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貴族探偵(集英社文庫) 麻耶雄嵩

貴族探偵
2001年から2009年に雑誌小説すばるに掲載されたものをまとめ、2010年に単行本、2013年に文庫化された連作短編の謎解き探偵小説です。著者の作品は今回で3作目ですが、いずれも発想がちょっとユニークな作品でいい年のオッサンでも面白く読めます。

収録作は、「ウィーンの森の物語」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「こうもり」「加速度円舞曲」「春の声」 の5篇で、いずれも単独の殺人事件です。

よくわからないですが、なんでも「やんごとなき」貴族の探偵(名刺にも貴族探偵という記載しかない)が殺人事件現場に居合わせ、警察の上から圧力をかけて、現場の捜査に加わり、貴族探偵の使用人達(執事やメイド、自家用車の運転手)が、推理し、犯人を名指しして事件解決に至るというものです。

ちなみに日本ではすでに皇族を除いて貴族や華族という制度はなくなっていますので、あえて貴族というのは皇族ということなのでしょう。

主人公の貴族探偵自身は、「そういうつまらないことは雇っている使用人の仕事」とばかりに、関係者の聞き取りや事件現場の検証などには一切加わりません。

探偵小説の中には、アガサ・クリスティ著の「ミス・マープルシリーズ」のような、自身で調査などはおこなわず、状況を誰かに聞いただけで推理をし、事件を解決する「安楽椅子探偵」というジャンルがありますが、本作の場合は、事件を解決するのは貴族探偵と名乗っている本人ではなく、その探偵の使用人達で、それとも違っていて笑えます。

そうした背景はともかく、事件のトリックについては、それぞれなかなか凝っていて、謎解き探偵小説として十分に楽しめるものでした。

★★☆

著者別読書感想(麻耶雄崇)

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ナオミとカナコ(幻冬舎文庫) 奥田英朗

ナオミとカナコ
2014年に単行本、2017年に文庫化されたピカレスクロマンの長編小説です。タイトルの二人の女性が主人公です。

2016年にはフジテレビが同名タイトルでテレビドラマを製作しています。主演の二人は広末涼子と内田有紀で、いかにも心の奥底に闇を抱えた女性という感じです。

内容は、夫からDV被害を受けている女性と、その親友の女性が夫の殺害計画を立て実行します。勤め先の金を横領して失踪したように見せかけますが、そこは素人の犯罪で、様々なミスが後になってから露わになっていきます。

犯行に至るまで、犯行時、犯行後の二人の主人公の心理描写がとにかく重苦しくて、気楽に読むにはつらすぎます。精神的に健全なときに読むことをお勧めします。

著者の小説には直木賞に輝いた「空中ブランコ」(2004年)のようなコミカルなライトなものもあれば、「オリンピックの身代金」(2008年)や「罪の轍」(2019年)のような重苦しいクライムサスペンス小説の2種類があり、この小説は後者になります。

果たして犯罪に手を染めた二人の女性は逃げ切ることができるのか?というストーリーですが、その展開にドキドキさせられます。

★★☆

著者別読書感想(奥田英朗)

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日本のこころ(文春文庫) 平岩弓枝

日本のこころ
著者は1932年(昭和7年)東京の生まれで、数多くの小説やテレビドラマなどの脚本を残し、2016年には文化勲章を授与され、2023年に91歳で亡くなっています。

著書の中でも有名なのは、1959年、27歳の時に直木賞を受賞した「鏨師(タガネシ)」や、NHKの朝ドラの原作にもなった「旅路」、30年以上続く「御宿かわせみシリーズ」、テレビドラマになった「肝っ玉かあさんシリーズ」などです。またエッセイも多く残っています。

本著はそのエッセイの中でも最晩年の2019年から2021年頃に「オール讀物」に書かれたものと、1974年に神田明神でおこなわれた講演会から抜粋したもので構成され、亡くなった後の2024年に文庫本として発刊されています。

エッセイの中には、直木賞を受賞する前の駆け出しの頃から、受賞後に怖くて仕事を断ることができずかなり無理をして書きまくった話し、生まれが渋谷区の代々木八幡という神社のひとり娘で、戦争中には疎開したり、近所に友達がいなくて犬を飼ってもらったりしていた子供の頃の話し、文学の師匠、長谷川伸氏に師事した経緯や、そこで先輩の伊東昌輝と知り合って結婚した話しなど興味深く読めました。

★★☆

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阿修羅のごとく(文春文庫) 向田邦子

阿修羅のごとく
人気シナリオライターの著者が書いた1979年の大ヒットテレビドラマ「阿修羅のごとく」の脚本を、作家の中野玲子氏が小説化した作品で、1999年に文庫オリジナルとして出版されています。

著者の小説は、やはりNHKドラマの脚本から著者自身で小説化した「あ・うん」を23年前に読んで以来です。

テレビドラマは、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュン、加藤治子などの出演で、NHKの土曜ドラマとして4回放送されました。八千草薫48歳、風吹ジュン27歳の頃のドラマです。

その後2003年には森田芳光監督、大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子などの出演で映画化されています。

上に書いたそれぞれ4人の出演者はいずれも主人公の四姉妹役で、この四姉妹の両親、夫、恋人、愛人などが複雑に絡み合いながら人間の愛憎を描いています。

さらに、Netflixで2025年に是枝裕和監督、宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すずの出演で連続ドラマが作られています。時代が変わっても、人間の愛憎劇は変わりがないということです。

それにしても、テレビ向けに極端な脚色がしてあり、四姉妹とも心の奥に闇があり、あちらこちらに、妬みや嫉妬、愛人や不倫などてんこ盛りで、世の中の満たされない女性達にきっとウケたことでしょう。

それに対して、登場する男性陣は、いずれも寡黙だったり、気弱で引っ込み思案だったりしてまったく精彩がありません。

その数少ない男性役として、1979年のドラマでは気弱な性格ながら興信所の探偵で、その後、四姉妹の中ではもっとも貞操観念が強い三女の恋人役に、すでにダウン・タウン・ブギウギ・バンドで活躍中の当時33歳の宇崎竜童が出ているのが興味あるところですが、私は見ていません。

★★☆

【関連リンク】
 12月後半の読書 「司馬遼太郎」で学ぶ日本史、容疑者、教会堂の殺人、その先の道消える
 12月前半の読書 帰還、探偵の流儀、眠り姫(上)(下)
 11月後半の読書 クロイドン発12時30分、流人道中記、2035年の世界地図、歴史とは靴である

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