リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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きもの (新潮文庫) 幸田文
幸田文氏は「五重塔」などを書いた幸田露伴の次女で、1990年に亡くなっていますが、数多くの書物を残されています。この「きもの」という小説は最後の長編小説で、著者が亡くなった後の1993年に発刊(文庫は1996年)された自伝的小説とのことです。
20年以上前に亡くなった私の母親が、幸田文氏の作品が好きで何冊か実家の本棚にあったように記憶しますが、私は今回初めて読みます。
著者は1904年(明治37年)生まれですから、少女時代に明治から大正へと変わり、やがて20代には昭和へ移っていくちょうど日本の近代化の総仕上げの時期で、外国から様々なものや思想が矢継ぎ早に入り込んできて社会の転換期だったと想像します。
そしてその人生の中でも一番インパクトがあったでしょう、1923年(大正12年)9月1日、関東大震災が起きて、住んでいた下町一帯は炎につつまれ、近所の人達と共に上野公園へ逃げますが、家にあったものすべてが焼けてしまいます。
この小説のテーマでもある服装で言えば大正デモクラシーにより都市部に住む国民の洋服の普及が進み、それまでは男女とも和服が普通だったところへ、活動的で簡便な洋装へと変わっていった時代です。
主人公は父親が証券会社に勤める(幸田露伴は民間企業に勤めた経験はない)貧しくもないけれど決して裕福でもない普通の家に育ち、当時は日常に着るものとして普通だった様々な和服に子供の頃から馴染んでいます。しかし三女ということもあり(著者自身は次女)、姉たちからのおさがりが多く、また祖母から着物に関する様々な知恵や知識をその時に教わり、姉たちとは違った着物に対する感覚や目が養われていきます。「自伝的小説」と言われていますが、生きてきた時代だけが同じで、家族の設定などは大きく違っているので本人もそういうつもりではなかったかも知れません。
一言で和服といっても、普段着もあれば外出着や礼服、寝間着に、夏は浴衣などがあり、さらに様々な生地や柄で、その価値やTPOが変わってきます。それらのことを知る日本人も少なくなってきたと思われますが、この時代はまだ家庭の中では常識として生き続けています。その祖母や若くして亡くなる母親のきものに対する知識や知恵が娘に引き継がれていく姿がうまく描かれています。
私はまだ独身の頃に作ってもらった浴衣と帯だけは持っていますが、最近ではそれも着る機会はまったくありません。しかしこの小説を読んでいると、いつかは普段着用に一着は和服が欲しいなと思うようになりました。長く京都の西陣で働く高校時代の友人がいるので、かなわぬ夢かもしれませんが、いつかは彼に頼んで年齢に相応しい和服一式を調達したいなと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
神去なあなあ日常 (徳間文庫) 三浦しをん
2009年の作品で、以前から「この作品はとても面白い」と噂は聞いていたのですが、文庫が昨年に発刊されましたのでようやく読むことができました。著者の作品は以前「風が強く吹いている」(2006年作品)を最初に読み、直木賞受賞作「まほろ駅前多田便利軒」(2006年作品)はまだ読んでいませんが、原作の映画のDVDを先に見ることになりました。
この「神去なあなあ日常」は今後シリーズ化されそうな青春物語で、横浜の高校を卒業し特にやりたいことが見つからず、このままフリーターでもするかと思っていた次男坊の少年が、将来を心配する両親と担任の高校教師にうまくやりこめられ、人手不足の三重県の山奥にある神去村へ送り込まれます。ま、普通なら「ならばちょっと行ってみようか」とも思わないでしょうが、なかなか骨のある主人公です。
いわゆるお仕事体験小説ですが、そこは直木賞作家、古くから伝わる山で働く者の伝承や、目に浮かびそうな高齢化した集落の姿など、古いものと新しいものをうまく結びつけながら描いています。そして林業にまったくの素人だった主人公が、一から営林作業を教わり、そのチームの一員となって人間として成長していく過程を笑いながら読む進めていくことになります。
ちょっと設定もストーリーもあまりにもベタ過ぎだなぁ、、、って思わなくもないですが、そこはそれ、いずれはきっと人気アイドルを主役に使ったテレビドラマか映画になって取り上げられると、ガラッと雰囲気が変わるのかもしれません。たぶん見ないけど。
わかりやすいストーリーをそれなりに面白く書く作家さんというのはよくわかりましたが、きっと読んでもらいたい対象が若い層なんだろうなという印象です。読書離れが進む若い人向けの作品も大事でしょうけど、50過ぎたおっさんが読んでも、それなりに読み応えのある物語もぜひお願いしたいものです。そんなのは浅田次郎や司馬遼太郎読んどけや!って言われそうかな。
◇著者別読書感想(三浦しをん)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
中の人などいない@NHK広報のツイートはなぜユルい? NHK_PR1号
Twitterで53万人ものフォロワー(2013年1月初旬現在)をもつNHKの広報マンが、Twitterを始めたきっかけやそのユルさゆえ様々な問題や葛藤を描いた本です。もちろんこのフォロワー数は、NHKの数多くあるアカウントの中でも圧倒していて、その人気は不動のものとなっています。
そのユルいツイートとは例えば、
「NHK_PR:ひゃほー!都心でも雪が積もっています。気象庁によると、横浜市と秩父市では正午の積雪が7センチ。雪の多い地域の方から見れば「え?」っていう感じでしょうけれども、たぶん転ぶ人続出です。雪に慣れていないみなさん、足元には十分ご注意ください。 (1号)」
「NHK_PR:このあと総合では、ダーウィン、ヤエ、イカ。 (1号)」
「NHK_PR:「くっくっく…ダイオウイカか…」「ふふふ…あいつはイカ四天王の中でも…ふっ…」「くくくく…」」
「NHK_PR:「NHKスペシャル▽深海の超巨大イカ」は、13日(日)の21:00から総合で放送じゃなイカ!」
「NHK_PR:だが断る。 RT @kXXX: ツイート遅い!一時間前にはツイートしなさい!受信料払ってんだからさ!」
「NHK_PR:(こちらは……NHK公式の中でも…ちょっぴりユル目の…会話をする…アカウントです…基本的に…役立つツイートは…あまりしません……情報が必要な方は…アカウント一覧 http://bit.ly/8MxZVy から…お気軽にフォロー/あんフォローして…お好みのものを…ご利用下さい…)」
「NHK_PR:たぶん体重計。 RT @sXXX: @NHK_PR 元日に「今年は痩せるぞ!」っと決心して、NHKを見ながら雑煮を食べていたら既に1kg太ったんですが、この場合悪いのはNHKですか?雑煮ですか?」
(2013/1/13~14のツイートから抜粋)
とにかくこの方のツイートは面白い。単に面白いだけではなく知性と芸を感じます。普通NHKの職員といえば、真面目で固いイメージがありますが、この著書でも書かれていますがNHKの番組には報道番組もあれば、幼児や子供向け、学生向け、高齢者向け、主婦向け、ビジネスパーソン向けなどその幅の広さでは他の放送局を遥かにしのいでいます。
つまりお堅いというのは間違いが許されない報道番組や硬派のドキュメンタリーからくるイメージですが、おかあさんと一緒や紅白歌合戦などエンタテインメント系番組を紹介するときにまでお堅い必要はどこにもないわけです。
そういうお堅いNHKのイメージを変えたいという個人的な思いで始めたツイッターですが、当然お金を払っている視聴者から「ふざけてんな!」とか「真面目にやれ!」という批判など賛否両論があり、個人としても放送局としても悩むことになります。
しかしTwitterというのは、気に入ったアカウントを自らがフォローし、また気に入らなければアンフォロー(削除)すればいいだけのツールで、NHK視聴者すべてに気に入られようと考えるのが間違いで、多くの人にNHKのことをもっとよく知ってもらい、視聴者との会話を大事にしたいという初心は、NHKの各種アカウントの中でもフォロワーの数が圧倒的に伸びていることで証明していきます。
企業や団体がおこなう公式ツイートというのは製品やサービスのPRばかりだったり、批判や炎上を恐れて形式張ったくそまじめなものが多くフォローしていて楽しいものはほとんどありません。
NHKの他のアカウントもそうです。それに対してNHK_PRさんのツイートは、会話に親しみがあり、発言もほのぼのしていて、時には笑わせ、突っ込みどころが満載で(それは狙っているのですが)、いま日本中で大流行している「ゆるキャラ」にも似たところがあり、一度フォローをしたあとフォローを解除する人はあまりいないのではないでしょうか。
ただこの本の内容は生身のエリート広報マンが、このツイッターを始めるきっかけや、多くの人の心をつかむための試行錯誤、放送局内の様々な事情、フォロワーからの非難などを生々しく語っていることから、いつものツイートのように軽快なノリとは違う、表の素顔を見せつけられて、ちょっと引いてしまうところがあります。
この本が出たときにはTwitterで評判となりましたが、その後あまり書評や感想が出てこないので「なぜ???」と不思議に思っていましたが、読んでみてその理由がなんとなくわかりました。
そう、なにか控えめな成功体験談とちょっとした自慢話を読まされているようで「まともな感想が書けない」ていうところでしょうか。
あとそのような勘違いする人はいないと思いますが、世の中にはTwitter関連本は山とあり、この本はその中でも実用書やハウツー本ではないので注意が必要です。
フォロワーが53万名いると、単行本の初版5千部、新書1万部と言われる中で、この本がどれほど売れるかという実験本という気がします。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【DVD】ノーカントリー 2007年アメリカ 監督ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
日本では2008年に公開されたミステリアスなスリラー映画です。2007年のアカデミー作品賞にも輝いた、いい映画だという評判だけで内容は全く知らずに借りてきました。
ストーリーは、アメリカとメキシコの国境沿いの砂漠で、麻薬の取引の場でなにか手違いが起き、双方が撃ち合いとなり全滅した現場へ偶然出くわした地元に住むベトナム帰還兵の男が、通報はせずその場にあった取引用の大金をせしめようと企てます。
しかしその大金の中には発信器が仕込まれていて、大金を奪われた麻薬組織から放たれた追っ手の殺し屋がどこまでも追いかけてきます。
この殺し屋が一般的な殺し屋のイメージとは違い、いかにも変質者っぽく冷酷で粘着質で主役といってもいいぐらいに秀逸なのです。
と、同時にこの事件を追う老齢の保安官(缶コーヒーのコマーシャルでお馴染みのトミー・リー・ジョーンズ)も、逃げた男が組織から追われていることを知り、保護しようと探しますが、自分の管轄外の地域だと手が出せなかったりなかなかうまくいきません。
先に書いた麻薬取引での殺戮現場や、冷酷な殺し屋対元ベトナム帰還兵の対決などかなり派手で残虐な場面があり、まったく恐ろしい国だという実感ですが、それら人間ドラマが平板な映像で淡々と描かれ、最後には保安官がそれを回想するという割とアメリカ映画ではよくあるパターンでした。
記憶には残りそうな映画ですが、原作者や映画監督はこの作品でなにを言いたかったのか?なにを描き出したかったのか?というのは私にはわかりませんでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【DVD】バトルシップ 2012年アメリカ 監督ピーター・バーグ
いかにもアメリカ人好みの宇宙から地球侵略のためにやってきたらしいエイリアンを不出来なアメリカ軍人が一念発起し、頑張っちゃって敵をやっつけ、ハッピーエンドで終わるというお気楽映画です。
異星人との闘いと言えば戦闘機の闘いが派手だった1996年に製作された「インデペンデンス・デイ」の海戦版と言ったらわかりやすいかも知れません。バトルシップとは、ほぼ直訳ですが日本語で戦艦を意味します。
見所は、アメリカの同盟国である日本の海上自衛隊もリムパック(環太平洋合同演習)に参加をしていて、この宇宙人との闘いに巻き込まれることになります。
護衛艦は敵の攻撃を受けてあっさりと撃沈されてしますが、この海自のイージス艦みょうこうの艦長役を浅野忠信が扮していて、主人公と共に宇宙人との闘いを繰り広げることになります。
そして最新兵器はすべてやられてしまい、そこで思いついたのが太平洋戦争、朝鮮戦争、さらには湾岸戦争でも現役戦艦として活躍し、その後退役して今では記念館となってパールハーバーに係留されている戦艦ミズーリを再度動かして敵に立ち向かうという奇想天外なところでしょうか。
最近アメリカ映画ではやたらと中国を向いていて、登場する東洋人といえば中国人というのが相場だったのですが、この映画ではアメリカの軍事パートナーは日本だということが鮮明に描かれていて、過去の日米対決の戦争映画ばかりを見てきた私にとっては、なにか不思議な感覚を覚えました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【DVD】まほろ駅前多田便利軒 2011年日本 監督大森立嗣 主演瑛太、松田龍平
原作は三浦しおん氏の同名小説で、まだ読んでいませんでした。なのでストーリーもまったく知らないまま見ました。DVDを借りてきたものの、ほぼ同時にテレビでも放映していてちょっとがっかりです。
まず驚いたのは、この映画の架空の街「まほろ」とは「東京都町田市」がモデルで、私も自宅から割と近いこともあり何度か行ったことがあります。映画のロケもその町田市内で行われています。
そのまほろ駅近くで地味に便利屋を開業している主人公が、仕事中に幼なじみの男とバッタリ出会い、一緒に連れて帰ったところから物語は始まります。
このような男二人が主人公のドラマでは、昔あった「俺たちの勲章」の松田優作と中村雅俊の関係、今では「相棒」などを彷彿させますが、関係は先輩と後輩、上司と部下とは違い、昔ふざけていて大けがをさせた元同級生という関係です。松田龍平は父親のイメージをしっかり引き継いでいるようですね。
また便利屋という仕事は、フィクションの世界では淡々と過ぎる日常生活とは違い、様々な設定を作れますので、こういう作品にはうってつけです。同様なものとして映画やドラマにもよく使われる探偵や刑事という職業とも共通するところがあります。
その便利屋の依頼は、路線バスの間引き運転の調査や、小学生を塾へ迎えに行ったり、子犬をしばらく預かったりという仕事です。
ただ、預け主がそのまま夜逃げをして消えていたり、小学生がヤクザに脅されて麻薬の運び屋にされていることがわかったり問題が生じますが、二人でそれをなんとなくうまく解決していきます。そういうなんとなく感が、若い人にとってはその自由奔放さがたまらなくいいのでしょう。
そして転がり込んできた幼なじみに、なにか事情がありそうで、やがては関係がうまくいかなくなりますが、その事情がわかってくると、今度は引き付けられていくことになります。
ま、瑛太と松田龍平のイケメンコンビを格好よく描いて、なんてことはない内容ですが、私が若いときに「俺たちの勲章」や「探偵物語」に夢中になったのと同様、今の若い人には、これが最高に面白いのでしょう。
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おやじの主張(リストラ天国 日記INDEX)
著者別読書感想INDEX
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昨年2012年には仕事絡みの書籍は除き、下記のおよそ130冊を読みました。古い本もあれば比較的新しいものもありますが、書店でもBOOK-OFFでも基本買うのは文庫または新書ですので、単行本の最新刊というようなものは基本ありません。
審査は独自の判断で、
(1)印象に強く残る
(2)雑学でも知識として役に立ちそう
(3)(小説の場合)ストーリーが上手い
(4)中高年オヤジの感覚に合う
などのポイントが高かったものです。一方では「感動した」「泣けた」「見栄を張った」「バカバカしい」と感じたものは私的には点が低いです。
■1月の読書(日記リンク 前半・後半)
黄金の島 真保裕一、靖国への帰還 内田康夫、ブラックペアン1988 海堂尊、臨場 横山秀夫、累犯障がい者 山本譲司、あかね空(直木賞) 山本一力、告別 ロバート・B・パーカー、陽だまりの彼女 越谷オサム、廃墟に乞う(直木賞) 佐々木譲、血と骨(山本周五郎賞) 梁石日
■2月の読書(日記リンク 前半・後半)
迷宮 清水義範、阪急電車 有川浩、ひとがた流し 北村薫、読者は踊る 斎藤美奈子、九つの殺人メルヘン 鯨統一郎、Google+の衝撃 山崎秀夫・村井亮・小石裕介、六枚のとんかつ 蘇部健一、しゃべれどもしゃべれども 佐藤多佳子、海馬を馴らす ロバート・B・パーカー、姫椿 浅田次郎
■3月の読書(日記リンク 前半・後半)
鹿男あをによし 万城目学、オイアウエ漂流記 荻原浩、イントゥルーダー 高嶋哲夫、若葉のころ 小松江里子、神様のカルテ 夏川草介、レンゲ荘 群ようこ、永遠の仔(1)再会(2)秘密(3)告白(4)抱擁(5)言葉(直木賞) 天童荒太、eの悲劇 幸田真音、真紅の歓び ロバート・B・パーカー、プラチナタウン 楡周平
■4月の読書(日記リンク 前半・後半)
大人もぞっとする初版『グリム童話』 由良弥生、プロフェッショナル ロバート・B・パーカー、夜を賭けて 梁石日、ほかならぬ人へ(直木賞) 白石一文、ジョーカー・ゲーム 柳広司、パイレーツ―掠奪海域 マイケル・クライトン、太平洋の盃 豊田穣、獄窓記 山本譲司、最後の証人 柚月裕子、あぽやん 新野剛志
■5月の読書(日記リンク 前半・後半)
睡蓮の長いまどろみ 宮本輝、プレイメイツ ロバート・B・パーカー、冬の童話 白川道、FLY 新野剛志、家族の言い訳 森浩美、夜行観覧車 湊かなえ、輪廻の山 京の味覚事件ファイル 大石直紀、図書館戦争 有川浩、その日のまえに 重松清、純情 小川 竜生
■6月の読書(日記リンク 前半・後半)
大往生したけりゃ医療とかかわるな 中村仁一、さよなら渓谷 吉田修一、拡がる環 ロバート・B・パーカー、モンスター 百田尚樹、モダンタイムス 伊坂幸太郎、いつもの朝に 上・下 今邑 彩、ビリー・ミリガンと23の棺 上・下 ダニエル・キイス、メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 松永 和紀
■7月の読書(日記リンク 前半・後半)
鎮火報 日明恩、無理 上・下 奥田英朗、「捨てる!」技術 辰巳渚、男の品格 川北義則、山田悠介、影法師 百田尚樹、51歳からのルール 古川裕倫、バケツ 北島行徳
■8月の読書(日記リンク 前半・後半)
「夏休み特別企画」ブラック・ジャック1~17巻 手塚治虫、朽ちた樹々の枝の下で 真保裕一、黒い家(日本ホラー小説大賞) 貴志祐介、人生の大問題を図解する! 永田豊志、パズル・パレス(上)(下) ダン・ブラウン、Kappa 柴田哲孝
■9月の読書(日記リンク 前半・後半)
非情銀行 江上剛、夜想 貫井徳郎、普通のダンナがなぜ見つからない? 西口敦、閉鎖病棟 帚木蓬生、IT断食」のすすめ 遠藤功/山本孝昭、マッチメイク 不知火京介、あなたに逢えてよかった 新堂冬樹、取引 真保裕一、ロマンス 柳広司、サラリーマンは2度破産する 藤川太
■10月の読書(日記リンク 前半・後半)
BRAIN VALLEY 上・下 瀬名秀明、風紋 上・下 乃南アサ、ダブル・デュースの対決 ロバート・B・パーカー、日本大転換 出井伸之、沈黙 ロバート・B・パーカー、フリーター家を買う 有川浩、看守眼 横山秀夫、二度はゆけぬ町の地図 西村賢太
■11月の読書(日記リンク 前半・後半)
償いの報酬 ローレンス・ブロック、熱帯魚 吉田修一、英語ができない私をせめないで! 小栗左多里、水の手帳 伊集院静、鉄の骨 池井戸潤、パーク・ライフ(芥川賞) 吉田修一、スウェーデン館の謎 有栖川有栖、本当は恐ろしいグリム童話/本当は恐ろしいグリム童話〈2〉 桐生操、歩く影 ロバート・B・パーカー
■12月の読書(日記リンク 前半・後半)
インターネット新世代 村井純、八月のマルクス 新野剛志、夏を拾いに 森浩美、ひかりの剣 海堂尊、傷痕 矢口敦子、どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか? 中島義道、鷺と雪(直木賞) 北村薫、スターダスト ロバート・B・パーカー
【リストラ天国が選ぶ2012年チキチキ読書大賞!】
◆新書部門第1位 「大往生したけりゃ医療とかかわるな (幻冬舎新書)」(2012年) 中村仁一 ◆外国作品賞 「パイレーツ―掠奪海域― (ハヤカワ文庫NV)」(2009年) マイケル・クライトン 「歩く影 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 」(1994年) ロバート・B・パーカー ◆次点(4位) 「フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)」(2009年) 有川浩 ◆栄えある第3位! 「累犯障害者 (新潮文庫) 」(2006年) 山本譲司 ◆惜しいもうちょいの2位! 「神様のカルテ (小学館文庫)」(2009年) 夏川草介 ◆独断の堂々1位! 「あかね空 (文春文庫)」(2001年) 山本一力 ◆審査員(=私)特別賞! 「血と骨 (幻冬舎文庫)」(1998年) 梁石日 |
1位の「あかね空」は圧倒的な存在感を感じた作品で、私が好きな時代小説の範疇にあります。しかし主人公は決して剣豪や有名人やモデルがあるわけではなく、仕事を得るために京から江戸へ出てきた縁もゆかりもない貧しい豆腐職人です。
京と江戸の食文化の違いに苦心しながらも、それを乗り越え、やがて店は繁盛させ、愛すべき息子へとその事業は引き継がれていく大河作品風でもあり、暗いマックには店を乗っ取ろうとする悪人との対決があり、危機一髪どんでん返しでハッピーエンドに終わります。淡々としていながらも読み応えのあるいい小説でした。
今年は直木賞など大きな賞に輝いた作品を何冊か読みました。この1位になった「あかね空」もそうでしたが、その他にも「廃墟に乞う」佐々木譲著や「鷺と雪」北村薫著、「ほかならぬ人へ」白石一文著もそれなりによかったのですが、いずれも中・短編なのでいまひとつ読み応えがなく、私の中では落選してしまいました。
その他、読んで損はないと思った作品に、「鎮火報」日明恩著、「影法師」百田尚樹著、「永遠の仔(1)再会(2)秘密(3)告白(4)抱擁(5)言葉」天童荒太著、「冬の童話」白川道著、「あぽやん」新野剛志著、「プロフェッショナル」ロバート・B・パーカー、「プラチナタウン」楡周平著など。いずれも読みやすく、グイグイと引き付けられていく感じが好きです。
もっと人の機微や情実を描いたような夫婦関係や家族関係、恋人関係のドロドロこってりした情景がお好みの方には、「風紋 上・下」乃南アサ著、「夜行観覧車」湊かなえ著、「無理 上・下」奥田英朗著、「さよなら渓谷」吉田修一著、「ほかならぬ人へ(直木賞)」白石一文著などがお勧めです。その極上ドロドロの最優秀が審査員特別賞の「血と骨」でもあります。
この「血と骨」は小説というべきか著者の体験談と言ったほうがいいのかわかりませんが、そのような自伝的小説です。文章や構成にはいかにも素人っぽい未熟さがあるものの、なにか引き付けられてしまう主人公の魅力や、多くの日本人が知らなかった、あるいは知っていても見て見ぬふりをしてきた在日朝鮮人達の戦前から戦後にかけての生き様と闘いをリアルに描ききったものです。
2位の「神様のカルテ」夏川草介著は映画にもなり大ヒットした作品ですが、新人(本業は医師)の作品とは思えない、地方の医療の問題と医師不足など社会に訴えかける内容と、美しい松本の自然、そして奇妙ながらも深くつながっている夫婦愛とが妙にマッチしていて、たいへんよくできた作品です。これを読むだけで医療問題は別にして、ぜひ小説の舞台となった松本市へぶらりと行ってみたくなりました。
映画も松本市でのロケが中心でしたが、病院の中の映像が多く、もう少し美しい松本周辺や信州の四季を織り交ぜてもよかったかなと思わなくありません。小説には続編(「神様のカルテ2」「神様のカルテ3」)が出てきていますので、またそれらを読むのが楽しみで、さらに映画も続編が作られることを期待しています。
3位の「累犯障害者」山本譲司著は2006年に書かれた本(文庫版2009年)ですが、マスコミで報道されることも少なく、ほとんど知らない世界でした。
障がい者が繰り返し引き起こす犯罪と、その根本原因を追求しようともせず、ただ健常者側の論理で、閉じこめておくために刑務所に送り込もうとする警察や国の仕組みを問題提起したルポルタージュ作品です。
私もこれを読むまでは、このような社会の矛盾を抱えているとは思いもしませんでした。あらためて多くの人に読んでもらいたいと願う作品です。
外国作品賞の「パイレーツ―掠奪海域―」マイケル・クライトン著は言うまでもなく「ジュラシック・パーク」などエンタテインメント小説の最高峰を書いたクライトンの遺作となる作品で、これ以降彼自身が書いた作品が読めなくなったのが残念です。
同賞「歩く影」ロバート・B・パーカーはスペンサーシリーズとして賛否両論ありますが、私はこのやや長編が気に入っています。多少パーカーの東洋人嫌いなところが垣間見られますが、肩肘張らずに安心して楽しく読めるハードボイルド小説です。
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どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか? (角川文庫) 中島 義道
1946年生まれの元大学教授でもあり哲学者中島義道氏の名前はよく知られた方で、著書も多いのですが、どうも「哲学」書と言うことでとっつきにくくて今まで手が出ませんでした。
その著書にも真面目な哲学研究書もあれば、中には「私の嫌いな10の人びと」「人生に生きる価値はない」「きみはなぜ生きているのか?」「善人ほど悪い奴はいない ニーチェの人間学」などユニークな著書が多いのも特徴です。中でも有名になった著書として「人生を「半分」降りる―哲学的生き方のすすめ」や「さようなら、ドラえもん 子どものためのテツガク教室」など売れるのを意識した釣りタイトル書もあります。
この著者ユニークなのは「人間の食べる物の九割は食べられない大偏食家」「すべてのスポーツは恐ろしく、車の免許ももっておらず、自転車もうまく乗れず、ボートも漕げず、釘も打てない」「六歳の頃からいつも死に脅えている」「他人を病的に羨み、病的に軽蔑する」「協調性はまったくなく、気味の悪いほどナルシストである」「異常なほどの虚栄心の持ち主」と開けっぴろげに自己分析をするのがいかにも哲学をやっている人だなぁって感じます。
哲学でもっともよく議論されるのが「ヒトはなぜ生きるのか?」「ヒトはどう死ぬべきか?」「ヒトはどこから来てどこへいこうとしているのか?」など根源的な問題です。
この著者の作品のタイトルにもそのようなことが想像できるものが多く見られますが、そういう分野を専攻でもしようと思わない限り、なかなかリフレッシュのために読みたくなるものではありません。
しかし年齢を重ね、親や友人などの死に直面することが増えて行くにつれ、徐々に死生観を持つようになり、若く輝いていたときとは違う感情や思想が頭の中を支配していきます。
若い頃に読むときっと著者の毒気に当たってしまうかもしれませんが、もはや世の中のことは概ね知り尽くしてきたので、幸いにもそういうことにはならず、「なるほどなぁ」「そういう見方もあったか」と感心するばかりです。
本文の最後に、自殺した元教え子の葬儀に行った際、その母親から「そういう毒を撒き散らさないで」とののしられたようなことが書かれていましたが、純粋培養されてきた人にとっては薬にも毒にもなるような危険をはらんでいそうです。
◇著者別読書感想(中島義道)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鷺と雪 (文春文庫) 北村薫
この本には「不在の父」「獅子と地下鉄」「鷺と雪」の3つの短編推理小説が収められており、2009年上半期の直木賞を受賞した作品です。いずれも昭和初期、太平洋戦争のまだ始まる以前の日本がちょっときな臭くなって来つつある帝都東京が舞台です。同じような時代を描いた最近の小説では柳広司氏の「ジョーカー・ゲーム」などの「D機関シリーズ」があります。
北村作品の中では「ベッキーさんシリーズ」と言われている短編集シリーズの3作品目となります。ベッキーさんとは、訳あって学校卒業後に親代わりの財閥系商社社長の令嬢のお抱え運転手となり、その令嬢が持ち込む様々な謎や難問を推理をしていきます。その内容についてはどうということはない(失礼)ものですが、いろいろと興味を刺激されることがあります。
この小説の舞台となる時代のことは身近なだけに知っていそうで、実はあまりよく知らなかったりします。こうした本を読むことで、あらためて東京の歴史や風習、名所旧跡に気づかされることもあります。
書く側にとっては、正しく時代考証しなければならず、えらく大変な作業だろうなと思ってしまいます。江戸時代や戦国時代のことではなく、実際にその時代を見て知っている人達がまだ数多く生きてものを言うわけですから、変な誤魔化しや勝手な想像だけでは書けません。
戦国時代や江戸中期以前にはまだあるはずのないソメイヨシノが小説に出てきてもまぁ許されますが、最初にできた現在の銀座線の改札がニューヨークの地下鉄と同じ自動改札(コインターンバー式)だったとか、上流階級の娘さん達を送り迎えする外国車の名前を知らずして物語を書けません。
実際にこの小説では、東洋で最初に開業した地下鉄銀座線の改札のことや、二眼式カメラ、上流階級の洋装や和装、流行の雑誌やレコードなど数多く当時の生活で普通に使われていたものが次々と出てきますが、それらもいちいち調べないとあとで恥をかきかねません。小説家というのは時代考証家でもあるのですね。
◇著者別読書感想(北村薫)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
スターダスト (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 110-20)) ロバート・B・パーカー
1990年に発刊されたスペンサーシリーズ17作目の作品です。この本がなかなか手に入らず苦心していましたが、ようやく見つけることができました。
これで著者が生前に日本で出版されていたスペンサーシリーズ作品37作すべてを読んだことになります。残すは遺作となった38作目「盗まれた貴婦人」と39作目「春嵐」だけになりました(日本語版のみ)。
ボストンの私立探偵スペンサーが初めて登場したのが1976年「ゴッドウルフの行方」(日本語翻訳の単行本は1984年、文庫版は1986年)ですから、米国ではスペンサーが登場してすでに37年が経ちます。その間、著者も読者もどんどんと年を取っていきますが、小説の中に登場するスペンサーの年齢はほとんど変わらず、いつも若々しくたくましいナイスガイをキメてくれます。
パーカーと共に大のレイモンド・チャンドラーのファンであり、周囲から後継者とも言われていたもう片方の小説家ローレンス・ブロックが描くスペンサーと同じく1976年に初登場したニューヨークの探偵「マット・スカダー」は、最新作「償いの報酬」で、37年間を経て主人公もすっかり年老いた姿になっているのとが対照的です。
さて本作品は原題も「Stardust」で、激しい視聴率争いを繰り広げるテレビの人気女優に襲いかかる正体不明の相手にスペンサーとホークが活躍します。その「スターダスト」以降、「昔日」や「虚空」「春嵐」などにも登場するロサンジェルスの顔役を護衛しているメキシカンの腕利きガンマン、チョヨがここで初登場します。
こうして長くスペンサーシリーズを読んでくると、小説に登場する女性には一定の法則があるようで、その多くは最初はわがままで、放埒的で、セクシーなファッションを身につけ、誰もが振り返りそうな美人です。今回は売れっ子女優ということもあり、それが特に強調されているのでそう感じるのかも知れませんが、パーカーの一種あこがれが反映していたとも思えなくはありません。
◇著者別読書感想(ロバート・B・パーカー)
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インターネット新世代 (岩波新書) 村井純
日本のインターネットの父とも言われた村井氏は、創業まもないIIJに関与されていた頃から、その名前はよく知っていましたが、私よりもずっと年上の人と思っていたところ、2歳だけ年上だと知って驚きです。
現在の肩書きは、慶應義塾大学環境情報学部長を勤めながらも、ビジネス界で何社かの社外取締役や顧問などを務められているようで、決して象牙の塔でふんぞり返っているだけの人ではありません。
この2年前に発刊された新書では、新しく生まれた様々なネット用語や新技術の解説などもあり、また近い未来のネットの姿などもあって、歳に関係なくビジネスマンにとって興味をもって読めるのではないでしょうか。
こういう技術系の新書は発刊後旬なのは1年以内で、せいぜい2年ぐらいまでが読むに耐えられると思って間違いないでしょう。私が読んだタイミングは内容がまだ陳腐化する前で、ためになる本として読むことができました。
こういう本は読むタイミングが難しく、早く読み過ぎると理解できずに終わってしまい、遅すぎると「そんなの知ってるよ」か「想定が全然違っていたじゃん」かのどちらかになってしまいます。
この本は単なる技術者や専門家、評論家が書く文章と違い、実際にビジネスの現場でいまも活躍している人が書いているので、実感として社会とビジネスの中におけるインターネットのことがよくわかっていい感じです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
八月のマルクス (講談社文庫) 新野剛志
この本は以前から書店で気になっていたタイトルの小説として記憶に残っていましたが、「あぽやん」を読んで新野剛志氏のファンとなったので読んでみることにしました。
この小説は同氏のデビュー作品で、1999年の江戸川乱歩賞の受賞作品でもあります。
マルクスといえばドイツの共産主義思想家のカール・マルクスを第一に思い浮かべると思いますが、もちろん私もそうでした。
しかし初っぱなから事件で引退したお笑い芸人が主人公と知って「???」となりました。そういやアメリカの偉大なコメディアンにマルクス兄弟ってのがいたなと思い出したのは小説の中でその話題が出てきてからです。
マルクス兄弟はまだ私が生まれる以前の1930~40年代に活躍していましたが、私も子供の頃にテレビの映画で「マルクスの二挺拳銃]」(1940年の作品)を見た記憶があります。
それはさておき、内容は元一世を風靡したお笑いコンビの片方が、ある事件がきっかけで引退をし、今では自分のマンションの大家をしながら地味な生活をおくっていたところへ、今でも現役の昔の相方が突然訪ねてきます。
そしてその数日後にその相棒が謎の失踪を遂げたことで、真相を探るために探偵のようなことをはじめます。
ストーリーも、芸能関連の世界もうまく描けていて、なかなかのハードボイルド小説に仕上がっています。固ゆで小説と言っても主人公は元お笑い芸人というだけで、滅法喧嘩に強かったり、警察やヤクザや天才ハッカーに親しくて手助けしてくれる友人がいたりというのではなく、単なる自由時間がとれる1小市民ってところがいいです。
◇著者別読書感想(新野剛志)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夏を拾いに (双葉文庫) 森浩美
この小説の著者の森浩美氏は男性ですが、同じ浩美でも小林浩美氏(プロゴルファー)は女性、谷口浩美氏(マラソンランナー)は男性、さらに「図書館戦争シリーズ」などで大ブレーク中の有川浩氏は女性で、4回も直木賞候補になっている荻原浩氏は男性で、「鷺と雪」で直木賞を受賞した北村薫氏も男性ですが、「『マークスの山」で直木賞を取った高村薫氏や、既に故人となられたが「グイン・サーガシリーズ」の栗本薫氏は女性と、性別不明の名前でこんがらがりやすいのですが、読んでみるとその内容は明らかに男性作家の本です。
年齢は私より3歳ほど若いのですが、ほぼ同世代。したがって小説の中に出てくる子供時代の記憶に残る遊びやテレビ番組などもかなり近しく、とても懐かしい香りがします。
内容から言うとあとがきにも書かれていましたが、スティーヴン・キングの「スタンド・バイ・ミー」を彷彿とさせる内容です。
主人公は妻に頭が上がらず、自分の息子からもまともに相手にされなくなった、さえない中年男性。しかしある言葉がきっかけで、息子が父親の話しに興味を持ち、自分が子供だった頃の冒険話を始めます。
その話しの中ではファミコンも携帯電話もなく、「ザリガニ釣り」「B2弾」「忍者部隊月光」「ハレンチ学園」「フラッシャー付き自転車」など当時の子供の世界が再現されていておそらく50~60歳あたりの人にとっては十分はまりこむでしょう。
この本は2009年に単行本、2010年には文庫版が出ましたが、最近になって書店勤務の方が推薦されていたのをなにかで読んで買ってきました。
著者は作家という寄り作詞家としてのほうが有名でSMAPや酒井法子など多くの歌手に詞を提供されています。著者の本では他に最近「家族の言い訳」を読んでいます。
◇著者別読書感想(森浩美)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ひかりの剣 (文春文庫) 海堂尊
東城大学病院田口シリーズに登場する「ジェネラル・ルージュの凱旋」の天才外科医速水晃一(映画では堺雅人が好演しましたね)と、シリーズ外で代理母問題に一石を投じた小説「ジーン・ワルツ」に出てくる清川吾郎の二人を主役にした2008年に発刊された小説(文庫は2010年)です。この本を読む前には先に両者が描かれていた2つの本を読んでおくとイメージが湧きやすいのでお勧めします。
時はまだ速水も清川も大学の医学生だった1988年(「ジェネラル・ルージュの凱旋」の20年前)、勉強よりも部活に力を入れていた頃の話しです。
医学生だけの剣道大会「医鷲旗大会」というのがあり、東城大速水と帝華大清川との主将同士の闘いがメーンとなりますが、シリーズでお馴染みの速水と同期生の田口公平や島津吾郎も同じ学生としてチラッと登場してくるところが笑わせます。
「ジェネラル・ルージュの凱旋」では速水が勤務する東城大学医学部付属病院病院長として登場する、つかみ所がない高階権太もこの小説では帝華大から東城大学医学部へちょうど赴任し、剣道部の顧問に就任するという設定で、重要な役どころとなっています。
ストーリーとしては先に書かれた小説での主人公の原点がよく描かれていて、もしかすると最初からこのような設定があってから書いたのでは?と思わせるほど論理矛盾もなくよくできたものでした。
最後の決着の仕方には私的にはちょっと?でしたが、まぁ無難な収め方だったのでしょう。「ジェネラル・ルージュの凱旋」の速見ファンならぜひ読むべき小説かも知れませんね。
◇著者別読書感想(海堂尊)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
傷痕 (講談社文庫) 矢口敦子
今年NHKのドラマで2001年の作品「償い」が放送され一気にブレークしそうな予感がする矢口敦子氏の2009年(文庫は2011年)の小説です。
「償い」もそうでしたが、家族の中に犯罪者がいたり、その家族と深い関係ができた時のことなどをリアル感たっぷりに描くのがうまい作家さんです。この作品も映画かドラマにするのには向いた作品ですので、そのうち実現するのではないでしょうか。
主人公と言えるのは二人いて、ひとりはある一家4人惨殺事件の主犯として死刑になった男が残した息子です。
ただ犯罪が起きた時にはまだ生まれていなかったこともあり、生まれてからすぐに養子に出されたので、過去のことはなにも知らされないまま大学生になっています。
もうひとりは刑務所で長く刑務官として勤務し、死刑囚の妻が生んだ子供(もうひとりの主人公)を、自分の親戚へ養子として斡旋した男性です。
そういう家族と親戚、養子などが複雑に絡み合い、ちょっと最初のうちは人間関係図がうまく描けずに、登場人物の誰と誰が親子、兄弟でというのが複雑でわかりにくいです。
つまり殺人を犯す二人の男性それぞれの家族、惨殺される弁護士一家、刑務官の親戚家族、死刑囚と内縁関係にあり子供を産んだ女性(1人住まい)、さらに惨殺された一家に嫁いだ妻の兄など。どこかに相関関係図を書いて欲しいぐらいです。
この小説に登場する死刑囚は、実は激しやすい義理の兄を抑えるために行動を共にしていた男性で、殺人事件の後には言い訳を一切せず、罪を全部自分でかぶって死刑が宣告されたという設定です。
それが主題ではないためか、結局最後まで誰が本当に一家4人を殺害したのかは謎のまま終わります。
そしてドラマが動き出すのは、無期懲役で服役をしていた、本当の主犯じゃないかと疑われる義理の兄(主人公からすると義理の叔父)が、20年間の服役後出所してきたことで、主人公の大学生が自分の本当の親とその過去を知ることになります。
また並行して、一家を惨殺された遺族も密かに復讐の機会を待ちわびています。このあたりから少々無謀とも思える展開が見られますが、ミステリー的な内容にするためには必要だったのでしょう。
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663
パーク・ライフ (文春文庫) 吉田修一
「パークライフ」は第127回芥川賞を受賞した著者の割と初期の作品で、2002年に初出、文庫は2004年に刊行されています。この本には表題の作品と、もうひとつまったく違う内容の「flowers」が収められています。
ここで言うパークとは日比谷公園を指していて、私も以前その近くで働いていたことがあり、周囲の風景描写などたいへん懐かしい思いで読むことができました。
内容は主人公の男性がよく待ち合わせやランチでよく使う日比谷公園のベンチで、時々見かける女性と地下鉄内でバッタリ出会い、近からず遠からずの会話が淡々と進んでいくちょっと風変わりな小説です。
中編小説としては気楽に読めていいのですが、「悪人」や「パレード」のように映画化するのは、特に山場もなく、つかみどころもなく、ちょっと難しいでしょう。
一方のもうひとつの作品「flowers」は仕事を辞め、夫婦で地方から東京へ出てきて、住むアパートが決まるまで高級ホテルで過ごしているという変わったカップルが主役です。
男は飲料水販売会社に就職が決まり、トラックで毎日配送の仕事に就き、女は劇団に入り役者の勉強中。そこに男の同僚に変わった先輩がいて、、、という流れですが、「パークライフ」と同様なにか尻切れトンボ的なモヤモヤが残ってしまう終わり方で、あまり好きにはなれません。
あ、いや、別に勧善懲悪、ハッピーエンドを所望しているわけではありませんが、こうした展開はこの著者の作品の特徴でもあるのでしょうね。それはそれで善とするしかありません。
◇著者別読書感想(吉田修一)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
スウェーデン館の謎 (講談社文庫) 有栖川有栖
1995年に発刊され1998年に文庫化されたミステリー小説です。作家有栖川有栖が一人称で作中に登場し、同級生の犯罪学者火村英生が事件の解決をしていくという「作家アリスシリーズ」または「国名シリーズ」と呼ばれている作品のひとつです。
事件は有栖川有栖氏が取材のために訪れた冬の福島磐梯山近くのペンション周辺で起きます。ペンションのすぐ近くにある童話作家の家(スウェーデン館)で殺人事件が起きます。
必死で犯人捜しの推理をするも、結局は京都大学の火村助教授に連絡を取ります。
詳しくは書きませんが、過去に起きた事件(事故)をずっと引きずり、その復讐や家族を守ろうとする家族愛など、複雑に絡み合いながら物語は展開していきます。
なぜスウェーデン館かと言うと、童話作家の嫁がスウェーデン人で、連れ合いを亡くした高齢の父親も呼び一緒に暮らしている家が、スェーデンから直輸入して建築されたもので、近所からはそのように呼ばれているという設定です。
著者は大阪出身で現在も大阪在住だそうで、その著作には関西が舞台のものが多いのですが、今回は遠く東北のしかも雪深い冬と言うことで、ちょっと不思議に思っていましたが、雪に残る足跡というのがひとつのキーとなり、なるほどと思いました。
関西で一日中雪が積もったままで残るということはまずないので、そのトリック?は使えませんからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本当は恐ろしいグリム童話 (WANIBUNKO) 桐生 操
「白雪姫」「シンデレラ」「カエルの王子さま」「青髭」「眠り姫」「ネズの木」の6編が収録されています。タイトルからわかるとおり、今では進んで子供に勧める童話ですが、最初に出した原作は童話とはいえ親が子供に読み聞かせるにはちょっとどうかという内容でした。その原作を元に書かれたのがこの作品です。
グリム童話の作者グリム兄弟は1800年代初期~中期にドイツで活躍しましたが、最初の「グリム童話」が発刊されたのが1812年のクリスマスということですから、今年のクリスマスでちょうど200年です。
おそらくはドイツではこのクリスマスには盛大な記念祭などが開かれるのでしょうね。
で、その内容ですが、例えば「白雪姫」では王様と王妃とのあいだにできた白雪姫が美しくなり(と言ってもまだローティーン)、王様が手を出し(小児愛好、近親相姦)、それに乗じた白雪姫は気に入らない家臣を殺したりわがまま勝手し放題。頭に来た王妃が森に連れ出して捨ててしまったところ、森に住む7人の年老いた小人達に救われ、料理や家事はもちろん、毎晩その夜のお相手も勤めて生き延びた。鏡の精に生きていることを知らされた王妃が物売りに化けて、毒リンゴを渡しそのリンゴを食べて死んでしまいます(親子殺人)。
死んだ白雪姫をガラスの柩に寝かせておいたら、ある日別の国の王子に発見され、死体を城に持って帰り毎晩愛でます(死体愛好者)。
気味悪がった家臣が寝台をひっくり返した際に喉に詰まっていたリンゴが取れて生き返るというストーリー。そして生き返った白雪姫は自分を殺そうとした王妃(実母)を拷問にかけて殺して(親子殺人)しまいます。
どうです。ちょっと子供には読んで聞かせられないでしょう?200年前とは言えなんと過激なことでしょう。
「シンデレラ」の場合は、エロチックと言うよりは暴力的で、ガラスの靴に合わせるために義理の姉たちは足の指やかかとを切り落とすというシーンや、めでたく王子に見初められて結婚式にやってきた義理の母や姉たちはシンデレラの味方の小鳥に目を突かれて失明してしまうとか。
おそらくこういう童話は元々子供のためと言うよりは、大人にも十分に面白く読めるように作られたのではないかなと勝手に想像しています。
そして子供には親がうまく端折って「親の話しに逆らうと捨てられるよ」とか「他人をいじめるとその他人に仕返しをされて傷つくよ」と言うような教訓を与えたのでしょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本当は恐ろしいグリム童話〈2〉 (WANIBUNKO) 桐生 操
本当は恐ろしいグリム童話(2)では「ラプンツェル」「ヘンゼルとグレーテル」「三枚の蛇の葉」「ブレーメンの音楽隊」「人魚姫(アンデルセン童話)」「裸の王さま(アンデルセン童話)」「幸福な王子(オスカー・ワイルド童話)」の7編が収められています。
タイトルは「グリム童話」となっていますが、ネタが尽きたのかアンデルセン童話やオスカー・ワイルド童話も使われています。
いずれも誰もが知っている有名な童話ということですが、小学生の頃から三島由紀夫や芥川龍之介、川端康成等の小説が好きだった私はグリム童話はほとんど知らなかったりします。
特にこの(2)に収められている中では「ヘンゼルとグレーテル」以外は読んだり聞かされた記憶がありません。
で、いきなりこの書かれた頃の物語を読むと、いったい現代の作品とどのように違っているのかよくわかりません。
おそらくはエロチックなシーンや暴力シーンが綺麗に消えてなくなっていて、その他にも主役以外が実母が継母に変わっていたりするのでしょう。
そのあたり物語の最後に、少しだけ解説が書かれていて親切なのですが、やはり現代訳を読んだ人向けの解説なので、ちょっと物足りなさを感じました。
時代を感じる読み物ですが、逆に現代では出版物にも「公序良俗」を求められ、さらには「差別用語」が拡大解釈され、言葉狩りを恐れてか、もってまわった表現や言い回しが使われ、変な文章になってしまっていることもよくあります。
「ヘンゼルとグレーテル」は原作で実の母が口減らしのため子捨てをするのはあんまりだと言うことで、現代版では「継母」のいじめということになっているようですが、現実社会に於いても親が自分の子供をいじめて殺したり、逆に子供が実の両親に手をかけたりというのは決して珍しいことではありません。
少し前の作品ですが、私は今年の4月に「大人もぞっとする初版『グリム童話』―ずっと隠されてきた残酷、性愛、狂気、戦慄の世界 」由良弥生著を読んでいます。
それよりかは解説もわかりやすいです。また2月に読んだ「九つの殺人メルヘン 」鯨 統一郎著でもミステリー仕立てで童話の真実が語られていましたね。
今年は私にとってグリム童話発刊200年を記念してかグリム童話の大当たり年です。さすがにもう読まないでしょうけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
歩く影 (ハヤカワ・ミステリ文庫) ロバート・B・パーカー
スペンサー・シリーズ21作目のこの作品は1994年に発刊(ハヤカワ文庫は2001年発刊)されました。今度のスペンサーの相手はアメリカ社会に根付く中国マフィア達との闘いです。
恋人スーザンが所属する劇団員が公演中に射殺され、地元警察は頼りにならないので、その犯人を追い詰めるため方々へ出掛けて蜂の巣を突きに回ります。
そうするとそれが気に入らない中国人マフィアのボスが出てきて最初は脅し、次には実際に若い殺し屋のベトナム人を使って襲撃を仕掛けてきます。
いずれも難なくしのいで、自分のケツを守るため、いつものように相棒ホークと、射撃の名手ヴィニイ・モリスを雇っていよいよ中国マフィアとの対決を仕掛けていきます。
銃を抜くのが速いはずのスペンサーとホークが半分ぐらい抜いたところでヴィニイがすでに3発撃って敵を倒すシーンなんかはゾッとします。
タイトルの「歩く影」(原題:Walking Shadow)とは、殺された劇団のメンバーが「何者かにいつもあとをつけられている」ということと、チャイナタウンに巣くう中国人マフィアのことを、とあるチャイナタウンに詳しい白人系の刑事が自分の親に言わせるとその存在が「歩く影」だと言っていたことによります。
スペンサーシリーズとしては比較的長めの小説ですが、その分読み応えがたっぷりで、最後まで事件の真相が謎でわかりにくく、20年近く前に書かれたものですが、意外と内容の古さは感じられず(ウォークマンやカーフォンなどが出てくるのはその時代の流行だったので仕方なし)、なかなかお勧めの一冊です。
それはそうと、このスペンサーシリーズ全39作中、現在文庫版が発刊されている38冊のうち、この本が36冊目の読了となりました(たぶん)。
新刊の「盗まれた貴婦人」(2010年)はまだですが、37冊目となる「スターダスト」(シリーズ17作目1990年)もようやく手に入れましたので、近いうちにコンプリートできそうです。
あと残すはまだ文庫化されていない「春嵐」(没後発刊2011年)だけとなりますが、一度シリーズ全体を振り返ったまとめを書いてみたいと思っています。
◇著者別読書感想(ロバート・B・パーカー)
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