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交通事故賠償 被害者の心理、加害者の論理(中公新書) 加茂隆康

1992年に初版ですから、29年前の新書です。交通事故は日常的に起きているにも関わらず、こうした交通事故賠償に関する新書というのは少ないです。著者は交通事故裁判を主とする弁護士です。

一般的には、新車で購入するときと車検時に必ず加入する自賠責と、それぞれ任意に加入する任意保険で交通事故の賠償に備えますが、その実際についてはあまり知られていないというのが実態です。

それは保険屋さんにお任せだったり、加入者と実際の運転者が別(親のクルマで親が保険の支払いをしていて子が運転するとか)だったり、あるいは「オレ様は事故なんか起こさない」と根拠のない自信で保険に加入していなかったりというケースもあるでしょう。

そういう人任せながら、万一事故が発生した場合、保険会社が頼りにならなかったり、被害金額がもらえなかったり、加害者が逃げたり自己破産してしまい、被害者が持ち出しで大きな損害を受けることとなり、理不尽を嘆くことになるケースも多いようです。

そうした、交通事故に関わる賠償問題がわかりやすく、示談で済む場合、裁判まで行く場合、加害者側の主張、被害者の多い苦情などが実際のケースを元に書かれています。

あと保険会社の都合、つまり賠償金をできるだけ払いたくないという、利益を追求する企業論理など裏話的な話しもあり、もし自分が当事者に陥ったら(幸い過去にもめるケースには出くわしていません)参考になりそうで、知人など周囲にそういう人がいれば、アドバイス(交渉ごとではなく、交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センター、最終的には弁護士に相談するべきなど)できそうです。

自分では任意保険に加入しないでクルマを運転するなんて怖くてできませんが、世の中には20%以上が加入していないというのが実態のようです。怖いですね~

交通事故は、自分が加害者になれば当然ですが、被害者になっても大損(金銭的、精神的、肉体的)することになるのが普通なので、できうる限りの対策をしておくことがこの新書を読んでよくわかります。

★★☆

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噂の女(新潮文庫) 奥田英朗

2012年に単行本、2015年に文庫化された連作短編小説です。2018年にはBSジャパンでテレビドラマ化されています。噂の女(主演)はグラビアアイドル?足立梨花です。

「中古車販売店の女」「麻雀荘の女」「料理教室の女」「マンションの女」「パチンコの女」「柳ケ瀬の女」「和服の女」「檀家の女」「内偵の女」「スカイツリーの女」の10編からなりますが、そのすべてに同じひとりの謎多き女性が登場します。

その噂の女は次々とお金持ちの男を替え、結婚するとその夫はまもなく死亡するとかすっかり街中の噂が拡がっていきます。

その美人ではないけれど、男好きがする肢体と男あしらいで、したたかに、疑惑の輪からうまく逃れていきます。

現実の事件にも時々そういう女性が現れますが、おしなべて「えっ、どうしてこの女が?」と(自分的には)美人とはとても思えない容姿の女が何人もの男を食い物にして、財産を奪ったりしています。

悪女というと響きは良いですが、愛人や夫に酒と睡眠薬を飲ませて風呂で溺れさせるなどからすると別の言い方で毒婦とも言えます。

そう言えば関係ないですが、悪男とか毒夫とはいわないですね?女性を指す特有の言葉で、きっと男中心社会の中で、触れてはいけない怖い女性を指すこととして作られたのでしょう。

ま、面白いのは面白かったですが、著者の作品は本格的な長編ミステリーが私は好きです。一般的な評価では「精神科医・伊良部シリーズ」など連作短編のウケが良い(シリーズ二作目「空中ブランコ」が直木賞受賞)ようですけど。

★★☆

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ダイイング・アイ (光文社文庫) 東野圭吾

小説宝石に連載され、その後2007年に単行本、2011年に文庫化された推理ミステリー小説です。2019年にはWOWOWで昨年亡くなった三浦春馬主演のテレビドラマが放送されています。

夫婦共働きの新婚家庭で、妻が仕事から自転車での帰り道でクルマに追突され、塀とクルマの間に挟まれ無残に死ぬところから始まります。

タイトルにあるように、事故を起こした加害者が、死につつある恨みのこもった人の目を正面に見ることがキーポイントになっています。

主人公はバーの店員で、仕事が終わった後に、客としてきていた男に後ろからスパナで殴られ、一命は取り留めたものの記憶障害が起き、自分が起こしたという交通事故のことが思い出せません。

犯人は事故で亡くなった被害女性の夫で、その夫は自宅で事件直後に自殺してしまいます。

と、複雑に絡み合った交通事故と事件について、主人公が記憶をたどりながら、必死に思い出そうとしますが、肝心なところがなかなか思い出せず、それがクライマックスのところで明らかになっていきます。

記憶喪失というちょっとミステリーにはご都合良すぎる設定ですが、主人公に一番味方っぽいと思っていた人が実は極悪人だったというのはお約束というか王道のようです。

★★☆

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22年目の告白-私が殺人犯です- (講談社文庫) 浜口倫太郎

2017年に公開された映画「22年目の告白 -私が殺人犯です-」の小説版と言うことです。元の原案は韓国の映画「殺人の告白」です。

同様に2020年に公開された映画「AI崩壊」の小説版もこの著者が書いています。

殺人事件に15年の時効がまだあった頃に、連続して同一犯と思われる5件の絞殺事件が起き、その後すでに時効が成立している22年目になってから「私が殺人犯です」と名乗り出る男が現れます。

また同時に、事件の詳細を書いた手記を出版したいと原稿を出版社の編集者宛に持ち込み、200万部のベストセラーを目指したいと様々な策を出版社と一緒におこないます。

映画では脇役だった出版社の女性編集者が小説では主人公で、本来は商業主義ではなく人を幸せにする書籍を出したいと願っていながらも、この悪意に満ちた殺人者の手記を担当することになり、会社の意向には逆らえずジレンマに陥ります。

手記を出した殺人者が表舞台に出てくると、それは誰もが振り向く美貌と洗練された立ち振る舞いで、一気に人気が沸騰し、時代の寵児として持ち上げられるようになります。

そして過去にこの事件の取材を熱心にしてきた人気ジャーナリストがMCを務めるニュース番組に出演することが決まり、そこで戦わされる辛辣な問答が大きな話題となります。

と、その人気番組に「犯人は俺で、そいつは偽者だ」という、犯人しか知り得ない動画が送られて来ます。

と、まぁそういう流れで、混乱を極めていき、クライマックスでは衝撃の事実が明らかになってきますが、なんだか途中の計算し尽くされたダイナミックな内容と比べると、終盤はかなり無理っぽいやっつけみたいな終わり方でちょっと残念。

やっぱり悪は最後まで悪らしく、とことん非道を貫いて欲しかった。というのが読後に思ったところです。

★★☆

【関連リンク】
 1月前半の読書  クリフトン年代記 剣より強し第5部、機は熟せり第6部、永遠に残るは第7部
 12月後半の読書 生ける屍の死、こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話、人間の本性
 12月前半の読書 呪われた町、傘をもたない蟻たちは、2025年東京不動産大暴落、殺人犯はそこにいる



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