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ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン(上)(下)(ハヤカワ文庫) ピーター・トライアス

フィリップ・K・ディックの歴史改変SF小説「高い城の男」(1962年)を先日読んだ後、本著(原題「United States of Japan」)がそれをモチーフとして、現代風にエンタメ性を高め2016年の星雲賞受賞を受賞した作品だと知りました。

著者は韓国系アメリカ人作家で、子供の頃から日本のアニメやゲームに親しんでいたということで、小説の中にもその要素がふんだんに盛り込まれています。

「高い城の男」と同じく、物語は第二次世界大戦で枢軸国側が先に原爆の開発に成功しそれを使って勝利し、アメリカの東側はドイツ、西側は日本の占領地となった世界です。

したがって、日本は戦前と同様に天皇が現人神として統治しており、占領地のアメリカ西海岸地域は日本の軍部と警察が絶対的な権力を持って思想統制がおこなわれています。

その中で帝国陸軍検閲局に勤務する主人公と特高警察のエリート課員の二人が、行方不明になったアメリカが枢軸国に勝ったという世界を楽しめる禁断の軍事ゲーム「USA」の開発者の将軍を探しに行くというストーリーです。

比較的最近に書かれたものだけあって、スマホがさらに進んだような端末機や、日本軍の兵器としての巨大2足歩行ロボットとそのパイロットなど、なにかのSFアニメによく出てくるパターンです。

まぁ、歴史改変小説なので、「ありえねぇー」など、細かいところをつついても仕方ありませんので、単に頭を空っぽにして楽しむ小説で、日本のアニメ会社がそのうち版権を買って映画を作るかも知れません。アメリカ人は進んで作りたいようなものではないでしょう。

★★☆

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ゲーム・メーカー 沈黙の侵略者(角川文庫) 池上司

2009年公開の映画「真夏のオリオン」の原作「雷撃深度一九・五」など戦争小説が多い著者は、2020年にバイク事故で急逝され、この2018年出版(文庫本は2022年刊)の作品が遺作となります。著者の作品は全部読んでいますが、これが最後の作品となるのがとても残念です。

本書は戦記ではなく、現在の自衛隊の掃海部隊対テロ組織という構図で、テロ組織が東京湾に機雷を敷設し、専門家でなければわからないトラップを仕掛けます。

またテロ組織が雇った傭兵の別働隊が、東京湾上空を飛ぶP-1哨戒機を地対空ミサイルで撃墜するなどし、日本経済の根幹たる地域を完全に封鎖し、政治や経済界、そして自衛隊が日本の危機に七転八倒することになります。

ストーリーは単純ながら、普段は日陰的な存在の掃海部隊のリアルな機雷処理の姿が描かれていて、いざ有事が起きた際は、最新のイージス艦も横須賀を母港とする米空母も動かすにはその行く手には機雷などトラップがないことが絶対で、掃海艇はなくてはならない存在です。

機雷という兵器は、第二次大戦後に大きく進歩していて、特定のスクリュー音だけに反応するものや、見つけにくいように海底のヘドロの中に埋まって隠れてしまうなどこの小説で知りました。

太平洋戦争時代に出てくる機雷と言えば、プカプカと海面に浮いていて、艦艇の磁気に反応して爆発するものという理解しかありません。

湾岸戦争の時、海上自衛隊が初めて機雷除去のために中東へ送られ、そこで世界の最先端の機雷除去を学び経験しますが、その技術が役立ち、徐々にテロ組織を追いつめ、機雷除去を進めていくという流れです。

中東で一緒に機雷除去の任務をした英国の元海軍兵士と自衛隊をまもなく定年になる機雷のスペシャリストとの知恵比べが秀逸です。

★★☆

著者別読書感想(池上司)

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漂流(新潮文庫) 吉村昭

1975年に産経新聞に連載され、その後1976年に単行本、1980年に文庫化された、江戸時代に実際に無人島へ漂流し、その後奇蹟の生還を果たした人達を描いた小説です。1981年には森谷司郎監督、北大路欣也、坂上二郎、渡瀬恒彦などの出演で映画が製作されています。

個人的には無人島小説や映画が好きで、その多くを嗜んでいます。2021年に読んだ須川邦彦著「無人島に生きる十六人」は小説ではなくノンフィクションですが特に面白かったです。

2021年7月前半の読書と感想。書評(無人島に生きる十六人)

また、映画ではずっと前に見たトム・ハンクス主演の「キャスト・アウェイ」(2000年)が秀逸です。

また、無人島小説というわけではありませんが、昨年読んだ同じく江戸時代に難破して無人島に流れ着いた日本人漁師を救って日本へ連れて帰る実話が下敷きの山本一力著「カズサビーチ」もとても良かったです。

2022年10月後半の読書と感想、書評(カズサビーチ)

さて本書の主人公は、1780年代に実在した土佐の船乗りで、3人の仲間とともに伊豆諸島の鳥島に流されて漂着し、12年の長きにわたってその無人島(仲間はみな死に絶え、代わりに主人公達と同様に漂流してきた大坂や江戸の船乗りが合流)で絶望的なサバイバル生活を送ります。

しかし10数年、一度も付近を通過する舟影を見ることがないこの島に居続けても帰還できないと決心し、島に流れ着いた板や船の破片を集めて小舟を作り島から脱出を試みます。

無人島は、アホウドリの生息地で、それを捕まえ食べることで食料とできますが、火山島なので木や草はほとんどなく、穀物も育てられません。また飲料水は川や池はありませんが、多雨のために割と簡単に得られ、さらに冬でも比較的温暖な場所だったことが幸いします。

その無人島生活、しかも最初の数年はノウハウはなく、火打ち石も上陸前に失っていて火もおこせず悲惨な生活が続きます。

鶏肉ばかりを食べていて生きる気力をなくしてしまうとやがて衰弱して栄養の偏りもあって病気で仲間が死んでいき、しばらくはひとりぼっちになります。その時の心境を思うと胸が詰まります。

著者は江戸時代に書かれた帰還した船乗りの調書を読み、そこからあとは想像だけでこの小説を書いていますが、まるでその場を見てきたような迫力のある内容で、とても面白かったです。

★★★

著者別読書感想(吉村昭)

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JR上野駅公園口(河出文庫) 柳美里

2014年に単行本、2017年に文庫化された小説で、福島の相馬出身で、息子と妻に先立たれ、若い頃に長く出稼ぎ労働者として住んでいた東京に老いてから戻り、上野公園でホームレス生活をしている高齢男性が主人公で語っていくというストーリーです。

主人公が生きてきた時代と社会情勢は、年齢は私の世代よりも10年は上の団塊世代だと思いますが、一部にかぶるところがあり、私は出稼ぎではないものの、就職後に関西から東京へ出てきたこともあり、懐かしく様々な出来事を振り返ることがありました。

上野にはアメ横周辺には何度も行きましたが、上野公園はなんだか敷居が高くて2度ほどしか行ったことがありません。

隅田川の河川敷などにホームレスのブルーシートとダンボールで作った簡易ハウスなどは見たことがありますが、上野公園で実際には見ていません。これが書かれたのは2017年頃で、2度目の東京オリンピックやコロナ禍前なので、現在はどうなっているかはわかりません。

私を含め、ほとんどの日本人はそのホームレスが連なって住まう光景は、実際に見ても、見ない振りをするというのが通例となっています。

上野公園にある美術館や博物館などに皇室の方がやって来る度に、その期間だけダンボールハウスは撤去され、持ち主はどこかへ追いやられ、周辺は綺麗に清掃されるというのは、都知事や区長など誰かの見栄なのか、皇室への過剰な忖度なのか知りませんが、日本の社会はそういう決まりになっているようです。

様々な理由でホームレスを続けている人達がいることを、ホームレスの人が語っていくというなかなか深遠な小説でした。

★★★

著者別読書感想(柳美里)

【関連リンク】
 4月後半の読書 ひなた、宝島(上)(下)、パレートの誤算、権現の踊り子
 4月前半の読書 ロスト・シンボル(上)(中)(下)、糸、年金だけでも暮らせます
 3月後半の読書 流転の海 第8部 長流の畔 第9部 野の春、新老人の思想、三日間の幸福、あたらしい家族


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