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護られなかった者たちへ(宝島社文庫) 中山七里

護られなかった者たちへ
著者の小説を読むのは今回が初めてです。1961年生まれの作家さんで、原作が映画やTVドラマにもなった数多くの小説があり、特にミステリー小説がお得意のようです。

この作品も2021年に瀬々敬久監督、佐藤健、阿部寛、清原果耶などの出演で映画が製作されていますが、ちょうどコロナ禍の真っ最中で気の毒なタイミングでした。

デビュー作は、「このミステリーがすごい!」で大賞を受賞した「さよならドビュッシー」(2010年刊)で、その後「岬洋介シリーズ」「御子柴礼司シリーズ」など多くのシリーズ物や単作のミステリーが出版されています。書店巡りが趣味だった私のレーダーに今までどうして引っかからなかったのかは謎です。

本著は2016~2017年に新聞で連載され、2018年に単行本、2021年に文庫化されています。

主人公は、傷害と放火事件を起こし逮捕され、8年ぶりに刑務所を出所してきた男性と、連続殺人事件を追いかける刑事のふたりで、物語の舞台は震災から9年ほどが経った仙台です。

本著では、生活保護の問題や、刑務所を出所した前科者が就職する難しさ、東日本大震災後に東北で起きたことなどが網羅的に出てきますので、リアルな社会を知る意味からも価値がありそうです。

特に生活保護の問題では、2006年に北九州市で起きた門司餓死事件の話も出てきますが、生活保護受給希望者の増大から政府や厚労省、自治体上層部の指示で、生活保護の申請を受け付ける窓口でできるだけはねつける水際作戦が行われていて、働くことが出来ず、食べることすらままならない人たちの姿が出てきます。

一方では、働けるのに働かない、収入があるのに申告しないなどの不正も起きていて、数少ない役所の担当者だけでは増大する申請者に丁寧な対応が難しいという実情も描かれています。

ミステリーとしては、早々に犯人が容易に想像できて上質とは思えませんが、普段はあまり馴染みがない社会の問題点を知り、考えることの大切さを知ることが出来ます。

あと、登場する警察側も、二人の刑事だけが取り上げられますが、実際は組織の中で上層部の駒としてしか動けない実際の刑事とは大きく違い、自分の判断と推理で自由に行動範囲を広げながら動き回っているのは、小説とは言えやや不満な点です。そんな優秀で自由に動き回れる刑事など今は小説の中だけでしょう(あ、小説ですね)。

★★☆


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日本史の内幕 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで(中公新書) 磯田道史

日本史の内幕
2017年に発刊された新書で、自らが古文書を発掘し、読み込んでわかったことをまとめたものです。

テレビですっかり有名人となり、今や歴史物では欠かせない若手研究者ですが、弁舌の爽やかさと良い、和洋問わず歴史の知識の豊富さで視聴者や読者を魅了し続けています。さらに武術と軍事経験がもしあれば(なさそうですが)、漫画「マスターキートン」の主人公を地でいく人です。

この新書では、教科書には出てこないような、もっとローカルで、些細な出来事などを発掘した古文書を解読し、雑誌や新聞のコラムで披露されたものがまとめられています。

古文書という以外、特に時代やテーマがあるわけではなく、寺社に保存されていた古文書を見せてもらってわかったことや、古書店で見つけた古文書を解読してみると新たな発見があったとかが綴られています。

一例では、徳川家康が武田信玄にコテンパンにやられた三方ヶ原の戦いについて書かれた古文書や、大坂夏の陣で破れた真田幸村の首実検で家康がかけた言葉とか、家康の最初の正室築山殿の謎、新たに見つかった坂本龍馬や西郷隆盛の書状、安政地震の際の江戸商人の日記など、多岐にわたります。

一種の雑学になりますが、教科書や歴史書、小説などでお馴染みの武将や偉人が実はこういう繊細な人だったとか、あの行動はこういう意味もあったのかなど、楽しく読めます。

★★★


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新章 神様のカルテ(小学館文庫) 夏川草介

新章 神様のカルテ
神様のカルテ」(2009年)、「神様のカルテ2」(2010年)、「神様のカルテ3」(2012年)と読んできましたが、いずれもたいへん面白く読みました。

その影響もあり、旅行で長野県へ行ったときには、わざわざ小説の舞台となった松本市にある相澤病院(小説の中では本庄病院)へ寄ってきました。相澤病院と言えば2022年に現役を引退されましたが、冬季五輪スピードスケートの金メダリスト小平奈緒さんが所属していることでも有名な病院です。

本来なら「神様のカルテ3」の次は2015年刊の「神様のカルテ0」を読むところですが、それは飛ばして2019年刊(文庫は2020年刊)この作品を読みました。

「神様のカルテ0」はそのタイトルからして最初の「神様のカルテ」の前の医学生の頃の話だと思われるのでそのうち機会があればということで。

新章と銘打ってあり、何事か?と思いましたが、勤務医として24時間365日対応の本庄病院で働いていた主人公が、さらに医療知識を身につけるべく大学病院の大学院生として働きつつ学んでいくという、自己研鑽物語です。でも安心できるのは「引きの栗原」は大学病院でも健在です。

大学病院と地域医療病院、そして開業医などのあまり知られていない医療業界の仕組みは新鮮ですが、学生の身分でわずかな報酬で寝る間も惜しみ研究の実験をしてレポートを書きつつ、大学病院の外来で若い医者の指導医をしながら、土曜日にはアルバイトで長野県内の病院をドサ回りしているという姿には頭が下がる思いがします。

今回は、主人公の妻、榛名姫は子育てで忙しく?登場場面が少なくてちょっと残念です。

そして次は新型コロナウイルスでパニックになった大学病院の様子などの話も書いてもらいたいものです。

★★☆

著者別読書感想(夏川草介)


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ベロニカは死ぬことにした(角川文庫) パウロ・コエーリョ

ベロニカは死ぬことにした
著者は1947年ブラジル生まれの作詞家で小説家の作家さんで、現在も活躍中で、過去には「アルケミスト - 夢を旅した少年」と「11分間」の2作品を読んでいます。

小説の舞台は著者の母国ブラジルではなく、中欧にあり民族間の内戦や占領時代があり、1991年にユーゴスラビアから独立を果たしたスロバキアという国です。本著でも出てきますが「スロバキアがどこにあるか知っている人は少ない」でしょう。私も知りませんでした。

この作品を原作として2006年に日本で、2009年にアメリカで映画化がされています。真木よう子が主演した日本の映画では舞台が日本に、アメリカ映画ではニューヨークに変更されているそうです。

小説の冒頭で、タイトル通りベロニカという主人公が計画的に準備してきた睡眠薬を大量に飲み自殺を図ります。自殺の理由は特になく、ただ漠然とした人生を終わらせたいというものです。

そして目が覚めた時には手足を固定されて精神病院に入院していました。

主人公は、眠りから目が覚めたあとに、睡眠薬自殺は発見が早く救われたが、心臓にダメージがあり、あと数日しか生きられないだろうと余命宣告されます。

そこから物語は佳境に入っていきますが、ベロニカ自身の物語と言うよりは、同じ精神病院に入院している女性や男性、そしてその病院で新しい治療を研究している院長など、主人公が関わっていく人たちから影響を受けながら生きるという意味を考えるようになっていく物語です。

ただ、あまりにも非日常的な話ばかりで、世界120カ国でヒットした作品という触れ込みながら、やや退屈して読みました。

以前読んだ作品とはまったく内容もプロットも違っていて、守備範囲がかなり広い作家さんなんだなぁという感想です。

★☆☆

著者別読書感想(パウロ・コエーリョ)

【関連リンク】
 4月後半の読書 おとなの教養3、蓮如 われ深き淵より、雪の階、ディプロトドンティア・マクロプス
 4月前半の読書 無駄だらけの社会保障、あなたが消えた夜に、木漏れ日に泳ぐ魚、ロウソクの科学
 3月後半の読書 ものごとに動じない人の習慣術、アジアンタムブルー、アウトサイダー 陰謀の中の人生、僕の探偵 

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おとなの教養3 私たちは、どんな未来を生きるのか?(NHK出版新書) 池上彰

おとなの教養3過去にこのシリーズの(1)と(2)を読んでいて、とても良かったので2021年に出版されたシリーズ3作目となる本著を読みました。

1作目は時代が動いても変わらない普遍的教養(リベラル・アーツ)について、2作目が歴史や政治学、宗教、経済学を基礎に日頃のニュースを捉え直して考える力を、そしてこの3作目では不確実な未来を予測し備えるために、過去の経験や失敗から学ぶという内容です。

今回の具体的なテーマは、未来に備える上で重要な要素、つまり気候変動、未知のウイルス、データ経済とDX、米中新冷戦、人種・LGBT差別、ポスト資本主義となっています。

本著は2021年4月に発刊されましたので、新型コロナウイルスに翻弄された世界は含まれていますが、2022年2月から始まったロシアのウクライナ侵攻による世界中の混乱や、2023年10月に始まったイスラエルとパレスチナのハマスとの戦争については当然含まれません。もし次の4作目が出ればきっとその2つの戦争について、歴史の必然性が解説されるのでしょう。

ビジネスマンや職員として毎日開かれた社会と触れていると、ある程度のニュースや、国際情勢、経済活動、IT知識などは自然と会議や同僚との会話の中に出てきて、そうした知識は上書きされていきますが、いったんリタイアしてしまい、社会とのつながりが希薄になると、端から端まで熱心に新聞を読み込む人はともかく、うわべだけのニュースや情報番組ばかりで、教養という点ではどんどん後れを取ってしまいます。

そうした社会と隔絶された状態のリタイア後の高齢者にはこうした解説本はたいへんありがたいし、高齢者以外でも、受験生や就活生も確実に時事問題や面接で強くなりそうです。

著者はテレビにもよく出演し、時事問題の解説をしていますが、概ねはバラエティ番組の中で、一時的に面白おかしく楽しむことはできても、それを自分でじっくり考えてどのように発展させていくかということについては、やはり書籍に勝るものはありません。そういう意味でこのシリーズは役立つのでお勧めです。

★★★

著者別読書感想(池上彰)

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蓮如-われ深き淵より-(中公文庫) 五木寛之

蓮如日本の仏教の布教で欠かせない平安時代末期から鎌倉時代初期に活躍した浄土宗の法然とその弟子で新たな宗派浄土真宗を作った鎌倉時代前半から中期にかけて活躍した親鸞が有名です。

そしてその親鸞の時代から200年後に親鸞聖人の教えと浄土真宗の総本山本願寺を継いで8代目の法主になったのがこの本の主人公で室町時代に生きた蓮如(1415年~1499年)です。

著者には親鸞をテーマにした小説があり、その続編とも言えるものですが、今回の作品は小説という形ではなく戯曲、つまり劇のシナリオのような形態となっています。

2014年5月前半の読書と感想、書評(親鸞)

2014年12月前半の読書と感想、書評(親鸞 激動篇)

2023年1月後半の読書と感想、書評(親鸞 完結篇)

小説ばかり読んでいるので、この戯曲スタイルにしばらくは違和感がありますが、慣れてくると、誰の発言か、どのようなバックグラウンドかなどがよくわかり、これもアリだと納得です。

最近の小説、特にミステリーなどは、犯人捜しを難しくするためかやたらと登場人物が必要以上に多い上に、その親族や関係者が次々と出てきて、誰が誰だかわからなくなったり、誰の発言なのか不明だったりしますが、シナリオならそうした煩わしさから解放されます。

法然や親鸞は比較的学校でも習っていて知っていますが、蓮如に関してはあまり一般的ではありません。法然や親鸞のように始祖や開祖ではなく、中興の祖という位置づけなので、仕方がないのかも知れません。

こうして読みやすい小説(戯曲)にしてもらえると、肩肘張ることはなく、自然体でスッと入ってくるので楽しく読めました。それにしても蓮如上人絶倫極まりなし(5人の妻と27人の子)です。

★★☆

著者別読書感想(五木寛之)

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雪の階(上)(下)(中公文庫) 奥泉光

雪の階2018年に単行本、2020年に文庫化された長編小説で、2018年に毎日出版文化賞と柴田錬三郎賞受賞を受賞しています。

小説の舞台は太平洋戦争前の軍部が勢力を増してきていた日本です。そして主人公は父親が貴族院の議員を務める伯爵の娘で女子学習院へ通うお嬢様です。

当時の政治は欧州を席巻しつつあった勢いのあるドイツと同盟を結ぶべきだという強硬派と、英米とは経済格差があり敵に回すべきではないという穏健派で二分していましたが、すでに中国へ進出していた軍部の実権が強まってきます。

一見すると、そうした戦争前の暗くて貧しいイメージがありますが、華族の世界はまだ華やかで、戦争という悲壮感はまったくありません。

そういえば、こうした戦前の華族の世界を舞台としていた小説では、柳広司氏の小説や、北村薫氏の小説などにもありましたが、農民に代表される一般庶民の自由がなく耐乏の生活ではなく煌びやかな世界です。

その侯爵の娘の友人が富士山山麓の青木ヶ原で若い軍人と心中しているのが発見されます。

しかしその相手や、亡くなる直前に主人公宛に出されたはがきなどから、これは心中に偽装された殺人ではないかと疑い、子供の頃の遊び相手でカメラマンとして活躍している女性に相談しながら真相を突き止めようとします。

宗教や政治、そして軍部と、様々な要素が絡み合って複雑な様相を呈してきますが、序盤の緻密で繊細な展開から、中盤から後半のやや大雑把に思える展開へ変わっていくのがやや気になるところですが、クライマックスを別の目的を持って計画されていたとする2.26事件へと持っていくところはさすがです。

★★☆

著者別読書感想(奥泉光)


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ディプロトドンティア・マクロプス(講談社文庫) 我孫子武丸

ディプロトドンティア・マクロプス1997年に単行本、2000年に文庫化されている「京都探偵シリーズ」と呼ばれている小説です。タイトルはなにか意味があるのか不明ですが、著者が作った造語のようです。

個人的には、子供の頃に親しんだシャーロック・ホームズや明智小五郎以来、フィリップ・マーロウや、サム・スペード、スペンサー、マット・スカダー、沢崎、工藤俊作、神山健介、佐久間公など探偵小説(シリーズ)が好きで、書店やブックオフで探偵もの小説を見つけると買わずにいられません。

著者のあとがきに書かれていましたが、この小説の原案は学生時代に書いたものということです。

つまり物語の時代は80年代前半ぐらいで、したがって現代のようにパソコンやスマホ、防犯カメラなどは出てこず、せいぜい押し売りにやってきた怪しい日本探偵互助協会の営業マンが持参してきたビデオカメラやテープレコーダーなどのひみつ探偵セットぐらいです。

堅物で有名な京大医学部の教授が失踪し、家族から探して欲しいと頼まれ、ハードボイルドタッチのシリアスものかと思っていたら、コミカルさ全開でした。

誘拐された教授の研究が、ウイルスの危険性を消して代わりに新陳代謝を促す遺伝子を動物に感染させることで、短期間で巨大化できるというもので、そのウイルスを巡って動物園のカンガルーや探偵自身が巨大化してしまうというとんでもない展開で、コミック的です。

本来のウイルスの害を消して代わりのものを動物に感染させる仕組みは、新型コロナのワクチンでmRNA(メッセンジャーRNA)で有名になりましたが、著者のアイデアに先見性があったということでしょうか。

京都大学に在学中に原案を考えたということで、事件は京都市内の縦横で発生し、探偵はじめ京都市内を駆け回り、「堀川通りをクルマで走るとがガタガタで悪路」だとか、いかにも京都に詳しい人が書いたと思わせるものでした。しかしナンセンスドラマでは観光案内にはなりません。

★☆☆

著者別読書感想(我孫子武丸)


【関連リンク】
 4月前半の読書 無駄だらけの社会保障、あなたが消えた夜に、木漏れ日に泳ぐ魚、ロウソクの科学
 3月後半の読書 ものごとに動じない人の習慣術、アジアンタムブルー、アウトサイダー 陰謀の中の人生、僕の探偵 
 3月前半の読書 とれない「痛み」はない、記憶の渚にて、袋小路の男、おれの死体を探せ

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1782
イアン・フレミングイアン・フレミングは1908年に英国で生まれ、1964年(享年56歳)で亡くなった「007ジェームズ・ボンド」シリーズで有名な小説家です。陸軍士官学校を卒業後、何度か転職ののちにロイター通信でモスクワ支局長などを歴任し、その後第二次大戦中に英国海軍情報部(NID)に移っています。

そのNID勤務時代は第2次大戦中で、ナチスドイツに近づきつつあったスペインが枢軸国同盟に加わらないよう監視、妨害をする作戦などに従事していました。

そうした海外諜報活動の経験を元にして書き上げたのが「007シリーズ」で、東西冷戦時代に明るい娯楽を求めていた社会で大ヒットします。

先日、同じく英国の作家で「ジャッカルの日」などの著作があるフレデリック・フォーサイス(1938年~)の自伝を読みましたが、彼も若いときには軍隊(英国空軍)に所属し、その後新聞社やテレビ局の海外特派員などを経てから作家の道を歩んでいます。

2024年3月後半の読書と感想、書評「アウトサイダー 陰謀の中の人生 フレデリック・フォーサイス」

フォーサイスの場合は軍の情報部に勤務をした経験はなかったものの、情報部に依頼され東ドイツにいるスパイと接触をするなど東西冷戦の中で似たような経験をしています。

イアン・フレミングの作品は、007シリーズの長編小説が12作品あり、その他に007の短篇小説集が2作品あります。

また、007シリーズ以外に、有名な子供向けの物語「チキ・チキ・バン・バン(空とぶ自動車)」や、ノンフィクションが数冊残されています。映画にもなった「チキ・チキ・バン・バン」(1968年公開)は私が子供の頃(当時11歳)に親に連れられ映画館で見た記憶があります。

遺作となったのは、007シリーズの最終巻「黄金の銃をもつ男」で、その最終校正中に心臓麻痺で亡くなったそうです。56歳と作家としてはまだこれからという年齢だっただけに、急逝しなければ、シリーズの続編がいくつも書かれていたことでしょう。

ところで、007シリーズは小説よりももっぱら映画が有名で、イアン・フレミング原作の作品は長編、短篇ともほぼすべてが映画化されています。

ただ映画の制作順は小説の出版順ではなく、それぞれが独立した作品となっています。さらに、すべての作品の映画化が終わると「消されたライセンス」(1989年)以降、別の作家が書いたオリジナルストーリーで継続されています。

映画に出てくる主人公は小説とはかなり違い、映画では不死身の強いヒーローですが、小説ではなにかにつけクヨクヨと悩み、落ち込んで、時には周囲からあきられるほど酒浸りになる弱い男のシーンがよく出てきます。映画のイメージで小説を読むと驚きます。

映画のようなエンタメでは、小説で出てくる悪人を撃って落ち込むようなひ弱なヒーローでは不向きですが、そうした弱みや感情豊かな愛すべき人間性の主人公が本来の姿であり、小説のそうしたところに強く惹かれます。

私が007シリーズ(小説)を読んだのは1998年~2000年頃で、文庫本は早川書房と東京創元社の2社に別れて出版されていました。出版社は違えど日本語翻訳はどちらも井上一夫氏という変則的な形態です。

その後の新装版などでは新訳として別の翻訳者に変わっている作品もあるようです。なにぶんオリジナルの翻訳版が発刊されたのは1950年代から60年代と今から60年近く前のものなので、言葉遣いや差別用語などが今とは違っているのでそれらの修正ということもあるでしょう。

長編12作の中で私の一番好きだったのは、10作目の「女王陛下の007」です。

その10作目の最後には、ネタバレ防止のため詳しくは書きませんが、007にとって衝撃的なことが起き、その後の11作目ではふぬけになった007が遠く日本へ送られる「007は二度死ぬ」へつながっていきます。

そのふぬけ状態の007はというと、「007は二度死ぬ」の冒頭部分に出てきますが、秘密情報部部長で007の上司のMと、精神状態が最悪だった007の診断を依頼されていた神経科医のサー・ジェイムズ・モロニーとが下記のような会話を交わします。


(M)「出勤時間にも遅れるし、仕事の手を抜く、間違いを犯す、酒も飲み過ぎ、賭博クラブで大金をすっている。一番の腕利きだった部下が、保安上の危険人物にもなりかねている。」

(神経科医)「だが、彼はどこも悪くない。肉体的にはどこも悪くない。ただのショックだったんだ。本人も私にあらゆる情熱がなくなってしまったと認めている。仕事にもう興味はないし、生きていくことにすら興味がないと言うんだ」「ここ数ヶ月のうちに、彼に何か難しい任務を与えてみたかね?」

(M)「ふたつやらせた。ふたつとも失敗した。ひとつではもう少しで殺されそうになったし、もうひとつの仕事では他の連中を危険にさらすような失敗をやった。急にへまばかり足手まといになったんだ」

(神経科医)「それも神経症の徴候だな。それで、どうするつもりだね?」

(M)「クビにする。撃たれて使い物にならなくなったとか、何か不治の病に罹ったのと同じだ。これまでの経歴がどんなものであろうと、心理学者がどんな理由を見つけてくれようと、あの男の部署に能なしを置いておくことはできんからな。もちろん恩給は支給する。」

どうです?このようなヨレヨレのジェイムズ・ボンドは映画ではまず見られないでしょ?

下記の表は、007シリーズの購入時の表紙と裏表紙に書かれたあらすじ(1950~60年代の本ですから、「冒険活劇」「不死身の快男児」など、今では苦笑するしかない表現があちこちで使われています)です。

年数は日本語訳版の初版発行年、英語の原題にはオリジナル英語版のリンク(Amazon)を付けています。

また短篇集の「オクトパシー」(旧版のタイトルは「007号/ベルリン脱出」)は未読でこの表には含まれません。

ジェームズ・ボンドシリーズ イアン・フレミング
Ian Lancaster Fleming  James Bond Novel
ジェームズ・ボンドシリーズ
 
01 カジノ・ロワイヤル Casino Royale 1953年 東京創元社
カジノ・ロワイヤル ソ連の工作員でフランスの共産系労働組合の大物、ル・シッフル。

財政難に陥った彼は、今夏ヨーロッパで最高の賭けが行なわれると噂の海水浴場ロワイヤルに乗りこむ。

そうはさせじと英米仏三国の共同作戦のもと、バカラ賭博に挑む英国秘密情報部員007号、ジェームズ・ボンド。

賭け金は幾何級数的に上昇するが・・・・・!不死身の快男児ボンドが初登場。これがエンタテインメントの粋。

1999/10/05読了
  
02 死ぬのは奴らだ Live and Let Die 1954年 早川書房
死ぬのは奴らだ ボンドの今回の標的は、全米の暗黒街を牛耳る男ミスター・ビッグ彼はジャマイカから大量の古代金貨を盗み出し、世界の金相場を狂わせようと企んでいた。

Mの指令を受けたボンドはニューヨークへ飛び、旧友のCIA局員ライターとともに調査を開始した。

だがやがて、敵の罠に陥ったライターは瀕死の重傷を負い、ボンドも絶体絶命の窮地に!鮮烈なヒーロー、ジェイムズ・ボンドの名を確立した初期の傑作。改訳決定版

1998/04/17読了
  
03 ムーンレイカー Moonraker 1955年 東京創元社
ムーンレイカー 第二次大戦中ドイツ軍の破壊活動に巻きこまれたその男は、記憶が戻らぬままヒューゴ・ドラックスと名乗ることになった。

戦後、巨億の財をなした男は、国に報復攻撃用の超大型原子力ロケットの寄附を申し出、一躍英雄となる。

ところが、問題のムーンレイカー号が完成目前ドーヴァー海岸にある基地で保安係が疑惑の死を遂げた。

007号ジェームズ・ボンドはひとり、謎の渦中へ・・・・・・

1999/06/03読了
  
04 ダイヤモンドは永遠に Diamonds are Forever 1956年 東京創元社
ダイヤモンドは永遠に アフリカのダイヤモンド鉱山から、年間少なく見積もっても二百万ポンドにのぼる金額のダイヤが密輸されている!

二十世紀初頭からこの商売の主導権を握っている英国にとっては由々しき問題だった。

かくて、海外秘密情報部員ジェームズ・ボンドに、逮捕された運び屋になりかわって密輸ルートに潜入し、ダイヤを目的地アメリカへ送り届けよ、との指令が下る。

波瀾に富む会心作。

1999/06/14読了
 
05 ロシアから愛をこめて From Russia, With Love 1957年 東京創元社
ロシアから愛をこめて 相つぐ自国スパイの摘発に、失地回復のためソ連情報部は西側の重要スパイを一人、暗殺することにした。

標的は英国情報部のジェームズ・ボンド。実行にあたるのは国家保安省の公式殺人機関スメルシュである。

かくして二重三重の罠が仕掛けられたイスタンブールへ、ボンドは誘い出される・・・・・・。

不死身の快男児が追いこまれた絶体絶命の窮地!冒険活劇の粋を集めたシリーズ最高峰。

1999/09/29読了
 
06 ドクター・ノオ Doctor No 1958年 早川書房
ドクター・ノオ 紫紺の影が波のように通りを覆う黄昏。英国情報部カリブ海域地区の責任者は、本部に定期連絡を取るため静まり返ったジャマイカの高級住宅街を歩いていた。

彼が道にうずくまる三人組の男のそばを通りすぎたとき、突如、三挺の消音銃が火を噴いた。

数分後、今度は支局内で悲鳴が・・・・・・

Mの密命を帯び、ボンドは事態を探るためカリブ海に浮かぶ孤島へと飛んだ。

だが、そこは恐るべき陰謀を企む怪人ノオ博士の根城だったのだ!

1998/10/28読了
 
07 ゴールドフィンガー Goldfinger 1959年 早川書房
ゴールドフィンガー 英国情報部員ジェイムズ・ボンドは、オーリックゴールドフィンガーと名乗る謎の男と出会い、男がカードでいかさまを働くのを見破った。

が、黄金を異常に愛するこの男の正体とは、巨大な犯罪組織を牛耳る怪物だったのだ。

やがてボンドは、ゴールドフィンガーが企む恐るべき犯罪計画に単身闘いを挑んでいく!スパイ小説史上もっとも有名なヒーローが、華麗な活躍を見せる永遠の名シリーズを代表する傑作。改訳決定版。

1998/03/14読了
 
08 サンダーボール作戦 Thunderball 1961年 早川書房
サンダーボール作戦 核爆弾を搭載したNATOの爆撃機が、突如連絡を絶った。

その直後、英国首相のもとに核爆弾と引き換えに一億ポンドの金塊を要求する脅迫状が舞い込んだ。署名はスペクター。悪の首魁ブロフェルド率いる世界最強の犯罪組織が姿を現わしたのだ。

爆撃機の行方を追い、バハマへ飛んだボンドを待っていたのは謎の美女との危険な出会いだった!

海底に展開するボンドとスペクター一味の死闘。冒険活劇の醍醐味あふれる第三弾

1998/04/30読了
 
09 わたしを愛したスパイ The Spy Who Loved Me 1962年 早川書房
わたしを愛したスパイ 今度はわたしが男に牙をむく番だ―そんな決意を秘め、ヴィヴィエンヌはアメリカへ渡った。

イギリスでの生活と、彼女を弄んで捨てた男たちから逃げだして。

が、ここでも男たちの魔手が彼女を襲った。二人組のギャングが、彼女が独りでいたホテルに押し入ってきたのだ。

彼女の窮地を救ったのは、ジェイムズ・ボンドと名乗る謎の男だった・・・・・・

女性の視点からボンド像に光を当て、強烈なスリルとエロティシズムで綴る異色作

1998/06/27読了
 
10 女王陛下の007 On Her Majesty's Secret Service 1963年 早川書房
女王陛下の007 窮地を救い、ボンドが一夜を共にした女性―彼女はマフィアの首領カピューの娘だった。

彼に惚れこんだカピューは、ボンドの宿敵ブロフェルドがスイスにいる事実を突きとめてくれた。

ブロフェルドは伯爵をかたり、なぜか若い女性だけを集めて山中に潜んでいるらしい。

ボンドは准男爵に化け、敵の本拠地へ乗り込む!アルプスに展開する壮絶な追跡行。

ボンドの人生に華麗かつ残酷な歴史が刻まれる注目の一作。改訳決定版

1999/02/02読了
 
11 007は二度死ぬ You Only Live Twice 1964年 早川書房
007は二度死ぬ 愛妻を殺され、傷心のボンドをMは日本へ送りこんだ。

万能暗号解読機を入手するため、そして使い物にならず、解雇寸前のボンドに最後のチャンスを与えるためでもあった。

彼を迎えたのはタイガー田中と名乗る男だった。男は解読機を渡す代わりに、福岡で毒草を栽培する危険な植物学者の殺害を命じる。

ボンドは条件を呑んだ。だが、その学者の写真を見た彼は…!

ボンドの眼を借りた日本観が横溢する注目作。改訳決定版

2000/03/10読了
 
12 黄金の銃をもつ男 The Man with the Golden Gun 1965年 早川書房
黄金の銃をもつ男 任務中に行方不明となり、死亡したと伝えられていたボンドが突然帰国した。

報告を受けるMをボンドの銃が襲った。失踪中に洗脳されたらしい。ボンドの復帰を願うMは、再洗脳後“黄金の銃をもつ男”として恐れられる殺し屋スカラマンガの暗殺を命じた。

この男こそ、西側の情報部員を次々と亡き者にしてきた宿敵なのだ。

ボンドは身分を隠して敵の本拠地キューバに乗り込んでいく!永遠の名シリーズの掉尾を飾る迫力篇。

2000/03/06読了
 
13 バラと拳銃 短篇集 From a View To A Kill 1964年 東京創元社
バラと拳銃 常に生と死の境目で、綱渡りのように危険な任務を遂行する英国秘密情報部員007号、ジェームズ・ボンド。

パリ近郊の森の中に設置されたソ連軍情報機関の破壊、ジャマイカに横行する兇悪なナチ残党の暗殺、ローマからベニスへ通じる麻薬ルートの追跡・・・・・・。

東奔西走、世界を股にかけた不死身の快男児の、胸のすくような冒険の数々。

スリル満点の五編を収めた、ファン待望の一巻!

1999/06/16読了

もし将来に最初からリメイクされて映画化がされることになった場合は、スーパーヒーローではなく小説の主人公に限りなく近い"人間くさい"主人公で製作してもらえることを切に願っています。

【関連リンク】
1559 浅田次郎の歩き方
1472 ハリー・ボッシュシリーズはまだ未完
808 ロバート・B・パーカー「スペンサーシリーズ」全巻まとめ

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1781
無駄だらけの社会保障(日経プレミアシリーズ) 日本経済新聞社編

無駄だらけの社会保障2020年に発刊された新書ですが、本文中で使われているデータやインタビューなどの調査がコロナ禍前のもので、やや出版のタイミングが悪かったと言うしかありません。

というのも、中身は平穏な世の中において高騰し続ける医療や介護の社会保障費の実態と、それらをどうやって削減していくべきかのご立派な提言で、あのコロナ禍中のドタバタを見ていると、日本の医療・社会保障行政や医療機関はまるで頼りにはならないことが露呈してしまったわけで、その内部から実のある改革ができるとはとても思えません。

しかし本文中で繰り返し語られているように、病院は空きベッドを減らすため無理してでも入院患者を増やし、医薬品の処方箋をたっぷりと出すことで利益が得られ、経営が安定するという構造や、介護施設でもコロコロ変わる政策に合わせ補助金頼みで、医療と介護がうまく連携ができていない状況が変わらない限り、医療費の削減はいくら一般患者に「医療費削減」を求めても無理な話です。

患者は医者や病院からの提案を断ることはできないから、治療や入退院、投薬などすべては専門家の言いなりになるしかありません。つまりまずは医療機関や医者自身が大きく変わらない限り、今のままズルズルといくことになるのでしょう。

それでも一般的には何年も入居待ちと言われている要介護者が入居できる特別養護老人ホーム(特養)が、実は介護人材不足と、高い個室部屋が敬遠され、国の机上の予想との乖離があってかなり空きがあるということはこの本で知りました。

あと、本著では一切触れられていませんが、政治的な圧力団体で医者の利益代表でもある保守的で利権体質の医師会の存在が改革の大きな障壁になっていると思っていて、患者第一主義ではない現在の各種の医療業界にはびこる規制やルールなどの問題にも触れて欲しかったというのが感想です。

★★☆

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あなたが消えた夜に(毎日文庫) 中村文則

あなたが消えた夜に本作品は2014年に毎日新聞の連載小説として掲載され、2015年に単行本、2018年に文庫化されました。

主人公は子供の頃に起きた(起こした)トラブルからトラウマに悩まされている東京郊外の警察署所属の中堅刑事と、殺人事件発生で応援にやってきた警視庁の新米刑事の女性の二人です。こういう組み合わせ、よくありますね。

その二人の刑事の掛け合いがメインですが、捜査する事件や登場人物が複雑で、読んでいても混乱します。

ましてや新聞連載小説だと、毎日切れ切れで読むことになり、時には読めない日もあったりして「これで大丈夫だったの?」と勝手に心配しました。

しかし所々で、登場人物や、事件に関わりのある人の説明が加わっていたので、なんとか路頭に迷わず最後まで読むことができました。

連続殺人事件や模倣犯といった、古くからある犯罪ミステリーですが、そこは一筋縄では終わらない著者の鋭いアイデアがちりばめられています。

また現実にはこれから殺そうとする人物を探偵会社に頼んでその居場所を突き止めてもらうとか、刑事が通りで不審者を見つけ、本人の了解もなしに持ち物のバッグの中をあらためるとか、現実的にはちょっと無理がありそうというところはともかく、当初の人間関係がガラガラと崩れ変わっていく物語は、ミステリー小説としての醍醐味は感じられました。

★★☆

著者別読書感想(中村文則)

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木漏れ日に泳ぐ魚(文春文庫) 恩田陸

木漏れ日に泳ぐ魚婦人公論に2006年~2007年に連載され、2007年に単行本、2010年に文庫化された長編小説です。

主人公は二人、一緒に住んでいた若い二人の男女ですが、次の日の朝には部屋の鍵を不動産会社に渡し、この部屋を出て別々の道を行くことが決まっていて、その最後の夜から始まります。

なぜ別れるのか、お互いがある殺人に関わっていたのではという疑念があり、それはどのようなことだったのか?など、読者に数々の疑問を抱かせながら二人の深夜の話し合いが淡々と進められていきます。

登場人物は少なく、わかりやすい設定ながら、徐々に明らかになってくる二人の関係性や、複雑な家族の話などが明らかになるにつれ物語の深刻さがジワジワと浸みてきます。

ただ最後はいまいちわかりにくい感じで、二度三度読んでもなにがどうした?って混乱してしまいました。著者の作品は、割とこうした読者に考えさせる終わり方をする作品が多いようです。

★★☆

著者別読書感想(恩田陸)

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ロウソクの科学(角川文庫) ファラデー

ロウソクの科学1861年と言いますから今から163年前に英国の王立研究所で行われた物理学者マイケル・ファラデーの講演をまとめたものです。

1860年~1861年頃と言うと、日本は江戸時代で桜田門外の変(1960年)、アメリカではリンカーンが大統領に就任し(1860年)し南北戦争が始まり(1961年~)、中国は清の時代で西太后の摂政政治が始まります(1861年~)。

当然、当時はまだ電灯はなく、夜の灯りと言えばガス灯かロウソクしかない時代です。また科学や化学も今の小中学生レベルの常識がまだ通用するかしないかの社会です。

そういう時代に、多くの市民や子供を集めたクリスマス講演で、ロウソクがなぜ灯るのか、火がついてどう変化するのか、なにが発生するのか、発生した気体はどういう特徴があるのか、などを様々な実験器具を用いてわかりやすく説明していきます。

現代人が読むと、「そんなこと知っているよ」という酸素や水素、窒素、炭素(二酸化炭素)の話などが中心になりますが、160年も前にそれらの役割を知っていた人は限られるでしょう。

ローソクが燃えると言うことは、その酸素や水素、窒素、炭素が関係するということで、テーマが馴染みのあるローソクにスポットを当てているのでしょう。

今、大人が読んでもその話は面白く、当時の子供達が科学をこれから勉強したいと思わせるような良い講演だったろうと思います。

★★☆

【関連リンク】
 3月後半の読書 ものごとに動じない人の習慣術、アジアンタムブルー、アウトサイダー 陰謀の中の人生、僕の探偵 
 3月前半の読書 とれない「痛み」はない、記憶の渚にて、袋小路の男、おれの死体を探せ
 2月後半の読書 帰郷 三世代警察医物語、人はどう死ぬのか、総員起シ、傷だらけのカミーユ


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1778
ものごとに動じない人の習慣術(KAWADE夢新書) 菅原圭

ものごとに動じない人の習慣術著者は元出版社で勤務したあとフリーライター、作家として活動されていて数多くの啓発本を出版されています。

この本は、2020年出版ということでまだ新しい本と思って買いましたが、元は2008年に出版した同名の新装版ということで、すっかり河出書房新社に騙されてしまいました。

お正月に国立競技場へラグビーの試合を見に行ったとき、河出書房新社のビルが健在で懐かしかったです。

というのも、40数年前の1980年頃に、週1回は河出書房新社へ仕事で通っていたことがあり、当時の担当者が「良かったら読んでみて」とくださった書籍は読んだ後今でも私の書棚に置いてあります。

河出書房新社は、歴史ある名門の出版社ですが、過去2度倒産の憂き目に遭い、苦労しながら再建してきた会社で、社名につけられた「新社」がそれを物語っています。仕事ではたいへんお世話になったこともあり、陰ながらずっと応援していました。

閑話休題、著書の感想ですが、20代後半から30代の人向けと思われる内容で、還暦過ぎた酸いも甘いも経験してきた親父が読むのには向きませんでした。

私も若いときにもっとこういう自己啓発本を読んでいれば、また違った人生を歩んでいたかもと思いますが、なにぶん今の人向きにノリが軽い話が多く、私の若いときの仕事や上司には絶対服従の根性論とは違っていますから合わなかったでしょう。

個人的には、予定通りにいかなかったときに、冷静になれず慌ててしまう性格で、それを直したいな~と思ってタイトルに惹かれ手に取りましたが、そういう感じではありませんでした。

★☆☆

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アジアンタムブルー(角川文庫) 大崎善生

アジアンタムブルー著者の作品は、20年前の2004年に「パイロットフィッシュ」(2001年)を読んで以来なので20年ぶりです。本著は2002年に単行本、2005年に文庫版が出版されています。また2006年には阿部寛主演で映画も製作されています。見てないけど。

この作品は、「パイロットフィッシュ」、「エンプティスター」(2012年)とともにエロ系雑誌の編集者、山崎隆二を主人公とする恋愛三部作です。

アジアンタムブルーって何?と知らないまま読み始めましたが、作中に「観葉植物のアジアンタムが水不足で葉がちりちりになってしまい、その状態がみるみるうちに葉全体に広がってしまう現象のこと」ということだそうです。

観葉植物のアジアンタムの話や、熱帯魚の王様といわれている飼育が難しいディスカスの話、ブリティッシュ・ロック、そして酒と料理の話など、著者の趣味の多くが小説の中で生かされている感じがします。

内容は、仕事がらみで知り合った女性のカメラマンと付き合うようになったきっかけや、一緒に同棲を始めた後にその恋人が胃がんの末期ということがわかり、、、という悲恋の物語です。

ま、若い恋人や連れ合いが不治の病に倒れてあらためて愛を考えるというのは恋愛小説やドラマでは定番過ぎて、もう今はお腹いっぱいっていう感じですが、青春時代に読むとそれなりに感動もするのでしょう。えぇ私にもそういう時期がありましたもの。

この小説に出てくる登場人物はいずれも魅力的で、主人公と気の合うSMの女王や、主人公と仕事を超えて気の合う風俗ライター、恋人の余命宣告をし主人公の無茶な提案を受け入れてくれる主治医、フランスのニースで知り合ったタクシー運転手など善人ばかりで、実際には周囲に山ほどいるはずの悪人は表だって出てこない私の好きなタイプの小説です。

★★☆

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アウトサイダー 陰謀の中の人生(角川文庫) フレデリック・フォーサイス

アウトサイダー日本語版の単行本が2016年に出版されたこの作品は著者の今までの国際陰謀スリラーとは違い、完全な自伝です。

理解のある両親の元で比較的裕福な家庭に育った著者の中学生時代、全寮制の高校時代、そしてパイロットを志望して空軍に入り、その後は海外特派員になりたくて新聞社や放送局(BBC)などで活躍する姿とその失望などが生々しく書かれています。

ジャーナリストとして世界中を飛び回ったことで、デビュー作「ジャッカルの日」や2作目「オデッサファイル」、3作目「戦争の犬たち」の構想を得て、窮乏状態をなんとかしようと小説を書いて打開しようと出版社を回ったことなどリアルです。

そして出版社回りがうまくいかずバーでやけ酒を飲んでいるところに知り合った紳士の助けで幸運もありベストセラー作家として上り詰めていきます。

特に秀逸だったのは新聞社に記者として勤務していた時に、どこへ行くにも監視がつく東ドイツのベルリンでの勤務時代です。

子供の頃からフランスやドイツにホームステイして多国語を自由に操れるようになり、その能力を生かしてまるでサスペンス映画のような様々な危機をしのいでいきます。

また英国の情報部から東ドイツのドレスデンまで行き、ソ連のスパイと書類を交換する仕事を頼まれ、自分のクルマで美術研究者として活動するシーンはスパイ映画も顔負けの展開です。

その後はアフリカへ飛んで、ナイジェリアから独立しようとするビアフラとの戦争を中に入り込んで取材をしてレポートを揚げますが、雇い主のBBCは英国政府が支持するナイジェリア政府の汚点は表面化することがなく、逆に著者はビアフラで悲惨な飢餓状態や英国製の武器で一般市民が蹂躙されるのを目の当たりにします。

解説で少し書かれていましたが、著者はアフリカの赤道ギニア共和国の政府を転覆させようと、私財をつぎ込み傭兵を雇ってクーデターを起こしたと言われていますが、本文中にはそれらのことはあまり触れられていません。著者にとっては根も葉もないことなのか、それとも触れたくない大きな汚点だったのかは不明です。

あと、著者はずっと昔のインタビュー記事で、日本嫌いということが書かれていたのを読んだことがあります。

理由は確か太平洋戦争時の日本軍と英国軍の戦いと、日本の戦争捕虜の扱いなどに憤慨したということでしたが、今ではその日本嫌いの思いは薄まっているようで、本著の中にも夫婦で日本を旅行し、高野山などへ行ったことなどが書かれています。しかし相変わらず日本や日本人が好きという感じではなさそうです。

この自伝がおそらく著者の最後の作品となりそうです。1996年に一度絶筆宣言をし、その4年後に再び作品を出した経緯がありますが、もうお金を稼がなくても十分らしいので、そのモチベーションはなさそうです。

★★★

著者別読書感想(フレデリック・フォーサイス)

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僕の探偵(創元推理文庫) 新野剛志

僕の探偵2012年に「素人がいっぱい ラブホリックの事件簿」というタイトルで単行本が出版され、2016年に文庫が出版されるときにタイトルが変更された連作短篇集です。

「死者に名を」「雨宿り」「女王様のクリスマスプレゼント」「恋は紫色」「生者に花を」の5篇で組み立てられていて、最後まで読むと不可思議な登場人物の謎などが明らかになります。

単行本タイトルの「ラブホリック」とは主人公が勤務する渋谷の風俗店デリバリーヘルスの店名で、その主人公と大学時代の頭脳明晰な友人が探偵役で、三軒茶屋のアパートで同居しています。

そのデルヘリで起きる様々な事件や不可解な出来事を推理して解決に導くホームズ役が主人公の友人で、その周囲でオタオタするのがワトソン役の主人公というよくあるパターンです。

解説でも書かれていましたが、居候として同居する友人が探偵役とするのは、三浦しをん著の直木賞受賞作「まほろ駅前多田便利軒」と設定等が似ているところがあります。

ま、事件も風俗の仕事の様子もあまりリアリティはなく、さすがに著者自身が実際に現場経験してきた空港勤務の旅行代理店職員「あぽやん」と比べて内容に軽さと薄さが目立ちます。仕方ないですけど。

★★☆

著者別読書感想(新野剛志)

【関連リンク】
 3月前半の読書 とれない「痛み」はない、記憶の渚にて、袋小路の男、おれの死体を探せ
 2月後半の読書 帰郷 三世代警察医物語、人はどう死ぬのか、総員起シ、傷だらけのカミーユ
 2月前半の読書 やがて、警官は微睡る、キル・リスト、検事の本懐、みちづれ 短篇集モザイクI

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