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「高年齢者雇用安定法(高齢法)」というのを知っているのは、50代終盤~60代前半の、しかもそれが身近に関係する可能性がある人ぐらいでしょう。実際にほとんど報道されることはありませんし、すでに65歳を迎え逃げ切った団塊世代はもちろん、まだ当分先のことで関係ないという団塊ジュニア層もさほど興味はありません。
この高齢法は60歳以降の雇用促進を目的とした法律ですが、できた当初は「政府は国民にいったい何歳までこき使って働かせるつもりか!」という声もあがりましたが、今では逆に、60歳定年で仕事を失ってしまうと「住宅ローンが支払えない」「子供がまだ学生で教育費がかかりお金が必要」「貯金もなく年金が支給されないと生活が出来ない」という声が出てきています。
それもそのはずで、団塊世代までならば、退職金もフルに出て、それで残った住宅ローンや子供の教育費をまかない、さらに60歳から年金が支給され、逆に働いて収入があると、年金が減らされるので、それに影響しないよう、小遣い稼ぎ程度ができればいいやという状況でした。
しかしすでに支給開始年齢が引き上げられている定額部分の年金に加えて、2013年からは報酬比例部分の支給開始年齢が段階的に引き上げられますので、大企業や役所勤めで60歳の定年時に退職金が何千万円ともらえる人以外は「60歳定年お疲れさま!」と簡単に言ってしまうわけにはいきません。
つまり60歳の定年から、年金がもらえる年齢までの期間は働かなければ無収入となってしまうからです。無収入なのに、家賃や住宅ローン、子供の教育費を支払うことになると、社会に出た子供の稼ぎに頼るか、貯金を使うしかありませんが、元々不景気が続いた20年のあいだに、虎の子の貯金は使い果たし、子供も正社員で働けずに貧乏フリーターしていたり、就職はしたけれど、とても親達を扶養できる給料ではないという状態です。
そのような「定年=年金なしの無職」にならないようにと作られたのが、「高齢法」なのですが、それには高齢者にとってありがたくない抜け穴がいくつもあります。
まず、企業は労働協約上「継続雇用」「定年延長」「定年廃止」のどれかを選択しなければなりません。そしてなんでも横並びの日本企業は、ほとんどが「継続雇用」を選んでいます。この「継続雇用」が企業のほとんどに選ばれている理由は下記の通りです。
「継続雇用」なら実質的に「定年延長と同じ?」と思いがちですが、そうではなく、継続雇用を希望する人を企業が一定の条件の下に選ぶことができるのです。つまり会社が望む人でなければ、打ち切りも可能という信じられないザル法なのです。
特にリーマンショック後、急激に収支が悪化した企業では、その制度を利用した定年即雇い止めが大流行していますし、今回の東日本大震災でも、それに輪をかけた高齢者排除が進むと予想されています。高齢者ではない若い世代のリストラ解雇や新規採用中止が頻発している中、定年後も高齢者を雇い続けられる会社というのは一部の大企業か、赤字であろうと自分達には関係がないと思っている役所以外にはないでしょう。
この「高齢法」の改正も議論がなされていますが、政治家は人気取りと寄付やパーティー券などお金のため、官僚は天下りポスト確保のため、経営者団体を敵に回したくないはずで、改正が企業防衛上骨抜きにされるのはあきらかです。
中には、定年後に「継続雇用」でいったん再雇用されたものの、その後まもなく「未曾有の不況」を理由に雇い止めされてしまい、その元社員が会社を相手に提訴したことがあります。中には「定年後も継続雇用されるという期待」を労働者に認めた「期待権」で勝訴した「ヤマトマネキン子会社の判例」もありますが、なかなかこのような裁判をおこなって決着させるというのも、時間や費用がかかり、難しいのが現状でしょう。
例えば、定年時に、雇用継続する代わりに、喉から手が出るほど欲しい退職金(一時金)を餌にして、本人から「継続雇用を希望しない」という証明書を取得すれば、その企業にはその人を5年に渡って継続雇用する義務は発生しません。人間心理の話しでよく出てくる例え話で「明日10万円もらうのと、5年後に20万円もらうのとどちらがいい?」と聞くようなものです。約9割の人は明日10万円を選ぶそうですが、5年先に自分も会社もどうなっているかわからない不安定な契約よりも、半額であっても確実に明日もらう方がいいと考える人は多いと思います。
その変形バージョンで「継続雇用なら5年間賃金として毎年200万円すつ支払おう。しかしもし継続雇用を希望しなければ、いますぐ500万円を支払おう」と言われると、ついついそれに乗ってしまい(私もたぶん釣られると思います)そうです。なぜそう思うかと言うと、今すぐ500万円をもらっておいて、5年間のあいだにうまく別の仕事に就くことができれば、トータルで継続雇用したときの1千万円は楽に超えると思ってしまうからです。
でも実際には60過ぎた高齢者を、お金を出して雇ってくれるところなどそうそうありません。現役時代にいろいろと仕事を助けてあげた人の顔がふっと思い浮かび、まったく根拠もなく「きっと親しい知人が、気遣って雇ってくれるんじゃないかな」と錯覚しちゃうんですよね。が、しかし、こと固定コストが増える雇用に関してはそういう甘いことは絶対にないと思っていて間違いありません。役人の天下りだって、利権などのメリットがなければ、どこも受け入れるわけがありません。
結局、高齢者は、年金が満額支給されるまでは、自分で自分の生活を守っていくしか今のところ方法はないのですが、特に住宅ローンが60歳までに完済しない人(ハイ私です)や、子供の教育費がまだかかる人にとっては、基本的に今の勤め先から継続雇用されない場合、どうするかということを常に考えて準備をしておく必要がありそうです。
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