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蛇行する月 (双葉文庫) 桜木紫乃

2013年に単行本、2016年に文庫化された連作短編小説です。自身の出身地でもある釧路近くが舞台で、思うようにいかない仕事や、妻子あるずっと年上の男性と駆け落ちした高校時代の同級生の話しとか、創造が書いたことが主体でしょうけど、現実的にどこにでもありそうな話しが中心です。

過去には「ラブレス」や、直木賞を受賞した「ホテルローヤル」を読みましたが、舞台が同じと言うこともあり、なんとなく続編や番外編を読んでいるような錯覚にもなります。

最近の作品は知りませんが、人気作家となった今では、これからもっと小説の舞台や登場人物の幅を拡げていく必要がありそうです。

それとも、あえてこの北海道、しかも釧路というシチュエーションにこだわっていくのかな?

こだわって書くのも一つの持ち味で、悪くはないと思いますが、名前で売れると踏んだ出版社からはやいのやいのと言われているでしょうね。「旅費を出すから海外に取材旅行へ行きましょう!」とか。

この著者が書く労働は、常に暗く厳しく、まるで蟹工船のような過酷なもので、そうした中でもがき働く人物をうまく描写していくというのがお得意です。

よほど、労働においては今までろくなことがなく、恨みを持っているなということが考えられますが、それは売れっ子作家になってからは改善できたのか気にかかるところです。

★★☆

著者別読書感想(桜木紫乃)

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みっともない老い方: 60歳からの「生き直し」のすすめ (PHP新書) 川北 義則

2011年刊の新書で、この今年83歳でますます意気軒昂?な著者の著書には「○○の品格」とか「××歳からの」的な、年齢や性格に応じた先輩からの指南書のような本が多い感じですね。それがまた売れるのでしょう。

この数多くの著書がある著者の本の中では、過去に「遊びの品格」と「男の品格」を読んでいます。どちらもそこそこ面白かったので、お勧めです。

こちらのテーマもタイトル通り、主としてリタイヤ後の主として男性高齢者に向けた常識的な生き方指南書という感じです。

なかなか60歳で即引退とはいかないのが実情ですが、少しでも老後の生活を豊かにするため、少なくてもいいから稼ぐ方法を考えようとか、妻との関係を今までのような任せっきりではなく、大きく考え方を改め、料理を学んでおくとか、地域行事への参加、時にはひとり旅をしたりと、いくつか実践すべきことが書かれています。

そうは言っても、退職金など当てに出来ない多くの人は、65歳からしか年金がもらえなくなった制度と合わせると、60歳から5年間は、少しでも稼げる方法で働くしかないわけで、どちらかと言えば、そちらの方法指南のほうが大事じゃないかなと思ってしまいます。

筆者のように40代で独立し、うまく事業を経営していれば60歳という定年もなく、いつまでも働けるでしょうけど、この本の読者のほとんどはそうではないだけに、苦しんでいるわけです。

ま、会社に安住していたのは自業自得だって言われてしまえばその通りですが、多少でもバブルを経験した人達にとって、夢よもう一度!とか、あのときは良かったとか、なかなかいいときの思いが捨てられず、気持ちを切り替えられないというのが本当のところでしょう。

なので、定年を迎えて、やっと会社の束縛から離れられる!と一瞬喜んでも、次に待っているのは、不安な老後と、年金受給までどうやってしのぐか?という、いつまでも逃れようのないジレンマとの戦いだってことがこのお気楽な本を読んでの感想です。

★★☆

著者別読書感想(川北義則)

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天空の蜂 (講談社文庫) 東野圭吾

1995年に単行本、1998年に文庫化された書き下ろし長編小説です。2015年には堤幸彦監督、江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵などの出演で映画化されています。

今や押しも押されぬ不動の人気作家の著者ですが、この小説が出た当時はデビュー10年に満たない若手作家のひとりでした。

もっともこの頃から多くの意欲的な作品を次々出して、人気作家の階段を上り始めていましたが。

主人公は、三菱重工を思わせる原子力プラントや自衛隊ヘリコプターなどを複合的に製造しているメーカー技術者で、新たに開発した自衛隊用の大型ヘリのテスト飛行日に格納庫から盗み出されてしまいます。

無線操縦と、予め仕込まれた自動操縦機能で、無人の大型ヘリは、名古屋の工場から敦賀市にある新しい原発の上空へ向かい、その真上でホバリングを始めます。

同時に盗み出した犯人から、「爆薬を搭載したヘリを原発に墜落させたくないのなら、日本中の原発を今すぐに停めて破壊せよ」という脅迫が届けられます。

しかし、無人のはずのヘリに試験飛行を見に来ていた主人公の息子が乗っていることがわかり、犯人との交渉で自衛隊員が飛行中のヘリから子供を救出することになります。

というようなアクション場面が満載の優れたエンタテインメントで、小説発表後20年も経った後ですが、映像化することでその魅力がさらに伝わりやすく、映画化されたのも頷けます。

原発事故の話しや原発の仕組みなどが節々に登場しますが、この小説から16年後には、テロではないものの、本当に原発が水素爆発し、原子炉がメルトダウンするという大きな悲劇に見舞われることになります。

まるで、その時を想像していたかのような深い内容で、おそらく東北震災後に映画化されたのも、そうした原発事故を受けて、単なるエンタメだけでは終わらず、あらためてこの作品が持っている奥深さを表面化したいと考えたのではないかなと思われます。

いろいろと無理のある設定もありましたが、そうしたことを吹き飛ばすような深いリアリティのあるアクション小説と言えるでしょう。

★★★

著者別読書感想(東野圭吾)

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夏美のホタル (角川文庫) 森沢 明夫

高倉健最後の主演の映画としても有名な「あなたへ」の原作小説など数多くの小説を書かれている作家さんの2010年単行本、2014年文庫版発刊された青春小説です。

名前はよく知っていただけに、意外でしたがこの著者の作品を読むのは初めてです。

2016年には廣木隆一監督、有村架純主演で映画も制作されていました。どうも設定がだいぶんと小説と映画では違うようですけど。

プロのカメラマンを目指して芸術大学に通う男性と、その恋人で幼稚園の先生をしている主人公の女性が主人公で、女性の運転するバイクでツーリング中に立ち寄った田舎の酒屋で、年老いた親子と出会います。

その親子や近くに住むまた強面の仏師との交流もあり、夏休みの間、親子の家の離れを借りて住むことになります。

コンクールに出すための写真を撮影したり、川遊びを教えてもらったりと、まるでそこの家の子供になったようなひと夏の経験を過ごします。

そして、やがて夏が終わり、その家から元へ帰りますが、半身が不自由な高齢の子供が先に逝き、そしてその子と一緒に暮らしてきた親の老婆も亡くなります。

ただそれだけの物語ですが、不思議な人と人のつながりや、「生まれてきてありがとう」という親の気持ちなど、いろいろと考えさせられる内容となっています。

短い特に大きな展開も波乱もない地味な小説ですが、著者の思いが詰まった良い小説でした。

★★★

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