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1365
田園発 港行き自転車 (集英社文庫)(上)(下) 宮本輝

2015年に単行本、2018年に文庫化された長編小説です。元々は富山市に本社を置く北日本新聞に2012年から約3年間にわたり連載されていた小説です。

そうしたこともあり、富山県各地の自然の美しさ、様々な交通機関、美味しい料理などがふんだんに取り上げられていて、私が名付けた「うんちく小説」という著者の作品群にバッチリ当てはまっています。

私は若い頃に、富山には行ったことがありますが、その時は、黒部ダムを見に行くのが主目的で、その他はほとんど素通りでしたので、あらためてこの小説を読むと、富山の海岸沿いへ行きたくなりました。

登場人物の相関関係はややこしく、これは著者自身の自伝的小説「流転の海」ほどではないにしろ、ややこしい限りです。

主人公は、宮崎へ出張と言いながら、なぜか富山で急死した自転車会社社長の娘、そして京都の花街の中で親の代から茶屋を営む女将さん、さらに、東京の企業に勤める中年男性、その3人の視点で物語は進んでいきます。

それらに加え、富山で美容院を営む亡くなった社長の愛人とその息子、昔は祇園で浮名を流していたが事業に失敗し、その後富山で警備会社を経営する男性、祇園の芸者置屋の女将、自転車会社社長と仲が良かった若くして亡くなった伝説の芸子、京都の出版社勤務の編集者、亡くなった自転車会社の社長の右腕だった老齢男性などなどが絡んできます。

舞台が、京都の祇園や地方都市の富山でしかも滑川という場所だけに、小説自体もなにか時がゆっくりと流れている昭和の香りがします。

タイトルだけ見たときには著者の初期の作品「青が散る」のような青春小説かな?と思いましたが、全然違って、複雑な人間模様と、時代に翻弄されたそれぞれの人生を描いたなかなか奥の深い小説でした。

★★★

著者別読書感想(宮本輝)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

不運と思うな。大人の流儀6 a genuine way of life 伊集院静

大人の流儀」シリーズの第6弾で、2016年刊の新書です。確か週刊現代に連載されているエッセイをまとめたものだと思います。

帯に「生きる勇気が湧いてくる。感動の1冊」と大げさに書いてあったので、60過ぎのオッサンに生きる勇気を持たせてくれるのかと、わくわくしながら読みましたが、肩すかしも良いところです。

著者の小説やエッセイは好きで、過去に16作品(19冊)を読んでいますが、著者の作風が変わったのか?それとも読み手の私が年齢とともに感性が変わったのか?その両方かもしれませんけど、これはいただけません。

とにかく、同じ事を何度も書く、しつこく書く、中には自慢たらしく思えるようなことを自慢げに書く、過去の美しい想い出を何度も書く、あまり考えずに単なる思いつきだけで書いている?と思う箇所など、これはいずれも高齢者の多くに見られる現象のような気もします。著者は今年で69歳、いつまでも若くはないですね。

好きな作家さんだけに、こうした症状が垣間見えるのは、ちょっと残念です。

もっとも、若い人にとっては、こうした波瀾万丈の生き方をしてきた人の経験を垣間見ることで、いろいろと考えることもできるでしょうから、すべて悪いと言うつもりはありません。

要は読み手がどう思うかですから、私も個人的な感想を述べているだけで、それを誰かに批判されても困ります。

★☆☆

著者別読書感想(伊集院静)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

日本農業への正しい絶望法 (新潮新書) 神門善久

2012年刊の新書で、日本の農業の実態と、その周囲に群がる政治家、官僚、マスコミなどを赤裸々に告発しています。

著者が言うように、一度も現場に足を向けないような、役人や識者と呼ばれる学者、ジャーナリスト、マスコミの記者などが、日本の農業は素晴らしいという情緒的なイメージを作っているというのはなんとなくわかります。

また効率化を図って世界と戦える大規模農業こそが、生き残る道だという主張や世論にも警鐘を鳴らしています。

私自身は農業とは縁遠い世界にいるだけに、いったいなにを信用すれば良いのかはわかりませんが、様々な主張をこうして読むことで、一方的な考え方になるのだけは防ごうと思っています。

この本の中でも、へぇーと思ったのは、「農家は一般的なサラリーマンよりも収入面で恵まれている」という部分。

なにかイメージ的には「農家は収入が低いけど、ある程度自給自足ができるので食っていける」というものがありますが、実態としては、農家は平均的に年収も高く、しかも家や土地があり、優遇された税制や補助金まであるということ。

テレビで見る農家は「台風で水浸しになって困惑する姿」や、「高齢化した夫婦が毎日畑に出掛ける姿」などで、「農家ってたいへんだなぁ」というイメージしかありません。

この本を読むと、農地として税制優遇を受けておきながら、駐車場に変えて利益をあげていたり、息子に分家するという名目で税制優遇された土地を譲り、その土地に家を建て、その家を第三者に転売するなど、様々な農家の錬金術が書かれていて、上記のようなほのぼのとした農家のイメージは崩れてしまいます。

若い人が地方へ行き、新たに就農することでも、農家は荒れて使えない土地しか貸してはくれず、何年かかけて苦労して土地を改良し使えるようにしたら、貸し出し期間の延長はしないとか、やりたい放題な農家もあるとか。

ただ、日本の農業の未来について著者が言うような「農業技能を高め、質の高い生産物を作る」というのも、そういう高くても良いものを求める著者のような人も中にはいるでしょうけど、安くてそこそこな野菜や米などがあれば十分という需要が国民の大部分を占めている現状があるわけで、そうしたことを真っ先に考えるべきではないかと思います。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

お引っ越し (角川文庫) 真梨幸子

ホラーじみた連作の短編小説集で、2015年に単行本、2017年に文庫版が発刊されています。収録作品は、「扉」「棚」「机」「箱」「壁」「紐」の6編です。

著者の作品は過去に「あの女」と「殺人鬼フジコの衝動」を読んでいますが、その両作品はイヤミス(読後感が悪く、イヤな気持ちになるミステリー)の女王というイメージ通りの作品でした。

2019年2月後半の読書「あの女」

2015年2月前半の読書「殺人鬼フジコの衝動」

ただ、今回のような短編小説になると、そのイヤミスパワー(この短編ではそれが目的ではないかも知れませんが)も大きく減衰してしまい、それに期待をしすぎるとガッカリします。

まだ読んだ作品数が少ないので決めつけられませんが、この著者の作品は、いろいろといわく付きで読ませる長編こそ魅力がありそうです。

ちょっとユニークなのは、文庫本の最後にある解説がよくある普通の解説ではなく、本文の続きになっているようで、この短編集の解説を依頼されたライターが、「この本は読まない方が良い」と書きます。そして自分とは出会わない方が良いと、登場人物になって忠告を与えています。ホラーでしょ。

★☆☆

著者別読書感想(真梨幸子)


【関連リンク】
 8月後半の読書 美学への招待、中年だって生きている、すべて真夜中の恋人たち、孤独の歌声
 8月前半の読書 彼女のいない飛行機、残された者たち、国境(上)(下)、残念な人のお金の習慣
 7月後半の読書 占星術殺人事件、ソクラテスの妻、我が家の問題、「日本の四季」がなくなる日 連鎖する異常気象



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1361
美学への招待 増補版 (中公新書) 佐々木健一

東大の名誉教授で美学者というタイトルの著者は、日本ではあまり浸透していない美学の第一人者ということなのでしょう。著書の中でもそうした自慢があちこちに見られます。

ところで、一般的にはほとんど知られていない(と思う)美学とはなんぞや?ですが、Wikipediaによれば「美の本質や構造を、その現象としての自然・芸術及びそれらの周辺領域を対象として、経験的かつ形而上学的に探究する哲学の一領域である。森鴎外により「審美学」という訳語が与えられたが、現在では美学と呼称される。」とな。

う~む、「経験的かつ形而上学的に探究する哲学の一領域」と言われてもなぁ、、、
この年になってもこうした哲学的な学問は苦手です。洞察力が鋭く、なににおいても深く考え込めるような、好きな人は好きなんでしょうけど。

この著者が言う芸術の定義は「背後に精神的な次元を隠し持ち、それを開示することを真の目的としている活動」ということになります。わからないでもないですけど、そういうことなしで、結果的に後世に芸術となったものはいくらでもありそうですね。例えば洞窟の中の落書きとか古墳の中の絵や埋葬物など。

元々は美術、建築、彫刻、音楽などの芸術を中心に西洋で発達してきた美学という学問ですが、日本でも独自の「わびさび」や「和歌」などもそれに該当するらしく、地域によってその対象とすべきものや、美や芸術に対する感性は違ってくるのでしょう。

本書では、入門的な内容という前書きでしたが、最高学府の学者先生らしく、内容がとても高尚で、ジックリ考えることが苦手になってきたただの平民オヤジには理解しがたい(頭に入ってこない)ところが多く、読むのも難渋しました。

もっと若くて頭が柔軟な頃に読めば違ったのかもしれませんね(変わらんて)。

それでも、苦心しつつ、最後まで目を通してみたら、それなりに芸術に対する見方が少し変わったかなという気がします。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

中年だって生きている (集英社文庫) 酒井順子

エッセイストの著者は、著書「負け犬の遠吠え」(2003年)の中で、「美人で仕事ができても、30歳代以上・未婚・子なしの3条件が揃った女は負け犬」と断じ、自虐的、逆説的な負け犬ブームを作った方です。

年齢が二世代近く違いますが、やはりエッセイストの上野千鶴子氏にも、なんとなーく似ています。闘士たる上野氏ほど発言・行動が過激ではないにしても。

このエッセイでは、自身が中年にどっぷりつかり、様々な環境の変化、肉体的な変化や、これから起きるであろうことなど、客観的にあけすけに語っています。

同世代の女性、しかも逆説的に「負け犬」と呼ばれた、未婚女性にはたいへん共感を与え、受けそうな内容となっています。

男性がこれを読むことでは、中年女性の扱い方、距離感、など、特に中年女性の部下となったり、同僚になったりしたときに役立ちそうな思いが詰まっていると考えましょうかね。

確かに、団塊世代の女性達の多くは、まだ専業主婦がメインで、上野千鶴子氏など、男性社会の中で苦労しながら社会に出続けた人は少なかったのですが、著者の年代は雇均法もあり、日本の史上初めて女性管理職や第1線で働く女性達が巨大な塊となっています。

笑ってしまったのは、20~30代の若者向けに、浅野温子・浅野ゆう子のダブル主演の1988年のトレンディドラマ「抱きしめたい!」が、その25年後の2013年には「抱きしめたい!Forever」として53歳という設定の主人公達が、やはり恋愛ありのトレンディドラマとして成立しているというところ。

そのうち70歳を過ぎた主人公が老人ホーム内で恋愛に溺れるトレンディドラマとかも作られるようになるのかもしれません。

テレビや新聞の視聴者、読者の平均年齢がどんどん上がってきていることもあり、さもありなんです。

言うまでもないことですが、世の中はどんどんと変わっていくものです。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫) 川上未映子

小説の2作目「乳と卵」で芥川賞を受賞した優秀な作家さんで、旦那さんは同じく作家の阿部和重氏という、なにか気の休まるところがなさそうな、同業者カップルです。

著者の作品は昨年(2018年)に「ヘヴン」(2009年)を読んでいます。

6月前半の読書と感想、書評 2018/6/13(水)「ヘヴン」

この著作は上記「ヘヴン」のあと、2011年に上梓された小説です。

主人公は30代の未婚女性で、仕事は出版社などから依頼を受けて内容のチェックをおこなうフリーの校閲者です。作家というか物書きの人とは接点が深く、その習性や行動パターンなどにも理解があるのでしょう。

一応、女性向けの恋愛小説という体ですが、どちらかというと、30過ぎた未婚女性の同性同士の関係性において出てくる嫉妬やひがみ、あきらめなど深層心理に深く刺さる描写がメインのような気もします。

したがって、男性が読むと、女性の思考パターンなどが理解しやすくなるのかも。でも小説ですから、出てくる人達は決まって極端に振れている感じなので、それがすべてってわけでもないから、ややこしいです。

恋愛小説と思って読むのはちょっとどうかなぁって男性の私は思いますけど、一般的な女性からすると、これでもリアルな恋愛小説なのかもしれません。

★ ★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

孤独の歌声 (新潮文庫) 天童荒太

著者の作品は、過去に「永遠の仔」(1999年)と「悼む人」(2008年)を読んでいて、イメージとしては暗く深い人間の闇をえぐり出すような感じですけど、まぁ好きな作家さんです。「悼む人」では2009年の直木賞を受賞されています。

2012年3月後半の読書「永遠の仔」
2011年8月後半の読書「悼む人」

この著作は、それらよりも前の発刊で、1994年に単行本、1997年に文庫化されたサイコホラー的な小説です。また1997年と2007年に、それぞれテレビドラマ化されています。

主人公は、子供の頃に友人の女の子が目の前で誘拐され、その後殺されてしまったというトラウマを持つ女性刑事と、コンビニでアルバイトをしながら、自分で曲を作り、ライブハウスで歌っている若い男性。

女性を誘拐して切り刻み、捨てるという猟奇犯罪が連続して起き、主人公の女性刑事が住むマンションの隣人の女学生も突然行方不明となり、過去の友人が誘拐されたトラウマを引きずりながらも、犯人を追いつめていきますが、やがてその女性刑事自身が誘拐のターゲットになっていきます。

タイトルは、もうひとりの若い男性が歌う歌が、孤独にさいなまれた人に浸みていくというところから人気がジワジワとでてくるということで、都会に暮らす現代人と社会を表しているのでしょう。

最近のミステリーの常道として、最後の数ページで大きな転回が予想されましたが、結局予想外の展開はなく、オーソドックスに収束していきます。

★★☆

【関連リンク】
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1357
彼女のいない飛行機 (集英社文庫) ミシェル・ビュッシ

2015年に文庫が発刊された、フランス人著者の長編ミステリー小説です。この作品が大ヒットし、その後「黒い睡蓮」(2017年)も各種の賞を得るなど活躍されています。

650ページを超える大作ですが、ストーリーは、1980年に飛行機事故で唯一生き残った赤ちゃんはいったい誰の子か?という、DNA検査が発達している現代ではなしえないミステリーとなっています。

トルコ発の旅客機に偶然乗り合わせた二人の乳児がいて、「奇跡の赤ちゃん」と言われた旅客機事故機のそばで見つかった乳児はどちらの子(遺児)ということで、双方の遺族の祖父母が激しく対立します。

その双方の祖父母は対称的で、一方は大金持ち、一方は古いワゴンを改造して食べ物を売り歩く貧しい家庭。

裁判になって、勝ったのは貧しい祖父母の孫だと決まり、その乳児がフランスの成年となる18歳となり、それまでの期間、金持ち夫婦に依頼された私立探偵が、DNA検査までおこなっても結果が判明しないということで、とうとう自殺を決意していたところ、その理由に気がつくことになります。

主人公は、その乳児の兄とされる男性で、妹でありながら、恋愛感情を持ってしまい、本当に妹なのか?ということに悩みます。

結果は書きませんが、途中でなんとなくわかりました。もちろんそのような偶然や、行動ができるはずもなく、現実的ではないという前提ですが。

とにかく長い小説ですが、ミステリーなのでどこに謎が隠されていないかと、しっかりと読み込むより、サラッと読み進めていくのをお勧めします。

謎がどこかに隠されているというようなものではなく、調べていく内に、新たな発見が、、、ってことですので、過去の発言や行動にこだわらなくてもよく、淡々と読めば良いです。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

残された者たち (集英社文庫) 小野正嗣

2015年に「九年前の祈り」(2014年刊)で芥川賞を受賞された著者の、受賞後すぐの2015年に文庫で刊行された小説です。初出は2011年の雑誌「すばる」です。

なにかタイトルにひかれた面がありますが、思っていたような内容ではなく、かつては漁村だった限界集落に住む家族と、そこに住むひとりの小学生と教員とのふれあい、家族模様、隣の集落から通ってくるようになったアジア系外国人の子供など、現在進行中とも思える日本の寒村を抽象的に描いた作品です。

すでに人口の2%を超えるようになった外国人ですが、すでに北海道のニセコ町や東京都新宿区は住人の外国人比率が12%を超えていて、ここはどこの国?と思える環境になりつつありますが、今後は仕事は豊富だけど住みにくく生活費も高い都会より、若い人が不足している地方へ流れていく外国人が多そうな気がします。

そうした環境をこの小説では描いていますが、もうすでに外国人というレッテルはもう地方においてもなきに等しい感じがします。

そのうち、日本人が誰もいなくなった村や町に、外国人が集まってきて外国人だけの村や町を作るっていうことが起きるのかもしれません。

その場合、この小説にも出てくるように、まるで治外法権のような、「無免許当たり前、誰に迷惑をかけているわけでもない」というようなことになるのでしょうか。

★☆☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

国境(上・下) (文春文庫)  黒川博行

2001年に単行本が発刊され、その後2003年に講談社から文庫版発刊、さらに2014年に文藝文春からも文庫版が発刊されています。この著者の作品は、過去に「暗礁」(2005年)を2008年に読んでいます。

この長編小説は、1997年からスタートしている「疫病神シリーズ」の第2弾の作品で、ヤクザの桑原と建設コンサルタントの二宮が主人公です。

このシリーズは不定期に続いていて、最新では昨年2018年に第7作目の「泥濘」が発刊されていることからすると、なかなかの人気シリーズなんですね。知りませんでした。

この小説で出てくる北朝鮮は、2001年当時の状況ですが、現在2019年と比べてもほとんど変わりはなさそうで、そのことが、日朝間の関係と北朝鮮の国内情勢を表している感じがします。

日本国内で詐欺に遭った暴力団や、仲介した中古建設機器販売会社から脅され、詐欺師を追って北朝鮮に侵入しますが、様々なアクシデントもあり、その緊張感が半端なく伝わってきます。なんにしろ、密航で捕まったら処刑されそうな国ですからね。

強面で古い時代のヤクザらしいヤクザのイケイケ桑原と、喧嘩にはめっぽう弱そうな自営の建設コンサルタントの二ノ宮のコンビは、映像化にも向きそうで、2015年にBSの連続ドラマとしてシリーズ1作目「疫病神」と第5作目の「破門」が、2017年には「破門 ふたりのヤクビョーガミ」というタイトルで映画化されています。

こうした、性格などが違った、動と静、または陰と陽のふたりの男性を主人公としたドラマは多いですね。古くは、「傷だらけの天使」「俺たちの勲章」「あぶない刑事」、最近では「まほろ駅前多田便利軒」「相棒」などなど。

但し、この「国境」に関しては、話しの半分が北朝鮮国内の設定だけに、ドラマや映画化にはロケ地などモロモロとお金もかかりそうで、政治的にもトラブルが起きそうで厳しいでしょう。

ストーリーもよく考えられていて、北朝鮮の国内状況、密航方法などもどこっまで創作かはわかりませんが、よくできていて、スリル満点です。

久しぶりに、ドキドキするハードボイルド小説?を読んだって気がします。

★★★

著者別読書感想(黒川博行)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

残念な人のお金の習慣 (青春新書プレイブックス) 山崎将志

2011年12月に発刊された新書です。著者はアクセンチュア出身のビジネスコンサルという、掃いて捨てるほどいそうな経歴の方です(失礼)。

情けないことに、2016年にも買って読んでいました。が、最後までそれに気がつきませんでした。

2016年7月後半の読書と感想、書評「残念な人のお金の習慣」

この著者の本では、その他に「残念な人の思考法」を読んでいます。

2010年9月前半の読書「残念な人の思考法」

感想は上記を読んでいただくとして、[お金の習慣」という点では、もうなにをするにしても手遅れな年齢になってしまいましたが、過去を振り返って客観的に自己分析すると、稼ぐ力は100点満点中80点を取れたと思いますが、使い方については40点ぐらいだったかなと最近考えるようになりました。

そのうちダメダメだった「残念な使い方」の話しをブログに書いておこうと思いますが、こうした経験は、その時代、そのタイミング、健康状態や気持ちの余裕、家族や家庭の事情など多くのことが複雑に絡み合っておこなわれるもので、それが反面教師になるかというと、たぶんなりません。

つまり、お金の習慣というのは、その時代やライフスタイル、彼女や配偶者、親兄弟など様々な要因で一人一人変わってくるものじゃないかなというのが実感です。

そして、例え外から見れば「バカな使い方している」と思っても、使っている本人は案外ハッピーなのかも知れません。それは外からはまずわかりません。

★★☆

【関連リンク】
 7月後半の読書 占星術殺人事件、ソクラテスの妻、我が家の問題、「日本の四季」がなくなる日 連鎖する異常気象
 7月前半の読書 俘虜記、地層捜査、定年後7年目のリアル、私の家では何も起こらない、社会を変えるには
 6月後半 湿地、偶然のチカラ、よるのふくらみ、転々、遠くの声に耳を澄ませて



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1353
小説の舞台を歩く(佐々木譲著編その1)の続編です。

今回は「地層捜査」(2012年)の舞台となった東京都新宿区荒木町です。

え?読んだことがない?それは残念。面白かったですよ~

7月前半の読書と感想、書評 2019/7/17(水)「地層捜査」
 
2015年には「警視庁特命刑事☆二人」というタイトルでテレビドラマが放送されました。
  
小説の舞台となっているのが、東京都新宿区の四谷三丁目にある荒木町という実在するエリアです。

このエリアは、江戸時代には美濃国高須藩藩主松平義行の屋敷があった場所で、明治維新以降は花街として賑わい、近くに大本営(市ヶ谷)があった関係から、羽振りの良い軍部の幹部達が夜な夜な集まってきたりしていたそうです(地元の人の話)。

そういう場所で15年前に起きた未解決の殺人事件を再捜査するよう命ぜられた主人公の刑事が、15年前にその捜査をおこなっていて未解決のまま定年退職をした元刑事とパートナーを組み、事件の真相に迫っていくというストーリーで、このエリアが忠実に描かれています。

このエリアは戦災に遭わなかったのか、道路が区画整理されてなく、明治時代の面影を残したままで、都心にありながらクルマ1台がやっと通れるほど狭い上に、行き止まりの路地があったり、変に屈曲していたりします。

荒木町の全体図です。最寄り駅は地下鉄丸ノ内線四谷三丁目。


新宿通りから、車力門通り(上)入り口と、杉大門通り(下)の入り口です。通り名からも花街があったことが忍ばれます。戦後の都市計画から免れたのか、都心の真ん中とは思えないほど狭い道路です。



そして特徴的なのが、崖と言える大きな段差が周囲にあり、狭いエリアながら地形的にすり鉢型をした地形となっています。

津の守坂通りから、一歩入ると一気に高低差がある崖となります。


崖には道路ではなく石段が作られていて、現在はコンクリ製がほとんどでしたが、一部には、1903年(明治36年)に開業し1970年(昭和45年)に撤去された都電の軌道に敷き詰められていた敷石をそのまま使い敷かれています。また狭い路地にも同じ敷石が敷き詰められている場所がありました。

小説の中で15年前に殺人事件が起きた場所(崖)と、その下の石が敷き詰められた小道


そのすぐ近くには、荒木町随一と言われた有名な割烹「奈る駒」があった場所


その事件現場近くには、すり鉢状の底辺の位置に、津の守弁財天と小説の中では「かっぱ池」こと「策の池 (むちのいけ)」があります。昔はここに滝があって、その見物客で賑わい、やがて周辺に茶屋や料亭などができたということです。





車力門通り沿いにある金丸稲荷神社の玉垣(神社の柵の石柱)には、当時の寄進者名として、上記の料亭や芸妓の名前が刻まれていました(左)。地内の中心部にありながら、珍しく戦前から幅が変わらない狭い車力門通り(右)



車力通りから策の池へ下っていく石段を撮影していたとき、地元の人らしい男性が歩いてきて、不審者を見るような目でにらまれたので、「読んだ小説にこの付近のことが出ていて、見学してます」と言うと、態度がガラッと変わり、逆にどういう小説か教えて欲しいと頼まれたので、持っていた文庫本の最初に描かれていた地図のコピーを差し上げました。

まだまだ歩きたいところはあったのですが、お昼休み時間に抜けてきていたので、急ぎ足でサクッと撮影しながら歩きましたが、もう一度来てゆっくりと歩きたい場所でした。

その他にも、この次は「警官の血」(2007年)で出てきた谷中公園近くにあった五重塔跡地などへも行きたいと思っています。

小説の舞台を歩く(佐々木譲著編その1)

【関連リンク 佐々木譲著小説】
1348 7月前半の読書(地層捜査)
332 1月下旬の読書(警官の血)
250 7月後半の読書(天下城)
237 4月後半の読書(飛ぶ想い)
235 3月の読書後半(犬どもの栄光)
232 3月の読書前半(制服捜査)
230 2009年2月の読書(北辰群盗録)



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1352
占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫) 島田荘司

数多くの小説やエッセイなどを書いている売れっ子作家さんの小説デビュー作品(1981年単行本刊)です。

その後、文庫やノベルスなど多くの形態で出版されてきましたが、今回読んだのは、2013年刊の改訂完全版と銘打った文庫版です。

著者の作品を読むのはこれが3作目で、過去には「眩暈」(1992年刊)と「写楽 閉じた国の幻」(2010年刊)を読んでいます。

708 2013年4月後半の読書(写楽 閉じた国の幻)
426 2010年8月後半の読書(眩暈)

主人公は「眩暈」にも登場していましたが、著者のシリーズ作品として根幹をなす「御手洗潔シリーズ」の記念すべき初登場小説となります。

うつ病ながらも自宅で占星術占いなどをして生計をたてている御手洗のところに、ある犯罪に関係する手記が持ち込まれます。

そこで友人でワトソン役の石岡が、その事件のことを説明をするために御手洗の家に訪ねてきます。

その事件は、戦前の1936年2月26日(2.26事件と同じ日)に、裕福な芸術家が自分のアトリエで殺され、その後、残された手記になぞって、その芸術家の一族が殺されます。

しかもその遺体は手記に書かれた通り、遺体の一部が切り取られて発見されます。ちょっとホラーじみています。

その事件の犯人について、警察はもちろん、多くのミステリーファンが謎に挑戦したものの、結局解決することが出来ず迷宮入りとなっていました。

なるほど、かなりの大作ですが、様々なところに謎を解くためのヒントが散りばめられています(あとでわかる)。

最後に御手洗が謎を解く前に、著者から読者に対して挑戦文が書かれていました。「これで謎は解けるはず」と。でも私には、難しすぎました。

ミステリーですから、ヒントを書くのも躊躇われますが、2012年に読んだ蘇部健一著の「六枚のとんかつ」(1997年)と同じ構造です。同書にも、「占星術殺人事件を先に読むように」と書かれていました。すっかり忘れてました。

なかなか読み応えのある、面白い本格的なミステリー小説でした。

★★★

著者別読書感想(島田荘司)

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ソクラテスの妻 (文春文庫) 柳広司

2010年に「最初の哲学者」として単行本が発刊、その後タイトルを変更して2014年に文庫版が発刊されたギリシア神話をなぞった短編作品です。

収録作品は「オイディプス」「異邦の王子」「恋」「亡牛嘆」「ダイダロスの息子」「神統記」「狂いの巫女」「アイギナの悲劇」「最初の哲学者」「オリンポスの醜聞」「ソクラテスの妻」「王女メデイア」「ヒストリエ」の13編です。

神話好きにはよく知られている人物(神)などが登場してきて、身近に感じられるのでしょうけど、そういう話しに無知だと話しがよく理解ができず、消化不良のまま次々と流れていってしまいそうな感じです。

私?

えぇ、6年前に著者の「パルテノン」を読んだことがある程度で、ほとんどギリシア神話について知らないので、流されていったクチです。

695 2013年3月前半の読書「パルテノン」

わからないので、オチとかも理解できず(あるのならば)、歴史ミステリーを得意とする著者の作品に大きく期待して読んだだけに、ちょっと残念な結果に。

★☆☆

著者別読書感想(柳広司)

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我が家の問題 (集英社文庫) 奥田英朗

2011年単行本刊、2014年に文庫化された短編小説集で、「甘い生活?」「ハズバンド」「絵里のエイプリル」「里帰り」「夫とUFO」「妻とマラソン」の6編が収録されています。

この「家シリーズ」とも言える短編集では、過去に「家日和」(2007年刊)を2010年に文庫版を読んでいます。

主に主婦からの視点で、日常の淡々としたくだらない話しが淡々と書かれていますが、気になったのは、「専業主婦」「寿退社」などというパターンが多く、どうも現代の話しとは思えず、昭和の高度成長期の話し?って思ってしまいますが、発表されたのは2009年から2010年とのことで、なにか一般世間とずれている感じです。

その中では、夫婦が共働きで、お盆休みを合わせ、それぞれの実家へ里帰りする「里帰り」は、なるほど夫婦がともにずっと離れた地方出身だと、せっかくの連休も海外旅行ではなく、里帰りのはしごをすることになり、そういうこともあるなとは思います。

かなり女性読者を意識した内容になっていると思われますが、ちょっと著者が得意としている緻密でウイットに富んだ作品とはかけ離れた作品となってしまっているような気がします。

「家シリーズ」の続編「我が家のヒミツ」(2015年)も読みたかったのですが、ちょっと考え直さなければなりません。

★☆☆

著者別読書感想(奥田英朗)

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「日本の四季」がなくなる日 連鎖する異常気象(小学館新書) 中村尚

テレビや新聞などでよく見かけるようになった「異常気象」という刺激的な言葉にいつも違和感を感じていて、一応専門家が書いた同書を読んでみようと思い立ったわけです。

2015年に発刊された新書で、著者は東京大学 先端科学技術研究センター 気候変動科学の教授です。

高校生でもわかるレベルと書かれていましたが、専門用語や気象用語が頻発し、なかなか理解するのには集中力と理解力、読解力が必要で、一応、一級小型船舶免許を取得するため、最低限の気象の勉強はした私でも、寝る前に寝転びつつあくびをこらえて読むのには不向きでした。

気象の話しでは良く出てくるエルニーニョやラニーニャ現象のことはわかるものの、テレコネクション(遠隔影響)、コリオリの力、ブロッキング高気圧、PJパターン、シルクロードパターン、亜寒帯ジェット気流、アゾレス高気圧、マルチモデルアンサンブル、CMIP5モデル、温暖化のハイエイタス、ロスビー波と発展していくともうダメ、それでなくともカタカナにアレルギーが出始めてきたので、とにかく集中出来ません。

でもなんとなく、なぜ異常気象と言われる豪雨や猛暑、冷夏、巨大台風などが起きるのかなどはわかりました。

特に何度も繰り返して書かれていますが、気象の変化と変動はまったく別物で、それを一緒にして「異常だ」というのは間違っていると言うこと。

つまり、「今年は台風が多かった」というのは一時的か短期的な変化であって、「海洋温度が年々上昇していて、台風の発生が年々上昇し、その規模も大きくなってきた」というのは変動と言えます。

一時的な変化については、対応策も限られますが、今後起きるであろう変動による災害や気象の変動にはまだ十分に対策の余地があるということです。

わかりやすい例で言えば、高潮対策の堤防の高さも、50年前の予測と、今の予測では大きく変わってきています。

じゃーどうすれば?というのは、個人レベルでできることはほとんどありませんが、二酸化炭素排出を控えるべきとして、もはや江戸時代の生活に戻ることはできず、また気象は地球レベルでの変動なので、一国の対応でどうにかなるものでもなく、今後起こりうる自然災害に対して、どうやって対処していくかということになりそうです。

★★☆

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