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40 翼ふたたび (講談社文庫) 石田 衣良

著者の作品は「エンジェル」「美丘」「REVERSE リバース」に続き4作目です。著者のファンからすると3冊では読んでいないのも同然ですが、私感で言えば、よく言うと「若い人の感性にうまくマッチした作品」、悪く言えば「商業的に若者におもねった作品」が多そうで、50代半ばのオヤジとしては読むのを敬遠していたということもあります。

「40 翼ふたたび」は2006年初出、2009年文庫化された作品ですが、この作品は中高年の入り口の40代にスポットを充てた、従来にはない中年向けの作品のようなので、読んでみることにしました。

内容は短編の連作で、大手広告代理店を辞めた主人公がフリーの広告宣伝マンとなり、銀座ののっぽビルに間借りをして仕事を始めます。最初はホームページの開設から始まり、ブログを書くようになってからボチボチと変わった仕事が舞い込むようになってきます。

サラリーマンからフリーになったあとのもがきや苦しみについて書き込みが不足している気もしますが、短編ですからそう長々と悲哀を書き連ねるわけにもいかないのでしょう。

落ち目になってきたAV女優に頼まれ会社から追い出されてしまい失意の中にいる恋人のIT長者の話し相手をしたり、20年以上引きこもっている40才の男性を親の老夫婦に依頼され外へと連れ出したり、40才までフリーター生活をおくってきて一発奮起して起業した男に広告を依頼されたりします。なんとなくフリーになって様々な変な仕事が舞い込むという意味では三浦しおん著の「まほろ駅前多田便利軒」を彷彿させます。

その他、仕事ではなく、同窓会で出会った友人の離婚問題に関わったり、前職の会社で部下だった女性に頼まれ、不倫にけじめを付けるために新しい恋人と称して不倫相手と会うなど次々と出てくる展開が面白くて飽きさせません。

40才というのは確かに男性にとって大きな岐路がやってくる時でもあり、心ではまだまだ若い、なんでもできるぞと思いながらも、実は社会の中では中途半端な存在で、特に未婚だったり結婚していても子供がいないと、自由ということと引き替えに自分の居場所を見失ってしまうような時期です。

同時に40才ぐらいから体力の衰えを感じる時で、視力も落ち、夜も無理が利かなくなってくる時期でもあります。この小説でも主人公が間借りしている会社で働く同年代のコピーライターが、肺ガンに侵され倒れるなど40代を襲う様々なケースを明るくユーモアを交えながら描かれています。

そして最後には各編で登場した様々な40代が一堂に会するシチュエーションが用意されていて、概ねハッピーエンドで締めくくられます。なかなか軽めながら、時には考えさせられることもある、面白い作品でした。

著者別読書感想(石田衣良)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

沈底魚 (講談社文庫) 曽根圭介

同作品は2007年に出版された著者の長編小説デビュー作品で、江戸川乱歩賞を受賞しています。話しは熱帯魚マニアが、、、ではなく、敵対する国へ極秘情報の提供をおこなうスパイ活動を扱った小説で、曽根氏の小説を読むのはこれが最初です。

日本では外国人犯罪やスパイを取り締まるのは警視庁公安部外事課の仕事で、主人公はその中の刑事の1人です。中国に潜っているスパイから日本の有力政治家から情報が中国側に流れているという情報と、証拠を突きつけられ捜査が始まります。

その政治家の秘書が失踪したり、犯行に手を貸した在日中国大使館の館員が亡命を希望したりと、話しは結構複雑でややこしくなってきますが、このスパイの世界というのは二重スパイ、三重スパイという可能性もあり、騙し騙され、裏切りや密告などいったいなにが真実でなにが虚偽なのかわからず人間不信になってきます。

しかし読者は主人公の刑事の目を通してしか情報が得られないので、余計な想像や推理ができず、最終的には意外な展開へと話しが進み、思いもしなかった結末がまっています。いや~長編デビュー作とは思えない素晴らしさです。

欧米のスパイもの小説は数多くありますが、その中でもフレデリック・フォーサイスやイアン・フレミング、ジョン・ル・カレ、レン・デイトン、トム・クランシー、スティーヴン・クーンツなどが有名です。

中でもフォーサイスの「THE DECEIVERシリーズ」や、クランシーの初期の作品などはすべて読みましたがなかなか秀逸でした。もちろんフレミングの「007シリーズ」は派手でエンタメを追求した映画とは違い、真面目で人間臭いスパイ、ジェームス・ボンドを描いた作品でこれもお勧めです。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け (講談社文庫)(上)(下) 白石一文

2009年に発刊されたのこの長編小説は、山本周五郎賞を受賞しています。同氏の作品は文庫化されているものはほとんど読んでいますが、今までにない長編で、じっくりと楽しむことができました。

著者の作品タイトルには「僕のなかの壊れていない部分」とか「見えないドアと鶴の空」など少々変わったものがありますが、この作品はその最たるものでしょう。

なにか村上春樹氏を意識しているのかなとも思えますが、それは直木賞作家にとって失礼な感想かもしれません。

しかし小説を読んでいると、意識しているのかどうかはともかく村上春樹氏の香りが漂ってきます。登場人物の名前が日本人なのにすべてカタカナとか、現代の社会の問題をあぶり出し、まるで記事や著者の主張が入ったコラムかと思える箇所がいくつもあります。

例えば、テレビのニュース番組で世界中の貧困層の問題について深刻な顔をして話しているキャスターの年収は5億円ぐらいあって、国内や海外にいくつもの投資マンションを持っていたりします。

また朝日新聞など大手新聞記者の年収は30歳代で軽く1千万円を超えていて、優遇された生活が約束されている人達が、明日をも知れない生活保護受給者や派遣切りにあった人達のことを紙面で代弁できるのか?また年間30億円以上の収入があるイチロー選手や映画一本で数百億円を稼ぐハリウッドスターは、そのお金を使うことができるのか?使えないなら貧困層に回してくれてもいいのではないか?など根源的な社会問題が綴られています。

私も以前読んで大きな衝撃を受けた山本譲司著「累犯障害者」を引いて、人には多かれ少なかれ能力には優劣があり、その優劣を無視して「お前は努力不足」と両断してしまうのは狡い勝者のやり方などについては納得させられます。

個人的には遺伝などによる知能や才能の優劣と、あとは家庭の経済的環境の違い、つまり裕福な環境で育てられ、莫大な遺産(お金だけではなく人脈や血縁など)やを引き継げる人と、劣悪な環境で育てられ、自力で生きていかなければならないのとでは、その後の人生に大きな差が生じてしまうことは誰でも理解していますが、それをなくそうとは誰も言い出しません。

前置きが長くなってしまいましたが、主人公は、東大で学者の道を歩んでいる妻をもつ大手出版社のやり手の週刊誌編集長。まさに夫婦とも超インテリで、世田谷に買ったマンションで暮らす典型的な勝ち組です。

しかしその主人公は結婚後に胃ガンが発見され、手術で胃の半分を切除、現在も薬を飲みつつ元の仕事に戻って働いています。また子供はひとりいますが、もうひとり赤ちゃんの時に手当てが遅れて死亡させてしまったという過去があります。

この業界がそうだというわけではないでしょうが、主人公は女性関係が派手で、次から次へととっかえひっかえです。もう不倫は文化というより不倫は息抜きかレジャーとでも言わんかのようにです。と思っていると奥さんのほうもしっかりと師でもある教授とデキていたりします。

そういうわけで話しは生臭いものとなるかと思いきや、主人公に見えるはずのない死者が見えたり、死んだ子供の声が聞こえたりとオカルト的な話しへと変わってきて、、、とこれ以上は書きません。

決してとんでも物語というわけではなく、生きているといろんなことが起きるなということや、ひとつの事象を巡って社会ではこういう物事のとらえ方をする人もいるんだなとか、あと時事にまつわる話しも多く登場し、これが10年、20年経ったあとに読むとまた違った感想を持つのかも知れませんが、ちょっと肩肘張って張り切りすぎた白石一文を堪能することができます。

この本は表紙の帯に「書き下ろし」と大きく書いてありましたが、それをみて昨年著者がTwitterに書いたことが大きな話題となったことを思い出しました。

『一年かけて500枚(×400字)の長編小説を書き、晴れて出版。定価1500円で初版部数は5000部。作家の収入は一割(税込み)なので75万円。手取りだと67万5千円。それが年収。

ということは月収にすれば56250円。皆さんが図書館を利用すると良心的な作家ほど行き詰まる。』

『だから、せめて「書き下ろし」と銘打たれた本だけでも書店で買ってほしい。書き下ろしの場合、本の印税以外の原稿料は一銭もない。雑誌に連載されたものは掲載時に原稿料を受け取っているのですが、それがない書き下ろしは本の売れ行きがすべて。一年かけて月収6万円ではさすがにやれない。』


事情などまったく知らない私にはこういった作家さんの悲痛な声は頭にズシンと響きました。でも、ごめんなさい、4年前に出版されたこの本は、著者には1円も入らないブックオフで買ってしまいました。次の新刊(文庫ですが)はちゃんと本屋で買いますので許してください。

著者別読書感想(白石一文)


 【関連リンク】
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 6月前半の読書 誰か Somebody、発達障害に気づかない大人たち、ひまわり事件、錏娥哢た(アガルタ)
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726
ツ、イ、ラ、ク (角川文庫) 姫野カオルコ

2003年の作品で、受賞は逃しましたが直木賞の候補に選ばれた作品です。少し前には「ハルカ・エイティ」(2005年作品)を読みましたが、両作品とも受賞は逃しましたが直木賞の候補に挙がった作品です。

主人公の女性の小学校時代から中学校時代の話しがメインで、同級生や親友、先生などの狭い範囲の中での交際や恋愛、友情、痴話喧嘩などがギュッと詰まっていて、50も半ばのオッサン(自分)にとっては、まぶしいような、あまりにも遠すぎて実感が湧かず、残念ですが読んでいてあまり愉快なものではありません。

小中学生の頃は男子より女子のほうが成長が早く大人だと言いますが、私の中学生の頃と言えば、男ばかりのクラブ活動で毎日汗まみれだったことや、せいぜい同性同士でエッチ系な映画を見に行ったり、ごくごくまれ~に(健全な)デートと言ったところで、この小説に登場するような「あいつとあいつは完全にデキている」とか「先生を異性として見る」というような浮ついた話しはほとんどなかったような気がします。その頃の私の狭い範囲の中ではということですが。

しかし現実には小・中学生同士の異性関係や教師との関係など、事件や話題としてはよく社会問題となっていることもあり、著者が中学生当時にも、そういうことが実際に起きていたり、噂にあがっていたのでしょう。

ただ、なんというか、あまり面白味のない平凡な毎日に、思春期を迎えた女子中学生が性に目覚め、やがては破綻を迎えるというできれば10代、遅くとも20代前半のあいだに読んでおくといいかもと思う作品でした。ま、中学校の校内の図書館には置いてはないでしょうけどね。

著者別読書感想(姫野カオルコ)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

終の住処 (新潮文庫) 磯崎憲一郎

この本が発刊された2009年当時著者は44才、まだ夫婦の機微や人生について経験上から多くを語れるわけではないでしょうが、意外にも老成されているのか、それとも小説家としての才能なのか、なかなか味わい深い作品です。この「終の住処」は2009年の芥川賞を受賞しています。またこの本には「ペナント」という短編も一緒に収録されています。

文章は読みやすい文体で淡々としながら、改行は少なく主人公の思いがダラダラとつづられています。ただ、主人公のサラリーマンが、妻と11年も会話を交わさず、その間に8人の女性と浮気を続けているというストーリーにはどうも現実性がなく、ホラーかSF小説を読んでいるような気がします。

例えば「普通のサラリーマンが、電車の中で目があっただけの見知らぬ女性の後をつけていって、そのまま自宅に入れてもらって関係を持つ」なんていうのは、エロ系男性週刊誌の小説でもあり得ないでしょう。

この主人公の自慢たらしい半生とユニークな夫婦生活を独特の文体で表現したことが、人の内面を見事に浮かび上がらせたかはともかく、賞に値するものなのかは、私にはよくわかりません。

「ペナント」も軽いタッチの作品ですが、私も小学生の頃にペナントを集めていたことをふと思いだしました。今では買うこともありませんが、当時ペナント集めはそこそこ流行っていて、自分が行った先だけでなく、親や兄弟が行った先でも必ずペナントを買ってきてくれて、壁に貼る場所がなくなり、天井に円を描くように貼っていた思い出があります。ちょっと懐かしくなってこの小作品には好意を寄せました。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

判決の誤差 (双葉文庫) 戸梶圭太

2008年発刊、2011年に文庫化された作品です。本格的社会派ミステリー作品もありますが、コミカルな内容のものが多く、気楽に読めてしまえるのが特徴でもあります。2008年には自ら監督・制作・脚本・音楽とこなした「生活保護打ち切り隊 [DVD]」という未来の足立区をパロった作品がありますが、ぜひ見てみたいものです。

この著者の作品は、2001年に椎名桔平主演で映画化もされた「溺れる魚 」を読みましたが、それ以来の2冊目です。

この小説は2009年から施行された裁判員制度についてコミカルな小説仕立てで作られていますが、2008年の初出ということは、まだ裁判員制度の実例がない時に書かれたものです。したがって、現行の制度からすると、おかしなところもありますが、それはご愛敬ということで、栽培員制度が始まる前に書かれたというところに価値を見出せそうです。

ストーリーは、エリートサラリーマンの他、パチンコばかりしていて生活保護を打ち切られた暴力性向のあるオヤジ、親の遺産で派手な生活をおくっている躁鬱病持ち、女子高生に恐喝されているオタク、落ち目になってきて会社をクビにされた元アイドル歌手など、現実的には選ばれそうもない裁判員ばかりが集められ、殺人事件の裁判を進めていきます。

こういった法廷ドラマの場合、最後の判決直前にどんでん返しがあり、最後の判決でクライマックスを迎えるパターンなのですが、この小説ではそのあたりの詰めというか盛り上がりに欠け、バカバカしくもなんとなくドタバタしたままスッと終わってしまったという感じです。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

「対話」のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの (PHP新書) 中島義道

「闘う哲学者」として有名な著者はいわゆる昭和時代の頑固オヤジとも共通するところがあり、好き嫌いが激しく、筋の通らないことが頑として認めず、上司であろうが有名人であろうが、間違っていると思うことはズバッと指摘をして嫌われるというなかなか現代社会には珍しい大学教授です。

以前「どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?」を読みましたが、世の中の常識というまやかしにとらわれていて、自分の考えを持つということをほとんど捨ててしまった自分の脳天をポカリと張られたような気がする作品で印象深いものがあります。

この本でも序盤に授業中に私語をする学生の話し、私語が止んでも今度は死語となってしまう感性などについて、誤解を恐れずズバズバとわかりやすく教育論を展開されています。

特に日本中にはびこっているマナーの告知や標語(ポスターや放送)にはかなりの枚数を割いて不快感を表し疑問を投げかけています。確かにどこの役所にもバカのひとつ覚えみたく交通安全や障がい者へのいたわり、不法投棄の防止、ルールを守って安全な暮らしを的な言葉が氾濫しています。私は特に駅や車内での不要な放送が多すぎるといつも憤っています。若い人のように大きな耳栓(え?違う)をしようかと思っています。

一方では、駐輪禁止の大きな看板の周辺には大量の放置自転車があり、電車の優先席付近で携帯電話の使用を禁止する警告があちこちにベタベタ貼られ、さらに車内放送でも繰り返し注意喚起しているにもかかわらず、優先席でなにはばかることなく携帯電話を使っている人が多くいるのが今の日本の現状です。外国では車内で電話使うのは当たり前という声も聞きますが、なにもそうだからと言ってルールを無視して真似しなくても。

著者は、それらの原因のひとつには、子供の頃から、無意味で退屈な校長先生や会社に入ってからは社長や上司の訓辞を聞かされ、さして意味のない注意喚起ポスターを毎日眺め、館内、車内で放送を聞かされているうちに、人の話や注意を真面目に聞くという感覚が麻痺し、人が自分に話をしているときでも、自分は関係のないことをしても平気という習性になってしまっていると。

そして「思いやり」や「優しさ」を押しつけることで、人との対決を避け、結局は対話をさせない風土が根付いてしまっていると著者は言っています。

それは「思いやり」や「優しさ」という美名の元に相手を傷つけないよう配慮して沈黙する社会ではなく、言葉を尽くして相手と対立し最終的には責任を引き受ける社会で、他者の異質性を尊重する社会を目指すべきではないかと言っています。

さらに、対話を望まない人は、それも自由であるものの、そうした行動は同時に他人の言葉も封じていることとなり、他人の叫びを聞かない(聞こえない)耳を作ってしまい、それを圧殺し、対話を求める人に対して加害者であると結論づけています。

様々なエピソードが面白く(調布市内の無法自転車置き場の話しや交差点に置かれている「守ろうよ 私の好きな 街だから」という立て看板などに対するクレーム)よくここまで言うなと思いますが、話しはストレートでブレがなく快活です。

著者別読書感想(中島義道)


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722
誰か―Somebody (文春文庫) 宮部みゆき

ミステリーの女王?宮部作品は久しぶりに読みます。仕事で頭が混乱しているときでも安心して読めるので、時々読みたくなります。調べてみると3年ほど前に「レベル7」(1991年作品)を読んで以来ということになります。

この作品は2003年の作品(文庫は2007年)で、大企業オーナーの娘と結婚し、周囲から逆玉と言われつつ義父の会社で地味に社内報の編集の仕事をしている主人公杉村三郎もので、その続編として「名もなき毒」(2006年)があります。

物語は義父の専属運転手だった男性が自転車でひき逃げをされて亡くなってしまいます。残された二人の娘のうち何事にも慎重な姉は、小さな子供の頃に自分が父親のせいで誘拐事件に巻き込まれたという記憶があり、そのことと今回のひき逃げがなにか関係があるのではないかと心配しています。

しかしあっさりした性格で奔放な妹は、父親をひき逃げした犯人を捕まえるべく、事件を風化させないようまた警察にハッパをかける意味でも父親の生涯を記した本を出版したいと父親の雇い主だったオーナーに頼み込み、その仕事が娘婿の主人公にまわってくるという流れです。

この主人公に共感し好意が持てるのは、前述のように「絶大なる権力を持つオーナーにうまく取り入った娘婿」で、「義父の意向を受けて社内の不穏分子を探るスパイ」と思われ、「お金持ちの妻の言いなり」と、周囲からはひがみや誤解を受け、そんなわけですから親しい同僚もなく、飲み会にも誘われず孤独感を感じていながらも、妻子を愛して自分の仕事と家庭だけで、十分満足を得ているというところです。

本人としては「偶然映画館の中で知らない男から絡まれていたところそれを救った女性が、有名な事業家の娘だった」というだけのことで、結婚するときもそういう周囲からの好奇の目で見られることを覚悟し、それを受け入れて淡々としています。

その主人公の元々の仕事が子供向けの絵本を発行している小さな出版社で編集の仕事をしていましたが、オーナーに言わせると「商売はできないが、本を作る能力は確か」ということで、結婚に踏み切る際に義父からつけられた条件「会社を移る」ことを飲みました。

この小説の発端となる自転車事故は、現在でこそマナーの悪さと歩行者との人身事故が大きな社会問題となっていますが、本が発刊された2003年にその問題を取り上げたのは、時代を適格に読んで先取りしているようで内容や設定には古さをまったく感じさせません。

私も昨年(2012年)に日記で取り上げていました。
自転車のマナー違反が特にひどい

ただ先月読んだ白石一文著「砂の上のあなた」もそうでしたが、「亡くなった父親の過去を調べる」というのが、ミステリー小説では定番の設定になっているようで、もうそれ自体にはさほど興味も意外性も感じなくなってしまいましたが、そこは御大宮部氏だけあって、ひねりも効かせて最後の最後までなかなか面白く読ませてくれます。

著者別読書感想(宮部みゆき)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

発達障害に気づかない大人たち (祥伝社新書 190) 星野仁彦

著者の星野氏は一般的に注意欠陥・多動性障害(ADHD)、アスペルガー障害(AS)、学習障害などを総称して言われることが多いいわゆる発達障害の医師で、研究者としての第一人者です。また同時に著者自身が多動性障害であることも本書に書かれています。

本書は2010年に発刊された新書ですが、本書の続編「発達障害に気づかない大人たち(職場編)」(2011年)など多くの著書もあります。

私を含めて多くの人は「発達障害」と聞くと、授業中に落ち着きがなく教室の中を勝手に歩き回ったり、人見知りで不登校になる子供の病気のようなとらえ方をするのではないでしょうか?

本書ではそのような発達障害は大人になってからも発症することがあり、ストレスなど他の症状と混じり合って、その原因を究明できにくくしているということが書かれています。

例えば増えてきたうつ病やアルコール中毒などを起こす人の中には、かなり多くの割合で発達障害を素因を持っている人が多かったり、仕事で失敗の多い人、忘れ物や遅刻の多い人、自動車事故が多い人などを診断すると発達障害に起因することが見つかるとのことです。

ただ大人になると子供の頃とは違い、なかなかそれが表面には出てこず、単に「性格的なもの」とか「努力不足」とかで片付けられてしまい、ちゃんとした診断と治療がおこなわれないまま、他の病気やもっと大きな事故を引き起こす要因となってしまっているようです。

大人はこの発達障害の「障害」という言葉に特に抵抗があり、なかなか本人もそれを認めないというのが、大人になってから罹った人の特徴です。

そこで著者は「発達障害」ではなく「発達アンバランス症候群」と呼んでいます。つまり対人能力や記憶力、計画的な行動、冷静さ、注意力、忍耐力など様々な人の能力のうち、どれかについてうまくできないのは、決して性格的なものではなく、脳の発達に一部遅れている症状で珍しいことではないということです。

特に遺伝の影響もあり、両親にそういう傾向があるとそれが子供にも出やすく、家庭内暴力で育った子供が、自分が親になったときに同じような暴力を繰り返すのも、発達障害の遺伝を引きずっているとも著者は結論づけています。

また仕事も学習もおこなわず、自宅で引きこもりをしていることが多いニートの中には、この大人の発達障害を抱えている人が多いとのことで、ある種の興味分野、例えばネットやプログラミング、ゲーム、絵画、作詩、音楽などにはまりこんでしまっているケースがあるそうです。

例えば音楽や絵画など芸術の分野に才能が秀で、それで将来身を立てられるのならまったく問題はないのですが、素行が暴力的だったり、なにかに依存する(過食やアルコール、麻薬、SEX、宗教など)ようになると、犯罪や自傷を起こすことにもつながるので、まずは専門家の診断を受けて、適切な治療を受けることが重要と著者は述べています。いまでは心理療法や投薬で治ることが多いそうです。

ユニークなのは、発達障害の症状例にドラえもんにでてくるキャラクターを用いて説明しています。多動性障害(ADHD)には「イライラしてすぐにキレやすく暴力をふるう」ジャインアン型や、「いつもボーとしていて注意散漫で忘れ物が多い」のびた型など様々な形態があるとの説明。確かにあの二人は発達障害の象徴的な存在のようです。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ひまわり事件 (文春文庫) 荻原浩

文庫化されると必ずといっていいほど読むのが習慣となっている荻原浩氏のこの作品は、2009年に単行本、2012年に文庫化されました。

過去に4度直木賞の候補になりながら、まだ受賞はされていませんが、そう遠くないうちに受賞されることは間違いないでしょう。

本来なら2004年の「明日の記憶」で直木賞を取っていても不思議ではありません。ちなみに同作品は山本周五郎賞を受賞しています。

私の感想では、荻原氏と経歴も作風も似ていて歳は3つ若い奥田英朗氏は、その2004年に「空中ブランコ」で直木賞に輝いています。時々読んでいるとこれは奥田氏の作品だったか荻原氏のだっけと間違えることがありますが、直木賞に限っては荻原氏にツキがありません。

ひまわり事件の舞台は、ひまわり幼稚園とその幼稚園の隣りに建っていた老人ホームひまわり苑で、幼児と先生、老人がそれぞれが主人公と言える珍しいパターンです。

私も以前なにかで「老人ホームと幼稚園・保育園・小学校を同じ敷地内に作ることで、老人達は子供達から若々しい生のエネルギーをもらい元気になり、子供達はお年寄りや障害者などを大事にすることを覚え最適だ」ということが書かれていましたが、この小説では、幼稚園と老人ホームとのあいだにあった塀を取り除くことで起きる、双方の気持ちがそれとはまったく逆で笑ってしまいます。

しかし残念なことに、この手の小説では、大人(著者)が、勝手に都合よく描く子供(幼児)が、あまりにも現実的ではなく、腑に落ちないことが多くてヘキヘキします。

荻原氏は「ママの狙撃銃」や「押入れのちよ」などで可愛い子供を主人公に仕立てた小説がいくつかありますが、私的にはそれらはあまり秀作とは思えず、いかにも大衆ウケしそうな物語を無理くり作っているようにしか思えません。私が読んだ荻原作品でお勧めは「明日の記憶」や「神様からひと言」「僕たちの戦争」です。できれば今後は大人のシリアス路線でいってもらいたいものです。

小説やドラマに登場する子供って、ステレオタイプでほとんどがダメな大人よりも部屋の片付けや料理までできてしっかりしていたり、物事をよく知っていて大人顔負けというのが多く、一種ダメな大人からするとそれが理想的な子供の姿なのかもしれませんが、そういうのは現実的にはあり得ないし、可愛げもありません。

この小説でも大人を驚かせるスーパーな幼児が登場しますが、読んでいてその点が不快でもありしらけるところです。

幼児は幼児らしく、自分勝手でわがままで、すぐにピーピーと泣き、人見知りをして、知らない人とはろくすっぽ喋れないというのが当たり前なので、それでは現実的過ぎて小説やドラマとして成り立たないというのであれば、使わないのに限ります。

ただ幼児は親の鏡だというのは、この小説に登場する親とそっくりな子供ほどではないにしても、経験上共感を覚えます。

著者別読書感想(荻原浩)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

錏娥哢奼(アガルタ) 花村萬月

2007年に単行本、2010年に文庫化された時代小説です。花村萬月氏の小説は男臭いハードボイルド的なものが多いように思っていましたが、こういうものもあったのですね。

過去には「眠り猫」「笑う山崎」「皆月」「百万遍 青の時代」「百万遍 古都恋情」「イグナシオ」「セラフィムの夜」など12冊ばかり読んでいます。

忍者といえば伊賀と甲賀が有名ですが、伊賀が徳川家康に重用された表の忍者とすると、その裏には伊賀のすぐそばに八劔(やつるぎ)という山があり、そこに住む忍者集団が八劔と呼ばれています。

不死の蛆神(ウジガミ)を中心として、日本を統一した徳川勢力に対抗する姿をエロチックにそしてコミカルに描いた小説です。

錏娥哢た(アガルタ)とは、八剱で数十年に一度生まれるかどうかの特別な存在で、蛆神の後継者とも言われ、外観は誰もが直視できないほど華麗で素晴らしく、子供の頃から男を籠絡する閨の技を伝授されています。

その錏娥哢たが、島原では天草四郎時貞と組み、江戸幕府に弾圧されるキリシタンの農民達に加勢し、島原で一揆を仕掛けたり、江戸に上っては江戸城に住むやはり不死となった徳川家康の命を狙ってみたり、3代将軍徳川家光と親密になったりと、とにかくもう奇想天外甚だしく。

歴史小説と思って読むと大きく裏切られますが、ところどころに散りばめられる逸話、例えば赤穂浪士で有名な江戸城内「松の廊下」の廊下はたまに時代劇で間違って出てくるような板張りの廊下ではなく、畳敷きの廊下だったとかはありますが、とにかく登場人物がみな現代言葉を話したり、著者が関西在住だからなのかは知りませんが、それはもう、吉本興業のノリでわやくちゃです。

それはそうと、2011年に単行本が発刊されている「百万遍―流転旋転 」は、まもなく文庫本が出てくるかなと思って待っているところですが、まだ出てきません。早くこちらも読みたいものです。

著者別読書感想(花村萬月)


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散る。アウト 盛田隆二

2004年に発刊、2009年に文庫化された小説です。(文庫版の)盛田氏の作品は過去概ね読んできましたが、その中ではちょっと異色の作品です。「散る。アウト」は「chill out」とかけていて、意味は「頭を冷やせ」とか「落ち着け」と言ったような意味です。

主人公は大学を卒業し、信州の精密機械メーカーに勤務し、順風満帆な生活をおくっていたものの、ある時から先物相場に手を出してしまいます。結局、その穴埋めでサラ金などから1千万円以上の借金を作ってしまい、妻は逃げだし職場からは追われ、借金取りから逃れるために東京の公園で寝泊まりしています。

日比谷公園で遠く中国やモンゴルから飛来する黄砂を浴びながら、死ぬことだけを考えていたところ、外国人との偽装結婚にスカウトされ、モンゴルへ飛び立つことになります。

そこで現地の女性と結婚式をあげ、証明書を発行してもらって帰国する予定が、同行していた男性がホテルで何者かに殺され、事件に巻き込まれてしまいます。その辺りから盛田作品には今までなかったハードボイルド的な展開となってきます。

モンゴルは元々社会主義国で日本との関係はそれほど深くはなかったものの、ここ数十年のあいだは様々なODA援助や資源輸入など関係は深まってきています。日本からも毎年2万人程度が観光やビジネスで訪れ、日本の国技と言える大相撲の力士ではモンゴル勢が上位を占めているのは両国の友好に貢献しています。

しかし、モンゴル国内はと言えばまだまだインフラ整備が遅れ、治安も悪く、ストリートチルドレンが多いなどアジアの中でも経済発展が遅れています。おそらくそのようなモンゴルの姿を著者が目の当たりにして、創作意欲をかき立てられたものと思います。

以前の社会主義国によくある外貨稼ぎのために観光客を誘致し、その観光客が辿るルートだけは見かけ上綺麗にしておくものの、一歩裏道に入ると腹黒い役人や様々な利権を手にするマフィアが暗躍し、捨てられた子供達が路上で必死に生きているという貧しい国の姿がよく伝わってきます。

主人公の日本人はモンゴルに着いてからは、ひ弱ながらも懸命に生きようともがきながら、やがては運命にまかせてロシアへ、そして再び日本へと帰ってきます。最後の終わり方がちょっと気に入りませんが、この主人公のその後を描いた続編を期待したいところです。

著者別読書感想(盛田隆二)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

盗作 (上)(下) (講談社文庫) 飯田譲治・梓河人

飯田譲治氏はどちらかといえば小説家というより映画監督や脚本家としてのほうが有名で、監督・脚本作品としては「NIGHT HEAD 劇場版」(1994年)、「らせん」(1998年)、「アナザヘヴン」(2000年)など、その他「世にも奇妙な物語」など数多くのテレビドラマの脚本等を書いています。

この小説は2006年に単行本、2009年に文庫化されました。梓河人氏との共作はこの「盗作」をはじめ、いくつかの小説でおこなわれていますが、実際この梓河人氏がいったいどのような人か調べてもよくわかりません。謎ですね。

この小説を読み始めたときは、女子高生の学園ドラマかと思いましたが、そうではなく、ちょっと精神世界に踏み込むオカルトチックなテーマのものです。

主人公の女子高生に、ある日突然天から神が降臨してきたような超常現象が起き、筆をとりがむしゃらに絵を描くことになります。そしてその絵を見ると誰もが呆然としてしまう傑作が出来上がっています。そしてその絵が全国的に話題になるも、やがてそれがあるモザイク絵とうり二つだということが判明し、盗作の疑惑をかけられてしまいます。

時は過ぎ、主人公は社会人になって東京で地味なOL生活をおくっていた時、やはり絵を描いた時と同じような突然のひらめきで、歌を作詞作曲します。これがまた大ヒットして多額の印税を手にすることになりますが、今度はオーストラリアの原住民アボジニが歌う曲とそっくりということがわかり、再び大きな非難を浴びてしまうことに。

本人は絵にしても曲にしても元の作品とはまったく接点がないのに、なぜそのような瓜二つの作品ができてしまうのかという奇妙な出来事に打ちひしがれてしまいます。自分の頭に浮かんだひらめきを作品にすることが芸術だと信じていたものの、それが盗作だと言うことになれば、創作とはいったいなんだという疑問にぶつかります。

そして盗作の疑惑をかけられたまま、逃げ出すように結婚してアメリカへ渡り、子供も授かり幸せな暮らしをおくっていた主人公は、三度自己の欲求を抑えることができず、夫の制止を振り切り、家を飛び出して今度は大河小説を書くことになります。その小説がなんとノーベル文学賞を受賞することになりますが、果たしてその作品は、、、という最後までドキドキハラハラの展開です。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

黄昏の百合の骨 (講談社文庫) 恩田陸

2004年発刊、2007年に文庫化されたミステリー作品ですが、初出は文芸誌メフィストで2002年だったということで、10年以上前に書かれています。デビュー後10年が経ち、人気作家として次々とヒット作品を発表していた頃でもあります。

三月は深き紅の淵を」(1997年刊)、「麦の海に沈む果実」(2000年刊)の続編で、主人公だった水野理瀬のその後が描かれていますが、実は読み始めてからそのことを知り、その前作は読んでいません。道理で複雑な人間関係がすでに知っているものとして次々登場し、この作品から読み始めると、その複雑な縁戚関係、人間関係がどうなっているのかがすぐにはつかめません。ちょっと失敗してしまいました。

そう言うときはいったん読むのを中止して、前作から読むのが筋なのですが、気がついたのがもう半分近く読んでからでしたので、ままよと最後まで読むことに。

貴志祐介氏の「黒い家」のように、とかく変な噂と謎が多く近所の人から「魔女の家」と呼ばれ、室内にはいつも白百合が飾られている家で、そこの住人が連続して事故死する事故が起きます。その亡くなった祖母の遺言で留学中のイギリスから帰ってきてその家に住むようになった主人公の高校生は、同居する伯母や京都から法事にやってきた従兄弟とその謎について調べていきます。

恩田陸氏の小説にしては、ちょっと過激なシーンが多くて驚きですが、ストーリーを盛り上げていくにはそのような場面も必要なのでしょう。そして最後の最後までドキッとさせられるのもちょっと意外な感じで、これですべてが終わったとは思えない結末となり、またそのうち続編が出てきそうです。もう出ているのかな?よく知らないけど。

著者別読書感想(恩田陸)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

兎の眼 (角川文庫) 灰谷 健次郎

灰谷健次郎氏は、貧しい家から苦労して大学を出て、小学校教員を務めながら小説を書いていた苦労人で、その中の短編小説「笑いの影」(1962年)では、部落解放同盟から差別小説と激しく糾弾を受け、身内の不幸などもあり、その後教師を辞めています。

小学校教員としての経験を生かして文筆業に入り、実質のデビュー作品となるこの「兎の眼」は1974年に発刊され、児童文学の傑作として、ミリオンセラーに輝き、1979年には壇ふみ主演で映画化もされています。ということで、今さらながらと言われそうですが、人からのお薦めで読んでみました。

児童文学というと、小学生向けの文部省推薦図書というイメージを持っていましたが、実際はそうではなく、この小説は小学生でも読みやすくなっていますが、それよりも子供を持つ親や、教員を目指す若い人達にぜひ読んでもらいたい小説です。

小学生の教師を主人公にした小説は、古くは壺井栄氏の「二十四の瞳」や、伊集院静氏の「機関車先生」、湊かなえ氏「往復書簡(二十年後の宿題)(映画「北のカナリアたち」の原作)など数多くありますが、その中でもこの作品は特に秀逸と言えるものでしょう。発刊当時ミリオンセラーを記録しているので、おそらく65才以上の人はよく馴染みがあるのではないでしょうか。

ストーリーはゴミ処理施設が近くにあり、その処理施設で働いている貧しい家庭も多い小学校へ赴任してきた新任の女性教師が、子供やその親、同僚の先生に支えられて差別や子供の教育を学び、自らも成長していく姿を描いています。

中でもゴミ処理場近くに住み一言も喋らず暴力的な性格の問題児が、ハエのことになると夢中になり、それをきっかけとして先生が文字を教え、心の交流をしていくところは感動します。またそのゴミ処理場で働く祖父が実は早稲田卒のインテリで、戦争中には壮絶な思いをして朝鮮人の友人を失った記憶を訥々と語るところなども、物語にいいスパイスを効かせています。

また教頭の反対を押し切り、知恵遅れの子供を養護学校に行くまでしばらくの間、普通の小学校で預かることを受け入れ、最初は様々な問題を起こし、生徒や父兄からの激しい非難や苦情をうけながらも、やがては生徒や同僚教師の助けが得られ、保護者達にもこれこそ本当の教育だと理解されていくところは感動さえ覚えます。

解説に書かれていましたが、この本を読むことで、教師を目指している若者から「このようなたいへんな試練があるのならとても自分には勤まらない」という感想が出てくるのはすごくまともなことで、単に「子供が好きだから」「人に教えることが好き」というだけで教師にはなってもらいたくはないと思う反面、そうした問題意識を心の隅に置いているのなら、もう立派な教師の卵になっているとも言えます。

この小説は40年前の小学校の姿ですが、登場する一部の保護者のモンスターぶりや、子供のことよりも自分の出世や学校の評判ばかりを考えている上司(教頭)などいまの学校となにも変わっていないようです。そうした発見ができるだけもこの小説をよむ価値はありそうです。久しぶりにいい本に出会えました。

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すベてがFになる (講談社文庫) 森博嗣

森博嗣氏1996年のデビュー作として有名な同著ですが、その時すでにシリーズものを何作かは書いていてこの作品はシリーズ4作目となるそうです。

デビュー作にはインパクトのあるものからということで、この作品がデビュー作となったようです。

他にも似たようなタイトルの作品があり、もう読んだものとばかり思っていたらまだだでした。遅ればせながら。

森氏の作品にはこの作品を含む「S&Mシリーズ」の他に、「スカイ・クロラシリーズ」「Vシリーズ」「Gシリーズ」などが有名で、その他にも多数の著作物があります。

私が過去に読んだことがあるのは「Zシリーズ」の「ZOKU」だけです。あとアニメ映画になった「スカイ・クロラ」は見ましたが、それだけみても多才な人だということがわかります。

2005年に退職するまでは名古屋大学工学部助教授で、異色の作家と言えますが、工学部だけにSF的な発想と知識はお得意です。

ストーリーは、主人公のN大学助教授犀川創平と犀川の恩師の娘である西之園萌絵(犀川と萌絵でS&Mコンビ)が、天才プログラマ真賀田四季博士が幽閉されている真賀田研究所がある島へ行くことになり、そこで殺人事件に巻き込まれることになります。この著者が書く小説の登場人物名はいつもユニークです。

真賀田四季博士が島で軟禁状態にあるのは、若くしてアメリカの大学を卒業し、天才と言われていたものの、その後両親を刺殺したということによります。

精神病の末の犯行ということで、刑務所ではなく両親が作った研究施設の中で数十年ものあいだ幽閉され、医者の監視下におかれています。その中で起きた密室殺人の謎を解いていくわけですが、数学的な話しもあり複雑で内容を理解するのに結構疲れました。

この小説が発刊されたのは1996年なので、書かれたのがその前年1995年だとすると、社会ではWindows95が登場しインターネットが使われ始めた頃です。

しかしこの小説の中ではネットやPCがごく普通に使われていて、VR(バーチャルリアリティ)技術や、リモートコントロール、コンピュータの音声案内、自律的なロボットなど、当時としてはまだほとんど実現していなかった場面が展開されています。それが当たり前になった今では、この小説が示す近未来想定に共感を覚えます。

文庫版で500ページを超す長編で、それなりに科学的な興味と面白さもありますが、技術的な面以外では無理をしていて、突拍子もない素人っぽい部分が目立ち、子供騙しとまでは言わないまでも、いい大人が真剣に読んだり感想を書くものではないかなとも。またこういった漫画的な小説にあまりリアルさを求めてもいけないのでしょう。

著者別読書感想(森博嗣)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

マンチュリアン・リポート (講談社文庫) 浅田次郎

蒼穹の昴」「珍妃の井戸」「中原の虹」から続く近代中国・満州を描いたシリーズで、「中原の虹」を完結してから3年が経ち、すっかり忘れた頃にようやく文庫として登場しました。

簡単にシリーズをおさらいをしておくと、「蒼穹の昴」は清朝(1616年~1912年)末期、貧しい家の出身で踊り子だった李春雲が苦労を重ね宦官となり、やがて頭角を現し宦官の中でもトップの座に就きます。

そして悪女として名高い西太后に仕え、内憂外患の滅び行く清朝を懸命に守り建て直していこうとする姿を描いたものです。日中合作でドラマ化され、NHKで放送されてました。

続く「珍妃の井戸」は、清朝滅亡を一気に加速させることになる義和団の乱(1900年)が取り上げられています。

今までは清朝末期の話しといえば「ラストエンペラー」で有名な宣統帝、愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)を描かれることが多いのですが、浅田次郎氏は先の「蒼穹の昴」とともに西太后を中心して描いています。

そして「中原の虹」は義和団の乱のあと起きた日露戦争(1904年~1905年)が日本の勝利で終結した後、列強各国に蹂躙されていく統治者がいなくなった中国で、馬賊出身の張作霖(1875年~1928年)が東北部(満州)で勢力を増し、やがては長城を超えて北京へと進出していく過程と挫折が描かれています。

そしてこの「マンチュリアン・リポート」です。直訳すれば「満州報告書」。

清朝末期の1900年初頭、満州全域を制覇し、さらに清朝が滅亡した後、主導権争いで群雄割拠する北京へ入り、中国統一へ野心をのぞかせていた張作霖でしたが、北伐で勢力を増してきた国民党(国民革命軍)との争いに敗れ、地元奉天へ引き下がることを決め、その際に何者かによって列車ごと爆殺(1928年6月4日)されてしまいます。物語はその1年後から始まります。

裕仁親王(昭和天皇、当時27才)はその張作霖暗殺事件を曖昧にする田中総理大臣を更迭し、事件の真相を調べるため、軍紀を乱したと投獄されていた日本帝国陸軍の志津中尉に白羽の矢をたて中国へ送り込み、その中尉が定期的に送ってくる報告書という体裁で、真実に迫っていきます。

主人公は報告書を送る志津中尉と、その報告書の間に登場する25年以上前に西太后に贈られた英国製の蒸気機関車を擬人化した鋼鉄の公爵。

そう、張作霖を乗せて北京から奉天へ向かう時に使われた蒸気機関車です。とは言うものの、喋る英国の蒸気機関車といえば「機関車トーマス」か「チャギントン」がすぐに頭に浮かんできてしまい、シリアスなドラマになにか妙な感覚を覚えます。

清朝の後の中華皇帝に手が届く寸前のところまでいきながら思いを果たせず、暗殺されてしまう張作霖は、私の中では天下統一の前に倒れた織田信長や、自分が関わってきた新しい日本を見ずして倒れた坂本竜馬のイメージとダブります。

その暗殺には関東軍参謀が関わったという説が有力ですが、それ以外にもスターリンの命を受けておこなわれたなど諸説があり現在でも確定はされていません。

この暗殺、一般的には線路や列車に仕掛けられた爆弾が炸裂してというイメージが強いのですが、事実は線路同士が交差する上の橋を爆破して下を走る列車を押しつぶすというもの。しかも押しつぶせるのは、19輛編成のうち、せいぜい1~2輛という難しさです。

それには張作霖がその時に乗っている車輌を知らなければならず、また駅が近くてスピードは落としているものの、列車は走っているので、その車輌が通過するタイミングで爆破しなければならず、緻密な計画と練度の高い技術が要求されます。

そうした中でこの志津中尉に代弁させた浅田次郎氏が導き出した結論は、、、ということは読んだ人だけの楽しみとしておきましょう。そしてこのシリーズはここで終わってしまうにはなにか中途半端な気もするので、これに続く新たな小説が今後の楽しみです。

この浅田次郎氏のシリーズは史実を追い実在の人物の名前もたくさん出てきますが、基本的にはフィクションの小説であるということを十分理解しておかなければ、時々書評で見かけるようなトンチンカンな感想になってしまいます。それは史実とフィクションをごっちゃにしてしまっていることによるでしょう。

著者別読書感想(浅田次郎)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

砂の上のあなた (新潮文庫) 白石一文

ほかならぬ人へ」(2009年発刊)で直木賞を受賞し、その翌年に発刊された2010年の作品(文庫の発刊は2013年3月)です。

主人公は結婚して家庭に入った30代女性。子供が欲しくて計画妊娠など手を尽くしているその女性の元に、突然見知らぬ男性から「亡くなられたあなたの父親の手紙がある」と電話がかかってきます。

その手紙は主人公の父親から愛人に宛てたもので、筆跡や内容から父親が書いたもので間違いなく、死後はその愛人と一緒になりたいと書かれています。

もうそれだけでもひとつの大河ストーリーが出来上がりそうですが、話しは中盤以降、思わぬ方向へと進んでいきます。詳しくは書きませんが、まったく予想外の展開で、これは家族というより、なにか人間の縁とか運命を強く感じさせられるドラマに仕上がっています。

ただひとつの小説に「妊娠したい女性」「夫とのすれ違い」「亡くなった父の愛人」「突然現れた魅力ある男性」「自分の名前の謎」などいろんな展開を詰め込んでしまったがゆえに、話しがあっちへ飛んだりこっちへ戻ったりと散らかってしまった感はゆがめませんが、前半部分の緩やかでけだるい進行から、後半は展開の早い推理小説のような趣となります。

親が高齢で亡くなると、それまで背負ってきた長い人生には、実の子も知り得なかった様々な葛藤や歴史があり、それを子供が知ることが果たしていいことかどうかは賛否あるでしょう。ただ好きだった肉親に関することをもっと知りたいという欲求もまた起きるでしょう。

今年の暮れに映画上映される百田尚樹氏の「永遠の0」も、特攻で亡くなった祖父のことを孫達が調べ歩く小説ですが、若い人の自分のルーツ探しが今後流行していくかもしれません。

映画「真夏のオリオン」(原作は池上司氏「雷撃深度一九・五」)も、孫が亡くなった祖父のことを聞きに祖父の戦友を訪ねるところから始まっていました。

著者別読書感想(白石一文)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

寝ながら学べる構造主義 (文春新書) 内田 樹

街場のメディア論」や「下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉」など、社会の流行をバサバサと切る歯に衣着せぬ言論でお馴染みの著者ですが、その代わりに敵も多そうで、Twitterなどではよく非難の的となったりしてよく話題に上がっていたりします。

この本は2002年に発刊されたものですが、いかにも難解そうな思想哲学「構造主義」について、気楽に読んでも理解ができそうに工夫して書かれています。本は漫画しか読まないという人には無理かも知れませんが。

「構造主義」とは一言で言えば、、、と書こうと、Wikipediaを読んでみてもさっぱりわかりません。「狭義には1960年代に登場して発展していった20世紀の現代思想のひとつである。

広義には、現代思想から拡張されて、あらゆる現象に対して、その現象に潜在する構造を抽出し、その構造によって現象を理解し、場合によっては制御するための方法論を指す言葉である。」とこんな調子です。入り口でこれですから、興味がなければさらに深く突っ込んで学ぼうとは思いません。

本書ではそういう難解な説明は極力排除されているとはいえ、いきなり読むとやはりついて行けません。特に「寝ながら」読むとそのままぐっすり寝込んでしまいます。

マルクス、フロイト、ニーチェ、フーコー、ソシュール、バルト、レヴィ-ストロース、ラカンなど思想家達のこと、構造主義が出来上がってきた歴史的背景、その他関連する逸話など、寝ながらではとても理解できませんが、最低限の教養というか身だしなみとして知っておくことができるかもしれません。

巻末のあとがきに書かれていた「レヴィ=ストロースは要するに『みんな仲良くしようね』と言っており、バルトは『ことばづかいで人は決まる』と言っており、ラカンは『大人になれよ』と言っており、フーコーは『私はバカが嫌いだ』と言っているのでした。」というまとめが象徴的でした。

著者別読書感想(内田樹)


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