リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
HomePage https://restrer.sakura.ne.jp/
|
1849
ドリアン・グレイの肖像(新潮文庫) オスカー・ワイルド
![]() |
「ドリアン・グレイの肖像」(原題:The Picture of Dorian Gray)は、1990年に出版された長編小説で、友人から「日本の寺にある馬の絵から夜な夜な馬が飛び出し駆け回り、朝にはまた絵の中に戻ってくる」という話しを聞いたことがモチーフとなった(諸説あり)、肖像画にまつわる内容です。
主人公のドリアン・グレイは容姿端麗で美しい顔をした貴族の青年で、まだ少年だった頃に有名な画家のモデルをして、生き写しの肖像画ができあがります。
その肖像画を画家から贈られたドリアン・グレイは、やがて汚れた世間にまみれ老いて醜悪になっていく自分の姿とこの若さを失わない肖像画を比べ、思わず「自分がこの絵のように若さを失わず、老いていくのがこの絵だったら、どんな代償も惜しまない、魂だってくれてやる」と願掛けをします。
そうなるとおおよその展開がわかってきそうですが、主人公の青年が一目惚れで恋をし、つまらぬことで破綻し、また友人達が次々と悪の道へ落ちていき、最後は肖像画を描いてくれた友人の画家にまで手をかけることになっていきます。
著者はゲイ(当時は同性愛は犯罪)で逮捕されたことがあるそうですが、この小説にも同性愛を彷彿させるようなオブラートに包んだような表現がいくつもあります。当時はそれを具体的に書くだけで逮捕されるような時代だけに、歯がゆさが感じられます。
そういうストーリーながら、19世紀末頃の英国貴族社会の風潮はなにかと哲学的で難しく例えば、主人公と、その友人貴族の話しで、
ドリアン、自己欺瞞はやめるのだ。人生は意志や意図で支配されているのではない。人生とは神経と繊維組織、そして徐々に形成される細胞の問題であり、これら神経や細胞の中に、想念が身を潜ませ、情熱が夢見るのだ。きみは自分を安全と信じ込み、強き人間と考えているのかもしれないが、しかし、部屋の中、あるいは朝空の中にふと認められた色あい、昔好きだったために、いまでも嗅ぐたびに妙なる思い出を匂わせる香水、かつて眼にふれたことのある忘れられた詩の一行、弾くことをやめてしまった曲の一節…いいかい、ドリアン、こういったものにこそ、人間の生活は左右されているのだ。 |
のようなよくわからないまどろっこしい言葉が多く紡がれていて、ライトノベルや大衆小説ばかりが馴染んでしまっている我が身には、こうした文学を読みこなすには結構な忍耐と想像が必要です。
そう考えれば、日本の文豪と呼ばれる人達、森鴎外や夏目漱石、谷崎潤一郎などが著者と著者の作品に大きな影響を受けたというのもわかります。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
悪い夏(角川文庫) 染井為人
![]() |
さらに今年2025年3月には城定秀夫監督、北村匠海、伊藤万理華、河合優実などの出演で、この小説を原作とした映画も公開されています。
生活保護制度やそれに関連した貧困ビジネスなどの社会問題については小説に取り上げられることも多く、私は柚月裕子著「パレートの誤算」や中山七里著「護られなかった者たちへ」を過去に読みました。
◇2023年4月後半の読書と感想、書評(パレートの誤算)
◇2024年5月前半の読書と感想、書評(護られなかった者たちへ)
生活保護を小説のテーマにすると、その内容は決して明るいものではなくなり、暗く重苦しいものとなってしまいます。
本著も貧困ビジネスや風俗、万引きなど犯罪のオンパレードで、「生活保護=闇と罪」というよくあるパターンで、読み進むにつれてページを繰るのがツラくなってきます。
しかし200万人と言われる生活保護受給者のうち、不正受給と思えるのは極めて特異な場合だと思います(そう信じたい)。
それだけにこうした特殊なケースの生活保護をテーマにした小説やそれを原作とした映画やドラマが制作されると、「生活保護=悪」という構図ができあがってしまい、それが本当に必要な人に抵抗感を与えてしまうことになりはしまいかと心配します。
役所側にとっては、少しでも申請を減らせる効果があり、加えて不正受給を思いとどまらせる効果があるのかも知れませんが。
小説はもちろんフィクションなので、なにをどう描こうとまったく自由です。そうしたことを考えれば、特殊なケースとは言え、エンタメとして読むべき事なんだろうなぁと思います。
あらすじは、地方都市の市役所勤務で福祉担当の独身男性、不正受給をしている中年男性、不正受給と受給額を増やしてもらう代わりに役所の担当者に身を提供しているシングルマザー、貧困ビジネスで安定したしのぎを画策しているヤクザなど、それぞれの視点で語られ、最後には一箇所にそれらの人達が一堂に会し大きな事件へと発展していきます。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
東京自叙伝(集英社文庫) 奥泉光
![]() |
主人公である「東京の地霊の私」は次々と転移していきますが、記憶は縄文時代の頃からうっすらと残っていて、江戸時代には幕府の武士、昭和に入ってからは大本営の参謀、戦後には闇市にうごめくヤクザなど、次々と変わっていきます。
中盤辺りからは複数にまたがった「転移した私」の語りとなっていくことで、少々ややこしくなっていきます。
江戸や東京で起きた様々な出来事が出てきますが、それらは実際に起きた歴史をうまく利用しながら展開されます。
過去の別人の記憶が浮かび上がってきたり、ネズミが見たシーンかどうか不明だったりと、ややとっちらかった内容で、もう少しなにかに集中してまとめていった方が読みやすいだろうなと感じました。
首都東京をテーマにした小説は数々ありますが、その中でも個人的には1985年に出版された荒俣宏のSF小説「帝都物語」が一番深く刺さりました。
ただあれは映像化もされましたが、その時の映像はまだSFXが未熟な頃の作品で、イマイチ出来は良くなく、今の技術でリメイクされると良いのになぁと思ってしまいます。
★★☆
◇著者別読書感想(奥泉光)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
ジヴェルニーの食卓(集英社文庫) 原田ハマ
![]() |
収録作品はそれぞれに印象派の巨匠と言われた著名な画家をテーマにした「うつくしい墓」、「エトワール」、「タンギー爺さん」、「ジヴェルニーの食卓」です。
「うつくしい墓」は、老女が若い時にアンリ・マティスの元で家政婦をしながら、パブロ・ピカソとの交流や、晩年の姿をル・フィガロの記者に語るという内容。
「エトワール」は、アメリカ人女流画家のメアリー・カサットが、友人だったエドガー・ドガの彫刻作品「14歳の小さな踊り子」のモデルについて、古い画商の仲間から問われるという話し。
「タンギー爺さん」は、パリで画材店兼画商をしていたタンギー爺さんと画家たちから呼ばれていた店主の娘が語り手で、セザンヌから出世払いにしていた借金を支払ってもらえるように督促する手紙や、他の貧乏な若い画家たちが、作品と交換に画材を買っていく話し、その中の若きフィンセント・ファン・ゴッホが店主をモデルにした肖像画を描いてプレゼントした話しなど。個人的にはこれが一番好きです。
最後の「ジヴェルニーの食卓」は、クロード・モネの義理の娘が語り手で、モネの苦悩と晩年の様子が描かれています。
しかし画家という職業、しかも突出した新しいスタイルを求める若い現役時代には批評家の意見は厳しく、評価も決まらず、貧困の中で苦しんでいるものだということがよくわかります。
個人的にはそうした西洋絵画や印象派の巨匠たちについて、名前と代表作以外はほとんど知らないので、こうした実在した画家たちの生々しい姿が身近に感じられる物語は読んでいて楽しいです。
著者の小説には、本著のように西洋美術の巨匠をテーマにした作品もあれば、まったく関係のない作品の両方がありますが、やはり圧倒的に前者の美術や画家をテーマにした小説の方が私にとっては興味を引かれて面白いです。
2年前に読んだ著者の作品「暗幕のゲルニカ」(2016年)はパブロ・ピカソとその愛人ドラ・マールがテーマでしたが、絵画のキュレーターとしても活躍する作家さんだけに、テーマの選び方や実際に起きた歴史を下敷きにした創作は素晴らしいのひと言です。
ちなみに、「暗幕のゲルニカ」は、「リス天管理人が2023年に読んだベスト書籍」の大賞を受賞しています。
★★★
◇著者別読書感想(原田マハ)
【関連リンク】
7月前半の読書 犬はどこだ、巡査長 真行寺弘道、罪責の神々 リンカーン弁護士、日本史を暴く 戦国の怪物から幕末の闇まで
6月後半の読書 夜明けの雷鳴 医師高松凌雲、魂をなくした男、日本の地方政府、神座す山の物語
6月前半の読書 果しなき流れの果に、センス・オブ・ワンダー、わくらば 短篇集モザイクIII、人新世の「資本論」
[PR] Amazon 書籍 売れ筋ランキング | ||||
ビジネス・経済 ビジネス実用本 新書 文庫 文学・評論 コミック ゲーム攻略・ゲームブック |
ハヤカワ・ミステリー 創元推理文庫 新潮文庫 講談社文庫 角川文庫 集英社文庫 岩波文庫 |
文芸作品 ノンフィクション ミステリー・サスペンス SF・ホラー・ファンタジー 歴史・時代小説 経済・社会小説 趣味・実用 |
リストラ天国TOP
おやじの主張(リストラ天国 日記INDEX)
著者別読書感想INDEX
PR
コメント
|
カレンダー
|
最新記事
|
(08/02)
(07/26)
(07/19)
(07/12)
(07/05)
(06/28)
(06/22)
(06/14)
(06/07)
(05/31)
カテゴリー
|
ブログ内検索
|
最新コメント
|
[06/28 area]
[06/28 U・M]
[01/03 area]
[01/03 Anonymous]
[10/09 area]
プロフィール
|
HN:
area@リストラ天国
HP:
性別:
男性
趣味:
ドライブ・日帰り温泉
自己紹介:
過去人気記事
|
ロバート・B・パーカー「スペンサーシリーズ」全巻まとめ
マイカーで東京から京都まで旅行する場合その1
ゴルフをプレイしている人の年代層割合に驚いた
プラッシーが静かに退場していた
2011年7月中旬時点のリストラと求人の各業界動向
窓ガラスの熱割れで火災保険は使えるか?
貯まった1円玉はどうする?
スペンサーシリーズの読み方(初級者編)
日本の農業はどこへ向かうか
米の生産量減少に歯止めはかかるか
客員教授と非常勤講師ってなんだ?
天然素材でも綿はよく燃えるらしいことがわかった
リタイア後の心配事
2021年版出版社不況
変形性股関節症の人工股関節全置換手術(1)
Amazon 売れ筋ランキング ドライブレコーダー レーダー探知機 空気清浄機 ペット用品 まくら・抱き枕 体脂肪計 スポーツウェア ランニングシューズ メンズスニーカー レディーススニーカー ゴルフクラブ ゴルフシューズ ミラーレス一眼カメラ ゲーム ノートパソコン プリンタ イヤホン・ヘッドホン スマートフォン スマートウォッチ microSDカード 防犯カメラ スペシャリティアパレル ラーメン レトルト・料理の素 シャンプー・コンディショナ スキンケア・ボディケア |