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鍵のない夢を見る(文春文庫) 辻村深月 2012年に単行本、2015年に文庫化された短篇集ですが、この作品のトピックスとして一番なのは2012年の直木賞を受賞したことでしょう。 物語はそれぞれに独立した内容で、「仁志野町の泥棒」、「石蕗南地区の放火」、「美弥谷団地の逃亡者」、「芹葉大学の夢と殺人」、「君本家の誘拐」の5編からなり、それぞれ泥棒や放火、殺人(逃亡と自殺)、誘拐など、新聞の三面記事に取り上げられそうな犯罪がテーマとなっています。 日常的な風景と、同時にドキドキするミステリー的な要素もあり、なかなか楽しめます。ただ一般的に女性作家さんが書く男女間や女性間の会話が、私的にはストーリーと関係がない無意味なものが多いように感じられ、ざっくりすっ飛ばして読めるのは良いですが、なにかページ数だけが増えて無駄に感じてしまいます。 5編の中で「これが一番!」というのを取り上げようと思ったものの、実はどれもほどほどに面白く、かつ退屈でつまらなく、「これは!」というものがありませんでした。短篇集では「これが一番!」という、強く記憶に残る作品がいくつかあるのですが、それは残念に思いました。 ★★☆ ◇著者別読書感想(辻村深月) |
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悪しき正義をつかまえろ ロンドン警視庁内務監察特別捜査班(ハーパーBOOKS) ジェフリー・アーチャー 著者の小説を読むのは今回が32作目となります。そのうち半分以上の作品が上下巻で一つの作品となっているので冊数でいうと50冊は超えていそうです。 今回の作品は、「ロンドン警視庁美術骨董捜査班」シリーズの第3作目で、本国では2019年(日本語翻訳版は2020年刊)に出版されています。 そのシリーズ第1作目の「レンブラントをとり返せ-ロンドン警視庁美術骨董捜査班-」は2022年に読んでいて、第2作目の「まだ見ぬ敵はそこにいる-ロンドン警視庁麻薬取締独立捜査班-」はまだ未読です。 ◇2022年12月前半の読書と感想、書評(レンブラントをとり返せ) 内容的にはそれぞれ独自の展開なので、前作を読まないとまったく意味不明というわけではありませんが、物語の登場人物が連続しているので、順番に読んでいくのが正解です。しかし今回は2作目は飛ばして3作目を先に読むことになりました。 第1作目以来ずっと刑事の主人公を悩ます悪人は今回は脇役で、本作では麻薬の大物ディーラーと、主人公の刑事と同期で華々しい実績を上げている裏で私腹を肥やしている腐敗警官の二人との戦いがメインとなります。 主人公は日本では滅多に見られないおとり捜査を専門とする部署で、麻薬王を捕まえ、また腐敗警官の所業の証拠をつかみ二人とも裁判にかけられます。 しかし裁判では悪役に味方し、証拠をねつ造することもいとわない辣腕弁護士が今回も登場し、裁判所での法廷ドラマが物語の半分を占めます。 著者の小説の多くは、ミステリー的な要素はなく、善悪をハッキリと分けた上で、頭脳戦や偶然の運・不運により裁判の結果が二転三転して読者をドキドキさせるというスタイルを取っています。 そういう意味では、最後は黄門様が登場して解決する勧善懲悪ドラマと同じで、安心して読めますが、ちょっとその展開にも飽きてきたのが実感です。 そして一番の悪人は逃げ切って、次回作以降にも主人公を悩ますことになりそうです。引き続きこのシリーズを読むかどうかはちょっと微妙です。 ★★☆ ◇著者別読書感想(ジェフリー・アーチャー) |
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ふなうた 短篇集モザイクII(新潮文庫) 三浦哲郎 過去に掲載された短篇作品をまとめて1991年に「みちずれ短篇モザイク集I」が出版され、それから3年後の1994年に単行本、1998年に文庫化されたのがこのモザイク集第2弾の本作品集です。 著者は元々短編小説やエッセイの名手ですが、文庫ベースで、1篇あたり10数ページという短篇の中でも短い作品の中で、それぞれが起承転結、ひとつの物語が情緒豊かに成り立っていることに驚きます。 最近の小説家には短篇が得意な人でも連作短篇という形式が多く、その場合は前に出てきた登場人物の性格や説明を省け、一種中編や長編小説的に物語が展開できます。 しかしこのモザイク集のように、ひとつひとつがまったく違った形状の物語をしっかりと読ませるテクニックは見事としか言いようがありません。短篇集なのに、なにか違った長編作品を一気に数本読んだような気分にさせられます。 収録されているのは、「ふなうた」、「こえ」「あわたけ」「たきび」「でんせつ」「やぶいり」「よなき」「さくらがい」「てざわり」「かえりのげた」「ブレックファ-スト」「はな・三しゅ」「ひばしら」「いれば」「ぜにまくら」「かお」「メダカ」「みのむし」の18篇で、初出はそれぞれ違いますが、文芸雑誌などに1991年(平成3年)から1994年(平成6年)に掲載された作品です。 あまりにも簡単にサクッと読めてしまうだけに、しっかりと余韻に浸る間もなく次の作品へと移ってしまい、もったいないですが、さらにまた次を読みたくなってきます。 ★★★ ◇著者別読書感想(三浦哲郎) |
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大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実(光文社新書) 仲村和代/藤田さつき 自他とも認めている巨大新聞社所属のエリートビジネスウーマンの二人が、SDGsをテーマに新聞記事を書いている中で、特に現状では日本のあまり知られていない不都合な真実にスポットをあて、やや上から目線で問題提起とその解決策を模索した内容となっています。 私自身、親の時代からずっと朝日新聞を購読して(学生時代に数年間他紙へ浮気したことはある)いますので、どちらかと言えば朝日新聞ファンでもありますが、どんな組織にも変テコなのが必ず混ざってきて、それが時に問題を起こしたりするので、敵も多いのが大手メディアの宿命でしょう。 先日読んだ、「朝日新聞の黙示録 歴史的大赤字の内幕(宝島社新書)」でも、散々な書き方がされていました。 それはさておき、本著ではアパレル業界と食品業界、特にコンビニなどの大量廃棄問題に注力した取材が行われています。 アパレルにしても食料品にしても割と国民はみな薄々とは知っていながらも、便利で安ければいいやとばかりに目をつぶってしまっているパターンではないかと思います。 私自身を振り返っても、衣料品を買ったりもらったりしても気に入らなければ簡単にゴミとして捨ててしまいますし、スーパーやコンビニで飲食品を購入するときには少しでも賞味期限の長いものを奥のほうから取り出します。 それらの陰で、本来は再利用できる衣料品や、賞味期限切れが近づいて捨てられる食料品が大量にあり、そうなってしまう仕組みの解説と、それに一石を投じる新しい仕組みや考え方が紹介されています。 ただ、高額所得のエリート社員とは違い、どうしてもお金のやりくりに苦心しながら日々の生活に汲々している庶民にとっては、安い衣料品がどこで誰の犠牲によって作られているとか、縁起物の恵方巻きや豪華なおせち料理が売れ残れば大量に廃棄されていることなどに関心がないのは当たり前のことで、それらは販売側や製造側の問題でしかありません。 高くて良いものより、安くて良いものを買うのは当たり前の心理で、賞味期限の近い食料品に関してはいくら勧められても余計なものまで買おうと思いません。 一般の人に訴求できるとしたら、値段が安くても海外製の安いEVに飛びつかず、高くても信頼が置ける国内メーカーのクルマを買ったり、安い外国製のタオルではなく、肌触りが良い国内生産のタオルが贈答用で大ヒットしたりする国内(生産)ブランド信仰をもっと浸透、普及させていくことで、食品も新鮮な地産地消が進められていくのではないでしょうか? 本文中に、衣料品が海外生産され「顔の見えない製造者」という言葉がよく出てきますが、元々消費する製品で製造者の顔が見えるものなど都会にあるはずもなく、なにか自分の言葉に酔っている?という感想も持ちました。すぐ手元にある赤鉛筆やボールペン、はさみ、パソコンなどの製造者の顔が見えますか? 本書の中には「広島のパン屋さんが、北海道の有機栽培の小麦農家から直接購入した小麦でパンを作って成功した」云々が書かれていましたが、その小口の小麦を遠く北海道から広島まで輸送する手間とエネルギー消費は相当なもので、「パンを破棄しないからそれですべてよし」というのはどうなのかなと思ってしまいました。 SDGsを言うなら、広島から世界へ輸出されている自動車の運搬船に、帰りの便ではそれぞれの地域の特産品をどっさり積み込み、広島やその周辺でそれらを使った料理や食品を作っているというのならわかりやすかったでしょう。 ★☆☆ |
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硝子の葦(新潮文庫) 桜木紫乃 2010年に単行本、2014年に文庫化された長編小説で、2013年に直木賞を受賞した「ホテルローヤル」のホテルが主な舞台となっている完全に別作品です。 主人公は、「ホテルローヤル」の経営者と結婚した女性で、その女性の母親と経営者は愛人関係にあり、また主人公はホテルの会計業務を請け負っている会計事務所の所長とずっと関係を持っているというややこしい関係があります。 言うまでもなく、著者の実家は釧路にあった「ホテルローヤル」に隣接する家で、ホテルの経営者の娘として生まれ育っていて、そうしたよく知っているラブホテルの経営などをモチーフとして使っているだけで、自伝的小説というわけではありません。 ジャンルとしてはミステリー小説と言えるもので、プロローグで主人公の女性が、厚岸(あっけし)の実家に自ら火を付け自殺したところから始まり、その主人公女性の周囲にいる様々な人とともに、なぜ女性がいきなり焼身自殺をしなければならなかったのか?どういう意味があったのか?などがクライマックスに向かって一気に露わになっていきます。 タイトルは、主人公女性が結婚後に通っていた短歌会で学んで創作した短歌をまとめ、自費出版で歌集を出すことになり、その自作の短歌に使われていたのが硝子の葦で、夫の意見でその言葉を歌集のタイトルにしたことから来ています。 同時期に読んだ辻村深月著「鍵のない夢を見る」の一部がそうでしたが、女性の暗くずる賢い計画的な犯罪が描かれていてゾッとしました。あまり現実的ではありませんが、あわれな周囲の男たちは、物語の中では単に刺身のツマに過ぎません。 ★★☆ ◇著者別読書感想(桜木紫乃) |
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四つの署名(角川文庫) コナン・ドイル 「シャーロック・ホームズシリーズ」の推理小説で有名な著者の作品ですが、このシリーズ全60作品の中で長編作品は、最初の「緋色の研究(A Study in Scarlet) 1887年」などわずか4作品しかなく、あとはすべて短篇というのはあまり知られていません。 ◇2013年9月前半の読書と感想、書評(緋色の研究) 今回の「四つの署名(The Sign of Four)」は、長編として上記「緋色の研究」に続く2作目で、初出は1890年頃と言われています。また日本語翻訳版では複数の出版社から出版されていてそのいずれもタイトルが少しずつ違っています。 ストーリーは、暇を持て余してコカインなどを吸引してぶらぶらしていたホームズの元へ、若い女性が「軍人でインドに駐在していた父親が所用で英国に帰ってきたらそのまま行方不明になったので探して欲しい」と相談を受けます。 しかも行方不明になって以降、不思議なことが次々と依頼人の身の回りで起き、「それらについて説明をするから来て欲しい」と、謎の相手から手紙が送られてきます。 そこで、ホームズと助手のワトソンが女性の付き添いとして出掛けていきますが、その先では不思議な殺人が起きているというストーリーです。 長編と言っても文庫本でわずか216ページという短さなのであっという間に事件は解決してしまいますが、1880年当時の東インド会社やセポイの反乱など、英国がインドなどを実効支配していた頃の話なども出てきて、歴史のお勉強にもなりそうです。 ★★☆ |
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牛の首 厳選恐怖小説集(角川ホラー文庫) 小松左京 サブタイトルに「厳選恐怖小説集」と銘打ってありますが、思ったほど怖くはないです。というのも、著者お得意の科学的なSFと、その対極にありそうな古典的な妖怪など怪談とのミックスですので、意外性はあるものの、あまり身近でベタな恐怖ではないだけに怖さを感じません。 短篇とそれより短いショートショートが計15編で構成されていて、それぞれのタイトルは 「ツウ・ペア」「安置所の碁打ち」「十一人」「怨霊の国」「飢えた宇宙」「白い部屋」「猫の首」「黒いクレジット・カード」「空飛ぶ窓」「牛の首」「ハイネックの女」「夢からの脱走」「沼」「葎生の宿」「生きている穴」です。 各作品の初出は、1964年(昭和39年)から、一番新しいものでも1978年(昭和53年)で、小説雑誌やスポーツ新聞などに掲載されていたものです。本著文庫本は2022年に発刊されています。 印象に残った作品として「飢えた宇宙」と「夢からの脱走」の2作を挙げておきます。 「飢えた宇宙」は太陽系を超え、あと10年はかかるアルファ・ケンタウリを目指している宇宙船の中で搭乗員がひとりずつ消えていなくなる事件が発生します。また積み込まれていたはずの食糧がほとんどないことも発覚し、残った搭乗員はこのままでは餓死すると絶望感に陥ります。 食糧がほとんど積み込まれなかったのは。実は人間だと寿命があり、さらに大量の食糧を積み込む必要があるので、それを一気に解決する策として、少しの血漿さえあれば不老不死のドラキュラを眠らせて密かに乗せておき、目覚めてからは搭乗員の血を吸って、、、 「夢からの脱走」は、2つのパラレルワールドを行ったり来たりする男の物語で、平和な世界で妻と子供がいるサラリーマンが、あるとき、最初は夢の中と思っていた現代の戦争に巻き込まれていて、戦闘員として戦っている自分が交互に現れてきます。それを夢と思っていたら、、、 と、まぁ、ユニークな発想が素晴らしいというか、今から50~60年ほど前に書かれた作品ですけど、十分に楽しめます。 ★★☆ ◇著者別読書感想(小松左京) |
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残酷な進化論 なぜ「私たち」は「不完全」なのか(NHK出版新書) 更科功 著者は分子古生物学者の大学講師で、他にも多くの著書があります。時にはこうした専門雑学というか知的好奇心を満たす書物も読んで刺激を与えておかないと脳が怠けてしまいそうです。本著は2019年に発刊された新書です。 個人的にはあまり関心がない「進化論」や「人類史」「人体」の話ですが、常識と思っていたようなことが次々と覆される快感は捨てがたいです。 例えば、人の眼は生物の中ではもっとも進んだ視覚装置と思っている人が多いと思いますが、人が「鳥目」と夜盲症を揶揄しますが、実は鳥の中でも鷹や鷲の目は人間のそれよりも優れているとか、チンパンジーの手よりも人間の手の方が原始的で進化していない形状だったりします。 結果的にはそれが小さな物をつかむときなどでは有利で道具をうまく使いこなせたわけですが、比較的安全な森の中の木の上で生活するために類人猿の手からチンパンジーの手は進化してきたようです。 話は生物の進化だけではなく、原始的な細菌の話や、心臓や肺の進化の様子など面白く読めます。 数万年後には、どんな進化した生物(人間とは限らない)が地球上で繁栄しているのかをぼんやりと考え、創造力たくましくなります。 ★★☆ |
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盤上の夜(創元SF文庫) 宮内悠介 著者の小説は初めて読みましたが、SF小説を得意とする1979年生まれの著者が、2010年から2012年にかけて書いた短篇作品をまとめた単行本が2012年に発刊され文壇デビューとなりました。 そして今回読んだ実質デビュー作が、直木賞候補(落選、その時受賞したのは辻村深月著『鍵のない夢を見る』)になり、日本SF大賞を受賞しました。 収録されている短篇のタイトルは、「盤上の夜」「人間の王」「清められた卓」「象を飛ばした王子」「千年の虚空」「原爆の局」の6篇で、最初の「盤上の夜」と最後の「原爆の局」の2作は連作で囲碁がテーマ、「人間の王」はチェッカー、「清められた卓」は麻雀、「象を飛ばした王子」は古代インド発祥で将棋やチェスの起源と言われているチャトランガ、「千年の虚空」は将棋をそれぞれテーマとしています。 盤上ゲームをテーマにした作品は数多くありますが、それは将棋なら将棋、麻雀なら麻雀だけで、この短篇集のように、時代や場所がそれぞれ違う中で、扱うテーマも違っているというのは珍しいです。 しかしなぜか盤上ゲームの中でも世界の競技人口が多いトップ3のトランプやチェス、オセロがこの中には入っていません。ま、どのゲームを入れるかは著者の自由ですけど。 個人的にはギャンブル性のあるゲームは苦手で、遊ぶことはあっても強くはないので、あまり詳しくもなければ興味もありません。 それだけになにか読んでいても、ゲーム独自の専門用語などがビシビシと出てきて、それらは意味不明で、読み飛ばすしかありません。なにか「わかるヤツだけわかればいいのさ」というような身勝手さが感じられます。 こうした盤上ゲームは元々が賭け事から発展していることから仕方がないですが、内容的にはアングラ的というか暗いものが多く、登場人物が熱くなっていくのと反比例して、読者(私個人のこと)は冷めていくような感じでした。 でもいろいろと知らなかった知識や雑学が得られたのは良かったです。 ★★☆ |
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火の壁(文春文庫) 伊野上裕伸 本書は1996年にサントリーミステリー大賞を受賞し、単行本が発行され、1999年に文庫化されています。 本書の主人公は損保会社と契約し、保険支払に関わる事故などの調査を請け負っている会社の調査員で、主に火災事故で火災保険の支払のための調査をおこなっています。 私も自宅には火災保険をかけていますが、保険金の支払い額を抑えるため、例え全焼して保険金が満額が支払われたとしても、自宅の再建や使い慣れた家具や電気製品などを揃えるには十分な水準ではなく、元の生活には戻れそうもないかなと思われる程度の契約で、今後見直しも必要かなと考えているところです。また地震保険も付けたいところですが悩ましいところです。 小説では、連続して自宅や店舗が不審火や失火で火災保険が支払われている曰く付きの男性について、新たな火災が起きたため、さすがにこれは疑わしいと損保会社から依頼をされ調査を始めたのが主人公の調査員です。 以前読んだ重松清著「疾走」でも放火がテーマで、重苦しいテーマでしたが、放火のテクニカルな話とともに、放火を起こす犯人の複雑な精神状態など、単なる保険金目当てだけではない様々な事情や人間関係が絡んできます。 しかし火災の原因や、失火に誰が関わったかなど、警察ではない調査員が調べていくというのは、一種の探偵と同じで、個人情報やプライバシーなど様々な制限があり困難を極めます。 そうした困難をひとつひとつクリアしていき、その中からおおよその絵を描いて、あとは保険会社とその弁護士へ引き渡していくという流れで、一般的な探偵小説のようにすべて一人で解決していくというものではありません。 推理小説としては、人間関係にやや無理がなくはありませんが、総じて知らない世界を見せてもらって面白かったというのが感想です。 ★★☆ |
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追想の探偵(双葉文庫) 月村了衛 探偵というタイトルから「人捜しでもするのだろう」ぐらいに思って、特にあらすじとかは知らずに読み始めました。 そうすると人捜しには違いないものの、主人公が出版社で怪獣や変身もの、戦隊ものなど、特撮ドラマや映画の専門雑誌の編集長で、当時の関係者のインタビュー記事を掲載するために古い作品の監督など関係者を探していくという物語です。 特撮ものというと、1950年代から1960年代にかけて、テレビでは月光仮面や、少年ジェット、ウルトラQ、マグマ大使などがヒットし、その後はウルトラマンシリーズや仮面ライダーシリーズ、映画ではゴジラシリーズなどへと広がっていきます。 1957年生まれの私がリアルタイムで見ていた特撮もののテレビ番組は、カネゴンやガラモンが登場していたウルトラQ以降です。 2000年頃からはそれまでのミニチュア模型やコマ送り合成などを使ったSFX(特撮)から、コンピュータグラフィックスを使ったVFXへと変わってきます。 ゴジラシリーズで言うと2004年公開の「ゴジラ FINAL WARS」まではミニチュアや着ぐるみで製作されましたが、実質その次の作品となる2016年公開の「シン・ゴジラ」からはVFXで製作されています。 したがって従来の特撮の専門家というと、主に1960年代~1990年代までに活躍した人たちということになり、その時代に活躍していた人はすでに亡くなっているか、かなり高齢ということになりますので、人捜しはたいへんです。 短篇は6編あり、それぞれに当時の特撮に関係していた人を探していきますが、今でも当時の特撮マニアが相当数いるというのには驚きます(知りませんでした)。 なお、この小説の主人公のモデルは実在していて、解説に書かれていましたが洋泉社がかつて発行していた「特撮秘宝」の編集者だった方です。単なる創造世界の中だけでなく、実際にこのような特撮のマニアックな世界があったこと自体驚きでした。 ★★☆ ◇著者別読書感想(月村了衛) |
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70歳の正解(幻冬舎新書) 和田秀樹 私と年齢が近く、したがって日々感じていることや、それぞれの年代によって必要とされるものなど、考え方に近いものがあって話はスッとはいってきます。ということはおそらく20代や30代の人がこの本を読んでも、あまりにも置かれた環境や精神的・肉体的条件が違いすぎてピンとこないでしょう。 まず最初に本を開いてみると、文字が大きく老眼の入った高齢者にも読みやすくなっています。普段細かな文字の文庫ばかりを苦労して読んでいるので、極めて楽に読めます。 内容は、平均余命まで生きるとして60代だとまだ20年以上余命があり、そのラスト20年に心身ともに健康でいられるように医者としてなにをしたら良いかという話がメインです。 そうした高齢者の健康指南本は星の数ほどあるので、その中に埋もれてしまいそうな気もします。内容的にも、他の指南書とそう変わらないかなと思います。 その中には、タバコの害と禁煙は当然書かれていますが、「最近の研究では、ニコチンはアルツハイマー型認知症を防ぐ効果がある」というアップデートされた意外な記載があり、過去に書いた著書の使い回しではないことは言えそうです。 ★★☆ ◇著者別読書感想(和田秀樹) |
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囚われの山(中公文庫) 伊東潤 本著は、1902年(明治35年)に青森で起きた八甲田山雪中行軍遭難事件をモチーフにした現代が舞台の小説ですが、この冬山での遭難事故として世界の中でも最多の犠牲者を出した事件については、戦史家、歴史家、学者、ジャーナリストなど多くの人が検証や研究発表、執筆を行っていて、もはや新しい謎やネタで書くのは難しいだろうと思っていました。 個人的には若い頃に高倉健主演の映画「八甲田山」をロードショーで見て、そのずっと後に映画の原作となった新田次郎著「八甲田山死の彷徨」を読んでいます。さらに東北へ旅行したときには、本著にも出てくる八甲田山雪中行軍遭難資料館を見学し、隣の幸畑墓苑にお参りしてきました。 小説のストーリーは、出版社に勤務する中年男性が、歴史物雑誌の特集記事で八甲田山事件を取り上げる提案をしてその企画の責任者となります。 その主人公は元々は夕刊紙の記者でしたが、雑誌の編集長だった先輩に誘われて今の部署に来ています。しかしその先輩が雑誌の販売不振で退職したあと、後任にファッション雑誌の副編集長だった女性が上司としてやってきたのが不満です。さらにプライベートでも妻との関係もうまくいかずに別居状態です。 八甲田山事件の謎として、下級兵士の服装が冬山には不向きと言える軽装備だったことから、これは軍部が満州でソ連と戦う前に冬の装備の優劣や、兵士が寒冷地で凍傷に罹った場合の対応など人体実験として計画されたものではないか?というテーマと、もう一つ、当初の新聞では現地での凍死者数200名というのが、後から軍の発表では199名となっていたことに疑問を持ち、除外された1名の謎を追いかけます。 多少は八甲田事件のことを知っていたことや、夏場ですが行軍隊が迷走した馬立場から鳴沢あたりの地形を実際に俯瞰して見ているので、迷走した歩兵第5連隊の行動履歴がよく理解できました。本書の最初には、地形図と露営地の場所などが書かれた地図もついているのが親切です。 最後の命をかけたクライマックスのシーンはそれまでの緻密な設定から急に大雑把な感じへと変わってしまい、やや不満が残るところですが、なりゆきからどこかで雪山で無念の死を迎えた兵士の亡霊でも出てくるかなと思っていたら案の定でした。 それはともかく、ずっと興味を持っていたテーマでもあり、とても面白かったです。 ★★☆ |
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護られなかった者たちへ(宝島社文庫) 中山七里 この作品も2021年に瀬々敬久監督、佐藤健、阿部寛、清原果耶などの出演で映画が製作されていますが、ちょうどコロナ禍の真っ最中で気の毒なタイミングでした。 デビュー作は、「このミステリーがすごい!」で大賞を受賞した「さよならドビュッシー」(2010年刊)で、その後「岬洋介シリーズ」「御子柴礼司シリーズ」など多くのシリーズ物や単作のミステリーが出版されています。書店巡りが趣味だった私のレーダーに今までどうして引っかからなかったのかは謎です。 本著は2016~2017年に新聞で連載され、2018年に単行本、2021年に文庫化されています。 主人公は、傷害と放火事件を起こし逮捕され、8年ぶりに刑務所を出所してきた男性と、連続殺人事件を追いかける刑事のふたりで、物語の舞台は震災から9年ほどが経った仙台です。 本著では、生活保護の問題や、刑務所を出所した前科者が就職する難しさ、東日本大震災後に東北で起きたことなどが網羅的に出てきますので、リアルな社会を知る意味からも価値がありそうです。 特に生活保護の問題では、2006年に北九州市で起きた門司餓死事件の話も出てきますが、生活保護受給希望者の増大から政府や厚労省、自治体上層部の指示で、生活保護の申請を受け付ける窓口でできるだけはねつける水際作戦が行われていて、働くことが出来ず、食べることすらままならない人たちの姿が出てきます。 一方では、働けるのに働かない、収入があるのに申告しないなどの不正も起きていて、数少ない役所の担当者だけでは増大する申請者に丁寧な対応が難しいという実情も描かれています。 ミステリーとしては、早々に犯人が容易に想像できて上質とは思えませんが、普段はあまり馴染みがない社会の問題点を知り、考えることの大切さを知ることが出来ます。 あと、登場する警察側も、二人の刑事だけが取り上げられますが、実際は組織の中で上層部の駒としてしか動けない実際の刑事とは大きく違い、自分の判断と推理で自由に行動範囲を広げながら動き回っているのは、小説とは言えやや不満な点です。そんな優秀で自由に動き回れる刑事など今は小説の中だけでしょう(あ、小説ですね)。 ★★☆ |
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日本史の内幕 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで(中公新書) 磯田道史 テレビですっかり有名人となり、今や歴史物では欠かせない若手研究者ですが、弁舌の爽やかさと良い、和洋問わず歴史の知識の豊富さで視聴者や読者を魅了し続けています。さらに武術と軍事経験がもしあれば(なさそうですが)、漫画「マスターキートン」の主人公を地でいく人です。 この新書では、教科書には出てこないような、もっとローカルで、些細な出来事などを発掘した古文書を解読し、雑誌や新聞のコラムで披露されたものがまとめられています。 古文書という以外、特に時代やテーマがあるわけではなく、寺社に保存されていた古文書を見せてもらってわかったことや、古書店で見つけた古文書を解読してみると新たな発見があったとかが綴られています。 一例では、徳川家康が武田信玄にコテンパンにやられた三方ヶ原の戦いについて書かれた古文書や、大坂夏の陣で破れた真田幸村の首実検で家康がかけた言葉とか、家康の最初の正室築山殿の謎、新たに見つかった坂本龍馬や西郷隆盛の書状、安政地震の際の江戸商人の日記など、多岐にわたります。 一種の雑学になりますが、教科書や歴史書、小説などでお馴染みの武将や偉人が実はこういう繊細な人だったとか、あの行動はこういう意味もあったのかなど、楽しく読めます。 ★★★ |
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新章 神様のカルテ(小学館文庫) 夏川草介 その影響もあり、旅行で長野県へ行ったときには、わざわざ小説の舞台となった松本市にある相澤病院(小説の中では本庄病院)へ寄ってきました。相澤病院と言えば2022年に現役を引退されましたが、冬季五輪スピードスケートの金メダリスト小平奈緒さんが所属していることでも有名な病院です。 本来なら「神様のカルテ3」の次は2015年刊の「神様のカルテ0」を読むところですが、それは飛ばして2019年刊(文庫は2020年刊)この作品を読みました。 「神様のカルテ0」はそのタイトルからして最初の「神様のカルテ」の前の医学生の頃の話だと思われるのでそのうち機会があればということで。 新章と銘打ってあり、何事か?と思いましたが、勤務医として24時間365日対応の本庄病院で働いていた主人公が、さらに医療知識を身につけるべく大学病院の大学院生として働きつつ学んでいくという、自己研鑽物語です。でも安心できるのは「引きの栗原」は大学病院でも健在です。 大学病院と地域医療病院、そして開業医などのあまり知られていない医療業界の仕組みは新鮮ですが、学生の身分でわずかな報酬で寝る間も惜しみ研究の実験をしてレポートを書きつつ、大学病院の外来で若い医者の指導医をしながら、土曜日にはアルバイトで長野県内の病院をドサ回りしているという姿には頭が下がる思いがします。 今回は、主人公の妻、榛名姫は子育てで忙しく?登場場面が少なくてちょっと残念です。 そして次は新型コロナウイルスでパニックになった大学病院の様子などの話も書いてもらいたいものです。 ★★☆ ◇著者別読書感想(夏川草介) |
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ベロニカは死ぬことにした(角川文庫) パウロ・コエーリョ 小説の舞台は著者の母国ブラジルではなく、中欧にあり民族間の内戦や占領時代があり、1991年にユーゴスラビアから独立を果たしたスロバキアという国です。本著でも出てきますが「スロバキアがどこにあるか知っている人は少ない」でしょう。私も知りませんでした。 この作品を原作として2006年に日本で、2009年にアメリカで映画化がされています。真木よう子が主演した日本の映画では舞台が日本に、アメリカ映画ではニューヨークに変更されているそうです。 小説の冒頭で、タイトル通りベロニカという主人公が計画的に準備してきた睡眠薬を大量に飲み自殺を図ります。自殺の理由は特になく、ただ漠然とした人生を終わらせたいというものです。 そして目が覚めた時には手足を固定されて精神病院に入院していました。 主人公は、眠りから目が覚めたあとに、睡眠薬自殺は発見が早く救われたが、心臓にダメージがあり、あと数日しか生きられないだろうと余命宣告されます。 そこから物語は佳境に入っていきますが、ベロニカ自身の物語と言うよりは、同じ精神病院に入院している女性や男性、そしてその病院で新しい治療を研究している院長など、主人公が関わっていく人たちから影響を受けながら生きるという意味を考えるようになっていく物語です。 ただ、あまりにも非日常的な話ばかりで、世界120カ国でヒットした作品という触れ込みながら、やや退屈して読みました。 以前読んだ作品とはまったく内容もプロットも違っていて、守備範囲がかなり広い作家さんなんだなぁという感想です。 ★☆☆ ◇著者別読書感想(パウロ・コエーリョ) |
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おとなの教養3 私たちは、どんな未来を生きるのか?(NHK出版新書) 池上彰 過去にこのシリーズの(1)と(2)を読んでいて、とても良かったので2021年に出版されたシリーズ3作目となる本著を読みました。 1作目は時代が動いても変わらない普遍的教養(リベラル・アーツ)について、2作目が歴史や政治学、宗教、経済学を基礎に日頃のニュースを捉え直して考える力を、そしてこの3作目では不確実な未来を予測し備えるために、過去の経験や失敗から学ぶという内容です。 今回の具体的なテーマは、未来に備える上で重要な要素、つまり気候変動、未知のウイルス、データ経済とDX、米中新冷戦、人種・LGBT差別、ポスト資本主義となっています。 本著は2021年4月に発刊されましたので、新型コロナウイルスに翻弄された世界は含まれていますが、2022年2月から始まったロシアのウクライナ侵攻による世界中の混乱や、2023年10月に始まったイスラエルとパレスチナのハマスとの戦争については当然含まれません。もし次の4作目が出ればきっとその2つの戦争について、歴史の必然性が解説されるのでしょう。 ビジネスマンや職員として毎日開かれた社会と触れていると、ある程度のニュースや、国際情勢、経済活動、IT知識などは自然と会議や同僚との会話の中に出てきて、そうした知識は上書きされていきますが、いったんリタイアしてしまい、社会とのつながりが希薄になると、端から端まで熱心に新聞を読み込む人はともかく、うわべだけのニュースや情報番組ばかりで、教養という点ではどんどん後れを取ってしまいます。 そうした社会と隔絶された状態のリタイア後の高齢者にはこうした解説本はたいへんありがたいし、高齢者以外でも、受験生や就活生も確実に時事問題や面接で強くなりそうです。 著者はテレビにもよく出演し、時事問題の解説をしていますが、概ねはバラエティ番組の中で、一時的に面白おかしく楽しむことはできても、それを自分でじっくり考えてどのように発展させていくかということについては、やはり書籍に勝るものはありません。そういう意味でこのシリーズは役立つのでお勧めです。 ★★★ ◇著者別読書感想(池上彰) |
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蓮如-われ深き淵より-(中公文庫) 五木寛之 日本の仏教の布教で欠かせない平安時代末期から鎌倉時代初期に活躍した浄土宗の法然とその弟子で新たな宗派浄土真宗を作った鎌倉時代前半から中期にかけて活躍した親鸞が有名です。 そしてその親鸞の時代から200年後に親鸞聖人の教えと浄土真宗の総本山本願寺を継いで8代目の法主になったのがこの本の主人公で室町時代に生きた蓮如(1415年~1499年)です。 著者には親鸞をテーマにした小説があり、その続編とも言えるものですが、今回の作品は小説という形ではなく戯曲、つまり劇のシナリオのような形態となっています。 ◇2014年5月前半の読書と感想、書評(親鸞) ◇2014年12月前半の読書と感想、書評(親鸞 激動篇) ◇2023年1月後半の読書と感想、書評(親鸞 完結篇) 小説ばかり読んでいるので、この戯曲スタイルにしばらくは違和感がありますが、慣れてくると、誰の発言か、どのようなバックグラウンドかなどがよくわかり、これもアリだと納得です。 最近の小説、特にミステリーなどは、犯人捜しを難しくするためかやたらと登場人物が必要以上に多い上に、その親族や関係者が次々と出てきて、誰が誰だかわからなくなったり、誰の発言なのか不明だったりしますが、シナリオならそうした煩わしさから解放されます。 法然や親鸞は比較的学校でも習っていて知っていますが、蓮如に関してはあまり一般的ではありません。法然や親鸞のように始祖や開祖ではなく、中興の祖という位置づけなので、仕方がないのかも知れません。 こうして読みやすい小説(戯曲)にしてもらえると、肩肘張ることはなく、自然体でスッと入ってくるので楽しく読めました。それにしても蓮如上人絶倫極まりなし(5人の妻と27人の子)です。 ★★☆ ◇著者別読書感想(五木寛之) |
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雪の階(上)(下)(中公文庫) 奥泉光 2018年に単行本、2020年に文庫化された長編小説で、2018年に毎日出版文化賞と柴田錬三郎賞受賞を受賞しています。 小説の舞台は太平洋戦争前の軍部が勢力を増してきていた日本です。そして主人公は父親が貴族院の議員を務める伯爵の娘で女子学習院へ通うお嬢様です。 当時の政治は欧州を席巻しつつあった勢いのあるドイツと同盟を結ぶべきだという強硬派と、英米とは経済格差があり敵に回すべきではないという穏健派で二分していましたが、すでに中国へ進出していた軍部の実権が強まってきます。 一見すると、そうした戦争前の暗くて貧しいイメージがありますが、華族の世界はまだ華やかで、戦争という悲壮感はまったくありません。 そういえば、こうした戦前の華族の世界を舞台としていた小説では、柳広司氏の小説や、北村薫氏の小説などにもありましたが、農民に代表される一般庶民の自由がなく耐乏の生活ではなく煌びやかな世界です。 その侯爵の娘の友人が富士山山麓の青木ヶ原で若い軍人と心中しているのが発見されます。 しかしその相手や、亡くなる直前に主人公宛に出されたはがきなどから、これは心中に偽装された殺人ではないかと疑い、子供の頃の遊び相手でカメラマンとして活躍している女性に相談しながら真相を突き止めようとします。 宗教や政治、そして軍部と、様々な要素が絡み合って複雑な様相を呈してきますが、序盤の緻密で繊細な展開から、中盤から後半のやや大雑把に思える展開へ変わっていくのがやや気になるところですが、クライマックスを別の目的を持って計画されていたとする2.26事件へと持っていくところはさすがです。 ★★☆ ◇著者別読書感想(奥泉光) |
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ディプロトドンティア・マクロプス(講談社文庫) 我孫子武丸 1997年に単行本、2000年に文庫化されている「京都探偵シリーズ」と呼ばれている小説です。タイトルはなにか意味があるのか不明ですが、著者が作った造語のようです。 個人的には、子供の頃に親しんだシャーロック・ホームズや明智小五郎以来、フィリップ・マーロウや、サム・スペード、スペンサー、マット・スカダー、沢崎、工藤俊作、神山健介、佐久間公など探偵小説(シリーズ)が好きで、書店やブックオフで探偵もの小説を見つけると買わずにいられません。 著者のあとがきに書かれていましたが、この小説の原案は学生時代に書いたものということです。 つまり物語の時代は80年代前半ぐらいで、したがって現代のようにパソコンやスマホ、防犯カメラなどは出てこず、せいぜい押し売りにやってきた怪しい日本探偵互助協会の営業マンが持参してきたビデオカメラやテープレコーダーなどのひみつ探偵セットぐらいです。 堅物で有名な京大医学部の教授が失踪し、家族から探して欲しいと頼まれ、ハードボイルドタッチのシリアスものかと思っていたら、コミカルさ全開でした。 誘拐された教授の研究が、ウイルスの危険性を消して代わりに新陳代謝を促す遺伝子を動物に感染させることで、短期間で巨大化できるというもので、そのウイルスを巡って動物園のカンガルーや探偵自身が巨大化してしまうというとんでもない展開で、コミック的です。 本来のウイルスの害を消して代わりのものを動物に感染させる仕組みは、新型コロナのワクチンでmRNA(メッセンジャーRNA)で有名になりましたが、著者のアイデアに先見性があったということでしょうか。 京都大学に在学中に原案を考えたということで、事件は京都市内の縦横で発生し、探偵はじめ京都市内を駆け回り、「堀川通りをクルマで走るとがガタガタで悪路」だとか、いかにも京都に詳しい人が書いたと思わせるものでした。しかしナンセンスドラマでは観光案内にはなりません。 ★☆☆ ◇著者別読書感想(我孫子武丸) |
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