リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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パイレーツ―掠奪海域― (ハヤカワ文庫NV)
この作品は2008年に亡くなったマイケル・クライトン氏が亡くなった後にパソコンの中から発見されたものだそうです。もう一作未完の作品「マイクロワールド
同氏の名を一躍高めたのは映画にもなった「ジュラシック・パーク
内容はかなり映像化されるエンタテーメントが意識されたもので、インディジョーンズのような、いわゆるノンストップアクションです。1600年代後半、周辺はすべて大スペインが支配しているカリブ海の中にあって唯一のイギリスの植民地(ジャマイカ島)に住むエリート私掠船船長が、スペインが支配する難攻不落の要塞を攻め、そこに停泊中の商船を奪取しようとする物語です。
「私掠(しりゃく)英語:privateer」とは、「戦争状態にある一国の政府からその敵国の船を攻撃しその船や積み荷を奪うこと(wikipedia)」で、私掠船はその国から私掠免許をもらった船長が乗る船という、あまり日本では知られていない言葉です。いわば政府公認の海賊のようなもので、敵対する国の財宝を奪う職業です。
その私掠船船長で新大陸アメリカにできたばかりのハーバード大を出た英国人ハンターは、スペインの軍艦との戦い、要塞攻撃、ハリケーン、伝説の怪物クラーケンとの死闘、人食い族からの女性救出など次々と困難を乗り越え、奪った商船をジャマイカへ持ち帰ってきます。しかし上陸すると新しく赴任してきた英国人官僚達がクーデターを起こしていて、いきなり逮捕、監禁され、死刑が言い渡されることに。
なんともはや冒険譚のすべてがここに凝縮されているといえるストーリーですが、もしクライトンが長生きしていたら、この船長を主人公にして続編も考えられたでしょうに、それが読めないのが残念です。
◇著者別読書感想(マイケル・クライトン)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
太平洋の盃―ソロモンの賦
帝国海軍で戦闘機パイロットだった著者は、九九艦上爆撃機でガダルカナル島を攻撃中、米軍に撃墜され捕虜となり、終戦後に帰還して多くの小説や歴史書を残しています。その中で「長良川
この「太平洋の盃」は、今から33年前、1979年に書かれた小説で、表題作のほか、いくつかの短・中編集として構成されています。そのいくつかには太平洋戦争中の軍人と庶民の生活ぶりが小説として描かれていますが、途中からは史実や実体験に基づいた軍人の生き様、死に様など特定個人に関するドキュメンタリーに変わります。したがって、どこまでがフィクションの小説で、どこからがノンフィクションなのかその区別がつきにくくちょっと混乱します。
表題作の「太平洋の盃」は明らかにフィクションで、ハワイに住む日本人移住者(移民一世)が住む近くに真珠湾攻撃で傷ついたゼロ戦が不時着し、負傷したパイロットを救出し手当をします。その一家には年頃の娘がいて、そのパイロットを世話するうちに関係ができてしまいます。
しかしハワイの地元住人に日本人パイロットを匿っていることが知られ、当然敵国人として米軍に通報されそうになります。そこでそのパイロットを逃がすために一家は船で無人島に移そうとします。その船の中でパイロットと娘は簡単な祝言(夫婦の盃)をあげることになります。しかしその漁船はやがて米軍の哨戒艇に発見されます。
そのような表題作の他に、艦隊司令長官だった南雲忠一大将や、上海事件の後中国軍の捕虜となった空閑昇(くがのぼる)陸軍少佐の不運な戦いと悲劇について史実に基づき書かれています。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
獄窓記 (新潮文庫)
元衆議院議員で、秘書給与流用の詐欺で実刑を受けた著者が、その刑務所内の生活を主に、判決を受けるまでと、出所した後について書き下ろし、2004年に出版したのがこの「獄窓記」です。同じように自分の刑務所体験を描いた佐藤優氏の「国家の罠」(2005年)や、ジェフリー・アーチャー氏の「獄中記 地獄篇」(2003年)などがあります。今後ホリエモンも出てきたらきっとその体験談を書くのでしょう。
同氏の著作では少し前に、障がい者と犯罪について書かれた問題作「累犯障害者
私は前作「累犯障害者」を読んだ後、著者をものすごく応援したい気になりましたが、この「獄窓記」では、自分が犯した犯罪について一方的な解釈や都合のいい取り上げ方をして、片方では深く反省していると何度も繰り返すことで、著者の性格には極端な裏表がありそうで、どうも好きになれません。
誰でも性格に裏表があるのは仕方がないにしても、きれい事を並べた後に、深く反省の弁を述べ、自分より偉そうな人に対しては必死に持ち上げてみたり、逆に若造にはけしからんという態度を見せたりし、特に現場で働く刑務官や他の囚人に対しては「俺は君たちとは違って博学だしエリートなんだぜ」という意識がみられこれぞ政治家の正直な姿といわんばかりです。現在は違いますが「選ばれた人間なんだぜ」と勘違いしている政治家が発する政治家臭と言い換えられるかもしれません。
誰でも極限状態に置かれると、その人の本性が現れるといいますが、出所後まもなく書かれたこの本では、より強くその傾向が出てしまったようで、その2年後に書かれた名著「累犯障害者」はそういう臭いがしなかっただけに、本当に同じ人が書いたものかと疑ってしまいそうです。あるいは編集者がベテランに代わったのかもしれませんね。
それはそうと、刑務所の中には健常者ばかりがいるわけではなく、医療刑務所に入れない身体障害者、精神薄弱者、痴呆の高齢者なども多く服役しているというのがこの本を読むとよくわかります。そのような健常者でない囚人は一般社会と同様に刑務所の中でも差別され、場合によっては同じ囚人同士で酷い仕打ちを受けることもあります。
また予算削減と犯罪者の増加でどこの刑務所も定員を大きく上回っている中で、人員不足の刑務官の仕事の厳しさとストレスは相当なものがあるようで、そのストレス発散の矛先が囚人に向かってしまうという悪循環も無視できません。そして時々その一端がマスメディアに報道されますが、刑務官が任務に乗じて抵抗できない囚人に対して、嫌がらせや暴力をふるう事件が、実態として多くありそうです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最後の証人 (宝島社文庫)
著者の柚月(ゆづき)氏は43歳、2008年のデビュー作品「臨床真理
本のタイトルに「最後の証人」とあるので、読み始めてすぐに「最後に登場する証人が判決をひっくり返すのだろう」というのが容易に想像でき、それまではその伏線ということになります。
ストーリーは飲酒運転事故により亡くなった子供の仇を討とうする両親が中心になって展開されますが、その中で起きる殺人事件の被告から弁護の依頼を受けたのが上述の佐方弁護士です。
この佐方弁護士がなぜ検事を辞めたのかという理由も出てきますが、警察や検察局の隠蔽体質については昨今のよく報道されている通りでまったく変わっていません。
この小説に書かれているような、警察や検察の身内かわいさによるもみ消しなどは全国どこでも起きていて不思議ではありません。佐々木譲氏の北海道警シリーズにもそのような警察内部の犯罪がよく書かれています。
この小説の場合、よく考えて構成が作られているものの、ちょっと内容自体が現実的ではなく、ネタバレするのでここでは書けませんが、かなり無理をしているところがあります。そうしたところがちょっと惜しいかな。
このような法廷ドラマ(小説)は特に海外モノでよく見掛けますが、有名なところでは「十二人の怒れる男
◇著者別読書感想(柚月裕子)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あぽやん (文春文庫)
デビューから9作目にして、2008年上半期の直木賞候補(受賞は逃した)となった作品です。読むまではなんの知識もなく「あぽやん」というタイトルから大阪が舞台のコテコテの作品かなと思っていたら、全然違いました。
「あぽやん」の「あぽ」は「APO」でairport(空港)の略称。そこで勤務するいわゆる地上旅客対応要員のことだとか。一般的には国際空港勤務といえばエリートのような感じがしますが、大手の旅行会社では、空港勤務というのは左遷と同じで、キャリアアップにもつながらず、営業から頼まれたムチャ振りを含め、旅行客の無事に送り出すだけの雑用係とか。
大手航空会社子会社の海外旅行専門旅行代理店の本社に勤務する独身男性が、上司の不評をかってしまうことになり、成田空港事務所へ飛ばされ、そこであれやこれやのトラブルに見舞われます。
当初は適当にしのいでいればまたすぐに本社へ戻れるだろうぐらいの安易な気持ちでやっていたところ、意識がだんだんと変わってきて、やがては「あぽやん」として一人前になろうとする前向き青春ドラマです。
いずれにしても著者の新野剛志氏は大学卒業後6年間は旅行代理店に勤務していたそうで、そこでの経験や、同じ旅行代理店の知り合いなどから聞いた実話に近い話しがコメディタッチにまとめられています。続編の「恋する空港―あぽやん〈2〉
こういうたぐいの小説は比較的テレビドラマになりやすいので、そのうちきっと制作されることになるのでしょう。そのとき果たして小説の中では主人公が勤務する企業の想定とされるジャルパックが全面協力するかどうかは微妙なところです。お堅そうな会社ですからね。主人公役はなんとなく妻夫木聡って感じがします。
◇著者別読書感想(新野剛志)
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4月上旬の読書 2012/4/18(水)
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大人もぞっとする初版『グリム童話』―ずっと隠されてきた残酷、性愛、狂気、戦慄の世界 (王様文庫)
ドイツの古い民話・伝説を収集して書かれたのがグリム童話の原点だということですが、現代に知られている作品とは大きく違い、その内容は子供に聞かせるにはちょいと過激な内容のものが多く、時代を経て少しずつその内容が書き換えられてきました。
そのグリム童話の初版に書かれた内容を翻訳したのがこの本です。
しかし実際に読んでみると、事前に思ったほどは普通で、子供だって生きるの死ぬのといったことには興味があり、子供達が毎日見ている昨今の過激なテレビドラマやバラエティと比べるとずっとマシに思えてくるから不思議なものです。
それよりもそれぞれの物語で本当はなにを言いたいのか?なにを警告しているのか?ということを無視して、意味のないおとぎ話を創り上げてしまったディズニー映画のほうが問題なんじゃないかとちょいと感じたりもします。
もちろんおとぎ話仕立てにしたのはなにもディズニーだけではなく、グリム兄弟も世間の評判を聞いて次々と内容を変えていったそうです。
そしてタイトルにあるような「残酷、性愛、狂気、戦慄の世界」のようなおぞましい内容と思えるところはほとんどなく、それだけ現在身近に起きている事故や事件や災害が、古い伝承を大きく上回るまでに至ってしまったということになるのかも知れません。なのでちょっと期待はずれの感もありました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
プロフェッショナル〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕 (スペンサー・シリーズ)
いよいよパーカー最後の作品まで残り少なくなってきましたが、2009年に出版され、つい先日ようやく日本で文庫化された作品です(単行本は高くて買えない)。
ボストンの私立探偵スペンサーシリーズもこの作品を含め残り3作品となります。
この作品では派手なアクションはなく、金持ちの若い妻ばかりを狙って親密交際し、やがて金をゆすり取ろうとする魅力あるジゴロと、その強請をやめさせて欲しいと依頼されたスペンサーとの関係が楽しめる作品です。
話しの前半は、スペンサーもやがて好意すら持ってしまうそのジゴロというか女たらしの男性のことをずっと調べあげ、後半はその男に入れあげるセレブな若妻を中心として物語が進んでいきます。
スペンサーの魅力ある相棒ホークもヴィニィも登場しますが、その腕前を披露する機会はまったくなく、淡々としたストーリーで盛り上がりには欠けます。
しかしこれは派手なアクションを楽しむのではなく、落ち着いてスペンサーの会話を楽しむモノなのでしょう。
著者のパーカー自身もかなり高齢(77歳頃)の作品なので、スペンサーの思考法にもその老成したところが見え隠れする、じっくりと読ませてくれるたいへん面白い一品です。
◇著者別読書感想(ロバート・B・パーカー)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜を賭けて (幻冬舎文庫)
先般、山本周五郎賞を受賞した「血と骨
この小説を原作とした映画も作られていて、昨年反原発で一躍有名人になった山本太郎氏が主演し、韓国に昭和30年頃の大阪をオープンセットで再現して2002年に制作されたものです。
その「血と骨」の中にも同じような時代と風景が登場しますが、戦後まもなく大阪城のすぐ近くにあった東洋最大と言われた大阪砲兵工廠跡を舞台にし、在日韓国・朝鮮人が差別や貧乏にまみれ、また警察やヤクザと闘いながら鉄くず拾いで必死で生きていく姿が描かれています。
戦後にこの大阪砲兵工廠跡で鉄くずを集めて売り飛ばしていた話しは、開高健氏の「日本三文オペラ
戦後から10年と言えばまだ日本も貧しく、日本に残った韓国・朝鮮人の生活もたいへん厳しいものでした。
そんな中で、終戦直前の8月14日に米軍B29の大空襲で徹底的に破壊しつくされた大阪砲兵工廠跡には、掘れば軍需物資や鉄のかたまりが生き埋めになったまま放置された人間の骨と一緒にザクザク出てきます。
しかし場所は国有地で、そこに埋まっているものは国有財産ということになり、夜中にこっそりと掘り返して盗み出す主人公達と警察がぶつかるのは自然なことです。
ただ警察も混乱時期でもあり、広い工廠跡を昼夜見張ることもできず、いたちごっこが続きます。
また自らの家族を殺害し、出所してからヤクザと関わりのある同胞もやってきて、警察とヤクザと一発当てようとする労働者がこの地を舞台にややこしいことになっていきます。
すでにもうその面影もほとんどなくなってしまった大阪城公園や京橋付近ですが、こういった歴史に埋もれたあだ花の上に1970年の大阪万博(日本国中はもとより世界中から集まってくる観光客向けに大阪城公園が綺麗に整備されたのも1970年)や1990年の大阪花博(会場の鶴見緑地はこの舞台の京橋のすぐ近く)が、その延長線上にあったのだと言うことを知るにはいいことかも知れません。
前半はアパッチ族の話しがメインとなり、後半はガラリと印象を変えます。主人公の1人がその窃盗容疑で警察に捕らえられ、その罪には執行猶予がついたものの、他の思想的な事件に関与してきたと思われ、不法入国者として長崎にあった大村収容所へ入れられます。
大村収容所は刑務所ではなく強制送還するまでの収容所という扱いながら、実態は北と南で戦争が起き、在日間でも対立するコリアン達を押し込めておく場となっていて、そこでの出来事を書くことで、この大村収容所が戦後に在日韓国・朝鮮人に対していかに人権を無視したひどい施設であったかを伝えるためと推測できます。
◇著者別読書感想(梁石日)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ほかならぬ人へ
「ほかならぬ人へ」は2010年、第142回直木賞の受賞作品です。父親で作家だった白石一郎氏は「海狼伝
この本には表題の「ほかならぬ人へ」の他に「かけがえのない人へ」の二編が収録されています。
まず受賞作の「ほかならぬ人へ」ですが、主人公は名門資産家に生まれながら兄達と比較すると才能が大きく劣っていると自覚し、大学卒業後は家を出てスポーツ用品を扱う企業に勤める男性の、ちょっと変わった悲劇で終わるラブストーリーです。
話の先行きがさっぱり予測がつかず、意外なことばかりで、う~むと唸らせられました。
ラブストーリーと言っても先般読んだ越谷オサム氏の「陽だまりの彼女
ここまでならばよくある話しですが、そこから驚きの展開が一気に加速していき、読者をグイグイと引き込んでいきます。
さすがにこれ以上は書けませんが、男性が読んでも女性が読んでもワクワク、ドキドキ、最後はウルウルと、読書の素晴らしさを堪能できること間違いありません。できればもう少し長編で書いてもらいたかったところです。
白石氏の小説は私は好きで文庫化された作品はすべて読んでいますが、なぜか映画やドラマになっていません。しかしこの作品はいずれテレビドラマ化か映画化されるのではないでしょうか。
この作品なら原作者へ映画権の申込みが殺到していてもおかしくありませんが、どうなのでしょうね。
もう一方の「かけがえのない人へ」の主人公は、周りから羨まれる同僚のエリート男性との結婚が間近にせまった29歳の女性。結婚相手とは別に、昔の男(元上司)と寄りを戻して再び深い交際をしているというしたたかさ。
マリッジブルーという言葉が昔からあるけれど、相性のいい昔の男が忘れられず、結婚式直前までフラフラとしているところが、世の中の女性の多くは共感を得られるのでしょう。
男にとってはなんだかとてもやるせない一品です。最後の終わり方がちょっと残念かな。
◇著者別読書感想(白石一文)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジョーカー・ゲーム (角川文庫)
柳広司氏の作品では最初に「トーキョー・プリズン
この作品は日本陸軍のスパイ養成学校を扱った一連のD機関シリーズと呼ばれ、その後も続きますが、この文庫には表題作ほか、幽霊、ロビンソン、魔都、XXと合計5作の短編が収められています。
小説に登場するD機関とは有名な陸軍中野学校を一部モデルとしていると思われますが、第二次世界大戦前の慌ただしく動く国際情勢をにらみ、陸軍の猛反対を押し切って、元スパイだった結城中佐が設立します。
各短編ごとに学校の卒業生や訓練中のスパイ達が活躍あるいは挫折する姿を描いています。
日本は伝統的に武士道の「正々堂々と対決する」という考え方があり、相手の秘密を利用して交渉や戦いを優位にする「スパイ行為など卑怯者のやること」という精神が根強くあります。
しかし同一民族間の争いならともかく、複雑で怪奇な国際間交渉においてはこの情報収集・分析能力は雌雄を決する重要なこととなりますが、日本はその点で世界に大きく後れを取ってしまうことになります。
また映画や小説で描かれるスパイというのは知的で冷酷でそして華々しくスーパーマン的な活躍を要求されますが、ここに登場するスパイは目立たず社会に溶け込み、透明人間になることが求められます。
自分の近くで人を殺めたり逆に殺められたりすること自体は際だって目立つ行為となり、スパイとしては最悪の結果と言うことになります。
いまでは国際的な地位が低くなって、さほど重要視されないとは言え、現在の日本においても世界中の多くのスパイ達がうごめいていることを考えると、なにかとても不気味さを覚えます。
そう言えばまだ英国統治下にあった香港で仕事をしていた時、英国政府ビルの前でなかなか捕まえることができなかったタクシーをやっと停めることができ、ヤレヤレと思って乗り込もうとすると、スーツ姿の白人男性が近づいてきて「どこへ行く?」と聞いてきたので「セントラル」と答えると「俺も途中まで乗せてくれ」と有無を言わせず乗り込んでくる。
相乗りしてどこから来たか?なんの仕事をやっている?など聞かれつつ、世間話しをすることに。
その後なにが気に入ったのか名刺を出して「今度自宅でパーティをするから遊びに来い」とパーティの日時と自宅の住所を書いてくれる。「必ず来いよ」と2回念を押され、その強い押しの雰囲気に逆らえず「All right」と返答。
そして上手な広東語でタクシーの運転手に自分が降りたい場所を伝え、先に降りていきましたが、彼が降りたあと、運転手が私に向いて小声で「He is a spy, England spy.」と言ってニタリと。
唖然として見送りましたが、タクシー運転手にまで知られているスパイとはこれいかにって感じです。
スパイの親玉で有名人だったのでしょうかね。どうしようか少し迷いましたが、仕事も忙しくパーティには行きませんでした。行っていたら人生変わっていたかもしれませんね。
◇著者別読書感想(柳広司)
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永遠の仔 (幻冬舎文庫)
1960年生まれの天童荒太氏の作品は、先に2008年の直木賞受賞作「悼む人
この「永遠の仔」は1999年の作品で、日本推理作家協会賞とこのミステリーがすごい!国内1位を受賞していますが、それよりも2000年に中谷美紀主演でテレビドラマ化され、それを知っている方が多いのではないでしょうか。
小説のスタイルとしては主人公3人の少年少女時代と、17年後の現在とが行き来していきます。
その3人の子供はいずれも親から虐待を受けていて、そのせいで精神的に障害があります。
四国の病院で一時期ともに暮らしていたその少年と少女には、それぞれの秘密を共有する仲間となりますが、ある事件をきっかけにしてその後は連絡を絶ちます。
そして17年後、大人になった3人は川崎市の総合病院看護師、個人事務所を構える弁護士、神奈川県警の刑事としてそれぞれ会うこともなく働いていましたが、看護師の弟を自分の弁護士事務所で採用したことから、その関係が再びつながっていくことになります。
親からの虐待を受けて苦しむ子供や、障害を持つ少年少女が主人公の小説の場合、読み進めるにつれなんとも重苦しい雰囲気になるものが多く、この小説もその例外ではありません。
単行本で上下巻、文庫本だと5巻に渡る長い小説ですが、読み進めていくのがつらくなるほど息苦しさを感じてきます。
そして四方八方に張り巡らされた多くの謎の糸が、じれったいほどなかなか明らかにならず、なぜ?どうして?とその長さを感じなくなるほど読むことに集中したくなります。
そのあたりはいかに読者に飽きさせないテクニックを感じます。テレビで言えば、次回を見ないとその謎がわからないもどかしさを各回の最後に出すようなものでしょう。
このようなスタイルで、子供が犯す過去の犯罪に、読者が肩入れしてしまいそうな小説としては、松本清張の「砂の器」を思い出します。あれも暗くて重い小説でした。
それと雫井脩介氏の「犯人に告ぐ
◇著者別読書感想(天童荒太)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
eの悲劇 (講談社文庫)
幸田真音氏の経済小説は割と好きで「マネー・ハッキング
で、この「eの悲劇」2001年ですが、毎度情けないことに文庫になってまもなく2004年5月に購入していて既読でした。道理でどこかで聞いたことのある話しだなと頭の片隅で思いながらも、最後まで既読とは知らずに読みふけりました。
記憶障害なのか、あぁ情けない。幸田氏も本のタイトルより著者名だけつい買ってしまう作家さんなのでこういうことがしばしば起きます。
内容は、短編連作の小説で、元腕利きの金融トレーダーだった中年男が、ある部下のミスをかばって辞職に追いやられてしまい、現在は金融界から足を洗って警備会社で警備の職に就いています。
その現場で起きる様々な出来事や事件に絡んで、過去の人脈や知識が生かされて、活躍をすると言ったものです。
連作の最後の短編では、昔勤務していたことのある銀行の金庫の中に取り残されてしまい、それを開けるためのパスワードを外に伝えるため、モールス信号を使うところなどは、金融とはまったく関係のないことですが、なかなか凝った味のある設定です。
モールス信号なんてもう誰も知らないとだろうと思っていたら、意外なところで使われていたり勉強している人がいるものです。
◇著者別読書感想(幸田真音)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
真紅の歓び (ハヤカワ・ミステリ文庫)
1989年初出の作品で、日本語の文庫化がされたのは1995年、探偵スペンサーシリーズでは15作目になる作品です。
パーカーの作品では珍しく、通常は「私」が語る一人称が多い中で、この小説では犯人と思わしき人物が淡々と独り言のように語っているところがあります。
その犯人とスペンサーの推理が最初は遠いところにあるものの、徐々に近づいていき、最後には交わっていくところがなんともスリルがあって楽しめます(実際は犯人自らから近づいていったのですが)。
内容は、黒人の中年女性が惨殺される事件がボストンで相次ぎ、ボストン市警のクワークに頼まれてスペンサーも犯人捜しを始めます。
そして別のよく似た事件が起き、その犯人が捕まりますが、クワークもスペンサーも犯人は別にいることを確信します。しかし連続殺人事件を早く決着したい人達の妨害を受けながら、引き続き真犯人捜しを続けることになります。
タイトルは、犯人が警察やスペンサーに対する挑戦状を突きつけ、さらに女性を殺した現場に真っ赤な薔薇を残していくという、快楽殺人に通じるところからきているのでしょう。
このシリーズの中には、殺し屋に狙われ命からがらということも多い中、この作品ではそのような場面はなく、そして最後はあっけない幕切れとなり、悪役がサイコっぽい異常者だとしてもどうも小粒すぎて、相棒ホークが活躍するシーンもなく、やや全体に物足りなさを感じます。
この作品では派手なアクションではなく、恋人スーザンとの知的でエロチックな会話や、スーザンの精神科医としての専門性を生かした犯人の行動分析などに重点を置いた楽しみ方をするのが正しいのかも知れません。
◇著者別読書感想(ロバート・B・パーカー)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
プラチナタウン (祥伝社文庫)
正直言ってこのような中高年者が会社から追われ、見返してやろうと捨て身で奮闘する小説やドラマがとても好きです。
まず似た境遇で理解しやすく感情移入がしやすいのと、最初このようなつらい目に遭うと、最後は概ねハッピーエンドで終わると想像ができるからです。
私と同い年の楡周平氏はデビュー作「Cの福音
文庫化された本はほぼすべて読んでいますが、今回も例外なくワクワクドキドキの面白さでした。
元々犯罪絡みや暗黒街の世界をリアルに描く作家さんでしたが、2000年前後からは企業小説やコミカルなものまで幅を拡げた作品を発表されています。
今回の作品は民間企業と地方の役場という事業に関しては対照的な取り組みや考え方を前面に出し、苦難に立ち向かう主人公を応援しながら元気が出てくる内容となっています。
ストーリーは、宮城の農村出身ながら一流商社へ入り、順調に部長まで昇進してきた50歳超の主人公が、ある些細なつまずきにより、上司からおそらく復帰の見込みがない左遷を言い渡されます。
時を同じくして、出身地の町役場に勤めている中学校の同級生から「次期町長選挙に出てくれないか」と依頼されます。
その町というのが、地方によくありそうな公共事業で箱ものばかりを作り、その維持費用や地方交付税の削減により大きな財政赤字を抱え、数年後には夕張市のように財政再建団体に入ってしまう寸前のひどい状況です。結果、誰も町長選挙に出る人はなく、この町出身の主人公に白羽の矢が立ったわけです。
当然、そんな町に戻る気はなかったものの、酔った勢いでOKしてしまい、それが地元新聞にも掲載されるまでになって、後に引けなくなってしまいます。
他に立候補もなく、当選を果たした主人公を待ち受けているのは、町の大きな借金だけでなく、やる気のない公務員と利権にめざとい町議会議員です。
そういった環境の中で、真っ当な営利ビジネスの最前線で闘ってきた主人公がこの地方都市をプラチナタウンにするまでの苦難のドラマです。
日本社会は待ったなしに高齢者の生き甲斐や健康、介護、医療などの問題を解決していかなければなりません。
現在都市部に多くある民間の高齢者施設、いわゆる老人ホームはビジネスホテルのような狭く貧相な部屋か、億の単位が必要な高級な場所かの二通りに限られています。
さらに賃金が安いせいで常に介護士不足が続き、十分な介護が受けられません。この小説ではそれら問題を解決するひとつの方法を示しているものです。
◇著者別読書感想(楡周平)
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588
鹿男あをによし (幻冬舎文庫)
京都が舞台の「鴨川ホルモー
物語は大学院で研究員として務めている主人公が、研究室の不和の原因となっていることから、教授から奈良の女子高へ臨時教員として行くことを勧められます。そこで起きる様々な顛末をコミカルに、またミステリアスに描かれていて、前作同様バカバカしくも楽しく読めます。
関西に住んでいた若い頃には、奈良へ何度も行きましたが、その頃は古墳や寺社に興味があるわけもなく、今にして思えば、この小説に出てくるおよそ1800年前には日本の政治や文化の中心地だった奈良の名所をもっと回っておくべきだったと今になって反省しています。なかなか近くにいるとそういうことって気がつかないものなんですよね。
同じく奈良の歴史的名所が出てくる小説では、恩田陸氏の「まひるの月を追いかけて
変わったタイトルですが「あをによし」は「奈良にかかる枕詞」だそうで、「青丹よし 奈良の都は咲く花の 薫ふがごと今盛りなり」(万葉集)などと使われます。そういえば中学校か高校で習った記憶があります。
余談ですが、この作品では鹿がしゃべり出しますが、1960年代には「馬がしゃべる そんな馬鹿な♪」という音楽にのって始まる「ミスター・エド」というアメリカのコメディホームドラマがありました。実際に内容はよく覚えていないのですが、その歌だけ記憶に残っています。
◇著者別読書感想(万城目学)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オイアウエ漂流記 (新潮文庫)
荻原氏初の無人島漂流ものということで、著者と内容その両方に興味があるのでさっそく買ってきました。無人島漂流ものは古くから小説やそれを原作とした映画がよくありますが、子供の頃からずっとあこがれています。
ちょっと思い出すだけでも、
「ロビンソン・クルーソー」「十五少年漂流記」「蠅の王」「サバイバル・ファミリー」「青い珊瑚礁」「ブルーラグーン」「パラダイス」「流されて」「6デイズ/7ナイツ
荻原氏は「誘拐ラプソディー
場所は南太平洋、よくあるパターンで嵐に遭遇した小型旅客機が海に不時着し、這々の体で脱出した乗客がどうにか無人島に上陸。すぐさま救援隊が来ると思ってら、一向に現れず、仕方なく生きていくために無人島生活を始めます。
無人島に上陸した10人のうち9人は日本人で、1人だけアメリカ人。その日本人のうち5名は仕事絡みで、会社の上下関係や同行していた顧客との関係があり、最初のうちはサラリーマンの悲哀や世にも不思議な習慣が楽しめます。と言っても荻原氏がよく知っている1990年代のサラリーマンと、21世紀に入ってからのサラリーマンではだいぶんとその習性が変わっていて、若い人が読むと理解できないことも多いのじゃないかな。
あと「キャスト・アウェイ
そのようなのんびりしたメンバーばかりなので、島に漂着して本来ならすぐにやるべき食料や飲料水の確保とか発見してもらいやすくするための火起こしなどもせず、拍子抜けです。
普通ならもしものことを考えて、火を絶やさないよう焚き火を何カ所かに分けておくだろうに、火が消えてライターが壊れるともう火がおこせなくなったり、突然のスコールで大慌てしたりと10人も揃っていて現代人はそこまでバカになったのか?と読んでいて不思議に思ってしまったり。
今までの荻原浩氏の作品と比較すると、エンタメ作品としては理解できますが、あまりにも想像できないとんでも設定で、しかもその内容に上記の通り緊張感がなく、正直言って失敗作品じゃないのかなぁって。映画化をして、もう少しリアル感を出せば、それなりに面白く見られるかなというのが率直な感想です。
そういえば荻原作品はどれも映画化に向いていると思うのですが、意外と映画化されたのは渡辺謙主演の「明日の記憶」と高橋克典主演の「誘拐ラプソディー」だけです。「明日の記憶」は最高にいい映画でした。
テレビドラマ化された「僕たちの戦争
◇著者別読書感想(荻原浩)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
イントゥルーダー (文春文庫)
高嶋哲夫氏の著作は割と好きで「ミッドナイトイーグル
昨年の3月11日にはM9の地震が起き、津波により外部電源が失われ、福島の原子力発電所が爆発、核燃料がメルトダウンするという大惨事を引き起こしましたが、高嶋氏はそのずっと前からそれらが起きることを予言し、警告する小説を書き続けていました。原子力発電所に詳しいのは、著者は大学院卒業後に旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)に勤務していた専門家でもあったのですね。
この本のタイトル「イントゥルーダー」は「A-6と呼ばれる米軍の艦上攻撃機、、、」のことではなく、元々の「侵入者」という意味ですが、主たるテーマは原発建設の安全性の問題、建設反対派を押さえ込もうとする政財界、それと結託した闇の世界が描かれています。
その他にも「M8 エムエイト」(2004年)はマグネチュード8の直下型地震が首都圏に起きた時がテーマだし、「メルトダウン」(2003年)、「TSUNAMI 津波」(2005年)など、昨年の震災を受けてようやく真剣に取り上げられるようになってきた話題を、10年近く前から数多く書かれています。
作品のすべてを読んだわけではありませんが、高嶋氏の小説の特徴としては決してすべて丸く収まったハッピーエンドにならないところでしょうか。それだけに、読後なんとも言えない重々しさが後々まで残ります。
◇著者別読書感想(高嶋哲夫)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
若葉のころ (集英社文庫)
この「若葉のころ」という小説は、もともと1996年にTBS系列で同名の連続ドラマが放送され、その脚本を書いた小松氏自らが小説に仕立てものです。原作を使ってドラマ化されることはよくありますが、その逆という珍しいケースです。テレビドラマでは主演の二人に堂本剛と堂本光一、女子高生役に奥菜恵、父親役に根津甚八、宅麻伸などが出演し、12話で構成されていました。
ストーリーはお金持ちの医者の息子甲斐と、早くに母親を亡くし貧乏な上に酒飲みで暴力的な父親を持つ武司とのあいだで不思議な友情が生まれ、絶望的に貧乏な武司にのし上がっていく野心が燃え上がっていくところまでは、ジェフリー・アーチャーの「ケインとアベル
元々テレビドラマである以上、そのぐらい展開がスピーディに流れていき、終盤近くなると「えっ次はどうなるのか!?」と思わせることが重要なので、まさにジェットコースターのように上がっては下がり、また上がるという忙しい内容です。
小説とはいえ、文章自体は脚本っぽく登場人物がすぐに思い浮かぶような書き方になっていて、こなれた文章の小説ばかりを読んでいると、こういうのもとても新鮮な感じで悪くはありません。というのも著者の小松江里子氏は元々脚本家として著名な方で、「部長刑事」やNHK大河ドラマの「天地人」など多くの脚本を書いている方です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
神様のカルテ (小学館文庫)
現役の医師でもある夏川草介氏が2009年に出したデビュー作です。医者でありながら小説を書くというのは古くからよくあって、パッと思いつくだけでも森鴎外や北杜夫、渡辺淳一、帚木蓬生、加賀乙彦、北山修、海堂尊、鎌田實など、歌人に齋藤茂吉など、天は二物をあたえるものだなぁとひがみ半分やっかみも半分です。
中でも自分のお手の物である医学界や病院などをテーマとしたものではなく、本業とはまったく畑違いのテーマで小説を書く森鴎外や帚木蓬生、加賀乙彦が特に私のお気に入りです。って今回のこの本はまさにその本業そのもの、地方病院の勤務医が主人公です。
信州松本平にある24時間365日救急患者受入れる総合病院を舞台にした、野心はなく平凡な青年内科医の奮闘を描くこの小説は、単なる青年医師の過剰労働告発ドラマではありません。
大学病院の医局に勤務し高額な医療機器を使い先端医療を学び狭い分野で専門家していく道と、一般病院に勤務し内科も外科もなく医者か医者でないかの区別しかない当番制の救急担当医としての葛藤、そして慢性的医者不足に悩まされる地方病院の問題、高齢化する社会を迎え、患者の延命をはかることだけが医者の役目ではないことなど、大きな社会問題を考えさせられる作品となっています。
これを原作とした映画が、昨年2011年に櫻井翔、宮崎あおい主演で上映されていましたので、そちらを見た人も多いのではないでしょうか。私も公開中に面白そうだなと思ったものの、なんでも中高生が映画館に押しかけているという噂を耳にしたので、ちょっと恐怖におののいて観に行けず、今度DVDを借りて1人でじっくり観ることにします。
この神様のカルテはシリーズ化されていて、すでに「神様のカルテ 2
最後にちょいと余談を書くと、主人公が巨大な病院の建物を振り返って見上げるシーンで建物の姿を「データラボッチ」に例えるシーンがあります。これは主人公が勤める病院のある松本平のすぐ近くに、高ボッチ(高原)というところがありそれに由来していると思われます(想像ですが)。
その高ボッチはもののけ姫にも登場するダイダラボッチという伝説の巨人妖怪が腰掛けたという場所で、そのような変わった地名がついています。その巨人ダイダラボッチを巨大な病院の建物に置き換えてたのだと推測しています。
◇著者別読書感想(夏川草介)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
れんげ荘 (ハルキ文庫)
今回は軽めのほんわかした小説ばかりで、もう少し考えた選択をしなきゃなと、反省しています。
主人公は45歳、実家で母親と二人で暮らす独身女性。仕事に疲れ、母親の相手にも疲れ、兄夫婦が実家に戻ってくる機会を捉え、それまで20年間勤めてきた大手広告代理店を辞めると同時にひとり暮らしを始めます。
8桁の貯金がありもう働かないと決め、月10万円の生活をおくるため、見つけてきたのが、共同トイレにシャワーしかない月3万円という格安のレンゲ荘という年代物の木造アパート。梅雨時は猛烈なカビに、夏は大量に発生する蚊に、そして冬には外へ出たほうがまだ暖かいという寒さに悩まされながらも、変わった住人達との日々をおくっていきます。
群ようこ氏が実際に広告代理店に勤務したのは大学卒業後の半年ほどだったそうなので、もし自分があのまま広告代理店に20年間勤務していたら、きっとこの小説の主人公のように突然なにもかも捨てて、なにもしない生活をおくっただろうと想像したのかどうかはわかりませんが、いずれにしても、もうひとりの自分の姿を映し出した作品のようです。
小説から離れ、現実的になってこの女性の生き方を少し考えてみます。
実家で暮らし、大手広告代理店でバブル時代を含め20年間総合職で勤めると、確かに数千万円の貯金はできるでしょう。45歳から80歳までの35年間、毎月10万円ずつ使っても生活できる貯金がある書いてあるので、最低でも10万円×12カ月×35年=4200万円の貯金があるということです。
いま東京都内で「最低限の文化的生活」を保証してくれる生活保護を受給すれば、単身者で住宅補助を含め約13万円が支給されます。さらに医療費や公課(住民税など)、国民年金を支払う必要はありません(条件等あり)。
それと比べると、この主人公の場合、月3万円の家賃と言っても、会社勤め時代より割高な国民年金や健康保険料の支払い、住民税などの租税、年齢を重ねるにつれて増えていく医療費、そしてまもなく消費税が大幅に上がり、さらに家賃もこの先何十年と同条件とは思えませんので、20数年後の60歳過ぎからは年金が受給できると言っても月10万円生活は現実的には厳しそうな気がします。
あと、女性の場合、無職で昼間は散歩をしたり、公園や図書館で毎日ブラブラしていても、小説に書かれているように周囲から不審者として見られることは少なそうで、おそらくそのような暮らしをしてみたいと思う女性は結構いるのではないかと想像します。
一方、もし45歳の健康な男性が、仕事もせず近所をブラブラしていると、まず間違いなく「危なそう」「不審者」のレッテルを貼られてしまいそうです。なので、私を含め、一般的に男性がこの小説を読むと、この主人公のような生き方にあこがれや羨ましいといった感情はほとんど湧かず、どこか別世界の出来事のように映るのではないでしょうか。
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Google+の衝撃
「○○の衝撃」というタイトルは、NHKの煽り特集番組か週刊誌のタイトルでもうすっかりお馴染みとなっていて、もはや誰もそれをいちいち衝撃だとは思わないけれど、少し気になるなと、騙された気持ちになって読んでみました。しかし編集者の責任でもあるのでしょうけれど、こんなベタなタイトルを臆面なくつけているようでは、せっかくいい中身でも陳腐な印象を受けてしまいます。
それはさておき、この本読んでみてわかったのですが、Google+のことが中心に書かれているのかと思いきや、そうではなくWebサービスやSNS全般について過去のからの歴史も含め、あっちへ飛び、こっちへ飛びしながら進んでいきます。その点は3人の共著ということもあってのことか、書かれている内容が散らかりすぎているのが気にかかります。3人ともそれぞれがテーマを少しずつ変えて別々に書けばよかったろうに、ごった煮状態です。
あれこれ話しが飛ぶのは、Google+のことだけを書くには、今はまだ情報や優位性が見つからないというのもあるのでしょうけれど、twitter、mixi、Facebook、LinkedInなど、今ときめくSNSの特徴や優位点、少しばかりの弱点などの話しが充実していて、Google+に絞って使い方や有効な利用法を考えるための本ではなさそうです。
三人の著者のうちどなたの意見なのかは不明ですが、「SNSはソーシャルゲームで普及した」「ソーシャルゲームが今後もSNSを支えていく」のような意見(正確ではなく要約)が繰り返し出てくるのですが、それに対して果たして現在SNSを使っている人の中にソーシャルゲームを経験した人がいったいどれだけいるのか?と反論したくなります。
別にSNSを使うのにソーシャルゲームを知る必要もなければ、普及のために必要なものとも思えません。よほど筆者の方の中にはソーシャルゲームにはまった方がいらっしゃるのか、その方の子供が無邪気に遊ぶ姿を見てその印象でそう思われているだけなのでしょう。少なくともビジネスパーソンがSNSを活用するときには、ソーシャルゲームを特に意識することは今後もなさそうです。
以前からそのようなゲームがニッチな世界で普及してきていることは雑誌やネットの情報では知っていましたが、この本を読んで、そういう使い方をしている人もやっぱり世間にはいるんだとあらためて知ったぐらいマイナーなことだと思っています。
なんだったら一番有名なソーシャルゲームの名前をあげて、パワーユーザーでなく普通にSNSを利用している1000人に「知っているか?」「使ったことがあるか?」を調査すると、それがいかにマイナーなことかわかるはずです。
で、結局そのGoogle+はどうなのよ?という結論は「たぶん土台はいいので、そこそこいいところまではいくんじゃないの?」(かなり要約)と言ったところでした。しかし果たしてFacebookなどからGoogle+への「巣移りの儀式」が近々おこなわれるかどうかは、神のみぞ知るってところで、現在のところ著者達を含め、誰にも予測がつかないようです。個人的県会で言えば、Facebookがとんでもなく大きなミスでも犯さない限り、難しそうな気もしますが。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
六枚のとんかつ (講談社文庫)
著者の蘇部健一(そぶ けんいち)氏はこの「六枚のとんかつ」で1997年にデビューしたミステリー作家で、同氏の作品を読むのはこれが最初です(最後になるかも)。
内容は、保険調査員が主人公の短編連作集で、タイトルの通り、ちょっと変わっているというか、ふざけているというか、いやいや、お気楽に推理小説が楽しめるというか、推理小説のトリックが簡単に味わえるというか、自分の中でも評価は分かれてしまいます。
本のタイトルにもなった「六枚のとんかつ」や、それと同じトリックを使った「五枚のトンカツ」の短編では、事前に「島田荘司氏の『占星術殺人事件
逆に言えば、この本でそのトリックを知ってしまったら、「占星術殺人事件」を新たに買って読んでみようとは思わなくなります。
Amazonで確認したところ、古い文庫は次々と廃版になり、5年ほど前の文庫本の在庫ですら切れていることが多い中で、10年前の「六枚のとんかつ」(文庫2002年)や、もう25年も前の「占星術殺人事件」(文庫1987年)が、いずれもちゃんと「在庫あり」となっているのはすごいことです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)
佐藤多佳子氏の小説は先日読んだ「一瞬の風になれ
「一瞬の風になれ」は非常に面白いいい小説でしたが、そのノリでこの本を買ったのではなく、テレビの深夜映画で国分太一主演映画「しゃべれども しゃべれども
ストーリーは、落語家の卵である主人公が、あることがきっかけで、恋人にふられ人間不信に陥っている女性や、関西弁丸出しで転校してきた東京の学校でいじめにあっている小学生、ハンサムでテニスが上手いのに、内向的性格かつ緊張するとどもってしまうことを悩んでいる従兄弟などに、落語を教えることになります。
しかし主人公も人に話し方を教える以前に、自分の本職である落語に悩みがあり自己葛藤しています。それらの問題にそれぞれが落語を通じて自分と向き合っていくという青春ドラマと言っていいでしょう。
いい味を出しているのが、その落語教室に途中から加わるプロ野球の代打専門だった元選手で、引退後はラジオで解説の仕事するものの、ほとんどうまく喋れず、逆にアナウンサーの邪魔をしています。それに悩み、この落語教室を話し方教室かなにかと勘違いしてやってきますが、内面は弱いくせにプライドは人一倍高い人物です。
ここ何年も漫才ブームが続いていますが、多くの若手漫才コンビは、私に言わせるとギャーギャーとわめいているだけで、まったく面白くもなく、子供だましの芸に過ぎないとあきらめています。
一方若手の落語家というのも、なかなか弟子入り後の修行や、生活が厳しそうで、二世三世など係累以外に新たな大型新人が育っていない気がします。
小説とは直接関係がありませんが、江戸時代の西鶴以来、営々と庶民の笑いをリードしてきた日本の文化とも言える落語の行く末がちょっと心配になってきました。この本を読んで、あらためて桂枝雀や笑福亭松鶴、桂春団治の噺をもう一度じっくりと聞いてみたくなりました。
◇著者別読書感想(佐藤多佳子)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
海馬を馴らす (ハヤカワ・ミステリ文庫)
私立探偵スペンサーシリーズの13作目(日本版1987年)にあたり、9作目「儀式
そのエイプリル・カイルを救うためにスペンサーが活躍をするわけですが、エイプリルを引き抜いたポン引き男を見つけて情報を引き出し、さらにその同じ男に使われている娼婦のジンジャーへも接触をします。そこで彼女から12歳の時に父親に性的暴力を受け、その父親に16歳で娼館へ売られた過去の身の上話を聞くことになります。
その後その娼婦は誰かに殺されてしまい、スペンサーの怒りに火がつきます。なぜジンジャーが殺されなければならなかったのか?誰が殺したのか?そして飛び出していったエイプリルは今どこにいるのか?黒幕は誰か?という謎だらけの追跡が始まります。
それらの事情を調べるため、まず手始めに殺されたジンジャーの故郷へ出向き、そこで父親にジンジャーの仇とばかりに、わざと喧嘩をふっかけ、殴り合いをするあたり、まさにスペンサー流の調査といったところです。
タイトルの「海馬」は「タツノオトシゴ」や「セイウチの別名」という意味と、最近脳科学などでよく聞く「本能的な行動や記憶に関与する大脳辺縁系の一部」という意味があります。
最初は、深く考えずにただ本能だけで行動するエイプリルのことを指しているのかと思いましたが、作品が書かれた1982年頃と、原題の「Taming a Sea Horse」からするとやっぱり「タツノオトシゴ」で、エイプリルのことを、海流などの流れに逆らわず、外洋を漂い、擬態を用いて隠れ住むその特性に重ねているのしょう。全然違ってたりするかも。
◇著者別読書感想(ロバート・B・パーカー)
■スペンサーシリーズ関連過去記事
スペンサーシリーズの読み方(初級者編)
さらばスペンサー!さらばロバート・B・パーカー
ハードボイルド的男臭さ満点小説
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
姫椿 (徳間文庫)
2003年に文藝春秋から発刊された短編を集めた小説で、発刊後まもなく買って読んでいましたが、今年の2月に別の出版社(徳間書店)から中身は同じこの文庫が新たに発売され、徳間書店としては新刊本扱いなので、当然のように書店の新刊書コーナーに並べてありました。で、深く考えずに手に取り買ってしまい、見事に騙されてしまいました。ハイハイ買った私がバカなだけです、わかってますハイハイ。
このような出版社を違えて同じ小説が発行されることは、人気作家の場合、ままあることですが、せめて先に出した文庫が廃刊または絶版、在庫切れになってからにしてもらたいものです。
Amazonを見るとまだ文藝春秋の文庫も新品が普通に売られていてしかもそちらのほうが値段が安く、なんか枯れ葉も山の賑わいで目立つ新刊本コーナーに置くための一種の詐欺商法みたいな感じさえ受けてしまいます。
徳間書店といえばギャビン・ライアルの「深夜プラス1
「舞台をアメリカを日本に置き換えただけで、出てくるジョークまでまったく同じ内容の小説なら買うわけないだろ!」と思うのですが。はがきでクレームを入れましたが当然反応なしでした。その後志水氏の小説を一切読まなくなったのは言うまでもありません。徳間書店の本を買うときには今後注意が必要です。って言うかできれば買いたくない。
それと似た手法としては出版社は同じで、カバーや帯を変えて置かれることがありますが、その場合は新刊本コーナーには置かれないので、納得して購入できるので問題ありません。カバーを変えただけで埋もれて消えていく小説がバカ売れすることがありますので、それはいいことだとです。
浅田次郎ファンは多いので、私と同様に新刊本コーナーに置かれた文庫をタイトルなどロクに見ず、すぐ買ってしまた人も多いのではないでしょうか。お気の毒さまです。
一応しゃくだから最初からすべてを読み直しました。半分以上ストーリーを忘れてしまっていましたが、そいうことも含め、正直言って浅田次郎氏の作品にしては珍しく、ほとんど印象に残らない平凡な、悪く言えばつまらないストーリーだなと感じました。同じ小説を二度買いしてしまった不満と恨みがそこには込められているので話半分にしてください。
◇著者別読書感想(浅田次郎)
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