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破門(角川文庫) 黒川博行

いわゆる「疫病神シリーズ」の5作目で、2014年に単行本、2016年に文庫が発刊されています。

この作品で2014年上半期の直木賞を受賞されています。こうしたコミカルな要素が含まれるヤクザ小説でシリーズ物が直木賞とは意外な感じです。

さらにこの小説を原作としたテレビドラマ(2015年)や、映画「破門 ふたりのヤクビョーガミ」(2017年)も作られています。

著者の小説は過去に「国境」と「暗礁」の2作品を読んでいますが、偶然ですがそれらも同じ「疫病神シリーズ」でした。

もちろん著者の作品はそのシリーズだけではなく、「大阪府警シリーズ」や「堀内・伊達シリーズ」、その他多くのシリーズ外作品があります。

主要な登場人物の性格や行動パターンがわかっていると、読むのがめちゃ楽です。そういう意味では気に入ったシリーズ物というのは精神的な安息が得られて貴重です。

このシリーズの主人公は、今は亡き父親がヤクザの大物だったことで、堅気の建設コンサルタントをひとりでやっていても、周囲にはいつもヤクザの影がつきまといます。

その中でもひとりのヤクザと腐れ縁で、「国境」ではそのヤクザとともに北朝鮮へ不法入国し、川を泳いで逃げるときに銃撃をうけるなど散々な目に遭います。それでその相棒とも言えるヤクザが「疫病神」というわけです。

今回も喧嘩や暴力はからっきし苦手で堅気の主人公と、これぞ任侠、ベタベタなヤクザと二人の絡みで物語は進んでいきます。

今回は、人気俳優を担いだ映画制作にヤクザの親分が大金を投資したところ、それをプロデューサーが持ち逃げをして女とともにマカオへ飛んだことがわかります。それを追いかけ二人が大阪とマカオを駆け回ります。

マカオと言えばカジノで、二人がカジノをするシーンも少しありますが、割とあっさりしていて、これは著者の性格というか好み(あまりカジノは好きでない)によるのでしょう。

映画制作の舞台裏やヤクザ組織同士の対立など、普通ではあまり知られていないうんちく的な話が出てきて、前作同様、二人の上方漫才のような掛け合いが面白く読めました。でも3作目ともなると同じようなパターンで飽きてきたかな。

今回、相棒のヤクザがあちこちで同業のヤクザと揉め、庇いきれなくなって組を破門されることになります。それがこの作品のタイトルとなっています。

その後もシリーズは続いていますので、二人の立ち位置に微妙な変化が現れているのか少し気になるところです。

★★☆

著者別読書感想(黒川博行)

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王とサーカス(創元推理文庫) 米澤穂信

2015年に単行本、2018年に文庫化された長編小説です。「このミステリーがすごい!」などで1位を獲得しています。

日本人が知っていそうでほとんど知られていない国のひとつにネパールがあります。この小説の舞台はネパールで、新聞記者を辞めた後、フリーライターとして旅行ガイドを書くために主人公の女性がネパールを訪れます。

そしてネパールで拠点とする安ホテルに到着してからまもなく、ネパールで国王が殺されるという事件が発生します。

この事件は事実を元にしているのか?と思って調べたところ、2001年に起きた「ネパール王族殺害事件」をモチーフとして使っているようです。

その事件は謎が多く、外出禁止令などが出され、国民の不満から暴動を生み始め、元記者だった主人公はフリーライターとしての最初の記事としてこの事件を追いかけることにします。

同じ安宿に宿泊しているのが日本人の僧侶、アメリカ人学生、インドの商人などくせ者揃いで、観光客に土産物を売って生活を支えている子供をガイド役にして取材をしていきます。

最初タイトルをみてどういう内容かはまったく想像がつきませんでした。

主人公がホテルの主のコネで国王が殺された王宮内で警備をしていたという兵士に、事件について単独インタビューをしたとき、その兵士からはなにも聞き出すことはできず、「お前はサーカスの座長だ。お前の書くものはサーカスの演し物だ。我々の王の死は、とっておきのメインイベントというわけだ」というマスメディアが「人の不幸は蜜の味」として面白おかしく報道することが多いことを皮肉を込めて言ったことからきています。

その兵士がインタビューの後に何者かによって惨殺され、直前に会っていたことが警察に知られ、主人公は警察に連行されます。

やがて疑いは晴れ、次に狙われるかもしれないと刑事がガードすることになり、その刑事と共になぜ兵士が殺されたのかを突き止めていきます。

ネパールのことを少しだけでも知れたことと、事件の意外性もあって、面白く読めました。

★★☆

著者別読書感想(米澤穂信)

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アイルランドの薔薇(光文社文庫) 石持浅海

著者の作品はこれが4作品目です。いずれも単純ですけど面白いです。

この作品は2002年に単行本、2004年に文庫化され、著者の本格的なメジャーデビュー作品(小説)です。

この作品の舞台はアイルランドで、アイルランドの研究所に提携する日本の製薬会社から派遣されている日本人研究員が殺人事件に遭遇します。

この本を読む前に読んだ「王とサーカス」が、ネパールを舞台にした小説で、日本人女性が謎解きをしましたが、今度はヨーロッパへ飛びアイルランドで同じく日本人(男性)が謎解きです。

アイルランドというと、一般的な日本人には遠くて遠い国で、英国とのテロ事件が時々クローズアップされたり、アメリカにも多く移住していて、仲間の絆が深いアイルランド系住民について語られることがあることぐらいでしょうか。

そう言えば以前見たハリソンフォードとブラッド・ピットのW主演の映画「デビル」(1997年)もアイルランドのテロリストと、アメリカに住むアイルランド系警察官の友情と対立が主題でした。

この小説を読むと、アイルランドの歴史や、テロが頻発する(した)理由、世界中にアイルランド系民族が散らばった理由など、知らなかったことがよくわかります。

そうしたアイルランドが舞台とは言え、あまりそのこと自体は重要ではなく、ストーリーとしては閉じられた空間(この作品では小規模なホテル)で起きた殺人事件の謎解きをするという内容です。

北アイルランドは英国主導のプロテスタントの国家で、カトリックが中心の南アイルランドとは長い歴史の中で双方がいがみ合い殺し合うという歴史があります。

そんな中、北アイルランドの兵士メンバー3人が偽名で宿泊する南アイルランド郊外にあるホテルに、アメリカの女子大生二人、オーストラリアのビジネスマン、日本人とアイルランド人の化学研究員が同宿しますが、翌朝に兵士メンバーのひとりが殺されます。

さらに、それとは別に、その殺された兵士を旅行中に自然死と見えるように殺して欲しいと頼まれた殺し屋の存在もあります。この殺し屋が誰なのか最後まで明らかにされませんが、ミステリー好きならすぐに誰なのかわかると思います。私はすぐにわかりました。

なかなか凝った内容で、犯人捜しの推理はことごとく外れてしまいましたが、限られた候補の中で、誰がどういう動きをしてどう発言したかなど、緻密に散りばめられていて推理を楽しめました。

★★☆

著者別読書感想(石持浅海)

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犬とハモニカ(新潮文庫) 江國香織

2012年に単行本が発刊された短篇集で、川端康成文学賞受賞作品です。2015年に文庫化されています。

短篇はそれぞれ独立した作品で、「犬とハモニカ」「寝室」「おそ夏のゆうぐれ」「ピクニック」「夕顔」「アレンテージョ」の6篇です。

離婚間近な夫婦や、不倫が終わりを告げた男性、恋人がいるものの孤独感にしたる女性、仲良く見える夫婦ながらも微妙な関係になりつつある夫婦、源氏物語の光源氏を主人公とした色恋話を現代語訳で、ポルトガル人ゲイカップルの夏休みと、なんの脈絡もなく6つの短いストーリーを楽しめます。

ただ、起承転結などないので、想像をたくましくして読まないといけないのと、読後の感想は人それぞれに分かれそうな感じです。

個人的には結末がはっきりしないものは、モヤッとした気持ちが残ってしまい苦手です。それが江國ワールドだと言ってしまえばそうなのでしょうけど、どうにも読後にスッキリとしません。

★☆☆

著者別読書感想(江國香織)

【関連リンク】
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 5月前半 アンダスタンド・メイビー(上)(下)、戦国時代の大誤解、隻眼の少女、生きる


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