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先日、渡辺淳一著の直木賞受賞作品「光と影」を読みましたが、掲題の小説の他にもいくつか短編小説が収録されていて、どれもが医者としての見識や経験がないと書けないディテールに感心しました。

医者と創作活動を兼業している二足のわらじの作家さんは多いですが、その中では帚木蓬生氏や海堂尊氏、夏川草介氏などの作品が好きでよく読みます。

そこで調べられる範囲で、作家と医者の兼業として著名な人のリストを作ってみました。一応基準は、資格を持っているだけでなく、医療従事者として勤務経験があり、専門書以外の著作物がある方々です。

作家名 生年 専門医療 代表作
コナン・ドイル 1859年 開業医 シャーロック・ホームズシリーズ
チェーホフ 1860年 開業医 桜の園、三人姉妹
サマセット・モーム 1874年 軍医 月と六ペンス
ハンス・カロッサ 1878年 軍医 ドクトル・ビュルガーの最後
アルフレート・デーブリーン 1878年 精神科医 ベルリン・アレクサンダー広場
ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ 1883年 小児科医 代表的アメリカ人
ルイ=フェルディナン・セリーヌ 1894年 開業医 夜の果てへの旅
ミゲル・トルガ 1907年 耳鼻科医 方舟
森鴎外 1862年 陸軍軍医 舞姫、阿部一族
伊良子清白 1877年 勤務医 孔雀船
斎藤茂吉 1882年 精神科医 歌集
木下杢太郎 1885年 皮膚科 南蛮寺門前、食後の唄
藤枝静男 1907年 眼科医 田紳有楽、悲しいだけ
宮林太郎 1912年 不明 サクラン坊とイチゴ
加藤周一 1919年 内科学、血液学 羊の歌―わが回想
小谷剛 1924年 産婦人科医 確証
北杜夫 1927年 精神科医 夜と霧の隅で
加賀乙彦 1929年 精神科医 帰らざる夏、宣告
なだいなだ 1929年 精神科医 娘の学校
渡辺淳一 1933年 整形外科医 光と影、遠き落日
高山路爛 1943年 地域医療医 孤高のメス
北山修 1946年 精神科医 戦争を知らない子供たち
帚木蓬生 1947年 精神科医 エンブリオ、閉鎖病棟
永井明 1947年 内科医 ぼくが医者をやめた理由
岡井崇 1947年 産婦人科医 デザイナーベイビー
南木佳士 1951年 内科医 阿弥陀堂だより
米山公啓 1952年 神経内科 男脳と女脳
霧村悠康 1953年 腫瘍外科 脳内出血、死の点滴
久坂部羊 1955年 在宅医療医 無痛、廃用身
松葉紳一郎 1955年? 内科医 虚構のER
香山リカ 1960年 精神科医 青のフェルマータFermata in Blue
南杏子 1961年 内科医 サイレント・ブレス
里見清一 1961年 内科医 見送ルある臨床医の告白
海堂尊 1961年 外科医、病理医 チームバチスタの栄光
太田靖之 1961年 産婦人科医 産声が消えていく
木々高太郎 1969年 大脳生理学 人生の阿呆
桂修司 1975年 内科医 パンデミック・アイ 呪眼連鎖
夏川草介 1978年 消化器内科 神様のカルテ
知念実希人 1978年 内科医 仮面病棟、螺旋の手術室
朝比奈秋 1981年 消化器内科 植物少女

先の渡辺淳一氏の専門医療は整形外科で、これは現役、過去問わず非常に珍しいケースだということが上記の小説の解説に書かれていました。

確かに、過去に読んでいる北杜夫氏や帚木蓬生氏、加賀乙彦氏、北山修氏は精神科医で、夏川草介氏や知念実希人氏は内科、久坂部羊氏も在宅医療医でジャンルとしてはおそらく内科、森鴎外氏は軍医と言うことで専門は衛生学、海堂尊氏が唯一外科医という専門分野で、意外に外科や整形外科の作家さんは少ないです。

整形外科(1)や腫瘍外科を含む外科(2)とともに少ないのは、歯科(0)や耳鼻科(1)、皮膚科(1)、眼科(1)、小児科(1)の専門の医者と作家という組み合わせです。

逆に上記のリストから兼業作家さんの医療専門分野で一番多いのは、大枠での内科医(消化器内科、神経内科含む)で11人、次が精神科医で8人、産婦人科が3人となっています。

開業医や勤務医、軍医、地域医療医となっているのは詳細不明で、一部には総合医療的なこともあるでしょう。それに1800年代にはまだ専門医療分野が今と違ってハッキリと分かれていないこともあり専門分野の区分けが難しいです。

外科や整形外科と作家の兼業が、精神科や内科と比べると少ないのは、様々な理由が考えられますが、派手な血を見る手術や解剖などで、体力や神経がすり減って創作活動どころではないということがあるかも知れません。素人考えですが。

私は両足の股関節が人工股関節ですが、その置換術の動画を見ると、整形外科手術というのはまるで大工さんのように、のこぎりやドリル、ハンマーなどを駆使していることに驚きます。音を聞いていてもまるで木工所の中にいるようでトンカントンカン、ガリガリガリとやっているのに驚きです。

いずれにしても医者を目指す人はそれなりに頭が良く、二足のわらじどころか、時間さえあれば三足、四足も可能でしょうし、医療以外の分野においても一流になれる方が多そうです。

著者別読書感想(帚木蓬生)
著者別読書感想(渡辺淳一)
著者別読書感想(夏川草介)
著者別読書感想(海堂尊)
著者別読書感想(久坂部羊)

【関連リンク】
1565 芥川賞受賞作はどれだけ読んだか
1561 直木賞受賞作をどのぐらい読んだか
746 直木賞作家の前職は?
509 本屋大賞ノミネート作品について




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