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見捨てられた者たち(ハヤカワ文庫) マッシミリアーノ・ヴィルジーリオ

著者は1979年ナポリ生まれの44歳で、作品を読むのは今回が初めてです。

原題は「L'AMERICANO」で、主人公の親友の母親がアメリカ人で、夏休みなどはその母親の実家があるアメリカへよく行っていることから、周囲から「アメリカ人」とニックネームがつけられていました。それが原題のタイトルとなっています。

時代や国は違いますがギリシア人作家エリア・カザンが自らの経験を元に小説を書き、さらに映画まで製作した「America,America」(1963年)と、なんとなく先進国アメリカにあこがれる、まだ貧しかった国の人々の印象が似ていて思い出しました。

イタリアナポリ生まれの主人公は父親が銀行員、母親は専業主婦という中流家庭の子どもで、同じアパートに住み遊び仲間の年上の子どもの父親はマフィア組織の下っ端で、アメリカ人の母親は教会でホームレスへの食事の提供などの活動をしています。

その子供時代の二人の関係が話の中心ですが、やがて成年しそれぞれの道を歩むことになりますが親友の父親はなにかの事件に巻き込まれて殺されてしまいます。

そしてアメリカへ渡ろうとしていた直前に、父親のかたきを討とうとナポリに巣食うマフィアのボスの命を狙いますが、その企ては失敗し、殺される代わりにマフィアが殺した数多くの遺体を広大な田舎の農園の中に埋めて処分する仕事を負わされます。

大人になってからは二人の関係や接点はまったくなくなりますが、親友の妹の結婚式で二人は再会することになりますが、、、

やや冗長な感じもしましたが、子どもの頃の甘美な思い出と、大人になってからの厳しい現実としがらみなど、味のある作品となっています。

★★☆

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日傘を差す女(文春文庫) 伊集院静

2018年に単行本、2021に文庫化された、著者には珍しい長編警察ミステリー小説です。

2011年の作品「星月夜」の続編というか、同じ警視庁捜査1課が関わる事件で、「星月夜」の主人公が今回は若い刑事の主人公の上司として出てきます。

ビルの建設工事をしていた作業員が、隣のビルの屋上に遺体があることを発見し、状況から自殺のように思われましたが、主人公の捜査や、同じ凶器を使った殺人事件が2件続いて起きたことで、連続殺人事件となりほとんどない目撃情報や、口の堅い花柳界などに捜査は苦しめられます。

物語の舞台は東京だけでなく、殺された元捕鯨船船員の地元和歌山の太地町や、同じく厳しい環境の青森の最北端三厩なども出てきて旅情豊かで楽しめます。

以前読んだ「志賀越みち」(2010年)は京都の花柳界が舞台でしたが、今回は赤坂の花柳界が出てきます。著者はきっと花柳界が大好きなのでしょうね。

★★☆

著者別読書感想(伊集院静)

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信長の血脈(文春文庫) 加藤廣

2008年に織田信長の遺骸の謎を追う信長公記などを書いた太田牛一を主人公にした小説「信長の棺」(2005年)がたいへん面白く、その後も何作か、戦国時代の小説を読んできましたが、今回はその中の「安土城の幽霊 「信長の棺」異聞録」(2011年)と同様の短篇集で、2014年の作品です

短篇作品のタイトルは「平手政秀の証」「伊吹山薬草譚」「山三郎の死」「天草挽歌」の4篇で、前の二つがオール讀物に、あとの二つは書き下ろし作品となっています。

タイトルに信長が使われていますが、信長自身がメインとしては登場せず、戦国時代からその後の江戸時代に脇役というか、歴史の表舞台とは違うところで生きた武将などが主役となっています。

信長というタイトルは完全に釣りです。「信長の血脈」となれば某元フィギュアスケーターまで書かないといけませんけどそんなのは読みたくもないです。

それでも、4作とも著者が信長や秀吉、明智左馬助などの作品を書いた時に、様々な資料を調べていくなかで疑問に思ったり、新しい発見やアイデアがあったりして、それらを深めて短篇集にまとめたということで、まったくの無関係と言うことでもありません。

「平手政秀の証」は信長の幼少時代に文武の教育係として任された家老が信長の親子の葛藤の中で苦しめられる物語、「伊吹山薬草譚」はよく知られていますが、伊吹山に戦国時代に南蛮由来の薬草畑が作られて、現在でもそうした外来種の草花が繁殖している話し、「山三郎の死」は、豊臣秀吉の子とされている秀頼の本当の父親は?という話し、最後の「天草挽歌」は明智光秀の一番の家臣、明智左馬助の息子で三宅藤兵衛が肥後国で穏やかに過ごしていたところ、天草の乱が起き、人を殺すよりは良いと自死を選ぶという物語です。

ただどうしても短篇だけに、中身はそれほど深掘りはされてなく、サラッと終わっているので、印象に残りにくい感じです。

★★☆

著者別読書感想(加藤廣)

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「脱・自前」の日本成長戦略(新潮新書) 松江英夫

著者はデロイトトーマツグループ執行役で経営コンサルタントの方で、テレビなどにも時々出演されている著名?な方らしいです。知りませんでしたけど。

本著は2022年に書き下ろされたもので、ザックリ言えばタイトルの通りアメリカでは古くからのビジネスモデルとなっているファブレス(fabrication facility)、工場を持たない製造業的な考え方がこれからの日本の企業経営には必要という話です。

日本の経済基盤たる大手メーカーやそれを頂点とするピラミッド構造の下請け、孫請けなどの関連会社まで、基本的には自社製品は自社工場で製造し、資本系列以外の外部には発注しないという閉じたスタイルから、バブル崩壊後にはすでにそれらは破綻していますが、高度成長期からバブルの頂点までそれで成功を収めてきた人達の思考を転換させる必要があるのではと言うことです。

百回ぐらい「タコツボ社会」の弊害が書かれていますが、若い人に「タコツボ」と言ってもおそらくそれがなにか知らない人がほとんどでイメージすら湧きにくく、自己満足な内容です。もうちょっとスマートな言い回しやサンプリングはなかったのでしょうかね。蛸壺って、、、

他には様々な事例や企業名をあげての変革、成功例などが書かれていますが、経営者として勤務するトーマツグループでは今度ビッグモーターの再建に取り組むというニュースがあり、直接担当をするのかどうかは知りませんが、数年後にその時の模様をぜひ活字化して欲しいと思いました。守秘義務とかあって無理とは思いますけど。

★☆☆

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