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よもつひらさか(集英社文庫) 今邑彩

1999年単行本、2002年に文庫化された短編小説集で、「見知らぬあなた」「ささやく鏡」「茉莉花」「時を重ねて」「ハーフ・アンド・ハーフ」「双頭の影」「家に着くまで」「夢の中へ…」「穴二つ」「遠い窓」「生まれ変わり」「よもつひらさか」の12篇が収録されています。

著者の作品は「いつもの朝に」(2006年)と「ルームメイト」(1997年)を読んでいますが、ミステリーやホラー、ファンタジー、多重人格などの精神疾患など幅広い複雑な人間関係の内容で、現実的には「ん?」と思いますが、エンタメとしては十分楽しめます。

タイトルにもなっている「よもつひらさか」は、漢字にすると「黄泉比良坂」で、古事記に出てきますが、イザナギとその妻だったイザナミが黄泉の国(死者の国)と現世の境目で起きる話で、この話は先般読んだ桐野夏生著の「女神記」にも出てくる有名な話しです。

現在の島根県松江市東出雲町揖屋に伝承地としてそれを模した場所があります。

その坂道を嫁いだ娘の家へ孫の顔をみるため歩いて向かっていた高齢男性が、坂道の入り口で道標のように建てられていた石碑をしゃがんで見ていたら立ちくらみをして、よろめいたところ穂高で登山をしてきて帰る途中という地元の男性に助けられます。

そしてその地元の男性と一緒に坂道を登っていきますが、坂道の名前の由来について聞くと、男性が言うには、坂道の最初と最後に石碑が建っていて、その間は黄泉の国とつながっているらしいこと、ひとりで歩いていると、亡くなった知人が亡霊として出てきて黄泉の国へ引き込もうとすること、子供の頃に友人が危ない目に遭ったことなど聞かされます。

亡霊はひとりで歩く人になにか食べ物や嗜好品を与えようとし、それを口にすると死んで黄泉の国へ行くことを聞かされ、高齢男性は、そう言えば坂道の入り口で立ち眩みをしたとき、男性から水筒の水を飲まされたことに気づき・・・という感じです。怖いですねぇ、、

その他、寺の天井に浮き出ているシミが双頭の怪物のように見える「双頭の影」、以前は画家と心臓病で亡くなる幼い娘が住んでいたという古い洋館に引っ越してきた父娘ですが、娘の部屋にかかっていた絵画が日によって微妙に変わっていることに気がついた娘がとった行動とは?の「遠い窓」など、なかなか怖くも楽しめるものでした。

★★☆

著者別読書感想(今邑彩)

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中庭の出来事(新潮文庫) 恩田陸

2006年に単行本、2009年に文庫化された長編ミステリー小説です。初出は2003年から2004年にかけて今はなき新潮ケータイ文庫でデジタル配信された連載小説です。

正直に言うと、1回読んだだけではなにを言いたかったのか、なにがミステリーなのか、誰が誰なのかよくわかりません。

場面が次々と変わり、現実に起きたことなのか、お芝居の中なのか混乱し、これほど複雑にする必要があるのか疑問です。

個人的には著者の作品は好きですけど、この小説に関してはちょっといただけない感じです。元はケータイ文庫として若い人向けに合わせたものかも知れませんが、逆に連載小説として途切れ途切れで読むとなおさら前後の関係がわからなくなり意味不明になってしまいそう。

内容は、劇の売れっ子脚本家がパーティーの中で毒殺されますが、その謎を中心に展開されますが、同時に、新宿の高層ビルの地下にある中庭で急死した女性、寂れた廃線の駅を夏場だけ演劇の会場として使ってそこで起きた不思議な現象などなど。

特に主人公がいないという点が誰の視点かわからず物語をわかりにくくしています。

そんなわけで、読むのが結構つらかったです。

★☆☆

著者別読書感想(恩田陸)

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わらの女(創元社推理文庫) カトリーヌ・アルレー

1924年生まれのフランスの作家さんで、数多くの推理小説を書いています。2022年時点で98歳ですがご健在のようです。

この作品は1956年に出版され、世界的なベストセラーになります。原題はフランス語で「La femme de paille」と邦題と同じ意味です。

1964年にはショーン・コネリーなどの出演で映画も作られていますが、こちらはアメリカ映画なのでタイトルは「WOMAN OF STRAW」となっています。

小説の舞台は、まだ第二次世界大戦の記憶が深く残っている1950年代のヨーロッパとアメリカです。

主人公の女性は敗戦国ドイツ出身の34歳独身女性で、家族など身内は戦争ですべて死に、孤独を埋め、貧しい生活から抜け出すために裕福な結婚相手を探しています。

新聞広告で見つけた縁談に飛びついたところ、募集したのは世界的な大富豪の秘書で、「自分の言うとおりにすればその富豪の妻になれる」「妻となってすでに高齢の大富豪がいずれ亡くなれば莫大な遺産を相続できるので自分にも分け前が欲しい」と共謀を持ちかけてきます。

貧しい生活から抜け出すためには、その秘書からの共謀計画を受けるしかなく、ことは順調に運んでいきますが、、、

文庫の解説の中でも触れられていましたが、私も読んでいて「遺産相続する相手を(犯人が)殺した場合、当然(犯人には)その相続権が無効となるが、無効となればその相続権がさらに犯人の親族へ移ることはないだろう?」と不思議に思いました。

その点は著者があとで指摘され間違いに気がついたと言うことですが、あえて修正はしないでそのまま残っています。ハッピーエンドではなく、完全犯罪を描いた作品ですが、やはり完全犯罪とは言えどこかに穴があるものです。

★★☆

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P・O・S キャメルマート京洛病院店の四季(ハヤカワ文庫JA) 鏑木蓮

2017年に文庫化された書き下ろし作品で、一応は長編スタイルですが、中身はいくつかのエピソードを順番に並べた連作短篇のような内容となっています。舞台は著者の出身地でもあり居住地の京都です。

タイトルのPOSとはコンビニで導入が広まった「Point Of Sales」の略で、一般的には「販売時点情報管理」のシステムを指します。

コンビニにおいて、そのPOSで得られた情報を分析すれば、「いつ何がどれだけ売れるか」がわかり、事前の仕入れや新商品の導入などに役立ちます。

主人公は、東京に本部があるコンビニチェーンの本部社員(スーパーバイザー)ですが、レギュラーというフランチャイズではない直営店の京洛病院店の臨時店長として単身赴任してきます。この直営店の成績が悪く、建て直しに送り込まれてきたという構図です。

そのコンビニのモデルは、京都府立医科大学附属病院の中に設置されているローソン 京都府立医大病院店と思われます。「徒歩5分で鴨川」に出られ、「上流に賀茂大橋が見える」と書いてあるので明らかです。

ちなみにこの病院には50年ほど前に1ヶ月ほど入院したことがあります。もちろんその時にはコンビニなどはなく、代わりに薄暗い売店があったような気がします。

コンビニの従業員が、来店客の様々なニーズと問題を解決していくという、おとぎ話のような話で、あまりリアリティはありません。また1社員の思いつきで次々とプライベート商品が即刻に作られるというのも、巨大なコンビニ組織の中ではあり得そうもありません。

それでも、似たようなエピソードなどを元に考えているのかな?と思われるところもあり、また以前NHKのドキュメント72時間で同じような病院内コンビニを撮影していたときに、小説の中でも出てくるように夜勤明けの女医さんが毎日栄養ドリンクをグビグビッとやっているシーンが出ていました。

私が数年前に人工股関節置換手術で10日間×2回入院していた時も、院内のコンビニにはよくお世話になりましたが、この小説に出てくるような24時間営業でもなく、美味しいローソンの店内コーヒーのようなものはなく残念でした。最近は大きな病院の中にはほとんどコンビニが進出しているようです。

小説では、徘徊で身元が不明の認知症患者や、ペットを使ったアニマルセラピーの話、京都らしく映画や特撮ドラマ関係者の話なども織り交ぜられて、いろいろと役立つ話があって楽しいものでした。

★★☆

著者別読書感想(鏑木蓮)

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 6月後半 破門、王とサーカス、アイルランドの薔薇、犬とハモニカ
 6月前半 凍える牙、脳寿命を延ばす、ありふれた祈り、倒立する塔の殺人

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