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いよいよ年末が近づいてきました。

年を取ってくると「1年がアッと言う間に過ぎる」と人はよく言います。

前になにかで読んだ受け売りですが、これには根拠があって、20才の若者にとって1年という期間は、その人が生きてきた20年という時間の長さの中の1年、つまり1/20(0.05)の時間に相当しますが、60才の初老の人の1年は今まで生きてきた60年の中の1年ということで1/60(0.0167)です。

20才の人と60才の人では、1年の長さが感覚的に3倍も違ってきて不思議ではないということです。

そりゃ年配者が1年を短く感じるのは当たり前です。

次第に感じるようになる感覚的なものですからこれを若い人に言葉で理解しろと言っても伝わりません。年を取るごとに身をもって実感していくというものです。

そんなわけで今年で56才になった私も四捨五入すればもう60才、定年まであと4年という年齢になってしまいました。

もうずっと前に亡くなった父親(大正8年生まれ)が働いていた時は、55才定年の時代でしたので、その年代をとうとう超えてしまったということになります。

戦後、平均寿命が急速に伸びたことから定年が55才から60才へと延長されたのは1980年代頃でしたが、自分がまだ20代の頃は、60才定年になっても、自分は55才までにリタイアして、仕事以外で余生をゆっくり楽しもうと思っていました。

残念ながら55才までに引退するという夢は果せず、さらに年金支給開始年齢の引き上げや雇用延長が当たり前の風潮で、60才を過ぎてもまだまだ働かされそうな勢いです。逃げ切った団塊世代以上の人達に、貧乏人は死ぬまで働けと言われているようです。

閑話休題、まったく「光陰矢のごとし」とはよく言ったものですが、これは年齢を重ねるにつれ実感が深まっていきます。

その「光陰矢のごとし」という言葉ですが、「少年老いやすく、学成り難し」と対になって語られることが多く、後者の出典は、

 少年老い易く学成り難し
 一寸の光陰軽んずべからず
 未だ覚めず池塘春草(ちとうしゅんそう)の夢
 階前の梧葉(ごよう)已(すで)に秋声

子供の頃より学問を志しながら、高齢になっても、大きな成果を果たせていない。
残り少ない人生だから、一瞬の時間もおろそかにしてはならない。
春の池の堤に芽生えた若草のように瑞々しく、夢はいまも覚めずにいるのに、
気がつけば、石段の前に生える梧桐の葉が、秋の訪れとともに色づくように、
自分が人生の秋ともいうべき初老を迎えている。

とされ、作者は12世紀末頃の中国宋代の朱熹(朱子)の漢詩からというのが長い間通例でしたが、近年の研究では朱熹の作品の中には含まれていないことが判明しているそうです。

また同詩の「少年老い易く学成り難し」に対する「光陰」は含まれますが「矢のごとし」までは含まれていません。

もう少し調べてみると、「光陰矢の如し」は、元の中国では「光陰如箭」という漢字にあたり、これは9世紀初頭の唐代の詩人李益の作に使われているようです。朱熹(朱子)よりも300年以上も前のことです。

9世紀と言えば、日本は平安時代で、最澄、空海が命をかけて唐に渡った頃ですね。彼らが唐で流行っていた漢詩をそこで耳にして、面白い言い回しだと思って日本に持ち帰ってきたとも考えられます。証拠はありませんが。

日本でこの「光陰矢の如し」という言葉が記録として残っているのは、14世紀初頭の大燈国師遺誡の中に登場します。大燈国師(宗峰妙超)は鎌倉時代末期に、京都大徳寺を開山した臨済宗の有名な僧侶です。

 汝等諸人此の山中に来つて道の為に頭を聚む。
 衣食の為にする事なかれ、
 肩有つて着ずと云ふ事なく、口有つて食はずと云ふこと無し。
 只須らく十二時中無理會の處に向つて、
 究め来り究め去るべし、
 光陰箭の如し、謹んで雑用心すること莫れ、
 看取せよ看取せよ。
 ~以下略

修行僧達よ、この寺には修行の為に来たのだ。
着飾ったり、美味いものを食べるために修行するのではない。
肩があれば着物を、口があれば食べることは自然とついてまわるもので、
それに気を取られることなく、ただ仏道修行に打ち込め。
そしてそれを極めることだ。
時は矢のように過ぎ去って行く。余計なことを考えず、
真実を見極め会得せよ。

いろいろと含蓄のある言葉です。


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