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早春の化石 私立探偵 神山健介 (祥伝社文庫) 柴田哲孝

渇いた夏」(2008年)に続く、私立探偵・神山健介シリーズの第2弾作品で、2010年発刊、2012年に文庫化されています。その「渇いた夏」から1年半過ぎたところから始まります。

主人公が福島県白河で探偵業を始めた前作から、浮気調査や家出少年、迷い犬の捜索などを細々と生業にしている中、東京の調査会社で元上司だった男から紹介を受けて、ある女性の失踪してしまった双子の姉を捜索して欲しいと依頼を受けることになります。

この姉は自殺したストーカーが書き置いた遺書で、すでに殺されたと考えられますが、その遺体の行方はまったくわからず、ただ、ストーカーが以前福島周辺に住んでいて土地勘があるということで、その足取りを追うことになります。

ちょっと人間関係が複雑で、しかも犯人との関係が満州に住んでいた依頼人の曾祖父までさかのぼったりします。

また書かれた時期が東日本大震災前で、いわきや小名浜など震災以前の町並みが出てきますので、それを知っている人が読むと懐かしく感じたりするでしょう。

シリーズ作品ということで、前作の事件の主犯だった男の名前なども出てきてしまいますので、できれば順番に読むほうがよさそうです。

★★☆

著者別読書感想(柴田哲孝)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

冬蛾 私立探偵 神山健介 (祥伝社文庫) 柴田哲孝

上記「早春の化石」に続く私立探偵・神山健介シリーズ第3弾で、2011年単行本発刊、2013年文庫化されています。夏→春ときて今回は冬です。主人公が住む福島白河の冬は寒そうです。

会津の山奥にあるわずか数軒の村から、主人公の元へ依頼が舞い込みます。1年前に事故で亡くなった村人の死に関係してその後すぐ失踪してしまった別の村人が関係しているのではないかと疑われています。

しかし過去数年のあいだに何人もの村人が事故や不審死していても警察に届けず、黙って土葬して許される村がこの日本にまだあるのか?ってちょっと無理目の設定が気にかかります。

それはともかく、今回はいろんな所を歩き回り、ヤクザや警察とも関わりながら事件の謎をあぶり出していくという古くからある私立探偵スタイルの物語ではなく、雪で閉ざされた地図にも出ていない村の中で、隠された秘密を暴いていくという新たなスタイルです。

それだけに、今まで出てきた常連さんの出番はほとんどなく、前作とは違って単独で読んでもまぁいけるかなって感じです。

タイトルは、プロローグで出てきた厳冬の中でも静かに活動する蛾と、本編の最後のほうに出てくる紅蓮の炎が蛾の羽を広げた姿とダブらせたものです。

最初の頃から比べて、ちょっとストーリー性が弱くなってきたように感じ、まさかネタ切れってことはないのでしょうけど、主人公の行動パターンがあまりにも普通すぎるような。ちょっと残念。

このシリーズもあと「秋霧の街」で四季シリーズが完結し、プラスアルファとして東日本大震災を絡めた「漂流者たち」を残すだけとなりました。その後も続編が出るのかどうかは不明です。

★☆☆

著者別読書感想(柴田哲孝)

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中国化する日本 増補版 日中「文明の衝突」一千年史 (文春文庫) 與那覇 潤

著者はいかにも沖縄出身の名前ですが、神奈川県出身、東京大学卒で愛知県立大学日本文化学部歴史文化学科准教授の学者さんです。中国の研究家ではないということもひとつキーになっています。

この刺激的なタイトルのせいで、読者やその道の人達のあいだでは賛否両論、喧喧囂囂、侃侃諤諤、議論百出していて、なかなか興味深く、そうした不毛な議論に参戦するつもりはないものの(しても誰も相手にしてくれない)、知識として様々な意見を知っておこうと読むことに。

この本のタイトルや副題は、著者が付けたのか出版社の編集員がつけたのかわかりませんが、誤解を招くのには最適、でも炎上必至というような感じもします。

いわゆる中世(唐、宋)から近代(元、明、清)初頭までの中国は、世界の中でもトップクラスの繁栄と高等文化を持っていて、その真似をした後進国が群雄していたヨーロッパが宗教戦争に勝利してようやく追いつき、そして一気に追い越していった中で、日本は中世の途中までその中国を見習ってきましたが、戦国時代以降はもっぱら独自の社会と文明を作り、そして現代になってからようやく中世中国の後追いを始めたという流れ。

話しは、明治維新以降、その「中国化」と日本独自の封建体制「江戸化」のせめぎ合いを繰り返してきましたが、現代の自民党一党支配体制と自由経済は、「中国化」に他ならないとの話しでした。

難しい話しを茶化しながらも軽く伝えようとしているところは好感ですが、Amazonの書評を見ても意見が分かれるように、中国文化の先進性を受け入れがたい人も多いのではないかと思った次第です。

★★☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

恍惚の人 (新潮文庫) 有吉佐和子

1972年に刊行され日本中に一大ブームを巻き起こし、翌年には森繁久彌、高峰秀子主演で映画化もされた作品です。認知症老人役の森繁久彌氏は当時はまだ60歳でした。

当時は現在のように高齢化社会でもなく、また認知症やアルツハイマー病という名称もなく、いわゆる呆け老人とか痴呆、耄碌(もうろく)爺じいとか言っていた時代です。

高齢になると癌とともに増える病気として当時から知られてはいましたが、分類上精神病の一種ということもあり、同居する家族は隠したがる傾向で、あまり表沙汰になることはありませんでした。

ちなみに1970年の高齢化率(全人口に占める65歳以上の割合)はわずかに7%ほどで、現在は26%なので45年のあいだに高齢者の割合が3.7倍にまで増えています。それに比例して認知症患者の数も増えているということになります。

またこの小説が書かれた1970年の日本人の平均寿命は男性69.31歳、女性74.66歳でしたが、現在2014年の日本人の平均寿命は男性80.50歳、女性86.83歳と、44年間でそれぞれ、11.19歳、12.17歳伸びています。それだけ認知症に罹る割合や実数も格段に増えてきています。

この小説を原作とした映画が、私の中学生の頃にブームとなりましたが、当時の映画としては珍しくモノクロで、しかもなんとなく中学生がみる映画ではないという雰囲気だったので機会を逃し見ていません。今度レンタルDVDでも借りてくるかな。

主人公は大家族で暮らしながらも手に職を持って外で働き続けている嫁で、ある日元気にしていた義理の母が突然亡くなってしまい、それとほぼ同時に80歳過ぎの義父の様子が変になっていきます。今では認知症の症状だと誰でも知っていますが、健忘、徘徊、妄想とだんだんとひどくなっていく姿が当時としてはリアルで衝撃的です。

この小説は誰もが高齢になると(最近は若年層アルツハイマーとかもありますが)、そのようになる可能性があるのだよという、社会への警告でもあり、当時から問題としてありながら、「祖父母の面倒は嫁の仕事」みたいな古くからの慣習があり、なかなか行政も手を出せなかった中に一石を投じた作品です。そして先を見越し数十年後に高齢化社会を迎えることへの警鐘だったと考えることもできそうです。

この作品が売れに売れ、200万部を超す大ベストセラーになったおかげで、新潮社の本社の向かいに大きな別館ビル(別名恍惚ビル)が1974年に建設されたとも言われています(wikipedia)


★★★

著者別読書感想(有吉佐和子)


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