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星を継ぐもの (創元SF文庫) ジェイムズ・P・ホーガン

著者のジェイムズ・P・ホーガンは1941年に英国生まれのSF作家で、この作品「星を継ぐもの(原題:Inherit the Stars)」は、仕事の傍らで書き上げ、1977年に発表(日本語翻訳版は1980年)されたデビュー作です。残念ながら数多くの作品を残し2010年に69歳で亡くなっています。

この作品が発表された1977年というと、アポロ11号が月面に着陸したのが1969年で、それから8年後という、まだ人類が月に対して期待とあこがれを持っている時期とも重なるのでしょう。

小説ではその月の凍った地中から宇宙服を着た人間のミイラ(チャーリー)が発見され、時代測定をすると、なんと5万年前に亡くなったものとわかります。

地球の5万年前というと化石で見つかっているのはホモサピエンスの起源ともされるクロマニョン人が現れた時代で、もちろん高度な文明や、月へ渡るだけの技術を持っていたわけではありません。

また5万年前にそれまで隆盛を極めていたネアンデルタール人が滅びて、現代人と同じホモサピエンスだけがなぜ生き延びてきたのかなど興味深いテーマと絡んできます。

さらに混乱を極めるのは、木星の周囲を回る惑星のうちガニメデの地下から、2500万年前の宇宙船と異星人が発掘されます。その宇宙船には人間とはまったく別の進化を遂げてきた高等生物である異星人のミイラと、倉庫には檻に入れられた地球から採取したと思われる生物や植物のサンプルが大量に積み込まれています。

専門用語?が飛び交い、ついて行くのにやっとですが、なぜ、今の地球人と5万年前に発達した文明に生きていたチャーリーとがまったく同じ進化を遂げていたのか?、2500万年前に地球上の生物が異星人によって地球外へ運ばれ進化した可能性は?当時の太陽系の惑星はいまちは違ってどう変化したのか?などSF小説ならではの大胆な仮説で面白く読ませてくれます。

しかし小説が書かれた当時は、アポロ計画の後、続いて火星や木星など次々と人類は宇宙への探求をするものと思われていた時期だったでしょうが、その後は考えられていたほどには進まず、火星はもとより、1972年以降は月面にすら新たに人類を送り込むことさえおこなわれていません。現代の科学ならば、技術的にはそう難しいことではないのでしょうけど、経済的なメリットが少なく、その割にリスクが高いということなのでしょう。

先日アメリカの探査衛星が9年の歳月をかけてたどり着いた冥王星の話しも出てきます。その星だけが他の太陽系惑星と違ってもの凄く小さい謎など、なるほどと思わせる推理でうならせてくれます。

なにか久しぶりに夢のあるワクワクするSF小説に出会えたって気がします。

★★★

著者別読書感想(ジェイムズ・P・ホーガン)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

青が散る (文春文庫)(上)(下) 宮本輝

1960年代後半、著者の大学時代を描いた長編の青春小説で、1982年に発表されました。その後何度か改訂され、長く読み続けられている作品です。石原慎太郎の「太陽の季節」が東の青春を代表する作品ならば、こちらは西の青春を代表する作品です。

物語は、主人公が希望する大学には受からず、仕方なく滑り止めで受けて合格していた大阪の新設されたばかりの私立大学(追手門大学)へ入学金を納めにいくところから始まります。

高校時代に少しテニスをやっていた縁で、新しくテニス部を作ろうという同級生と一緒になって土方仕事をしてテニスコートを作り、一応形としてはテニス部らしい体裁を整えていきます。

そのテニス部に入ってくる同級生との友情や恋愛、テニス部の後輩とのプライドをかけた戦い、偶然に知り合った他校の大学生やその当時流行はじめていたシンガーソングライターの卵、そして友人の死など、自分の体験を元として、小説になるよう大幅にアレンジを加えつつ、書かれたものと思いますが、それにしてもまだ高度成長を遂げてはいない貧しい日本のなかで、登場人物達は当時としてはえらく優雅な大学生活を送っているなという感想です。

今では文壇の重鎮でもある著者の、原点とも言える青春時代をなぞった、学生生活の模様が淡々と描かれていて、こうしたお坊ちゃま的な作風が、その後もこの著者の様々な小説に反映されていくのだということがよくわかる作品でした。

★★☆

著者別読書感想(宮本輝)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

月の上の観覧車 (新潮文庫) 荻原浩

2011年に単行本、2014年に文庫化された短編小説を集めた作品です。収録されている作品は「トンネル鏡」「金魚」上海租界の魔術師」「レシピ」「胡瓜の馬」「チョコチップミントをダブルで」「ゴミ屋敷モノクローム」「月の上の観覧車」の8編です。

著者とは年齢が1歳違いと近く、今までに時代と共に見聞きして体験してきた経験則も似ているということもあり、作品は概ね好きで、文庫になった作品の多くは読んできました。

特に早くから若年性アルツハイマー病についての作品「明日の記憶」(2005年)や、直木賞候補にもなった「あの日にドライブ」、タイムスリップもの「僕たちの戦争」、短編の「千年樹」などそれぞれに味があり、また感性が合っていいものでした。

この短編集では仕事、日常の生活、家族の死、淡い初恋など身近なテーマで淡々と語られていき、主人公の年齢も立場もそれぞれですが、なにか重い過去を背負ってきたり、感受性が豊かな普通の市井の人達って感じがして、それゆえに感情移入がしやすく、面白い作品に仕上がっています。

ただそれだけに感動とか、どんでん返しとかに期待はしちゃいけません。

次はビジネス的に求められるこのような短編小説ではなく、じっくりといい長編を書いて、今度こそ誰もが直木賞を推薦する作品に仕上げてもらいたいものです。

★★☆

著者別読書感想(荻原浩)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ジェントルマン (講談社文庫) 山田詠美

1985年に「ベッドタイムアイズ」でデビューし、その2年後の1987年には「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」で直木賞を受賞したねっとりした大人の性愛、倒錯系?小説が多い流行作家です。そのような先入観というか書評などを以前読み、今まではあえて読むのを避けてきました(1冊だけは読んでいますが)。

1959年生まれの著者は、私とも年齢が近く、そろそろ週刊誌的な男女のドロドロした関係からも距離を置く頃かなと、ちょっと読んでみる気になりました。

この作品は2011年単行本刊、2014年文庫化された小説で、主人公は高校の同級生の男性に惚れてしまった同性愛者の男性です。

その主人公が惚れ込んでしまう男性ですが、高校時代から外面がよく文武両道で誰からも好かれていましたが、実は裏ではとんでもなくエゴイストで残酷な犯罪も平気でおこなっていることを知っています。

そうした倒錯した世界がこれでもか!ってぐらい出てきますので、私のように免疫がないと、読んでいると途中で吐き気を催しそうになってきます。あー気持ち悪い。

それでも男が男を愛する世界に興味があるって人は読めばいいのではないでしょうか。正常な人は、そういう世界のことは無駄なだけで知識として知っておく必要もないと思われます。

結局、期待したようには作風は変わってなく、こうした一部のマニアックな人には好評?だろう倒錯小説は、私のような凡人には無理だったようです。いずれにしても好みが別れるところです。

★☆☆

著者別読書感想(山田詠美)

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