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「おじさん」的思考 (角川文庫) 内田樹

内田氏のことはTwitterで知り、以前に「街場のメディア論」を読み、面白かったので続いてちょっと古いものの2002年に出版された同書を読みました。

基本的に内田氏のブログにはほぼ同様のことが書かれていてそれは無料で読めるそうですが、ちゃんと文章のプロの編集者が入り、しかも寝っ転がって読める書籍のほうが私には合っていてお金を出す価値があります。

前半の「正しいおじさん思想」や「老人社会に向けて」あたりについては独特の歯に衣せぬ論説でたいへん面白く読むことができましたが、後半のいきなり、「純文学をもっと読むべし」と説教したかと思うと、最後の70ページは夏目漱石の小説の内田氏独特の解説に終始します。

しかし

『私たちを惹き付ける物語のコアには、ほとんど必ず「それが意味するものの取り消しを求めるシニフィアン」が空虚な中心として運動している。ポウの「盗まれた手紙」における「盗まれた手紙」、狂言の「附子」における「附子」、ヒッチコックの「北北西に進路を取れ」におけるジョージ・カプラン・・・ヒッチコックが「マクガフィン」と名づけたそれらの「物語を起動させる」シニフィアンと同じ機能を「こゝろ』の「先生」は果たしている。』

のような分析と解説をされても、そうそう理解できる人はいそうにもなく、無駄にページを費やしているとしか思えません。私だけかもしれませんが。

この文庫は2002年に単行本として発刊されたもので、中のエッセイは主に20世紀中に書かれたものが多く、もちろん今でも新鮮に読めるのも多いのですが、文庫としては新刊で中身も見ず飛びついてしまいましたが、さすがに10年以上前のエッセイだと思っていたものと違い少々ガックリでした。

著者別読書感想(内田樹)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

有頂天家族 (幻冬舎文庫) 森見 登美彦

少し前に直木賞候補にもなった「夜は短し歩けよ乙女」を読みましたが、この「有頂天家族」はその1年後に書かれた小説です。

主人公はなんと京都の森に住むタヌキの一家。その他には人間はもちろん、天狗も出てきます。

そのタヌキの一家は、父親は京都のタヌキ界のリーダーだったものの、数年前に人間に捕まりタヌキ鍋にされてしまいます。

人間へ手引きをしたのが悪役の父親の弟であり、その弟の家族と主人公家族とが次のリーダーを決めるため対決をします。

また一方では大学教授を引退し年をとって飛べなくなってしまった情けない天狗や、その天狗に気に入られ、術を授けられた人間の若い女性と、先ほどの主人公家族などが入り交じりドタバタが繰り広げられます。

ま、私の場合、こういうおとぎ話的設定は正直あまり好きではなく、裏表紙のあらすじを見たらまず買うことはないのですが、2008年の本屋大賞にノミネート(3位)されていたということで、内容も見ず買って読みました。

同氏は京都在住ということもあり、京都を舞台にした小説が多いのですが、最近では万城目学氏も同種の小説を出していて、読んでいるとあれ?どっちの人だったっけ?と一瞬わからなくなるほど作風が似ています。

著者別読書感想(森見登美彦)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

人間関係にうんざりしたときに読む本 杉本良明

会社の本棚に置いてあったので、あまり期待もしないで読み始めましたが、これはなかなかいいことが書いてあります。と言っても多くのことではなく、ただひとつ「相性の悪い相手はそう言う人だと決めて承認する」と言うことです。

人間関係や動機付けと言えば、この本にも書かれていましたが、デール・カーネギー著の「人を動かす」が名著で、これを超えるものは未だ出てきません。

しかしこの「人を動かす」や、それに続く「道は開ける」は、ビジネスパーソンならば読んでいない人は少ないのではないかと思いますが、私の場合、いかんせんもう何十年も前に読んだきりで、もうすっかり内容を忘れてしまいました。その中にもある重要な一点だけをこの本ではシンプルに繰り返します。

叱咤や罵声、時には皮肉や愚痴を言い、陰口をたたく相手に対して、別に仲良くなる必要はないとキッパリ言っています。またそのようなキツイ相手に期待をするのもやめようと割り切ってます。それらの言葉は人間関係に悩む人にとってものすごく楽にする言葉でしょう。

相手の暴言や皮肉に対して感情的になったり、それと同様なものを返すと、その後延々とそれが続いてしまいます。また相手にわかって欲しい、気がついて欲しいと期待をするから悩んでしまう結果となります。

ではどうするか?

心理学的用語でいうところの「相手を承認すること」だとこの本では書いています。詳しくはぜひ本書をお読みください(笑)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ミッドウェイの刺客 (文春文庫) 池上司

池上司氏は実際の戦史を一部フィクションを加えて小説にする手法をよく使いますが、この小説の主人公(田辺弥八)も実在する人です。

ミッドウェイ海戦は1942年に日米の主力が太平洋上で戦い、日本海軍の主力空母4隻と優秀な搭乗員を多く失い、太平洋戦争の優劣を一気に逆転された闘いですが、米軍側も被弾して曳航される米海軍空母ヨークタウンを失うことになります。

その米空母を撃沈したのは偵察のためにミッドウェイ島近くに送られていた、日本海軍伊168潜水艦の田辺艦長でした。動けなくなった空母には当然のことながら護衛艦数隻が周囲を囲み、警戒をしていますが、新米の艦長でありながら、リーダーシップと独特のアイデアを駆使し命令を実行します。

この頃の潜水艦にはまだシュノーケル装置(潜ったまま空気を取り込んだりディーゼルエンジンを動かし充電する)が装備されてなく、近くに敵がいるところでは浮上することはできず(浮上すれば間違いなくやられる)、米軍の駆逐艦と緊迫の闘いが繰り広げられます。

ミッドウェイ海戦というとどうしても航空母艦同士の闘いというのが話しのメインとなりますが、こうした影になった戦争に陽を当てるのがうまい作家さんです。そう言えば玉木宏が艦長役で主演した映画「真夏のオリオン」の原作も同氏の「雷撃深度一九・五」で、かなりの部分が実話だったそうです。

著者別読書感想(池上司)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

キング&クイーン 柳 広司

トーキョー・プリズン」や「新世界」を読んでこの人の小説は外せないと感じましたが、この本もなかなかいい感じです。特に社会的テーマを扱う作品にはうならせるものが多く、いずれは映画化もされていくことになるのでしょう。

この「キング&クイーン」は日本では将棋や碁と比べると愛好家の少ないチェスの世界をテーマにした作品です。私も子供の頃に何度かチェスを覚えようとしたことがありますが、結局は将棋のほうが面白く、兄弟や周囲にも同好とする人が多かったため結局はマスターするには至りませんでした。

しかし世界で見ると当然ながら将棋や碁の愛好者数とは比べものにならないほどに多く(世界で3億人)の愛好家がいるのがチェスです。チェスを主題にした小説や映画なども数多くあります。

そのチェスの元チャンピョンのアメリカ人が、日本で何者から追われて隠れているところを元SP(セキュリティポリス)の女性に救われます。なぜ日本のヤクザに追われるのか?黒幕はいったい誰か?アメリカ大統領との確執の行方は?そして、、、と、最後には私もすっかり騙されたどんでん返しが起きます。ジェフリー・アーチャーや貫井徳郎氏の小説にも最後の最後まですっかり騙されたものがありますが、これはまたお見事です。

この作品でまったくオリジナルな主人公(元SP)が登場しましたが、おそらくこの主人公で今後シリーズ化されるように思います。楽しみでもありますが、それよりも従来のような実在した人物をモチーフにした歴史物小説ももっと読みたいものです。

著者別読書感想(柳広司)

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545
ハッピー・リタイアメント (幻冬舎文庫) 浅田次郎

ジェフリー・アーチャーやコナリー、フォーサイスなどと同様、文庫が出てくればなにも考えずにすぐに買ってしまう浅田次郎氏の小説です。タイトルからもわかるように、幸せな定年を迎えようと、これから定年を迎えようとする人には羨ましい限りの話しがいっぱい出てきます。

主人公は役所を早期に肩を叩かれたノンキャリア公務員で、典型的な天下りとして60歳定年までの5年間を過ごすため、戦後まもなくGHQの指導の元で作られた中小企業協会へ入社することになります。

解説で勝間和代氏が書いているとおり、この天下りの仕組みや仕事?の内容はまさに現実そのもので、とにかく5年間なにもしないでジッとしていれば多額の退職金がもらえてハッピーリタイアメントできるという素晴らしきかな人生はと言わんばかりの世界が描かれています。

しかし意外だったのはもう枯れてしまっていると思っていた新顔の二人が実はまだ枯れていない上に、一人は独身、一人は離婚し一家離散した後と言うこともあり、家族のためとかしがらみもなにも持っていないため、本来の仕事にせいを出してしまい、様々なことが起きてしまいます。

いずれにしても中高年者の悲哀が十分に描かれていますが、中でも『どれほど視力に自信があり、どれほど注意力にすぐれていても、けっして自分の目に見えぬ人間が世界にただひとりだけいる。ほかでもない自分自身である。だからたいていの人間は、自分が最も華やいでいた時代の姿を心の鏡にとどめて、誰の目にもそう映っているにちがいないと誤解している。その錯覚に気付いてさえいれば齢なりに尊敬もされ、大人になることも美しく老いることもできるのだが、それはなかなか難しい。』という文章に、ショックを受けない中高年者は少なくないはずです。

特にこの本の主人公のように仕事一筋で生きてきた人にとっては。

あと、小説の中に「つぶれたリーマン(ブラザーズ証券)の(サラ)リーマンが可哀想」という表現が何度か出てきますが、私に言わせれば「リーマンのリーマンは上下を問わず実力以上の高額な報酬を長期間にわたりもらい続けていたわけだからいきなりクビになっても平気の屁」だと思います。なので全然可哀想じゃありません。

もっともつぶれる直前に入社した人は「お気の毒様、あぶく銭をもらい損ねたね」としか言えませんが、正しいリーマンならば新橋の焼鳥屋でサワーをチビチビと飲むのであって、リーマンのリーマンのように六本木ヒルズでワインなどかっくらうのではありません。

著者別読書感想(浅田次郎)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

中国人の本音 中華ネット掲示板を読んでみた 安田 峰俊

近くて遠い国と言われながらも、すでに日本の貿易相手国としては戦後ずっと最大だったアメリカを抜いて一番大きくなった中国ですが、その実態と中国人の本音を正しく理解するには既存のメディアでは難しいのでしょう。

そこで、著者は中国への留学経験を生かし、日中の諸問題を討議できるサイトを運営していて、そこに書かれた両国民の意見や、中国のサイトに書かれたQ&Aサイトなどをピックアップし、この本にまとめました。

ネットに書き込みをする人達ですから、比較的若い年代層が多そうですが、日本の2chなどはかなり年齢層は高くなってきているとも聞きますので、そのあたりは不明です。

内容は「日本のサブカルチャー」「遠い過去になってしまった天安門事件」「中国にもしっかりといる日本のネトウヨ的な人達」「台湾やチベット・ウイグルの問題について」「中国国内のネット規制」などについて、中国人の本音が書かれています。

確かに毎年首相が替わり、長期的な国家戦略が組めず、リーダーシップも発揮できず国際社会においても右往左往している日本と、一党独裁で長期政権が可能、強い国作りにリーダーシップを発揮できる中国の政治と、果たしてもし国同士で競争するとしたらどちらが優れているかというと明らかなような気もします。

別に競争なんかする必要がないというのであれば、優劣をつけることもありませんが、ずっとアジアの盟主だった日本が一番と今でも思い続けている人が多く、中国の躍進には目を背け、様々な問題(事故や民族紛争、人権弾圧など)を過大にとらえ「やっぱり中国は遅れている」と溜飲を下げている人が多そうです。

しかし人口は日本の11倍以上、国土面積は25倍、国内総生産は日本を抜いて世界2位の中国をいつまでも遅れた国として見下しているのはもう完全に時代遅れの唐変木でしょう。

この本を読むと、島国根性の日本人とは大きく違う、広大な大陸国家に住む中国人の壮大な世界観や不満はあるけれど、これだけの大国家を統一し、動かしていくには仕方がないという政治体制への同調とあきらめがよく見て取れます。意外にも中国のネットを使っている人は、日本人以上にリベラルな人が多いのかもしれません。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

木曜組曲 (徳間文庫) 恩田陸

恩田陸さんの小説は大好きで、「黒と茶の幻想」「光の帝国 常野物語」「まひるの月を追いかけて」「夜のピクニック」など十数冊は読んできましたが、最近はもっと視野を広くしようと考え、あまり読んだことのない人の作品を中心に買っていましたので久しぶりです。

しかしこの作家さんは多作ながら描く対象は広く、作品ごとに違った印象を受けます。

この小説はいかにもアガサ・クリスティをインスパイヤして書かれた風で、密室で亡くなった女流作家の縁者達関係者一同が集まって、謎解きをするというミステリー小説で、2002年には映画化もされています。

閉ざされた家の中で関係者が順番に推理したり告白していくという映画としてはもっとも低予算で製作できるスタイルです。

たいへんよくできた推理小説ですが、ひとつだけ言うと、一般的にミステリー小説の主人公というのは大括りに言うと「作家または編集者」か「刑事」のどちらかと言ってもいいほど頻繁に登場します。

京都では「石を投げると学生か坊主に当たる」と言われますが、ミステリー小説界では「石を投げれば作家か警官に当たる」というのは世間一般から見ると、とても異常な世界に映ります。

それはもちろん恩田陸氏に限ったことではないのですが、作家さんが住む世界では同業者か出版社の編集部がもっとも近しい間柄で、手っ取り早くその人達を主人公にしてしまうのが仕事の中身についてもよくわかっていて楽なのでしょうけど、恩田氏ほどの才覚と幅広い知識があるならば、すぐ身近にいそうな人達を主人公にするような安易な設定は避けてもらいたかったなと思うのが残念なところです。

著者別読書感想(恩田陸)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ドリームガール (ハヤカワ・ミステリ文庫) ロバート・B・パーカー

昨年死去したロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズの小説も未読分が残りあと数冊となってきましたが、大手書店やamazonでも在庫がなくなっているものもあり、たまたま見つけるとすぐに買ってしまいます。

このドリームガールは比較的新しく日本では2007年頃に出版されたもので、ちょうどその頃は他のシリーズが立て続けに文庫で刊行されていて、なぜかこの作品を見逃していました。

ロバート・B・パーカーや主人公スペンサー、あるいはハードボイルド小説については過去何度か書いています。

スペンサーシリーズの読み方(初級者編)
さらばスペンサー!さらばロバート・B・パーカー

今回は過去に2度(「儀式」と「海馬を馴らす」)危ないところを救い出した女性が、スペンサーの本拠地ボストンで高級娼館を経営していたところ、そこへ謎の相手から妨害が入るようになり、スペンサーが乗り出すというストーリーです。

助っ人にはホークはもちろん、最強のゲイと言われているテディ・サップも応援に駆けつけます。このテディ、名前がサップとつくので、どうしても私のイメージとしてはボブ・サップとなってしまうのですが、こちらは白人の銃使いです。

この小説のヒロインは少女の頃から売春をしていて、現在もその中から抜け出せずにいます。

スペンサーと恋人スーザンとの会話の中で娼婦についての話しとなり、スペンサーは若い頃に兵士として従軍していた時、その休暇を使い仲間達と「巣鴨のホテルに泊まり、娼婦を買い、そして戦地へ戻った。娼婦を買ったのはその時が最後」と語る場面がありますが、過去の話とはいえ恋人に自分が娼婦を買ったことがあるなんて話しをするとはなんともはやです。

そこで、あれ?スペンサーってベトナム(実質的なアメリカ参戦は1965年~1975年)へ行ったことあったっけ?と思いましたが、スペンサーシリーズ第1作目は1973年の発行で、その時既に警察官を経験した上で、探偵に職を変えていましたからちょっと無理があります。

解説を読んでわかったのですが、スペンサーは1950年代の朝鮮戦争へ兵士として行ったことになっていたそうで、このシリーズが大ヒットして、約40年間も続いてしまったものだから、そこのあたりの年代が合わなくなってきたということです。

確かに仮に20歳で朝鮮戦争へ従軍していたとすれば、今は80歳近い年齢となりますから、ちょっとハードボイルドのイメージが崩れてしまいます。小説の中でも「戦地に行った」としか書いてなくぼかした扱いになっています。

小説の中では一切年齢は明かしてきませんでしたが、イメージとしてはスペンサーはシリーズ最初の頃は30代後半、最近のものは40代の半ばという感じがします。理由は、ボストン市警の警部(マーティン・クワーク)にいつもタメ口を聞いているので、さすがに30代ではありえないだろうと。

40年経っても主人公はまったく変わらないか、せいぜい10歳ぐらいしか歳をとらないのは、サザエさんやちびまる子ちゃんを見てもわかるとおりです。

著者別読書感想(ロバート・B・パーカー)

※スペンサーシリーズの参考サイト(Clues Are My Game SPENSER with an S



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540
哀愁的東京 (角川文庫) 重松 清

まったくバカですね。これでいったい何冊目になることか。軽く10冊は超えてます。すでに持っていて読んだ本をまた買ってしまいました。買うときにはタイトルや、カバー裏面のあらすじを読んでもわからず、中身を少し読んでみてから「あれ?」と気がつくものがほとんどです。中には最後まで読んでまったく気がつかず、読んだ後にデータを登録する際「ありゃ10年前に読んでら」とか気がついたものもありました。恥ずかしながらボケちまってます。

時には単行本で買って読んで、その後文庫本でも買ってしまうケースや、A社の文庫として刊行されたあと、しばらくしてから別のB社から同じ小説が文庫で発刊されることがあり、そのB社から発刊されるときは「新刊」となるので、それを「あ、誰それさんの新刊が出た!」と思わず中身を見ずに買ってしまったということも何回かありました。もちろん同じA社からカバーがガラリと変わり「新装刊」として出る場合もややこしいです。そりゃ一種の詐欺だろとか思ってしまいます。

この本は一度2007年初頭に文庫を買って読んでいます(文庫の発刊は2006年12月)。小説の中に自宅の近所にある向ヶ丘遊園地がモデルとして登場し、そこの閉園に絡み、そこで働いていた年老いたピエロと、遊びに来ていたヤク中の父親に殺されてしまう少女の話しが記憶に残っていて、そこの場面でハッと気がつきました。遅すぎです。

内容は短編連作で、主人公は昔に絵本を出したこともある離婚歴のある中年フリーライター男性。父親に殺されて亡くなった少女を想い、遊園地で楽しそうにピエロをジッと眺めているシーンを象徴的にハッピーエンドで締めくくった絵本で賞をとったものの、それを見せに行った遊園地のピエロにいきなり殴りつけられ、そのことによって次作が描けなくなってしまいます。

小説には、その絵本の大ファンでそれが編集者になるきっかけだったという若い女性編集者や、IT長者で時の人だったものの事業が破綻してしまった社長、小学生の頃にデビューし大ヒットしたものの、大人になるにつれ落ち目になってしまった少女歌手、売れっ子だった作曲家など、次々に魅力たっぷりな人物が登場します。活字離れが激しい中で、そういう仕事に溢れる右肩上がりのライターがいれば素晴らしいなぁとも思えるファンタジードラマのようでもあります。

2度も買ったので言うわけではありませんが、タイトルはもちろん、中身も面白く仕上がっていてお勧めな文庫です。このブログにプレゼントコーナーがあれば余分な1冊を熨斗つけて出品するのですけどね。

著者別読書感想(重松清)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ネットの炎上力 (文春新書) 蜷川 真夫

著者の蜷川氏はネットのヘビーユーザーなら誰でも知っている「J-CAST(ジェイキャスト)」の社長さんです。元々大手新聞社に勤めていて、ネットビジネスに興味が移り、やがてネットメディアの可能性を信じて設立されたそうです(ちょっと違うかも)。

内容はひと言で言うと「J-CAST」の宣伝が主体で、書かれている情報は少し古いようですがこういったネットメディアに興味がある人は、面白く読めます。ネットの話しというのは書いている側から古くなっていくので、賞味期間は極めて短いですね。

例えば、ユーザー集め(ページビュー)の方法や、ログの解析による誘導元分析、SEOなどが素人にわかりやすく書かれています。ただ、こういう事が本にして書けると言うことは、すでにその手法や発想は古く、もう使えないので公表してもいいだろうという段階なのだと思われます。

ネットビジネスの世界はもの凄く流行廃りが激しいので、同じやり方が2年以上通用することは滅多にありません。次々と新しい手を打ち、その中から使えそうなものを選択し、同時にまた新しいことを始めるという終わりなきアイデアでしか生きてはいけません。

著者が書いているとおりJ-CASTは、テレビや新聞などのニュースや速報など一次情報と、雑誌・週刊誌の事件や事故を深掘りして論評などを加えた二次情報との中間的存在で「1.5次情報」を扱うメディアとして、ある意味ニッチなところに最初に目をつけて開拓してきました。しかし本書には書かれていませんが、ライバルと目されるサイトも増えてきています。

通常ならブログやTwitterが炎上(非難や否定的な書き込みが急増する)するのは避けたいところですが、こうした1.5次情報を扱うネットメディアは、その炎上を引き起こすことでうまくビジネスに利用します。

言ってみると「他人の褌で相撲」なところがありますが、大手メディアの間違いや、書かないこと、書かれちゃ困ることを拾い上げて、ニュースにするところに絶妙のうまさがあります。

ま、そう言ったJ-CASTが躍進していく過程と、新聞・テレビなど旧メディアがダメダメになっていく理由を述べたのが本書です。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

弥勒の掌 (文春文庫) 我孫子武丸

我孫子武丸氏の名前は当然ペンネームで、デビューの1989年以来数多くの推理小説をだされていますが、今回読むのは初めてです。

弥勒というと京都広隆寺にある弥勒菩薩像を思い浮かべますが、仏陀の入滅後56億7千万年後に現世に現れ仏陀となるとされていますが、著者はこの「56億7千万」を「年」ではなく「人」と置き換えたストーリーで、現代の日本に現れた弥勒様としてうまくストーリーが作られています。

「地球上の人口が56億7千万人になると弥勒は再び現世に現れる」としたら、弥勒は仏陀となって1995年に現れることになります。その弥勒を神と崇める新興宗教団体がこの物語のキーとなってきます。と言ってもよくあるオーム真理教に似せた犯罪集団との闘いと言ったようなものではありません。

主人公は妻が行方不明になった高校教師と、妻がラブホテルで殺された刑事の二人です。なぜ妻が失踪または殺されたのかを二人が協力して解明していきます。この辺りの二人それぞれの心の中の思惑が微に入り細に入りで、ややそのあたりにもっさり感が漂います。最近のやたらとスピード感のある小説が多い中では異例かもしれません。

ま、しかしいずれにしても最後の最後で明らかになるビックリ仰天の結末は、貫井徳郎氏の「慟哭」以来で久々のことです。

著者別読書感想(我孫子武丸)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

プリンセス・トヨトミ (文春文庫) 万城目学

2006年に鴨川ホルモーで衝撃デビューを果たした万城目学氏の作品で、すでに綾瀬はるかなどが出演した映画も作られています。

よく「大阪(広い意味では関西)は独立国」と言われます。それは独特の進化を遂げた関西弁や、400年前までは江戸(東京)よりもはるかに賑わっていた世界有数の都市だったという独特のプライドなどが入り交じっています。

多くの小説や映画では悪役のイメージが強い最初の天下人豊臣秀吉に対して、大阪(関西)人の多くは今でも慕っているというのも特徴的です。

本書にも出てきますが、大阪城のすぐ側にある大阪府庁のマークは豊臣秀吉の象徴でもある馬印のひょうたんを象ったもので、徳川200年の間に徹底的に破壊し排除された豊臣色ですが、現在でも様々なところに受け継がれたり残っているものがあります。

さて本書ではその秀吉と血のつながった子孫が延々と庶民に守られ、明治政府ができる直前に日本の臨時政府と取り交わした条約により表には出ない大阪国という存在が、会計検査院の調査で明らかになっていきます。

ま、荒唐無稽なドタバタ劇ですが、鴨川ホルモーと同様に、「そういうことがあったら面白いなぁ…」というぐらいの話しです。

しかしうんちくですが、いまの復元された大阪城の原型が秀吉の作ったものではなく、夏の陣で豊臣一族がすべて亡くなり、大阪城もいったん灰燼に帰した後に、徳川秀忠、家光の時代に豊臣色を消すために新たに作らせた大阪城だとは初めて知りました。

著者別読書感想(万城目学)



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536
沼地の記憶 (文春文庫) トマス・H. クック

今年64歳になったアメリカの作家さんで、「死の記憶」「夏草の記憶」「緋色の記憶」「夜の記憶」の記憶四部作で有名です。私も記憶シリーズ含め八作を読んでいますが、どれも新鮮でたいへん面白いミステリー作品で気に入ってます。もっとも「記憶シリーズ」というのは翻訳出版している日本の会社が勝手に名付けたもので、原題にはそのような関連はまったくありません。

この「沼地の記憶」はよく売れた記憶シリーズの再来を期して名付けられたのか不明ですが、日本では2010年に刊行されています。内容は過去のシリーズなどとも共通して、暗くて重い歴史を開くことによって、現代に悲劇が起きることになります。

アメリカの過去の歴史は日本やヨーロッパなどと比べると遙かに短く、国ができたのはわずか235年前です。その短い歴史の中にも、奴隷制度、南北間の格差、そして移民が持ち込んだ階級制度などにより、数世代に渡る勝ち組と負け組が存在し続けます。

勝ち組の教師が、負け組が多く通う高校で教鞭をとり、その中に殺人犯と思われる父親をもつ生徒に優れた文才を見出し、それを開花させようと努力をしていきますが、結果的にはそれが仇となってしまいます。その過去の出来事を年老いた教師が語るという構成です。

何度か途中で予防線的に語られる話の内容から、もっと強烈で衝撃的な結末を予想していたのですが、それはなく、なにか普通に終わってしまいました。ま、いくらフィクションだと言っても、よくある荒唐無稽なものよりは現実的で私にとっては納得感があります。

著者別読書感想(トマス・H・クック)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

はちまん(角川文庫) 上下巻 内田康夫

著者の内田康夫氏についてはwikipediaに「西村京太郎、山村美紗とともに、旅情ミステリー作家の代表的人物として知られる。代表作に『浅見光彦シリーズ』『岡部警部シリーズ』『信濃のコロンボシリーズ』など。」とあります。御歳76歳で、1981年に第1作を上梓されているので今年で作家歴30年というベテラン作家さんです。私は7年ぐらい前に「氷雪の殺人」を読んだきりです。

今回は、そのタイトルにひかれ、全国にその名のつく神社が数多くあり、自宅の近所にもある八幡神社のことについて、多少雑学のネタになるかなと思って読み始めました。

さすがに紀行小説の名手だけあって、長野、秋田、熊本、高知、呉の街が次々と出てきます。その立役者には主人公の女性カメラマンとその婚約者、そして内田氏の小説には欠かせない、謎解きの名手で数々のミステリーで主人公となっているルポライターの浅見光彦が全国を駆けめぐります。

また実在する八幡神社も、有名な宇佐、石清水、鶴岡の八幡宮ではなく、地方にある無名の八幡神社が次々と登場してきます。物語の途中で、政治家と土建屋が結託する場面がありますが、そこだけはなにか唐突すぎて多少違和感があります。しかし巨悪の犯罪が絡むストーリー展開上やむを得ないのでしょう。

八幡神社の歴史や謂われ、神仏習合、日本人の歴史認識から文科省管轄のサッカーくじ問題などまで含め、雑学を知るためにも十分に楽しめる小説です。

登場する実在の八幡神社(リンク先は公式サイトがない場合、個人または企業サイトです)
小内八幡神社(長野県中野市)
亀山神社(亀山八幡宮)(広島県呉市)
久礼八幡宮(高知県中土佐町)
千田聖母八幡宮(熊本県山鹿市)

著者別読書感想(内田康夫)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

若者殺しの時代 堀井憲一郎

作品を読んでいると、団塊世代に対してフツフツと沸いている怨念というかよからぬ一家言がありそうで、そうなると私と歳が近そうだなぁと思ってましたが、同学年の人でした。ただ堀井氏は勉強が大好きらしく大学(早稲田)に7年も在籍していたので、アルバイトではなくプロの社会人として勤めに出たのは私が3年先輩ということになります。おまけに出身は同じく関西で、近いところで共に少年時代をおくっていました。

なので、道理で、70年代のバブル前、80年代後半のバブル全盛期、90年のバブル後のことが集中して書かれているはずです。私も著者もお金はないけど暇とやる気と体力だけは人一倍あるという青春時代をその頃に過ごしていたからです。最初タイトルからすると「現在の若者の育ってきたこの20年間の環境をあれやこれやと検証し、大人達から搾取されているな」というものを想定していただけに、あれまという感じです。

タイトルは無理矢理あとでこじつけたような気がしますが(タイトルありきで書いたものとは違う印象)、要は団塊世代が先陣を切り、若者文化を開花させ、それをやがてビジネスへと変えてしまう戦略を創りだし、それに次の世代(我々)はよくわからないまま勢いで乗っかってしまい(多少いい思いをして)、やがてペンペン草も生えない焼け野原をその次の世代や今の若者へ引き継いだと、わかりやすく縮めるとそんな感じの本です。

著者は「ホリイのずんずん調査」というコラムを長く週刊文春に書いていたこともあるフリーライター氏ですが、フリーライターの多くは元出版社に所属していた文学少年少女という人が多い中、大学卒業後いきなりフリーでライターを始めるというまったく怖いもの知らずの人のようです。最近の雑誌、週刊誌等を含む活字不況の中で、どうやって食っているのでしょうか、他人事ながら同郷&同世代なのでちょいと心配になってきます。

ちなみに私の若い頃(20代独身時代)の象徴と言えばディスコやユーミンではなく、ホイチョイプロダクションでした。彼らの作る映画や雑誌に連載していたコラムが私の聖書となっていました。そして今でもその頃の名残として、TAG社に買収される前のホイヤーの腕時計と、レンタルDVD屋の会員になるときぐらいしか役に立たない小型一級船舶操縦免許があります。

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悼む人(文春文庫) 天童 荒太

天童氏は1986年にデビューし、2年に1作品程度の寡作で有名な作家です。この「悼む人」はデビュー後8作目にして直木賞(2009年)を受賞した作品で、タイトルや表紙デザイン通りに不気味で重いテーマを扱っています。

主人公の男性は、子供の頃のふとしたトラウマから、死によって忘れられていく哀れさを引きずり、親友の若くしての死やボランティア活動で子供の不治の病に接し、突然勤めていた会社を辞めて、見知らぬ人の死をひとりひとり尋ね、それを悼むために全国放浪の旅を始めます。

その悼む人(主人公)と偶然に交錯した不幸な生い立ちから再婚後ある事情で夫を刺し刑務所から出てきた女性や、癌に冒され余命があとわずかという主人公の母親、人間の嫌な部分をほじくり出しては、えげつない記事を書いてきた週刊誌のルポライターなどが、この主人公の悼む姿と行動に深く共感と影響を受けていきます。

読んでいるあいだ中、ずっしりと重いテーマを頭上に乗せられた気分になり、読むスピードもあがりませんでした。しかし、こういう人間や家族というものを考えさせられる小説も時にはいいものです。

著者別読書感想(天童荒太)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫) 森見登美彦

森見登美彦氏のデビュー作品「太陽の塔」を読み、なんだか著者に親近感を感じましたが、それは森見氏が関西出身で、京都で大学生活をおくるという私と共通の体験(同じ大学ではないが)をしていたことに大きな要因があるでしょう。

それはまた「鴨川ホルモー」などの著作で知られる万城目学氏とも共通します。ただ年齢は私より森見氏や万城目氏のほうがずっと若く、20年以上も離れています。私にとって森見氏の「太陽の塔」はあくまで1970年に開催された万博会場の中に立つシンボルとしての思い入れですが、氏のそれはデートで行く公園のシンボルになっていたことに、その世代の違いを感じます。

この本は「太陽の塔」とはまた大きく違い、どちらかと言えばすでに商品化されていますがコミックやアニメに近いものがあり、若い人にはたぶん面白おかしく読めるのでしょうが、すでに50代に入った私には全然面白くもなんともないなぁって感じです。

本屋大賞でノミネートされていた本なので期待をしていましたが、何度か途中で読むのをやめようかと思うぐらい、ちょっと残念な気持ちです。森見氏の本では2007年発刊の「有頂天家族」も既に購入済みなので、そちらに期待することにしましょう。いま手元には20冊ぐらいの未読の本があり、日々衝動買いや知人にもらったりすることもあるので、それがいつ読めるかはわかりませんが。

内容は京都大学とその周辺で起きるドタバタを、ユニークな京大生の女性とその女性にあこがれる大学の先輩とが巻き起こすファンタジーコメディです。

著者別読書感想(森見登美彦)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

街場のメディア論 (光文社新書) 内田樹

この「待場の・・・」新書はシリーズ化されていて、このシリーズは大学での講義を元に書き起こされたものだと前書きにあります。したがって内容的には大学生向けなのですが、読んでみるといやいやレジャー気分で登校している大学生などにはもったいない、たいへん中身が濃くて興味を喚起されるものです。

同様にマスメディアを批判した佐々木俊尚氏の「2011年 新聞・テレビ消滅」とは違い、システム的なものではなく、メディアの中にこそ問題が堆積していることを学生向けにわかりやすく解説していきます。この点はジャーナリストと学者との違いを感じるところですが、私にはこの街場のメディア論のほうが納得感を強く得られました。

この内田樹氏は、著作権についても他の多くの学者や著作権者、出版社とは違った考えを持っておられ、氏の書いたものは、事前の断りや、出典の記載など必要なく、自由に引用でも盗用でも使ってくださいという考え方です。全然別の機会に、ある有名作家氏がTwitterで「私は書き下ろし小説が多いので、新刊本をすぐに図書館で買われ貸し出しされるときつい」という意味の書き込みがありましたが、それにもまったく反する考え方をこの本で述べています。

まぁ、両者の言い分はそれぞれに理解できますが、少なくともWebに上げたものは、無償、引用や個人の利用は自由というのは私も大いに賛成です。内田氏のように盗用して勝手に別人の名前で発表してもOKとは言いませんが。

地震学者であり、いち早く原発事故による放射能汚染地図を公開してきた早川氏もTwitterで「日経のWebサイトはコピーペーストができないようになっている。報道機関としてあるまじき行為で、所詮金儲けしか考えていないのだろう」と発言されていましたが、まったくその通りで、そういう体質が近いうちに崩壊する前兆なのだろうと思います。

著者別読書感想(内田樹)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

千年樹 (集英社文庫) 荻原浩

私とほぼ同年齢の現代小説を主とする作家さんで、テーマが多岐にわたり、その内容は深く、私は刊行された小説(20数冊)の文庫になったものはほとんどは読んでいます。特に印象に残っているのは「オロロ畑でつかまえて」「誘拐ラプソディー」「神様からひと言」「僕たちの戦争」「明日の記憶」などです。

この千年樹は、大きな樹齢千年と言われる樫木を中心とし、その拡がる枝葉のように様々な年代で様々な人が死と生を積み重ねていく姿を連作形式で書かれたものです。

時代は千年前の平安時代から始まり最後は現代ですが、中間は、江戸時代や、昭和でも太平洋戦争の時代や現代などを行ったり来たりします。時代が次々に飛びますので、しっかりと記憶して読んでいないと、後でその関係性がわからなくなったり(まったく関係ないことも多い)します。この手法は荻原氏の新しい試みなのでしょうか、今までの小説のように軽くサラッと読んでいると混乱をきたします。

それにしても荻原浩氏はここ最近何度も直木賞候補に挙がりながらも、あと一歩のところで逃し、ちょっと気の毒なところがあります。しかし同じく私が贔屓にしている佐々木譲氏も昨年に60歳で直木賞を受賞されましたので、荻原氏も間違いなく数年のうちには受賞され、受賞後のインタビューで感想を聞かれたときには「待ち疲れました」と言ってもらいたいものです。

著者別読書感想(荻原浩)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ツレがうつになりまして。 (幻冬舎文庫) 細川 貂々
その後のツレがうつになりまして。 (幻冬舎文庫) 細川 貂々


この通称「ツレうつ」を原作とした実写映画が10月に公開されると言うことと、前からタイトルが気になっていて読んでみました。いや、読むというのは正確ではないかもしれません、基本漫画なのですが、イラストエッセイという新しいジャンルの出版物のようです。でもやっぱり私の感覚では漫画です。

この本がヒットしたため、まとめた続編なども出ていますが、ま、柳のドジョウで、営業的にはどうだったのでしょうか。

絵は特徴的で、上手いとはとても言い難いのですが、なかなか味はあります。鬱という難解な病気に対してなにか愛着すら沸いてきそうなエッセイで、それは見事に当たったと思います。

うつ病は誰でも罹る可能性のある心の風邪とも言われていますが、私の身近にも過去に患った人が複数います。この病気は一見ではわかりにくいので、病気のことを知らないと冗談と思ってかわいそうな事を言ってしまったり、逆に知ってしまったあとは、とても気を遣うことになります。

うつ病というのが一般的に社会で認知されてきたのはここ10数年ぐらいで、それまでは、急に出社しなくなり、「怠け病」とか言われていた時期が長くありました。私も直属の部下に、今思えばうつ病だと思うのですが、その頃は「急に休んでばかりでけしからん、もう面倒をみきれない」とか叱ったことがあり、その後大いに反省しました。

この本では、ドキュメンタリー風にバリバリのスーパーサラリーマンだった夫(映画では堺雅人)が、突然うつに罹ってしまい、「朝起き上がれない」「満員電車に怖くて乗れない」「悪いことばかり考える」「自殺を考える」などの症状を、売れないフリーの漫画家の妻(映画では宮崎あおい)と一緒に数年かけて、数々の難局を乗り越えていく姿が面白おかしく描かれています。

その中には「うつの本に載っている症状とは違うぞ」「やってはいけないという常識もケースバイケース」など、わかりやすく治癒までの経験談が説明がされていて、絵本のように2~30分もあれば一冊が読めてしまいます。

ちなみに堺雅人と宮﨑あおいの夫婦役はNHK大河ドラマの「篤姫」以来となり、それを楽しみにしている人も多いとか。



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