リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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八月十五日の開戦 (角川文庫) 池上司
太平洋戦争(大東亜戦争)までは、樺太の半分、千島列島の全部は日本の領土として国際的に認められていたことを知る人も少なくなっているでしょう。また戦争末期には、アメリカ、英国、中国などと講和するため、日本と中立条約を結んでいたソ連に仲介を依頼していたわけですが、そのソ連はというと、それには応ぜず、逆に終戦間際になって一方的に条約を破棄し、それまで日本が攻め込んでいた満州や、領土としていた千島列島へ武力を用いて攻め込んできました。
この本では、ポツダム宣言受諾で放心状態にあり混乱していた大本営は頼りにならず、今までは米国のアリューシャン諸島から攻撃される可能性のあった千島列島や樺太、北海道の守備隊が、終戦後にも関わらず、ソ連の暴挙とも言える侵攻を食い止めるべく孤軍奮闘する姿がフィクションを交えドキュメンタリー風に描かれています。
ドイツ機甲師団を打ち破り圧倒的に強力なソ連軍と、食料も武器も兵員も乏しく、先には手を出せない降伏後の守備隊ですが、その防人となったのは、国民から各戦場で日本が負けたことを隠すため、撤退したあと、辺境の地に追いやられていたノモンハンやビルマ、ミッドウェイ、ガダルカナルなどの生き残り達です。
本来なら8月15日をもって任務は解かれ、本土へ帰還できるはずでしたが、このソ連参戦のため、北海道までを一気に占領される可能性があり、それを食い止めるため、死を覚悟して今まで以上に厳しい戦いをせざるを得なかった千島の守備隊の苦悩がよくわかります。
しかしそのような一度地獄を見てきた強者が揃っていたことが幸いし、千島列島を足がかりにして、一気に北海道に上陸するつもりだったソ連軍を、カムチャッカ半島からほど近い千島列島の最初の島「占守島」に釘付けにします。結局この終戦後の戦闘で戦死したのは、詳細な記録はないものの、日本側600名、ソ連側3000名にのぼったとされています。
小説では、その終戦後の数日間、ソ連軍を北海道の手前で食い止めている間に、連合国の責任者マッカーサーに密使を送り、ユダヤ人虐殺をアメリカ政府が荷担したという証拠を持ち出して、それとひき替えにソ連の攻撃をやめさせるべく提案します。
ほとんど語られることのないこの終戦後のつらくはかない戦闘ですが、昨年、浅田次郎氏が「終わらざる夏」でも描いています。まだ読んでいないので中身は知りませんが、超人気作家の小説ですから、今年上映される「日輪の遺産」と同様、おそらくこれもいずれは映画化されることになるのでしょう。
◇著者別読書感想(池上司)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
犯罪小説家 (双葉文庫) 雫井脩介
先日読んだ「つばさものがたり」や「犯人に告ぐ 」などの作品で人気沸騰中の作家さんの2008年に出版された作品です。
作家とその映画化に向けた世界を書いていますので、著者としては勝手知ったる自分の庭での物語なので、一瞬手抜きか?と思いましたが、それなりに面白く構成されていると思いました。この作品も映画化(映像化)を視野に入れているなという気もしますが、たぶん数年のうちにはきっと実現するのでしょう。
内容は、ミステリーの賞に輝いた小説家が主人公で、その原作を元にして映画化の話しが持ち上がります。そしてその脚本、監督、主演を人気絶頂の脚本家でもありマルチタレントの男に依頼することが決まりますが、その男がなにかと主人公の作家にまとわりついてきます。
小説の内容とはまったく関係がないと思われた、集団自殺サイトを運営していた美人管理人の美しい自殺と、この賞を取った小説の裏に隠された内容に、ただひとりだけ気がつき、残されたサイト運営幹部の謎と行方を追いかけ、最後のクライマックスまでドキドキさせられることになります。
やたらとその自殺サイトの話しや、そこで交わされた書き込みが克明に出てきますので、ちょっと薄気味悪く、全体が暗いトーンになってしまっているのは気になりますが、現代の暗部をうまく取り込んでいるとも言えます。ただ本当に自殺願望のある人は読まない方がいいでしょう。
◇著者別読書感想(雫井脩介)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
プリズム (創元推理文庫) 貫井徳郎
1993年に「慟哭」で衝撃的なデビューを果たした貫井徳郎氏の、1999年に書かれた小説です。「慟哭」はずっと以前に読みましたが、とても新人作家とは思えない、その内容と構成に驚かされました。その後は「悪党たちは千里を走る」など何冊か読みましたが、どれもよく練り上げられた内容で面白く読みました。
この小説はではミステリー小説としては日本で珍しい新しい試みがされています。そのネタばらしはさすがにできませんが、ちょっと意味合いは違うものの、私は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を思い浮かべました。
直前に読んだ雫井脩介氏の「犯罪小説家」は直球のミステリー小説ですが、それともなにか通ずるものがあり、続けて読むのは混乱を招きちょっとよくなかったかなぁとちと反省も。
タイトルのプリズムとはいきなり死んで登場する女性ヒロインが、様々な見る角度によって妖しい光を発していることを指しているのだろうと思いますが、私にはその死んだ女性の周辺にいた人達が、様々な角度で死因や犯人を考察していくことを指してプリズムというタイトルなのかなと感じました。
あらすじは、美しい独身の小学校女性教員が、ある日自分の部屋で亡くなっていて、それが事故なのか、他殺なのか不明で、容疑者と考えられる人は何人もいるけれど、いずれも決定的な証拠はなく、教え子の小学生、女性教員の同僚、死んだ女性の元恋人、そして不倫相手などその周辺の人達が、それぞれに疑われながらも自分で推理をしていくというものです。
◇著者別読書感想(貫井徳郎)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫) 鯨 統一郎
著者は変わった名前(ペンネーム)だな思ったらしっかり覆面作家とのことです(wikiより)。先般読んだ2002年デビューの坂木司氏もそうでしたが、2000年前後は覆面にすることでなにかメリットがあったのでしょうかね?
実名でアピールし、サイン会、講演会、テレビコメンテーターなど幅広く商機を拡げていくほうが、売り出し中の作家としては望ましいのではと思うのですが。
ま、芸者作家、茶坊主作家、太鼓持ち作家にはなりたかねぇとお高くとまるのもひとつの見識ではありますが。
今回の本のタイトルにも使われている「邪馬台国」を扱った小説は数々ありますが、私は高木彬光氏の「邪馬台国の秘密」ぐらいしか読んでなく、テーマ的にはあまり関心はなかったのですが、今から40年近く前に書かれた「邪馬台国の秘密」以降にも新しい発見や新説が登場していますので、最近ではどのような説が一般的になっているのか、知っておくのもいいかなという軽い気持ちで読み始めました。
ちなみに近所の大型書店では「ここまでわかった!邪馬台国」が平積みされていて、これも近いうちに読んでみたいなと思っていますが、これは全国にある邪馬台国の候補地の紹介みたいな感じで、小説としての謎解きの面白さは当然ありません。
そんな、なにも先入観なく読み始めましたが、この文庫はタイトル名にもなった「邪馬台国の謎解き」だけでなく、下記のように、現在の常識や謎を、新宿にあるバーの常連さんのひとりが解き明かし覆していくという短編でした。
その概略は、
・聖徳太子は実在しなかった
・お釈迦様は悟りをひらかなかった
・邪馬台国は東北にあった
・明智光秀は謀反人ではなかった
・倒幕の黒幕は幕府側の勝海舟?
などです。
ちょっと考察に甘いところがあるんじゃないのか?都合のいい部分だけ抜き出して解釈してないか?と思うところもありますが、しかし現在の通説や常識を、軽いノリで次々と覆していくスリリングで無駄のないテンポの良さは読んでいてもスッキリします。
これらの元ネタは文庫の後書きにありますが、著者自身の発想ではなく、ある別人の解釈を元にして、著者が小説化したものです。
そういうことをちゃんと明示しているところは、論文や小説などで盗作疑惑や著作権問題がこじれることが多い中で誠実さを感じます。
本書の中に出てくる解釈では、「日本書紀はいくつか流れのある天皇家の中でも勝ち組の一派が書かせたものなので、負け組のことについての記述は曖昧で信用がおけない(聖徳太子の実在しない)」とか、また地図上の方角について、目の前に方角の誰でもわかる太陽がありながら「当時の公文書に北と南を間違えて記載をする(邪馬台国は東北にあった)」というのは、にわかには信じがたいように思います。
本来なら短編のそれぞれの項目が、大きなテーマでもあり、そのテーマだけで上・中・下巻の長編小説になりそうですが、それを短編としてサクッとまとめてしまうところがなんともこころ憎いなと思います。
せっかくですから、当然予想されるそれぞれの反論や通説の根拠となっている様々な証拠に対して、また今回、通説を覆した推察に対する反論も加え、もっと深く掘り下げた小説にしてみてはどうでしょう。
高木彬光氏の「成吉思汗の秘密」では「義経は成吉思汗ではない」という論拠からスタートさせ、最終的にはその論拠をことごとくつぶしていくというストーリーでしたが、歴史物はそうやって見ていくと説得力が増すように思います。
ちょうど、いまは歴史に興味を持つ若い女性(歴女)と、仕事を辞め暇を持てあまして歴史書を読みふけり遺跡の見学に大挙押しかけている団塊世代がいますので、この歴史ブームをうまくつかむことができれば、このようなテーマは大ヒットすると思います。
ま、いずれにしても、この推理小説は軽くできていますので、満員の通勤電車の中で集中して読むのには、最適な小説でした。
◇著者別読書感想(鯨統一郎)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「若者はかわいそう」論のウソ (扶桑社新書) 海老原嗣生
新書ほど中身に当たり外れの多い出版物はないという持論ですが、数年前からの新書ブームでタイトルに過激な表現を使うことが当たり前になってきています。
私の場合、数多く読みたいので、新刊書を単行本で買うことはあまりなく、単行本の中から評判のよかったものだけが文庫化されるのを待ち、さらにその中から読みたいものを選んで購入していますから、そう大きな当たり外れはありません。
しかし新書というのは、以前ならロングセラーになる学術系だったり、ハウツーものがメインだったりしたのが、最近では誰でもお手軽に出版できて、それこそタイトルで勝負、一発屋狙いの「スポーツ新聞」的な軽くてどうも信用の置けない書籍となっています。
前置きが長くなりましたが、この『「若者はかわいそう」論のウソ』はタイトルは過激で、最初手に取ったときは心配だったのですが、読み始めて中身もそれなりにあり、なかなか面白く読むことができました。
著者は元リクルートで自分では人材雇用問題のエキスパートのように自慢されてますが、人材ビジネスの中心で20年以上関わってきた私からすればやや底の浅い、人材出版編集者兼ジャーナリストという感じがします。それがいいとか悪いと言っているのではありません、念のため。
で、この新書では、著者の好き嫌いがハッキリしていて、どうも好きではない人が書いたベストセラーに対し、意図的な誤魔化しや誤解を生じされる書き方などを徹底的に糾弾し、それに同調するマスメディアをも非難しています。このあたりの切れ味は、さすが元リクの元編集者と言えるでしょう。
さらに、今後日本の雇用はどうすればいいかという点についても持論を展開し、関連する有名人との対談を収録されていますが、その著者の考える今後の雇用対策の章については、残念ながらその意見に同調する人はあまりいないでしょうし、実現可能性は日本が中国に侵略され24番目の省になるより低そうなので、あまり参考にはなりません。
冗談で書いているならともかく、実現可能性がまったくない意味のないプランをいくつ出しても紙の無駄になるだけです。
それはともかく、前半部分は、久々に新書の中で面白いものに出会った爽快感があり、それだけでも読む価値は十分にあると思います。最近の新書では「国家の品格」や「デフレの正体」「偽善エコロジー」などは別格として、それらに次いで、読んでよかったと思えるものでした。
それにしても最近の新書という新書は、統計データを元にして「ハイ一丁上がり」とばかりに一冊にまとめる(同書はそれだけではありませんが)のが、最近やたらと流行しています。「統計は使い方によってどうにでもなる」という考え方を持つ私にとっては、今の新書ブームは単に胡散臭く思えて仕方がないのです。
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数学的にありえない(文春文庫) 上・下巻 アダム・ファウアー
神経症を患っている天才的な若い数学者が賭博のポーカーの最中にその病気が発症してしまい、そのため大きな借金を背負うこととなり、それから逃れるためにあれやこれやと考えていると、やはり神経を病んで精神病院に入っていた双子の兄が退院してやってくるは、政府の謎の科学技術研究所やFBI、CIA、北朝鮮のスパイが起こす事件に巻き込まれて追われることになるわで、てんやわんやの1週間を描いたミステリー小説です。
数学者ということで、確率で博打や意志決定をしていくわけですが、さらにその上をいく特殊な能力「ラプラスの魔」別名「集合的無意識」が目覚め、少しずつ未来が予測できるようになっていきます。このあたりはなぜそうなるのか様々な理論が展開されますが、あまり知らないことばかりなので、素人には説得力がないのがちょいと残念なところです。数学者が読むとどう思うのか聞いてみたい気もします。
そして確率と未来予知を利用して、主人公は博打で借金を返済することに成功しますが、その特殊能力をもし自在に操れるようになれば、それはノーベル賞もの、国家ならば軍事目的などに大いに有効ですから、学者もスパイも必死になってそのサンプル(=主人公)を追いかけることになります。
実在する特殊な能力と言うと、映画レインマンで「サヴァン症候群」という常人では考えられない抜群の記憶力を持つ自閉症患者の役をダスティン・ホフマンが好演しましたが、あれにも記憶力による確率をもちいてカジノで大勝ちするシーンがありました。アメリカ人が考える特殊能力は、すぐに楽して金儲けと連想させるのがいかにもお国柄です。この小説もアメリカ人の大好きな「人生はいつもギャンブルだ」と言ってもいいでしょう。
著者のアダム・ファウアーはこの長編ミステリーがデビュー作ということで、大学で統計学を専攻した後、40歳までサラリーマンを続け、2005年にこの作品を上梓したとのことです。この小説が世界中で大ヒットしましたので、たぶんシリーズ化されて続編も出てくるのでしょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
青空の卵 (創元推理文庫) 坂木 司
2002年に発表された坂木司氏のデビュー作です。著者は北村薫のデビュー当初と同じような覆面作家で、年齢や性別すら公表されていません。小説の内容からすると北村薫氏と同様に男性で、年齢は40代前後ぐらいかなと思いますが、案外全然間違っているのかもしれません。家庭の主婦や女子大生だったら意外性があって面白いのですが、それはないでしょう。
作品はその後シリーズ化される「ひきこもり探偵」とその親友が主人公で、警察が絡むような大きな事件ではなく、ささやかな疑問や謎を抜群の洞察力と推理で解いていくという、初期の赤川次郎、東野圭吾的な青春推理探偵小説です。
二人の主人公のうち謎を解くシャーロック・ホームズにあたるのが、複雑な家庭環境で育ち、高校卒業後はひとり暮らしで、部屋にずっとこもったままソフト開発の仕事をしている精神的に不安定な男性で、もうひとりの事件や謎を持ち込んでくるワトソンにあたるのが、その男の親友で、せめて時々は部屋から外出させようと、買い物や事件の調査に引っ張り出し、代わりに料理をご馳走してもらう男性です。
いくつかの中篇をまとめて一冊となっていますが、他の中篇に出てきた登場人物が、後に出てきたりしますので、まとめてひとつの物語と言えなくもありません。
このような推理探偵小説は世界中に星の数ほどあるだけに、差別化するのが難しいと思いますが、著者自身が好きだという横溝正史のような、文章に飾りや難しい言い回しのないストレートな文章と展開が特徴で、読後もスッキリした気分になれます。このあたりはたぶん読書経験の少ない若い人にもうけるように書いているのかなと思います。
本書に登場する謎とは、「駅前でジッと立ち続けていて決して喋らない少年」や、「歌舞伎役者に送りつけられる不気味な謎の品々」だったり、「若い男性に対し無差別に嫌がらせをする謎の女性ストーカー」だったりと、決して大きな事件や犯罪ではないけれど、なにか不審な出来事です。
◇著者別読書感想(坂木司)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昔日(ハヤカワ・ミステリ文庫) ロバート・B・パーカー
昨年亡くなったロバート・B・パーカー氏の作品の中で、スペンサーシリーズとしてはラスト4にあたる2007年に出された小説(日本語版は2008年)です。まだシリーズ35冊(文庫発刊済み)の中で読んでないのが10冊ほどあるので、ブックオフへ行った際には必ず棚をチェックしています。しかしこのシリーズはほとんどブックオフに出てこないのですが、なにかワケでもあるのでしょううか。
今まで行った書店の中では、このスペンサーシリーズが一番多く置いてあったのは、丸善丸の内本店ですが、そこでもシリーズの8割ぐらいしかなかったように記憶しています。保管場所に困らないAmazonでも全部が在庫としては持っていないので、シリーズ全部揃えるのはたいへんな苦労です。そのうちまだ文庫として未発刊分のものを含め、38冊全部が箱詰めされて発売されるかもしれませんね。熱烈なファン以外「誰が買うねん、そんないっぱい」とも思いますが。
さて物語は、お馴染みの相棒ホークと、ガンマンのヴィニー・モリス、西海岸から応援に駆けつけたメキシコ系のチョヨが揃い、なかなか表面化してこない殺人集団を自らがそのターゲットとなって探していきます。
ちなみにスペンサーもホークも最高のガンマンと認める二人、ヴィニー・モリスの活躍は「拡がる環」「歩く影」など数多く、チョヨの活躍は「スターダスト」や「虚空」などで見られます。
題名は、妻の浮気調査を依頼してきた旦那が、その証拠を得た後に、夫婦とも何者かに殺されてしまったことから、その夫婦の復讐に燃え、さらに昔、スペンサーから離れていった恋人スーザンの心変わりが、今回の妻の浮気を心配する旦那の気持ちにシンクロして、それが関連づけられているのだと思われます。
著者別読書感想(ロバート・B・パーカー)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
下流社会 第2章 なぜ男は女に“負けた"のか (光文社新書) 三浦展
2005年に80万部の大ベストセラーとなった「下流社会 新たな階層集団の出現」の続編というか柳の下のドジョウで2007年に発刊されました。下流社会というのは2006年に流行語大賞を取ったのかと思っていましたが、その時はランクインすらせず、似たような意味で山田昌弘氏の「格差社会」がトップテン入りをしていました。
1万人の成人男性アンケートから、様々な傾向や分析をまとめた本ですが、対面調査ではなく謝礼に釣られて簡単に集められるネットユーザーに対しておこなったアンケートで、一冊の新書がポンと作れるなんて安易と言えば安易な気もします。それもこれも先に80万部のベストセラーがあればこそでしょう。
内容は、年収別、職業別、年齢別、既婚か未婚、親と同居とひとり住まいなど様々な切り口を変えてマーケティング的な分析がなされていますが、とりたてて興味深い内容ではありません。
唯一、気になったのは、ニートの収入がそこそこあり(60%が無収入だが残りは収入あり)、著者はオークションやアフィリエイトなどで収入を得ているのでは?と分析していますが、それはとても信じがたいところです。生活にも満足し(これは自分の好きなことだけやっているのでわかります)、自分を中流や上流と思っている人の割合が正社員で働いている人並みだっていうことです。
まずもってオークションやアフィリエイトで平均して月に十万円程度稼ぐなんてことは、セミプロでないと無理でしょうし、それをプロとしてやっているならニートとは言えません。たまたま副業でうまくいって月10万円稼ぐ人はいるかも知れませんが、それを何ヶ月も何年も続けられるのはやっぱりプロでしょう。
本来ニートの収入の多くは親や兄弟からの支援だと思いますが、この調査にあるニートは、実は自宅で、ソフト開発、ゲームなどのテスト、オンライントレードやFX、あるいはそのアドバイスなど、実際は在宅でなんらかの仕事をやっている人がかなり含まれているのではないかと想像します。そう考えないと年収数百万円のニートってどうなのよ?って思います。
◇著者別読書感想(三浦展)
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つばさものがたり (角川文庫) 雫井 脩介
著者の雫井脩介氏は、映画にもなった「犯人に告ぐ」や「クローズド・ノート」で大ブレークしたミステリー作家のひとりですが、この「つばさものがたり」はミステリーではなく、ホンワカした家族の絆とSFを少し混ぜ込んだロマン小説っぽい内容です。しかしハッピーエンドではなく最後には泣かせる設定となっています。
ストーリーは、家族に期待されいつかは実家のある地元で洋菓子店を開きたいと思い、東京で修行をしていた女性主人公が、その家族の夢を果たすため地元に帰り洋菓子店を始めます。
しかし主人公自身重い病に罹り、店もうまくいきません。そこに主人公の兄のちょっと風変わりな小学生の息子との交流が始まり、その息子だけが見える天使見習い中の友だちから様々なアドバイスを受け、病気と闘いながら家族の夢だった店を成功へと導いていきます。
天使の世界も厳しいようで、天使になるためには試験があり、しっかりと飛べないと、妖精となり森に住むことになり、人の住む街の中には住めません。天使が多く集まるところでは店も繁盛しますが、羽根を休めるところがない場所では閑古鳥が鳴きます。
なぜか入れ替わり立ち替わりいろんな店が入居しても、すぐにつぶれてしまう場所というのは確かにありますね。
パーティー会場などでふと一瞬会話が途絶えシーンとする瞬間がありますが、そのことを「天使が通り過ぎた」とか言い、シャンパンを抜くときの音のことを「天使の拍手」と言ったりもします。
昔のサントリーの宣伝に出てきましたが、発酵させるために樽詰めしたワインやウィスキーを数年後に開けると少し量が減っていることを「天使への分け前」と言ったりし、昔から天使はそこいら中にいるそうです。タイトルになっている「つばさ」はその天使の翼のことです。
◇著者別読書感想(雫井脩介)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
白い声 (新潮文庫) 上・下 伊集院静
スペインと金沢が舞台の2002年に発表された伊集院静氏の恋愛小説です。小説の中にはいくつものスペインの都市の名前が出てきますが、普通の日本人でスペインの形すら思い描ける人は少ないのではないでしょうか。私も位置はわかるものの、地名を聞いてもそれがどこにあるのかはさっぱりわかりません。
ストーリーは、親の仕事の都合でスペインで生まれ育った日本人のヒロイン(もちろん絶世の美女)が、子供の頃事故に遭ったとき偶然救ってくれた日本人男性と、思いがけず金沢の街で出合い、恋に落ちていくというストーリーですが、この日本人男性はかなりの悪で、ヒロインが事故に遭ったのも、その男が警察から追われてクルマで逃亡している際に、轢かれそうになって崖から転落したもので、読者はそれがわかっているので、なぜそんな男に惚れるのか?と疑問符だらけで読み進めることになります。
そして健気にもヒロインは、どこまでも逃げる男を追いかけて、心身共に最後まで尽くしていくという、ま、男の身勝手さとあらゆる妄想が生み出す男冥利に尽きる内容ですが、ありえねぇ、、、。
しかも著者は女性読者が多い作家さんですから、こういう小説が一部の熱狂的な女性読者には受けるのでしょう。よくわかりませんが。最後になってそれほどまでにダメ男を追い求めるのには、なにかワケがあったのか?と期待を持たせますが、結局よくわからないまま終わります。う~(うめき声)
男の視点でもって、徹底的に「尽くす女」と自己中心的な「ワル男」を自由奔放に書けば、こういうものになるのでしょうが、しかし「男は本質的にこういう事を求めているのか?」と女性方々に誤解されてしまうのもちょっとどうかなと思ってしまいます。ま、誤解するわけないかな。
スペインのしかも田舎へのんびりと旅行する際のガイドブックにするにはいいのかも知れません。そして小説のように運命的な出会いがあなたを待っているかもしれません。ふへぇ~(ため息)
◇著者別読書感想(伊集院静)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
黒蜥蜴と怪人二十面相 (角川ホラー文庫) 江戸川 乱歩
江戸川乱歩と言えば日本人なら誰でも知っている作家と思いきや、最近の若い人にはあまり知られていないかもしれません。1894年というから今から117年前に生まれ、1965年に亡くなった主に推理小説や怪奇小説を大衆や子供向けに書いていた人です。
名前はもちろんペンネームで、アメリカの世界的に有名な推理小説家エドガー・アラン・ポーに由来しています。
作品の多くは太平洋戦争以前に書かれたものが多く、軍事色の強い暗い世相の中で数少ない娯楽としての小説が大衆や子供達に大いに受けたのでしょう。
中でも「黒蜥蜴」は抑圧された世相に逆らうかのようなきらびやかな上流社会とエロスの薫りが漂います。おそらく大衆文学として当時はこれがギリギリのラインだったのではないかなと思われます。
今回の「黒蜥蜴と怪人二十面相」は別々の二つの作品を1冊にまとめて出版されたもので、「黒蜥蜴」は1934年に雑誌に連載され、その後有名になる探偵明智小五郎が初めて登場した作品として有名です。
この作品は歌劇や映画、テレビドラマで何度か上演上映や放送がされましたが、その内容は原作から大幅に変わっていたそうです。私は観たことがありません。
もう一つの「怪人二十面相」は有名になりつつあった明智探偵の好敵手として登場させたもので、やはり戦前の2.26事件の起きた1936年に「少年倶楽部」に連載されました。
その後戦後の1960年代まで多くの作品の中で明智探偵、小林少年(少年探偵団)と怪人二十面相の知恵比べが繰り広げられます。
wikiに書いてありましたが、最初は「怪盗二十面相」だったのを少年向けに「盗」という言葉は教育上よくないだろということで「怪人」となったということです。
これらの小説が戦前に書かれたことを考えると、この悪役の怪人や黒蜥蜴は日本を苦しめる欧米列強で、それに敢然と立ち向かう明智探偵の知恵と、少年探偵団の奉仕的な活躍が、帝国とその国民という図式のように思えてきます。
そのような政治的、軍事的な発意昂揚の要素を含んでいたかどうかはわかりませんが、当時の出版物の厳しい検閲や、紙を含め物資不足の中で、無事に出版できたと言うことは、そのような要素が含まれていたと想像できます。
ちなみに2008年に「K-20 怪人二十面相・伝」という映画がありましたが、こちらは北村想氏の小説『完全版 怪人二十面相・伝』が原作となっています。
なかなかよくできていて面白かったのですが、その後、続編の話しは聞こえてこないところからすると興行的には失敗だったのでしょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
反逆する風景 (講談社文庫) 辺見庸
「赤い橋の下のぬるい水」や「もの食う人びと」でブレークした辺見庸氏のエッセーを集めたもので、「もの食う人びと」の取材で訪れた世界中の街や人の話しが出てきます。
実は私は「赤い橋の下のぬるい水」や「ゆで卵」という小説は過去に読んでいるのですが、「もの食う人びと」のようなノンフィクションはあまり好きではなく読んでいません。
辺見氏は元々共同通信社の記者として世界中を旅し取材やレポートを書いていましたので、エッセイには事欠きません。
読んでいると、辺見氏の出身は3.11大震災で大きな被害を受けた石巻市で、その美しい海のことなどが書かれています。またウクライナへ行ったときは、事故後数年経ったチェルノブイリから3km地点の無人と化した廃墟の中に入り、放射能測定器で放射能レベルを測り、人類がくり返し犯す誤りを暗示している場面もあります。
エッセイの寄せ集めですから、あまりそれぞれの文章につながりはありませんが、全体を通して流れているタイトルにもなっている「反逆」精神をかいま見ることができます。
それはジャーナリストでも大新聞社ではなく海外にひとりで取材に出て行く一匹狼に近い通信社出身ということもあるのでしょう。
その世界を歩いて見てきた貧困や死に至る病気、飢えで死んでいく子供、環境破壊などに焦点をあて、官憲の圧力に屈せず、精力的にその実態を配信してきたという自負が感じられます。
でも日本にいるとそのようなことは余りにも遠くかけ離れていて、むなしい気分にさせられる厭世的なところもちらほらとあったりします。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
チャイルド44 (新潮文庫) 上・下巻 トム・ロブ・スミス
ずっと大きな書店に平積みがされていたので、人気があるのだなと思って見ていましたが、今回読んでみて初めて書いた小説とは思えないほど、よくできたミステリー冒険小説というべきか、なかなか深いストーリーで驚きました。著者はまだ32歳の英国人です。
小説の舞台はスターリン体制の末期、社会主義国家としてひた走り、強制移住や集団農場がおこなわれ、国民の暴発を防ぐためナショナリズムを高めていた1950年代のソビエト連邦で、主人公はそのソ連邦の中でも絶大なる権力を持つ国家保安局(その後のKGB)で勤務する若き元軍人です。
舞台と主人公だけを見ると、西側の作品によくある、軍事スパイもので最後は無事に亡命を果たしてハッピーエンドと思ってしまうのですが、その期待?は完全に裏切られます。
あくまで当時のソ連国内で共産主義を厳しく守る上で、想像を絶する国民への統制と、役人の度を超した行動基準に則った生活、そしてその中にも密やかな家族愛が展開されます。
やがて主人公は元同僚に罠にはめられて地方へ左遷されてしまいますが、そこからプライドと意地ををかけた命がけの行動が始まります。
ただクライマックスの罠にはめた元同僚との対決場面は、やむを得ないと思うものの、あっけなく終わりちょっと物足りなさを感じました。
ロシア系の名前は覚えにくく、小説を読むときにはいつも登場人物に混乱をきたすことがあるのですが、今回は登場人物が少なくて、なんとかこんがらないで済みました。映画化も予定されているそうで、恐怖政治が支配する暗黒のソ連が再現されるのが今から楽しみです。
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昨年から今年にかけてベストセラーになった小説と、それが映画化されたものに「悪人」(吉田修一原作)と「八日目の蝉」(角田光代原作)があります。
「悪人」は小説だけ、「八月の蝉」は昨年放送されたNHKドラマでしか知らないのですが、その二つの内容に共通していたのは「主人公が重大な事件を犯す」「主人公の視点で物語が進み、読者(観覧者)に感情移入させようとする」ということです。
しかし主人公はいずれも凶悪な犯罪者です。その犯罪によって被害者や被害者の家族が死や絶望の淵に立たされます。そんな犯罪者でもドラマの主人公となれば、最後にはなぜか「かわいそう」「気の毒」と涙を誘う展開となっていきます。
私はこれにもの凄く違和感があって、「悪人」や「八日目の蝉」の主人公にはまったく感情移入ができませんし、また同情心も湧いてこないのです。「切羽詰まり」、「よく考え抜いた上で」、「やむにやまれず」犯した犯罪ではなく、後先をろくに考えず、かっとなり思いつきで犯した重大な犯罪ですからまったく主人公には情状酌量の余地なしです。刑法では計画的犯行のほうが重罪で、突発的、感情的に起こした犯罪のほうが軽いのですが、それはさておいてです。
そのストーリーは加害者である主人公の視点で好意的に描かれ、家族愛や苦難の逃亡時代についてお涙頂戴とばかりに、盛り上げていきます。それってやっぱりおかしくないでしょうか?その犯罪のためにどれほどみんなが迷惑を受けているのか、その視点が明らかに抜けています。
昔から犯罪者が主人公の小説や映画はいくらでもあります。「砂の器」や「人間の証明」では自分の貧しく汚れた暗い過去を知る肉親が邪魔で殺した主人公には感情移入はできなかったものの、その行為には同情を覚えました。最近では東野圭吾氏の小説などにも犯罪に手を染める主人公はよく出てきますが、それにも多くはそうせざるを得なかった深い理由がつきまといます。
この2作にはそのような深い理由や、むべもない理由で犯罪に手を染めたというのがなく、別に勧善懲悪がすべてとは言わないにしても、いくら小説だからと言っても、一時的な感情で犯す必要のない重犯罪を起こし、さらに逃げ回るという、最悪のパターンなのに、その主人公に感情移入させたり、哀れみを持たせるというのはどうかしている気がします。
イギリス人講師リンゼイさんを自分の欲望のために殺し、捨てたあと、長期間逃げていた被告に対し、顔を整形し、身分を隠し、肉体労働で働き、無人島でひとり暮らしていた強い生命力、精神力、悪賢さに対し一種の同情やヒーロー扱いする意見まで聞かれます。ま、それだけ現代の日本の社会では相対的にみて命が軽くなってしまっているのかも知れません。
生物学の論理では増えすぎた種は自然淘汰されて、やがて減少に向かうことが当たり前ですが、増えすぎた日本人の種を減らすためなのか、ネトウヨ始め、愛国主義、保守志向の傾向が国民の中で強まり、核武装せよという知事は都民から圧倒的な支持を受け、徴兵制度復活論をぶちあげる戦争を知らないお坊ちゃま2世議員は次の首相にしてみたい人の上位にランクされるようになりました。そのように本質は悪人でもそれに信念さえあれば許されるみたいな、風潮が蔓延し、やがては悪夢の歴史を繰り返すことへ向かっていくのだろうと思われます。
あまりにも話しが飛躍しすぎていることや、正義漢ぶりを発揮したいわけではありませんが、いくら小説や映画であっても、人気作家が描き、人気の俳優・女優が演じるだけで、不合理で歪んだ行動をやむを得ないものと錯覚させるような内容がもてはやされるのは、ちょっといただけないなというのが私の率直な感想です。
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陰日向に咲く (幻冬舎文庫) 劇団ひとり
いくつかの中編の物語がそれぞれ少しずつつながっているという小説です。著者の劇団ひとり氏は34歳でお笑いタレントというのが現在の本職でしょう。
2006年にこの小説を発表し、その後知りませんでしたが2008年には映画化もされています。
内容は、どちらかと言えば落ちこぼれの主人公達がなにかをきっかけにしてやる気を出したり、成功する姿をおもしろ可笑しく描かれています。
「陰日向=社会の落ちこぼれ達」という図式から、でもなんとか咲くことができるというメッセージなのでしょう。
ゴーストライターを雇うような身分でもなければその必要性もないでしょうから、ちゃんと自身で考え苦慮して執筆をされたのでしょう。なかなか感性豊かな作者だと思えます。
現在NHKで林真理子氏の小説「下流の宴」を原作とした連続ドラマが放映されています。こちらは上流志向の強い家庭で育ったものの、親が要望する大学には行かずフリーター生活をおくっている長男と、沖縄出身でやはりフリーターをしている女性が出会い、やがて同棲を始めます。
その長男の母の強い上流意識が、長女の就職問題、夫のリストラなどが絡み、ガラガラと崩壊していくというストーリー(まだ途中なのでよくわかりませんが)ですが、なんとなく雰囲気がそれと似ているなと思います。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ささやかな永遠のはじまり (角川文庫) 盛田隆二
結婚前の女性視点で書かれた大人の恋愛がテーマのストーリーで、失礼ながらもう立派な中年男性の盛田氏がこういう女性心理に深く立ち入った小説をスラスラと情緒たっぷりに描けるのはさすがプロ、上手いなぁというのが実感です。
主人公の職場は雑誌を発行している出版社で、その仕事の様子などが詳細に書かれますが、これは作家さんと出版社というのは通常関係が深かったり、以前勤めていたりするケースが多いので、勝手知ったるということもありしばしば登場します。
ちなみに著者の盛田氏は雑誌出版社のぴあに長年勤務されていたので、その点は設定が安易とも思えますが仕方がないでしょう。
その雑誌の「ぴあ」は、最後までしぶとく残っていた「ぴあ首都圏版」が、今年の7月発売号で休刊となってしまい、思い入れも深かったので残念に思っています。
昔、2本立ての名画座へ行く前に、駅のKIOSKでぴあを買い、それを映画館で見せると入場料が数百円割り引かれるので、実質ぴあの購入費は100円ぐらいで済むという仕組みはよくできたいたと感心しました。
さてストーリーですが、いきなり序盤で主人公の女性が誰もが羨むようなエリートサラリーマンと婚約し、そして結婚間近で突然破局、その後は社内不倫と続いていきます。
そして終盤は思いもよらない展開へと進んでいきます。こりゃ明らかに恋愛に夢を見ている若い女性のウケを狙っているなぁと思ったり。
小説に登場してくる男性も女性もそれは見事なまでにみんないい性格とキャラをしていて、そういう人達ばかりに囲まれていると、苦労のうちの半分以上はきっとなくなるのだろうなと思います。
その点は人間関係にいつも苦しんでいる現実の若い女性達におもねったところが見え隠れします。ま、これを読んで「私も主人公に負けずに頑張らなくっちゃ」と思う女性や、盛田作品をもっと読みたいと思う人が増えればそれはそれで結構なことではありますが。
◇著者別読書感想(盛田隆二)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
クラウド時代の正体 (ベスト新書) 白鳥 敬
時代を象徴するIT技術の「クラウド」をタイトルに使った数多い類似本の中の1冊です。本書にも書かれていますが「web2.0」が出てくればそればかり、「SNS」が出てくればそればかりと、時代のキーワードが出てきてはやがて消え去っていきますが、それと似たようなものなのでしょう。
本書に書かれていることで、とりたてて目新しいことや役立つことはないのですが、あらためてネット社会の一面を俯瞰しておくのならいいかもしれません。
特にネット上でのプライバシー情報の扱いや、安全なネット利用などは、まったくの素人向けにわかりやすく解説されていますが、多少詳しい人ならあえて読むまでもないことです。
というか、最近は実名主義のFacebookや実名の人も多いTwitterなどに人気があり、果たして厳密に個人情報を守る必要があるのか?という疑問すら感じるように思えます。
ただ素人がこの本を読むと「ネットの世界はなんと邪悪で問題が多いのか」と逆に怖くなり、有効に使わなくなってしまう可能性もあります。
実際には全然そんな事はないのですが、どうしても刺激的で過激な話しばかりが、さらにそれに尾ひれ背びれをつけて報道されたりするのが世の中の常ですから、なんでも話半分で読み解く必要があります。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
青の炎 (角川文庫) 貴志 祐介
優秀な高校生が家族や自分を守るため殺人の完全犯罪を目指すという1999年に書かれたミステリー小説です。
筆者の貴志氏は1959年生まれなので私より2年後の割と近い年代です。このおやじ年代が今の高校生を主役とした小説を書くというのは、結構大変だったのではないでしょうか。
若い人が中高年や高齢者を描くのは自分が経験したことがないだけにもっと難しいでしょうが、それにしても自分が経験してからすでに四半世紀前の高校生時代と現代の高校生の生活とはまったく行動様式が違っています。
それゆえかどうかはわかりませんが、主役の高校生の心理描写には変に大人びた老成した考え方がしばしば登場します。
これは意図的なものか、どうかはわかりませんが、もし本当に今の高校生(と言っても書かれたのは今から12年も前ですが)がこのような発想や知識を持っているならそれはまた恐ろしいというべきものです。
ま、湊かなえの「告白」でも主人公は大人の女教師でしたが、実際に殺人事件を犯すのは中学生でした。このような少年犯罪を描く小説が注目されるのはやはり小説の中だけではなく、現実社会にもそのような流れがすでにあるのでしょう。
日本中を震撼させた酒鬼薔薇事件(神戸連続児童殺傷事件)が起きたのは1997年で今から14年前のことですが、それ以来少年犯罪がテーマになる小説はより過激化していくことになったのでしょう。
スピード感あふれるストーリー展開で、サクッと読めますが、とにかく殺人が絡むミステリーですので、読んでいて気持ちがよくなるものではありません。
◇著者別読書感想(貴志祐介)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
決定版 日本のいちばん長い日 (文春文庫) 半藤 一利
映画で大ヒットした「日本のいちばん長い日(1967年公開)」の原作者は当初諸般の事情から大物ジャーナリスト大宅壮一編となっていましたが、実際はこの半藤一利氏の作品ということで、その後多少修正をおこない大宅氏の遺族の了解を得た後、あらためて自身の名前で出したのが本書です。
「The Longest Day」というと、アメリカでは一般的に多大な犠牲者を出しながらも欧州戦線での転換点になったノルマンディー上陸作戦決行の日のことを指しますが、日本ではやはり歴史上完膚無きまでに叩きのめされた唯一の負け戦、その最後の日を指すのでしょう。
1945年8月、世界を相手に孤軍奮闘していた日本も敗戦濃厚となり、広島、長崎に原爆を落とされ、いよいよ本土上陸が目前と迫ってきた日本に、唯一残された道はポツダム宣言を受け入れることで、すなわち無条件降伏しかありませんでした。
しかし、陸軍を中心とした一部の青年将校達は、一億総玉砕を叫び、また陸軍は決して負けたわけではないのでもっと闘わせてくれと、天皇や政府が降伏を決めた後も、それを撤回させるために様々な行動を起こします。
このあたりは小説より映画では善と悪をくっきりと描く必要があり、降伏阻止を目指す将校は天皇の命にも背く逆賊という扱いですが、子供の頃からずっと日本が世界で一番優れていて、過去に一度も敗北したことがない神国という思想教育をガッチリとたたき込まれている軍人ですので、その純粋な気持ちから必死に抵抗していることも本書からはにじみ出ています。
様々な幸運もあり天皇の終戦の詔を8月14日の夜に無事に録音することができ、それを翌8月15日の昼12時からのNHK放送で流すことができるかという緊迫した攻防の場面がドキュメンタリーとして描かれます。
しかし詔はなぜ負けたのか勝ったのか、それとも戦争継続なのかハッキリしないダラダラとしたものとなったのでしょうか。
これは本書にも経緯が詳しく書かれていますが、役人と政治家と軍人がそれぞれの立場を主張するあまりすったもんだがあります。
わかりやすく要約すると「戦争に負けた。ポツダム宣言を受け入れる。無条件降伏をする。」なのですが、特に軍人は負けたことを書くことは納得しません。
本書ではその詔書を作るために各関係者が何時間もやりとりをして苦心して造りあげていく過程があり、要は天皇、大本営、陸軍、海軍、その他政治家の様々な思いや考え方を練り込んだ結果の代物です。
この放送を聞いて当時はラジオの感度やスピーカーの性能もよくなかったため「結局なにを言われたのかわからない」という国民が多かったと聞きます。
中には放送の後「今後も戦争に奮闘せよとおっしゃった」と勘違いして檄を飛ばした軍人もいたということです。
ただ実際には天皇の詔が放送された後、NHKアナウンサーがくり返し詔を読み上げ、さらに簡単に要約した内容を放送したということです。それは初耳でした。
映画は子供のときにテレビで見ましたが、とにかくこの映画は「暗い映画」「登場人物が多すぎてよくわからない」という記憶が残っています。
「暗い」は、映画の舞台が空襲があり、灯火管制のため真っ暗になっている首都の夜に事件は起き、さらに映画が白黒だったこともあり、そのような印象を持ったのでしょう。
また誰もが負けた悔しさと悲しみ、そして張り詰めていた緊張が解けた疲労感でぐったりしているところが、より暗い印象をこの映画に与えたのかもしれません。
そして2時間半のこの映画にはざっと100名以上の登場人物があり、主役の三船敏郎、準主役の山村聰、鈴木首相役の笠智衆、昭和天皇役の松本幸四郎(8代目)ぐらいはともかく、その他大勢が次々登場してくるので、あらかじめ予備知識がないと混乱します。
一応は、降伏推進派(善人)vs徹底抗戦派(悪人)という構図にはなっていますが、同じ日本人で、同じような軍服や国民服を着ていて、さらには降伏か継続かの間を揺れ動いている軍人も多く、その善悪の区分がハッキリとはわかりにくいのです。
できればもう一度整理して、1967年当時ではまだ生存者が多く遠慮して描けなかった部分も見直して、再度映画化をしてもらいたいなと願うばかりです。
◇著者別読書感想(半藤一利)
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