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サクリファイス (新潮文庫) 近藤 史恵

2007年に単行本、2010年に文庫版が発刊された長編小説で、その後シリーズ化され「エデン」(2010年)、「サヴァイヴ」(2011)、「キアズマ 」(2013年)の続編が出ています。

このタイトルは犠牲とか生け贄という意味で、自転車のロードレースの世界とミステリーをうまくマッチさせたいい作品となっています。

日本ではあまり馴染みのない自転車ロードレースですが、欧州ではプロゴルフ並みに人気のあるスポーツで、トップ選手はそれこそ日本のトッププロゴルファー石川遼や松山英樹じゃないけどそれぐらいの知名度もあり、稼ぐ賞金も年間1億円を超える人も少なくありません。

ロードレースはマラソンなど個人競技とは異なりチームとしてその中のエースを勝たせるために様々な作戦を立てておこなわれるチームスポーツです。

詳しくは本作品の中でもわかりやすく書かれているので、まったくの素人でも問題なくこのスポーツを理解することができます。

書き出しのプロローグと、エンディングで、謎と興味をひかせ続編を期待させる内容になっています。機会があれば読みたいですが、こういうような謎を残して「次に続く」的な終わり方はあまり感心できません。

★★☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ティファニーで朝食を (新潮文庫) トルーマン カポーティ

1958年に発刊された中編の作品ですが、日本では1961年に映画化され大ヒットしたオードリー・ヘプバーンが主演した同名の映画のイメージが強いでしょう。

原作の小説と映画のストーリーは同一ではないそうですが、小説では語り部の主人公で売れない作家志望の男性が、同じアパートに住む自由奔放で美しい女優というか実質的には高級娼婦になるのでしょうか、その女優が日々浮き名を流す様々な恋の遍歴を描いています。

このタイトルに出てくるティファニーとはニューヨークにある高級宝石店(レストランはなし)で、そうした「宝石店で朝食を食べるような上流階級身分になりたい」という意味がこめられています。

小説を読んでいると、登場する女性(ホリデー・ゴライトリー)は知的で清楚なイメージがあるヘプバーンよりも、当初映画で主演を望まれていた派手で肉感的なマリリン・モンロー的な要素が強く感じられます。

この文庫は1968年に一度翻訳版が出ていますが、2008年に村上春樹が翻訳した新しいバージョンです。

そのふたつの違いはわかりませんが、40年を隔て、アメリカも日本の社会も言葉も大きく変わっていますので、そのあたりをうまく調整しているのでしょう。

また以前著者のノンフィクション作品で、一家惨殺事件を書いた作品「冷血」を読みましたが、これも大変素晴らしいものでした。

2014年1月前半の読書と感想、書評(冷血)

著者の代表作としてはこの2つの作品が次世代にも長く残されるものと思われます。

この文庫には、表題作の他、「花盛りの家」「ダイアモンドのギター」「クリスマスの思い出」の短編も収録されています。

★★☆


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残念な人のお金の習慣 (青春新書プレイブックス) 山崎将志

このタイトル名を打つと、賢いATOKが「修飾語の連続」と警告を出してきます。最近は編集さんや校正さんも、そうした細かなことを気にするより、よりインパクトのあるタイトルをつけたがるのでしょうね。

著者自身のお金の失敗、特に投資信託や株、FXなど様々な投資をやってみて、そのメリットデメリットを知り、かなり痛い目に遭った話しは、一部自分の失敗ともダブるところがあり、たいへん参考になります。

本来ならまもなく年金生活に入ろうかという私より、これから社会にでて、人生におけるお金の重要性が増してくるであろう20歳過ぎから、そろそろ結婚してマイホームでもと思っているぐらい(30歳前後?)までの人が読むのがふさわしいかも知れません。

お金は稼ぐことと、使うことが表裏一体となりますが、稼ぐのは巧くても使うのが下手という人、逆に稼げないけど、使い方が絶妙という人など、私も多くのケースを見てきましたが、確かに指摘されるとイタタ・・って感じること多数です。

自分で使うお金を投資と消費と浪費に分けてみるという発想もなかなかユニークで、しかもそれを経済ジャーナリストやライフプランナーがしたり顔でよく言う「バランスよく」なんてことはなく、投資を100%にするという考え方も目から鱗。

おそらくは20代にそうしたことを知っても「なに言ってんだか」で終わってしまいそうですが、50代60代になると、うんうんと頷かざるを得ない状態になっています。

★★☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ロスト・ケア (光文社文庫) 葉真中顕

2013年に単行本、2015年に文庫化された著者のデビュー2作目の長編社会派ミステリー小説です。

社会派と書いたのは、最近現実の社会においても時々発生する介護現場での虐待や安楽死、そして介護殺人がテーマになっているからです。

この7月にNHKスペシャルで放送された「“介護殺人”当事者たちの告白」はまさにこうした今の介護現場を取材したものですが、その殺人は介護に疲れた家族だけでなく、その周囲にいる人が気の毒に感じておこなう可能性をこの小説は指摘しています。

NHKスペシャル「介護殺人 当事者たちの告白」

ストーリーは、勝ち組の高齢者の裕福な有料老人ホーム生活と、一方在宅介護で汲々している家庭の対比があり、その在宅介護で家族が苦しんでいるのを見て、その寝たきりや認知症を発症して家族に迷惑をかけ続ける高齢者を狙って殺人が密かにおこなわれていくというものです。

きれい事を言えばまた社会倫理からすれば殺人を正当化することはできないものの、認知症高齢者を在宅で介護することで、介護する家族が疲弊していくことを社会は見捨てていることを明らかにしていきます。

そして「自分が望んでいたことを人にしてあげる」という論理で、長くつらい介護生活を自然を装って終わらせるという現代の必殺仕事人のような犯人に共感する人もでてきそうです。

★★★


【関連リンク】
 7月前半の読書 ビッグデータがビジネスを変える、鍵のかかった部屋、二十五の瞳 、クジラの彼
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無題
カポーティーの冷血は、読んだことがあります。映画も見ました!今でも興味深い者があります。犯罪者の心の中を作者が直に聞きドキュメンタリーみたいで、犯罪者の生い立ちとか愚かさとか、読んでいてとんでもない犯罪を犯したのにもかかわらず。犯人に同情しながら読んでいました。カポーティーが出演した映画もあります。確か「名探偵登場」だと思います。
2016-07-31 Sun 08:31
すいか男
Re:すいか男さん
コメありがとうございます。
「冷血」はいい作品でしたねぇ。
ノンフィクションでしたが、古さを感じさせない、今でも十分に起きえる背筋を凍らせるような話しでした。実際に背筋の凍る事件は世界中でいまも頻繁に起きていますけど、、、
2016-07-31 Sun 08:52
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