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すベてがFになる (講談社文庫) 森博嗣
森博嗣氏1996年のデビュー作として有名な同著ですが、その時すでにシリーズものを何作かは書いていてこの作品はシリーズ4作目となるそうです。
デビュー作にはインパクトのあるものからということで、この作品がデビュー作となったようです。
他にも似たようなタイトルの作品があり、もう読んだものとばかり思っていたらまだだでした。遅ればせながら。
森氏の作品にはこの作品を含む「S&Mシリーズ」の他に、「スカイ・クロラシリーズ」「Vシリーズ」「Gシリーズ」などが有名で、その他にも多数の著作物があります。
私が過去に読んだことがあるのは「Zシリーズ」の「ZOKU」だけです。あとアニメ映画になった「スカイ・クロラ」は見ましたが、それだけみても多才な人だということがわかります。
2005年に退職するまでは名古屋大学工学部助教授で、異色の作家と言えますが、工学部だけにSF的な発想と知識はお得意です。
ストーリーは、主人公のN大学助教授犀川創平と犀川の恩師の娘である西之園萌絵(犀川と萌絵でS&Mコンビ)が、天才プログラマ真賀田四季博士が幽閉されている真賀田研究所がある島へ行くことになり、そこで殺人事件に巻き込まれることになります。この著者が書く小説の登場人物名はいつもユニークです。
真賀田四季博士が島で軟禁状態にあるのは、若くしてアメリカの大学を卒業し、天才と言われていたものの、その後両親を刺殺したということによります。
精神病の末の犯行ということで、刑務所ではなく両親が作った研究施設の中で数十年ものあいだ幽閉され、医者の監視下におかれています。その中で起きた密室殺人の謎を解いていくわけですが、数学的な話しもあり複雑で内容を理解するのに結構疲れました。
この小説が発刊されたのは1996年なので、書かれたのがその前年1995年だとすると、社会ではWindows95が登場しインターネットが使われ始めた頃です。
しかしこの小説の中ではネットやPCがごく普通に使われていて、VR(バーチャルリアリティ)技術や、リモートコントロール、コンピュータの音声案内、自律的なロボットなど、当時としてはまだほとんど実現していなかった場面が展開されています。それが当たり前になった今では、この小説が示す近未来想定に共感を覚えます。
文庫版で500ページを超す長編で、それなりに科学的な興味と面白さもありますが、技術的な面以外では無理をしていて、突拍子もない素人っぽい部分が目立ち、子供騙しとまでは言わないまでも、いい大人が真剣に読んだり感想を書くものではないかなとも。またこういった漫画的な小説にあまりリアルさを求めてもいけないのでしょう。
◇著者別読書感想(森博嗣)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
マンチュリアン・リポート (講談社文庫) 浅田次郎
「蒼穹の昴」「珍妃の井戸」「中原の虹」から続く近代中国・満州を描いたシリーズで、「中原の虹」を完結してから3年が経ち、すっかり忘れた頃にようやく文庫として登場しました。
簡単にシリーズをおさらいをしておくと、「蒼穹の昴」は清朝(1616年~1912年)末期、貧しい家の出身で踊り子だった李春雲が苦労を重ね宦官となり、やがて頭角を現し宦官の中でもトップの座に就きます。
そして悪女として名高い西太后に仕え、内憂外患の滅び行く清朝を懸命に守り建て直していこうとする姿を描いたものです。日中合作でドラマ化され、NHKで放送されてました。
続く「珍妃の井戸」は、清朝滅亡を一気に加速させることになる義和団の乱(1900年)が取り上げられています。
今までは清朝末期の話しといえば「ラストエンペラー」で有名な宣統帝、愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)を描かれることが多いのですが、浅田次郎氏は先の「蒼穹の昴」とともに西太后を中心して描いています。
そして「中原の虹」は義和団の乱のあと起きた日露戦争(1904年~1905年)が日本の勝利で終結した後、列強各国に蹂躙されていく統治者がいなくなった中国で、馬賊出身の張作霖(1875年~1928年)が東北部(満州)で勢力を増し、やがては長城を超えて北京へと進出していく過程と挫折が描かれています。
そしてこの「マンチュリアン・リポート」です。直訳すれば「満州報告書」。
清朝末期の1900年初頭、満州全域を制覇し、さらに清朝が滅亡した後、主導権争いで群雄割拠する北京へ入り、中国統一へ野心をのぞかせていた張作霖でしたが、北伐で勢力を増してきた国民党(国民革命軍)との争いに敗れ、地元奉天へ引き下がることを決め、その際に何者かによって列車ごと爆殺(1928年6月4日)されてしまいます。物語はその1年後から始まります。
裕仁親王(昭和天皇、当時27才)はその張作霖暗殺事件を曖昧にする田中総理大臣を更迭し、事件の真相を調べるため、軍紀を乱したと投獄されていた日本帝国陸軍の志津中尉に白羽の矢をたて中国へ送り込み、その中尉が定期的に送ってくる報告書という体裁で、真実に迫っていきます。
主人公は報告書を送る志津中尉と、その報告書の間に登場する25年以上前に西太后に贈られた英国製の蒸気機関車を擬人化した鋼鉄の公爵。
そう、張作霖を乗せて北京から奉天へ向かう時に使われた蒸気機関車です。とは言うものの、喋る英国の蒸気機関車といえば「機関車トーマス」か「チャギントン」がすぐに頭に浮かんできてしまい、シリアスなドラマになにか妙な感覚を覚えます。
清朝の後の中華皇帝に手が届く寸前のところまでいきながら思いを果たせず、暗殺されてしまう張作霖は、私の中では天下統一の前に倒れた織田信長や、自分が関わってきた新しい日本を見ずして倒れた坂本竜馬のイメージとダブります。
その暗殺には関東軍参謀が関わったという説が有力ですが、それ以外にもスターリンの命を受けておこなわれたなど諸説があり現在でも確定はされていません。
この暗殺、一般的には線路や列車に仕掛けられた爆弾が炸裂してというイメージが強いのですが、事実は線路同士が交差する上の橋を爆破して下を走る列車を押しつぶすというもの。しかも押しつぶせるのは、19輛編成のうち、せいぜい1~2輛という難しさです。
それには張作霖がその時に乗っている車輌を知らなければならず、また駅が近くてスピードは落としているものの、列車は走っているので、その車輌が通過するタイミングで爆破しなければならず、緻密な計画と練度の高い技術が要求されます。
そうした中でこの志津中尉に代弁させた浅田次郎氏が導き出した結論は、、、ということは読んだ人だけの楽しみとしておきましょう。そしてこのシリーズはここで終わってしまうにはなにか中途半端な気もするので、これに続く新たな小説が今後の楽しみです。
この浅田次郎氏のシリーズは史実を追い実在の人物の名前もたくさん出てきますが、基本的にはフィクションの小説であるということを十分理解しておかなければ、時々書評で見かけるようなトンチンカンな感想になってしまいます。それは史実とフィクションをごっちゃにしてしまっていることによるでしょう。
◇著者別読書感想(浅田次郎)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
砂の上のあなた (新潮文庫) 白石一文
「ほかならぬ人へ」(2009年発刊)で直木賞を受賞し、その翌年に発刊された2010年の作品(文庫の発刊は2013年3月)です。
主人公は結婚して家庭に入った30代女性。子供が欲しくて計画妊娠など手を尽くしているその女性の元に、突然見知らぬ男性から「亡くなられたあなたの父親の手紙がある」と電話がかかってきます。
その手紙は主人公の父親から愛人に宛てたもので、筆跡や内容から父親が書いたもので間違いなく、死後はその愛人と一緒になりたいと書かれています。
もうそれだけでもひとつの大河ストーリーが出来上がりそうですが、話しは中盤以降、思わぬ方向へと進んでいきます。詳しくは書きませんが、まったく予想外の展開で、これは家族というより、なにか人間の縁とか運命を強く感じさせられるドラマに仕上がっています。
ただひとつの小説に「妊娠したい女性」「夫とのすれ違い」「亡くなった父の愛人」「突然現れた魅力ある男性」「自分の名前の謎」などいろんな展開を詰め込んでしまったがゆえに、話しがあっちへ飛んだりこっちへ戻ったりと散らかってしまった感はゆがめませんが、前半部分の緩やかでけだるい進行から、後半は展開の早い推理小説のような趣となります。
親が高齢で亡くなると、それまで背負ってきた長い人生には、実の子も知り得なかった様々な葛藤や歴史があり、それを子供が知ることが果たしていいことかどうかは賛否あるでしょう。ただ好きだった肉親に関することをもっと知りたいという欲求もまた起きるでしょう。
今年の暮れに映画上映される百田尚樹氏の「永遠の0」も、特攻で亡くなった祖父のことを孫達が調べ歩く小説ですが、若い人の自分のルーツ探しが今後流行していくかもしれません。
映画「真夏のオリオン」(原作は池上司氏「雷撃深度一九・五」)も、孫が亡くなった祖父のことを聞きに祖父の戦友を訪ねるところから始まっていました。
◇著者別読書感想(白石一文)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
寝ながら学べる構造主義 (文春新書) 内田 樹
「街場のメディア論」や「下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉」など、社会の流行をバサバサと切る歯に衣着せぬ言論でお馴染みの著者ですが、その代わりに敵も多そうで、Twitterなどではよく非難の的となったりしてよく話題に上がっていたりします。
この本は2002年に発刊されたものですが、いかにも難解そうな思想哲学「構造主義」について、気楽に読んでも理解ができそうに工夫して書かれています。本は漫画しか読まないという人には無理かも知れませんが。
「構造主義」とは一言で言えば、、、と書こうと、Wikipediaを読んでみてもさっぱりわかりません。「狭義には1960年代に登場して発展していった20世紀の現代思想のひとつである。
広義には、現代思想から拡張されて、あらゆる現象に対して、その現象に潜在する構造を抽出し、その構造によって現象を理解し、場合によっては制御するための方法論を指す言葉である。」とこんな調子です。入り口でこれですから、興味がなければさらに深く突っ込んで学ぼうとは思いません。
本書ではそういう難解な説明は極力排除されているとはいえ、いきなり読むとやはりついて行けません。特に「寝ながら」読むとそのままぐっすり寝込んでしまいます。
マルクス、フロイト、ニーチェ、フーコー、ソシュール、バルト、レヴィ-ストロース、ラカンなど思想家達のこと、構造主義が出来上がってきた歴史的背景、その他関連する逸話など、寝ながらではとても理解できませんが、最低限の教養というか身だしなみとして知っておくことができるかもしれません。
巻末のあとがきに書かれていた「レヴィ=ストロースは要するに『みんな仲良くしようね』と言っており、バルトは『ことばづかいで人は決まる』と言っており、ラカンは『大人になれよ』と言っており、フーコーは『私はバカが嫌いだ』と言っているのでした。」というまとめが象徴的でした。
◇著者別読書感想(内田樹)
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食の安全性についてなにかを言うと、「気にしていたらなにも食べられなくなる」という意見が返ってきて、確かにその通りと頷くところがありますが、それでもなんとなくですが、最近の食の安全が気になっています。
昔というか子供の頃はそれこそ近所の農家の人がリヤカーで売りに来ていた野菜を買ったり、近所の市場の中にある、よく知った肉屋さんや、馴染みの魚屋さんで買ってきた食材が食卓に並びました。それらいずれの食材も生産者や販売者の顔がよく見えるものでした。
もちろん当時の衛生状態は今と比べものにならないほど悪く、野菜を育てる肥料は人糞が普通に使われていたり、薄暗い市場の中はハエが飛び回り、肉屋さんでもお金を触った手でお肉をつかんで計量したりと、それはひどいものではありましたが、それはそれでよく洗ったり火を通したりすることで気になりませんでした。
下水道や水洗トイレが普及し、日本中で衛生環境が整い、高度な医療システムや救急治療体制が行き渡り、様々な食品が不足することなく供給されるようになったおかげで、1960年代から2010年代の間に平均寿命が15年以上も伸びました。ある意味、今の食生活と医療技術が寿命を延ばす要因となっているとも言えます。
ということは雑誌の特集や食の安全を語るベストセラー本にあるように「現代の食品や添加物が人の命を縮める」と果たして言えるのか?と疑問に思ってしまいますが、私の動物的なカンで最近の食品、特になにがどれだけ使われているかよくわからない加工食品類が気になります。
それに加えて2011年に大きな原発事故と放射能の大量流出が起き、その後「人体に影響はない」とされ、放射能汚染された食品もある一定基準以下のものは普通に流通するようになりました。大丈夫かそうでないかは、条件や個人差にもよるでしょうから、絶対はあり得ません。
出荷する方は、規定通り検査をおこない「国の(暫定)基準範囲」だから問題ないという理屈であっても、少しでも内部被爆したくないと思っている人にとっては、それは放射能汚染食品以外なにものでもありません。基準や理屈ではなく、受け入れるか受け入れないかの好みの問題と言ってもいいかもしれません。
しかし受け入れたくない消費者がどれほど注意をしても、外食に使われる食材の産地や汚染度までは確かめようがありませんし、また利益を追求する企業の論理から言うと、食材の産地を偽装したり、原料の産地まで記す必要がない加工食品に姿を変えてしまえば、安価に仕入れられる分だけ大儲けが出来るチャンスということになります。
1975年に発刊された有吉佐和子著「複合汚染 」は、出版されてすぐ高校生の頃に読みましたが、おそらく食品の安全性にメスをいれた初めてのノンフィクションだったでしょう(食品以外の環境汚染や公害についても詳しい)。
高度成長期の終盤に近く、急成長を遂げてきた大企業を敵に回しかねないこの種の本を出版するのには、今と違って著者も出版社にも勇気がいったことでしょう。
そしてこの本のせいで、我が家でそれまで普通に使っていた味の素などの化学調味料が消えてしまったことが記憶に残っています(化学調味料が有害とする根拠はありません)。
例え家の台所から化学調味料をなくしたからと言って、外食したり外で弁当を買ったりすれば、その化学調味料を口に入れない日はないのに、どういう意味があるのか?とも思いましたが、身体に及ぼすリスクは少しでも減らしたいという親の考え方だったのでしょう。
同様の理由で子供の頃には添加物だらけの市販のふりかけも禁止されていて、当時人気だったエイトマンふりかけ(のりたま)が食べられずに悲しかったです。
一般家庭にレトルト食品が最初に登場したのは1968年に発売されたボンカレーですが、それ以前からインスタントラーメンやインスタント焼きそば、カレーや肉、魚の缶詰は普通にありました。
しかし1960~70年代はそのような加工食品の数はまだ少なく、毎日口にするほどには普及していませんでした。
やがて働く女性が増え、家でじっくりと調理する時間が減り、今ではスーパーやコンビニ、弁当屋では加工食品だらけで、普通の食材をみても、魚は骨を抜いた切り身単位、肉は使い方ごとにパック詰め、野菜もカット済みのものが整然と並び、おにぎりやお弁当、各種おかず類、調理パン、サンドウィッチも豊富です。
そしてそれらの加工食品の多くは、見た目と味が優先され、安全性や素材の質、新鮮さ、調理加工の過程でどのような化学薬品がどのぐらい加えられているのかまるでわかりません。
そのような加工食品の添加剤にいったいなにが使われているかわからず、薬品のおかげで見た目よく、長持ちする食品を毎日食べていると、数十年後になにか影響が出てこないとも限りません。
またそれ以上に食べる際、どうしてこんなに安いのか?など不思議に思ったり薄気味悪く感じることもしばしばです。これは量より質にこだわりたくなってきた年齢のせいかもしれません。
「保存料無添加」とか「着色料無添加」と大きく書いてあるから安易に安心と思ってはいけません。「保存料」や「着色料」は使っていなくとも、別種の酸化防止剤や香料など化学薬品が大量に使われていたりと、あの手この手で消費者を煙に巻く表示が跋扈し、消費者はそれに追いつけません。
ちまたではよく聞く話しですが、「加工食品の製造に関わっている人は自社の製品を食べようとしない」「米農家は出荷する米や野菜と自家で消費するものとは別の田んぼや畑で作る」などなど。
もちろんプライドを持ち消費者の安全と健康に気をつけて美味しい食品や料理を作るために努力している人がほとんどだと思いますが、その見分け方は素人には難しいでしょう。
添加物の話しではありませんが、「食品会社偽装の歴史」というサイトでは過去に起きた食品偽装事件が詳しく紹介されています。(2011年5月から更新がないようですが)
私は今のところ詳細がわからないので賛成でも反対でもありませんが、TPP交渉がまとまると、優秀な日本の工業製品の輸出が伸びる一方で、外国から食材や加工食品の輸入が進むことになりそうです。
外国の食品が大量に入ってくることで、値段が下がり消費者にとってはありがたいことですが、素材そのものならまだしも、現地の基準や効率を優先して作られた加工食品までが日本の食卓を席巻するようなことになれば、食の安全性がさらに疑わしくなってきます。
すでに多くの食料加工品は外国で作られているのが実体ですが、TPP締結後には拍車がかかり、競争激化によりコストダウンのため日本から技術指導者、製造責任者は派遣されず、受け入れる際の検査官の人数も足らず、食の安全性は現地の業者任せになってしまうことを恐れています。
中国産食品、猛毒135品リスト 「ナッツ類」に発がん性高いカビ ほかにも…(zakzak)
…ヒ素にカビ毒、大腸菌。果ては猛毒の農薬も…。厚生労働省の「輸入届出における代表的な食品衛生法違反事例」を基に本紙がまとめたのが別表だ。検疫検査 の際、禁止された農薬の使用や適正量を超えた食品添加物の含有、有害な病原体による汚染など食品衛生法違反で摘発された事例を集めたもので、中国産食品の 汚染のすさまじさを物語っている。 |
「日本の食料自給率は低いのでもっと農業に補助金をジャブジャブ入れて保護しなきゃ」というのは農協やその組合員、農水省官僚の一方的なゆがんだ主張で、それは農業を守るためという建前を作り、それに沿った政策と巨額の補助金を得るための方便です。
そしてそこの票が政治家へと流れるわけで、政官組合の既得権益を守るため、各種規制を強固にして、参入障壁を高くしてきた歴史があります。
そしてその結果、補助金漬けにされた農業は小規模のままで生産性が低く、国際競争に立たされると自立することができなくなり、衰退の一途を辿ることになります。
■日本は世界第5位の農業大国という事実
そしていま高齢化する農業従事者と、後継者がいない農家が多くなってきています。後継者がいないというのはそれだけ農業に魅力や将来性がないからです。本来政治家や農水省、業界団体たる組合は、そうなる前に農業のビッグバン(古い!)をするべきでした。
それは例え業界団体の猛反対があっても、民間資本による大規模農業経営の推進や、バイオテクを駆使した有機栽培、野菜工場、品質改良による効率化など安全性と将来性のある事業を国を挙げて推進し、企業の参入障壁になっている農地法など各種の規制(これが既得権益の温床)を次々と緩和し撤廃していくべきです。
そうすれば例えTPP交渉がまとまっても、品質や安全性をウリにして世界に通用する日本農産物を作ることが可能でした。
家庭の食卓には地元の工場で生産された安い無農薬野菜と、安全な飼料だけで育てられた県内畜肉業者の新鮮で美味しい肉が並び、加工食品もその原料の産地や加工された場所はもちろん、使われている調味料の種類と量までがしっかり明示され、それらを消費者が自ら選択して買えるようになれば素晴らしいことです。
今からでも遅くはありません。政治家は業界団体や官僚の反対を恐れず、票集めの補助金ではなく、日本の安全でしかもリーズナブルな食品・食料が豊富に自給できる政策を早く進めてもらいたいものです。
【関連リンク】
634 味覚の変化について
613 関西風味
583 人口が減るのもいいんじゃない
556 塩の話
438 生物多様性と絶滅危惧種について
437 日本は世界第5位の農業大国という事実
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711
総人口に占める65歳以上の人の割合(高齢化率)が、2040年に全都道府県で3割を超え、秋田など5道県では4割を超えると国立社会保障・人口問題研究所が「地域別将来推計人口」で公表しました。2040年というと27年後、私はもし生きていれば82才です。
2040年に高齢化率が40%を超えるのは、秋田県(43.8%)、青森県(41.5%)、高知県(40.9%)、北海道(40.7%)、徳島県(40.2%)の5道県です。逆に2040年でも高齢化率が比較的低い県は、沖縄県(30.3%)、愛知県(32.4%)、滋賀県(32.8%)、東京都(33.5%)、岡山県(34.8%)です。
凄まじく高齢化へ進んでいる国内の人口構成ですが、その中でも65歳以上の高齢者が総人口比で50%を越えた集落のことを「限界集落」と呼んだのが当時高知大学教授だった大野晃氏(現長野大学教授)です。その限界集落が今から27年後の2040年には多数出現することになります。
限界集落となるといったいなにが起きるかというと、医療や福祉など各種公共サービスの提供が独自には難しくなり、道路や施設の運営・管理が削られて壊れても補修されず、民間企業のスーパーや日用品店、飲食店、ガソリンスタンドなどが撤退、鉄道やバス路線の縮小や廃止など、生きていく上での共同体機能が急速に衰えることになります。そしてその集落は消滅に向かうとされています。
2010年時点で限界集落に該当するのは、群馬県 神流町、群馬県 南牧村、長野県 天龍村、長野県 大鹿村、奈良県 川上村、和歌山県 北山村、徳島県 上勝町、高知県 大豊町、高知県 仁淀川町の6県9自治体だけです(福島県内の自治体は今回調査から除外されています)。
村や町ばかりで、平成の大合併に乗り遅れて漏れてしまったか、あえていさぎよく消滅する道を選んだのか、それとも町議など政治家がなにも考えていなかったのでしょう。
ところが、今から6年後の2020年に限界集落を迎えると予想される自治体は、
26都道府県の47自治体が限界集落を迎える予測となっています。消えてしまうには惜しいところがいくつも含まれています。
そして26年後の2040年は、多いので列挙すると
の36都道府県、169もの自治体が限界集落となります。中でも北海道(29市町村)、青森県(11町村)、高知県(11市町村)、奈良県(9町村)が特に多いです。
えっ?あの市(町)が限界集落!って叫びそうな有名なところも含まれます。
ちなみに日本全体では2001年1月時点では3,447あった市町村は、その後合併が進み、2011年11月時点では約半分の1,719となっています。
今後の市町村合併を考慮しなければ、169の限界集落数は日本の自治体数からすると9.8%、約1割を占めることになります。
これらはあくまで予測であって、そうならない可能性だってあるでしょ?と反論されそうですが、逆に限界集落に向かうことが確実となれば、いち早くそこから脱出しようとする企業や個人もあるでしょうから、その時期がもっと早まる可能性だってあります。
限界集落にならない可能性があるとすると、近くの大きな自治体と合併したり、極端な例ですが原発や米軍基地、カジノなどを誘致して、若い人が集まる大きな産業を育てるぐらいしか思い浮かびません。
中途半端な観光施設や遊園地、温泉施設を作ってもうまくいかないのは過去の多くの事例が証明しています。
現在は各地で「シルバータウン計画」というものが進められていますが、それらの内容には大差なく、高齢化して人口減が進む地方の町や村に、引退した都会の高齢者を迎え入れて移住してもらおうとするもので、その移住に関連した大規模な開発と介護や医療ビジネスで産業を興そうとするものです。楡周平氏の小説「プラチナタウン 」もそれに近いものでした。
一方、限界集落のない地方自治体は山形県、栃木県、富山県、福井県、滋賀県、兵庫県、岡山県、香川県、佐賀県、沖縄県の10県です(福島県は今回調査から除外)。
この限界集落がない10県に特徴があるのは、町村合併を積極的に進め、県内に極端に小規模な町や村が少なく、早くからコンパクトな中核都市に集中する政策に転換してきたことでしょう。ただし県全体の高齢化はどこも同じように進んでいます。
大都市を抱える東京都や大阪府、神奈川県などにも、山間部や辺境に小さな町や村が残っていて、それらが26年後には限界集落化していくことになります。
それらは限界集落化する前に近くの市や町と統合、あるいは住人の移住促進がおこなわれていくのでしょう。
地方にある中核都市がいまできることと言えば、限界集落化する住民やその家族を説得し、少しでも早く都市部へ移住をしてもらうことでしょう。代表的な例が富山市で、早くから思い切ったコンパクトシティ構想を進めています。
その他でコンパクトシティ政策を取り入れているのは、札幌市、稚内市、青森市、仙台市、豊橋市、神戸市、北九州市などがあります。
もし限界集落を放置し続ければ、自治体は効率の悪い税金の使い方をせざるを得なく、またそこの住人達は様々な点で不便を強いられ、結果的には夕張市のように財政破綻し、再建団体に指定されてしまいます。
財政破綻した市町村がどういうことになるかというと、自治体としての機能は国に取り上げられ、市(町・村)民サービスが低下し利用料金は値上げされます。
例えばゴミの収集頻度が少なくなり(ゴミが町にあふれ散乱する)、(公営の)医療施設が閉鎖、(市町村管理の)道路や橋が壊れてもすぐに補修ができず通行禁止となる、(市長村営)バスがなくなり通勤・通学が不便になる、保育料など利用料が上がる、なのに市町村民税は高くなります。
夕張市の場合はいち早く問題に直面し、注目度も高く東京都をはじめ救済しようとする自治体や企業、個人がありますからまだ救われていますが、今後は自分のところの自治体が手一杯で、やがてそういう支援もなくなってしまうでしょう。
例外的に過疎化した町に特定の企業や個人が支援していくケースがあります。代表的なのは福武書店のオーナーと手を組み文化的な観光施設を次々に作り、リゾート化した瀬戸内海の直島があります。
このようにしてうまくいったケースは稀ですが、今後縮小化していく町のあり方を考える上で参考にできそうです。例えば先端医療の町や、車いすでどこでも移動が可能な町、至る所に透析施設がある町、マイアミのような引退した富裕層が安全快適に過ごせる町、巨大な図書館が24時間利用できる町、大学と住人が一体となって講座や施設利用が自由な町、などなど。
先祖代々の土地やお墓を守りたいという気持ちは、今回震災にあって壊滅した東北の集落をみてもよくわかりますが、生活や安全の面だけでなく、潤沢にあるわけではない税金を、国民に公平に使うためにも、従来の土地にしがみつくのではなく、将来に向けて既存のインフラを出来る限り活用しながら、新しいコンパクトな町作りに協力していかなければならないでしょう。
いずれにしても歴史や由緒ある村や町の名前が消えてしまうのは、日本人として悲しいことですが、それらを維持、管理し、町おこしをしていくには現状では多額の税金を使うことになり、それでも住人がいなくなれば自然消滅してしますので、無理して救済するよりは、住みやすい都市部への移住政策を進めていくほか仕方がないのではという結論です。
【関連リンク】
702 アマゾンジャパンは国内の小売り業を破壊するか?
681 コンパクトマンションが流行っているらしい
677 2013年の休日と国民の祝日について
669 ネット人口の正しい統計
667 減りゆくガソリンスタンドが生き残る道
653 小売ビジネスはどこへいくのか
616 ガソリンスタンドの経営が厳しいと言うことはわかるが
578 外国人研修制度という名の移民政策
425 棄民政策は日本の伝統か
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著者別読書感想INDEX
710
バブルが弾けた以降、製造業を中心に人員整理をともなうリストラが数多くおこなわれてきたことは過去何度も書いています。
退職勧奨・強要にあった場合の対処法
ニッポンの家電業界は生き残れるのか
前からだけど日本の大手製造業はやっぱり変だぞ
海外移転で製造業の労働者はどこへいったのか?
2011年7月中旬時点のリストラと求人の各業界動向
リストラはまだまだ続いている
製造業の行く末は、、、
やっぱり倒産が増えている
現在のところはまだ解雇規制があり、企業の勝手な都合だけで解雇はできにくくなっていますが、既得権をなくし、労働力の流動化促進のため、それを撤廃せよという声が日増しに強くなっています。
若い人も「中高年者がいるから自分たちの給料が上がらない」「実力主義、成果主義なのだから、中高年者は不要」という考え方に賛同しがちです。
でも少し考えれば、それがやがては自分にも降りかかってくるということを忘れてしまっています。自分は若いし有能だからそういう目には遭わないと思っていたとしたらそれは笑止千万です。
今後30年間ずっと第一線を同期のトップで走り続けられますか? 今後30年間、部下や後輩に自分より有能な人は現れませんか? 会社の中に口も聞きたくない嫌な人がひとりもいませんか? 今は健康でも、30年間ずっとその健康を保てますか? 両親や家族はみんな健康で、長期療養や介護の必要はありませんか? 40代以降になっても20代の若者と体力や持久力で勝てますか? 次々登場する新しい技術やノウハウを若い人よりも先に吸収できますか? 勤務する会社は退職するまで傾いたり倒産する可能性はありませんか? 勤務する会社や団体、役所は辞めるまでどこかに吸収されたり統合されませんか? |
上記の中のひとつでもNoがあれば、あなたが中高年になったときに突然退職勧奨をされる可能性があるということです。
中高年になると、経験、人脈以外にウリは少なくなってくるというのが一般的です。よく言われるマネジメント力やリーダーシップなどは、本を読むだけで吸収できてしまう人がいますから、年齢には関係がありません。
しかし経営スピードが速くなっている現在ではその経験というものはあまり必要とされなくなってきました。
過去の経験なんぞ改革や成長の邪魔以外の何物でもないと言い切る経営者もいるぐらいです。またIT化のせいでビジネスにおける人間対人間の関係が希薄化されていて、果たして人脈が豊富な人がどれほど貴重か怪しくなっています。
いまビジネスに求められるのは、経営者の意をくみ、適格にスピーディに、そして新しい技術や発想を取り入れ、その仕組みを考え、他にはないものを創り出せる能力と、それを実現する行動力や周囲を説得し巻き込んでいける能力です。これらはあまり年齢に依拠しない能力といっていいでしょう。
もちろん自分が経営者になればまた違う能力が必要となり、ライバル企業や同僚達との競争ではなく、今度は周囲に信頼される発信力やひらめき、アイデア、数字を読む力、決断力、帝王学などが必要となってきます。
さて、現在おこなわれている中高年者の退職勧奨ですが、こんな記事がありました。
ソニー「中高年リストラ」の現場「キャリアデザイン室」で何が行われているか?
「東京キャリアデザイン室」。かつて大賀典雄名誉会長が執務室を構え、役員室が置かれていた由緒正しきフロアは今、社内で「戦力外」とされた中高年の社員を集めてスキルアップや求職活動を行わせることを目的とした部署に衣替えしている。 (中略) キャリアデザイン室が人員削減のための部署であることは、社員ならば誰もが知っている。この部署がほかと大きく異なる点は、配属された社員の人事評価が、多くの場合に「最低レベル」となり、在籍期間が長くなるほど、給与がダウンする仕組みになっていることだ。というのも、仕事の内容がソニーの業績に直接貢献するものではなく、他社への転職を含めて本人の「スキルアップ」を目的としているためだ。 (中略) 企業のリストラ策にはさまざまな手法がある。中には、ある日突然、職場への出入りを禁止する「ロックアウト型」の解雇や本人に過大なノルマを課して辞めさせる手法など、ソニーのやり方をはるかにしのぐものもある。 (中略) ソニーだけでなく日本企業の多くが、中高年世代の余剰人員を抱えている。企業からすれば人員スリム化は理由のあることかもしれない。だが、企業業績の悪化→中高年への退職勧奨を続けるかぎり、ビジネスパーソンはつねに不安を抱えながら働くことになる。 |
勝ち組企業にも「追い出し部屋」 新たに複数で
「社内失業者」を集めて転職先探しなどをさせ、社員から「追い出し部屋」と呼ばれる部署が、新たに複数の企業にあることが分かった。事業再構築で「勝ち組」になった企業でも、業績回復の陰で追い出される社員がいる。人数を増やして拡充する企業もあり、隠れた「解雇」は今後も広がりかねない様相だ。 |
これだけを読むと、「ソニーやパナソニックはひどい会社だ」「経営の失敗がこのような悲劇を生む」「会社も若返りが必要で仕方ない」「リストラの対象となる人は所詮それだけの人」とか、中には「なにも仕事をしないで給料がもらえるなんて最高」と他人事のように思う人がいるでしょう。
これは全世界の中でも有数の巨大なグローバル企業で起きていることで、日本ではそれらの巨大企業よりはるかに多くの企業で、もっとひどいことが日常茶飯事に起きています。ちなみに日本では大企業と言えるのは全体の中でたった0.3%しかありません。
零細企業はもちろんのことですが、一番厳しく影響が大きいのは、社員数100~1000名程度の中小企業の多くで起きている中高年者の退職勧奨です。退職勧奨と言葉は優しげですが、実体は冷徹非道な首切りです。
なぜ零細、中小企業の退職勧奨が厳しいのかというと、仮にもソニーのような大企業だと、退職勧奨される人に対して事前に様々なチャンスや選択肢が与えられます。
例えば子会社への出向、早期退職制度による退職金増額、再就職支援制度などもその中のひとつです。企業組合があり、なにか困ったときに相談できる相手が身近にいることも大きいでしょう。
また最悪再就職をするにしても経歴がソニー出身というだけで、中小零細企業から来て欲しいと手を挙げてくれる会社も少なからずあるでしょう。
しかし中小企業にはそのような再就職支援や、割増退職金の制度などがあるところは極めて稀で、ある日突然呼び出されて、いついつまでに辞めて欲しいと一方的に通告されるだけです。
大企業と比べ関連子会社や孫会社も少なく出向や移籍という段階を踏む手段も一切ありません。
もちろん一方的な解雇通告に対して、調停や裁判で争うこともできますが、その前に日々の生活があり、精神的に追い詰められ、あまり現実的な解決法でないことは以前書いたとおりです。
そしてそのような非人道的な解雇が起きても、話題性がある大企業ソニーやパナソニックとは違ってマスコミが取り上げてくれることは皆無で、誰も興味も関心も持ちません。
相談するにも所詮他人事の労基局や職安の身分は一生保証されている役人ばかりで、共闘できる人達ではありません。つまり闘うなら自分のお金と身体を使いひとりぼっちで闘うしかありません。
さらに転職をするにしても、中小企業でしか働いた経験のない中高年者を喜んで採用してくれるところは、この不況下の日本では少ないでしょう。うまくいってもアルバイトかパートに甘んじるしかありません。ところが自信過剰なのか、社会を甘く見ているのか、追い詰められるまでそれがわからない人が多いのです。
「そんなのは自分のキャリアプランをちゃんと作ってこなかった責任だ」「解雇に備えて専門資格や手に職を付けてこなかったのが悪い」「実力がないクセに会社に甘えるな」と突き放すのは簡単ですが、常に人手不足状態の中小企業で、その企業と心中するつもりで必死に働いていると、自分のキャリアプランを考えたり、今後有望な専門資格を身につける暇などありません。
特に今の50代は、若いときには年功序列、終身雇用という日本のビジネスのしきたりを会社の先輩や上司に教え込まれ、60歳の定年まで働けば、年収は右肩上がりで、退職金はこれぐらいという生涯賃金モデルがあり、だから20代30代の頃は安い給料に甘んじて信じてきた人ばかりです。そんなこと信じてやってきたのが悪い?本当にそう言えるでしょうか?
そうして一番お金がかかる年代の40~50代になって、ようやく今まで育ててきた果実が食べられると思った矢先に、「実力主義」だ「成果主義だ」と言ってリストラの洗礼に遭えば、人生設計が狂ってしまいます。
ではどうすればいいのか?
日本の悪しき慣習と言われている「年功序列」と「終身雇用」のうち、すでに完全に崩壊している「年功序列」は仕方ないとしても「終身雇用」だけは死守すべく解雇規制撤廃どころか逆にもっと解雇規制を強化をしていく。これです。
解雇規制が強化されることにより、例え労働者は例え不況時でも上司の評価にビクビクする必要はなく、業務上のミスを恐れず、一時の人事評価など気にせず、のびのびとした柔軟で新しい発想を仕事にもたらすことにより会社に貢献でき、さらには休みたいときに遠慮なく休み、家族のためにも自分のためにも有給休暇を目一杯使い、この成熟した社会でストレスをためることなく人間らしいライフスタイルを実現することができます。
もちろん同期より少しでも早く出世したい人は、有給休暇をとらず、上司にごまをすって、家族サービスなどせず、サービス残業をいっぱいして、身体を壊すリスクを冒してでも人一倍頑張ればいいのです。それを否定するつもりはまったくありません。
所詮中小企業の人事査定など公正なものではなく上司や経営者の気分次第でどうにでもなるものがほとんどです。
規制強化で解雇しにくくなると企業が正規雇用を採用しなくなる?
今後30年間は少子化で若い人がどんどん減っていくのです。企業が(有能な)若い人が欲しければ正社員で募集しなければ集められなくなるので心配無用です。
中高年者だけで企業を成長させられるならば、それはそれで結構なことで、失業者を出さない代わりに新たな雇用が生まれないのは仕方がありません。
いずれにしてもどの年代の社員を採用するかはそれぞれの企業が決める問題です。若い人を採用しやすくするために中高年を解雇するなんて論理は失業対策になっていませんし、まったく意味不明で許されることではありません。労働力の流動性を促進?それは労働人口の3割以上を占める非正規雇用で考えるべきことです。
人材派遣が登場した1980年代には「人材派遣が認められたら企業は正社員を採用しなくなる」と騒いでいた学者や労組系弁護士がいました。
人材派遣の職種が自由化されても、そのような会社があるのかどうか、あったとしてそれで成功したという話しを聞いたことがありません。
その代わりに人材派遣ではなく、1990年代以降アウトソーシングビジネスが台頭し、企業の部署ごとをすっぽり外部委託してしまうようなビジネスが普及してきました。
製造業の正規雇用が減ったのは、安い非正規雇用ばかりの受託工場や海外の業者へ丸ごとアウトソーシングをして物作りをするようになってからです。もし製造業の採用が減ったことに文句を言いたいならそっちをなんとかするべきです。
そしてすでにスーパーやファストフード店、大規模小売店を運営する企業の正社員の割合は、おそらくそこで働く人全体の一割もいないでしょう。
あとは全部非正規雇用や委託の人達です。そういう業界がすでにあるのに、これ以上増えるのはけしからんというのもなにかおかしな話しです。
企業は利益や成長を目指し、儲けを雇用や税金といった形で社会に還元するものであって、それが実現できるのであれば、正規社員でも非正規社員でも関係ありません。
労働の流動性は主に非正規雇用でまかなわれているので、正規雇用の人まで解雇しやすくして流動性に加える必然性はまったくありません。
つまりこの成熟した日本の社会において、解雇には厳しい制限を設け、その中でいかに成果を上げていくかを考え作っていくのが、これからの日本企業が真っ先に取り込まなければならない問題です。
もしこのシステムができれば、トヨタの生産システムKANBANのように、失業率を下げて終身雇用する新日本型雇用システムSYUSHINとして世界中から注目を浴びることになるでしょう。
非正規雇用が悪で、正規雇用だけが善という雇用形態の考え方は間違っていますが、厳しい解雇規制を敷く中で、補助金や助成金のようなばらまきではなく正規雇用を増やしていく手法についてはまた別の機会に書きます。
【関連リンク】
6月のリストラと採用増情報
正社員の解雇には2千万円かかる!それホント?
ハローワークを頼りにしていいのか?
リストラと生活保護と自己破産
私のリストラ激闘記
2つのリストラ物語
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「小売ビジネスはどこへいくのか」や「アマゾンジャパンは国内の小売りを破壊するか?」に書いてきたことですが、家電量販業界でもスーパーなど小売り業の大規模な再編が進んできています。
イオン、ダイエー子会社化に向けTOB実施へ(ロイター)
「イオンの13年2月期の連結売上高予想は5兆6500億円。ダイエーを子会社化することで、連結売上高は6兆5000億円規模となり、流通業で圧倒的なパワーを持つことになる。イオンは、今月4日にもJ.フロント リテイリングから食品スーパー「ピーコックストア」を買収すると発表しており、規模拡大に向けた投資を積極化している。 |
Amazonの2012年全世界での売上高は円換算するとおよそ6兆円程度になりますから、4兆8千億円のセブン&アイは軽く抜き去っていて、イオングループもダイエーを吸収してようやくAmazonといい勝負というところです。
Amazonは2000年に創業し、わずか10数年の会社がしかも通販だけでその金額を稼ぎ出すわけで、もの凄いと言わざるを得ません。
ちなみにイオングループの中核ジャスコの前身岡田屋が創業されたのは江戸時代徳川吉宗が死去した1758年創業(255年前)、セブン&アイの中核企業イトーヨーカドーの前身羊華堂洋品店が創業されたのは1920年(大正9年、今から93年前)のことです。
家電量販同士、スーパー同士が統合したり子会社化するのは仕入の規模を最大化し、効率化を図ったり、プライベート商品を大規模に展開することにあると思われますが、それをいくらやっても、急成長を続けているAmazonにまともにやっていては勝つことはできません。
というか、最近でこそ家電量販店はネット通販に対し、ライバル意識をむき出しにしてきましたが、まだスーパー業界はネット通販に対してさほど驚異を感じているとは思えません。
きっと差別化ができていて、自分たちのお客はいつまでも店へ来て、レジに並んで現金で買ってくれるものと信じているのでしょう。
着々とアマゾンや楽天にその商機を奪われつつある小売マーケットですが、小売業のツートップのイオンとセブン&アイ グループもそれぞれ「イオンショップ」や「セブンネット」を開設し、細々と地味に通販事業を展開しています。
しかしそれらがまだほとんど知られていないのはなぜなのでしょう。
考えられるのは、
(1)ネット販売と言っても店舗販売より安く販売することができない。
(2)母体が巨大すぎて意志決定スピードが遅く、柔軟なネットビジネスに向いていない。
(3)流通倉庫や流通システムが既存店舗に最適化されていて、ネット通販仕様ではない。
(4)基本ポリシィが店舗へ客を呼び込むことであり、通販に力点を置いていない。
(5)仕入部門とブローカーや商社、卸売業とのつながりが深く、自由な販売ができない。
などでしょうか。
私が思うに、イオンやセブン&アイが、本気でアマゾンつぶしに通販事業に乗り出せば、今なら勝機は十分にあるでしょう。
それは完全に別会社にし、グループ内にしがらみがなく、スーパー業界経験のない若い人をトップに据える以外に、下記のような(保守的な人にとっては)度肝を抜く対策を講じればの話しです。
(1)通販専用の大規模流通センター建設と当日・翌日配送システムの構築
(2)店舗用と通販用の一括大量仕入・納入で仕入コストのさらなる低減
(3)通販ならではの品揃えの豊富さと、店舗とは違う価格設定
(4)系列のスーパー、コンビニでの受け取り、現金決済が可能
(5)週替わりの大特価商品を提供(リピート獲得策)
(6)Amazonの価格調査をおこない、売れ筋商品は必ずそれより安く設定
(7)通販の需要が高い家電部門は大手家電量販と提携して共同戦線を張る
(8)コンビニの配送網の利用とラストワンマイルはコンビニ宅配網の活用
もちろん配送料も「5千円以上無料(イオンショップ)」なんてケチ臭いこと言ってないで、思い切って「千円以上は無料」にします。きっちり千円の商品だけを購入されると赤字になりますが、トータルで考えないとダメでしょう。
強大ななライバルを凌駕するためにそんなことをチマチマと心配するのはナンセンスです。やるのはいつですか?今すぐでしょう。
そしてまず狙うは団塊世代周辺の客で、そこからごっそり取り込むことに注力します。
なぜ団塊世代か?
私のざっくりとしたイメージですが、楽天利用者は20代~30代が中心、Amazonは30代~40代が中心です。遅れて参入する際、まだあまりターゲットとされていない50代~団塊世代を集中して狙うのが容易です。
この世代はすでに普段の買い物でイオンカードやセブンカードの保持者が多く、カード(クレジットカード機能付き)保有者には初回購入特典を与えてもいいでしょう。
例えば最初の利用時に魚沼産コシヒカリ5kgを無料進呈とでもすればすぐに食いついてくれるでしょう。新しいカードの入会者も増えて一挙両得です。
そして団塊世代は、最初に利用したネットサービスへのロイヤリティが高く(変わると新たに個人情報を登録したり、操作を覚えなければならず、変えたくないという心理が実際のところ)、一度使って便利だ、安かったと実感できれば、あとはずっと他社へ浮気をせず継続して購入してくれます。その点若い人は浮気性で、買うたびに店が違っていても平気です。
さらにこの年代層は年齢が年齢だけにやがて外出しての買い物が不自由になってきます。食料品から日用品、家電、書籍、趣味関連、ペット用品まで、特に重いもの、かさばるものなどは、今後ますます通販での購入需要が増加していきます。1回当たりの平均購入額も若い人よりずっと高額になるはずです。
当日配送ができる地域では、食材(米、野菜、肉、果物、味噌、調味料など)の通販も可能で、もしかするとそれらが他の通販ではできないキラーコンテンツになる可能性があります。それらの食材はスーパーやコンビニで売っているものそのもですから、調達は簡単でしょう。
さらに団塊世代だけでは次の拡がりがないので、若い人も集めましょう。これは昔Amazonが使っていた手ですが、1年ぐらいの期間限定でいいので、多くの人気売れ筋商品をカカクコムや比較コムなどに最安値近くで提供するようにします。
若い人は手間をかけて安いところを探すために、カカクコムなど比較サイトをよく参考にします。そこで常に安値の上位に入るようにしておけば、自然と若い登録者が増えていきます。
いつ倒産しても不思議ではない零細な通販専門会社より、安心感のあるイオンやセブン&アイならば最安値でなくても、それに近ければ十分戦えます。さらに不在がちなシングルや共働き夫婦にとって24時間近くのコンビニで荷物が受け取れるのは魅力です。
店舗と通販で値段に違いがあると文句を言う人も出てくるでしょう。でもその方には「では次はぜひ通販でお買い求めください」と言えばいいのです。
店舗の家賃や販売員の経費を考えれば店舗の販売価格が高いのは当たり前でしょ?という考えがそのうち定着していきます。
ヨドバシカメラやヤマダ電機の店舗が客に指摘されるとAmazon価格と同等に合わせるよう苦慮していますが、かなり無理をしているように思えます。
逆に店舗側も通販に負けじと頑張って、通販より安く販売する特定の商品や、期間限定の特売品、季節もの商品があっても全然OKです。
新春初売りや資本関係もないプロ野球球団の優勝セールなどで大幅値引をやっているじゃないですか。
それに同じグループでありながら、コンビニのセブンイレブンとスーパーのイトーヨーカドーで同じ商品の値段が違っていても、誰も文句を言わないのと同じです。
同じグループ内で工夫しながら競争すれば、事業発展、拡大のスピードは上がるでしょう。
仕入や流通、大規模なキャンペーンだけを通販と店舗と共同で行うことで、双方のコストを下げ、通販は通販独自の収益構造を作り上げていけばいいのです。従来の店舗の収益構造や個々の利益率など通販ビジネスはこだわってはいけません。
ただそう言うことを頭では分かっていても、こうした大企業の上層部は「店舗が命」「対面販売してナンボ」「来店客数が価値基準」という昔取った杵柄だらけの人が多く、事実そういう人達が会社の実権を握っていたりして、うまくいかないんだろうなぁと、他人事ながら改革したいけれど頭を押さえつけられている一部の社員さんにはご同情申し上げます。
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