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楽園の蝶 柳広司

ジョーカー・ゲーム」などの多くの人気作を執筆されている著者の2013年6月に発刊された長編小説です。

時代は上記「ジョーカー・ゲーム」とほぼ同じ時代、1940年代初頭で、日本が傀儡政権を樹立して実効支配している満州が舞台となっています。

主人公は東京の大学在学中に左翼運動に染まってしまい、まともな就職先がなく、逃げるように満州へやってきた新米の脚本家で、謎多き甘粕正彦が率いる満州映画協会に入ることになります。

甘粕正彦は実在した人物で、Wikipediaによると「日本の陸軍軍人。陸軍憲兵大尉時代に甘粕事件を起こしたことで有名。

短期の服役後、日本を離れて満州に渡り、関東軍の特務工作を行い、満州国建設に一役買う。満洲映画協会理事長を務め、終戦直後、服毒自殺した。」とあるように、日本陸軍ともつながり、満州国を裏で支えていたとされる人物です。

物語はその実在する満州国、満州映画協会、甘粕正彦氏を絡め、またペスト菌を研究していた731部隊の石井四郎関東軍防疫給水部長も登場するなど、フィクションに史実を織り交ぜながら満州国の行方とその中で生きる人達を描いています。

ただ、物語として面白いか?というと、どうも著者の他の作品とは違って起承転結がはっきりしていなくて、スカッとするような終わり方ではなく、ダラダラとした始まりからいつの間には終わってしまったという不安げな感じで、読後感想が書きにくい。

タイトルに使われている「楽園」も「蝶」も、イマイチ本筋とは関係が薄く、タイトルにも疑問が残ります。

★☆☆

著者別読書感想(柳広司)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

英雄の書(上)(下) (新潮文庫) 宮部みゆき

毎日新聞夕刊で2007年から連載されていた長編小説で、2009年に単行本、2012年に文庫版が出ています。

そして2015年には続編とも言える「悲嘆の門」が発刊されています。

著者の作品としては珍しくいわゆる「指輪物語」「ハリー・ポッター」「精霊の守り人」「千と千尋の神隠し」などと同様のファンタジー小説という分野です。

多くのミステリー、サスペンス小説を手掛けている著者の作品を期待するとまったく違いますから注意です。

中学生の女の子が、殺人を犯して行方不明になってしまった兄を捜し、本の精霊達に導かれ、架空の異次元の世界に乗り込むというオッサンが読むには少々無理がある内容です。読み始めてからそういう話しだと気がついた私が悪いのですが、、、

文庫では上下巻ありますが、その約半分を使って、想像上の世界の理屈や決まり事が延々語られていて退屈きわまりない感じです。

おそらく映像化を期待しているのだと思われ、それならパッと見せれば済むようなことも文字にすると長々とその説明を書かなければならず、読み進めて行くには相当の忍耐が必要です。

新聞小説は、長さや1回当たりの文字数までがある程度決められているので、それに合わせるため、得てして冗長な感じになります。つまり素早い展開とかはなく、行動にいちいち必ず説明がつきます。

何度か読むのを途中で辞めようかと思いましたが、たまたまじっくりと読書できる時間がたんまりとあったので、一気に飛ばしながら読みました。

あーつまらなかった。損した気分です。(個人的な感想です)

★☆☆

著者別読書感想(宮部みゆき)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

男性漂流 男たちは何におびえているか (講談社+α新書) 奥田祥子

2015年発刊の新書で、日曜日の夕方にBS日テレでやっている「久米書店」で紹介されていたのを観ての購入です。

「久米書店」では、新書の著者をゲストに招き、その中身について久米宏と壇蜜が深く?掘り下げていくという読書好きにはたまらない番組です。

著者はアメリカの大学を卒業後、新聞社に入社して記者として勤務。その後独立してジャーナリストを生業とされている方で年齢は御歳50歳です。

新聞記者時代から興味を持っていたという男性の結婚観から始まって、男性側の婚活事情や、仕事、親の介護、子育てなどに悩む男性を追いかけてインタビューをしたものをまとめたものです。

すべて仮名での登場なので、どこまでホントの話し?って勘ぐりたくもなりますが、想像で書くのだったらもっと面白く書けるでしょうからほとんどは事実に近いことなのでしょう。

もっとも、この本で取り上げられている男性が世の中の男性の平均像というわけではなく、ある種特殊な方々ばかりが取り上げられていると思って間違いないでしょう。

ただその特殊な人達がこれからさらに増えていくことで、数年後か十数年後にはもう特殊といえないレベルにまでなってくるかもという警告にはなっています。

各章立てはこんな感じです。

 第1章 結婚がこわい(婚活圧力と生涯未婚ラベリング)
 第2章 育児がこわい(仮面イクメンの告白)
 第3章 介護がこわい(「ケアメン」―男性の介護時代)
 第4章 老いがこわい(若返りで家庭崩壊の危機)
 第5章 仕事がこわい(増える中年男性の非正規)

まぁ流行語を散りばめていて、いかにも新書らしい感じです。

読みやすく、理解しやすいのはいいのですが、ニュースとかをちゃんと見ていれば予想されることが淡々と書かれているだけで、心に残ったり響いたりすることがなく、「あ、そうなのね」ぐらいで終わってしまうのがちょっと残念です。

★☆☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫) コーマック・マッカーシー

2006年に発刊された長編小説で、2009年には映画も製作されています。少し前にBSでやっていた映画を録画して観た映画「ノーカントリー」(2007年)は著者の作品「血と暴力の国」の映画化作品だったことを後になって知りました。その作品も原作のタイトル通りヤバかったです。

この作品はいわゆる終末期モノで、地球に核戦争?のような終末期が訪れ、文明や都市は破壊しくつされ、ほとんどの生物は死に絶えています。

主人公がどのようにして生き延びていたのか?、なぜこのような事態が起きたのか?などはまったく明らかにされていませんが、とにかく生き残った者同士、生死を賭けたサバイバルゲームが展開されていきます。

生き残っている人の多くは食料を求め凶暴化し、一部は食人化しています。そうした中で、核の冬?のせいか寒くなった地域からひたすら暖かな南へと向かってアメリカ大陸を歩いていく父親と幼い子の親子の情愛がたっぷりなロードストーリーです。

襲ってくる凶暴な集団たちと闘ったり、打ち壊された家の中に隠されている食料品を知恵を絞って探し出したり、難破船から水や食料を引き上げたりと、マッドマックスを彷彿とさせるようなロストワールド的な世界が描かれています。

また日本の安いドラマによく出てくるような、子供がやたらと賢くて大人顔負けの活躍をするようなものではなく、現実に親にすがるしかなく、また親の背中を見て少しずつ育っていき、時には我が儘をいう普通の子供が描かれているのにも好感が持てます。

息子を守るため、また親が死んだ後でも危険な事態に対応ができ生き残れるようにとサバイバルを教えつつ、愛情深く寄り添っていく父親の姿がとても魅力的で、最後はハッピーエンドとは言えませんが、かと言って後味の悪い終わり方でもなく、よい終結だと思います。ぜひ映画も見てみたいですね。

★★★


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