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ベルカ、吠えないのか? (文春文庫) 古川日出男

2005年に単行本、2008年に文庫化された長編小説です。著者は今年52歳、劇作家として戯曲も得意としながら、数多くの小説を出している作家さんですが、今回初めて読みました。

本著は、軍事用に特別に訓練されたシェパードなどの何代にもわたる遍歴と、世界中で実際に起きた戦争やテロなどで、犬がどう活躍してきたのかを絡めたものですが、とにかく「よくわからん」というのが本音のところです。

著者はなにが言いたいのか?、なにを書こうとしたのか?、読者にどう感じて欲しいのか?さっぱりわかりません。なにか著者の自己満足に付き合わされているような気がします。

ま、こういう小説があっても無駄とは思いませんが、突然、犬に人の感情や人格を持たせてみたり、犬の生殖を人間化してみたり、また時代が現代と過去と煩雑に行ったり来たりし、そして犬に勝手に国籍をつけていますが、それって意味があるのか、など疑問に思うばかりです。

できれば小説らしく、ちゃんとひとりの主人公(犬でも可)を置いた一貫したストーリーであって欲しかったなというのが感想です。

★☆☆

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地下街の雨 (集英社文庫) 宮部みゆき

1994年単行本、1998年に文庫化された短編集小説です。

とにかくミステリーからエッセイ、ファンタジーから時代小説までなんでもこいの多作な作家さんで、しかもそれぞれが十分に楽しめるエンタメ才能があふれるほど豊かです。

この著者の作品を手に取ると、その中身を見ないでも安心ができるという作家さんのひとりです。

と言っても数え切れないぐらい数多くある著作の中から、現在のところ12作品しか読んでいないので、とてもファンとは言えませんが、心の安寧を得るためか、時々思い出したように手に取ってみたくなります。

著者は最近では直木賞や日本SF大賞など様々な文学賞の選考委員として見かけますが、いわば宮本輝氏らと同様に、業界のボス的な存在なのでしょう。もちろん良い意味でです。

さてこの短編小説集では「地下鉄の雨」「決して見えない」「不文律」「混線」「勝ち逃げ」「ムクロバラ」「さよなら、キリハラさん」の7篇が収録されています。

読ませるちょっと不思議な短編集と言ったところですが、中でもタイトルにもなっている「地下街の雨」は印象深い作品です。

婚約までしながらその後に破談となり、割り切りながらも鬱々としてる女性が主人公ですが、最後の種明かしで、「えぇ~!」という展開には、現実的にはあり得そうもねぇな~という思いと、そうした役者揃いがテレビでよくやっている「ドッキリ」を仕掛けられる人生があれば、それも刺激があって面白そうという思いがあります。

人は平穏を求めながらも、心の片隅には、ちょっと刺激的で、他人にかまわれることを望んでいるのかなぁと自分に置き換えて考えてみたりします。嫌な人には絶対にかまわれたくないですけどね。

★☆☆

著者別読書感想(宮部みゆき)

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イノセント・デイズ (新潮文庫) 早見和真

2014年に単行本、2017年に文庫化された長編小説です。著者の作品を読むのはこれが最初です。

この作品は今年2018年に妻夫木聡、竹内結子などの出演でWOWOWでテレビドラマ化されています。

主人公は男にふられた腹いせに男の家族が住む家に放火し、妻と子供を殺して死刑判決を受けた女性。

女性は事件に関わったことは認め、死刑判決が出た裁判員裁判の1審だけで控訴をせず、通常6~7年と言われる死刑執行までの期間、外部との接触はすべて断り、死刑囚として穏やかに過ごしています。

マスコミは凶悪犯罪の女死刑囚として大々的に取り上げ、その女性の過去を薄っぺらに決めつけて報道しますが、そうして出来上がってきた悪女のイメージとは裏腹に、その女性の子供時代に同じ学校で仲が良かった人達が、その後の交友関係や、身に降りかかったえん罪事件など、関係者からひとつひとつ明きらかにしていきます。

ま、その主人公の性格や感情を、ちょっと無理して作りすぎって気もします。いかにも男性が作り出した幻想というものでしょうか。小説ですからね、致し方ないわけです。

タイトルは、innocent(無実の、純真な、お人好しな)の意味をうまく象徴して使われています。

★★☆

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明智左馬助の恋 (文春文庫)(上)(下) 加藤廣

今年2018年4月に亡くなられた著者の、「信長の棺」「秀吉の枷」とともに、「本能寺三部作」と言われる作品で、2007年に単行本、2010年に文庫が発刊された歴史長編小説です。

2006年には、この小説を原作とし、タイトルを「敵は本能寺にあり」としてテレビドラマ化されました。出演は、市川染五郎、玉木宏、釈由美子、竹中直人など。

主人公の明智左馬助は実在した人物で、正式には明智秀満と言う名で、主君である明智光秀の重臣です。光秀の娘を嫁にもらった後、明智姓を名乗るようになったと言われています(諸説あり)。

本書では、本能寺の変は、明智光秀もこの主人公の明智左馬助も、最初は信長を殺すのが目的ではなく、公家衆からの要請に応える形で、天皇の勅命と信じ、信長を捕らえて引導を渡し、引退させるのが目的だったところ、部下の中に比叡山の焼き討ち事件で両親や兄弟を信長勢に殺された遺族が数名いたことで、それらが信長憎しで先走った結果、激しい戦闘状態となってしまったことになっています。

また明智勢が発見できなかった信長の遺体については、織田家の菩提寺である阿弥陀寺の僧侶がどこからか引き取っていたことがわかり、その遺骨の埋葬については、今後信長後継者による遺骨の奪い合いの政争に巻き込まれることがないよう、左馬助が阿弥陀寺へ入れ知恵をします。

と、まぁ、新たな新説なども織り交ぜつつ、クライマックスの本能寺の変と、その後明智家が滅亡していく様子が明智側からの視点で描かれたことに新鮮さを感じます。

そうそう、まだ1年以上先のことですが、2020年のNHK大河ドラマは「麒麟がくる」で、その主役は明智光秀だそうです。その光秀役には長谷川博己が決まっています。

今までの大河で描かれる明智光秀は、悪役で小物感いっぱいでしたが、一気に知将・名将として躍り出るのでしょうか。

★★★

著者別読書感想(加藤廣)

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人生はすべて「逆」を行け 川北義則

2011年刊のソフトカバー単行本です。著者は今年83歳という高齢ながら積極的に出版プロデューサーや評論家として活躍されている方です。

過去には「男の品格」(2006年刊)と「遊びの品格」(2009年刊)を読んでいます。

ま、それなりに事業の経験を積んでいると常識的な話しが多いのですが、いくつか金言を抜き書きしておくと、

・世の中「理不尽が当たり前」と思え
・皆がうなずくときは疑ってかかれ
・怒って当然のときこそ怒るな
・他人の目なんて気にしてどうする
・正義や善意を免罪符にするな
・人間関係はうまくいかなくて当然

などなど。他にもいいところを突いている話しも多くあります。

ただ、「就職するなら「大企業」の間違い」については、大きな間違い。今こそ政治家も評論家も識者と言われる人までこぞって「大企業志向は間違い!」と言っているので、私はあえて今こそ大企業を目指すべきと思ってます。

なんと言っても「大企業志向は間違い!」と言っている人達のキャリアを見てご覧なさい。ほぼ全員がそうそうたる大学を卒業し、大企業や国家公務員として就職したり、学を究めた国立大学の学者先生などです。そういう人達の言う「大企業志向は間違い」って信用できるわけありません。

自分たちの頃とは違うと言いたいのかも知れませんが、なにも変わりません。ここ20年間でコンスタントに給料が上がっているのは大企業と役人だけですし、教育や福利厚生に手厚く、給料だけでなく様々な恩恵が得られ、転職する時や、独立して事業を起こすときにそのキャリアや人脈がモノを言うのも大企業や国家公務員だけです。

★★☆

著者別読書感想(川北義則)

【関連リンク】
 11月後半の読書 ハリー・クバート事件、とにかくうちに帰ります、代償、介護ビジネスの罠、黒冷水
 11月前半の読書 孤舟、天使の卵 エンジェルス・エッグ、社会人大学人見知り学部卒業見込、沈黙の町で、流れ星が消えないうちに
 10月後半の読書 開かせていただき光栄です、新版 ユダヤ5000年の教え、深夜特急〈第一便〉黄金宮殿、ようこそ断捨離へ

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