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1292
あけましておめでとうございます。
本年も引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


昨年は、おかげさまで比較的穏やかな1年を送ることができました。
今年も1年健康で過ごし、さらに皆様のご健勝も願っています。

 12月後半の読書と感想、書評
 *豆の上で眠る 湊かなえ
 *八月十五日に吹く風 松岡圭祐
 *定年後のリアル 勢古浩爾
 *あのひとは蜘蛛を潰せない 彩瀬 まる
 *抱擁家族 小島信夫

======================

豆の上で眠る (新潮文庫) 湊かなえ

2008年に大ヒットしてその後映画が製作された「告白」で華々しくデビューした後、順調に売れっ子作家となっている著者の14作目の小説で、2014年単行本、2017年に文庫版が発刊されています。

最後に大きなどんでん返しを配した驚愕ミステリーを書く作家としてのイメージが定着してきましたが、これもその期待に違わない作品に仕上がっています。

タイトルは「エンドウ豆の上に寝たお姫さま」というアンデルセン童話から来ていて、主人公姉妹が子供の頃に好きだったこの童話と、その話の中身にわずかながら触れた小説となっています。

主人公女性がまだ小学校1年生だった頃に、2つ上の姉と近所の神社へ一緒に遊びに行ったあと、先に帰ったはずなのに、家に戻ってなく、行方不明となってしまいます。

行方不明はその後2年間続きますが、2年後に、その行方不明になった神社で、痩せ衰え、人相も変わった姿で発見されます。

発見された姉は、この2年間のことはまったく記憶になく、どこで何をしていたか、誘拐したのは誰かなど不明です。

さて、この発見された姉は、本当に姉なのでしょうか?

というのが大きなミステリーとなっていて、最後の最後まで、読者にモヤモヤをため込ませ、最後に一気にその謎が明かされるというミステリーの王道のようなストーリーです。

あとで読み返すと、最初のほうにその大きなヒントがちゃんとありました。

ま、常識では、あり得そうもないことですが、ミステリー小説としてはよくできていると思います。

ただ、短編でも書けそうなぐらいの内容だけに、なにか余計な話しをいっぱいくっつけて引っ張りすぎって気もします。

★★☆

著者別読書感想(湊かなえ)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

八月十五日に吹く風 (講談社文庫) 松岡圭祐

先に文庫本を2017年に発刊後、数ヶ月語に単行本を発刊するという非常に珍しいパターンの戦記物小説です。小説とは言っても多くを実名で書かれているらしいノンフィクションに近い小説となっています。

著者は千里眼シリーズなどで有名で、数多くの映画やドラマの原作ともなっている小説があります。そうした現代を舞台とした作品の他に、近代歴史時代小説作品も少ないながらあり、この著作もそれに該当します。

八月十五日と聞くと「終戦記念日」とすぐに出てくる人は徐々に減ってきている(若い子に「日本は昔アメリカと戦争した」と言うと、「えぇ~うそ~信じられな~い」と言われるそうです。今はC'mon, baby アメリカ♪ですからね)と思われますが、日本の体制や価値観が、それまでから180度転換した明治維新と並ぶ大きな変革の日です。

この作品では、その終戦記念日の8月15日に特別な意味を持たせてはいません。

物語は、1943年(昭和18年)5月27日から7月29日にかけておこなわれた「キスカ島撤退作戦」の話しが主です。

それまで日本軍の作戦は、負けが込んでくると、撤退ではなく、玉砕という見殺しをするのが普通ととらえられてきた中で、誰しもが不可能と思えた米軍に包囲されているアリューシャン諸島のキスカ島(鳴神島)に残された日本の守備隊5500名全員を、米軍の裏をかいて無事に救出するという快挙があります。

こうした行動が、「日本人は死ぬことに対し恐れはなく、例え日本本土を占領しても次々と刃向かってくる野蛮人で、仲間さえを平気で見殺しにする」というイメージから、「苦難を承知で仲間を救出する高度な文明人」へと見方が変わり、その後の占領政策に影響したと言われています。

主人公はその撤退作戦を成功させた木村昌福少将と、大学で気象観測を研究し、霧の大量発生を予想した気象予報士官です。

燃料不足の折、一度は霧の発生が十分でないことで、突入をあきらめ一旦帰還したことで、大本営からは非難をうけるも、意に介せず、次のチャンスを待ち、さらに米軍の裏をかいて遠回りの逆方向から島に近づき、まったく察知されることなく、作戦を成功させます。

そして、撤退が無事に完了した後の8月15日に、アメリカ・カナダ連合軍3万5千の大軍がキスカ島へ一斉攻撃をしかけて、上陸作戦を決行します。

そこはもぬけの殻で、後に「史上最大の最も実戦的な上陸演習であった」と言われることになります。

こうした歴史ドラマをフィクションに仕立ててあるものの、苦難な時においても、ただ長きに巻かれるではなく、人生の岐路に立ったときになにが大事かということに気がつかされそうです。

★★★

著者別読書感想(松岡圭祐)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

文庫 定年後のリアル (草思社文庫) 勢古浩爾

多くの新書を中心とする著書を書いている著者の2010年単行本、2013年に文庫版が発刊されている新書的な文庫本です。

その後、この本の売れ行きがよかったのか、二匹目のドジョウ的に「定年後7年目のリアル」(2014年)、「さらなる定年後のリアル」(2015年)と次々定年本が出ています。自分のことを、そのまま書くわけですから割と楽にかけそうですね。

著者は、大学を卒業後、就職に失敗し、大学院へ進み、さらに大学院卒業時の就職も上手くいかずに零細出版社に勤務、その後その会社で30数年勤め上げ、60歳の定年直前に退職をして、文筆業や出版プロデュースをおこなってきた方です。

そうした経歴で語る「定年後」は、近々定年となる私にとって、定年を迎える状況が割と似通っていて参考になることが多いです。なにかとても親近感がわきます。

世に出ている多くの定年本、リタイヤ本とはひと味もふた味も違った内容で、やや本人の恨み辛みや個人的な思い込みが強く出ているものの、言わんとしていることはわかります。多分に独りよがりであることは自らも認めているわけですが。

それにしても「それがどうした」「勝手にどうぞ」と言った、皮肉っぽく構えた突き放した感じが共感できるところです。

有川浩、村上春樹、上野千鶴子などの人気作家達の定年や定年後の趣味・生活を表した著書や発言をけちょんけちょんにけなしているところも、揚げ足取り的な気もしますが、ユニークで素敵です。これらは一読の価値ありですぞ。

定年後の朝起きて、「さて今日はなにをしようか・・・」という気持ちは多くの定年退職者に共通するところですが、それをダメな人ではなく、当然として受け入れます。そして人が少ない公園へ出掛けるのを日課として傍目からは「寂しそうな引退した高齢者」を装い、誰からも声をかけられるではなく、自分の世界に入ります。

また一般的に言われている「高齢者は裕福」というイメージをぶち壊し、文筆業から得られるお金についてもごくわずかしかなく、雇用延長で給料が半分になっても働いている方がまだマシなぐらいという話しにこの人なら信用しても良いんじゃないかなと妙に親近感を感じてしまいます。

私も来年には今の仕事を引退する予定で、年金が支給されるまで2年近くあり、それまでの間どうしようかなぁ~って不安に思ってましたが、この本を読んで、別にしっかりと引退後の計画なんか作らなくても出たとこ勝負でも良いんじゃないかなという気持ちが強まってきました(笑)

今後、もし機会があれば(書くネタがなくなって困ったら)、この著作に絞って、我が身と照らし合わせ、もう少し紹介を書いてみたいと思ってます。

★★★

著者別読書感想(勢古浩爾)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

あのひとは蜘蛛を潰せない (新潮文庫) 彩瀬 まる

著者は1986年まれと言うことですから32歳という若手作家さんで、2010年に書いた小説が小説新潮に掲載(単行本は未収録)されて小説家としてデビュー。その後、この奇妙なタイトルの本作品が2013年に単行本デビュー、2015年に文庫化されています。

この作品の主人公は、アラサーで実家の母親と暮らしながら、近所のドラッグストアの店長として働く女性です。どこにでもいるような、いないようなよくわかりませんが。

その勤務するドラッグストアはチェーン店で、正社員の他、多くのアルバイトを抱え、24時間営業をしているという設定です。

仕事上の人間関係や、週に一度バファリンを買っていく薬物過剰摂取の女性客、突然来なくなったアルバイトの中年男性の妻からのお詫びなど、日々が淡々と過ぎていく中で、新しく入ってきた爽やかな学生バイト君に興味を持たれ、いつしか恋愛関係に入っていきます。

このあたり、よくわからないけど、アラサー女子の願望みたいなものが入っているのでしょうか?

で、実家から出てひとり住まいを始め、彼ともズブズブの関係となっていく様を見て、なんだか悲しい結末を想像してましたが、あに図らんや、そうはなりませんでした(詳しくは買って読んでね)。

タイトルは、突然失踪してしまった中年のバイトが、仕事中レジの近くに出没した蜘蛛を触れず、オタオタする様をみて、代わりに主人公の女性が排除したことがあり、その触れない理由が「蜘蛛をつかむと潰してしまいそうで」という言い訳したことから来ていますが、それがこの小説の根幹とどうつながっているのかはよくわかりません。

ただこのタイトルにしたことで、注目度はグッと上がることは確かなので、誰が付けたのかは知りませんが、巧いやり方です。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

抱擁家族 (講談社文芸文庫) 小島信夫

1965年初出の小説で、その年に谷崎潤一郎賞を受賞し、その後文庫化されています。著者の作品では、1955年に「アメリカン・スクール」で芥川賞を受賞されています。

数多くの著書や海外小説の翻訳などがありますが、なぜか今まで読んだことがありませんでした。どこか難解そうっていう先入観があったのかも知れません。

内容は、思っていたものとはだいぶんと違っていて、終戦後の裕福な一家に起きる様々な騒動と、そこの主人(主人公)の右往左往がコミカルでもあり、シニカルでもあるというなんとも言えない家庭痴話小説です。

主人公は翻訳を生業としながらも大学教授というエリートで、専業主婦で派手好きな妻のために家を新築するようなお金持ちです。

その妻は自宅に下宿させていたアメリカ人米兵と浮気をしますが、なんとももどかしくそれをとがめられません。1965年当時、高度成長期に向かう中で抑圧されてきた主婦にとって、この小説の裕福な旦那と奔放な妻は拍手喝采、鬱憤を晴らせたという感じだったのでしょうか。

その妻も最後には癌にかかり、亡くなってしまうことになりますが、その妻にぞっこんだった夫は哀れでありながらも、自業自得という人のからかいを受けてしまう、こうした富裕層に対してひがみを持つ多くの人達にとって支持されたのかなと思われます。

いや、でも、結構、鬱々として退屈な内容でした。さすが谷崎潤一郎賞だけのことはあります。

★☆☆

【関連リンク】
 12月前半の読書 ベルカ、吠えないのか?、地下街の雨、イノセント・デイズ、明智左馬助の恋、人生はすべて「逆」を行け
 11月後半の読書 ハリー・クバート事件、とにかくうちに帰ります、代償、介護ビジネスの罠、黒冷水
 11月前半の読書 孤舟、天使の卵 エンジェルス・エッグ、社会人大学人見知り学部卒業見込、沈黙の町で、流れ星が消えないうちに



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1287
ベルカ、吠えないのか? (文春文庫) 古川日出男

2005年に単行本、2008年に文庫化された長編小説です。著者は今年52歳、劇作家として戯曲も得意としながら、数多くの小説を出している作家さんですが、今回初めて読みました。

本著は、軍事用に特別に訓練されたシェパードなどの何代にもわたる遍歴と、世界中で実際に起きた戦争やテロなどで、犬がどう活躍してきたのかを絡めたものですが、とにかく「よくわからん」というのが本音のところです。

著者はなにが言いたいのか?、なにを書こうとしたのか?、読者にどう感じて欲しいのか?さっぱりわかりません。なにか著者の自己満足に付き合わされているような気がします。

ま、こういう小説があっても無駄とは思いませんが、突然、犬に人の感情や人格を持たせてみたり、犬の生殖を人間化してみたり、また時代が現代と過去と煩雑に行ったり来たりし、そして犬に勝手に国籍をつけていますが、それって意味があるのか、など疑問に思うばかりです。

できれば小説らしく、ちゃんとひとりの主人公(犬でも可)を置いた一貫したストーリーであって欲しかったなというのが感想です。

★☆☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

地下街の雨 (集英社文庫) 宮部みゆき

1994年単行本、1998年に文庫化された短編集小説です。

とにかくミステリーからエッセイ、ファンタジーから時代小説までなんでもこいの多作な作家さんで、しかもそれぞれが十分に楽しめるエンタメ才能があふれるほど豊かです。

この著者の作品を手に取ると、その中身を見ないでも安心ができるという作家さんのひとりです。

と言っても数え切れないぐらい数多くある著作の中から、現在のところ12作品しか読んでいないので、とてもファンとは言えませんが、心の安寧を得るためか、時々思い出したように手に取ってみたくなります。

著者は最近では直木賞や日本SF大賞など様々な文学賞の選考委員として見かけますが、いわば宮本輝氏らと同様に、業界のボス的な存在なのでしょう。もちろん良い意味でです。

さてこの短編小説集では「地下鉄の雨」「決して見えない」「不文律」「混線」「勝ち逃げ」「ムクロバラ」「さよなら、キリハラさん」の7篇が収録されています。

読ませるちょっと不思議な短編集と言ったところですが、中でもタイトルにもなっている「地下街の雨」は印象深い作品です。

婚約までしながらその後に破談となり、割り切りながらも鬱々としてる女性が主人公ですが、最後の種明かしで、「えぇ~!」という展開には、現実的にはあり得そうもねぇな~という思いと、そうした役者揃いがテレビでよくやっている「ドッキリ」を仕掛けられる人生があれば、それも刺激があって面白そうという思いがあります。

人は平穏を求めながらも、心の片隅には、ちょっと刺激的で、他人にかまわれることを望んでいるのかなぁと自分に置き換えて考えてみたりします。嫌な人には絶対にかまわれたくないですけどね。

★☆☆

著者別読書感想(宮部みゆき)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

イノセント・デイズ (新潮文庫) 早見和真

2014年に単行本、2017年に文庫化された長編小説です。著者の作品を読むのはこれが最初です。

この作品は今年2018年に妻夫木聡、竹内結子などの出演でWOWOWでテレビドラマ化されています。

主人公は男にふられた腹いせに男の家族が住む家に放火し、妻と子供を殺して死刑判決を受けた女性。

女性は事件に関わったことは認め、死刑判決が出た裁判員裁判の1審だけで控訴をせず、通常6~7年と言われる死刑執行までの期間、外部との接触はすべて断り、死刑囚として穏やかに過ごしています。

マスコミは凶悪犯罪の女死刑囚として大々的に取り上げ、その女性の過去を薄っぺらに決めつけて報道しますが、そうして出来上がってきた悪女のイメージとは裏腹に、その女性の子供時代に同じ学校で仲が良かった人達が、その後の交友関係や、身に降りかかったえん罪事件など、関係者からひとつひとつ明きらかにしていきます。

ま、その主人公の性格や感情を、ちょっと無理して作りすぎって気もします。いかにも男性が作り出した幻想というものでしょうか。小説ですからね、致し方ないわけです。

タイトルは、innocent(無実の、純真な、お人好しな)の意味をうまく象徴して使われています。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

明智左馬助の恋 (文春文庫)(上)(下) 加藤廣

今年2018年4月に亡くなられた著者の、「信長の棺」「秀吉の枷」とともに、「本能寺三部作」と言われる作品で、2007年に単行本、2010年に文庫が発刊された歴史長編小説です。

2006年には、この小説を原作とし、タイトルを「敵は本能寺にあり」としてテレビドラマ化されました。出演は、市川染五郎、玉木宏、釈由美子、竹中直人など。

主人公の明智左馬助は実在した人物で、正式には明智秀満と言う名で、主君である明智光秀の重臣です。光秀の娘を嫁にもらった後、明智姓を名乗るようになったと言われています(諸説あり)。

本書では、本能寺の変は、明智光秀もこの主人公の明智左馬助も、最初は信長を殺すのが目的ではなく、公家衆からの要請に応える形で、天皇の勅命と信じ、信長を捕らえて引導を渡し、引退させるのが目的だったところ、部下の中に比叡山の焼き討ち事件で両親や兄弟を信長勢に殺された遺族が数名いたことで、それらが信長憎しで先走った結果、激しい戦闘状態となってしまったことになっています。

また明智勢が発見できなかった信長の遺体については、織田家の菩提寺である阿弥陀寺の僧侶がどこからか引き取っていたことがわかり、その遺骨の埋葬については、今後信長後継者による遺骨の奪い合いの政争に巻き込まれることがないよう、左馬助が阿弥陀寺へ入れ知恵をします。

と、まぁ、新たな新説なども織り交ぜつつ、クライマックスの本能寺の変と、その後明智家が滅亡していく様子が明智側からの視点で描かれたことに新鮮さを感じます。

そうそう、まだ1年以上先のことですが、2020年のNHK大河ドラマは「麒麟がくる」で、その主役は明智光秀だそうです。その光秀役には長谷川博己が決まっています。

今までの大河で描かれる明智光秀は、悪役で小物感いっぱいでしたが、一気に知将・名将として躍り出るのでしょうか。

★★★

著者別読書感想(加藤廣)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

人生はすべて「逆」を行け 川北義則

2011年刊のソフトカバー単行本です。著者は今年83歳という高齢ながら積極的に出版プロデューサーや評論家として活躍されている方です。

過去には「男の品格」(2006年刊)と「遊びの品格」(2009年刊)を読んでいます。

ま、それなりに事業の経験を積んでいると常識的な話しが多いのですが、いくつか金言を抜き書きしておくと、

・世の中「理不尽が当たり前」と思え
・皆がうなずくときは疑ってかかれ
・怒って当然のときこそ怒るな
・他人の目なんて気にしてどうする
・正義や善意を免罪符にするな
・人間関係はうまくいかなくて当然

などなど。他にもいいところを突いている話しも多くあります。

ただ、「就職するなら「大企業」の間違い」については、大きな間違い。今こそ政治家も評論家も識者と言われる人までこぞって「大企業志向は間違い!」と言っているので、私はあえて今こそ大企業を目指すべきと思ってます。

なんと言っても「大企業志向は間違い!」と言っている人達のキャリアを見てご覧なさい。ほぼ全員がそうそうたる大学を卒業し、大企業や国家公務員として就職したり、学を究めた国立大学の学者先生などです。そういう人達の言う「大企業志向は間違い」って信用できるわけありません。

自分たちの頃とは違うと言いたいのかも知れませんが、なにも変わりません。ここ20年間でコンスタントに給料が上がっているのは大企業と役人だけですし、教育や福利厚生に手厚く、給料だけでなく様々な恩恵が得られ、転職する時や、独立して事業を起こすときにそのキャリアや人脈がモノを言うのも大企業や国家公務員だけです。

★★☆

著者別読書感想(川北義則)

【関連リンク】
 11月後半の読書 ハリー・クバート事件、とにかくうちに帰ります、代償、介護ビジネスの罠、黒冷水
 11月前半の読書 孤舟、天使の卵 エンジェルス・エッグ、社会人大学人見知り学部卒業見込、沈黙の町で、流れ星が消えないうちに
 10月後半の読書 開かせていただき光栄です、新版 ユダヤ5000年の教え、深夜特急〈第一便〉黄金宮殿、ようこそ断捨離へ

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1283
ハリー・クバート事件(上)(下) ジョエル・ディケール

スイス人作家が書いたアメリカが舞台の長編小説でベストセラーとなった作品です。これが長編作品としては実質的なデビュー作ということで驚きです。2014年に単行本、2016年に文庫本が出ています。

小説の中でも、デビュー作で大ヒット作をかっ飛ばした男性小説家が主人公で、その後、第2作目がさっぱり書けず、高額な出版契約をした会社とも気まずくなり始めています。

学生の頃に作家となるためにいろいろ指導してくれた師匠の大学教授にスランプだと泣き言を言うと、ニューヨークから離れ、師匠が住むニューイングランド地方の家へ来て静養すれば治るかもと言われ、しばらくそこで過ごすことになります。

その時、師匠の家で、ある少女と師匠が仲睦まじく一緒に写った写真と、その少女が33年前に謎の失踪を遂げたという新聞記事の切り抜きなどを見つけます。

そして、自宅のNYへ戻ったあと、今度はその師匠が33年前の殺人容疑で逮捕されたという連絡が入り、急ぎニューイングランドの師匠の家に向かいます。

師匠の家の庭で失踪した少女の骨が見つかったという容疑で、師匠は知らないと否定しますが、かなり不利な状況の中、そこでなにが起きたのか、小説の執筆は忘れて自分なりの捜査を始めます。

やがて、その捜査を通じてわかったことをノンフィクションとして書くことで、その本は大ヒット間違いないと出版社から言われ、昔、師匠から教えてもらった通りに、事件の模様を書いていくことになります。

ただそれだけですが、事件が複雑にあれこれ絡んでいて、恋愛あり、捜査を妨害する身元不明の人物の反撃あり、被害者家族の問題や、どんでん返しなど、エンタメ系小説に求められる要素を全部ぶち込んで、一気読みしたくなりそうな息つく間もないスケールの大きな作品に仕上がっています。

細かな点では、警察やマスコミの大げさな反応など、アメリカ人のステレオタイプ的な表現が多くあり、そこはアメリカで時々過ごしていたとは言え、外国人が描くアメリカ社会とアメリカ人像の象徴みたいなものなのだろうという感じがします。

上下巻で1000ページ近い長大なミステリー小説で、分厚い文庫を最初手に取ったときは読むのに骨が折れそうと暗い気持ちになりましたが、読み進めていく内に、謎が謎を呼び、上巻が終わる頃には、とにかく早く結末を知りたいという焦りと感情がわいてくる魅力ある作品でした。

★★★

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

とにかくうちに帰ります (新潮文庫) 津村記久子

著者は作家になる前、約10数年間、会社員として勤めた経験がある方で、そうした職業経験からくる話しが多い作家さんです。

私は2015年に「ワーカーズ・ダイジェスト」(初出2011年)を読んでいます。

10月後半の読書と感想、書評「ワーカーズ・ダイジェスト」2015/10/31(土)

今回の作品は2012年に単行本、2015年に文庫化された、短編小説集で、テーマはいずれも普通にどこでもありそうな会社勤めの風景や、サラリーマン群像といったところです。

「職場の作法」は何話かの連作短編で、さらに同じ登場人物で「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」が続き、単独の短編として「とにかくうちに帰ります」が続きます。

正直言うと、あまりにも平凡で抑揚もない淡々とした語りで、読み進めていくのがつらいと何度も思いました。人の生き死にもなく、憎悪や嫉妬もなく、巨額マネーも動かず、愛憎や官能を揺すぶるものもないテーマで小説を書くという難しさがわかります。

それなら途中で読まなきゃいいのですが、その先になにか面白いことがあるかも?と思って、短編でもあるので最後まで読みました。でも最後まで特になにか心に響くようなこともなく、淡々としたまま終わってしまいました。

こういう小説に共感を感じる人も多いのでしょうけど、私には時間の無駄としか思えません。

そう言えば、前に読んだ小説でも、やたらと淡々と日々が過ぎていくだけという平坦な小説があり、最近そういうのが増えてきているのでしょうかね。

いや、別にド派手なジェットコースター小説を求めているわけではないのですけど、ここまで草食系に特化した小説というのは、今は私にとっては面白くもなんともないです。

★☆☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

代償 (角川文庫) 井岡瞬

著者は1960年生まれで、広告会社を経て2005年に「いつか、虹の向こうへ」で作家デビュー、この作品はデビューから6番目(長編としては4番目)の小説で、2014年に単行本、2016年に文庫化された長編小説です。この著者の作品を読むのはこれが初めてです。

見てはいませんが、この小説を原作として、小栗旬主演のネットドラマが2016年に製作されたようです。

前半はとにかく主人公の暗くつらい日々が続きます。普通の家庭の一人っ子として生まれた主人公の子供時代ですが、近所に引っ越してきた親戚の同学年の子が現れたことで、その生活は一変してしまいます。

まず自宅が火事に遭い、両親が焼死してしまいます。火事になっても目が覚めなかった両親には一時的に預かっていたその親戚の子供が両親に睡眠薬を飲ませたからというのがあとでわかります。

両親を失った主人公はその親戚に預けられ、親が残した保険金や財産は後見人となったその親戚の両親に奪われ、さらに育ててやっているのだという差別的で屈辱的な日々を過ごすことになります。

後半は、一変して、そうした過酷な環境から友人とその叔父の助けで抜け出すことができ、大学にも通い、司法試験に合格した後、弁護士の職に就くことになります。

そんな中、両親を火事で殺し、その後一緒に住んでいた親戚の子が、強盗殺人容疑で逮捕され、その弁護人として主人公を指名してきます。

そうした様々な感情を持ちながら、弁護を引き受けることになった主人公は、再び親戚の子とその母親に巧妙な罠を仕掛けられながらも、同級生だった友人の助けもあり、切り抜けていくという気の重くなる話しです。

邪悪な犯罪のオンパレードで、鬱の状態や、精神的に落ち込んでいるときなどはあまり読むのはお勧めしません。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

介護ビジネスの罠 (講談社現代新書) 長岡美代

介護・医療ジャーナリストの著者が書いた2015年刊の新書です。タイトルで想像ができるとおり、介護ビジネスに巣くう怪しげな実態が赤裸々に書かれています。

真面目に取材をして丁寧に書かれたものですが、節々に「筆者が取材をしたので」「テレビや雑誌で筆者が訴えかけたので」という自身の売り込みがあちこちにみられ、新書にはよくある自身の自慢本、広告本とも言えます。

著者はこうした書籍などが元となって「介護ビジネスの専門家」「介護問題に詳しい識者」という社会的な位置づけを手に入れて、それを確固たるものにしようとしているのがわかります。なかなか商売上手な方です。

それはさておき、内容については、ややディフォルメがされているような気もしますが、著者の一方的な見解と持論が主になっていて、非難の的に上げられた介護施設などの事業者の言い分などは、取材を受けてもらえないという理由からかまったく不明で、したがって一方的な批判に終始しています。

しかも批判するだけして、その矛先は匿名で、実際の会社名や介護施設名を書くと名誉毀損で訴えられることを免れようとしているのか、あるいは確信を持った事実ではないのかも知れません。

役所や病院、福祉施設にも見放された行き場のない要介護者の受け入れ先として、囲い込みなど問題が多く、介護保険や医療保険の制度を食い物にしていると指摘する介護事業者は、糾弾されるべきなのか、それとも実際に多くの利用者があり、また今後も増加していく介護難民のことを考えると、どこかで折り合いを付けるべきなのか私にもわかりません。

ただ、この本を読んで、いかに国や自治体などの対応がいい加減で、付け焼き刃的なモノであるかと言うことは理解できますので、あらためて家族のことは家族で決め、対処するというのが大事だろうと思いました。

また本来なら要介護者の家族が本来一番表面に出てこなければならないはずが、この本ではなにか意図してのことなのか、まったくと言ってよいほどに触れられず、要介護者の代理人的に出てくるのはNPO団体だったり、ケースワーカーだったり、ケアマネージャーだったりが登場してくるのはちょっと偏向していて安易な感じもします。

タイトル含め刺激的な内容で、関係者以外にはなかなか知り得ないことも多く、またこれからは介護と無縁でいられる人は少なく、法律が改正される前の情報で書かれていることが多いものの、参考なる話しではないかと思います。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

黒冷水 (河出文庫) 羽田圭介

2003年単行本、2005年に文庫版が発刊された小説で、著者がまだ17歳の高校生時代に、河出書房新社が主宰する文藝賞に応募、見事受賞した小説家デビュー作品です。

著者は2015年に「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞を受賞しましたが、その時同時受賞となった又吉直樹著「火花」が大きな話題となりました。

タイトルからホラー小説かな?と思って読み始め(最近カバー裏のあらすじ等は事前に読まないことが多い)ましたが、まったく違って、高校生と中学生の男兄弟をそれぞれの視点から、互いに憎しみ合っていく姿を描いたちょっと気味の悪い家庭内小説です。

個人的にも男兄弟がいるので、それと少しかぶってしまったせいか、夢にまで出てきました。

最後の最後で、ちょっとしたひねりもあり、本当に高校生が書いた小説か?と思える出来でした。賞の審査員達もみなそう思ったのでしょう。

その最後のひねりの箇所は必要だったかどうかは、読む人によって変わってくるかもしれません。私はひねくれですので、多くの人が「ひねり最高」派だと思うので、「なくてもよかったんじゃないの」派です。

ともかく、最近は本職の小説よりも、テレビのバラエティやコメンテーターで見かけることが多くなっていますが、読みたくなる長編の力作をお願いしたいばかりです。

★★☆


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孤舟 (集英社文庫) 渡辺淳一

2010年単行本刊、2013年に文庫版刊の定年後の男の悲哀と希望を描いた長編小説です。

医者として長く勤務されていたので、直木賞受賞作となった「光と影」など医療や病院に関係する小説や、「失楽園」など官能的な大人の恋愛小説で人気だった筆者に、このような定年後の男の惨めな姿をコミカルに描く小説があったとは知りませんでした。

著者は4年前に亡くなっていますが、この小説の団塊世代の主人公よりもずっと前の世代に生きた人で、この小説を書くにあたっては、様々な後輩達から定年後の話しを聞いて、それがこの小説のネタになっているものと思われます。

主人公は大手広告代理店で、執行役員まで上り詰めたものの、60歳になり大阪の子会社の社長へ転出を言い渡されますが、今さら転勤する気はなく、それを断り、会社を辞めてしまった団塊世代の男性です。

「男は仕事、女は家庭」という昭和時代の典型がモデルとなっていて、いかにもありそうな、そして定年後に起きそうなことが次々と予定調和的に起きます。

映画「家族はつらいよ」でも団塊世代の男性が主人公で、まったく似たような展開ですので、こうした団塊世代の男性は一種定型パターン化され、思い込みというかステレオタイプばかりでちょっとその点が気になります。

それにしても、この世代の平均図と言うとオーバーかもしれませんが、この主人公は二子多摩川(東京都世田谷区)にあるローンを終えた100平米もある豪華マンションに住み、60歳から企業年金がたっぷりともらえ、その他にも貯蓄した退職金もあって、仕事を辞めてから半分に減らされたものの、毎月5万円のお小遣いでは不満と言う主人公の設定は、これから60歳を迎えようとする人達にとってはなんとも羨ましい限りです。

さらにこの主人公、妻がプチ家出したことに乗じて、入会金5万円のデートクラブに入会し、1回デートするたびに2万円と、デートの費用を全部負担という、まったく贅沢三昧の生活です。

映画「家族はつらいよ」でも、団塊世代の主人公は横浜の住宅街にある大きな1戸建てに商社勤めの長男夫婦、孫達と住み、長男以外の子供達もそれぞれ結婚し、時々実家に帰ってくるという仲の良い家族がモデルとなっています。

それらが団塊世代の定年後の象徴だと言われると、そんなものかなとも、ちょっと違うんじゃないかとも思えてきますが、両者とも面白おかしく多少の波風は立ちますが、なんとも優雅な定年後です。

定年後、仕事を辞めた途端に毎日朝起きてから「なにやろうか」と悩むことが書かれてますが、よほど仕事一筋で趣味はなく、友達もいないという人でなければ、そうはならないかな。

それよりもお金がないので、なにもできず、どこにもいけず、家でジッと引きこもりって人がこれからは増えていきそう。

ただ、今まで、なんでも他人が代わりにやってくれていたことを、自分で(自分も)やらなければ進まないということはあり、そうしたことの中でも家事(料理や掃除、ペットの世話、近所付き合いなど)の習得だけでもしばらくは忙しく過ごせそうです。

★★☆

著者別読書感想(渡辺淳一)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

天使の卵 エンジェルス・エッグ (集英社文庫) 村山由佳

著者の多くの作品の中では初期の作品で、1994年刊、文庫が1996年刊の恋愛小説です。

その後に続編として10年後を描いた「天使の梯子」(2004年)、さらにその4年後を描いた「天使の柩」(2013年)、スピンオフの短編小説「ヘヴンリー・ブルー」(2006年)などがあります。

さらにこの作品を原作として映画が2006年に制作されています。監督は冨樫森、出演者は市原隼人、小西真奈美、沢尻エリカなど。

単純に言えば女性作家が描くベタベタのハードロマンス小説で、住野よる著の小説を原作とした映画が大ヒットした「君の膵臓をたべたい」と似た、悲恋に終わる恋愛小説の見本、テンプレートみたいな作品です。

主人公は高校卒業し美大を受けたけどダメで予備校通い中の男性と8歳年上の精神科医との恋ですが、まず出会いからして、電車の中がラッシュで窮屈だったのを助けてあげ、その後、主人公の父親が入院した精神病院で偶然にも父親の主治医となった彼女に再会します。

しかもその彼女は、またまた偶然にも高校時代に付き合っていた女性の実姉というおまけ付き。あり得ないでしょう。

ま、一度は、こうした偶然がもたらしてくれた、燃えるような恋愛をしてみたい!と思うのは男女ともに共通することなのでしょうね。30年ぐらい前ならともかく、オッサンにはもう残念ながら共感を感じられません。

と言いつつこの著者の作品を読むのは3作品目で、直木賞受賞作「星々の舟」(2003年)、柴田錬三郎賞など3賞に輝いた「ダブル・ファンタジー」の2冊をいずれも2013年に読んでいます。

中毒性があるのか、忘れた頃にきっとまた別の作品を手に取ってしまうのでしょうねぇ、、、

★★☆

著者別読書感想(村山由佳)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込 (角川文庫) 若林正恭

雑誌ダ・ヴィンチに2010年から連載していたコラムというかエッセイ「オードリー・若林の真社会人」を2013年に書籍化したもので、2015年にその後の追加をした完全版の文庫が出ました。

著者は漫才コンビオードリーの小柄なツッコミ担当のほうで、相方の春日俊彰がムキムキの身体を誇張するど派手で奇抜なイメージだけに、陰に隠れたような存在です。

個人的には著者や相方が出るようなバラエティテレビ番組はまったく見ないので、この本を読むまでは、オードリーという漫才コンビ名ぐらいは知っていても、その漫才師の名前までは知りませんでした。

内容は、大学を卒業し、相方とコンビを組んで始めた芸人生活も、なかなか売れない頃の話しを思いしろおかしく書いているのと、その後急に売れ出して、自慢話しではなく、この人気は一過性で、そのうち売れなくなる日がきっとくると、それに恐れながらも連日多くの仕事をこなしていく日々の話し。

人を笑わせてなんぼの世界にいる人が、なんてネガティブで後ろ向きな見方、考え方をする人なんだ!って思いましたが、世の中案外そういうものかもしれません。

ま、エッセイを読む限りは、著者は人気の芸人さんとは言え、ネガティブ思考も含め、取り立てて言うこともない、普通の方ですね。

特段、おぉ!と感心することもなく、自分の性格やら、考え、出来事の感想などが淡々と綴られているような感じで、日記ブログの延長と言うことなのでしょう。

この本を出すきっかけとなったのは、雑誌ダ・ヴィンチへの寄稿ですが、その前には長くブログを書いていて、それに対してネット上で「中二病」という批判というか評価が高まってしまい、やめてしまったということも書かれていました。

若くて壁にぶつかっている人が読むと共感を得られるかもしれませんが、60歳以上の年寄りが読むにはちょっと気恥ずかしい感じもします。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

沈黙の町で (朝日文庫) 奥田英朗

この長編小説は朝日新聞朝刊に2011年から2012年にかけて連載されたもので、2013年に単行本として、そして2016年に文庫版として発刊されました。

著者の書く小説は、コミカル系、シリアス系などどれをとっても大好きで、文庫になったものはほとんど読んでいます。

直木賞にも輝いた「空中ブランコ」を含む「精神科医・伊良部シリーズ」はもちろん、映画やドラマになった「サウスバウンド」「オリンピックの身代金」などもどれも気に入っています。

普段はあまり好んで読まないエッセィ集も、著者が書いた「港町食堂」は、これは読まなくちゃと思って買ってきました。

5月後半の読書と感想、書評「港町食堂」2015/6/3(水)

この小説の内容はシリアス系で、しかも中学生のいじめ問題や、学校と親たちの葛藤を取り上げたかなり重い内容となっています。

地方都市の中学校で生徒が転落して亡くなっているのが発見されます。直前まで一緒にいたテニス部の同級生達との関係は?という点が焦点となっていきますが、生徒はもちろん、学校関係者、生徒の保護者たち、警察、検事、新聞記者などが入り乱れ、事件の真相が徐々にわかってくるという流れです。

新聞小説という長さが決まった小説の性なのかどうか不明ですけど、ちょっとあちこち余分と思えそうな話題に飛びがちで、それがちょっと気になるところです。

新聞連載小説の場合、毎回新聞紙上で読むと気にならなくても、こうした文庫で一気読みをすると、ちょっとまどろっこしく感じることがよくあります。

単行本で出すときには、多少は見直されているのでしょうけど、どうせなら、新聞で使われた挿絵でも入れた上で、思い切ってバッサリ余計な脂肪は削っちゃうというのも必要かも。

ビックリするようなミステリー仕立てではなく、モンスター保護者や、学校関係者の危機管理の無能ぶりとか、実際起きそうな事象が丁寧に書き込まれているという印象です。

★★☆

著者別読書感想(奥田英朗)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

流れ星が消えないうちに (新潮文庫) 橋本紡

2006年に単行本が、2008年に文庫版が発刊された長編小説で、2015年にはこの小説を原作として柴山健次監督、波瑠や入江甚儀、葉山奨之らの出演で映画が公開されています。

いわゆるユルフワな恋愛小説で、60過ぎたオッサンが読むにはちょっと気恥ずかしく、また感情移入も難しいものですが、現代の恋愛事情をユルく知るにはまぁいいかなと。

特に最近は、内容を知って本を買うことは少なく、誰かが推薦していたり、この小説のように「新潮文庫100冊」に入っていたりするものを適当に買っているから、自分に合ったものかどうかは関係なくよく読むようにしています。

主人公は二人いて、ひとりは父親が遠くへ転勤したためにひとりで実家暮らししている若い女性、もうひとりはその女性と同級生の若い男性。

女性には同級生だった彼氏がいましたが、海外をひとりで旅行中に事故で亡くなり、その後に同じく同級生だった別の男性と現在付き合っています。

日常のことが淡々と語られ、亡くなった恋人との思い出や、恋人が亡くなった状況に一抹の不安があったりして、悶々としています。

新しい彼氏は死んだ恋人とは同級生で親友の間柄。つまり傍から見ると、親友が亡くなったおかげで彼女と付き合うことができたというこれもまた悩ましい立ち位置です。

そうしたちょっと複雑な関係から、父親が突然母親と気まずくなって実家へ帰ってきたり、新しい彼氏と父親が妙に仲良くなったりと、様々なことが進んでいきます。

タイトルは、死んだ彼氏と付き合うきっかけとなった高校生時代の学園祭で、彼氏が作ったプラネタリウムで流れ星を流していたこと、そのプラネタリウムを彼女が実家で預かったままになっていて、それが今もちゃんと動いたことが爽やかな話しになっています。

★★☆

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開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-4) 皆川 博子

著者は1986年に「恋紅」で直木賞を受賞されている方で、私はこの著者の作品を読むのはこれが最初です。今回読んだ作品は2011年単行本、2013年に文庫化された長編ミステリー小説です。

タイトルがちょっと意味不明ですが、これは解剖医が遺体にメスを入れるときに、「お会いできて光栄です」という挨拶をもじって遺体に対して感謝の意味を込めてかける言葉です。

小説の舞台は18世紀のロンドンで、地方からロンドンへ出てきた若い詩人の男と、当時タブーに近かった人体解剖学の医者とその弟子達がメインの登場人物です。

読みながらこの作品は外国人作家が書いた小説の日本語翻訳本を読んでいる感じってずっと思っていたら、あとがきでわかりましたが、著者もそういうつもりで書いたと言うことで、なるほどお見事です。

割り当てられた罪人の死体だけでは間に合わず、墓荒らしから買い取った新鮮な死体を解剖し、死因や身体の内部の詳細な図を作成し、人体の謎を解明を進めている作業場から、顔をつぶされた死体と、両手両足を切り取られた死体が見つかり、どういう経緯でこれらの死体が置かれたのかを盲目の判事が究明していくことになります。

そこは日本人作家らしく、かなり細やかな設定があったり、人の微妙な機微に触れるような場面があったりと、なかなか凝った作りとなっています。それだけにやや煩雑なところもあり、面倒くさい思いもします。

しかし、こうした日本人は一切出てこない、翻訳本のような日本人作家の小説というのも、おそらく初めてに近いかも知れないので、十分に楽しむことができました。

★★★

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

〈新版〉ユダヤ5000年の教え (小学館新書 と 6-1) マービン トケイヤー

1975年に発刊された単行本をベースに2016年に新版新書として発刊されてます。著者はアメリカ在住の宗教指導者(ラビ)で、日本に長く住んでいたこともあり知日派としても知られています。

ユダヤ教やユダヤ人というのは日本や日本人にとってはあまり馴染みがないせいか、誤解されていることも多く、私も今回この本を読んでいくつか知ったことがあります。

ユダヤ教の経典「タナハ」を元にして書かれたのがキリスト教の「旧約聖書」で、そうした経典の他、「タルムード」と呼ばれる伝説をまとめた文学などにもその教えと精神が込められています。

そうした経典やタルムードに書かれた中から現代でも通用する核となる教えを抜き出したのがこの新書です。

朝礼などで挨拶が必要な人が、ちょっとした短い言葉とその意味を自慢げに語るのには、ほど良いアンチョコかも知れません。

ユダヤの教えと言うと、私は中学生の頃に読んだ日本マクドナルド創業者 藤田 田氏の「ユダヤの商法―世界経済を動かす」がすぐに思い浮かびます。ユダヤ人って凄いや!って思いました。

それはともかく、せっかくなので、いくつか印象に残った言葉を書いておくと、

・胃の三分の一は食べ物で埋め、もう三分の一を飲み物で埋め、三分の一を空にしておきなさい
 →何事も中庸というかほどほどがいいよという教え

・本は知識を与え、人生は知恵を与える
 →流浪の民でもあるユダヤ人にとって聖書を読むことで知識をつけていった

・当人の前でほめすぎてはならない。人をほめるときは、陰でほめよ

・失敗を極度に恐れることは、失敗するよりも悪い

・健康ほど大きな宝はない、睡眠ほど良い医者はいない

日本において40年以上読み続けられてきた本でもあり、そうしたロングセラーになるだけの魅力があるということなのでしょう。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

深夜特急〈第一便〉黄金宮殿 沢木耕太郎

1986年に発刊され、1994年に文庫化されたバックパッカー旅行による紀行&冒険ノンフィクション作品です。

今回読んだ単行本は、文庫版の「深夜特急〈1〉香港・マカオ」と「深夜特急〈2〉マレー半島・シンガポール」を合わせたものとなっています。

その後の続編としては、単行本では「深夜特急〈第二便〉ペルシャの風」、「深夜特急〈第三便〉飛光よ、飛光よ」と続きます。

文庫本では、単行本1冊をそれぞれ2冊に分けて「深夜特急〈3〉インド・ネパール」、「深夜特急〈4〉シルクロード」、「深夜特急〈5〉トルコ・ギリシャ・地中海」、「深夜特急〈6〉南ヨーロッパ・ロンドン」、そして番外編?の「旅する力―深夜特急ノート」があります。

この作品が世に出る前の1984年には、私も仕事がらみで香港へ行き、著者が宿泊していたという黄金宮殿迎賓館のある尖沙咀(Tsim shatsui)の重慶大厦のすぐ近くにアパートを借り、3ヶ月間住んでいました。なので街の雰囲気などはよくわかります。

香港は1997年に、マカオは1999年に、99年間の租借地だった英国やポルトガルから中国に返還されましたので、その前と後では街の雰囲気が大きく変わってきています。

著者が香港へ降り立ったのが26歳の時と言うことですから、本書で書かれる香港は1973年頃の話しで、私はその約10年後に著者と同じ?中国に返還される前の香港やマカオの混沌とした街を歩いていたと言うことになります。

そして私も著者が香港を訪れた時と同じ26歳だったこともあり、香港に抱く感情が著者と近いかなと感じられました。

本書で書かれているのは当然返還前のそして観光客が訪れるような場所ばかりではなく、ディープな香港の熱気が描かれています。

私も仕事とは言いながら、当時まだ独身の気軽さもあって、休日や仕事が終わってからは、いつも地元人に間違えらるラフな格好で街中をブラブラと放浪していたので、その奥深い探究心には共通のものがあり、その頃を思い出しつつ、懐かしく読むことができました。

特に用事がなくてもスターフェリーに乗って、わずか数分の船上の旅をひとりで楽しんでいたなんて、まったく同じことをしていて涙が出てきそうです。

元々著者は、仕事に行き詰まりを感じ、友人と「インドのデリーから英国のロンドンまで路線バスに乗って行けるか」という賭けをして日本を出発したのですが、格安で買ったインド航空のチケットが、途中2カ所まで立ち寄りが可能ということになっていたので、それじゃあということで香港とバンコクに立ち寄ることにしたというもの。

その香港ですっかり魅了され、その後、タイやマレーシア、シンガポールとアジアを旅するも、香港の呪縛から離れられずにいるところが面白いところです。

★★★

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ようこそ断捨離へ モノ・コト・ヒト、そして心の片づけ術 やましたひでこ

wikipediaによると、断捨離とは「不要な物を減らし、生活に調和をもたらそうとする思想」で「ヨーガの行法である断行(だんぎょう:入ってくるいらない物を断つ)・捨行(しゃぎょう:家にずっとあるいらない物を捨てる)・離行(りぎょう:物への執着から離れる)を応用」すること。

2007年頃から著者がブログやセミナーを通じて世に広めていった言葉や思想で、2010年の流行語になりました。

その断捨離という言葉を最初に使った(登録商標もされています)著者は、その後は引っ張りだこの人気コンサルタントとなり、様々な関連本を執筆されています。この作品もそのひとつで、2010年に発刊されています。

最近は、高齢者が終活に合わせて、身辺整理をする断捨離とか、極力モノを持たないミニマリストになるための断捨離とかありそうですが、権者の了解なく勝手にこの言葉を使うと、商標違反に問われそうなので注意が必要です。

ちょっとそういう利権話しが絡んでくると、個人的には抵抗があり、気持ち的には引いてしまいそうになりますが、私も60歳となり、子供も大きくなり(まだ巣立ってくれませんが)、そろそろ周辺の片付けをしないとなぁと思って参考に読んでみました。

本書はとりとめなく、ブログに日記風に書いたことのまとめ直しで、どこから読んでも断捨離のエッセンスがなんとなくわかるというもの。

繰り返して書かれているのは、単にモノを捨てるのではなく、入れ替えるのだということ。呼吸や体内の消化系、川の流れと同じで、入りがあるなら同時に出るが必要と言うこと。流れず滞留してしまうとそこから腐ってしまったり悪臭を放つと。

そして断捨離は具体的な整理や破棄の実践ではなく、どういう精神構造になるべきか、気持ちを持って行くかという精神論的な話しがメインとなります。

そのノウハウや考え方については、著者の言い分を繰り返し丁寧に読んで、著者の開催するセミナーに出掛けたくなる断捨離信者となると、人生も変わるのかも知れません。

なかなか私には難しそうですけど、まずは無理しない範囲で、少しずつトライしてみようかなと思えてきます。そんなのじゃ、意味ないって!って声が聞こえてきそうですが、、、

【過去の関連記事】
捨てる技術と捨てられない性格の狭間で 2018/8/19(日)

★★☆

【関連リンク】
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