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まほろ駅前番外地 (文春文庫) 三浦しをん

シリーズ第1弾「まほろ駅前多田便利軒」(2006年)と、すでに発刊されている第3弾「まほろ駅前狂騒曲(2013年)のあいだの2009年に単行本、2012年に文庫化されたシリーズ第2弾の短編集です。

ただしこの短編では、本編のスピンアウト作品という位置づけで、それぞれの話しで主人公が代わり、例の便利軒の二人は脇役へ回っています。

収録されているのは「光る石」「星良一の優雅な日常」「思い出の銀幕」「岡夫人は観察する」「由良公は運が悪い」「逃げる男」「なごりの月」の七篇です。

第1作目の「まほろ駅前多田便利軒」は映画が製作されましたが、この第2弾は、瑛太と松田龍平など主要な出演者は同じでテレビドラマ化されています。

話しは、便利屋稼業の日常が描かれているわけですが、テンポもよく比較的短くて読みやすく、内容も軽めのものが多いので、ちょっとした暇つぶしの時などに持っていると良さそうです。

主人公は高校の同級生同士で、便利屋に居候している主人公の内のひとりに、昔、家庭内で起きた問題が、少しだけ明らかになっていきます。

すでに三作目が出ていますので、それですべて明らかになっていくのかどうかわかりませんが、なかなか焦らせながら次回へ続くみたいな手法はうまいなと思いました。

★★☆

著者別読書感想(三浦しをん)

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謎解き 関ヶ原合戦 戦国最大の戦い、20の謎 (アスキー新書) 桐野作人

2000年に出版された「真説 関ヶ原合戦」から加筆修正した新書で2012年に出版されました。

著者は歴史研究家の作家で、多くの戦国時代を中心とする書籍を出されています。

タイトルの20の謎ですが、

1 関ヶ原合戦の原因は何か
2 「五大老・五奉行」制はあったのか
3 前田利家・利長父子は家康と対決するつもりだったのか
4 家康は最初から軍事対決を目論んでいたのか
5 石田三成と直江兼続の密約はあったか
6 三成の挙兵戦略はどのようなものだったか
7 前田利長・利政はどちらにつくつもりだったのか
8 家康はなぜ小山・江戸に長く留まったのか
9 徳川秀忠の中山道進軍の目的は何か
10 徳川軍の主力は家康勢か秀忠勢か
11 上杉景勝はなぜ南進せず、最上義光を攻めたのか
12 三成の東進策はなぜ実らなかったのか
13 岐阜城はなぜ簡単に落ちたのか
14 家康は大垣城の西軍とどう戦うつもりだったのか
15 西軍の関ヶ原転進には三成の秘策があったのか
16 小早川秀秋はなぜ松尾山に陣取ったのか
17 島津勢は日和見で戦わなかったのか
18 井伊直政はなぜ「抜け駆け」したのか
19 宇喜多勢は本当に精鋭だったのか
20 「島津の退き口」はどのように行われたのか

となっています。

なかでも意外に思って面白かったのは、8「家康はなぜ小山・江戸に長く留まったのか」9「徳川秀忠の中山道進軍の目的は何か」16「小早川秀秋はなぜ松尾山に陣取ったのか」かな。

家康が小山評定で家康勢が上杉攻めから反転した後、すぐに上方へ向かわず、なぜか江戸に長く滞在していた謎や、秀忠が真田攻めに苦労して関ヶ原に間に合わなかったという通説の誤り、小早川の裏切りの可能性があることをわかっていた大谷吉継の動きなど、あくまで現在ある資料と著者の推測ですが、納得できるものが多くありました。

一度、関ヶ原へ行って各陣地跡を見ておくと、本文で書かれる各陣営の動きなどその位置関係がよくわかって良いでしょう。

5分でわかる関ヶ原の戦い 2014/12/13(土)

★★★

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ダブル・フォールト (集英社文庫) 真保裕一

2014年に単行本、2017年に文庫化された長編法廷ミステリー小説です。

著者の小説は過去に20作品を読んでいますが、それらに法廷が舞台の小説はなかったと思います。

主人公は若い居候弁護士で、1999年以降の司法制度改革により、需要以上の多くの弁護士が誕生し、月収が10万円前後という厳しい現実に身を置いています。

そこへ事務所の代表弁護士から、ある殺人事件の被告の弁護をするように話しがきます。

被告は、事件を起こした後、自ら警察に出頭し、事件を大筋で認めていますが、計画的な殺人か、正当防衛か、あるいは突発的な過失致死かという争点で検察側と争うことになります。

被告を弁護する側としては、殺された被害者の凶暴性や社会的な問題点を次々と表沙汰にすることで、被告のやむを得なかった正当防衛を主張していくことになりますが、当然ながら被害者の遺族は、「人を殺し、さらにその被害者の過去を暴く」と猛反発を食うことになります。

このあたりの、被害者遺族と加害者の弁護士との関係、法廷における証人に対する質問などが、スリルとサスペンス感がいっぱいでドキドキしつつ楽しめます。

タイトルは、主人公の弁護士が若い頃から続けているテニスにちなんでのものですが、もうひとつ本小説の内容とテーマ、結末が結びつかず、意味不明なところがありました。

著者は時代劇から、歴史物、刑事物、ビジネス物など幅の広いジャンルをテーマとした小説が持ち味で、そのあふれる才能には驚かされるばかりです。

★★☆

著者別読書感想(真保裕一)

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嗤う名医 (集英社文庫) 久坂部羊

「寝たきりの殺意」「シリコン」「至高の名医」「愛ドクロ」「名医の微笑」「嘘はキライ」の6編の短編が収録されている2014年に単行本、2016年文庫化された小説です。

著者は現役医師でもあり、過去には「日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか」と「無痛」の2作品を読んでいます。

「無痛」6月後半の読書 2016/6/29(水)
「日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか」2月後半の読書 2017/3/1(水)

どの短編も医療にまつわる話しや医療従事者がメインの話しで、ブラックユーモアも散りばめられていて、一般人は知らない医療の世界を垣間見ることができます。事実かどうかはともかく。

医療関係者が読むと、結構あるある話しなのかも知れません。

ラストで大どんでん返しがある「寝たきりの殺意」、豊胸手術の失敗と、美容整形の後始末を嫌がる医療界の無責任さがわかり女性の美容整形の痛々しさを皮肉った「シリコン」、解剖学の技術員と放射線技師の二人が、形の良い頭蓋骨を愛するあまり暴走していく「愛ドクロ」など、医者の視点から見たドタバタがなかなか楽しめます。

でもこの作家さんの小説は、やっぱり長編のほうが面白いという結論に達しました。

★★☆

著者別読書感想(久坂部羊)

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はなとゆめ (角川文庫) 冲方丁

2013年に単行本、2016年に文庫化された、平安時代絵巻風で、主人公というか語り手が清少納言という変わった趣向の長編小説です。

清少納言と言えば、今から1000年ほど前の西暦1000年頃に、都(京都)で活躍していた女流歌人であり「枕草子」で有名です。同世代には「源氏物語」の紫式部などもいます。二人に直接の接点はなかったようですけど。

その他の有名人では、陰陽師の安倍晴明がちょっと出てきたりします。平安時代の寵児ですね。

著者の作品は、過去に時代物の「天地明察」とSF物の「マルドゥック・スクランブル圧縮」の2作品を読んでいますが、今回の作品含め、3作品はいずれも共通性がまったくないもので、著者の多才ぶりがよくわかります。

「天地明察」2014年2月前半の読書
「マルドゥック・スクランブル圧縮」2016年8月後半の読書

内容は、清少納言というあだ名が付けられた経緯や、代表作とされる随筆「枕草子」が書かれるゆえんとそのタイトルの話しなど。

「枕草子」は、中国の司馬遷が編集した「史記」から「敷物」を連想し、「敷物≒寝具」には「枕」が似合うという言葉遊び(しゃれ)からという説をとっています(諸説あり)。草子は冊子という意味です。

それにしても「清少納言:枕草子」は、日本の青少年が学校で習う定番ですが、その人物のことや、書かれた背景を知っている人はごくわずかでしょう。

今では古い資料を見て推定するしかないものの、さすがに千年以上前の資料が新しく発見されることはあまり考えられず、こうした作家さんが考えた小説が人気を博し、また映画など映像化もされていくようになると、やがてはこれが通例となっていくのかも知れません。

★★☆

著者別読書感想(冲方丁)

【関連リンク】
 1月後半の読書 本能寺の変 四二七年目の真実、欲しい、アキラとあきら、ひとり暮らし
 1月前半の読書 未来の年表 、約束の海、ハサミ男、さがしもの、しゃぼん玉
 12月後半の読書 豆の上で眠る、八月十五日に吹く風、定年後のリアル、あのひとは蜘蛛を潰せない、抱擁家族



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