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十二月八日の幻影(光文社文庫) 直原冬明

十二月八日の幻影
1965年岡山県生まれの著者は、大学卒業後にサラリーマンや議員秘書を経験した後、2014年にこの作品で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し作家デビューした方です。

2014年にデビューしてから現在までに3作品が出版されていますが、専業作家としてはえらく少ないようです。専業ではないのかも知れません。

タイトルの12月8日と言えば昭和16年の真珠湾攻撃の開戦の日と昭和生まれならばすぐピンときますが、平成生まれ以降の人ならわからない人も多いでしょう。昭和は遠くなりにけりです。

タイトルを見てその程度の知識で読み始めましたが、主人公は海軍の軍令部特別班に所属する少佐と、故郷に錦を飾りたくて艦隊勤務を強く希望しながらもこの防諜が仕事に配属された新任少尉です。

戦前の諜報活動をテーマにした小説では、私も読みましたが柳広司著「ジョーカー・ゲーム」シリーズが有名ですが、「ジョーカー・ゲーム」シリーズが陸軍のスパイ養成機関中野学校をモデルにしているのに対し、こちらは海軍の諜報機関(と言ってもこの時点ではメンバーは二人だけ)です。

昭和16年の夏頃、日々日米関係が悪化していく中、互いの諜報活動が活発化していきます。

そんな中、海軍が12月8日にハワイの真珠湾を攻撃するという計画が英国のスパイを通じアメリカ大使館へ漏洩しているのではないかと、陸軍の諜報機関が気がつきます。

陸軍には、電気そろばんという今で言うコンピュータを大学教授が開発し、それを使ってアメリカの暗号電信文を解読してわかったことです。

まったくのフィクションですが、こうしたスリリングな展開の中で、それまでは「諜報活動など卑怯で武士道にもとる」という思想が海軍にはあり、結局は暗号をアメリカ軍に解読されてコテンパンにやられたということがわかっている中で、もしこうした優れた防諜機関が機能していればというところでしょう。

実査の歴史を下敷きにした歴史フィクション小説は好きですが、ちょっと海軍と陸軍、そして憲兵隊などが様々な垣根を越えて協力する姿など、ちょっとリアリティがなさすぎです。

どちらかと言えば、英国のスパイを主人公にして、陸海軍や憲兵隊と諜報活動で死闘を繰り広げ、「真珠湾攻撃」の重要機密をアメリカ大使に伝えたものの、信じてもらえず、、、と言ったストーリーのほうが理にかなっていそうです。

★★☆

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メーデー 極北のクライシス(二見文庫) グレーテ・ビョー

メーデー 極北のクライシス
著者はノルウェー生まれで、小説作家以外に脚本家、映画監督など多彩な活躍を見せている女性で、本作品が作家デビュー作となります。

原書の発行は2020年で、2023年に日本語訳版が出版されています。原題は「MAYDAY」で、遭難信号という意味です。

ストーリーはNATO軍の演習がノルウェーとロシアの国境近くでおこなわれ、そこでノルウェー空軍の女性パイロットとアメリカ空軍の教官が戦闘機のF-16で飛行中、ロシア空軍の戦闘機が近づき接触、F-16がロシア国内に入って墜落してしまいます。

墜落前に脱出した二人のNATOのパイロットですが、極寒のロシア領内で、墜落したNATOの戦闘機がロシア国境を越えていたことや、ロシアの町中に墜落したせいでロシア側に多大な犠牲者が出ていたことで、ロシアの特殊部隊スペナッズに追われることになります。

またロシアとNATOの関係が悪化し、第三次世界大戦の危機が迫ります。この辺りのロシアの動きは、この本が出版された2年後にロシアが「自国民を守るため」を理由に宣戦布告なくウクライナ領土に攻め入ったきな臭さとなにか似ていて、ロシア大統領の領土拡張の野望を予言していたかのようです。

日本人にはノルウェーとロシア国境の事情などほとんど知る人はいないでしょうけど、両国にまたがって親戚がいたり、同じ民族が分かれてしまっているということをこの小説で知ることができました。

また厳しい寒冷の地域に住む住人達の大変さもよく伝わりました。こうした自分の知らない知識を楽しみながら得られるのは、日本人作家の小説よりも外国、それも数多くあるアメリカや英国以外の作家の作品を読む大きなメリットです。

★★☆

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この青い空で君をつつもう(双葉文庫) 瀬名秀明

この青い空で君をつつもう
2016年に単行本、2020年に文庫化された青春ラブストーリー(文庫帯の記載)長編小説です。

著者の小説は過去に4作、今回が5作目ですが、1995年にデビュー以来、小説は年間1作ペースで出版(その他にノンフィクションや共著なども多数あり)されているので、現在までに小説だけでも20数作品があります。

ただ一番最初に読んだデビュー作「パラサイト・イヴ」(1995年)の印象が強く残っていて、著者のイメージは生物学的SFホラーというイメージが私の中にはあります。

しかし今回の小説は、折り紙を通じた青春ラブストーリー(但し病気で亡くなった高校の同級生との恋愛感情という変わり種ですが)で、従来のイメージが大きく変わります。

折り紙?そう、鶴や蛙、薔薇や手裏剣など様々な形を1枚の紙を折って作る折り紙です。

知りませんでしたが、「日本折紙学会」というのがあるそうで、折り紙ファンは日本だけでなく世界中に拡がっていて、新しい折り紙の研究や普及が進められているそうです。

夜中に亡くなった同級生にもらった折り紙が突然動き出すとか、ある折り方をすることで変化するなどにわかには信じがたい話が出てきますが、考えればすでに普及している形状記憶合金や形態安定シャツなど、あるきっかけで形状を変えてしまう物質があることは誰もが知っています。

それを紙に応用すれば、なにかのきっかけで折り紙が突然動き出したり、折り目に思いを込めたりすることも可能ということで面白い発想です。

正直、高校生のラブストーリーを読むにはもう歳をとりすぎていて感動も共感も得られませんので、こうした高校生が主人公の小説はできるだけ読むリストから外すようにしています。

今回はなぜかつい買ってしまいました。なぜかっていうより、久しぶりに懐かしい著者の名前を見つけたので、「BRAIN VALLEY」を読んでから12年ぶりに読みたくなったからなんですけど。

★★☆

著者別読書感想(瀬名秀明)

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健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方(ディスカヴァー携書) 朽木誠一郎

健康を食い物にするメディアたち
著者は群馬大学医学部を卒業しながらも医者の道へはいかず、様々なメディアや編集プロダクションでライターや編集を経験し、2017年にBuzzFeed Japan Newsへ入社し医療記者として活躍し、その後の2018年に、過去に記者として経験してきたことをまとめたこの新書を出版します。

2019年には朝日新聞社へ転職していて、よく言えば身軽、悪く言えば腰の据わらないジャーナリストです。どうせならフリーで記事を書けば良いと思いますが、後ろ盾があるといろいろ便利なのでしょう。

特に本書でスポットを当てているのがDeNAの健康・医療系サイト「WELQ」の記事内容の不正確さやSEO目的に記事が乱造されていることを追求し、それが各メディアや都議会に取り上げられて大きな社会問題となったことが繰り返し書かれています。

その他にも、大手製薬会社や健康・医療系情報サイトの実名を出して事実と違う医療関連情報などの追求がなされていて、自信があるのでしょう、なかなか気骨あるジャーナリストぶりです。

そうした医療情報の誤りを指摘できるのは、医学部を出て専門的な知識があり、さらに各種メディアで記事を書いてきた経験があることから、適確な指摘や報道が可能なのでしょう。

本書にも繰り返し書かれていますが、医療は人それぞれによってなにが最適かというのは違っていて、また誰に対しても効果があるということはありません。

そして現在の医療には当然限界があり、お金に糸目を付けない高度医療が最適ということもなく、それが逆効果ということすらあり得ます。

しかし人間誰でも健康でありたい、苦しい病気を治したい、人より元気に、美しくありたいなど、様々な欲求がある限り、誤解を与える、あるいは儲けるための広告や、記事と広告の境目が曖昧な誤解や錯誤を生じさせる情報(記事など)が蔓延しています。

この本を読むと、かなり衝撃を受けることもあり、一般メディアにおける医療・健康情報はあまり信用がおけないということに気がつきます。

私自身、過去に医療系ではありませんがネットメディアで働いていたことがあるので、そういった誤情報や広告と記事の境界線といったあいまいで微妙な点の指摘はよくわかります。

★★★

【関連リンク】
 10月後半の読書 幸福寿命、ゾディアック、おもかげ、野わけ
 10月前半の読書 ヴェアヴォルフ オルデンベルグ探偵事務所録、草笛の音次郎、自分をどう愛するか<生活編>、新月譚
 9月後半の読書 老人をなめるな、パラドックス13、顔をなくした男、京の怨霊 元出雲

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1811
弾を噛め(Bite the bullet) 1975年 米
監督:リチャード・ブルックス
出演者:ジーン・ハックマン、キャンディス・バーゲン、ジェームズ・コバーン

弾を噛め
西部劇映画ですが、ちょっと変わっているのが、1906年に新聞社主催で行われた西部横断レースのドラマで、様々な人間模様が描かれています。

主人公は馬を輸送する仕事に就いていた男で、あるきっかけからその2000ドル(現在の価値で7万ドルほど)を賭けたレースに出場することになります。

途中で虫歯が悪くなってのたうち回っていた出場者のメキシコ人のために、歯の抜歯と抜いた後には火薬を抜いた弾丸の薬莢で代わりの歯を作り、「弾丸を噛め」と言います。それがこの映画のタイトルになっています。

優秀な馬を持っている優勝最有力者や、旅の途中で出くわす盗賊団など、様々な試練を乗り越えながらゴールへ向かっていきます。

すでに20年ほど前に映画から引退している現在すでに90歳を超えているジーン・ハックマンが45歳の時の映画で、「フレンチコネクション」(1971年)や「ポセイドンアドベンチャー」(1972年)などで、すでに人気絶頂だった頃の映画です。

出場者紅一点のキャンデス・バーゲンもまだ29歳の若々しい頃で、男臭い映画の中で良い演技を見せています。

★☆☆

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スノーデン(Snowden) 2016年 仏、独、米
監督:オリバー・ストーン
出演者:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、シャイリーン・ウッドリー

スノーデン
監督のオリバー・ストーンは社会派というかアメリカの真実をエンタメ映画として撮ることが多い監督で、私もベトナム戦争の悲惨さを描いた「プラトーン」(1986年)や「7月4日に生まれて」(1989年)などを映画館で見ました。

この映画でも実際に起きた元CIA職員だったスノーデンがウィキリークスというwebサイトでアメリカの国家安全保障局やアメリカが持っている各国の機密情報など様々なデータを公開したことが好意的に描かれています。

結局、スノーデンはアメリカ当局から逃れるため、ハワイから香港、そしてロシアへと逃亡していきますが、監督はモスクワへ渡りスノーデン本人と映画の内容の確認を行ったそうです。

現在スノーデンはアメリカの息のかかるところでは拘束されてしまうので、ロシアで国籍を得ているそうです。

国家機密情報を主要メディアに流したことが悪いのか、同盟国、友好国でスパイ行為をして政治動向など、または許可なく一般国民の通信まで傍受して様々なプライバシー情報を収集していたアメリカの情報部が悪いのか、立場や思想によって意見は食い違ってくるでしょうけど、傲慢な国家に著しい衝撃を与えたことは間違いないでしょう。

権力者が隠したがる秘密は必ずどこかで破綻するという良い見本でもあり、日本の役所のようになんでもかんでも隠したがり、正当な権利である情報公開請求してもいつも黒塗りばかりではもう時代遅れとしか言いようがありません。

日本でもいつかはスノーデンのような正義感と気骨のある内部職員が出てこないとは言えないでしょう。

★★☆

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ハプニング(The Happening) 2008年 米
監督:M・ナイト・シャマラン
出演者:マーク・ウォールバーグ、ズーイー・デシャネル

ハプニング
ニューヨークのセントラルパークで、ある日突然、人々が意識を失い謎の自殺をするようになります。原因がわからず、ニュースではテロ攻撃という情報が流れます。

主人公は頼まれて同僚の子供を連れて被害が出ていないという西へクルマで移動しますが、やがてその地においても同様な被害が起きていきます。

町から離れた山の中にある一軒家に住む老婦人に助けを求めますが、泥棒と間違われ追い出されそうになります、、、とパニック映画とホラー映画を混ぜたような典型的なB級映画という感じです。

物言わぬ植物が、あるとき連帯して敵である人間を一斉に攻撃するために人間にだけ効く毒性物質を出しているのでは?という主人公の推理ですが、やがてその現象はフランスでも、、、

もしそうした植物が連帯して人間を抹殺したいと思うなら、二酸化炭素を吸収せず、酸素を発生しないような進化をすればよく、毒物をまくより効果的な気もします。

しかし以前、近所の植物園で、食虫植物の企画展を見たことがありますが、生きた虫を食べる(捕まえて溶かして栄養にする)ことができる進化を遂げた植物が数多くあるぐらいなので、この映画のように、人間が自滅(自殺)するように仕向ける毒素や花粉などをまき散らすことも可能なのかなと思えてきました。

みなさん、植物は大事にしましょう。って道路の雑草も刈ってはいけないとなると、普通の文明生活がおくれなくなりますねぇ、、、

★☆☆

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ひとよ 2019年 「ひとよ」製作委員会
監督:白石和彌 出演者:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優

ひとよ
幼い3人の子供達にまで暴力をふるうようになったアル中の夫を、自分が乗っているタクシーでひき殺した妻(幼い子供達の母親)が殺人の罪に問われ刑務所に収監されます。

そして15年の月日が流れ、幼かった子供達はそれぞれ仕事を持って平穏に暮らしていましたが、15年経った時、タクシー会社を続けている実家の家に母親が戻ってきます。

家族を守るためという思いの母親と、人殺しの息子や娘というレッテルを貼られた青春時代を送らざるを得なかった子供達。母親への思いはそれぞれ複雑です。

でも普通だったら刑期を全うして15年ぶりに会うということはなく、何度も面会しているんじゃないの?と思ってしまいますが、面会に一度も行ってないとしたら、それはそれで子供達も不義理な人たちだなぁと思ったり。

犯罪を犯しながらも子供達を守るために正しいことをやったと淡々とした母親役のベテラン俳優田中裕子だけが良い演技を見せてくれたなぁというのが感想です。

★☆☆

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エアフォース・ワン(Air Force One) 1997年 米
監督:ウォルフガング・ペーターゼン 出演者:ハリソン・フォード、ゲイリー・オールドマン

エアフォース・ワン
テロリストに乗っ取られたアメリカ大統領の専用機の中で、大統領役のハリソン・フォードが、B・ウイルス主演のダイ・ハード並みにボコボコになりながらも家族や乗組員を守るというアクション&サスペンス映画です。

すでにインディ・ジョーンズシリーズで、人気と名声を手にしていたH・フォードですが、確固たる信念でアメリカ国内だけでなく、世界の平和を揺るがす犯罪者も許さないという姿勢を見せる強いアメリカ大統領を演じています。

しかしトランプ前大統領以降は、それまで言いたくても言い出しにくかった「自国優先主義」を国民の半分が支持していることから、この27年前の映画は現在ならばヒットしないでしょう。

単にアクション映画として見るなら、まだ不完全なVFXを多用した航空機パニック映画なだけに、お金はそれなりにかかっていそうですがイマイチな出来です。

★☆☆

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放浪記 1962年 宝塚映画
監督:成瀬巳喜男 出演者:高峰秀子、加東大介、宝田明、草笛光子

放浪記
林芙美子の自伝的小説「放浪記」(1928年~1930年雑誌に連載)の映画化は、過去に3回(1935年、1954年、1962年)、テレビドラマも3回(1961年、1974年、1997年)製作され、さらに森光子主演の舞台は1961年の初演から50年以上続けられ、2015年に仲間由紀恵に主演をバトンタッチして現在も継続しています。

この1962年の映画の主人公「林ふみ子」役は高峰秀子が演じ、その他にも田中絹代、宝田明、加東大介、草笛光子、小林桂樹など他の映画なら主役級の俳優陣が出演しています。

その他にもこの頃からすでに口うるさい老婆役が板に付いている当時36歳の菅井きん、態度がデカい特高刑事役には名古屋章、ホンのちょい役の学生として若手の岸田森や橋爪功などが出ています。

62年前の映画ですから出演者はもう鬼籍に入った方がほとんどですが、草笛光子(90)、橋爪功(83)は現在も俳優として活躍中です。

著者の林芙美子は1951年に亡くなっているので、この映画を見ることはかないませんでしたが、主演の高峰秀子(公開当時38歳)が、当時舞台演劇で「放浪記」が大ヒットしていたライバル森光子(年齢は森光子が4歳年上だが、女優デビューは高峰秀子が6年早い)に負けまいとダメ男を渡り歩く体当たり(セクシーシーンは皆無です)の熱演ぶりが素晴らしいです。

ちなみに原作となったこの小説は8年前に読んでいて、あらすじや感想はそちらで書いているのでご参考まで。

2016年4月後半の読書と感想、書評(放浪記)

日本映画は戦後の1950年代にはほぼカラー化されていましたが、この1962年の映画ではあえてモノクロで製作されています。

その理由は知りませんが、この映画の時代背景が、第1次世界大戦が終わり、その後長い不況が続く1920年頃から始まり、1928年に実質作家デビューする頃までの窮乏していた頃の話しがメインで、そうした灰色の時代の雰囲気を出すためかなと思います。

★★★

【関連リンク】
2024年7~8月に見た映画 風とライオン(1975年)、シティーハンター(2024年)、パワーゲーム(2013年)、山の郵便配達(1999年)、ペギー・スーの結婚(1986年)、引っ越し大名!(2019年)

2024年5~6月に見た映画 岸辺露伴 ルーヴルへ行く(2023年)、ハドソン川の奇跡(2016年)、ケイン号の反乱(1954年)、ゴールデンカムイ(2024年)、ダンディー少佐(1965年)、kapiwとapappoアイヌの姉妹の物語(2016年)、PERFECT DAYS(2023年)

2024年3~4月に見た映画 敦煌(1988年)、旅立ちの時(1988年)、ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(2017年)、リーサル・ウェポン4(1998年)、アルゴ(2012年)、長い灰色の線(1955年)

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1810
幸福寿命 ホルモンと腸内細菌が導く100年人生(朝日新書) 伊藤裕

幸福寿命
著者は私と同い年(1957年生まれ)の医学者さんで、おそらく小学校ぐらいまでは同じような生活を日々送っていたに違いありませんが、頭のデキが全然違っていたみたいでピカピカのエリート経歴を持つ方です。

この歳になると、健康本というかこうした健康や寿命などのタイトルについ惹かれて買ってしまいます。

頭のデキが違う著者自身、たぶん思うところがあって様々な決めつけで話は進められていきますが、正直「なに言っているかわからん」というのが私の頭の限界です。

「幸福」は「あいだ」にあると言われてなるほどーと思う人がどれだけいるのでしょうか。

とにかく「あいだ」が好きな方で、人間も「人」の「あいだ」と書くとか、もうわけわかりません。

確かに人の「幸福」という概念は難しく、「それって人それぞれに思うこと」であって誰かが「幸福でしょ?!」って決めつけるものではありません。

医者の立場からだと「健康ならば幸福でしょ?」ということなのでしょうけど、それなら障害者は幸福になれないの?って勘ぐってしまいます。

そしていきなり腸内細菌やホルモン、ミトコンドリア、遺伝子などの話が出てきてもついていけません。

「大便の半分は死滅した細菌」とか、決めつけと、エビデンスがハッキリしない単に自分自身が思っていること、思い込んでいることが多く、どうも話半分ぐらいで読む方が良さそうです。

それもあって結局私の理解力では「なに言っているかわからん」という結果になってしまいます。

★☆☆

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ゾディアック(ヴィレッジブックス) ロバート・グレイスミス

ゾディアック
著者はサンフランシスコの新聞社に風刺漫画家兼記者として勤務していた時に連続殺人事件「ゾディアック事件」が発生し、その縁からその未解決事件のすべてをあらためて調べ追いかけたこのノンフィクション作品を書くことになります。

「ゾディアック事件」とは、1968年から1974年にかけてサンフランシスコ周辺で、ハッキリと判明しているだけで5名、疑わしいものを含めると10数名が殺害された連続殺人事件で、新聞社や警察に犯行声明文を送り、いわゆる「劇場型犯罪」のはしりとも言える未解決の事件です。

またこの連続殺人犯は、盗品や暴行などなにか目的があってのことではなく、ただ人殺しが自分の快楽を得る手段とするシリアルキラーという特徴があります。ターゲットは若い女性やカップルなどが多いですが、タクシーの男性運転手というケースもあります。

本著の原本(英語版)は1986年に出版されていますが、この日本語翻訳文庫本は2007年に発刊されています。

1970年前後というと、世界ではベトナム戦争が激しくなっていた頃で、日本国内では高度成長期の頃で、大阪万博(1970年)が開催されていました。

事件自体はアメリカ内でのことで、日本ではそれほど有名ではありませんが、その後の連続殺人事件やシリアルキラーと言われる殺人のための殺人事件が発生したときにはこの未解決事件が繰り返して比較するように登場します。

このノンフィクション作品を原作とする映画「ゾディアック」(2007年)を、「セブン」や「エイリアン3」などを監督したデヴィッド・フィンチャーが製作しています。

文庫本で594ページとかなり長編ですが、複数の事件の発生や、犯人からの手紙とそこに書かれていた暗号文の解読、担当刑事のインタビュー、被害者遺族や目撃者へのインタビュー、容疑者の友人へのインタビュー、容疑者の筆跡鑑定、犯行場所や殺害相手の類似性など様々な視点でひとつひとつ調査していくので膨大な時間と手間をかけています。

ジャーナリストが殺人事件を追いかけるノンフィクションで以前清水潔著「桶川ストーカー殺人事件」を読みましたが、日本の警察は部外者に対しては徹底的に隠すのに対し、アメリカの警察はかなりオープンで取材や調査にも協力的、記者の考えに対しても真摯に向き合ってくれるなど大きな違いがあることがわかります。 

また事件発生当時には公開されていなかった犯人の手紙原本や手製爆弾の図なども、情報公開が許されたようで今回初めて本書で公開されていて、調べて初めてわかったことなども書かれています。

結局は2024年時点で犯人は特定されてなく、当時ゾディアックと思われた容疑者の自宅から決定づける現場から持ち去られていた被害者の持ち物などは見つかっていません。

著者が最終的に一番濃厚と思われる人物は、果たして、、、

なかなか興味深い事件調査報告と推理でした。

★★☆

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おもかげ(講談社文庫) 浅田次郎

おもかげ
2017年に単行本、2020年に文庫化された長編小説で、元は2016年から2017年にかけて毎日新聞に連載小説として掲載されていました。またこれを原作にしたテレビドラマが2023年にNHKで放送されました。

巻末の解説にも書かれていましたが、著者の初期の作品で、映画化された「地下鉄に乗って」(1994年)と、直接的には関係ありませんが対となる作品とも言えます。

「地下鉄に乗って」が地下鉄を一種のタイムマシンに仕立て過去へさかのぼりますが、今回の作品では自分の出生の謎や見知らぬ母親との関係を夢の中で地下鉄を通して知ることになります。

私が仕事のため東京に生活するようになったのが1980年で(1970年代にも遊びで何度か来てはいましたが)、その時の銀座緯は全面黄色のボディで時々電灯がパッと消える仕様、丸ノ内線はこの小説でも出てくる赤色のボディに白のラインとシルバーの模様の車両でした。

そうした古い車両には冷房装置はついてなく、夏は窓を開けて走るのが普通でしたので、騒音がひどかったことが印象に残っています。

小説では主人公の生まれた頃(1950年頃)から、65歳になっている現代までの地下鉄の姿が出てきます。

65歳になり大企業の関連会社を定年で退職した主人公が、送別会が終わって地下鉄で自宅へ向かっている時に脳梗塞で倒れ、病院へ運ばれますが危篤状態でICUの中で眠り続けています。

身体は危篤状態ですが、意思はハッキリしていて、謎の女性達と街へ出掛けて食事をしたり、海辺を散歩したり、またICUで同じく危篤状態の老人と一緒に風呂屋へいったりします。

それらの人は誰?そして肉体から離脱した意識はどこへ向かうのか?ってところが「泣かせの浅田」の本領発揮です。泣きはしませんでしたが。

★★★

著者別読書感想(浅田次郎)

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野わけ(文春文庫) 渡辺淳一

野わけ
女性誌「non-no」1972年~1973年に連載されていた恋愛(不倫)小説で、単行本は1974年に出版されています。また、見ていませんが1975年には大谷直子主演でテレビドラマも作られています。

舞台は京都の医療機関で、同施設で血液検査員として勤める主人公の独身女性と、妻帯者の上司との恋愛という定番ストーリーです。

デートの場所は南禅寺近くのラブホテルや、ドライブは大原を過ぎて途中越えで琵琶湖大橋といった1970年代のこれまた定番デートスポットです。

今でこそ、小説やドラマの中で男女の恋愛や不倫関係はほとんど読者や視聴者に与えるインパクトはないでしょうけど、この頃(1970年代)だと、まだ一般的には気軽に扱えるほどのものではなかったでしょう。

さらに、妻帯者の不倫相手の義弟とお見合いをしたりしている主人公よりさらにぶっ飛んでいる妹から、男をじらす恋愛のテクニックを伝授されるとか、舞台となっている閉鎖的な古都京都と対照的で、20年は先へ行っていそうな先進的な内容に驚きました。さすが女性誌non-noだけのことがあります。

その平凡パンチの女性版として1971年に登場した雑誌non-noですが、長引く紙媒体不況の中で今でもあるのかなぁ?と思って調べてみると、月1回発行(2010年頃までは月2回発行)で現在も健在です。

★★☆

著者別読書感想(渡辺淳一)

【関連リンク】
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 9月後半の読書 老人をなめるな、パラドックス13、顔をなくした男、京の怨霊 元出雲
 9月前半の読書 捨てない生きかた、森へ還れ コロナからの警告、みんなで一人旅、その青の、その先の、

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1809
書棚2020年にコロナ禍が起きて、外へ出て人と遊ぶより、自宅でひとり読書でもしようというムードが高まっていたんじゃないかな?と思っていたら、驚くことに2023年の文化庁の調査では、コロナ前の2018年と比べて大幅に読書をする人の数が減っているようです。

「月に1冊も読書しない」が6割超 進む読書離れ 国語世論調査(毎日新聞社)
同じ調査項目が設けられた08年度以降では最も多く、初めて5割を超えた。スマートフォンやネット交流サービス(SNS)の普及が原因とみられ、文化庁の担当者は「読書離れを顕著に示しており、国語力の養成に影響が出かねない」と危機感を示している。

「紙の書籍が売れないのは電子書籍に移ったからだ」という人も以前はいましたが、電子書籍は思ったほどには伸びてなく、紙あるいは電子を含めても読書する人自体が急速に減ってしまっているということです。

読書を教養の一環としてとらえていた書籍が大好きだった団塊世代を中心とする中高年以上の人たちが、高齢化のため読書する習慣が減ってきています。これは新聞購読者数の減少とも似ています。

趣味の世界は、様々に多様化していて、趣味や余暇の時間の奪い合いが続いていますが、その中でも圧倒的に上昇しているのがスマホを使ったSNSなどの時間です。

読書は、趣味や余暇の時間の過ごし方として、インドアの場面では長く映画やテレビ、ビデオ(DVD)などと覇権を争ってきました。

しかし、長時間見ることだけを強いられる映画や、テレビ局の質の落ちたお仕着せ番組を見せられるテレビは時間の無駄、行動や場所の制限、見たくないものまで見せられる苦痛などから敬遠されてきています。

テレビや新聞の既存メディアの衰退はもう何十年も前から言われ続けてきましたが、しかし少なくとも今の団塊世代のほとんどが世を去るまでは縮小しながらもしつこく生き残るでしょう。

読書については、すでに電子書籍や電子コミックなどが若い人の中では当たり前になりつつありますが、中高年以上にとっては読書と言えば紙の書籍というのが基本でしょう。

SDGsの観点から言えば、森林を伐採して作る紙の書籍よりも、電子データのほうが環境や持続性に向いていますが、文化的な側面からは、やはり紙とインクの香りがする書籍にこそ愛着がわきます。

なにか勉強をしようと思ったとき、新たな仕事を覚えようと思ったとき、キャリアアップを目指して資格を取るなどスキルアップしたいときは、ほとんどの場合、本を読む必要があります。

最近はそうした勉強用書籍も電子化されているものもあるでしょうけど、やはりジックリ読み込み、時には余白に書き込みをしながら学ぼうと思うと紙の書籍が好都合と思います。

そういう考え方や勉強法自体が古すぎると言われればそうなのかも知れませんが。

しかし職場でも、最先端のITを扱っている人でも、新しい技術や手法を学ぶときには分厚い専門書を手元に置いて時間があるときに熱心に読んでいるというのが実情です。

そういう紙の書籍でしか学べないことや、それが効率的という時が必ずあり、普段から紙の書籍を読み込むことに慣れていないと、その時になって苦労することになりそうです。

本を理解しながら読み進める速度は、電子化や紙の書籍に関係なく、やはり経験と読書量がモノを言います。つまり普段から文字をサラサラと読みながらインプットする訓練を積んでいないと、なかなかうまくいかないでしょう。周囲からは理解度が遅いと言われかねません。

そのためにも、普段からまずは軽いモノからで良いので漫画ではなく文字だらけの文章をできるだけ早く読む訓練を積んでおくことが必要なのです。

かと言っていきなり「新約聖書」や「相対性理論」を読んでも眠たくなるだけですから、まずは小説やビジネス新書レベルの読書を若いときから習慣づけしておくのが良いでしょう。

現在の「読書離れ」から起きることは、人は長々と書かれた文章を読まない(読めない)ことを前提に、すでにスマホなどで始まっていますが製品の「取扱説明書」は消滅していき、アーリーアダプターが自主的に作った「使い方動画」などがそれらに代わってくるのでしょう。メーカー側もそのほうが面倒がなくコストが下げられます。

やがてメーカー側も、誰も読まない文書や絵だけの取扱説明書でなく、動画やアニメを制作して「使い方はネットで見てください」というのが普通になっていくでしょう。

小説家と言われている人たちは今後は芸能人と同様に特定のファン向けの作品執筆だけとなり、ミリオンセラーや大ヒット作品はなくなります。小説執筆だけで食べていける作家は、昭和、平成の時代と比べて間違いなく減少していくはずです。

気の毒なのは法律家で、今のところ法律で使われる言葉や文章は、古い過去から積み上がってきたものが多く、言い回しや難しい用語などを勝手に書き換えてしまうわけにはいかず、古い因習に縛られた中でそれに慣れていくしかありません。条文や判例の文章に込められた深い読解力が必要なだけに読書が苦手という人には向かない仕事でしょう。

読書する人の減少で出版社は、新聞社と同様、厳しい冬の時代が続いていきます。時には大ヒットアニメやコミック、またノーベル文学賞受賞などで一時的に賑わうことはあるでしょうけど、長期的に衰退するのは避けられません。

その中から、画期的な発想の転換で、脱・出版を果たす出版社が出てくるでしょう。どういう形態になるのか?収益構造は?など、凡人の私には想像も付きません。単に「ネットに対応しました」というようなものでないことだけはわかります。

機械メーカーが農業を始めたり、家電メーカーが自動車の製造販売を始める時代ですから、なにが起きても不思議ではありません。

そしてもっと救いがたいのは書店で、この10年間で半分近くの書店がなくなっています。残った書店も書籍だけではない店舗へと変わらざるを得ない状況です。

消える書店 ネット通販拡大 電子書籍化など背景(NHK)
全国の書店や出版社などの業界団体が設立した「日本出版インフラセンター」によりますと、ことし3月時点の書店数は1万918店で、10年前と比べて、4600店あまり減りました。

そして名著の多い古典文学は今後も残るのか?と言うと、著者が亡くなってから70年以上が経過して著作権が切れているものは、青空文庫のような無料で読める電子書籍か、中古本で出回る程度で、収益化の見込みがない書籍に文化活動のためにと出版社が力を入れて販売することはありません。

紙の書籍が好きだった団塊世代がすべて75歳以上となり、余命が残り少なくなってきました。その世代は書籍を捨てるのには抵抗があるので、おそらく今でも自宅にはほこりをかぶった大量の書籍が押し入れの中に積まれているでしょう。

50~60年ほど前なら、遺品に大量の書籍があれば、図書館や学校に寄贈するというのが喜ばれ美徳として紹介されたこともありましたが、現在では古書を欲しがるところはどこにもありません。遺品整理をする遺族は、厄介物として捨てるしかないわけです。

昔なら親が残した書籍を子供が受け継いで読むこともありましたが、今ではその可能性はゼロに近く、捨てられた大量の書籍はミックスペーパーとして捨てられ再生紙に代わっていくしかないでしょう。

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ヴェアヴォルフ オルデンベルグ探偵事務所録(中公文庫) 九条菜月

ヴェアヴォルフ オルデンベルグ探偵事務所録
「探偵」とタイトルにあれば思わず手に取ってはいられない「探偵もの小説」が好きですが、著者の小説は初めてなうえ、内容を全く知らずに読み始めたので、意外な背景や展開でビックリしました。

2006年の中央公論新社の新人賞「C★NOVELS大賞」でこの作品が特別賞(大賞は多崎礼著「煌夜祭」)になり作家デビューした方です。

したがって初出は2006年にC★NOVELSの新書として出版され、その後2013年に文庫化されています。

物語の舞台は20世紀初頭のベルリン、主人公は探偵事務所に勤める「人にまぎれている人でない者」という変化球です。

確かに西洋には古くからバンパイアや吸血鬼、ドラゴン、魔女など多くの「ひとでない者」の話がありますが、探偵ものの小説でそれらに出会うとは思いませんでした。

ま、奇想天外ながら、読めば読むほど味が出てくる深みのある作品で、デビュー前の新人作家が表に出すまでには多くの苦労や葛藤があったものと偲ばれます。

主人公以外にも、主人公を助ける「人間」の少年や、上司にあたる「人ではない者」の探偵事務所社長などにも魅力があり、時代や国が違えど違和感なくスラスラ読めて楽しめます。

この「オルデンベルグ探偵事務所録」シリーズの続編として「ヴァンピーア」、「ヘクセ」、「エルの幻想曲」とありますが、読みたいか?と問われれば、う~ん、、、どうでしょう、保留にしておきます。

★★☆

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草笛の音次郎(角川文庫) 山本一力

草笛の音次郎
2003年に単行本、2006年に文庫化された歴史物股旅小説です。股旅ものと言えば笹沢左保著の小説とそれを原作にした中村敦夫主演ドラマ「木枯らし紋次郎」シリーズが有名です。

時代小説が多い著者ですから他にもいくつかの股旅小説はあると思っていましたが、意外と少ないようです。

しかし股旅と言えば欠かせない三度笠や道中合羽、葛籠(つづらこ)など、渡世人の姿形、しきたり、仁義のきりかた、言葉遣いなど、きっちりと説明がされていて楽しく読めます。

主人公は、東京浅草の貸元(賭博場の主)に属している若者で、千葉にある佐原(現香取市)にある兄弟分の貸元から香取神宮の祭りの招待状が届きますが、貸元の体調が優れず代わりに名代を出すことになり選ばれます。

江戸から一歩も出たことがない主人公が、佐原まで旅をして成長していくという物語ですが、当然順調にはいかず、盗賊に遭ったり、盗賊に一味と疑われ番所に投獄されたりと苦労が続きます。

しかし一方では、誠実な人柄が幸いして親切な人や、それぞれの有力者に気に入られ、旅の途中ながら弟分ができ、そしてどうにか佐原について名代の役目を果たし終えます。

クライマックスは、旅籠で襲ってきた有名な盗賊一味との決着で、晴れ晴れしくハッピーエンドに終わります。

主人公は鰻を食べると女を抱かずにいられないという体質があり、お色気もたっぷりの小説で、もしかすると男性向け週刊誌などに連載されていたのかな?と思ってしまいます。

★★☆

著者別読書感想(山本一力)

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自分をどう愛するか<生活編>幸せの求め方(青春文庫) 遠藤周作

自分をどう愛するか
最初は1982年(昭和57年)に発刊されたエッセイ本で、1923年生まれの著者の生誕100年記念として新装版が文庫として出版されています。

著者が亡くなったのは1996年ですからもう28年が経っていますが、私が子供の頃には(大人向きの難しい小説はともかく)狐狸庵先生の「ぐうたら」シリーズや、インスタントコーヒーのコマーシャルで「違いのわかる男」として登場し人気だったことを思い出します。

元本が1982年の出版と言うことで、今なら「女性蔑視だ!」とか「パワハラでしょ?」っていう話しが本文中にいくつも出てきますが、一時代を築いた偉大な作家ということもあり、ご愛敬と言うことなのでしょう。

文末には「今日の観点から見ると一部差別的ととられかねない表現がありますが・・・」と出版社のエクスキューズが書かれています。

著者が生きた戦中・戦後の昭和時代の価値観が際立っているので、21世紀の今読むと「ちょっとなぁ」という部分と、普遍的な思想や考え方で「なるほど」と思える点が混在しています。42年の月日でこれだけ社会は変わるのだと言うことが実感できました。

もっとも当時、比較的若い人向けに書かれたエッセイですので、1982年当時の私は社会人になりたてという、ちょうどこの本の想定される読者だったと思います。

★☆☆

著者別読書感想(遠藤周作)

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新月譚(文春文庫) 貫井徳郎

新月譚
2012年に単行本、2015年に文庫化された長編小説で、なにかで推奨されていたのを見たので読んでみました。2012年の直木賞では3回目の候補作に上がっていた作品です(直木賞受賞作は辻村深月著「鍵のない夢を見る」)

比較的多作の著者の小説は数多くありますが、私は過去に13作品だけを読んでいて、作品に当たり外れがない作家さんと思っていて、どうして直木賞がとれないのか不思議(過去この作品を含め4回候補にあがっている)な作家さんのひとりです。

タイトルの「新月」は、「そこにあるはずだけど見えない月」という意味を、顔の整形をして、もはや以前の顔をすっかり変えてしまった女性主人公が、昔の自分を新月に見立てたものです。

一般の若い女性が顔を整形してすっかり変えて絶世の美女に生まれ変わるストーリーは、百田尚樹著の「モンスター」(2010年)にもありましたが、なにかありそうであり得ない感じです。

頭の弱い小金持ちの女性が、なにも考えず、なにかに執着して整形を繰り返すというのならよくあることかも知れませんが。

また小説家を主人公にする手法は、売れっ子の作家さんからすると一番身近でよく知っている職業で、出版社や編集者との関係などは勝手知ったることを書けば良いだけなので、いかにもお手盛りというか物語のお手軽さは拭えません。自伝的な小説ならばそれもやむを得ないのですが。

著者は多作ながらも、テーマが多岐に渡っているのが素晴らしく思っているだけに、身近な話題ではなく、調査や視察、ヒアリングなどの苦労が偲ばれる作品を期待してやみません。

★☆☆

著者別読書感想(貫井徳郎)

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