リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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鹿男あをによし (幻冬舎文庫) 万城目学
京都が舞台の「鴨川ホルモー」でデビューした万城目学氏の二作目が、この奈良を舞台とした作品です。その後書かれることになる「プリンセス・トヨトミ」と合わせて「関西三部作」と呼ばれているそうです。またこの作品は2008年に玉木宏主演でフジテレビの連続ドラマとして放送されていたそうなので、そちらで知っている人も多いのではないでしょうか。テレビが先行したためでしょうか、関西三部作の中で映画化されていないのはこの「鹿男あをによし」だけです。
物語は大学院で研究員として務めている主人公が、研究室の不和の原因となっていることから、教授から奈良の女子高へ臨時教員として行くことを勧められます。そこで起きる様々な顛末をコミカルに、またミステリアスに描かれていて、前作同様バカバカしくも楽しく読めます。
関西に住んでいた若い頃には、奈良へ何度も行きましたが、その頃は古墳や寺社に興味があるわけもなく、今にして思えば、この小説に出てくるおよそ1800年前には日本の政治や文化の中心地だった奈良の名所をもっと回っておくべきだったと今になって反省しています。なかなか近くにいるとそういうことって気がつかないものなんですよね。
同じく奈良の歴史的名所が出てくる小説では、恩田陸氏の「まひるの月を追いかけて」を思い出しますが、どちらの小説も読むと奈良へ行ってみたい気持ちが一段と高まりますので、仕事やプライベートで十分に忙しい人は注意が必要かもです。
変わったタイトルですが「あをによし」は「奈良にかかる枕詞」だそうで、「青丹よし 奈良の都は咲く花の 薫ふがごと今盛りなり」(万葉集)などと使われます。そういえば中学校か高校で習った記憶があります。
余談ですが、この作品では鹿がしゃべり出しますが、1960年代には「馬がしゃべる そんな馬鹿な♪」という音楽にのって始まる「ミスター・エド」というアメリカのコメディホームドラマがありました。実際に内容はよく覚えていないのですが、その歌だけ記憶に残っています。
◇著者別読書感想(万城目学)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オイアウエ漂流記 (新潮文庫) 荻原浩
荻原氏初の無人島漂流ものということで、著者と内容その両方に興味があるのでさっそく買ってきました。無人島漂流ものは古くから小説やそれを原作とした映画がよくありますが、子供の頃からずっとあこがれています。
ちょっと思い出すだけでも、
「ロビンソン・クルーソー」「十五少年漂流記」「蠅の王」「サバイバル・ファミリー」「青い珊瑚礁」「ブルーラグーン」「パラダイス」「流されて」「6デイズ/7ナイツ」「キャスト・アウェイ」「無人島に生きる16人」「東京島」「冒険ガボテン島」「LOST」などがあります。
荻原氏は「誘拐ラプソディー」や「愛しの座敷わらし」などコミカルで軽いものから、「明日の記憶」や「千年樹」などシリアスなものまで幅広くユニークな作品を連発してきましたが、この「無人島漂流」をどう調理するのか楽しみで購入しました。
場所は南太平洋、よくあるパターンで嵐に遭遇した小型旅客機が海に不時着し、這々の体で脱出した乗客がどうにか無人島に上陸。すぐさま救援隊が来ると思ってら、一向に現れず、仕方なく生きていくために無人島生活を始めます。
無人島に上陸した10人のうち9人は日本人で、1人だけアメリカ人。その日本人のうち5名は仕事絡みで、会社の上下関係や同行していた顧客との関係があり、最初のうちはサラリーマンの悲哀や世にも不思議な習慣が楽しめます。と言っても荻原氏がよく知っている1990年代のサラリーマンと、21世紀に入ってからのサラリーマンではだいぶんとその習性が変わっていて、若い人が読むと理解できないことも多いのじゃないかな。
あと「キャスト・アウェイ」や「6デイズ/7ナイツ」のように漂流したのが1人や2人ではなく、10人の団体での生活なので、最初のうちは「すぐ助けがくるはず」とまったく緊張感がなく、また十数人が流された「東京島」のように、人間のエゴと暴力、そして本性が丸出しともならず、実社会の延長のまま淡々と過ぎています。
そのようなのんびりしたメンバーばかりなので、島に漂着して本来ならすぐにやるべき食料や飲料水の確保とか発見してもらいやすくするための火起こしなどもせず、拍子抜けです。
普通ならもしものことを考えて、火を絶やさないよう焚き火を何カ所かに分けておくだろうに、火が消えてライターが壊れるともう火がおこせなくなったり、突然のスコールで大慌てしたりと10人も揃っていて現代人はそこまでバカになったのか?と読んでいて不思議に思ってしまったり。
今までの荻原浩氏の作品と比較すると、エンタメ作品としては理解できますが、あまりにも想像できないとんでも設定で、しかもその内容に上記の通り緊張感がなく、正直言って失敗作品じゃないのかなぁって。映画化をして、もう少しリアル感を出せば、それなりに面白く見られるかなというのが率直な感想です。
そういえば荻原作品はどれも映画化に向いていると思うのですが、意外と映画化されたのは渡辺謙主演の「明日の記憶」と高橋克典主演の「誘拐ラプソディー」だけです。「明日の記憶」は最高にいい映画でした。
テレビドラマ化された「僕たちの戦争」や「神様からひと言」以外にも、「千年樹」「あの日にドライブ」「コールドゲーム」「メリーゴーランド」など映画化して面白そうな作品がいっぱいありますが、なぜか伊坂幸太郎氏の作品のようには映画化が実現しません。
◇著者別読書感想(荻原浩)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
イントゥルーダー (文春文庫) 高嶋哲夫
高嶋哲夫氏の著作は割と好きで「ミッドナイトイーグル」や「M8 エムエイト」「ペトロバグ―禁断の石油生成菌」「ファイアー・フライ」などを読みましたが、この作品はそれらよりも前の1999年に書かれ、実質的なデビュー作と言っていい作品です。
昨年の3月11日にはM9の地震が起き、津波により外部電源が失われ、福島の原子力発電所が爆発、核燃料がメルトダウンするという大惨事を引き起こしましたが、高嶋氏はそのずっと前からそれらが起きることを予言し、警告する小説を書き続けていました。原子力発電所に詳しいのは、著者は大学院卒業後に旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)に勤務していた専門家でもあったのですね。
この本のタイトル「イントゥルーダー」は「A-6と呼ばれる米軍の艦上攻撃機、、、」のことではなく、元々の「侵入者」という意味ですが、主たるテーマは原発建設の安全性の問題、建設反対派を押さえ込もうとする政財界、それと結託した闇の世界が描かれています。
その他にも「M8 エムエイト」(2004年)はマグネチュード8の直下型地震が首都圏に起きた時がテーマだし、「メルトダウン」(2003年)、「TSUNAMI 津波」(2005年)など、昨年の震災を受けてようやく真剣に取り上げられるようになってきた話題を、10年近く前から数多く書かれています。
作品のすべてを読んだわけではありませんが、高嶋氏の小説の特徴としては決してすべて丸く収まったハッピーエンドにならないところでしょうか。それだけに、読後なんとも言えない重々しさが後々まで残ります。
◇著者別読書感想(高嶋哲夫)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
若葉のころ (集英社文庫) 小松江里子
この「若葉のころ」という小説は、もともと1996年にTBS系列で同名の連続ドラマが放送され、その脚本を書いた小松氏自らが小説に仕立てものです。原作を使ってドラマ化されることはよくありますが、その逆という珍しいケースです。テレビドラマでは主演の二人に堂本剛と堂本光一、女子高生役に奥菜恵、父親役に根津甚八、宅麻伸などが出演し、12話で構成されていました。
ストーリーはお金持ちの医者の息子甲斐と、早くに母親を亡くし貧乏な上に酒飲みで暴力的な父親を持つ武司とのあいだで不思議な友情が生まれ、絶望的に貧乏な武司にのし上がっていく野心が燃え上がっていくところまでは、ジェフリー・アーチャーの「ケインとアベル」を彷彿させるか?と好意的に思っていたら、なんと急展開し、二人を中心に同級生、両親、女教師、幼なじみの女子高生までを巻き込み、裏切り、いじめ、暴力、不倫、そして事件が起きて少年院へ入るなど肉欲渦巻くドロドロの世界が拡がっていきます。「若葉のころ」と言うよりは「酒池肉林のころ」が似つかわしいかなと。
元々テレビドラマである以上、そのぐらい展開がスピーディに流れていき、終盤近くなると「えっ次はどうなるのか!?」と思わせることが重要なので、まさにジェットコースターのように上がっては下がり、また上がるという忙しい内容です。
小説とはいえ、文章自体は脚本っぽく登場人物がすぐに思い浮かぶような書き方になっていて、こなれた文章の小説ばかりを読んでいると、こういうのもとても新鮮な感じで悪くはありません。というのも著者の小松江里子氏は元々脚本家として著名な方で、「部長刑事」やNHK大河ドラマの「天地人」など多くの脚本を書いている方です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
神様のカルテ (小学館文庫) 夏川草介
現役の医師でもある夏川草介氏が2009年に出したデビュー作です。医者でありながら小説を書くというのは古くからよくあって、パッと思いつくだけでも森鴎外や北杜夫、渡辺淳一、帚木蓬生、加賀乙彦、北山修、海堂尊、鎌田實など、歌人に齋藤茂吉など、天は二物をあたえるものだなぁとひがみ半分やっかみも半分です。
中でも自分のお手の物である医学界や病院などをテーマとしたものではなく、本業とはまったく畑違いのテーマで小説を書く森鴎外や帚木蓬生、加賀乙彦が特に私のお気に入りです。って今回のこの本はまさにその本業そのもの、地方病院の勤務医が主人公です。
信州松本平にある24時間365日救急患者受入れる総合病院を舞台にした、野心はなく平凡な青年内科医の奮闘を描くこの小説は、単なる青年医師の過剰労働告発ドラマではありません。
大学病院の医局に勤務し高額な医療機器を使い先端医療を学び狭い分野で専門家していく道と、一般病院に勤務し内科も外科もなく医者か医者でないかの区別しかない当番制の救急担当医としての葛藤、そして慢性的医者不足に悩まされる地方病院の問題、高齢化する社会を迎え、患者の延命をはかることだけが医者の役目ではないことなど、大きな社会問題を考えさせられる作品となっています。
これを原作とした映画が、昨年2011年に櫻井翔、宮崎あおい主演で上映されていましたので、そちらを見た人も多いのではないでしょうか。私も公開中に面白そうだなと思ったものの、なんでも中高生が映画館に押しかけているという噂を耳にしたので、ちょっと恐怖におののいて観に行けず、今度DVDを借りて1人でじっくり観ることにします。
この神様のカルテはシリーズ化されていて、すでに「神様のカルテ 2」は刊行済み、「神様のカルテ3」は現在小学館の小説誌に不定期で連載中のようです。海堂尊氏「チーム・バチスタの栄光」の「田口・白鳥シリーズ」のような派手なヒロイズムはありませんが、ライトで1~2時間で読めてしまうようなこのような小説もまた、中高生に携帯電話やゲームの世界だけでなく、読書や映画という世界をお手軽に経験してもらうにはたいへん素晴らしいことです。
最後にちょいと余談を書くと、主人公が巨大な病院の建物を振り返って見上げるシーンで建物の姿を「データラボッチ」に例えるシーンがあります。これは主人公が勤める病院のある松本平のすぐ近くに、高ボッチ(高原)というところがありそれに由来していると思われます(想像ですが)。
その高ボッチはもののけ姫にも登場するダイダラボッチという伝説の巨人妖怪が腰掛けたという場所で、そのような変わった地名がついています。その巨人ダイダラボッチを巨大な病院の建物に置き換えてたのだと推測しています。
◇著者別読書感想(夏川草介)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
れんげ荘 (ハルキ文庫) 群 ようこ
今回は軽めのほんわかした小説ばかりで、もう少し考えた選択をしなきゃなと、反省しています。
主人公は45歳、実家で母親と二人で暮らす独身女性。仕事に疲れ、母親の相手にも疲れ、兄夫婦が実家に戻ってくる機会を捉え、それまで20年間勤めてきた大手広告代理店を辞めると同時にひとり暮らしを始めます。
8桁の貯金がありもう働かないと決め、月10万円の生活をおくるため、見つけてきたのが、共同トイレにシャワーしかない月3万円という格安のレンゲ荘という年代物の木造アパート。梅雨時は猛烈なカビに、夏は大量に発生する蚊に、そして冬には外へ出たほうがまだ暖かいという寒さに悩まされながらも、変わった住人達との日々をおくっていきます。
群ようこ氏が実際に広告代理店に勤務したのは大学卒業後の半年ほどだったそうなので、もし自分があのまま広告代理店に20年間勤務していたら、きっとこの小説の主人公のように突然なにもかも捨てて、なにもしない生活をおくっただろうと想像したのかどうかはわかりませんが、いずれにしても、もうひとりの自分の姿を映し出した作品のようです。
小説から離れ、現実的になってこの女性の生き方を少し考えてみます。
実家で暮らし、大手広告代理店でバブル時代を含め20年間総合職で勤めると、確かに数千万円の貯金はできるでしょう。45歳から80歳までの35年間、毎月10万円ずつ使っても生活できる貯金がある書いてあるので、最低でも10万円×12カ月×35年=4200万円の貯金があるということです。
いま東京都内で「最低限の文化的生活」を保証してくれる生活保護を受給すれば、単身者で住宅補助を含め約13万円が支給されます。さらに医療費や公課(住民税など)、国民年金を支払う必要はありません(条件等あり)。
それと比べると、この主人公の場合、月3万円の家賃と言っても、会社勤め時代より割高な国民年金や健康保険料の支払い、住民税などの租税、年齢を重ねるにつれて増えていく医療費、そしてまもなく消費税が大幅に上がり、さらに家賃もこの先何十年と同条件とは思えませんので、20数年後の60歳過ぎからは年金が受給できると言っても月10万円生活は現実的には厳しそうな気がします。
あと、女性の場合、無職で昼間は散歩をしたり、公園や図書館で毎日ブラブラしていても、小説に書かれているように周囲から不審者として見られることは少なそうで、おそらくそのような暮らしをしてみたいと思う女性は結構いるのではないかと想像します。
一方、もし45歳の健康な男性が、仕事もせず近所をブラブラしていると、まず間違いなく「危なそう」「不審者」のレッテルを貼られてしまいそうです。なので、私を含め、一般的に男性がこの小説を読むと、この主人公のような生き方にあこがれや羨ましいといった感情はほとんど湧かず、どこか別世界の出来事のように映るのではないでしょうか。
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