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少年たちの四季(集英社文庫) 我孫子武丸

少年たちの四季
「ぼくの推理研究」(1993年刊)と「死神になった少年」(1997年刊)の2作品を合本し2003年に発刊された文庫版短篇集です。

収録作品は「ぼくの推理研究」、「凍てついた季節」、「死神になった少年」「少女たちの戦争」の4作で、1作目と3作目、2作目と4作目がそれぞれ主人公が同じです。

ミステリー作品ですが、同じマンションに住む少年と少女が主人公で、家庭での親との関係や学校での同級生との関係など、中高生などに向けたライトノベルというにふさわしい構成とストーリーです。

ま、還暦過ぎたオヤジが、自分の若い頃を思い出しつつ読むには、ちょっと苦しいかな。時代がすっかり違っているので。

しかし謎解きはリアリティのあるなしは別として、なかなか新鮮なもので、大人が読んでも十分に楽しめるものでした。

★★☆

著者別読書感想(我孫子武丸)

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砂上(角川文庫) 桜木紫乃

砂上
2017年に単行本、2020年に文庫化された小説です。北海道で離婚後アルバイトをしながら極貧生活を続ける女性が何度も自伝的小説で新人賞に応募し、その都度、落胆を繰り返しながらもあきらめなかったことで、あるとき敏腕編集者に気に入られ、何度も何度も書き直しを指示され、、、というどこか著者自身の体験も含まれてそうな内容です。

主人公の女性は、母親が20歳の時に生まれた父親が不明(最後で明らかになります)の私生児で、15歳の時に妊娠したため、産んで母親の子供として(つまり主人公からすると姉妹)届けるという複雑な家庭で育っています。

結婚後に夫の不倫が判明し、離婚を承諾し、慰謝料を受け取り、アルバイトをしながら実家の母の元で暮らしています。15歳で産んだ子供(表向きは姉妹)はしっかり者で、すでに正社員になり独立した生活を営んでいます。

そこに関わってくるのが、幼なじみでもあるアルバイト先の独身の店長とその母親や、毎月払いの慰謝料を値切ってくる元夫、そして札幌出張のついでに会いにやってくる大手出版社の女性編集者などです。

極めて限られた世界の中で、やや暗くなりがちな重い話もありながら、明るい母親や、サッパリした性格の妹などとともに、自主性に乏しい主人公がだんだんと変わっていく姿がまぶしくなっていきます。

人生は人によって固い岩盤の上に立っている人もいれば、主人公のようにサラサラとすぐに崩れていく砂上に立っている人もいます。そうした多種多様な生き方を感じられる面白い小説でした。

★★★

著者別読書感想(桜木紫乃)

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石を積む人(小学館文庫) エドワード・ムーニー・Jr.

石を積む人
生年は不明ですがアメリカ生まれの作家さんで、本業は大学教授ということです。日本語で出版されている著作はこの原題が「THE PEARLS OF THE STONE MAN」だけで、原題を直訳すると「石男の真珠」というタイトルになります。

この作品の舞台はロサンゼルスから北東へ200kmほど行った山間部の田舎町ですが、面白いのはこの作品を元にして、舞台を北海道に置き換えた映画「愛を積むひと」が、朝原雄三監督、佐藤浩市、樋口可南子などの出演で2015年に製作・公開されています。

ストーリーは、田舎で隠退生活をおくる老夫婦の物語ですが、妻のたっての希望で家の周囲に石造りの塀を作って欲しいと以前から頼まれています。妻の実家にあった素晴らしい石塀が忘れられず、そのためです。

しかし妻には心臓に病気があり、もう長くはないことがわかります。そこで老体にむち打って近くの川から石を運び、積んでいく作業をしていきますが、近所の人は「風変わりな石積み男」という名前を付けます。

老夫婦と近所に住む少女とは知り合いになりますが、そのボーイフレンドとその友人が問題児で、塀を壊したり倉庫に落書きをしたりと嫌がらせをし、さらには主人公の老人を突き飛ばして重傷を負わせます。

果たして石積みの塀は愛妻が存命中に完成するのか?という流れで佳境に入っていきます。

原題の真珠とは、まだ若くて稼ぎが少なかった頃に妻に買ってあげた不揃いの真珠を妻はいたって気に入っていて、亡くなる時にも身につけていたものです。

しかしその真珠も悪ガキに盗まれてしまいます。そちらの行方も気になりますが読んでからのお楽しみということで。

ちょっと夫婦間の愛情にしては度を超した粘着質過ぎて、特に日本人には受け入れられそうもないですが、欧米の仲の良い夫婦だとこういうこともあり得そうです。

そして、妻を亡くした後、生きる気力をなくした主人公の復活は?ということがラストへの感動を呼ぶことになります。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

世論調査の真実(日経プレミアシリーズ) 鈴木督久

世論調査の真実
2021年に発刊された新書で、著者は日経リサーチの方です。特に新聞社の世論調査について知りたかったので読んでみました。

テレビ局はその系列の新聞社がおこなった世論調査を引き合いに出すことが多いですが、最近は各社の世論調査を並べて出す傾向にあるようです。

それぞれ世論調査の結果に違いが出るのは、調査対象者の選び方や、調査方法(固定電話や携帯電話、街頭インタビューなど)、調査の質問内容(仕方)、そしてその結果概要のまとめ方にそれぞれ差が出ると言うことがわかりました。

個人的には、一般紙は朝日新聞、仕事をしていたときにはプラスして日経新聞を購読していましたが、どうしても世の中の動きは、ネットがない時代にはテレビはあまりみないので、その狭い情報の中だけに長くとどまっていました。

しかしなにかで朝日新聞の調査と読売新聞の調査では大きな乖離があることに気がつき、同じ大新聞社でどうしてこんなに結果が違ってくるのだろう?と不思議でした。

そういう意味では、比較的中立的と思われる通信社(時事とか共同など)の調査はというと、それもあまり確かなものとも思えず、実際的に自分に調査の電話がかかってきたことはなく、本当にどこまでちゃんとやっているのかという疑惑もあります。

やっているほう(マスコミ)は真剣にやっていても回答者がいい加減に返答しているケースもあり、なかなかこの世論調査というものは昭和時代ならともかく現代では信用がおけないものへと変わってしまったなという感想です。

★★☆

【関連リンク】
 7月前半の読書 メルカトルかく語りき、新聞という病、臨床真理、釧路湿原殺人事件
 6月後半の読書 鍵のない夢を見る、悪しき正義をつかまえろ、ふなうた、大量廃棄社会
 6月前半の読書 四つの署名、牛の首、残酷な進化論、盤上の夜

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