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つばさものがたり (角川文庫) 雫井 脩介

著者の雫井脩介氏は、映画にもなった「犯人に告ぐ」や「クローズド・ノート」で大ブレークしたミステリー作家のひとりですが、この「つばさものがたり」はミステリーではなく、ホンワカした家族の絆とSFを少し混ぜ込んだロマン小説っぽい内容です。しかしハッピーエンドではなく最後には泣かせる設定となっています。

ストーリーは、家族に期待されいつかは実家のある地元で洋菓子店を開きたいと思い、東京で修行をしていた女性主人公が、その家族の夢を果たすため地元に帰り洋菓子店を始めます。

しかし主人公自身重い病に罹り、店もうまくいきません。そこに主人公の兄のちょっと風変わりな小学生の息子との交流が始まり、その息子だけが見える天使見習い中の友だちから様々なアドバイスを受け、病気と闘いながら家族の夢だった店を成功へと導いていきます。

天使の世界も厳しいようで、天使になるためには試験があり、しっかりと飛べないと、妖精となり森に住むことになり、人の住む街の中には住めません。天使が多く集まるところでは店も繁盛しますが、羽根を休めるところがない場所では閑古鳥が鳴きます。

なぜか入れ替わり立ち替わりいろんな店が入居しても、すぐにつぶれてしまう場所というのは確かにありますね。

パーティー会場などでふと一瞬会話が途絶えシーンとする瞬間がありますが、そのことを「天使が通り過ぎた」とか言い、シャンパンを抜くときの音のことを「天使の拍手」と言ったりもします。

昔のサントリーの宣伝に出てきましたが、発酵させるために樽詰めしたワインやウィスキーを数年後に開けると少し量が減っていることを「天使への分け前」と言ったりし、昔から天使はそこいら中にいるそうです。タイトルになっている「つばさ」はその天使の翼のことです。

著者別読書感想(雫井脩介)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

白い声 (新潮文庫) 上・下 伊集院静

スペインと金沢が舞台の2002年に発表された伊集院静氏の恋愛小説です。小説の中にはいくつものスペインの都市の名前が出てきますが、普通の日本人でスペインの形すら思い描ける人は少ないのではないでしょうか。私も位置はわかるものの、地名を聞いてもそれがどこにあるのかはさっぱりわかりません。

ストーリーは、親の仕事の都合でスペインで生まれ育った日本人のヒロイン(もちろん絶世の美女)が、子供の頃事故に遭ったとき偶然救ってくれた日本人男性と、思いがけず金沢の街で出合い、恋に落ちていくというストーリーですが、この日本人男性はかなりの悪で、ヒロインが事故に遭ったのも、その男が警察から追われてクルマで逃亡している際に、轢かれそうになって崖から転落したもので、読者はそれがわかっているので、なぜそんな男に惚れるのか?と疑問符だらけで読み進めることになります。

そして健気にもヒロインは、どこまでも逃げる男を追いかけて、心身共に最後まで尽くしていくという、ま、男の身勝手さとあらゆる妄想が生み出す男冥利に尽きる内容ですが、ありえねぇ、、、。

しかも著者は女性読者が多い作家さんですから、こういう小説が一部の熱狂的な女性読者には受けるのでしょう。よくわかりませんが。最後になってそれほどまでにダメ男を追い求めるのには、なにかワケがあったのか?と期待を持たせますが、結局よくわからないまま終わります。う~(うめき声)

男の視点でもって、徹底的に「尽くす女」と自己中心的な「ワル男」を自由奔放に書けば、こういうものになるのでしょうが、しかし「男は本質的にこういう事を求めているのか?」と女性方々に誤解されてしまうのもちょっとどうかなと思ってしまいます。ま、誤解するわけないかな。

スペインのしかも田舎へのんびりと旅行する際のガイドブックにするにはいいのかも知れません。そして小説のように運命的な出会いがあなたを待っているかもしれません。ふへぇ~(ため息)

著者別読書感想(伊集院静)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

黒蜥蜴と怪人二十面相 (角川ホラー文庫) 江戸川 乱歩

江戸川乱歩と言えば日本人なら誰でも知っている作家と思いきや、最近の若い人にはあまり知られていないかもしれません。1894年というから今から117年前に生まれ、1965年に亡くなった主に推理小説や怪奇小説を大衆や子供向けに書いていた人です。

名前はもちろんペンネームで、アメリカの世界的に有名な推理小説家エドガー・アラン・ポーに由来しています。

作品の多くは太平洋戦争以前に書かれたものが多く、軍事色の強い暗い世相の中で数少ない娯楽としての小説が大衆や子供達に大いに受けたのでしょう。

中でも「黒蜥蜴」は抑圧された世相に逆らうかのようなきらびやかな上流社会とエロスの薫りが漂います。おそらく大衆文学として当時はこれがギリギリのラインだったのではないかなと思われます。

今回の「黒蜥蜴と怪人二十面相」は別々の二つの作品を1冊にまとめて出版されたもので、「黒蜥蜴」は1934年に雑誌に連載され、その後有名になる探偵明智小五郎が初めて登場した作品として有名です。

この作品は歌劇や映画、テレビドラマで何度か上演上映や放送がされましたが、その内容は原作から大幅に変わっていたそうです。私は観たことがありません。

もう一つの「怪人二十面相」は有名になりつつあった明智探偵の好敵手として登場させたもので、やはり戦前の2.26事件の起きた1936年に「少年倶楽部」に連載されました。

その後戦後の1960年代まで多くの作品の中で明智探偵、小林少年(少年探偵団)と怪人二十面相の知恵比べが繰り広げられます。

wikiに書いてありましたが、最初は「怪盗二十面相」だったのを少年向けに「盗」という言葉は教育上よくないだろということで「怪人」となったということです。

これらの小説が戦前に書かれたことを考えると、この悪役の怪人や黒蜥蜴は日本を苦しめる欧米列強で、それに敢然と立ち向かう明智探偵の知恵と、少年探偵団の奉仕的な活躍が、帝国とその国民という図式のように思えてきます。

そのような政治的、軍事的な発意昂揚の要素を含んでいたかどうかはわかりませんが、当時の出版物の厳しい検閲や、紙を含め物資不足の中で、無事に出版できたと言うことは、そのような要素が含まれていたと想像できます。

ちなみに2008年に「K-20 怪人二十面相・伝」という映画がありましたが、こちらは北村想氏の小説『完全版 怪人二十面相・伝』が原作となっています。

なかなかよくできていて面白かったのですが、その後、続編の話しは聞こえてこないところからすると興行的には失敗だったのでしょう。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

反逆する風景 (講談社文庫) 辺見庸

赤い橋の下のぬるい水」や「もの食う人びと」でブレークした辺見庸氏のエッセーを集めたもので、「もの食う人びと」の取材で訪れた世界中の街や人の話しが出てきます。

実は私は「赤い橋の下のぬるい水」や「ゆで卵」という小説は過去に読んでいるのですが、「もの食う人びと」のようなノンフィクションはあまり好きではなく読んでいません。

辺見氏は元々共同通信社の記者として世界中を旅し取材やレポートを書いていましたので、エッセイには事欠きません。

読んでいると、辺見氏の出身は3.11大震災で大きな被害を受けた石巻市で、その美しい海のことなどが書かれています。またウクライナへ行ったときは、事故後数年経ったチェルノブイリから3km地点の無人と化した廃墟の中に入り、放射能測定器で放射能レベルを測り、人類がくり返し犯す誤りを暗示している場面もあります。

エッセイの寄せ集めですから、あまりそれぞれの文章につながりはありませんが、全体を通して流れているタイトルにもなっている「反逆」精神をかいま見ることができます。

それはジャーナリストでも大新聞社ではなく海外にひとりで取材に出て行く一匹狼に近い通信社出身ということもあるのでしょう。

その世界を歩いて見てきた貧困や死に至る病気、飢えで死んでいく子供、環境破壊などに焦点をあて、官憲の圧力に屈せず、精力的にその実態を配信してきたという自負が感じられます。

でも日本にいるとそのようなことは余りにも遠くかけ離れていて、むなしい気分にさせられる厭世的なところもちらほらとあったりします。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

チャイルド44 (新潮文庫) 上・下巻 トム・ロブ・スミス

ずっと大きな書店に平積みがされていたので、人気があるのだなと思って見ていましたが、今回読んでみて初めて書いた小説とは思えないほど、よくできたミステリー冒険小説というべきか、なかなか深いストーリーで驚きました。著者はまだ32歳の英国人です。

小説の舞台はスターリン体制の末期、社会主義国家としてひた走り、強制移住や集団農場がおこなわれ、国民の暴発を防ぐためナショナリズムを高めていた1950年代のソビエト連邦で、主人公はそのソ連邦の中でも絶大なる権力を持つ国家保安局(その後のKGB)で勤務する若き元軍人です。

舞台と主人公だけを見ると、西側の作品によくある、軍事スパイもので最後は無事に亡命を果たしてハッピーエンドと思ってしまうのですが、その期待?は完全に裏切られます。

あくまで当時のソ連国内で共産主義を厳しく守る上で、想像を絶する国民への統制と、役人の度を超した行動基準に則った生活、そしてその中にも密やかな家族愛が展開されます。

やがて主人公は元同僚に罠にはめられて地方へ左遷されてしまいますが、そこからプライドと意地ををかけた命がけの行動が始まります。

ただクライマックスの罠にはめた元同僚との対決場面は、やむを得ないと思うものの、あっけなく終わりちょっと物足りなさを感じました。

ロシア系の名前は覚えにくく、小説を読むときにはいつも登場人物に混乱をきたすことがあるのですが、今回は登場人物が少なくて、なんとかこんがらないで済みました。映画化も予定されているそうで、恐怖政治が支配する暗黒のソ連が再現されるのが今から楽しみです。



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514
昨年から今年にかけてベストセラーになった小説と、それが映画化されたものに「悪人」(吉田修一原作)と「八日目の蝉」(角田光代原作)があります。

「悪人」は小説だけ、「八月の蝉」は昨年放送されたNHKドラマでしか知らないのですが、その二つの内容に共通していたのは「主人公が重大な事件を犯す」「主人公の視点で物語が進み、読者(観覧者)に感情移入させようとする」ということです。

しかし主人公はいずれも凶悪な犯罪者です。その犯罪によって被害者や被害者の家族が死や絶望の淵に立たされます。そんな犯罪者でもドラマの主人公となれば、最後にはなぜか「かわいそう」「気の毒」と涙を誘う展開となっていきます。

私はこれにもの凄く違和感があって、「悪人」や「八日目の蝉」の主人公にはまったく感情移入ができませんし、また同情心も湧いてこないのです。「切羽詰まり」、「よく考え抜いた上で」、「やむにやまれず」犯した犯罪ではなく、後先をろくに考えず、かっとなり思いつきで犯した重大な犯罪ですからまったく主人公には情状酌量の余地なしです。刑法では計画的犯行のほうが重罪で、突発的、感情的に起こした犯罪のほうが軽いのですが、それはさておいてです。

そのストーリーは加害者である主人公の視点で好意的に描かれ、家族愛や苦難の逃亡時代についてお涙頂戴とばかりに、盛り上げていきます。それってやっぱりおかしくないでしょうか?その犯罪のためにどれほどみんなが迷惑を受けているのか、その視点が明らかに抜けています。

昔から犯罪者が主人公の小説や映画はいくらでもあります。「砂の器」や「人間の証明」では自分の貧しく汚れた暗い過去を知る肉親が邪魔で殺した主人公には感情移入はできなかったものの、その行為には同情を覚えました。最近では東野圭吾氏の小説などにも犯罪に手を染める主人公はよく出てきますが、それにも多くはそうせざるを得なかった深い理由がつきまといます。

この2作にはそのような深い理由や、むべもない理由で犯罪に手を染めたというのがなく、別に勧善懲悪がすべてとは言わないにしても、いくら小説だからと言っても、一時的な感情で犯す必要のない重犯罪を起こし、さらに逃げ回るという、最悪のパターンなのに、その主人公に感情移入させたり、哀れみを持たせるというのはどうかしている気がします。

イギリス人講師リンゼイさんを自分の欲望のために殺し、捨てたあと、長期間逃げていた被告に対し、顔を整形し、身分を隠し、肉体労働で働き、無人島でひとり暮らしていた強い生命力、精神力、悪賢さに対し一種の同情やヒーロー扱いする意見まで聞かれます。ま、それだけ現代の日本の社会では相対的にみて命が軽くなってしまっているのかも知れません。

生物学の論理では増えすぎた種は自然淘汰されて、やがて減少に向かうことが当たり前ですが、増えすぎた日本人の種を減らすためなのか、ネトウヨ始め、愛国主義、保守志向の傾向が国民の中で強まり、核武装せよという知事は都民から圧倒的な支持を受け、徴兵制度復活論をぶちあげる戦争を知らないお坊ちゃま2世議員は次の首相にしてみたい人の上位にランクされるようになりました。そのように本質は悪人でもそれに信念さえあれば許されるみたいな、風潮が蔓延し、やがては悪夢の歴史を繰り返すことへ向かっていくのだろうと思われます。

あまりにも話しが飛躍しすぎていることや、正義漢ぶりを発揮したいわけではありませんが、いくら小説や映画であっても、人気作家が描き、人気の俳優・女優が演じるだけで、不合理で歪んだ行動をやむを得ないものと錯覚させるような内容がもてはやされるのは、ちょっといただけないなというのが私の率直な感想です。



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511
陰日向に咲く (幻冬舎文庫) 劇団ひとり

いくつかの中編の物語がそれぞれ少しずつつながっているという小説です。著者の劇団ひとり氏は34歳でお笑いタレントというのが現在の本職でしょう。

2006年にこの小説を発表し、その後知りませんでしたが2008年には映画化もされています。

内容は、どちらかと言えば落ちこぼれの主人公達がなにかをきっかけにしてやる気を出したり、成功する姿をおもしろ可笑しく描かれています。

「陰日向=社会の落ちこぼれ達」という図式から、でもなんとか咲くことができるというメッセージなのでしょう。

ゴーストライターを雇うような身分でもなければその必要性もないでしょうから、ちゃんと自身で考え苦慮して執筆をされたのでしょう。なかなか感性豊かな作者だと思えます。

現在NHKで林真理子氏の小説「下流の宴」を原作とした連続ドラマが放映されています。こちらは上流志向の強い家庭で育ったものの、親が要望する大学には行かずフリーター生活をおくっている長男と、沖縄出身でやはりフリーターをしている女性が出会い、やがて同棲を始めます。

その長男の母の強い上流意識が、長女の就職問題、夫のリストラなどが絡み、ガラガラと崩壊していくというストーリー(まだ途中なのでよくわかりませんが)ですが、なんとなく雰囲気がそれと似ているなと思います。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ささやかな永遠のはじまり (角川文庫) 盛田隆二

結婚前の女性視点で書かれた大人の恋愛がテーマのストーリーで、失礼ながらもう立派な中年男性の盛田氏がこういう女性心理に深く立ち入った小説をスラスラと情緒たっぷりに描けるのはさすがプロ、上手いなぁというのが実感です。

主人公の職場は雑誌を発行している出版社で、その仕事の様子などが詳細に書かれますが、これは作家さんと出版社というのは通常関係が深かったり、以前勤めていたりするケースが多いので、勝手知ったるということもありしばしば登場します。

ちなみに著者の盛田氏は雑誌出版社のぴあに長年勤務されていたので、その点は設定が安易とも思えますが仕方がないでしょう。

その雑誌の「ぴあ」は、最後までしぶとく残っていた「ぴあ首都圏版」が、今年の7月発売号で休刊となってしまい、思い入れも深かったので残念に思っています。

昔、2本立ての名画座へ行く前に、駅のKIOSKでぴあを買い、それを映画館で見せると入場料が数百円割り引かれるので、実質ぴあの購入費は100円ぐらいで済むという仕組みはよくできたいたと感心しました。

さてストーリーですが、いきなり序盤で主人公の女性が誰もが羨むようなエリートサラリーマンと婚約し、そして結婚間近で突然破局、その後は社内不倫と続いていきます。

そして終盤は思いもよらない展開へと進んでいきます。こりゃ明らかに恋愛に夢を見ている若い女性のウケを狙っているなぁと思ったり。

小説に登場してくる男性も女性もそれは見事なまでにみんないい性格とキャラをしていて、そういう人達ばかりに囲まれていると、苦労のうちの半分以上はきっとなくなるのだろうなと思います。

その点は人間関係にいつも苦しんでいる現実の若い女性達におもねったところが見え隠れします。ま、これを読んで「私も主人公に負けずに頑張らなくっちゃ」と思う女性や、盛田作品をもっと読みたいと思う人が増えればそれはそれで結構なことではありますが。

著者別読書感想(盛田隆二)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

クラウド時代の正体 (ベスト新書) 白鳥 敬

時代を象徴するIT技術の「クラウド」をタイトルに使った数多い類似本の中の1冊です。本書にも書かれていますが「web2.0」が出てくればそればかり、「SNS」が出てくればそればかりと、時代のキーワードが出てきてはやがて消え去っていきますが、それと似たようなものなのでしょう。

本書に書かれていることで、とりたてて目新しいことや役立つことはないのですが、あらためてネット社会の一面を俯瞰しておくのならいいかもしれません。

特にネット上でのプライバシー情報の扱いや、安全なネット利用などは、まったくの素人向けにわかりやすく解説されていますが、多少詳しい人ならあえて読むまでもないことです。

というか、最近は実名主義のFacebookや実名の人も多いTwitterなどに人気があり、果たして厳密に個人情報を守る必要があるのか?という疑問すら感じるように思えます。

ただ素人がこの本を読むと「ネットの世界はなんと邪悪で問題が多いのか」と逆に怖くなり、有効に使わなくなってしまう可能性もあります。

実際には全然そんな事はないのですが、どうしても刺激的で過激な話しばかりが、さらにそれに尾ひれ背びれをつけて報道されたりするのが世の中の常ですから、なんでも話半分で読み解く必要があります。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

青の炎 (角川文庫) 貴志 祐介

優秀な高校生が家族や自分を守るため殺人の完全犯罪を目指すという1999年に書かれたミステリー小説です。

筆者の貴志氏は1959年生まれなので私より2年後の割と近い年代です。このおやじ年代が今の高校生を主役とした小説を書くというのは、結構大変だったのではないでしょうか。

若い人が中高年や高齢者を描くのは自分が経験したことがないだけにもっと難しいでしょうが、それにしても自分が経験してからすでに四半世紀前の高校生時代と現代の高校生の生活とはまったく行動様式が違っています。

それゆえかどうかはわかりませんが、主役の高校生の心理描写には変に大人びた老成した考え方がしばしば登場します。

これは意図的なものか、どうかはわかりませんが、もし本当に今の高校生(と言っても書かれたのは今から12年も前ですが)がこのような発想や知識を持っているならそれはまた恐ろしいというべきものです。

ま、湊かなえの「告白」でも主人公は大人の女教師でしたが、実際に殺人事件を犯すのは中学生でした。このような少年犯罪を描く小説が注目されるのはやはり小説の中だけではなく、現実社会にもそのような流れがすでにあるのでしょう。

日本中を震撼させた酒鬼薔薇事件(神戸連続児童殺傷事件)が起きたのは1997年で今から14年前のことですが、それ以来少年犯罪がテーマになる小説はより過激化していくことになったのでしょう。

スピード感あふれるストーリー展開で、サクッと読めますが、とにかく殺人が絡むミステリーですので、読んでいて気持ちがよくなるものではありません。

著者別読書感想(貴志祐介)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

決定版 日本のいちばん長い日 (文春文庫) 半藤 一利

映画で大ヒットした「日本のいちばん長い日(1967年公開)」の原作者は当初諸般の事情から大物ジャーナリスト大宅壮一編となっていましたが、実際はこの半藤一利氏の作品ということで、その後多少修正をおこない大宅氏の遺族の了解を得た後、あらためて自身の名前で出したのが本書です。

「The Longest Day」というと、アメリカでは一般的に多大な犠牲者を出しながらも欧州戦線での転換点になったノルマンディー上陸作戦決行の日のことを指しますが、日本ではやはり歴史上完膚無きまでに叩きのめされた唯一の負け戦、その最後の日を指すのでしょう。

1945年8月、世界を相手に孤軍奮闘していた日本も敗戦濃厚となり、広島、長崎に原爆を落とされ、いよいよ本土上陸が目前と迫ってきた日本に、唯一残された道はポツダム宣言を受け入れることで、すなわち無条件降伏しかありませんでした。

しかし、陸軍を中心とした一部の青年将校達は、一億総玉砕を叫び、また陸軍は決して負けたわけではないのでもっと闘わせてくれと、天皇や政府が降伏を決めた後も、それを撤回させるために様々な行動を起こします。

このあたりは小説より映画では善と悪をくっきりと描く必要があり、降伏阻止を目指す将校は天皇の命にも背く逆賊という扱いですが、子供の頃からずっと日本が世界で一番優れていて、過去に一度も敗北したことがない神国という思想教育をガッチリとたたき込まれている軍人ですので、その純粋な気持ちから必死に抵抗していることも本書からはにじみ出ています。

様々な幸運もあり天皇の終戦の詔を8月14日の夜に無事に録音することができ、それを翌8月15日の昼12時からのNHK放送で流すことができるかという緊迫した攻防の場面がドキュメンタリーとして描かれます。

しかし詔はなぜ負けたのか勝ったのか、それとも戦争継続なのかハッキリしないダラダラとしたものとなったのでしょうか。

これは本書にも経緯が詳しく書かれていますが、役人と政治家と軍人がそれぞれの立場を主張するあまりすったもんだがあります。

わかりやすく要約すると「戦争に負けた。ポツダム宣言を受け入れる。無条件降伏をする。」なのですが、特に軍人は負けたことを書くことは納得しません。

本書ではその詔書を作るために各関係者が何時間もやりとりをして苦心して造りあげていく過程があり、要は天皇、大本営、陸軍、海軍、その他政治家の様々な思いや考え方を練り込んだ結果の代物です。

この放送を聞いて当時はラジオの感度やスピーカーの性能もよくなかったため「結局なにを言われたのかわからない」という国民が多かったと聞きます。

中には放送の後「今後も戦争に奮闘せよとおっしゃった」と勘違いして檄を飛ばした軍人もいたということです。

ただ実際には天皇の詔が放送された後、NHKアナウンサーがくり返し詔を読み上げ、さらに簡単に要約した内容を放送したということです。それは初耳でした。

映画は子供のときにテレビで見ましたが、とにかくこの映画は「暗い映画」「登場人物が多すぎてよくわからない」という記憶が残っています。

「暗い」は、映画の舞台が空襲があり、灯火管制のため真っ暗になっている首都の夜に事件は起き、さらに映画が白黒だったこともあり、そのような印象を持ったのでしょう。

また誰もが負けた悔しさと悲しみ、そして張り詰めていた緊張が解けた疲労感でぐったりしているところが、より暗い印象をこの映画に与えたのかもしれません。

そして2時間半のこの映画にはざっと100名以上の登場人物があり、主役の三船敏郎、準主役の山村聰、鈴木首相役の笠智衆、昭和天皇役の松本幸四郎(8代目)ぐらいはともかく、その他大勢が次々登場してくるので、あらかじめ予備知識がないと混乱します。

一応は、降伏推進派(善人)vs徹底抗戦派(悪人)という構図にはなっていますが、同じ日本人で、同じような軍服や国民服を着ていて、さらには降伏か継続かの間を揺れ動いている軍人も多く、その善悪の区分がハッキリとはわかりにくいのです。

できればもう一度整理して、1967年当時ではまだ生存者が多く遠慮して描けなかった部分も見直して、再度映画化をしてもらいたいなと願うばかりです。

著者別読書感想(半藤一利)



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509
本屋大賞というのがあって、毎年書店員さんの投票で作品が表彰されています。私は読者の感性や消費者マインドをよく知っている書店員さんの書評を、他の週刊誌・新聞の書評やプロが選ぶ文学賞よりもずっと信用していますので、この本屋大賞は購入する本の参考になります。

しかし残念ながらこの大賞に選ばれるのは、その年に刊行された主として単行本ですから、発表後すぐに買うことは財政上無理なので、人から借りられる場合を除き、文庫化されるまで待つことになります。中には1年以上経っても文庫化されないものもあり、悲しいけれどそういう本は物覚えも悪くなってきたこともありサラッと忘れてしまうことにしています。なので、購入する本は1年以上前の受賞作が中心ということになります。

ちなみに2007年から2011年までのベスト10はこんな感じです。
2011年 作品名 著者 発刊 文庫化 読了
1 謎解きはディナーのあとで 東川篤哉 小学館 × ×
2 ふがいない僕は空を見た 窪美澄 新潮社 × ×
3 ペンギン・ハイウェイ 森見登美彦 角川書店 × ×
4 錨を上げよ 百田尚樹 講談社 × ×
5 シューマンの指 奥泉光 講談社 × ×
6 叫びと祈り 梓崎優 東京創元社 × ×
7 悪の教典 貴志祐介 文藝春秋 × ×
8 神様のカルテ2 夏川草介 小学館 × ×
9 キケン 有川浩 新潮社 × ×
10 ストーリー・セラー 有川浩 新潮社 × ×

2010年 作品名 著者 発刊 文庫化 読了
1 天地明察 冲方丁 角川書店 × ×
2 神様のカルテ 夏川草介 小学館 ×
3 横道世之介 吉田修一 毎日新聞社 × ×
4 神去なあなあ日常 三浦しをん 徳間書店 × ×
5 猫を抱いて象と泳ぐ 小川洋子 文藝春秋 × ×
6 ヘヴン 川上未映子 講談社 × ×
7 船に乗れ! 藤谷治 ジャイブ ×
8 植物図鑑 有川浩 角川書店 × ×
9 新参者 東野圭吾 講談社 × ×
10 1Q84 村上春樹 新潮社 ×
直木賞:中島京子「小さいおうち」、木内昇「漂砂のうたう」、道尾秀介「月と蟹」
芥川賞:赤染晶子「乙女の密告」、朝吹真理子「きことわ」、西村賢太「苦役列車」
野間文芸賞:村田喜代子 「故郷のわが家」

2009年 作品名 著者 発刊 文庫化 読了
1 告白 湊かなえ 双葉社
2 のぼうの城 和田竜 小学館
3 ジョーカー・ゲーム 柳広司 角川書店
4 テンペスト 池上永一 角川書店 ×
5 ボックス! 百田尚樹 太田出版
6 新世界より 貴志祐介 講談社 ×
7 出星前夜 飯嶋和一 小学館 × ×
8 悼む人 天童荒太 文藝春秋 ×
9 流星の絆 東野圭吾 講談社 ×
10 モダンタイムス 伊坂幸太郎 講談社 × ×
直木賞:北村薫「鷺と雪」、佐々木譲「廃墟に乞う」、白石一文「ほかならぬ人へ」
芥川賞:磯崎憲一郎「終の住処」
野間文芸賞:奥泉光 「神器 軍艦『橿原』殺人事件」

2008年 作品名 著者 発刊 文庫化 読了
1 ゴールデンスランバー 伊坂幸太郎 新潮社 ×
2 サクリファイス 近藤史恵 新潮社 ×
3 有頂天家族 森見登美彦 幻冬舎 ×
4 悪人 吉田修一 朝日新聞社
5 映画篇 金城一紀 集英社 ×
6 八日目の蝉 角田光代 中央公論新社 ×
7 赤朽葉家の伝説 桜庭一樹 東京創元社 ×
8 鹿男あをによし 万城目学 幻冬舎 ×
9 私の男 桜庭一樹 文藝春秋 ×
10 カシオペアの丘で 重松清 講談社
直木賞:井上荒野「切羽へ」、天童荒太「悼む人」、山本兼一「利休にたずねよ
芥川賞:楊逸「時が滲む朝」、津村記久子「ポトスライムの舟」
野間文芸賞:町田康 「宿屋めぐり」

2007年 作品名 著者 発刊 文庫化 読了
1 一瞬の風になれ 佐藤多佳子 講談社 ×
2 夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦 角川書店 ×
3 風が強く吹いている 三浦しをん 新潮社 ×
4 終末のフール 伊坂幸太郎 集英社
5 図書館戦争 有川浩 メディアワークス ×
6 鴨川ホルモー 万城目学 産業編集センター
7 ミーナの行進 小川洋子 中央公論新社 ×
8 陰日向に咲く 劇団ひとり 幻冬舎
9 失われた町 三崎亜記 集英社 ×
10 名もなき毒 宮部みゆき 幻冬舎 ×
直木賞:松井今朝子「吉原手引草」、桜庭一樹「私の男」
芥川賞:諏訪哲史「アサッテの人」、川上未映子「乳と卵」
野間文芸賞:佐伯一麦 「ノルゲ Norge」

本屋大賞は第二次投票以後のベスト10しか一般向けには公表されていませんが、実はここには上がっていない11位以下の、一部の書店員さんが熱く推奨する本があります。私的にはその本こそ知りたいなと思うのですが、残念ながらネット上ではオープンにされず、「本の雑誌 増刊 本屋大賞」を書店で買ってくれという流れになっています。このご時世にまったくせこいことです。

所詮書籍を売るための宣伝が目的である雑誌を高い金を出してまでわざわざ買うことはありません。無料で読める書評なんて世の中に星の数ほどあるわけで、本のPR誌ごときにお金を出すぐらいなら、一冊でも多く著者の収入につながる本を買います。

ここ何十年と、年間100冊ぐらいは読んでいますが、それにしても本屋大賞ベスト10に入った本は自分でも意外ですがあまり読んでいないことに気がつきました。2010年以前のものはすでに文庫化されている本が多く、多くは書店で平積みされていて、タイトルを見れば表紙のデザインまで思い浮かんできます。しかしなぜ買わないかというと、書店では実際には手にとって文庫のカバー裏にある簡単な紹介文を必ず読んで買うか買わないかを決めるので、そこではねられたものが多いと思われます。

それゆえに文庫の裏表紙の紹介やあらすじは、いかに読みたくなるように編集者の腕の見せ所でもありますが、実はあまり重要視されていないような気もします。もしかすると書評や各賞よりも、売れ行きに影響するさらに重要なポイントなのかも知れないのですが、そのようなことは現場の人はあまり知らないのでしょうけどね。逆に目立つようにど派手な色遣いの帯や、その帯に書かれた「○○氏推奨」の大きな文字はかえってイメージが悪い(下品な感じ)のですが、必ずある一定の割合で存在します。

逆に多くの文庫本の本文の最後に書かれている解説は、私に限って言えば、本文より先に読んだことが一度もないので、そこに「書店でこの解説を読んでいる人は間違いなく面白いのですぐに買いなさい」とか「これ以上書くとネタバレするから」とかあるのはまったく意味のないことです。

長年書店で文庫本を物色するのを趣味としてますが、解説をじっくり読んでいる人を見掛けたことがないのですが、そのような人が実際にいるのかどうかは不明です。しかしわざわざこのような常套句を解説に書くのはやめてもらいたいものです。少なくとも解説に面白くない本に「この本は駄作なので買わない方がいい」と本音が書かれることはないので、それをもって買うか買わないかの参考にはなりません。

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おひとり京都の愉しみ (光文社新書) 柏井壽

京都市在住の歯科医で、歴史や料理にも造詣の深い柏井壽氏の著作で、タイトルの通り京都ひとり旅の参考書として新書で出版されています。他にも京料理の本なども出しているそうですが、同氏の本を読むのはこれが最初です。

大河ドラマでは昨年は坂本龍馬、今年は江(崇源院)ということで、どちらも京都とは縁が深く、また知恩院では浄土宗開祖の法然上人没後800年を記念しての行事が行われたりと、相変わらず日本中から多くの人を集めています。私も以前「東京から京都へ行く方法」をブログで書きましたが、京都やその周辺に親戚や友人がいるので、時々京都へ出掛けることがあります。

本書では、もっぱら有名な観光地でないところを散歩したり、ひとり飯する方法、ひとりで泊まれる宿情報などが書かれています。しかし一般的な観光客であれば、同じ関西にでも住んでいない限り、そう何度も京都へ行く機会はなく、そしてせっかく行くからには定番の観光地や寺社巡りをしたいだろう思いますが、そういうガイドブックとしてはあまり役立ちません。

例えばひとりで京都旅行となると「龍馬」「新撰組」「戦国武将」「仏像」「小説や映画の舞台」などのゆかりの地を巡ったり、「桜」「紅葉」「祭り」「寺社」「茶道」などを観光や体験などを目的とするケースが多いんじゃないかなと思います。「目的もなしにぶらりと京都へ」というのは、イメージ的には格好いいのですが、かなりの京都通か自殺願望者ぐらいで、普通の人だと夏は暑く冬は寒くて年中湿度が高くジメジメし、観光地の常道で物価が高い京都では退屈な思いをするだけでしょう。

ひとり旅だからこそ「マニアックで観光客があまり訪れない場所へ」という趣旨はわかりますが、それならばどちらかというと大阪など京都周辺に住み、日帰りで何度もぶらりと訪れる人にとっていい本なのかなという感じがします。でもそれならば宿泊情報は不要で、その辺りちょっと中途半端な気がします。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

青春の門 第七部 挑戦篇 (講談社文庫) 五木寛之

団塊世代の人ならほぼすべての人が、そうでない人も50代以上なら読んだか映画を観たかで知っている人が多い「青春の門」は、1969年に初出の「第1部 筑豊篇」から始まり、「第2部 自立篇」「第3部 放浪篇」「第4部 堕落篇」「第5部 望郷篇」「第6部 再起篇」「第7部 挑戦篇」と続く、同氏の自伝的ライフワークと言える超長編小説で、まだまだ完結しそうもありません。

五木寛之氏もすでに78歳。いつなにが起きても不思議ではない年齢に達していますので、このまま完結を見ることなく終わってしまうのでしょうか。もしかすると、本当はすでに完結編まで書き終わっていて、自分の死後に順次刊行するような密かな作戦ができているのかも知れません。ま遅筆と1カ月間ぐらい平気で風呂に入らない風呂嫌いで有名な五木氏ですからそれはないと思われますが。

この第7部挑戦編は、前編第6部再起編が1981年に文庫化されて以来、なんと30年ぶりの文庫の続編の登場となります。さすがに30年前の再起編がどんな展開だったかはすっかり忘れてしまっていますが、あえて読み直しはしないで、この挑戦編を読みました。

物語の舞台は北海道にある江差町です。江差と言っても江差追分は知っていても北海道のどこにあるのかまで知っている人は少ないのではないでしょうか。私も恥ずかしながら調べるまでは知りませんでした。函館から日本海側へ出て少し上へ行ったところで、奥尻島へのフェリーが発着している場所と言えばわかりやすいかも知れません。

江差も明治・大正の頃は小樽と同様ニシン漁が盛んな漁港で、すごく活気があったと言うことですが、昭和に入ってからはその面影は消えていきます。小説では1960年~1961年の貧しくわびしい漁村として描かれていますが、この小説により観光客誘致の町おこしなんてものがおこなわれているのでしょうか。小説の舞台にもなっている鴎島がミニ原宿化してたりするとガックシするでしょうけれど。

それはさておき、主人公伊吹信介はここでも女子高生にモテモテです。60年代の学園紛争真っ只中でもあり、まもなく始まろうとしている高度経済成長に向けて、貧しい中でも必死にもがきながら飛び出す機会を狙っている主人公が、過去に登場した様々な人物と函館で巡り会い、やがて次編のナホトカからシベリヤ鉄道でユーラシア横断する「青年は荒野を目指す」旅の次編へとつながっていきます。ただし、こちらは途中まで週刊誌に連載されていましたが、現在は休筆中となっているそうです。

著者別読書感想(五木寛之)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ボックス! 上・下巻 百田尚樹

デビュー作「永遠の0 (講談社文庫)」を読んでファンになった百田尚樹氏の2008年の小説です。タイトルだけではなんのことか分からない人が多いと思いますが、表紙カバーを見ると「ああボクシングの小説か」とすぐにわかります。このカバー表紙が、いかにも若者向けというイメージで、果たしてこの本の売れ行きにいいのかどうかちょっと微妙な気がします。

「ボックス!」とはボクシングでレフリーが両者を闘わせる際にかける言葉で、相撲で言えば「ハッケヨーイ!」ですが、「あしたのジョー」世代には「ファイト!」と言うのが一般的に知られていましたが、いつの間にか変わったんですかね。

設定は大阪の高校の弱小ボクシング部に、中学校時代から素質を認められプロボクサーに混じってジムでボクシングをやってきた運動能力の優れた生徒と、その親友で勉強しかできないスポーツ苦手の高校生が入部し、アマチュアボクシングを通じ成長していくという内容です。

「Box」に「ボクシングをする」という意味の動詞があったり、「Science」に「ボクシングの技」という意味があったりと、その他にも様々な一般には知られていない用語やルールなどのうんちくが満載です。どうしてもボクシングと言うと、あまり一般の人には馴染みがなく、テレビ中継があるプロの試合やアニメや映画「あしたのジョー」のイメージだけですが、単なる根性ドラマでもなくヒーローものでもない、現代っ子の部活動を中心に書かれています。

ジワジワと口コミや書店員の推薦で伸びて結果的には大成功を収めた「永遠の0」とはまったく違ったジャンルの小説で、著者としては「永遠の0」で描いた太平洋戦争小説家のイメージが付くことを恐れ、まったく違う、どちらかと言えば若者に向けた売れる小説を書いたのかも知れません。しかし最後のエピローグ部分に「永遠のゼロ」を彷彿させる同じような匂いを私は感じ取りました。

著者は元々放送作家ですので、いかにも映像化しやすそうな内容で、そのうちたぶん映画化されるのではないかなと思います。

著者別読書感想(百田尚樹)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

15のわけあり小説 (新潮文庫) ジェフリー アーチャー

アーチャーは「ケインとアベル」など長編小説がたまらなく面白いのですが、その合間に短編集もいくつか出していて、それがまたいいのです。今回はタイトル通り、15話からなる短編小説で、事実を元にした物語と想像で書いたものとが混在しています。

概ね彼の短編小説の特徴とパターンがわかってきましたので、物語の最後のどんでん返しで驚くことは少なくなりましたが、逆にニヤリとするようにひねってないと満足いかなくなり、評価のハードルが高くなってしまいました。そういう中でも短編ならではこそ発揮される彼のストーリーテラーぶりにはいつも感心します。

事実に基づいた話しでは、どこまでが本当の話しなのかは知りようないのですが、もしそのまま事実であれば、それは痛快だなと思えることが満載です。でもやはり昔に読んだ「十二本の毒矢」や「十二の意外な結末」などからすると、文章や構成は上手くなっていますが、いまいちドッキリさせるキレがなく、また新鮮味に欠けるように思いました。

それにしても2004年に書かれた獄中記の二作目「煉獄篇」が未だに文庫になりません。一作目の「地獄篇」がとても面白かっただけに、ぜひ早く契約関係?をスッキリさせて「煉獄篇」の文庫化を急いでもらいたいものです。第三部の「天国編」も楽しみに待っていますが、いつになるのか神のみぞ知るってところでしょうか。

著者別読書感想(ジェフリー・アーチャー)

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