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高齢化社会となっていく中で、様々な問題、例えば年金不足や医療費増大、労働人口や国内消費の減少、認知症患者の増加、介護士や介護施設の不足などいろいろとありますが、その中でも高齢者だけの世帯や高齢者がひとりで住む高齢単身者世帯の増加が気になっています。

孤独死の問題は数年前からNHKが盛んに取り上げたおかげで、人間関係が希薄な都市部においても住民同士や地域コミュニティ、行政の福祉サービスが巡回サービスをおこなったり、隣近所同士で声掛けするなど、少しずつでしょうけど改善が進んでいるように見えます。十分といえるかどうかは意見が分かれるでしょうけど。

認知症患者の自宅介護のたいへんさについては、まだ根本的な解決には至っていませんが、様々な問題があることは知られ始めています。

また認知症ではない元気な高齢者を遠方にいる家族が見守るための様々なシステムや製品、サービスが次々と登場しています。これからもこの分野は急速に進んでいくことでしょう。

現在は裕福な家族に限られますが、いずれは公的な補助が受けられるようになるかもしれません。

しかし、私が高齢者世帯、特に単身高齢者世帯が増えることで、心配していることがあります。それは火事です。

最近の火事のニュースを見ていると、出火元の住人とその火事による死亡者(同じ場合が多い)は高齢者が大多数を占めているような気がします。

そこで公開されている昨年のデータを調べてみました。下記はすべて総務省消防庁の「平成25年(1月~12月)における火災の状況」から抜粋したデータを使っています。

まず公表されている火災データから、建物火災の発生件数推移と、住宅火災の出火原因の割合です。
 
 
 
車両火災や林野火災などすべての火災発生件数を入れると昨年よりも増加(+4千件)していましたが、建物火災はここ6年間減少傾向にあります。それでも一昨年2013年の建物火災発生件数は全国で約2万5千件、1日平均68件起きていることになります。

建物火災に含まれる住宅火災(13,574件、54%)の出火原因で多いのは、こんろ(2,528件、19%)、たばこ(1,706、13%)、放火・放火の疑い(1,735、13%)、電気/配線(1,431、10%)、ストーブ(1,137、8%)と続きます。

ストーブの火災は冬の間だけのことでしょうから、もし冬期(12~3月)だけのデータをとってみたら、こんろを抜いてトップに躍り出ると思われます。なので冬に限って言えば「ストーブ・こんろ・たばこ・放火」が4大原因と言えそうです。

それにしても住宅火災においても放火、または放火の疑いというのがかなりの高率を占めています。住宅に限らず、全出火原因でみると放火、放火の疑いが断然トップになります。家の周囲に燃えやすいゴミなどを置かない以外、なかなか自分では注意しようがないだけに、対策や対応が難しいですね。

意外だったのはこれだけ禁煙がブームになって喫煙率が下がってきているというのに、たばこが原因での火災が住宅火災で3位(13%)、住宅に限らずすべての火災の出火原因では2位(9%)というから驚きです。

そのうち嫌煙権は内容を変えて嫌火権になるかも知れません。JTも街のあちこちに喫煙所を設けるよりも、喫煙者に消火器を配るなどのキャンペーンをおこなったほうが世の中のためになりそうです。

あと原因が不明というのが3割近くもあるというのも不思議です。出火元の住人が死亡してわからないということもあるでしょうけど、これだけ科学が進歩していても燃え尽きてしまって崩れ落ちた火災現場では、その原因を特定するのが難しいのでしょうか。

次に「住宅火災における経過別死者の割合」、わかりやすく言えば「死亡理由の割合」と、「住宅火災における年齢層別死者割合推移」です。



上のグラフは、死亡に至った理由というか原因で、半数以上が「逃げ遅れ」です。これを避けるために、今は新築住宅においては火災警報機の装着が義務づけられているのでしょう。

着衣着火による死亡も目立ちますが、これだけ寝具や衣料にポリエステルやアクリルといった燃えやすい素材の製品が増えてくるとさもありなんです。私はパジャマはできるだけ化繊ではないものを選ぶようにしています。

下のグラフは火事による死亡者を6歳~64歳までと65歳以上に分けて11年間の推移をみたものです。

ここ2~3年のあいだに団塊世代がすべて65歳以上になり、高齢者の割合がいっそう増えたという理由がありますが、それにしても、11年前はそれぞれ50%近くで大差なかったのが、一昨年2013年は29%と71%と2倍以上に大きく拡がっています。

現在では住宅火災が起きて犠牲者が出ると、その中の70%以上が65歳以上の高齢者ということですが、全人口に占める65歳以上の割合は昨年2014年で26%ですから火事での高齢者死亡の割合が突出して高いことがわかります。高齢者が犠牲になることが多い交通事故の死亡者の割合でも65歳以上の高齢者は53%です。

このことから先述した「出火元の住人とその火事による死亡者(同じ場合が多い)は高齢者が大多数を占めているような気がする」という感想に合致しそうです。

これはいったいなにを意味するのでしょうか?

詳しくはこの総務省のレポートでは触れられていませんが、考えられるのは、「寝たきりの高齢者が増えて逃げ遅れる」「高齢者だけの世帯や高齢者単身の世帯が増え、身近に救助する人がいない」「高齢者世帯の家から出火する」のみっつが大きいのではないでしょうか。

そしてこの「高齢者だけ世帯の増加」や「単身高齢者の増加」は今後も続きますので、この傾向は今後も続く可能性が高そうです。これは消火器を備えたとか、火災報知器を付けたから安心というものではありません。

そしてこれからは介護施設の不足から、認知症患者の自宅介護の割合が高くなりますが、そこで起きる火事が増えてくる可能性があります。つまり、認知症患者がコンロやストーブを点けたまま、忘れて外出したり寝てしまったりすることで起きる火災です。

こればかりは家族も24時間ずっと行動を見張っているわけにもいきませんし、また火事が出ると延焼の被害を受ける近所の住人もどうすることもできません。寝たきりでなく行動する元気な認知症患者で特に怖いのが、行方不明になったり交通事故の原因となる徘徊と、そしてこの出火です。

いずれにしても、高齢者が加害者にも被害者になりうる火災事故は、今後高齢化社会の中では大きな問題として考えるべきです。先日も団塊世代が75歳以上になる10年後には認知症患者は700万人を超えるという試算が発表されました。

例えば高齢者だけの家には石油やガスのストーブではなくエアコンを設置、コンロも電気式の自動停止付きのもの、簡易型の消火用スプリンクラーや火災警報機の設置などを義務づけ同時に設置費用を全額補助をするとか、認知症患者のいる家からマッチやライターなどの排除など、例え故意でない無意識な状態であっても火災を起こさない、起きない、万一起きても近所にすぐ警告や通報が行く生活空間を提供していくしかないでしょう。

最後に、2013年の「出火率」と「(火災による)死亡率」の都道府県別順位一覧です。



火事の発生件数(出火件数)は人口が多い東京都、愛知県、千葉県などが多いですが、「出火数÷人口」の出火率で見ると(1)山梨県、(2)島根県、(3)高知県、(4)長野県、(5)宮崎県の順位となっています。逆に出火率が低いのは(43)石川県、(44)神奈川県、(45)新潟県、(46)京都府、(47)富山県です。

これらから出火率と高齢化率になにか因果関係があるかどうかは不明ですが、なんとなく高齢化が進んでいる地域の出火率が高い傾向にあるような気もします。

火事による死亡者数が多いのは人口が多い神奈川県、千葉県、東京都などで、人口で割った死者率で見ると、高いのは(1)青森県、(2)高知県、(3)和歌山県、(4)山形県、(5)香川県の順になります。逆に死者率が低いところは(43)広島県、(44)大阪府、(45)埼玉県、(46)沖縄県、(47)東京都です。

こちらは死者率の上位5県と下位5県を見ると、明らかに「高齢化率が高い=火事による死者率高い」「高齢化率低い=火事による死者率低い」に合致しているようです。高齢化と火災事故による高齢者の死亡(率)者増加とは因果関係がありそうです。

先日NHKスペシャルで高齢化に伴う「空き家問題」が取り上げられ、高齢者は「住み慣れた場所に住み続けるのがなぜいけないんだ」、若い人は「わずかな住人のために巨額のインフラ整備をしなくてはならず、それに税金をつぎ込むのは嫌」と意見が分かれていました。

「高齢者の命を守る」ためと「行政の都合上」で言えば、消防車や救急車が駆けつけるのに何十分もかかる離れたところに住むのではなく、高齢者にはコンパクトシティのようなある程度まとまった地域に移り住んでもらうのが、防災、介護、医療など様々問題に対処するのにいいのでしょうね。


【関連リンク】
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