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故ロバート・ブラウン・パーカー(Robert Brown Parker)の代表作スペンサーシリーズは基本的にどの物語から読んでも面白く読めますが、やはりその周辺事情を知っておく方がより楽しめます。


ゴッドウルフの行方 (1973年)はシリーズ最初の作品でマニアの中でも評価は高くお勧めの一品です。スペンサーも元警官ですが、この時から探偵小説には欠かせない殺人課の刑事マーティン・クワークとフランク・ベルソンが登場し、その後もスペンサーの良き理解者、協力者としてずっと縁があります。


誘拐 (1974)ではスペンサーの恋人スーザン・シルヴァマンが登場します。スーザンとの絡みはその後ずっと続きますので押さえておくべきでしょう。


スペンサーが活躍するボストンはもちろんレッドソックスの本拠地。パーカーもレッドソックスファンらしくメジャーの話題も時々出てきます。3作目の失投 (1975年)はそのレッドソックス球団が舞台です。


約束の地 (1976年)はアメリカ探偵作家クラブ賞を受賞し、名実とも評価が高まってきました。この後ほとんどのシリーズに登場する無茶苦茶強くてしかも理知的な黒人の相棒ホークが初登場です。


ユダの山羊 (1978年)はヨーロッパが舞台です。依頼人の妻を死に追いやったテロリスト達を追いかけてイギリス、デンマーク、オランダなどを転々とします。相棒ホークも大活躍です。


レイチェル・ウォレスを捜せ (1980年)はシリーズの中でも私のベスト3に入るお気に入りです。レスビアンでフェミニスト活動家(作家)のレイチェルに最も嫌悪されているタイプの男臭いスペンサーがレイチェルの護衛につきますが、隙を突かれて誘拐されてしまいます。


初秋 (1980)は私がベストと思う一品。両親に捨てられたも同然で自閉症になってしまった少年ポール・ジャコミンを自立させるために立ち上がります。スペンサーの優しさと男らしさがうまく表現されます。この作品で作家パーカーと主人公スペンサーの名前を世界に知らしめ、ハードボイルドの世界で不動の位置を占めたと言っても過言ではありません。


拡がる環 (1983年)では今後時々出てくる最高の銃使いヴィニー・モリスが登場します。実はこの無口な殺し屋ヴィニーが登場人物の中で私の一番のお気に入りです。以降時々ちょい役で登場しますが、恋人スーザンの護衛という役回りが多いようです。


告別 (1984年)で登場したリタ・フィオーレは最初は検事補、その後敏腕弁護士として登場しますが、何度もスペンサーを誘惑しようとしてフラれ続けます。


晩秋 (1991年)は初秋の続編で、初秋で救った少年ポール・ジャコミンが立派なアーティストになって登場します。


ペイパー・ドール (1993年)ではスペンサーの友人達が多く登場します。中でもゲイの刑事リー・ファレルにはとっても味があります。


虚空 (1995年)はホークの登場しない珍しい作品で、舞台はロサンジェルス。友人でもある刑事フランク・ベルソンの妻を救い出すため、LAのギャングチョヨと組むことに。


悪党 (1997年)ではスペンサーが殺し屋グレイ・マンに撃たれ瀕死の重傷に。グレイ・マンとはその後和解し、仲間になります。


ポットショットの銃弾 (2001年)は過去のシリーズで登場したガンマン達(ホーク、ヴィニー・モリス、テディ・サップ、バナード・フォーチュナート、チョヨ、ボビー・ホース)が結集して荒野の七人をやります。


冷たい銃声 (2005年)では相棒ホークが撃たれ重傷を負う。対決するために以前スペンサーを撃ったグレイ・マンやヴィニーに協力を依頼する。


番外で、スペンサーシリーズではありませんが、多大な影響を受けているレイモンド・チャンドラーの執筆途中の遺作「プードル・スプリングス物語 」はパーカーが完成させて1989年に世に出しました。無理した部分もあるのでしょうけど、チャンドラーの小説というより、パーカーの小説と思って読んだ方が良さそうです。


さらばスペンサー!さらばロバート・B・パーカー
ロバート・B・パーカー「スペンサーシリーズ」全巻まとめ
著者別読書感想(ロバート・B・パーカー)


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毎日新聞 2010年1月21日
訃報:R・B・パーカーさん77歳=米ハードボイルド作家
19日のAP通信などによると、米マサチューセッツ州ケンブリッジの自宅で18日死去。死因は不明。
32年同州生まれ。ノースイースタン大などで教えるかたわら、73年に私立探偵「スペンサー」を主人公とする「ゴッドウルフの行方」でデビュー。76年発表の「約束の地」で米国推理作家クラブ最優秀長編賞を受賞した。テレビドラマ化もされた「スペンサー」シリーズが人気を博し、ハードボイルド作家としての地位を確立した。(共同)
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男のロマンを感じさせてくれるたいへん好きな作家でした。ベタな言い方をすれば、ハードボイルドの代名詞ともなった私立探偵フィリップ・マーローで超有名なレイモンド・チャンドラーの魂を引き継いだ作家でもありました。

死因は不明とのことですが、年齢的に言えば、アメリカ人の平均寿命は超えているので、特に驚きはしませんが、まだまだ読みたかったので残念なことです。

好きになった作家の本は基本的には片っ端からすべて読むのが自分の習性なのですが、この作家はとにかく多作な作家で、スペンサーシリーズだけでも37冊もあります。

その他、ジェッシィ・ストーンシリーズ、サニー・ランドルシリーズ、エヴェレット・ヒッチ シリーズがあり現在出版されているものだけでも50冊以上あるのではないでしょうか(ただ大型書店でもその半分も置いてありません)。なので、とても全部は買い揃えていません。

20年ほど前から少しずつつまみ食い的に読み進め、今までに約30冊ぐらいは読んだでしょうか。ということはまだこれから彼の作品を20冊ぐらいは読めるということですね。ちょっと安心しました。

ハードボイルド小説のお気に入りについて以前日記に書いたことがあります。その中の海外の作家で現役のローレンス・ブロック、マイクル・コナリー、フレデリック・フォーサイスに頑張ってもらわなければいけません。

自分へのメモとして読んだロバート・B・パーカーの小説を書いておきます(今までに4冊ダブって購入しました)。いずれも面白かったです。

書店には比較的新しい2~3種類しか置いていないので、私は買うときは丸善や紀伊国屋の本店へわざわざ出掛けました。今はAmazonでほとんど揃っているので便利になりました。しかしさすがのAmazonでも本の表紙の画像がなかったりします。画像がないものはテキストリンクだけ貼っておきます。

儀式 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)
キャッツキルの鷲 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)
虚空―スペンサー・シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
残酷な土地 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)
晩秋―スペンサー・シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
誘拐 (ハヤカワミテリ文庫―スペンサー・シリーズ)


【スペンサー関連リンク】
著者別読書感想(ロバート・B・パーカー)


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326
お正月の恒例になりつつある年越し派遣村ですが、就職支援金の持ち逃げ者が続出したことで、問題になっています。

派遣村に本当の意味で派遣切りに遭い、年末近くに派遣会社の寮を追い出され、住み処をなくした人というのはどのぐらいいらっしゃるのでしょうか?

おそらく半数、いや30%もいないのではないかと思われます。根拠はなくあくまで推定ですが。

つまり推定通りであれば派遣村とは「労働者派遣=悪」というイメージを国民に植え付ける目的で派遣反対派が名付けたものと考えていいと思います。

正式に付けるなら「ホームレス年末年始避難所」ではないでしょうか。

この派遣村については、行政側、ホームレス側、マスコミ、支援団体等からそれぞれに様々なことを言っていますが、すべてになんらかのバイアスがかかっていると思わざるを得ませんので、いったい何が本当のことかさっぱりわかりません。

ただ就職活動や公的な福祉活動が完全に停止してしまう年末年始のこの時期に、ホームレスの人達が暖かな食事と暖かな布団で過ごせるということは、人道的に言えばいいことに違いありません。

そしてそこに入居できる人を厳しく制限することは平等とは言えず、結果的に希望者はすべて受け入れざるを得ないということになります(入居するには職安に登録するなど簡単な条件等はあります)。

しかし一般論からすると、ホームレスの人を正規に雇おうという企業や公共団体はまずありません。

正規というのは一時的なアルバイトやパート、日雇い労働、季節労働を除いた正社員、長期の契約社員という意味です。つまりホームレスになるということは、その時点で本人の意志はともかく現実的に正規な就業をあきらめてしまったということです。

1960年代のように集団就職や出稼ぎ労働者の需要が高かった時代は、住み込みで働いたり、寮や社宅が完備されている職場も多かったようですが、それも時代が変わり、労働者が溢れてしまい、そこまでお金をかけて労働者を集める必要がなくなっています。

そういうホームレスの人達を集めて就労相談をおこなったり、仕事の紹介をしても非常に効率が悪い(決定しない)ことになります。本気で就職を探すなら、まず例え四畳半の部屋でもいいので、住民票をおく住まいを決めなければなりません。

しかし無職の人に貸してくれるアパートはありませんし、保証人の問題や敷金(保証金)などでつまづく人も多いのではと思います。

国や自治体が支援をするならまずそこからだと思います。そういう手を打ってもなお、好んでインターネットカフェや公園で寝起きすることが自由でいいという人には正規な就労の意識はないと判断せざるを得ません。

あとは、健康上の理由で、毎日は働けない、職場や仕事内容を選ばざるを得ないというハンデを背負った人達に、どのようにサポートするかを考えればいいのです。

派遣村のようなところには、正規就労を本気で目指している人達もいれば、正規就業する気はなく、一時しのぎのためや支援金目当ての人達が当然混ざってくるでしょう。

性善説をとり、本当は就労意欲のない人にまで、同じように支援金をばらまくと結局はこういう結果となり、真面目に就職を探している人や、申告している人達が同じように見られてバカを見ることになってしまいます。それが一番気の毒でもあり、悔しく思うところです。

ただ、繰り返しになりますが、自宅通勤の若い大卒予定者ですらなかなか正規就労先が決まらない現状の環境下で、ホームレス状態で仕事(正規就労)を探そうなんていうのは正気の沙汰ではありません。

ホームレス支援と就労支援とはまったく別のことではないかと思うのです。

また法律で日雇い派遣を禁止するのは構いませんが、それによって現状よりさらに多くのホームレスや失業者が出てくることをどうするのか考えておく必要があります。

そこで私の考えたホームレス&就業支援対策

ホームレス支援策1:ホームレスの希望者が住居に長期に住めるよう公営住宅や借り上げ民間住宅を安価に提供

就業支援策1:ホームレスで住居への入居を希望しない人には正規就労以外の(日雇い、アルバイト、季節労働)を職安が率先して紹介する(正規就労を望まない人向けと日雇い派遣禁止であふれ出る失業者の救済)

就業支援策2:少なくなったとはいえ各種公共事業の入札業者には支援策1の就労希望者の採用を義務づける(天下りをひとりやめれば一般職で2~3名は雇えます)

就業支援策3:支援策1の就労希望者を人材紹介会社が就労先を決めた場合は、追加して紹介手数料の50%を職安から支払われる(紹介会社は通常の手数料100%+50%で計150%の収入になり積極的に対応する)

その他:職安のやる気のない職員全員を民間の派遣会社や紹介会社の最前線へ1~2年間出向させる。また逆に派遣会社、紹介会社から営業パーソンやキャリアコンサルタント等の出向を受け入れる(双方緊張感があり刺激になりまた互いの業務をよく知ることで積極的な就職(派遣)支援に結びつく)



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325
野村克也元楽天監督があちこち引っ張りだこです。すでに74歳、普通のサラリーマンならとっくに引退し、年寄りの多い国会議員ですら政党によりますが公認が得られなくなる年齢です。

元気なお年寄りを見るのは決して嫌いではありませんし、特に野村元監督の舌鋒は聞いていても楽しく共感を覚えたりして悪くないと思っています。パリーグファンの私としては実はノムさん大好きでした。

しかしあえて言わせていただくならば、もういい加減に静かに表舞台から去って隠居してくださいと願っています。

様々な名選手を発掘したり、不調の選手を蘇らせたりする手腕は認めますし、周りの人に好かれる人柄や気を遣うことも知っています。

しかし最下位の楽天を4年で2位まで引き上げたという手腕については、南海、ヤクルト、阪神など20年以上も監督、コーチを経験してきたベテラン監督なら、特に賞賛に値するとは思いませんし、それをもって契約延長しない楽天球団の無礼ともまったく思いません。

昨年のシーズンオフに当初の契約通りに勇退が決まっていたにも関わらず「2位になった功績を評価してもう少しやらせてくれるものと思っていた」旨の発言を聞いてからは、ああ、この人もただの欲ボケ爺さんだったんだなぁって思ってしまいました。

そしてこの愚痴をどこへ行っても言い続けるのは、(先日大相撲中継にもゲストで登場してこれを愚痴ってました)それを言わせようとするマスコミにも責任はありますが、よくある同じ事を繰り返すばかりの健忘症に罹った老人じゃないかと思ってしまいます。

本当ならば3年契約が終わり、さらに1年延長されたおかげで2位という成績を残せたわけで、球団やオーナーに感謝をして、後進に道を譲り勇退するべきなのではと思います。

後進が育たず(育てず)、結局他球団から次期監督を引っ張ってくるしかなかった球団としては、残ってもらっても辞めてもらっても愚痴られる困ったワガママな老人だったでしょう。

ようやく政治の世界では70代の老人が主役の時代から少し若返り始めましたが、少し前までは60歳と言えばまだ若手と言われるぐらいでまったく異常な世界でした。大手企業にもこういった70、80歳まだまだ元気という経営者が結構居座っていて幅をきかせています。

このように政治やビジネスの世界でも老人が自分の実力を過信し「若い者には負けない」「後進が育っていない」「自分が一番わかっている」と勝手に理屈を付けて居座っていることが、現在の日本の構造不況の原因になっているという人もいます。

つまり世界一の貯蓄率を誇る日本の老人が、お金を使わないので、一向に内需は拡大せず、若い人の芽を摘み、雇用を狭め、さらにはお金持ちの老人に対して厚く社会保障が約束されているという大いなる矛盾を抱えているからです。

現在働いているサラリーマンの年金受給年齢は徐々に引き上げられていきますが、現在既にもらっている老人の多くは高度成長期に働き、退職金もたっぷりもらい、悠々自適の生活を送っている人がかなり多いはずです。

そうでなければ60歳以上の世帯平均貯蓄額が2000万円を超えているなんて統計が出てくるはずがありません。

それらの老人に毎月巨額の年金の原資(社会保険料や所得税などの税金)を支払っているのは、現在、住宅ローンや子供教育費などを抱えて、貯金をする余裕はまったくなく、厳しい生活を送っている世代や、働き口がなく、フリーターや派遣で働かざるを得ない人達なのです。

泥棒に追い銭はちょっと言い過ぎですが、社会保障(福祉、年金、医療保険、介護保険等)を厚くして老人達にお金を配ったり老人医療費を格安にしても、老人は住宅ローンはなく、子供の教育費もかからない、また家族でレジャーへ出掛ける活発さも理由もない、と大きなお金を使う必要も機会もありません。

公共交通費に至っては都市によりますが老人パスで無料だったりします。なので、そういう人達を優遇すればするだけお金は死に金となり、蓄えたお金はおそらく死ぬまで表には出てきません。

いっそ、相続税や譲渡税を90%かけるとか(1億円を相続すると9000万円が税金で持っていかれる)とすると、銀行や郵貯などに眠るお金がもう少し活発に消費や投資へ回ると思いますので、そういう極端な政策でも採らない限り、ため込んだ老人達の貯金は出てきそうもありません。

野村元監督が「もうお金は十分あるので、無報酬でいいからあと1年監督やらせて」と頼めば、資金力のない楽天球団としてはOKしていたかもしれません。

でもあと1年と決まっている監督の元で働く選手やコーチのモチベーションはさっぱり上がらないでしょうね。

年俸がチームの人気選手よりも高額な雇われ監督の言いなりになって雇い続けるほどビジネスの社会は甘くありません。

いずれにしても、野村元監督はこれからは解説者やセミナー講師として引っ張りだこで、監督時代よりお金儲けはできるでしょうが、現役を引退して仕事探しでたいへんな数多くの元選手のためにも、もうそろそろテレビなどマスコミから引退してもいいのではないでしょうか。

※ここで引退や補助金の削減のターゲットにしている高齢者とはたっぷり預貯金など資産を持っている老人が対象です。

貯金もなく年金だけが頼りの高齢者をさらにいじめようとする政策はきっぱり反対です。ただ貯金を持っているかどうかは一般人なら調べられないので、相続税や贈与税を強化するのが手っ取り早いのではという結論です

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NEXT―ネクスト (ハヤカワ文庫NV) マイクル・クライトン(上)(下)

ジュラシック・パーク」「タイムライン」「ER 緊急救命室」など主に科学やバイオ、医療関係で大ヒットを飛ばしてきたマイクル・クライトン(Michael John Crichton)の生前に出版された最後の作品と言う紹介がされている小説です。

なぜこのようなまどろっこしい言い方をするのかと言うと、死後に彼のパソコンからほぼ完成された新作小説が見つかったので、遺作というのはそちらになるとのことです。
 
最近では「恐怖の存在」など巨大独占企業や過激化する環境保護団体等を非難し敵に回す小説が多かったため、2008年に66歳で突然死亡が伝えられたときは「陰謀説」「暗殺説」が噂されたこともあるようです。

アメリカ社会ではなにがあっても不思議ではありませんので、事実はわかりませんが、公式にはガンで死亡と発表されています。
 
「NEXT―ネクスト」は人間を含む動物の遺伝子操作による倫理的な問題やそれに関しての法律の遅れ、遺伝子特許の弊害、大学などの研究機関と学者が利益追求主義に走る現実、そして遺伝子操作や実験の規制がないに等しいアジア諸国の問題などにスポットライトをあて、現実で起きている出来事とSFが入り交じったなかなかショッキングな小説です。
 
米や大豆、野菜などの植物、それに家畜にも遺伝子操作がおこなわれているのは誰もが知っていることですが、他の動物に人間の遺伝子を組み込むことや、人間の遺伝子操作をおこなうことはすでにタブーではなくなってきているようです。

確かに遺伝子治療で今まで不治の病だった病気を治したり、やがて発症するであろう難病を事前に取り去ってしまうことなど期待されている面はあります。

そういった表向きの大義名分を掲げ、止めどもなく暴走していく可能性のある科学者や、それで得られる利益を独り占めしたいバイオベンチャー、巨大製薬会社、そしてもっとやっかいな国家による法律や宗教観などの違いに対し、果たして歯止めがかけられるのか?という問題提起をエンタテーメント小説としています。
 
1990年代前半までは、映画化された「大列車強盗」「失われた黄金都市」「ジュラシックパーク」のようなエンターテインメント中心のものから、この小説もそうですが、1990年代後半以降は「エアフレーム」や「恐怖の存在」など、世間ではあまり知られてはいなかったり、誤解されている社会問題を鋭く突くというものが増えてきます。
 
しかしその意欲と裏腹に、人間の尊厳や特に欧米では神の領域に関わる深刻な問題を「きっと映画化もされるので、無理矢理にエンターテインメント化してみました」というストーリーがうまくマッチしていないようにも思えます。

いっそ、ドキュメントでもよかったのではないかと思いますが、小説だから名誉毀損にはならずに許されるという部分もかなりあると想像されます。またドキュメントと小説では読者の桁が全然違ったものになってしまうのでしょう。

著者別読書感想(マイケル・クライトン)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
偽善エネルギー (幻冬舎新書) 武田 邦彦

偽善エコロジー」の著者が同じ土俵(柳の下のドジョウ)での書き下ろしの新書です。

「偽善エコロジー」でもいろいろと新しい発見があり勉強になりましたが、今度は著者の専門分野でもあるエネルギー問題ですので、ややエリート意識が出て独特の独断専行的な書き方には嫌味も感じるのですが、書いてある内容はとてもためになります。
 
まず現在のエネルギーの主力である石油ですが、過去何十年も前から「あと30年で石油はなくなる」と言われ続けてきたその理由が明確に書かれており、実際に底をつくのはいつ頃かという推測も科学的におこなわれています(推測部分が多いのは仕方がありません)。

そしてその石油に変わる代替え燃料として、天然ガスや石炭、太陽光、風力などのエネルギーの可能性について検証されてます。

また「電気自動車は本当にCo2を出さないのか?」「日本にとっては地球温暖化するほうが良い」「温暖化しても海面上昇にはならない」などの科学者である著者の理論が展開されます。
 
日本は世界で唯一実験以外で原子爆弾の洗礼を受けた国として「原子力アレルギー」が特に強く、やむを得ないことではありますが、「原子力」と名が付けばイコール危険・反対という条件反射を持っています。

そういう状況なので、政府も電力会社もそういう民意やマスコミを刺激しないよう、できるだけ「原子力」の情報はタブー化し、オープンにはせず、情報公開もせず、ひた隠しにするという体質が出来上がっています。

これからのエネルギー政策には欠かせない日本の原子力政策について、著者は内閣府原子力委員会メンバーでもありながらそこに一番の問題があると指摘しています。
 
個人的にはまだまったく生産の目処が立っていないものの、日本近海に大量に埋蔵されているメタンハイドレートの事も少しは触れてもらいたかったなと。

もしこの深海にある「燃える氷」を数十年後にでも採算の取れるエネルギーとして開発することが技術的、商業的にできれば、一躍日本は世界有数のエネルギー資源大国になる可能性があります。(関連リンク「燃える氷」高任和夫著
 
  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

約束の河 (中公文庫) 堂場 瞬一

警察小説で有名なベストセラー作家、堂場瞬一の小説です。

この小説「約束の河」の主人公は、子供の時に友達に命を救われた恩義を持ち続け、その助けてくれた友達がその際に右腕をなくしてしまったという後ろめたい気持ちや事件のトラウマが消えぬまま大人になり、しかも親の法律事務所を継ぐために司法試験を受け続けたが落ち続け、ドラッグにおぼれてしまう情けない男性で、暗く重苦しい話しが延々と続きます。

読んでいるとどんどん落ち込んでいきますから、精神状態のいいときに読むことをお勧めします。

この著者の作品には割と共通していますが、最後は拍子抜けするぐらいに淡泊に終わります(盛り上がりに欠けるとも言います)。
 
子供の頃の悲惨な経験とその記憶を引きずって大人になってもトラウマが消えず、犯罪に巻き込まれたり、ドラッグにおぼれたり、自らが精神に異常をきたしたりしていくというストーリーは世界中、特にアメリカの現代小説に多くみられます。

こういうところまでアメリカナイズされなくてもと思うのですが、やはりこれも日本でも起きうる(既に起きている)社会問題なのでしょう。
 
しかしどうして小説と言ったら「死」ばかりがストーリーのメインとして登場するのでしょうか?「死」が平凡な生活にはない非凡なショッキングな出来事だということは理解できます。

でも「死」以外のテーマで優れたドラマを作り出せる作家というのは残念ながら極めて少ないような気がします。通常割と身近で起きる死は多くても年に1人か2人でそれも天寿を全うしたりそれに近い死が普通です。

小説のように主人公の周りで次々と犯罪の匂いがする死が発生することはまずあり得ません。無理にストーリーを作るには殺してしまうのが一番お手軽なのでというわざとらしさを感じるのです。
 
この「約束の河」には、発生した時期はバラバラですが、主人公の両親、友人(2名)、友人の両親、友人の妹に「死」がこれでもかとばかりに登場してきます。

小説とはいえ安易に人を殺しすぎです。決して80歳で天寿を全うしたという死ではなく、いずれも若くしての事故、病死、自殺、殺人です。不慮の「死」が一度も出てこない読み応えのある本格的なミステリー小説というのは存在しないものなのでしょうか。

著者別読書感想(堂場瞬一)
 



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