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蝶 (文春文庫) 皆川博子

過去に「開かせていただき光栄です」(2011年)を読んだだけですが、その時には「若手作家さん?」と思っていたのですが、90歳を超えているベテラン作家さんでした。言い訳ではないですが、それだけ文体やストーリーが若々しかったということで。

2018年10月後半の読書(開かせていただき光栄です)

今回の作品は、2005年に単行本、2008年に文庫化されています。

前に読んだ作品とは違って、主に太平洋戦争中や戦後から間もない時代を背景とした短編集で、これを先に読めば作家さんの年齢も早くに想像ができたでしょう。

短篇作品は、それぞれ独立した話しで、「空の色さえ」「蝶」「艀」「想ひ出すなよ」「妙に清らの」「龍騎兵は近づけり」「幻燈」「遺し文」の8篇です。

幻想的なミステリがお得意な作家さんゆえ、この短編集もそうした内容となっています。

ただ個人的にはどうもこうしたフワフワした生と死の幻想小説は苦手で、起承転結がハッキリしたものを好みます。

ただ、私が子供だった頃にうっすらと記憶に残っている背景描写もあり、懐かしく郷愁に浸れました。

また各篇にはそれぞれ詩や俳句が添えられていて、その関連は学がないせいかイマイチよくわかりませんでしたが、作家さんの深い教養を感じられる作品でした。

★☆☆

著者別読書感想(皆川博子)

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ぬるい毒(新潮文庫) 本谷有希子

著者は多くの小説を出している作家活動以外にも劇作家や演出、女優なども手がける多才な方ですが、作品を読むのは2010年に読んだ「乱暴と待機」に続き2作目です。

本著は2011年に単行本、2014年に文庫化されている中篇の現代小説です。なおこの作品で、野間文芸新人賞を受賞し、3回目の芥川賞の候補(結果は落選)にもなっています。その後、2016年には「異類婚姻譚」で見事芥川賞を受賞されています。

主人公は19歳の地方の短大生で、あるとき記憶にない高校の時の知り合いだという大学生の男性から「返却するものがある」と電話がかかってきます。

その男性が自分の好みで、それ以降連絡を待つようになり、やがてつきあっていた彼氏とも別れ、男性が住む東京で同棲しようとなっていきますが、その心理描写がなんともまどろっこしいというか、還暦過ぎたオッサンにはなんとも理解しがたいばかり。ってそりゃ当たり前か。

とにかく、若い女性の頭の中を駆け巡る想いや感情が吐き出されているばかりの内容なので、これはオッサンが読むのはちょっとツライ限りでした。

★☆☆

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殺し屋、やってます。 (文春文庫) 石持浅海

著者の作品は過去に「月の扉」(2003年)と「セリヌンティウスの舟」(2005年)を読んでいます。どちらも面白かった記憶があります。

この作品は2017年に単行本として、2020年に文庫化されていますが、2019年には続編として「殺し屋、続けてます。」が発刊されています。

内容は、7作の連作短編集で、それぞれのタイトルは、「黒い水筒の女」「紙おむつを買う男」「同伴者」「優柔不断な依頼人」「吸血鬼が狙っている」「標的はどっち?」「狙われた殺し屋」です。

脱サラして経営コンサルタントをしている主人公ですが、副業で殺し屋を営んでいます。ってあまり現実的じゃない話しですけど、コミカルなところとシリアスな話しとうまく組み合わせつつ、デキのよい短篇となっています。

7篇ともそれぞれ味があって面白く読めましたが、その中で一番好きだったのは「吸血鬼が狙っている」で、主人公の殺し屋はその依頼主や目的は一切知らずに仕事を受けるのですが、仕事が終わった後に仕事仲間にその推理を披露します。その内容が一番泣けたのがその作品です。

ただこの作品は月刊誌に連載していたという事情もあり、毎回短篇の前には、同じ話が繰り返されます。それがちょっとうるさい感じです。単行本化する時に、その辺りは端折るなど編集してもいいのではないかな。

殺し屋を主人公とした小説は数多くありますが、私のお気に入りはローレンス・ブロックの「殺し屋ケラー・シリーズ」で、抱腹絶倒&しんみりとできて非常に優れた作品です。

おそらくですが、著者もきっとこの「殺し屋ケラー・シリーズ」を読んで刺激を受けているのでは?と思います。

★★☆

著者別読書感想(石持浅海)

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家守 (角川文庫) 歌野晶午

2003年カッパ・ノベルス、2007年に文庫化された短篇集です。意図的ではないですが短篇が続くときはよく続いてしまいます。

家にまつわるそれぞれ独立した短篇作品でそれぞれタイトルは「人形師の家で」「家守」「埴生の宿」「鄙」「転居先不明」の5篇からなっています。

著者の作品は過去に長編ミステリーの「葉桜の季節に君を想うということ」(2003年)を読んでいます。

最初タイトルを見たとき、篠田節子著の「家鳴り」や貴志祐介著の「黒い家」をふと思い出し、「これもホラー?」って思っていましたが、純粋なホラーというのではなく、ホラー的な香りが少し漂うミステリー小説です。

印象に残ったお気に入りの小説は「人形師の家で」と「転居先不明」。

前者は子供の頃住んでいた地方にある洋館でかくれんぼをしていた友達のひとりが神隠しにあい行方不明になり、20年後にその時一緒に遊んでいた友人から呼び出されその神隠しの理由が判明する話し。

後者は、いわゆる事故物件を知らずに買った夫婦の話しと、その事故物件となった時の複雑な殺人事件についてのミステリーとがセットになった話しです。

そうそう「鄙」も良かったです。高齢化で衰退した集落の中で起きた殺人事件について、犯人が罪を認め服役しているのちに、その時旅行で滞在していた官能小説家が、真相に迫る別の推理を披露するという変わった内容でお薦めです。

★★★

著者別読書感想(歌野晶午)

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うまくいっている人の考え方 完全版 (ディスカヴァー携書) ジェリー・ミンチントン

著者はアメリカのビジネス経験の後、著述業の方で、心理学に詳しいとのことですが、特に心療内科など医療関係、あるいはカウンセラーではないそうです。

この完全版は、1999年と2004年に発刊された続編の二冊をまとめたものだそうで、2013年に発刊されています。

こうした「成功への道」「対人関係」「物事の考え方」「習慣づけ」を教えてくれる指南書はアメリカで数多く出版され、それが日本へもやってきますが、私も20代30代の頃にはついついタイトルに釣られてよくお世話になりました。

こちらの新書も、社会にでて多くの経験をし、そこで様々な問題にぶつかったり、悩んだりしたときの考え方を教えてくれますので、読者の対象年齢は20代後半から30代後半ぐらいでしょう。

私のようにすでにビジネスからリタイアした人が読んでもあまり役立ちませんが、いろいろと考えさせられるメッセージもあり、悪くはないです。

1から100までの格言とその理由が書かれていて、年齢や経験、性別、性格などによって、ピンとくるものもあれば、関係なさそうと思えるものもあり、人それぞれに読んだ感想はバラバラになりそうです。

私の場合、人の眼を気にするタイプであり、失敗すると後でクヨクヨと考えることがあるので、この100の中では、

003「したくないことは、はっきりと断る」
014「自分のしたいことをする」
018「他人からどう評価されようと気にしない」
042「他人に対する悪い感情は、さらりと忘れる」
055「自己中心的な人から遠ざかる」
084「被害者意識を持たない」
085「現実を受け入れる」
093「些細な問題にとらわれない」

などが心の隅っこに引っかかりました。

★★☆

【関連リンク】
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