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夏休み特別企画

毎年夏休みやお正月のようにまとまた休みが取れるときには「三国志」や「新・水滸伝」、「宮本武蔵」、「それからの武蔵」、「沈まぬ太陽」、「騙し屋」、「カンタベリー物語」などできるだけ長編の小説を集中して一気読みしてきました。

今回初めて手塚治虫氏の漫画作品を取り上げてみましたが、いろいろと新しい発見もありなにかスッキリした気分で夏休みを終えることができました。

ただこの文庫サイズの漫画、元々は漫画週刊誌のサイズ(B5版)で最適化されていますので、その6割に縮めた文庫サイズはとにかく文字が小さくて、老眼の入ったいまでは読みにくいったらありません。私はまだ持っていませんが、50代以上でこれを快適に読むためには老眼鏡が必須でしょう。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ブラック・ジャック(手塚治虫)1~17巻

1970年代の週刊少年チャンピオンに連載されていた「ブラック・ジャック」(1973年~1978年)のほぼ全話を網羅している秋田書店の文庫サイズ版を読みました。

「ブラック・ジャック」の評判はよく耳にしていましたが、コミックもアニメもほとんど縁がなく、単発で数話読んだかなという程度です。そこで全巻揃えて持っているという知人が貸してくれるというので、夏休み中に一気に読むことにしました。

いや~ものすごい分量です。1冊におよそ13~14話が収録されていて、その後に1冊ごとに違う著名人の解説というか手塚作品に対する賞賛が付いています。

その解説には手塚悦子(奥様)、永井明、高村薫、立川談志、花井愛子、菊地秀行、小池真理子、大森一樹、宮部みゆき、里中満智子(敬称略)などの著名人ですが、いずれも故人を含むいいおじさん(おじいさん)おばさん(おばあさん)達が、手塚作品に出てくる少年少女のように目をキラキラさせて手塚作品と出会った子供の頃の思い出話しなどが書かれていたり、それもまたたいへん面白く読めました。

「ブラック・ジャック」は1話ごとすべて読み切りで基本的には連続したストーリーにはなっていません。基本的にはと書いたのは自分がなぜ縫い目だらけの身体になってしまったのか?天涯孤独の身(女と海外に行ってしまった父親は登場します)になってしまったのか?については、それらと関連した話しが出てきますが、決して連続しているものではありません。したがってひとつの物語を流れるように読む進めるわけにはいかず、1話1話をしっかりと理解して読む集中力が必要です。

「ブラック・ジャック」が書かれた70年代といえば私は中学、高校、大学生だったので、たぶん一番漫画に縁がありそうな時期ですが、その頃はスポーツに明け暮れていて、漫画と一番縁があったのは小学生の頃の「巨人の星」(1966年~1971年)や「あしたのジョー」(1968年~1973年)、「ゲゲゲの鬼太郎」(1965年~1969年)、さらにもっと前に書かれた「ハリスの旋風(かぜ)」(1965年~1967年)、「秘密探偵JA」(1964年~1969年)、「おそ松くん」(1962年~1967年)、「オバケのQ太郎」(1964年~1966年)、「紫電改のタカ」(1963年~1965年)などでした。

漫画は今でも時々思い出したように「MASTERキートン」や「ジパング」などを書店で見つけ買って読むことがありますが、漫画喫茶などへは行ったことがないので、ここまでまとまった冊数を一気に読むことは久しくありません。10年ほど前に「ナニワ金融道」(1990年~)の単行本全19巻のうち10巻をバザーの売れ残りを買ってきて一気読みした時以来かな。

内容はもはや説明の必要のない漫画ですが、1970年代に書かれた医療技術であり、またその頃の医療の常識で書かれていますので、細かな部分では変に思うところもありますが、基本的に社会世相は40年経った今でもなにも変わっていないんだなぁってのが率直な感想です。

科学の話しが主体ならば大きく変わっていても不思議ではないのですが、手塚治虫氏はテーマを医療としながらも、本質的には人間ドラマを描いてきたからでしょう。

もう一つには完全無欠の正義の味方が主人公ではなく、周囲からお金の亡者と言われ、貧しい人からも平気で数千万円を請求するアウトサイダー(でも最後は値引きをして千円程度を受け取ることもしばしば)を主人公にしたのは、自分の会社(虫プロ)が倒産し、莫大な借金を背負い込むという人生で最悪の経験をした直後だったからとも言われています。金がすべてという亡者が徘徊する世相は40年経った今でもなにも変わっていません。

また作品の中には、アンハッピーエンドなものも多く、せっかく治療して身体は治ったのに、その患者がすぐ後に別の事故や事件で亡くなってしまうパターンや、顔の整形手術をしたことで逆に不幸になってしまい、元に戻すこととなったりします。

「ブラック・ジャック」に登場するピノコについては、どういう関係で経緯?と思ってしまいますが、第2巻ぐらいである資産家の娘の身体の中にできた畸形嚢腫(分離せずに体内に残った双子の片割れ)を切り取り、それを人の形をした人工の皮に入れて一人の人間として作り上げています。なにか考えるにおぞましい行為とも言えます。

ほとんどが白黒のページで書かれているのでまだいいのですが、ピノコ誕生やその他にも頭蓋骨を切り取って死体の脳と入れ替えたりする手術のシーンなどエグイ場面が多く、もし子供の頃にこれを読んでいたら、楳図かずお氏の60年代の一連の恐怖怪奇シリーズと同様きっと夢に出てきたでしょう。

最後に「ブラック・ジャック」という名前の由来ですが、天才外科医師の主人公本名が間黒男(はざまくろお)で、「黒=ブラック 男=ジャック」とのことでした。え?常識だって?

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

朽ちた樹々の枝の下で (講談社文庫) 真保裕一

並みの文庫なら2~3冊分はゆうにある650ページを超える長編小説です。年代が近い真保氏の小説は気に入っていて過去に5~6冊を読んでいますが、原作を読むより先に映画で見た「アマルフィ (映画の題名はアマルフィ 女神の報酬 )」や「ホワイトアウト」などの作品も有名です。「アンダルシア」も「アンダルシア 女神の報復」として昨年に映画公開されていました。

この「朽ちた樹々の枝の下で」は、1991年に「連鎖」でデビューした後、毎年1~2作のペースで上梓されていますが、その中では1996年と初期に書かれた作品です。

主人公は自分の一言で妻を死に追いやってしまったと悩み、周囲からの目を嫌いサラリーマンを辞め、北海道の森林組合に入り山の生活を始めたばかりの男性。その主人公が早朝に山の中で一人の怪我をした女性を救いだします。女性はすぐ近くにある自衛隊の演習地から逃げてきた様子で、その後主人公の回りに次々と異変が起き始めます。

自衛隊の組織的な犯罪をテーマにした小説はいくつかありますが、巨大な組織に個人が対抗していくというのはかなり難しく、よく警察が組織ぐるみで警察官の犯罪を隠蔽する事件がスクープされますが、当然自衛隊組織においてもあまり表沙汰にはならないものの、実はよく起きていても不思議ではありません。

北海道の山奥で起きた事件にしては、登場人物が多く、その関係性も複雑で、一気に読まないとなかなかストーリー全体を見失ってしまいそうです。特に自衛隊の組織と権限等については一般的にはほとんど知られてなく、そのあたりについても本書で解説が加えている分、かなり長い小説になってしまったとも考えられます。

真保裕一氏の小説の主人公の職業は、なにかに偏っているわけではなく、小説ごとに違っていて、読むたびにすごく新鮮に感じます。書く方はよく知られている職業(例えば刑事とか出版社の編集員とか)の主人公にすれば楽なのでしょうけれど、そういうことはせずに、ちゃんと調べあげてそれぞれに違った職業の主人公を創り上げていくテクニックはさすがというしかありません。

著者別読書感想(真保裕一)

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