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20歳からの社会科 (日経プレミアシリーズ) 明治大学世代間政策研究所

すでにあちこちで語られていて多くの人は知っていながらも、政治家含めどうすることもできずにただあきらめているという感がある、日本の高齢化社会、格差社会、外交、未来の課題に真正面から向き合い、様々な学者や識者と言われる人が、わかりやすく解説しています。

内容は、
第1章 高齢者の意見が通りやすい国
第2章 どうすれば若者が社会を動かせるのか
第3章 今の若者が担う外交で日本は生き残れるか
第4章 年金や医療費を誰が支えるのか
第5章 人が減り、教育に熱心でなくなった国
第6章 未来の地球に何を贈るのか

タイトルにあるように、主としてこれから社会を担っていく20歳前後の若い人向けという体裁をとっているため、特に高齢者の既得権益については手厳しい内容となっていますが、いろいろと考えさせられる内容となっています。

別に今の高齢者が悪いことをして権利を得たわけではなく、社会や政治がそういう高齢者優遇の方向へ向かっていった結果だと思うのですが、今ではそうした議論も限界にきていて、これから生まれてくる日本人に借金をつけ回すのではないという結論には誰も反対はできないでしょう。

具体的には、年金、医療費、雇用、教育、安全保障、家族政策、環境などの問題整理に役立てられると思います。

★★★

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫) 新田次郎

1902年の明治時代に実際に起きた「八甲田雪中行軍遭難事件」を題材にした小説で、1971年に単行本、1978年に文庫化されました。

私も映画館へ見に行った高倉健主演の1977年公開の映画「八甲田山」の原作として有名ですが、映像では描ききれない著者の想いが詰まった山岳小説として読みました。

山岳小説を書かせると右に出る者はいないと言われた著者だけあって、雪山での壮絶なシーンはもちろん、その雪山へ行軍する二つの部隊をうまく対比していて、その事前の予行演習や装備、組織や上官との関係などが細かく書かれていて興味深いです。

あらすじは、日露戦争が始まりそうになってきた社会情勢で、日本陸軍としても冬山の装備や部隊の展開などが重要視されてきて、青森と弘前の二つの部隊に冬の八甲田山を踏破する命令(表向きは任意だが実質的には命令)が下され、それぞれ逆方向から八甲田山に登り、途中ですれ違うという計画になります。

雪山行軍の経験があり、慎重な弘前歩兵第三十一連隊が先に出発し、それを聞いて天候が悪い中、案内人も雇わず慌てて出発した経験の少ない青森歩兵第五連隊が八甲田山に足を踏み入れたとたん猛吹雪に遭ってしまい部隊が全滅してしまいます。

一方の弘前隊は常に地元の案内人を立てて、慎重に進むことで、予定通り八甲田山を無事に踏破し、ただ1人だけ足をくじいたために引き帰らせた他は、予定通りに行軍して、弘前へ戻ってきます。

暴風雪と深い雪で行く手をさえぎられる青森隊の悲惨な状況は、映像で見ることでその迫力が倍加します。

小説ではそうした現場の迫力ではなく、それぞれの立場に立った人間物語として読むことができます。それにしても想像を絶する物語です。

昨年夏、八甲田山のすぐ近く、奥入瀬まで旅行で行きましたが、もしこの小説を先に読んでいれば、八甲田山麓の供養塔がある場所へ寄っていただろうなと感慨深げに読みました。

★★★

著者別読書感想(新田次郎)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

WORLD WAR Z (文春文庫)〈上〉(下) マックス ブルックス

アメリカで2006年、日本語訳版は2010年に出版された終末ホラー小説です。2013年には映画「ワールド・ウォーZ」が製作されていますが、小説とは一線を画して内容はかなり違っているようです(未見のため不明)。

予備知識はなく、究極を意味するZを付けたWORLD WARですから、これは米中が核兵器を使って互いに攻撃するのか?と勝手に想像してましたが、全然違いました。

Zはゾンビ(ZomB)のZで、全盛界で繰り広げられた人類と生きた屍者との壮絶な戦いが起き、やがて人類がほぼゾンビを制圧し、沈静化してから各地で生き残った人々に当時の模様をインタビューをしたという形態をとった変わった作品です。

中国の奥地で発生したなぞのウイルスが屍者を蘇らせ、その屍者が人に噛みついたり引っ掻くことでウイルスが感染し、やがて心臓は止まるけど身体は動き出すというあまり夢には見たくないB級ホラーって感じ。

そう言えば、以前読んだ伊藤計劃・円城塔著の「屍者の帝国」では、奴隷のように労働や兵役をさせるために屍者を蘇らせる技術を開発するというのがありましたが、いつかずっと未来にそうした技術が開発されるのかも知れません。

とはいえ、なにもわざわざ不気味で有限な屍者を蘇らせなくても、AIと高感度センサー、人工皮膚、ナノテクなどを使ったロボットを開発、生産すれば人間に忠実な労働力でも兵隊にでもなんでも使えて効果的だと思いますけどね。もうとっくに開発が始められていると思います。

単にホラーではなく、それぞれの国の特性を考えたゾンビ対策や、住民避難、軍隊の活動など細かなところまでよく調べて書かれているところがミソかも知れません。

その原作をモチーフとした映画も録画してあるのでそのうちに見たいと思ってます。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

サマータイム (新潮文庫) 佐藤多佳子

1990年に「サマータイム 四季のピアニストたち」として刊行され、その後2003年に上下巻合わせた連作短編の文庫で、その中身は四季を彩るように「サマータイム」、「五月の道しるべ」、「九月の雨」、「ホワイト・ピアノ」の4編からなっています。

この作品は著者のデビュー作で、私は過去に「しゃべれどもしゃべれども」「一瞬の風になれ(第一部~第三部)」を先に読みましたが、いずれも遠い青春時代を思い起こさせてくれる爽やかで甘酸っぱい作風という感想です(自分の青春時代はまったく爽やかでも甘酸っぱくもありませんでしたが)。

タイトルはジャズの名曲「サマータイム」から来ていますが、短編ごとに変わる主人公のいずれもが、ピアノに関係していて、そうした名曲の思い出が出てきます。

やはりお得意のほろ苦さと甘酸っぱさが同居する若い青春ドラマが展開されていて、60近いオッサンが読むのはちょっとキツめ。若い人には共感できるところがあるのでしょう。

★☆☆

著者別読書感想(佐藤多佳子)


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