を含んでいたりと、私の中学生の頃とは天と地の差があるようです。
今の優秀な学校に通っている中学生達というのは、実際こういう感じなのでしょうね。末恐ろしい気もします。
◇著者別読書感想(石田衣良)
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ダブル・ファンタジー (文春文庫)
2009年刊(文庫は2011年刊)の長編小説で、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞の文学賞トリプル受賞という高評価な作品で期待をしつつ読み始めました。
結婚している35才の売れっ子女性脚本家が主人公で、旦那はそれまで勤めていた会社を辞め、妻が仕事に集中できるよう家事を一切を引き受け、また仕事のマネージャーとして妻をサポートしています。
しかしいきなり冒頭で、自宅に出張ホストを呼びつけての濡れ場が展開され、いったいどういうストーリーなのか、単なる女性向けのエロ小説か?とも思いつつ読み進めると、次には主人公と師匠と仰ぐ売れっ子演出家の男性との退屈でベタな不倫を匂わすメールのやりとりが延々繰り返されます。ここらで読むのを断念するかと何度思ったことか。
これはおそらく週刊文春への連載小説という性格があったのでしょうね。飽きられないように時々は激しい濡れ場を挟むのは一種読者サービスで、そうしないと毎週買ってくれません。
村山由佳氏と言えば2003年の直木賞受賞作「星々の舟
しかし結局、どこまでいっても女性主人公の異常とも思える旺盛な性欲が、世の中の倫理や道徳など吹き飛ばし、勘違いしている旦那とは別れられないまま、男をとっかえひっかえしつつ、ただ官能の世界を重ねていき、その都度男のテクニックを事細かく評価していくという困ったちゃんです。
きっと現実社会で欲求不満な女性読者(週刊文集にどれほどの女性読者がいるのかは知りませんが)にとっては「その夢のようなモテモテの環境に一度は浸ってみたい」と気持ちのいい気分にさせてくれるのかもしれません。おぞましい限りです。
したがって枯れつつある中年男性が読んで面白いわけもなく、文学賞受賞作だからといって、必ずしも読む価値があるとは限らないという見本のようなものでしょう。
◇著者別読書感想(村山由佳)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一刀斎夢録 (文春文庫)
単行本が2011年刊、文庫本は2013年刊の浅田次郎作品文庫新作で、新選組の中で一番腕が立つとも言われていた新選組三番隊長・斎藤一(さいとうはじめ)が主人公の小説です。
新選組が壊滅した後は会津で闘ったものの降伏とあいなり、その後改名して藤田五郎と名乗り警視庁勤めをしていた時、腕はべらぼうに立つが、散々人を斬ってきた斎藤一の本名が警視庁の中で出てくるのはさすがにまずかろうと、名前をひっくり返した一刀斎という隠語で語られるようになり、それがタイトルとなっています。
著者は新選組がたいへんお好きなようで、過去には「輪違屋糸里
映画になった「壬生義士伝
その一刀斎の小説ですが、物語の出だしは皇居のそばをひとりで馬に乗って名残惜しく散策する乃木将軍です。
乃木将軍といえば世界に日本という強国があることを知らしめた日露戦争で活躍した武人で有名ですが、明治天皇が崩御されたあと、天皇に殉じるため妻と一緒に自害を果たし、それはつまり明治という世が名実ともに終わったことを指しているわけです。
やがてもうひとりの主人公で、陸軍近衛師団の梶原中尉が、剣道仲間から教わり、老いた斎藤一が住む家を訪ね、1週間連続してその壮大なる剣士の語り部を聞くという流れです。
壬生浪士組の成り立ち、芹沢鴨の暗殺(暗殺には立ち合わず、芹沢と仲のよかった永倉を見張っておく役目、坂本竜馬の暗殺(自分がひとりで得意の居合いで斬り、自分が去った後、つけてきた京都見廻組がとどめを刺したと語る)、伊東甲子太郎ら御陵衛士暗殺の油小路事件、負け戦だった鳥羽・伏見の戦い、勝安房守(勝海舟)にはめられた感のある甲州勝沼の戦い、死に場所を求めて最後の砦となる会津へ下る話しなど戊辰戦争のこと、降伏し謹慎後に警視庁に勤めるようになり、その警察官として参加した西南戦争など新選組というか幕末から明治にかけての話しがこれでもかというほど(著者の想像や推測も含め)登場してきます。
特にクライマックスの西南戦争では、鳥羽伏見の戦いでは薩摩藩に裏切られ、敗走する結果となった新選組など幕府側の志士達の生き残りが、今度は逆に官軍となり西郷隆盛率いる旧薩摩藩士と戦うという構図に不思議な縁を感じます。
これはもしかすると武士世界が終わり、全国にはびこっていた不平士族達を抑え込み、明治政府を安定させるために大久保利通と西郷隆盛の策略にはめられたか?との疑念をもちます。
そう考えると、明治政府に楯突き、多くの官軍兵士を殺したはずの西郷どんが、戦争終結後まもなく首都東京の上野公園に銅像が建てられ英雄視されるのも不思議ではなかろうと。
そして最後に待ち受けていたのは、不思議な縁を持つ二人の鬼と呼ばれる師弟が激突することになります。
いや~面白い、楽しい、こうした江戸前の頑固一徹オヤジの語りをさせると浅田次郎氏の右に出る者はいません。
余談ですが、読み続けていて、斎藤一の語りの聞き役だった梶原という近衛師団の陸軍中尉が陸軍内で一二をを争う剣道の達人という設定になっているので、その梶原中尉が新選組の中で斎藤一がただひとり実戦的な居合いを教えた元浮浪児だった弟子市村鉄之介の子供だったとか、ゆかりがあったというオチが最後につくのかなと思っていましたが、残念ながらそれはありませんでした。
◇著者別読書感想(浅田次郎)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
小太郎の左腕 (小学館文庫)
映画化もされた「のぼうの城
ちなみに映画「のぼうの城
この小説のストーリーは、祖父と山で暮らしている小太郎という子供が、雑賀衆の血筋に目覚め、メキメキと射撃の腕を上げていき、その子供を不利だった隣国との戦争でうまく利用した武将との関係をドラマチックに描いた小説です。
雑賀衆とは、16世紀頃、和歌山で発達した鉄砲など武器製造や、それを扱う専門家を養成していた武装組織で、戦国時代には織田信長や豊臣秀吉とも闘いました。
タイトルにもなっている小太郎という子供がその雑賀衆の末裔で、その天性で身についた射撃の腕にいちはやく気がついた武将が、鳥を撃つのにも心で詫びているその優しい心をもった子供に対し、躊躇なく人を撃つことができるように、少年の唯一の心の拠り所であり、身内である祖父を殺め、その責任をすべて敵方になすりつけ、復讐のためと味方につけます。
しかしその純粋な子供を騙して殺人マシンに変えてしまった後ろめたい気持ちが、やがては武将を追い詰めることになり、想定はしていたものの驚愕のクライマックスへと突入していきます。
内容は映画化にも向いていそうなエンタテーメントですが、上記の「のぼうの城」と比べると、派手さや迫力に乏しく、しかも史実に沿った内容でもないので、時代劇や歴史ファンの心をつかむのはちょっと難易度が高そうです。
◇著者別読書感想(和田竜)
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761
時のみぞ知る クリフトン年代記 第1部 (新潮文庫)
書店で平積みされていた文庫新刊「死もまた我等なり クリフトン年代記 第2部
外れがない著者の長編小説で、この第一部上下巻を読む限り、過去に読んだ同氏の作品「ケインとアベル
副題になっているハリー・クリフトンという英国生まれの主人公が、そのたぐいまれな才能を開花させ、極貧の中からのし上がっていくという著者のいかにも好きそうなストーリーで、ロンドンから200kmほど離れた港町ブリストルが舞台です。
時はまだ第二次大戦勃発前のことで、造船所に勤めていた父を生まれたときに戦争(第一次大戦)で亡くし、母親とその兄、母親と暮らしているハリーは、ろくに学校にも行かず、造船所の中に置いてある客車を住まいにしているホームレスのような老人に興味を覚えます。
そこからハリーの目覚ましい奮闘と活躍が描かれますが、なぜ周囲の人達が、ハリーの頑張り以上に優しく接してくれて、また挫折を味わってもその後うまくリカバリーできるのか、そういった謎が次第に明らかになっていきます。
こうして1900年初頭の英国の姿を見ると、当時から先進国であったのは間違いないものの、貧乏人の子供は貧乏なまま一生を終え、金持ちは代々途方もなく金持ちで、その子供に引き継がれていくという、いわゆる世襲社会と貧富の格差が大きいことがわかります。
貧しい家で、しかも父親がいない主人公は、本来なら小学校を出た後は亡くなった父親の後を継いで地元の造船所で働き、油まみれでその一生を終えるはずでした。
しかし様々な幸運や才能に恵まれて、造船所のオーナーの孫が通う名門校へ入ることができ、しかもそのジャイルズと親友になり、やがては、その妹エマとも婚約することになります。
ここまででもある程度のネタバレしてしまいましたが、実はもっと恐ろしい罠が潜んでいて、エマとの婚約を破棄せざるを得なくなり、その失意を払拭するため、まもなく戦争になることを予想し、いずれは戦艦に乗って戦おうと、その前に単身でキューバ行きの船に乗り込み船乗りとしての訓練を自分に課すことになります。
波瀾万丈の人生ドラマと言っては陳腐な表現ですが、なにか勇気を与えてくれる小説です。この第一部では何度目かの危機一髪で突然終わってしまいますので、第二部を読まないわけにはいかないでしょう。
◇著者別読書感想(ジェフリー・アーチャー)
◇ ◇ ◇
湾岸リベンジャー
いろんなジャンルの作品を多く描いている著者ですが、この作品はストーリー性と言うよりは、エンタテーメントを意識した娯楽作品となっています。2001年に発刊され、10年後の2011年にようやく文庫版が登場しました。
戸梶圭太氏の作品は、過去に映画にもなった「溺れる魚
タイトルに使われている湾岸といえば、楠みちはる氏のコミック&アニメ「湾岸ミッドナイト
こういう設定、昔なにかで読んだなぁと思って調べてみると、1979年に田中光二氏の「白熱(デッドヒート)
「白熱」はその後映画にもなりましたが、妻ではなく後輩が挑んだ暴走レースで命を落とし、その時の相手を探すため全国の走り屋が集まる場所へと出掛けていくというものでした。
結婚したてで愛し愛されていたと思っていた流れが、途中で変わってしまうのは、妻の遺品の中に見つけたメモリーカードで、その中に結婚指輪をしたまま他のさえない男と嬉しそうに不倫をしている妻の姿を見つけてしまい愕然とします。
その部分がこの小説に必要だったのかはともかく、いまいち最後ははちゃめちゃで、タイトルの「湾岸リベンジャー」とはまったく関係しない理解しにくい終わり方をしてしまいます。
◇ ◇ ◇
新・世界の七不思議 (創元推理文庫)
「邪馬台国はどこですか?
以前読んだ「邪馬台国はどこですか?」でちょっとした衝撃と感銘を受けて、その後著者の本を数冊読みましたが、どれもなかなかユニークな視点と発想で、他にはあまりみかけない意外性ある面白い作品が多いのが特徴です。
この作品は「早乙女静香シリーズ」の2作目で、すでに3作目の「新・日本の七不思議
「邪馬台国はどこですか?」についても従来の学者の説をすべて否定してしまう独自の論を展開しますが、やや納得するには材料が物足りない感じがあり、いつかまた続編が出てくるのでは?と勝手に期待しています。
しかしその名前や由来こそ知っていても、それにまつわる謎や背景を詳しく知らない一般の人にとっては、本文中で丁寧に解説をしてくれていますので、お酒のうんちく話しとともに、雑学的知識の勉強になります。
さて、一般的に世界の七不思議(古代)といえば、紀元前二世紀にビザンチウムのフィロンが記したという「7つの驚異的な建造物」が元になった
1.ギザの大ピラミッド
2.バビロンの空中庭園
3.エフェソスのアルテミス神殿
4.オリンピアのゼウス像
5.ハリカルナッソスのマウソロス霊廟
6.ロドス島の巨像
7.アレクサンドリアの大灯台(フィロンが書いた時は「バビロンの城壁」)
が定番となったようです。
その他にも「中世の七不思議」や「コットレルによる世界七不思議」、「自然の七不思議」、「自然現象七不思議」など様々な人や団体、言い伝えなどがあります。
最近になってからは、スイスに本部を置く「新世界七不思議財団」が定めた「新・世界七不思議」ができ、
1.チチェン・イッツァのピラミッド(メキシコ)
2.イエス・キリスト像(ブラジル)
3.万里の長城(中国)
4.マチュ・ピチュ(ペルー)
5.ペトラ(ヨルダン)
6.コロッセオ(イタリア)
7.タージ・マハル(インド)
が選ばれているそうです(wikipedia)が、この本で取り上げられる新・世界の七不思議は、
1.アトランティス大陸
2.ソールズベリのストーンヘンジ(英国)
3.ギザのピラミッド(エジプト)
4.ノアの方舟
5.始皇帝(中国)
6.ナスカの地上絵(ペルー)
7.イースター島のモアイ(チリ)
が選ばれています。
これらの謎解きにずっとつき合わされた古代史の世界的権威、ペンシルベニア大学のハートマン教授は、念願だった早乙女静香との京都旅行が、延期に次ぐ延期となりますが、果たして来日中の間に京都へ行くことができたのか?は謎のままです。
ストーンヘンジと神社の鳥居、ピラミッドと盛り塩、ノアの箱船と桃太郎の童話、モアイ像と大仏など、意外な組み合わせ満載で、今回の謎解きもなかなか新鮮且つユニークで面白く読めました。まだ買っていないけど「新・日本の七不思議」も楽しみです。
◇著者別読書感想(鯨統一郎)
【関連リンク】
10月前半の読書 私の男、恋愛時代(上)(下) 、小説・震災後、通天閣
9月後半の読書 脳に悪い7つの習慣、コンダクター、ガセネッタ&シモネッタ、その街の今は
9月前半の読書 緋色の研究、眠れぬ真珠、王国記 ブエナ・ビスタ、心に龍をちりばめて
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私の男 (文春文庫)
タイトルからすれば、「これは恋愛小説に違いない」と当然思い込みます。私もまったく予備知識はなしで読み始めました。これから読む人はそれがいいと思いますし、以下のこの感想も読まない方がいいです。
著者の桜庭一樹氏の小説は今回初めて読みました。しかもこの感想のために調べるまで女性作家とは知りませんでした。
「私の男」は2008年の直木賞受賞作です。が、この方小説以外にもコンピュータゲームのシナリオを書いたり、エッセーや漫画の原作など多才な人です。
若い人に人気のライトノベルなどもたくさんありますので、詳しく知らないのは私のような50過ぎたオヤジだけかも知れません。
さて、この「私の男」、通常の小説のスタイルとは違い、現在から過去へとさかのぼっていきます。
幸せそうだけどなんだかちょっと影のあるヒロインが資産家の男性との結婚が決まり、婚約者と指輪を買い、父親も加わって一緒に食事に出掛けるという人生の中でもっとも幸せで微笑ましいところからスタートします。
しかしそこで明らかになる風変わりなヒロインの父親がタイトルの「私の男」だと信じたくはないものの、それに向かってヒロインと父親の過去が徐々に顕わになっていくという内容です。
ちょっと現実的には考えにくそうですが、あり得ないとも言えなくもなく、読んでいくにつれ暗澹たる気持ちになり、やがてはつらくなっていきました。
この二人にもっと他に方法がなかったのだろうか、なぜ周囲の人達はこうなるまでほったらかしていたのかと、小説と言うことを忘れ、思わず独り言を言いそうになったり。
ま、直木賞受賞作ですから余計なケチや野暮なことは言えないですが、暴力、殺人、不倫、大津波、近親相姦など、衝撃シーンのてんこ盛りで、おそらく映像化するにはもってこいのドラマじゃないかなと思っていたら、すでに映画化が決まっていて、来年2014年に公開されるとのことです。私は見たいとは思わないですけどね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
恋愛時代 (幻冬舎文庫)
著者の野沢尚氏は元々テレビや映画の脚本家として頭角を現し、その後小説を書き始めた方です。
プロの作家からするとシナリオライターに人の機微を深く掘り下げた本格的な小説が書けるものかといいたいところでしょうけど、当然書けちゃうわけですね。
ただ惜しむらくはこの著者は2004年に自殺してしまい、もう新しい作品を読むことができません。
この「恋愛時代」は1996年に初出の長編小説で、2001年にタイトルに惹かれて読んだ「破線のマリス
ストーリーは、2年前に離婚して別々の生活をおくっている男性と女性の二人の主人公が、心の中に今でも様々な葛藤を抱えつつ、日常の生活の中では一緒に食事をしたり、カラオケに行ったりと仲良くしています。
しかしある時喧嘩になってお互いに再婚相手を探して紹介するということになり、それを互いに実行していくというコミカルな中にも男女間の深い心理状態をうまく描いているなかなかの作品です。
まぁ、互いにムキになり結婚相手を探すという辺りで、最終的に落ち着く先は読めてしまいましたが、主人公以外の登場人物がそれぞれに魅力があり、それが映像として見せるためのドラマ脚本家としての最大の腕の見せ所だったのかなぁと思いつつ、後半へ突入していきます。
小説では主人公二人が交代で語っていくスタイルをとっていますが、互いの心理描写がやや冗長で、どうでもいい部分が長々とあり、中だるみというか途中で退屈する場面もあります。それを救っているのは先にも書いた主人公二人に恋をする脇役達です。
脇役といっても、引退も近い女子プロレスラー、中学時代の同級生、名門ホテルチェーングループ総裁の跡取り息子、離婚協議中の大学教授など、様々なタレントで、これはドラマにすると絵になります。
二人の主人公のように、こんなに周りからモテモテの人生だったらなにも苦労はしないのにと思わなくもないですが、やはり最終的には人気アイドルタレントを使った映像化を視野に入れた作品だったのかも知れません。
しかし現在のところこの作品の映像化は2006年に韓国でテレビシリーズとしてドラマ化されただけで(日本国内でも放送されました)、国内では制作されていません。
あとこの小説の中で男性主人公(書店の店長)が勤める本は、それなりに面白いことを巻末の解説で池上冬樹氏も保証しています。
小説の中で登場してくる小説とは、
マイクルコナリー「ラスト・コヨーテ
宮本輝「ここに地終わり海始まる
ロバート・ジェームズ・ウォラー「マディソン郡の橋
ローレンス・ブロック「八百万の死にざま
ジョン・ダニング「死の蔵書
リチャード・ニーリー「心ひき裂かれて
桐野夏生「ファイアボール・ブルース
ベン・ホーガン「モダン・ゴルフ
サガン「ある微笑
ピート・ハミル「愛しい女
原田康子「挽歌
ジャック・フィニイ「ゲイルズバーグの春を愛す
遠藤周作「わたしが・棄てた・女
村上春樹「ノルウェイの森
の14作品で、半数はすでに読んでいますが、あと残りをメモしておいて今後読んでみようと思っています。
こうして今まで食わず嫌いだった新しいジャンルや著者の本を増やしていくのはなかなか効率がいいです。
◇著者別読書感想(野沢尚)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
小説・震災後 (小学館文庫)
東日本大震災が起きた2011年3月11日の約半年後の10月に単行本が発刊され、その半年後には早くも文庫化されています。
多くの人が大震災と原発事故に茫然自失とし、この先日本の社会、経済、生活がどうなるのだろうと先行きに不安を覚える中で、即座にこれだけの作品を書いて世に出すというのは超人的としか言いようがありません。
著者は言うまでもなく「亡国のイージス
内容は2011年3月11日に起きた東日本大震災とその後に起きた福島第一原子力発電所の事故をそのまま小説で使い、東京都郊外に住む普通の一家がそれぞれに悩み考え、そして行動を起こしていく姿を描いています。
主人公は一家の主でもあるサラリーマンの男性で、同居する父親は元防衛省に勤務というところがちょっとミソ。
震災後に家族で気仙沼方面へボランティアへ出掛けたり、ネットにはまっている中学生の長男が、原発事故を今までそれを無責任に容認してきた父親を含む大人達に対して反発し、やがて大きな事件を起こしていくという姿など、普通にをありえます。
最終章では私も今までまったく知らなかった方法で発電し、世界に打って出るチャンスではないかという「こんな時だけど、そろそろ未来の話しをしようか」で始まる主人公が中学生とその父兄達に向けての演説はなかなか読み応えがあり夢のあるいい語りです。
◇著者別読書感想(福井晴敏)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
通天閣 (ちくま文庫)
先に読んだ柴崎友香著「その街の今は
この「通天閣」はデビューから4作目、2006年に発刊された小説で(文庫版は2009年刊)、2006年の「その街の今は」に続き、2007年の織田作之助賞を受賞しています。
主人公は大阪の下町にある通天閣のそばに住んでいる、まったく縁もゆかりもない男女二人で、その二人の話を中心にして展開していきます。
ひとりは40才を過ぎても独身のまま、100円ショップに卸す商品を包装している小さな工場勤務の男性。
もうひとりの主人公の女性は同棲していた男性が突然米国に留学することになり、その帰りをひたすら待ちつつも、やがてはふられてしまうことに。
その女性は、生活費を稼ぐため、なんばの怪しげなスナックで働くことになり、そこのオーナーに気に入られて黒服のギャルソンを任されています。
それらの主人公の周りにはこれまたユニークな面々が揃い、日々の生活が淡々と流れていきます。
そして見ず知らずだった男女が、ある日なんばで飛び降り自殺志願者が現れた現場で、すれ違うことになりますが、実はこの二人は、、、ってところで最後のオチというか実際はオチにはなっていませんが、ワケありの二人の関係が、読者だけには知れることとなります。
大阪なのでオチがなくていいのか!という声もありますが、それでいいのです。
◇著者別読書感想(西加奈子)
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