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楽園のカンヴァス (新潮文庫) 原田マハ
2012年に単行本、2014年に文庫化された長編ミステリー小説です。著者自身が美術品のキュレーターで、数多くの著書には美術品のネタやうんちくが散りばめられていますが、昨年読んだ「本日は、お日柄もよく」は、そうした美術品とは関係がなく、コミカルな内容で、スピーチライターというお仕事小説でした。
2017年6月前半の読書と感想、書評(本日は、お日柄もよく)
この作品は画家としては不遇な人生を歩んでいた老アンリ・ルソー(1844年~1910年)と、新進気鋭のパブロ・ピカソ(1881年~1973年)が、パリの街で偶然交錯し、お互いに影響し合ったとされる話しと、その後に遺された作品がモチーフとして使われています。
ストーリーは大原美術館で監視員として勤めている女性が主人公で、ある日、ニューヨーク近代博物館(MoMA)からルソーの代表的な作品「夢」を貸し出すのなら、その主人公の女性(フランスから帰国するまではルソーの研究者)を交渉の相手にして欲しいと要求が出されます。
そして話しは主人公がパリで美術作品の研究者として働いていた時代へ飛び、謎が多い著名な世界的コレクターから、手に入れたルソーの作品の真贋鑑定をして欲しいと頼まれ、MoMAのアシスタントキュレーターとともに、ルソーのことが書かれた古い日記を読み解きながら、鑑定を進めていくことになります。
その結果についてはここでは明かせませんが、日記に出てくる人物と、謎のコレクターの関係など、最後はあっと言わせる展開がお見事です。
倉敷にある大原美術館へは40年ほど前の学生時代に一度行きましたが、その時は有名なエル・グレコばかりに意識がいっていて、他の作品はチラ見ぐらいしかしてなく、この小説にも登場するアンリ・ルソーの作品や、モネ、ゴーギャンと言った世界的に貴重な名画を、今度ゆっくりと鑑賞するために行きたくなりました。
★★★
◇著者別読書感想(原田マハ)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
星宿海への道 (幻冬舎文庫) 宮本輝
2003年に単行本、2005年に文庫化された長編小説です。
自分自身の生い立ちや経験をモチーフにしたデビュー作「泥の河」や、父親をモデルにした長編小説「流転の海」シリーズなどとも共通した家族構成や周囲の人達、そして昭和30年代の大阪下町の風景があちこちに出てきます。
文庫解説に「著者の小説は叙情的」ということが書かれていましたが、まさにその通り、同世代を生きてきた人達にとっては、切なさを超えた深い感動を与えるものが少なくありません。
この小説では、新疆ウイグル自治区にある広大な砂漠で自ら失踪し、行方不明となった兄にいったい何が起きたのかを調べようとする弟と、その行方不明になった男性の子供を身ごもっている未婚女性の二人が主人公です。
タイトルの星宿海とは中国の黄河を遡った源流地域にある無数の湖が太陽を反射し、無数の星が輝いているかのように見えることからついた名称で、それに夢中となっていた兄とその関係について、クライマックスで明らかとなっていきます。
時代が兄弟がまだ幼かった昭和30年代頃の話しと、50歳を迎えた現代の話しとが交互に現れ、また人物も昔と現在が入り交じってちょっと混乱をきたしそうですが、著者独特のちょっとしたうんちくを方々に散りばめながら、テンポ良く最後のクライマックスへと向かっていきます。
★★☆
◇著者別読書感想(宮本輝)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
エンドロール (ハヤカワ文庫JA) 鏑木蓮
この作品は2011年に「しらない町」として単行本が出ましたが、その後2014年に「エンドロール」と改題して文庫化されました。
私の場合、「しらない町」というタイトルだとたぶん手に取っていませんので、著者の思惑はともかくとして、改題の効果はてきめんと思われます。著者の小説を読むのは「白砂」に続いてこれが2作目です。
地方の高校を出て、映画監督になりたいと都会に出てきたものの、その考えは甘く、社会の壁は厚く、現在はアルバイトを掛け持ちしながら、根拠なくいつかは夢を叶えたいと漠然と思っている今風の若者が主人公です。
そのアルバイトのひとつ、大規模団地の管理人として働いているとき、一人住まいで身寄りのない高齢男性と連絡がとれないと通報があり、鍵を開けて部屋に入ると病死で亡くなっているのを発見します。
ここまでは、小説やドラマでも割とよくありそうな流れですが、この身寄りがない男性の遺品整理を管理会社の指示でおこなっていたら、古いキネマ旬報や8mmフィルム、映写機などが見つかり、映画の仕事をしたいと思っている主人公はそれらを無断で自宅へ持ち帰ります。
元映写技師だったという故人が遺した何気ない田舎の風景と、リヤカーをひく女性を写した8mmフィルムに興味を持ち、残された名簿にあった人達を訪ね歩きますが、男性と戦友だったという複数の人物から、故人の持ち物はすべて処分するよう強く言われ、違和感を覚えます。
亡くなった男性に関して、様々な謎が出てきますが、やがて、そのフィルムに映っていた女性とも会うことができます。
しかし、亡くなった高齢者と生き残った戦友の間には、触れたくはない戦争中の苦い記憶があり、そのことを戦友は、表面化することを心配していたことがわかります。
人の死についての重いテーマですが、主人公の現代の若者の無邪気な行動とがうまくマッチしていて、ミステリアスな作品としてたいへん面白く読むことができました。
★★☆
◇著者別読書感想(鏑木蓮)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか 絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想 (幻冬舎新書) 荻上チキ
よくわからないけど評論家という肩書きで、若き論客?としてテレビやネットの世界ではお馴染みの著者の作品をひとつぐらいは読んでおこうと2012年刊の作品を手に取りました。
特に難しいことも変なことも書いてはなく、至極まっとうな解説で、こうしたことを今の20代、30代に理解して欲しいのよ~ってことが伝わってきます。
逆に50代、60代からすると、以前読んだ「20歳からの社会科(明治大学世代間政策研究所編)」と比べるとずっとおとなしいですが、なかなか耳の痛い話しも出てきます。
NHKでも「不寛容社会」をテーマにした番組がゴールデンに放送されるぐらいに、いまは思想や価値観の違う他人への攻撃、イジメ、嫌がらせなどが盛んで、それも匿名のネットで自由に発言できると勘違いしている人も多く存在します。
もちろんネットの匿名性なんて存在はしてなく、国家権力を使うまでもなくたいていは民間人でも個人を特定することが可能となってきています。
大きな少年犯罪などが起きると、少年法に守られて実名報道はされませんが、ネット上では数時間後には個人名が特定されていることは珍しくはありません。
また匿名でなく実名でも堂々と差別やヘイトスピーチをおこない、また確固たる証拠もなく他人を叩くだけ叩いておいて炎上させ、火が付くとサッと撤収してしまうというずる賢い人も多く見かけます。
ま、そういうのは今に始まったわけでもなく、バブルの頃に金融機関や不動産会社から多額の報酬をもらって、知識のない国民に対して「今不動産を買わないのはバカ」と、株や不動産などの購入を煽っておいて、バブルが弾けると、おとなしく静かに何も知らない風にしていた経済評論家や学者も同じような輩と言えます。
現代はネットのおかげで、そうした著名な専門家でなくても、誰でもがなんにでも参戦できるということで、不寛容の幅が大きく拡がっているということでしょう。
著者は、若者に、自らの頭で考えて自律的に行動しようという、もっともで普通な提言をしているに過ぎず、それさえも誰かに背中を押されないとできなくなっている硬直した社会を憂いているのだろうと思います。
ただ著者自身も2016年に妻と子供がいるに関わらず、別の女性と同居していることがバレて、子育て論などで言行不一致を糾弾されるなど一悶着があり、有名人になるというのは大変なことだということが身にしみたのではないかなと思われます。
★★☆
【関連リンク】
12月後半の読書 福翁自伝、インフェルノ(上)(中)(下)、定年後
12月前半の読書 鯛ノ記、ハードラック、下鴨アンティーク 回転木馬とレモンパイ/祖母の恋文、マンション格差
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昨年2017年1月~12月に読んだ書籍の数は、ちょっと気合いを入れて読んだこともあり、104作品、117冊(1作品で上下巻ある場合は2冊とカウント)となりました。
2016年は、合計91作品109冊でしたので、前年比で13作品、8冊の増加です。8冊の増加って気合いを入れた割には、、、って気もしますが、仕事をしている限り、私の場合、斜め読みとかできないので、頑張ってもこれぐらいが1年間で読む限界かも知れません。
ちなみに2015年は94作品、107冊、2014年は101作品113冊、2013年が86作品98冊でしたので、ここ5年間の中では作品数、冊数とも、もっとも多い1年となりました。
ジャンル別では、国内小説が最も多く62作品(60%)70冊、海外小説が16作品(15%)21冊、その他新書、エッセイ、ノンフィクション、ビジネスの合計が26作品(25%)26冊です。
バランス的には一番気楽で読みやすい国内小説に固まらないよう、意識して新書やノンフィクションなどを読んできたことが反映されています。一昨年2016年は国内小説だけで71%を占めていましたのでその割合が減ったのは意識してのことです。
全117冊を1年間で割ると3.12日となり、およそ3日間で1冊を読むペースです。1ヶ月あたりにするとギリ10冊には届かず9.75冊です。速読派ではなく、じっくり読む派としては頑張ったほうです。
なお毎年繰り返し書いていますが、私が主として読むのは新刊本ではなく、数年~十数年前に発刊された文庫や新書が中心です。
以下、著者名は敬称略で書いています。☆マークは読後すぐにつけた数で3が最高
■新書、エッセイ、ノンフィクション、ビジネス部門(全26作品)
新書等の26作品から大賞候補作は、
ぼくらの民主主義なんだぜ 高橋源一郎 ☆2
獄窓記 山本譲司 ☆2
戦艦大和 吉田満 ☆3
福翁自伝 福沢諭吉 ☆3
定年後- 50歳からの生き方、終わり方 楠木新 ☆2
本と私 鶴見俊輔編 ☆3
里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く 藻谷浩介 NHK広島取材班 ☆3
日本人の死に時 そんなに長生きしたいですか 久坂部羊 ☆3
この中からベストの1冊を選ぶのは悩ましく、大いに迷いましたが、、、
大賞は「里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21) 藻谷浩介 NHK広島取材班」に決定です!
感想は、
1155 8月後半の読書と感想、書評
「戦艦大和 吉田満」や「ぼくらの民主主義なんだぜ 高橋源一郎」「福翁自伝 福沢諭吉」「日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか 久坂部羊」などは、本好き(特に年配の人)なら、読んでも決して損はしない、たいへんに優れた作品だということを付け加えておきます。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
■海外小説部門(全16作品)
海外小説16作品の中から大賞の候補は、
ブラックボックス(上)(下) マイクル・コナリー ☆2
危険なささやき J.P.マンシェット ☆2
一九八四年 ジョージ・オーウェル ☆2
二流小説家 ディヴィッド・ゴードン ☆3
インフェルノ(上)(中)(下) ダン・ブラウン ☆2
巨人たちの星 ジェイムズ・P・ホーガン ☆3
ガニメデの優しい巨人 ジェイムズ・P・ホーガン ☆2
湖水に消える ロバート・B・パーカー ☆2
過去からの弔鐘 ローレンス・ブロック ☆3
今年は、2016年に読んだ「犯罪 フェルディナント・フォン・シーラッハ」や「ザ・ロード コーマック・マッカーシー」、2014年に読んだ「卵をめぐる祖父の戦争 デイヴィッド ベニオフ」のような、突出した優れた作品に巡り会えなかったのが残念です。
「巨人たちの星」と「ガニメデの優しい巨人」は、2016年外国小説部門でベストをとった「星を継ぐもの」のシリーズ続編で、たいへんよくできたSF小説です。ただ第1作目のインパクトが強烈すぎて、それと比べるとやや見劣りするため今回は受賞を逸しました。
昨年はマイクル・コナリーやロバート・B・パーカー、ローレンス・ブロック、ダン・ブラウンなど個人的に好きなベストセラー小説常連作家の作品を多く選んで読んだことを少し反省しています。もっと幅広く読まないといけませんね。
大賞は久しぶりに味わったマット・スカダーシリーズの「過去からの弔鐘 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション) ローレンス・ブロック」に決定です。
感想は、
1112 3月後半の読書と感想、書評
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
■国内小説部門(全62作品)
もっとも競争が激しい62作品の国内小説の候補作は、
ガダラの豚(1)(2)(3) 中島 らも ☆2
死都日本 石黒 耀 ☆3
脊梁山脈 乙川優三郎 ☆2
怒り(上)(下) 吉田修一 ☆3
一路(上)(下) 浅田次郎 ☆3
八月の六日間 北村 薫 ☆3
漂流者たち 柴田哲孝 ☆3
夢をかなえるゾウ 水野敬也 ☆2
夜の国のクーパー 伊坂 幸太郎 ☆2
落日燃ゆ 城山三郎 ☆3
旅のラゴス 筒井康隆 ☆2
ふくわらい 西加奈子 ☆3
蜩ノ記 葉室麟 ☆3
激戦でしたが、この中から、エイヤと目をつぶって選んだ大賞は、、、
「漂流者たち 私立探偵・神山健介 (祥伝社文庫) 柴田哲孝」
となりました。
感想は、
1155 8月後半の読書と感想、書評
名作の誉れ高く古典にも入りそうな「落日燃ゆ」や、現代の純文学と言ってもよい「脊梁山脈」、話題性いっぱいの「夢をかなえるゾウ」、個人的には一番読んでいて楽しかった「八月の六日間」、新聞の「明るい悩み相談室」で楽しい回答を書いてる人という認識しかなかったことを大いに反省した「ガダラの豚」、破局噴火が大地震よりも恐ろしいことを実感させる「死都日本」など、大いに迷いました。
個人的に私立探偵小説というのが好きで、中でも仕事が非日常でありながら、派手なドンパチや暴力シーンもなく、地味な調査を愛犬とともに黙々とおこない、事件の真相に迫っていくというこの作品のような日本独特のスタイルが気に入ってます。
この「漂流者たち 私立探偵・神山健介 柴田哲孝」は、四季をモチーフとしたシリーズ4作品のあと、東日本大震災が起き、急遽その未曾有の大災害と人捜しをうまくミックスして創られたシリーズ番外編?です。
主人公が住んでいる白河(福島県)も激震に襲われますが、いわき市で行方不明となった男を捜すため、津波被害の大きかった地域へ震災直後に向かいます。
震災直後は、崖崩れであちこちの道が通行できず、川の橋が落ちて道路が寸断し、またガソリン不足で動かないクルマが放置されるという現実に起きた災害現場が描写されています。
私は震災直後ではなく災害から2年経ったあとに、津波被害に見舞われた各地をクルマで回り実際に起きた跡を見てきましたが、その時の様子が思い浮かんできます。
震災直後の生々しい緊迫した被害状況がこの小説では語られていて、自分が見た衝撃的な被災地がフラッシュバックで揺り戻された感じがすることによる受賞で、その点は素直に個人的理由、我田引水的であることを認めます。
そして、大賞の次点には「夜の国のクーパー (創元推理文庫) 伊坂 幸太郎」と「旅のラゴス (新潮文庫) 筒井康隆」の2作品を選びました。
感想は、
夜の国のクーパー 伊坂 幸太郎
1108 3月前半の読書と感想、書評
旅のラゴス 筒井康隆
1121 4月後半の読書と感想、書評
どちらの作品も、イメージが割と似ていて時々混乱しますが、若い頃に思い描いた冒険譚を惹起させてくれる生命力にあふれた作品です。
受賞された作品と著者にこころより敬意を表します。おめでとうございます。えぇ、申し訳ないですが、それだけです。
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新訂 福翁自伝 (岩波文庫) 福沢諭吉
ネット上のお勧め本のリストを見て購入してはみたものの、約2年半ほど読まずに本棚の肥やしとなっていましたが、別のところで「この本はめちゃ面白い!諭吉ってファンキーで生き方がロックだ!」という絶賛?する評判を聞きおよび、暮れの忙しいときに読み始めました。
この本のことはWikipediaには「1898年(明治31年)7月1日から1899年(明治32年)2月16日まで計67回にわたって「時事新報」に掲載された。
単行本は1899年(明治32年)6月15日に刊行。今日でも慶應義塾大学では毎年、新入生に配布されている」と書いてあります。
福沢諭吉の幼少時から、長崎でオランダ語に出会い、洋書が読みたいけどお金がないので、人の洋書を借りて丸写しした話し、大阪で緒方洪庵に師事していた貧しい頃の話し、江戸へ出てから得意だった語学力を生かしてアメリカやヨーロッパ視察へ、幕府の公費でちゃっかり参加したり、その後も尊皇攘夷まっただ中の江戸幕府の中で通詞や翻訳の仕事をし、そして慶応義塾の創設へと話題は移っていきます。
彼が生きた時代は、江戸時代から明治時代へと変わる、まさに西郷隆盛や坂本龍馬など英雄が群雄割拠した時代ですが、彼自身は政治に関心がなく、進んだ西洋文化を取り入れて、世界に通用する日本人の教育にひたむきでまっしぐらに突き進んでいきます。
日本人は、毎日のように福沢諭吉のご尊顔を見るとはなしに見ていながらも、「慶応大学の創設者」「学問のすゝめ」ぐらいしか知りませんが、どうして彼が西洋文明に憧れ、周囲の反対や、ひとつ間違えば西洋かぶれと佐幕派から命を狙われても信念を曲げなかったかよくわかります。
また求められても政治からは一歩距離を置き、学問の道をひたすら進む姿は、その人の誠実さと頑固さがうかがえます。
後半には慶應義塾が現在の三田に本拠を置くことになった理由など、その時代の変化に応じ、うまく経営者として渡り歩いたことも自身の口述により明らかにしています。
私は慶応義塾とはなんの関係もない人間ですが、福沢諭吉という江戸末期から明治維新前後の日本人教育と西洋化に対して大きな役割をもった人なんだなということをあらためて知ることができました。
私が読んだのは「新訂 福翁自伝」の岩波文庫版ですが、旧仮名遣いなども残り、しばらく慣れるまでに苦労しました。しかも文字がちっちゃくて老眼の目にはこたえます。
岩波書店以外から現代語訳 福翁自伝なども出ていますので、とっつきやすいのはそちらかも知れません。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
インフェルノ(上)(中)(下)(角川文庫) ダン・ブラウン
「天使と悪魔」(2000年)、「ダ・ヴィンチ・コード」(2003年)、「ロスト・シンボル」(2009年)と続いてきた「ラングドン・シリーズ」の第4作目で、2013年に単行本が発刊されています。日本の文庫版は2016年発刊です。
映画でもこの作品は2016年にトム・ハンクス主演で製作公開されています。
まず冒頭に「この小説に登場する芸術作品、文学、科学、歴史に関する記述は、すべて現実のものである。」と書かれているように、「ダ・ヴィンチ・コード」始め、実際に存在する様々な絵画や彫刻、古代遺跡や教会などをテーマにした謎解きと冒険譚が主題となります。
今回はある天才遺伝子工学者が、人口爆発による地球滅亡を防ぐため、ある特殊なウイルスを開発し、それを時限装置で広めようとしていることがわかり、それを阻止するために主人公の大学教授がWHO(世界保健機構)から緊急呼び出しされます。
誰が味方で誰が敵かわからないという中で、イタリア、トルコの有名観光地を走り回り、ウイルスが仕掛けられた場所を遺されたヒントを解きながら探し回ります。
展開が速く退屈はしないのですが、とにかくこの人の作品は芸術作品やその制作者のうんちくとか歴史的背景の説明などが加わり、長いのがネックです。勉強になり、もし今後観光に行くとしたら参考になると思うのですが、、、
でもこれを読むと、フィレンツェやヴェネチアなどへ一度は行ってみたくなります。観光客を呼び込みたい日本政府観光局は、著者にお金を積んででも頼みこみ、世界に通用する日本の古代史や作品のベストセラー小説を書いてもらうべきでしょうね。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (中公新書) 楠木新
私と同世代(私より年齢は2つ上)の方が書いた2017年刊の定年本で、過去に読んだ数多くある団塊世代向けの定年本となにが違うかな?と買って読んでみました。
元大手生保会社勤務ということで、定年後の雇用延長制度の充実や退職金の額は日本の企業の中でもトップクラスだと思いますが、やはり文中に出てくる先輩の話しなどをみると、とても恵まれているなぁということがわかります。
ま、そういうところをうらやんでも仕方ないのですが、なかなかそうした一流大手企業出身者の話しというのは中小零細企業を渡り歩いてきた下々の人にとっては、あまり参考にならないことが多くあります。
ただこの本が救われるのは、そうした大手企業出身者の体験談だけではなく、様々な職業、勤務形態の人にヒアリングをしてまとめてあることでしょうか。
団塊世代サラリーマンのように60歳から年金が支給され、また退職金も規定通りに支払われるという恵まれた定年後ではなく、いままさに起きているのは、65歳からの年金支給まで、どうやって生活費をまかなっていくかというのが喫緊の課題です。
それ以上に著者は、自分がうまく物書きとして定年後充実した生活が送れている事を引き合いにし、定年後になにをすべきか?という課題をテーマに置いています。
定年後に働かずに家に引きこもるというのは、それこそ親の遺産や過大な退職金を得た場合など以外、通常できません。引きこもりたくたくてもできないのがいまの定年なのです。
そのあたりに、ちょっと恵まれている筆者との温度感は感じますが、少なくとも団塊世代に向けた定年後読本と比べると、より実態に近い感はありますので、参考になることもあります。
★★☆
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新書などの書籍の見返し部分には、著者プロフィールが書かれています。私はよく知らない人が書いた新書を買うときはそのプロフィールを先に読むことが多いのですが、その理由は著者の年齢や背景を知っておくことで、なぜそういう考え方をするかなど参考になるからです。
例えばリクルート出身者はリクルート社の育成プランで育ってきた独特のバックグラウンドがあり、また外資系コンサルファーム出身者もそうした独特の感性や考え方があり、恐ろしいほど画一化されています。
そうした中でも、起業して商売気たっぷりの、いかにも意識高い系の人達のプロフィールは見事なまでの自己満足に酔いしれたキラキラしたプロフィールが本人の手により書かれます。
大学を卒業してもう何十年も経っていても、ハーバードやオックスフォード、東京大学や慶応大学出身者は必ずその学歴を入れたがります。
たぶんそうしたブランド大学名は、自分にとっての誇りであり、なにかにつけ自慢したいのでしょう。そんなに長期間にわたって効果?が発揮できる学歴っていいですね(皮肉です)。
ちょっと考えればわかりますが、よほどの大物や世界的に著名な人でなければ、書籍に入れる自己プロフィールは、出版社から求められ、概ねその全部または大部分を自分で書くことになります。
下書きを誰か別の人に頼んだとしても、まったく本人の目を通さず、無断でそのまま掲載されるということはあり得ません。
つまりプロフィールには本人の強い意志やメッセージが込められているのです。
そして面白いのは自分が書いているのに関わらず、その文章は第三者視点のようにして書かれていることです。
ブランド大学名、留学先の大学、社会人になって有名な大手企業勤務した経歴、活躍して社内表彰されたことや、何千人も関わっているような大きなプロジェクトで、さも自分が主体的な立場で関わったみたいに書いてあったり、独立後には聞いたこともないようなマイナーな賞の受賞歴や、起業したり経営してきた企業の数々(倒産したり問題を起こした会社は含まず)、など豪華絢爛な妄想プロフィール満載で、その人の感性と自慢したいツボをよく知ることができます。
新書では、大学教授かフリーランサー(零細企業の経営者)、成功した企業経営者が書くことが多く、その場合は、新書を売ること以上に、自分が手掛けるビジネスや研究に興味を持ってもらいたいという強い欲求がプロフィールに散りばめられています。いわゆる新書やそのプロフィールは盛った名刺代わりってことですね。
ちなみに最近、国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」から、補助金約4億3100万円を不正に受給したとして逮捕された、齊藤元章容疑者(2017年12月23日現在)の著書のプロフィールはこんな感じです。
研究開発系シリアルアントレプレナー。医師(放射線科)・医学博士。1968年、新潟県生まれ。新潟大学医学部卒業。東京大学大学院医学系研究科卒業。東京大学医学部附属病院放射線科の2年間の研修期間修了後、大学院入学と同時に学外に医療系法人を設立して研究開発を開始。3年後の1997年に米国シリコンバレーに医療系システムおよび次世代診断装置開発法人を創業。300名の社員を登用して世界の大病院に8000以上ものシステムを納入。2003年には米インテルのアンドリュー・グローブ会長とクレイグ・バレット社長兼CEO(当時)の推薦で、日本人初のComputer World Honors(米国コンピュータ業界栄誉賞)を医療部門で受賞。東日本大震災を機に、海外での研究開発実績と事業経験を日本の復興に活かすために拠点を日本に戻す。これまで研究開発系ベンチャー企業10社を創業し、累計売上額は1000億円を超える。自ら発明して出願した特許は50件を数え、現在はスーパーコンピュータ技術を開発する株式会社PEZY Computing代表取締役社長、株式会社ExaScaler創業者・会長、UltraMemory株式会社創業者・会長を務める。 |
どうです。もうキラキラ満載してますね。本人がこれを必死に考えて書いているところを想像してみてください。たとえすごくいい人であったとしても、笑えますでしょ?
アメリカ的な感覚で言えば、こうした過去の業績を盛りに盛って書くのが普通とも思えますが、私は昭和の日本人らしく、シンプルで控えめに現状の立場だけが書かれたプロフィールが好きです。
十数年前、何十年も前に卒業した大学や、そこで研修したことなんてどうでもいいじゃない?って思ってしまいますが、さてどうなのでしょう。
多くの新書を出している他の人のプロフィールをちょっとのぞいてみましょう。
齋藤孝
1960(昭和35)年、静岡生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現職。『身体感覚を取り戻す』で新潮学芸賞受賞。『声に出して読みたい日本語』『雑談力が上がる話し方』などのベストセラーをはじめ著作多数。 |
高橋源一郎
1951年生まれ。1981年『さようなら、ギャングたち』で第4回群像新人長篇小説賞優秀作受賞。1988年『優雅で感傷的な日本野球』で第1回三島由紀夫賞受賞。2002年『日本文学盛衰史』で第13回伊藤整文学賞受賞。著書に『ニッポンの小説』、『「悪」と戦う』、『恋する原発』他多数。 |
中川淳一郎
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。 |
成毛眞
1955(昭和30)年北海道生まれ。中央大学卒。自動車部品メーカー等を経て日本マイクロソフト株式会社入社、1991年同社代表取締役社長。2000年に退社後、インスパイア設立。早稲田大学客員教授ほか書評サイト「HONZ」代表を務める。著書に『これが「買い」だ』等。 |
養老孟司
1937(昭和12)年、神奈川県鎌倉市生まれ。1962年東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。1995年東京大学医学部教授を退官し、2017年11月現在東京大学名誉教授。著書に『からだの見方』『形を読む』『唯脳論』『バカの壁』『養老孟司の大言論I~III』など多数。 |
ま、常識的にはこれぐらいの量と内容が標準的なものではないでしょうか?
学歴を入れるかどうかは人によって分かれるところです。特に大学教授の場合は入れるケースが多そうです。
でも現役ビジネス界の人やジャーナリスト、作家の場合は、出身大学や課程などどうでもよくて、それよりも過去の著作物を入れた方がマシという感じがします。
いずれにしてもキラキラプロフィールは、自分に自信がないものだから、せめて言葉で盛りに盛ってPRしようとむなしい努力をしているということで、好ましく思わないのです。
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蜩ノ記 (祥伝社文庫) 葉室麟
著者の名前は知っていましたが、一見するとキラキラネームなのでお若い作家さんかと思ったら、今年66歳になった団塊世代にかろうじて入るかどうかというベテラン作家さんです。
2011年単行本発刊で、2012年の直木賞において5回目の候補で本作で見事に受賞され、2013年には文庫化されています。
最初虫偏の「蜩」を魚偏の「鯛」と読み違え「たいのき?」って記憶してしまい、それがいつまでも頭の中に残ってしまい困りました。虫偏の「蜩」は「ひぐらし」です。
この作品は2014年公開の同名映画の原作にもなりました。映画の監督は小泉堯史、主演は役所広司で、その他岡田准一、堀北真希、原田美枝子などが出演し、私もテレビ放送時に見ましたが、泣ける映画でした。
江戸時代の武家の話で、家老の筋がどうしたとか、前のお奉行がどうしたこうした、どこぞのお家の養子が大きくなって家督を継いだとか、とにかく家系や家柄がややこしくて、テンポの速い映画ではそのあたりよくわからず、細かなところはこの原作小説を読んで、あーなるほどと理解できたような次第です。
主人公は昔なじみだった藩主の側室と密通したという疑いがかけられ、10年間は蟄居し、藩史の編纂にあたり、10年後に切腹をするという罪を負わされています。
7年が経過し、切腹前に逃亡するのを防ぐため、監視役として城内で刀傷沙汰を起こした武士がその蟄居先へ送り込まれますが、その主人公の人柄や潔さに惚れ込んでしまい、どうして死罪を着せられてしまったのか、救う手立てはないものかと上司に逆らって奔走します。
そこのところは、映画では役所広司と岡田准一が見事に演じていましたね。
大スペクタル映画のように、派手なチャンバラシーンや騎馬の疾走シーンなどはほとんどありませんが、しっとりとした雰囲気は、大人が見て「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」を感じさせられる、原作に忠実にのっとった良い映画でした。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
ハードラック (講談社文庫) 薬丸 岳
過去に「天使のナイフ」(2005年)、「刑事のまなざし」(2011年)を読み、お気に入りの作家さんのひとりになりつつあるところです。この作品は2011年単行本、2015年に文庫化されています。
少年や若者の残虐な犯罪に詳しい作家さんですが、この長編小説では派遣ぎりで仕事を失った25歳の若者が、再婚してデキのよい異母兄弟がいる母親の元には帰れず、居場所を失い、闇サイトで仲間を募って一発大きなことをしようと思っていたら、逆に利用されて大きな犯罪に巻き込まれていく物語です。
ちょっと都合よく闇サイトで人が集まったり、殺されても不思議ではない状況で、真犯人の汚名を着せられて生かされたりと考えにくい展開ですが、全体的に重苦しい雰囲気が流れていきます。
私の若いときには、社会に出ると正社員以外の働き方はまずなかったのですが、今は簡単に入れるフリーターとかアルバイターと言って非正規の派遣や季節工員など、様々な働き方があります。
そうした働き方はダメとは思いませんが、あくまで一時しのぎであり、それに慣れてしまうとずっとそのままでいいと思い込んでしまうリスクがありそうです。
結果、主人公のように、派遣切りで住まいを失い、安い漫画喫茶で生活するようになり、ますます就職ができなくなっていく悪のスパイラルに陥っていくことになります。
小説では、最初のうちは怠惰でどうしようもない青年が、凶悪犯罪に巻き込まれ、しかも自分が主犯となって指名手配になってしまうという事態になり、人が変わったように、警察の追跡をかわし、様々なヒントから真犯人探しをしていく成長のストーリーで多少は重苦しい話しが和らぎます。
それにしても最後の結末は、ちょっと驚きでした。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
下鴨アンティーク 回転木馬とレモンパイ (集英社オレンジ文庫) 白川紺子
2015年刊の小説(ライトノベル)で、「下鴨アンティーク アリスと紫式部」(2015年)の続編です。
このシリーズはいずれも短編集で、この作品には「ペルセフォネと秘密の花園「杜若少年の逃亡」「亡き乙女のためのパヴァーヌ」「回転木馬とレモンパイ」の4編が収録されています。
登場人物はほぼレギュラーが決まっていて、旧華族の洋館に住む主人公の女子高生、野々宮鹿乃(かの)、その兄で古物商を営む野々宮良鷹、良鷹と学生時代の同級生で同じ家の離れに同居する現在は大学の准教授の八島慧の3人。
祖母が遺した大量の和服など着物のうち、訳ありのものが蔵に収められています。その訳ありというのが、いずれもミステリアスないわくつきの謎があり、それの謎を解くことで元の着物に戻すというワンパターンの繰り返しです。
ワンパターンだから飽きる?
全然そういうことはなく、様々な趣向を凝らして、それぞれがミステリアスな面白い物語に仕上がっています。
女性向けの小説ということらしいですが、男性が読んでも十分に楽しめるお気に入りの小説です。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
下鴨アンティーク 祖母の恋文 (集英社オレンジ文庫) 白川紺子
2016年刊のアンティーク着物シリーズ第3弾で、「金魚が空を飛ぶ頃に」「祖母の恋文」「山滴る」「真夜中のカンパニュラ」の4編が収録されています。
感想は上に書いたのと特に変わりありませんが、レギュラー登場人物の3人の他、アンティークな着物や古物品に絡んで何人かが出てきます。これらの人々にもそれぞれ魅力があっていい感じです。
和服のことについても少しはうんちくが語られますので、それらの雑学にも詳しくなります。
また話しの流れから、主人公の女子高生鹿乃と、離れで同居している兄の友人慧とのロマンスも今後進んでいきそうです。ハーレクインなどロマンティックな小説好きにはこれからの展開が楽しみでしょう。
このシリーズは著者も書きやすいのか、立て続けに4弾、5弾、6弾まで出ています。アイデアが次々とあふれ出ている感じで、結構なことです。
続編は、
「下鴨アンティーク 神無月のマイ・フェア・レディ」(2016年)
「下鴨アンティーク 雪花の約束」(2016年)
「下鴨アンティーク 暁の恋」(2017年)
「下鴨アンティーク 白鳥と紫式部」(2017年)
となっています。
引き続き続編も読むか?と聞かれると、ちょっと今はバランスも考えて、他の著者の本をもっと読みたいので、当面はいいかな。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
マンション格差 あなたのマンションは「勝ち組」「負け組」? (講談社現代新書) 榊淳司
著者は「マンションは日本人を幸せにするか」(2017年)、「新築マンションは買ってはいけない!! 」(2016年)、「やってはいけないマンション選び」(2015年)などタイトルだけ変えた?って思えそうな新書を何冊か出版されている55歳の住宅ジャーナリストで、この新書は2016年刊です。
読んだのはこの1冊だけですので、他のマンション本はどうなのか知りませんが、この本だけで言うとさすがに業界に詳しい人だけあって、マンション業界の裏事情や悪しき慣習など、面白く読めました。
私の場合、30年ぐらい前に中古マンションを購入し、5年ほどに現在の一戸建て住宅に移ってきたので、マンション価格がどうなろうと関係ないですが、これからマンションでも買おうかという人は、一度は目を通しておいたほうが良さそうな内容です。
目次(章立て)を書いておくと、
第1章 マンションのブランド格差を考える―最初に格差をつけるのはデベロッパー
第2章 管理組合の財政が格差を拡大させる―大規模修繕工事「割高」「手抜き」の実態
第3章 価格が落ちない中古マンションとは―市場はいかにして「格付け」するのか
第4章 マンションの格差は「9割が立地」―将来性を期待「できる」街と「できない」街
第5章 タワーマンションの「階数ヒエラルキー」―「所得の少ない低層住民」という視線
第6章 管理が未来の価値と格差を創造する―理事会の不正は決して他人事ではない
第7章 マンション「格差」大競争時代への備え―賃貸と分譲を比較検討する
特別附録 デベロッパー大手12社をズバリ診断
実社名で結構辛辣なことも書いてあったりしますので、それなりに面白く、参考になります。
私が中古マンションを買った時(30年ぐらい前)は、時代が違うと言うこともありますが、まったくこの本に書かれていることとは逆だったように思います。
つまり、「マンションの評価は立地(駅近)で決まる」と言うことですが、私は首都圏郊外でありながら、最寄りの駅(私鉄)までバスで15分、徒歩は無理でした。また施工会社も大手ディベロッパーではなく、いわゆる「長谷工プロジェクト」物件だったなど。
それでも入居前には無料で内装をリフォームしてもらって、5年間住みましたが、環境も良く、地震でもほとんど揺れず(震度3ぐらいでも気がつかないほど)にしっかりしていて、バブルもはじけた後でしたが、子供が増えて一軒家に買い換えするときには、買った値段よりもだいぶんと高く売れました。タイミングがラッキーだったんですね。
そういうことを考えると、売り買いするタイミングというのは重要で、いまこうだからというのはあまり重要ではないのかも知れません。高齢化や人口減少と確実にやって来る事実だけで、今後その地域の不動産がどうなるのかっていうのもあまり信用がおけません。
高齢者が増えて、郊外の街も老朽化していくというのは事実でしょうけど、緑が少なく人で溢れている都会には住みたくないというファミリー世帯がまだまだ多いのも事実で、30~50年先ならともかく、巨大な災害に襲われない限り、10年やそこらで街が大きく変わるって事もなさそうです。
★★☆
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