忍者ブログ
リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~ HomePage https://restrer.sakura.ne.jp/
Calendar
<< 2025/07 >>
SMTWTFS
12 345
6789 101112
13141516 171819
20212223 242526
27282930 31
Recent Entry
Recent Comment
Category
52   53   54   55   56   57   58   59   60   61   62  

[PR]

Amazonタイムセール

ホーム&キッチンの売れ筋ランキング 

枕・抱き枕の売れ筋ランキング

旅行用品の売れ筋ランキング


ミラーレス一眼の売れ筋ランキング 

空気清浄機 タイムセール

掃除機の売れ筋ランキング

ペット用品の売れ筋ランキング


978
ラスト・チャイルド(ハヤカワ・ミステリ文庫)(上・下) ジョン・ハート

以前「川は静かに流れ」(2009年)を読んだことのある著者の2009年(翻訳版は2010年刊)発刊の作品です。

この著者の書く小説のイメージは、人間、特に家族の暗くて重いテーマを粛々と描くってところですが、この小説はその代表的なものかも知れません。

アメリカの地方に住む13歳の少年が主人公で、1年前に双子の少女が行方不明となり、続いて父親までが失踪してしまい普通の家族が一気に崩壊してしまいます。

一緒に暮らす母親は麻薬におぼれ、街の有力者の囲われ者となってしまい生きる気力さえ失いつつありますが、主人公の少年は健気にも行方不明になった双子の妹を探すため、街の中を一軒一軒訪ね歩き、不審者をあぶり出していきます。

登場する大人はすべて何かしらの問題を抱え、主人公少年の純粋さと勇気だけが光って見えますが、何度もピンチに陥りそうになりながらも、うまく機転を利かせて切り抜けていくという、ありえそうもない設定で、ホームアローンじゃないけれど、そうした年端もいかない賢い少年が、大人顔負けの大活躍をするっていうストーリーが、現実ではありえそうもないだけに、意外性があってうける素地があるのでしょう。

暗澹とした気分にさいなまれながら読む長編小説ですが、話しの流れのテンポがよく、サクサクと読むことができ、タイトルの「ラストチャイルド」って意味が最後の最後で明らかになる設定といい、「川は静かに流れ」同様、なかなかできのいいと感じる作品でした。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

老いる覚悟 (ベスト新書) 森村誠一

2011年に書かれたエッセーをまとめた新書で、今年82歳になる著者ですが、まだまだ意気軒昂って感じです。

著者の作品で最初に読んだのは「新幹線殺人事件」(1970年刊)で、今から40数年前の中学生のころです。それ以来、同氏の作品は10作以上を読んでいますが、過去に出版された作品数はすでに300作を超えているそうです。まったくアイデアと執筆意欲の枯れることがない凄い人です。

その著者が考える、リタイヤ後にやってくる老いと死に至るまでの覚悟を淡々と語っています。年齢的にはちょうどリタイアを迎える団塊世代向けに書いているのかなって感じです。

団塊世代260万人の中の100人に1人、1%の人が買ってくれれば、それだけで2万6千部ですからね。この世代に向けたビジネスはまだまだ有効です。

著者は戦前生まれで苦労してきた人だけあって、その含蓄には重みがあります。しかし死への覚悟という点で言えば、それは年齢と共に変化していくもので、いま50代の私が平均寿命の80代が持つべき覚悟についてはなかなか理解ができません。

この新書が東日本大震災のあとに書かれただけあって、震災と津波、そして原発事故避難による突然の死や、生活のすべてを失った絶望状態からの人生などについても深く書かれています。長く生きるとそれだけいろいろな自然災害含め人の生き死にを身近に見ることになります。

定年とか引退ということがほとんどない作家である著者と、一般的には定年後にそれからまだ2~30年の老後が残されている元サラリーマンとではだいぶんと考え方が違うんじゃないのかな?って思いましたが、作家になる前は今でいう社畜として10年間働いていた著者だけあって、そのあたりはぬかりなくよくわかってらっしゃるって感じです。

さらに雇用問題として、利益追求、効率重視の「成果主義」についても、「日本の国民性には合わない」とバッサリ斬り捨てているのもまったく納得。

定年退職後に「なにもしなくていい自由」ではなく、「なにをしてもいい自由」と考える人だけが、有意義な老後をおくれる人という点はなるほどって思うにしても、私のように足が不自由になってしまって、できることがかなり制約されてしまうと、前向きに「なにをしてもいい!」とは考えにくいのも確かです。

高齢になるとなにかしら病気はつきものといいますが、よりよい有意義な老後をおくるためには、いかに健康体であることが重要か身をもってそう思います。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

Nのために (双葉文庫) 湊かなえ

デビュー作品「告白」で一気にブレークした著者の4作目の長編小説で2010年単行本、2014年に文庫化されています。この著者の本を読むのは「告白」「夜行観覧車」「贖罪」に続き4作目です。どれもライトに読めて気分転換にいい感じです。

この長編は2014年に榮倉奈々、窪田正孝、賀来賢人などの出演でテレビドラマ化されたそうですが、見ていないのでまったく内容は知らずに読みました。

この長編は2014年に榮倉奈々、窪田正孝、賀来賢人などの出演でテレビドラマ化されたそうですが、見ていないのでまったく内容は知らずに読みました。

この著者の特徴でもありますが、ちょっと人間関係が複雑でややこしい設定となっている長編ミステリー小説です。この複雑さが不自然に映り、いかにも無理して役の設定をしたなぁって感じがしてあまり好きではありません。

主人公は四国の離島出身で、大学へ通うために上京してオンボロアパートに住んでいます。そのアパートで親しくなった友人と沖縄旅行へ行った際に知り合った、タワーマンションに住むセレブな夫婦と付き合いが始まります。

そのタワーマンションで主人公の女性などを招待して、食事会を開こうとしていたその時、商社マンの夫が妻を刺し殺すという事件が起き、その妻と不倫関係にあった男が、夫を燭台で殴打して殺すという事件が起きます。

ここまでがプロローグのようなもので、一件落着したように見えた、この殺人事件の謎や真相が次々と語られていくというストーリーです。

主要な登場人物の名前が成瀬、野口、西崎、野原、望、夏恵、奈央子と、タイトルの「N」とはいったい誰なのか?ってところがミソですが、注意して読むことでそれがわかるっていう仕組みではなく、最後まで読まないとわかりません。そういう意味では前作や前々作と同様なパターンと言えます。

★★☆

著者別読書感想(湊かなえ)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

昭和の犬 姫野カオルコ

2013年刊の小説で、2013年下半期の直木賞で、朝井まかて氏の「恋歌」と同時受賞した作品です。この受賞までには「受難」「ツ、イ、ラ、ク」「ハルカ・エイティ」「リアル・シンデレラ」と4作が直木賞候補にのぼり、この5回目の候補で受賞と相成りました。

昭和33年生まれの著者自身が歩んできた人生を、主人公に重ね合わせたような自伝的な小説と言うことで、私とほぼ同年代、しかも同じく関西出身と言うことで、小説に登場する様々な生活の場面、テレビ番組、社会背景が自分の人生にもかぶってきます。

それにしても私の子供時代(昭和30年代~40年代)に起きたことやその時の世相なんてすっかり忘れていましたが、この本のおかげで少し蘇ってきました。しかし「土居まさるのTVジョッキーでの白いギタープレゼント」や「心に愛がなければ、どんなに美しい言葉も 相手の胸には響かない…聖パウロの言葉より」なんて、よく覚えているものです。言われてみてそういうのあったなぁって思い出しました。

人は誰でも過去の体験を美化して話したがる傾向があります。成功者が必要以上に貧しかった生い立ちや、人並み以上の努力をしてきたことを語るのに似ています。

でもそこは作家さん、単なる歩んできた過去を美化した話しではなく、時代とそれに寄り添ってくれた犬や猫をうまく重ね、昭和後期と平成初期はこういう時代だったんだっていう思い出の記録の小説に仕上げています。

終盤、そうした昭和から、いきなり平成の現代へ飛びますが、紆余曲折あった主人公がほのぼのとして、肩から力が抜けるような人生を送っている姿を見せて、読み終わりも心地よい気分になれました。

★★★

著者別読書感想(姫野カオルコ)


【関連リンク】
 11月前半の読書 悪女について、空の中、アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風、青い約束
 10月後半の読書 時の地図 上・下、贖罪、家族という病、ワーカーズ・ダイジェスト
 10月前半の読書 羆嵐、幸せになる百通りの方法、努力しないで作家になる方法、幻影の星



リストラ天国TOP
おやじの主張(リストラ天国 日記INDEX)
著者別読書感想INDEX
PR



974
悪女について (新潮文庫) 有吉佐和子

タイトルからすると、まるで週刊誌に連載するようなエッセイ集のような気がしますが、1978年に「週刊朝日」で連載された有名な長編小説で、テレビドラマ化も2度おこなわれています。

主人公の富小路公子という名前を見ると、2003年に起きた有栖川宮詐欺事件を思い出しましたが、過去には一見すると皇室や貴族と誤解しそうな偽名や芸名などを使って相手を信用させる犯罪や売名行為はよく見られました。

この小説には実在するモデルはなく、フィクションですが、男社会だった戦後の高度成長期を、不幸な身の上にかかわらず、たくましく生き抜く女性主人公に多くの共感を呼んだのではないかと思われます。

その主人公女性ですが、生まれは八百屋の一人娘で父親は早くに交通事故で亡くし、貧しい家庭に育ちますが、女の武器を利用しながら、名門家の跡継ぎや資産家の奥方達を手玉にとり、また多くの後援者や味方も作りながら着実にやり手の女実業家として成長していく姿に魅了されていきます。

小説のスタイルはその主人公本人が語るのではなく、関係者27人がこの主人公の女性について語るという手法で展開されていきます。しかもいきなり主人公は不審死で亡くなったことが明かされて、その死の謎にも興味が沸く仕掛けとなっています。

それは芥川龍之介の「藪の中 」と同様、複数人の視点で主人公の生い立ちから現在の姿まで語らせることで、語る人によって「とても上品で優しい人」、「男をはめて賠償金目的の性悪女」など様々な見方がされ、テンポ良く読者を引きつけていく手法は圧巻とも言えます。

★★★

著者別読書感想(有吉佐和子)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

空の中 (角川文庫) 有川浩

女流作家が自衛隊を舞台にした小説を書くのは珍しいですが、著者のデビュー作にあたる「塩の街」(2004年)、「海の底」(2005年)とともに自衛隊三部作のひとつとされ、2004年に単行本、2008年に文庫版が発刊されています。

もっとも映画でも大ヒットした「図書館戦争」などの著者でもあるわけなので、そうしたミリタリーオタクが喜びそうな知識が豊富ということなのでしょうが、著者の本を最初に読んだのが「阪急電車」だっただけにその落差というか幅に広さには驚かされます。

そういえば「阪急電車」の登場人物にも上空を飛ぶヘリコプターの音を聞いただけで機首かがわかる人がいたような気がします。

「阪急電車」の感想
2012年2月前半の読書「迷宮 清水義範、阪急電車 有川浩、ひとがた流し 北村薫、読者は踊る 斎藤美奈子、九つの殺人メルヘン 鯨統一郎」

主人公は航空自衛隊のF15戦闘機のパイロットのひとり息子で、父親を飛行訓練中に謎の事故が起き亡くしています。

もうひとりの主人公は、戦後初の民間小型ジェット旅客機を製造するメーカーの男性で、この試作器も自衛隊の航空機と同じ場所でテスト飛行中に謎の爆発事故を起こしていて、その関連を調査するため、航空自衛隊に日参しています

この二人の主人公に共通するのが、古代から生息していたという高々度に浮かぶ、謎の浮遊体生命とコンタクトが取れることです。それがミステリー仕立てのSFホラー小説みたくなってきます。

あり得そうもないSFミステリーなのですが、事故で亡くなったF15パイロットの部下で、間一髪生き残った女性パイロットと、主人公、もうひとりの主人公(高校生)と隣に住む同級生の女の子の二組のカップルのコミカルな関係など、いかにも女性が書いたロマンティック色も忘れていない作品となっています。

★☆☆

著者別読書感想(有川浩)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA) 神林長平

シリーズ1作目の「戦闘妖精・雪風」(1984年)、2作目の「グッドラック―戦闘妖精・雪風」(1999年)に続く3作目の作品で2009年に初出、2011年に文庫版が出ています。

前の作品を読まずにいきなりこの作品を読むと、きっとなんのこっちゃわからないということになりますから、面倒でも最初の作品から読みましょう。

最初から読んでいても、前作からしばらくあいだが空くと、なんのこっちゃって考えたりするぐらいですから。あ、それは単なる物忘れが激しくなってきているせいかも。

さて本編も前作同様「ジャムになった男」、「雪風帰還せず」、「さまよえる特殊戦」、「雪風が飛ぶ空」、「アンブロークンアロー」、「放たれた矢」の連作短編で構成されています。

2作目の終盤からいわゆる地球防衛軍(FAF)と異星生命体ジャムとの闘いが本格的になってきます。

そしてちょっと展開が複雑で哲学的になってきたというか、実体を持たない異星体との心理戦で、主に人間側の感情や心理面に関する話しが多くなり、なにが正しいのか、なにが本物なのかということが、歳を取って柔軟性に欠ける頭では追いつかず、苦労します。

起承転結があってスッキリと終わるというものではありませんので、それだけは覚悟が必要かも。

1作目が初出してから30年が過ぎていますが、まだ完結には遠い感じで、今後も続編が出てくるのは間違いなさそうです。著者も62歳ということで、作家としては脂がのって、これからとも言えますし、まだまだ頑張ってもらいたいものです。

★☆☆

著者別読書感想(神林長平)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

青い約束 (ポプラ文庫) 田村優之

著者は1961年生まれで、日本経済新聞社の記者として活躍されている(同書執筆時)方です。この本は「夏の光」という題名で発刊した小説を加筆修正し、同時にタイトルも変更して2012年に文庫化されました。

主人公は高校生の頃からエコノミストになりたいと勉強し、その夢はかなえたものの、勤務していた銀行が合併吸収され、難しい立場に置かれている男性。

さすがに著者が経済新聞記者だけあって、国債の発行と経済に関して主人公のエコノミストの言葉を借りてその仕組みと持論をわかりやすく語ってくれます。

それはいいのですが、ある日主人公が取材をしていた財務省で、大手新聞社の記者で高校の時以来プッツリと縁が切れていた同級生と出会い、その縁が切れた理由が読者には謎として浮上してきます。あることが原因で縁が切れるまでは親友だった相手です。

その理由について、小出しにして読者をじらし、だんだん邪魔くさくなてきますが、我慢して読み続けなければスッキリしません。

小説の主テーマでもあるところに「大きな謎」があることを序盤にハッキリ提示しておき、その謎をいつまでも明かさないというのは常套手段なのかもしれませんが、なにかもったいぶられているようで、また無駄に紙面を稼いでいるようで、超売れっ子作家が数ある中のひとつの手法として使うのでなければ、私は好きにはなれません。イライラするだけで。歳のせいでしょうか、やっぱり。

普段、著者が書いている経済新聞は、大見出しで結論を、記事本文でその詳細を簡潔に書いているわけで、その鬱憤?を晴らすためか、小説はその逆の手法、大見出しで謎を、本文ではダラダラと横道に逸れながら最後まで結論をひっぱるという手法でと考えておられるのでしょう。困ったものです。

★☆☆


【関連リンク】
 10月後半の読書 時の地図 上・下、贖罪、家族という病、ワーカーズ・ダイジェスト
 10月前半の読書 羆嵐、幸せになる百通りの方法、努力しないで作家になる方法、幻影の星
 9月後半の読書 渇いた夏 柴田哲孝、女系家族(上・下) 山崎豊子、定年後 年金前 岩崎日出俊

[PR] Amazon 書籍 売れ筋ランキング

ビジネス・経済

ビジネス実用本

新書

文庫

文学・評論

コミック

ゲーム攻略・ゲームブック


ハヤカワ・ミステリ  

創元推理文庫

新潮文庫

講談社文庫

角川文庫

集英社文庫

岩波文庫


文芸作品

ノンフィクション

ミステリー・サスペンス

SF・ホラー・ファンタジー

歴史・時代小説

経済・社会小説

趣味・実用


リストラ天国TOP
おやじの主張(リストラ天国 日記INDEX)
著者別読書感想INDEX



969
時の地図 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-1) 上・下 フェリクス J.パルマ

著者は47歳のスペインのSF作家で、このデビュー作の小説は2008年に出版、日本語版は2010年に発刊されています。

これを単なるSF小説と思って読み始めましたが、悪い意味ではなく、あまりにも想像していた内容と違っていたため、頭の中の混乱がしばらく収まりませんでした。

長編小説で3部に分かれていて、1部の主人公と2部の主人公はまったく別人で関係はありません。そのためまずは二つのあまり面白くもない退屈な時代小説を読むような感じです。

そしてその1部と2部に共通してちょい役で出てくる、実在したSF作家H.G.ウェルズが、3部で主人公となって登場し、いよいよ本格的なSF小説じみてくるわけです。

ある程度の年配の人なら、H.G.ウェルズを知らない人はいないと思いますが、「宇宙戦争」「透明人間」「タイムマシン」を書いたSF作家で、彼が生きた19世紀の終わり頃のロンドンがこの小説(3部とも)の舞台となっています。

こういう小説のネタばらしはいけないので、これ以上小説の中身については触れませんが、1部、2部を読んで、あまりの退屈さにそこで力尽きてしまったという人がいると気の毒なので先に書いておくと、「1部と2部はつまらないので適当に読み飛ばしておけばいい」「それに引き換え3部はとっても面白いので引き込まれる」です。

この小説でも出てくる時間旅行(タイムトラベル)については、そこで起きるパラドックスのことなど、理論上あり得ないという認識については詳しく触れられませんが、小説やドラマ、映画などでは安易によく使われています。謎は深いほど興味をそそりますからね。

こうした実在した偉人を主人公にした小説は時々見かけますが、読者の想像をかき立てるには好都合なのでしょう。ただ感想はと言うと、先にも書いたように1部と2部が無駄に長すぎて、個人的にはそれが価値を下げてしまっているなって感じです。

★☆☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

贖罪 (双葉文庫) 湊かなえ

映画にもなったミステリアスな小説「告白」(2008年)で衝撃的デビューを果たした著者の3作目にあたる長編小説で、2009年に単行本、2012年に文庫が出版されました。

「告白」と同様、事件の関係者が、すぐ身近なところで起きた殺人事件について語っていくというパターンで、登場する小学生の仲良し4人組の名前と性格、現在の職業などが入り交じり、読みながら前に戻ってどういう人だっけ?と確かめるとか苦労しました。一気読みせず、あいだを置きながら少しずつ読んだせいかも知れません。

特に最後に極端などんでん返しがあるわけではなく、淡々と事件の背景や、犯人像が語られ、最後で犯人の動機につながる理由が語られますが、それも含めてどうも最後までモヤモヤした霧の晴れない感じがします。

それは主人公はじめ女性ばかりの物語で、それはそれでいいのですが、たまに出てくる男と言えば、幼児を暴行死させたり、妻の連れ子を暴行したり、妻にフランス人形と同じ格好をさせるために結婚したとか、自分に生殖能力がないけど跡継ぎが必要で、別の男性との間で妊娠した女性と結婚をしたがる男性とか、そういう変態や変人ばかりでまともな男性が誰ひとり出てきません。変なの。

現実的にはそりゃないよねって感じで、あまりにも無謀な想像の産物すぎます。

それでもテレビドラマとして映像化されたようで、そうした次から次へと起きるショッキングな展開こそが、昔のお昼の時間帯であった「愛の劇場」的な連続昼ドラみたく、昔も今もそのようなスタイルが女子ウケするのだろうかなっていうのが、平民的な中年男性の冷めた感想です。

★☆☆

著者別読書感想(湊かなえ)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟


家族という病 (幻冬舎新書) 下重暁子

BS日テレの「久米書店」という番組で以前紹介されていた新書で、今年の3月に発刊されています。そのテレビ番組に著者が出演し、久米宏との軽快な会話がとても面白かったと記憶しています。

著者は戦前生まれで、その後当時の女性としては非常に珍しかったと思いますが、早稲田大学へ進み、卒業後はNHKに入局してアナウンサーの職に就いた経歴の持ち主です。

早稲田大学と局アナ出身、そして現在はフリーという点では久米宏とまったく同じでその先輩(8年先輩)にあたります。

この著者の本を読むのはこれが初めてですが、その理由は今までは「女性の生き方」的な女性向けの作品を多く出されているからでしょう。

今回は女性に限らず「家族」についてで、しかも前段階でこの本に対する著者の想いを聞いていますので、取っつきやすく読めました。

ただこの著者は家族について、自分の偏見とも言える極めて特殊な状況?を元にして語られ、さらにその自分の考えとは違うものは認めたくない的な雰囲気があり、そうした押しつけがましいところが多少かんに障る部分でもあります。

男なんかには負けないぞっていう気の強い女性には割と多いタイプと感じるところです。

子供をもつ家庭や、子供を中心としてそれを家族の幸福と感じる家庭や親に対しては、あまりいい感情をお持ちではないようで、家族という中に占める親と子の関係性を否定するようなところさえ見受けられます。男性で言えば中島義道氏と共通するようなところと言っていいかも知れません。

やはり個性を売っていくためには、これほど我が強くないと有名にはなれないし本も売れないのでしょう。

しかし一般社会では、古いことわざで「血は水よりも濃い」とあるように、著者が自慢気に何度ものろけるパートナー(所詮水の関係)よりも、血を分けた親子の血のつながりのほうがずっと濃くて深いのが自然です(それ故になにか起きたとき憎悪が増長されるということもありますが)。

著者自身が、軍人だった父親やその父親に従うしか生きる術がなかった母親を尊敬できなかったということで、そういう子供時代からのトラウマが残っているのでしょうけど、世の中の多くの家族は、まず第一に親と子がもっとも信頼の置ける家族単位であるということをもっと尊重するべきじゃないかなって思うのです。期待と言うことかも知れませんが。

★☆☆

著者別読書感想(下重暁子)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ワーカーズ・ダイジェスト (集英社文庫) 津村記久子

お仕事小説として有名な著者と言うことですが、読むのはこの本が初めてです。2008年に「ポトスライムの舟」で芥川賞を受賞されている若手気鋭の女流作家さんと言うのでしょうか。

この小説は2011年に単行本、その後2014年に文庫化されました。中にはタイトルになっている中編小説と、もう一編短編作品で「オノウエさんの不在」が含まれる作品です。

書評などでは、もっぱらメインの中編が話題になりますが、私はこの短編のほうが気に入りました。

内容は、同姓&誕生日が同じ未婚の32歳の男女が、それぞれ東京と大阪で全然違った仕事をしながら、日々悩みながらも生活する日常が淡々と描かれます。

年齢とともに中堅社員となって、そのことに閉塞感を感じて煮詰まっていくところが、とても現実的でいいですね。

その二人が仕事の関係で知り合いますが、その時はそれだけ。1年後に大阪で再会するまで仕事や私生活で様々な試練を乗り越えていくという、ただそれだけの物語で、それが果たして面白いのか、さっぱり面白くないのか、読む人によって変わってきそうな変わった小説だと思います。私の場合は後者です。

短編もお仕事小説で、大手建築設計関連の会社の中で、高卒の中途入社ながら、誰からも信頼される有能な技術士の「オノウエ」さんが、仕事ができるばかりに、大卒プロパー社員のねたみや反感を買ってしまい、子育てのために有給を取っただけで非難されるという、非情とも言える会社の掟にさらされます。

その不条理さについて、「オノウエ」さんと以前一緒に仕事をしたことがあり、慕っている若い社員達が淡々と語っていくというストーリー。その「オノウエ」さんが一人称として登場してこないのがいい。なかなか興味深い作品です。

あと、この小説に出てくる大阪のゴチャゴチャとした街の雰囲気が、以前西加奈子著「通天閣」に出てきた街の様子と似ているなぁって思っていたら、この二人がこの小説をネタに対談をしている集英社のサイトを偶然見つけました。

対談 津村記久子×西加奈子

対談を読むと、やっぱ二人は同年代で、大阪で長く生活していて、それで似た感覚の持ち主なのだなってことがよくわかりました。「通天閣」もこの作品も、織田作之助賞の大賞を受賞しているところも似てます。☆は中年オヤジ視点なのでちょっと辛め。

★☆☆

著者別読書感想(津村記久子)


【関連リンク】
 10月前半の読書 羆嵐、幸せになる百通りの方法、努力しないで作家になる方法、幻影の星
 9月後半の読書 渇いた夏 柴田哲孝、女系家族(上・下) 山崎豊子、定年後 年金前 岩崎日出俊
 9月前半の読書 新編 銀河鉄道の夜、切れない糸、音もなく少女は、SOSの猿

[PR] Amazon 書籍 売れ筋ランキング

ビジネス・経済

ビジネス実用本

新書

文庫

文学・評論

コミック

ゲーム攻略・ゲームブック


ハヤカワ・ミステリ  

創元推理文庫

新潮文庫

講談社文庫

角川文庫

集英社文庫

岩波文庫


文芸作品

ノンフィクション

ミステリー・サスペンス

SF・ホラー・ファンタジー

歴史・時代小説

経済・社会小説

趣味・実用


リストラ天国TOP
おやじの主張(リストラ天国 日記INDEX)
著者別読書感想INDEX



964
羆嵐 (新潮文庫) 吉村昭

1977年に発表された作品です。舞台は今からちょうど100年前、1915年、大正時代の北海道の中西部、三毛別の山中に移住してきた開拓農民が暮らす寒村で起きた三毛別羆(さんけべつひぐま)事件を題材としたドキュメンタリー的な小説となっています。

三毛別羆(ひぐま)事件とは、すでに冬眠しているはずの巨大なヒグマが、北海道の山中の部落(三毛別)に現れ、そこの開拓民達を数日間にわたり襲い、幼児や妊婦を含む6人(胎児を含めて7人とする場合もあり)を食い殺し、3人に重症を負わせたという事件です。

小説とはいえ、生き残った部落の関係者からも取材をしたようで、巨大な牛ほどの大きさの熊が襲ってくる迫力や、熊が人間を骨ごとバリバリと食べる音、生きながら食われていく人の叫びなど、その内容は迫真に満ちていて、まるでホラー小説のようです。

人間の味を覚え、機敏に動き回りながら人家を荒らし回る羆と、為す術もない田舎の警察。息詰まる対決は、長年熊撃ちをしてきた嫌われ者だった老マタギが登場することで一転します。そのマタギと羆の対決シーンは見ものです。

Googleマップでその現地の風景が再現された写真がありました。
羆事件現地

当時の住居と羆の模型が作られていますが、想像以上にでかいですね、体重340kg、背丈は2.7mと言いますから、銃を持たない人間が襲われたらひとたまりもありません。また銃を持っていても、恐怖に足がすくみ、激しく動きまわる羆の急所に狙いをつけて冷静に撃てるとも思えません。

考えてみると、100年後の今でも毎年のように羆やツキノワグマの被害が報告されていて、負傷者は年間50人から多いときで150人、死亡者も平均すると毎年1名程度が亡くなっています(ちなみに蜂の被害による死亡者は年間20人ぐらい)。

元々熊の生活圏内に人間が開拓という名の下に入り込んでいったことで起きたとも言えますが、動物との共存の難しさをあらためて知りました。そして動物園やサファリランドで見かける羆のイメージが完全に変わります。

★★★

著者別読書感想(吉村昭)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

幸せになる百通りの方法 (文春文庫) 荻原浩

2012年に単行本、2014年に文庫化された短編集です。収録されているのは、「原発がともす灯の下で」「俺だよ、俺。」「今日もみんなつながっている。」「出逢いのジャングル」「ベンチマン」「歴史がいっぱい」「幸せになる百通りの方法」の7編です。

著者は過去4度直木賞候補に挙がりながら受賞を逃しています。時間の問題で、近いうちに受賞されるでしょうけど、ユーモアもあり、いい作品が多く文庫化されたものはほとんど読んでいます。

1作目の「原発がともす灯の下で」はタイトルが示すとおり、2011年に大震災と原発事故が起きた後に書かれたもので、あの災害と事故から日本人の生に対する考え方、生き方に変化が現れ、小説もそれに沿った新しい流れができてきたかなと感じています。

好きなのはオレオレ詐欺の電話をかけている役者志望の男が主人公の「俺だよ、俺」、プータローの息子を叱ったあと会社をリストラされてしまって、家族に言い出せないでいる「ベンチマン」。

離れて暮らしていても通じる親子の関係や、ちょっとした日常の変化で気がつく夫婦の絆とか、つらくて厳しい世の中で必死にもがきながら生きている中にも、ホッと心温まる話しもあります。

本のタイトルにもなっている「幸せになる百通りの方法」は、ビジネス書がすべてみたいな「意識高い系男子」が自由奔放ながらも暗く後ろ向きの歌ばかりを路上で歌っているホームレスな女の子にひかれていくという変わり種ストーリーでなかなか面白かったです。

ただ、こうした短編作品も悪くはないのですが、個人的には「明日の記憶」や「愛しの座敷わらし」のような長編が私は好きです。実入りの割に校了するまでに時間と手間がかかってたいへんだろうとは思いますが。

★★☆

著者別読書感想(荻原浩)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

努力しないで作家になる方法 (光文社文庫) 鯨統一郎

著者は数多くのミステリー系シリーズ小説を出しておられますが、ミステリーでもなく、またシリーズでもない独立した単発の作品で、2011年に単行本、2014年に文庫化されています。

小説の主人公は大学を中退した後、様々な仕事を渡り歩きながら小説を書き、雑誌に投稿しながら作家デビューを夢見ていますが、一方では子供が生まれて、このまま作家デビューもできず、サラリーマンとしても中途半端という困窮した状況に追い詰められていきます。

著者の作家デビューに至るまでの奮闘を小説にしたって感じですが、そこはベテランの書き手さん、半分ぐらいが実話でもう半分は創作だろうと思っていましたが、なんとこの小説の内容の9割は実話だと「作家・柴田よしきのブログ」に著者へのインタビューに書かれていました。著者のファンならこれを読まずしてって感じですね。

なので、この本は決して「努力しないで作家になれる」ノウハウ本でもなければ、「努力したから報われる」という美談の話しではありません。ただ文章を書くことが好きで好きで、それを生活の一部にしたい、できればそれでメシを食いたいという執念めいた男の姿を描いたものです。

投書とか投稿、懸賞への応募というのは習慣化されやすく、結果が出たりするともう病みつきになったりします。新聞の読者投書、俳句や短歌の投稿、クイズ懸賞の応募など、身近なところでもよく起きる現象です。私も小学生の頃は新聞のクロスワードクイズのファンで、毎週応募していて、何度か図書券が当たり大喜びしていました。

さすがに雑誌へ小説を投稿するような能力も経験ありませんが、作家志望の多くの人は、それが習慣化している人達ということなのでしょう。

著者が投稿していた雑誌へは他に常連だった人として、貫井徳郎氏など、映画雑誌への投稿では佐々木譲氏の名前が挙がっていたのには、なるほどと思いました。

そうした他人が小説家へと次々デビューしていくのに、なかなか自分にはお鉢が回ってこないと焦り、一度は貯めてきたアイデアノートも破り捨てて作家をあきらめようともしますが、30歳を過ぎてから再び思い立ってチャレンジをするところは泣かせどころでしょう(泣きませんでしたが)。

著者は当初は大きな出版社の懸賞小説などへ投稿を続けていましたが、最終的にデビュー作となる「邪馬台国はどこですか?」の短編に目にとめてもらえたのが創元社という老舗ながら出版社としては小さく、メインは海外SF翻訳本が多いところ。

そう言えば百田尚樹もその後500万部を超える記録的な大ヒット作「永遠のゼロ」を大手出版社に持っていった時は、まったく取り合ってもらえず、それまで聞いたことがなかった小さな出版社の太田出版からデビューすることになったと言っていました。まだデビューもしていない作家への大手出版社の扱いってそういうものなのでしょうね。

著者自身は覆面作家で、年齢等も不明ですが、本小説の中の主人公の年齢が著者と同じであれば、私とほぼ同年齢ということになります。それだけに、行動力旺盛でやんちゃな団塊世代が散々荒らし回った後の、ややしらけた社会の中で、傲慢な彼らに頭を押さえられ、ぺんぺん草も生えない中をひたすら実直に歩んできたと共感がわきました。

でもその難しい時代に無事に作家デビューでき、しかも実力通りに売れっ子?になれて結果オーライ、よかったじゃないですかね。

★★☆

著者別読書感想(鯨統一郎)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

幻影の星 (文春文庫) 白石一文

2012年に単行本、2014年に文庫版が発刊されています。ちょうど2011年の大震災直後に書かれた作品ということもあってか、生きる意味、生かされている意味など哲学的な内容の話しになっていて、今まで読んだ著者の作品とはちょっと感じが違っています。でも悪くないですよ。

主人公は、地方の高校を卒業後、地元の酒造メーカーに就職しますが、その会社が大手ビールメーカーに吸収され、元上司の引きで、勤務地も東京に移っています。

地方に住んでいる主人公の母親から、電話がかかってきて「どうして帰って来たのに家に寄らなかったのか?」と言われますが、なんのことかわかりません。

聞くと、実家近くの最寄りのバス停に、主人公のネームが入ったコートが置き忘れてあって、親切な人が届けてくれたという。ポケットの中には主人公が子供の頃好きだったチョコレートまで入っています。

ところが主人公はその場所へ行ったことはなく、しかも置き忘れられていたコートは、東京の自宅の部屋のクローゼットにあるものとまったく同じもの。誰かのいたずらにしてはあまりにも手が込み入りすぎています。

と、ちょっとホラーな感じで話が進んでいきます。そういうところもこの著者の作品としてはちょっと異質な感じです。

その理由は、ひとつには3.11の大震災で多くの生命が一瞬にして消えてしまった、日本全体が重苦しく、やるせなく、厭世ムードが漂う社会的背景を引きずっているって感じです。

そうした命の煌めきや、過去から引きずってきた思いなどをひっくるめた閉塞感の中で生きる人達を軽めの哲学とともに小説化したらこうなりましたって感じなのか。何を言っているのか自分でもよくわからないけれど。

★★☆

著者別読書感想(白石一文)

【関連リンク】
 9月後半の読書 渇いた夏 柴田哲孝、女系家族(上・下) 山崎豊子、定年後 年金前 岩崎日出俊
 9月前半の読書 新編 銀河鉄道の夜、切れない糸、音もなく少女は、SOSの猿
 8月後半の読書 時が滲む朝、追風に帆を上げよ クリフトン年代記第4部、午前三時のルースター、八朔の雪

[PR] Amazon 書籍 売れ筋ランキング

ビジネス・経済

ビジネス実用本

新書

文庫

文学・評論

コミック

ゲーム攻略・ゲームブック


ハヤカワ・ミステリ  

創元推理文庫

新潮文庫

講談社文庫

角川文庫

集英社文庫

岩波文庫


文芸作品

ノンフィクション

ミステリー・サスペンス

SF・ホラー・ファンタジー

歴史・時代小説

経済・社会小説

趣味・実用


リストラ天国TOP
おやじの主張(リストラ天国 日記INDEX)
著者別読書感想INDEX


Amazon売れ筋ランキング

ドライブレコーダー売れ筋ランキング

レーダー探知機本体売れ筋ランキング 

カーナビゲーション売れ筋ランキング


車用タイヤチェーンの売れ筋ランキング

車体カバーの売れ筋ランキング

バイク工具/メンテナンス売れ筋ランキング

車/バイク用オイル売れ筋ランキング


960
渇いた夏 (祥伝社文庫) 柴田哲孝

「私立探偵・神山健介シリーズ」の最初の作品で、2008年に単行本、2010年に文庫化されています。著者は元々はフリーカメラマンや冒険家として活躍後、ノンフィクション、フィクションとその活躍の場を拡げてきたという多彩な才能の持ち主です。

著者の作品では過去に「KAPPA」と「Tengu」の「有賀雄二郎シリーズ」を読みましたが、いずれも意外性と物事の洞察力に光ったところがあり、なかなか面白かった記憶があります。

この小説は私立探偵ハードボイルドで、チャンドラーやロスマク、パーカーなどの影響を受けた小説を最近はあまり読んでいなかったので、すっかり魅了されることになりました。

私の好きな日本の私立探偵小説では、大沢在昌氏の「佐久間公シリーズ」は「心では重すぎる」が2003年文庫化されて以降出ていないし、原りょう氏の「私立探偵沢崎シリーズ」も2007年に「愚か者死すべし」が文庫化されて以降出ていません。

内容は、たった1人残った肉親だった叔父が、福島県の西郷村にある自宅近くの湖で水死し、警察は自殺と判断します。東京で保険調査員をしていた主人公は仕事を辞め、残された叔父の家を相続し、部屋に残された写真や行動の痕跡から不審な死の謎を探っていきます。

調査をしていると、夜道でその筋の男達に「余計なことをするな」とボコられたり、叔父となんらかの接点がありそうな謎の女性が近づいてきたりと、いかにも私立探偵小説らしく話しが展開していきます。

ストーリーは割と単純で、ミステリーファンなら半分も読まないうちに、真犯人がわかってしまうかも知れません。よくあるパターンで「早くから登場しつつ、一番怪しくないのが真犯人」はここでも十分に活かされてます。あ、言っちゃった。でもさらにもうひとひねりされていますので、犯人が想像できても最後まで十分楽しめます。

この主人公神山健介のシリーズは、「早春の化石」(2010年)、「冬蛾 私立探偵」(2011年)、「秋霧の街 私立探偵」(2012年)、「漂流者たち」(2013年)とすでに5作出ています。夏→春→冬→秋+αで、季節四部作+α(東日本大震災)となっています。気に入ったのでさっそく買ってこなくっちゃ。

★★☆

著者別読書感想(柴田哲孝)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

女系家族 (新潮文庫)(上・下) 山崎豊子

「じょけい」と読むものとずっと思っていましたが、「にょけい」が正しい読み方なのですね。今から52年も前、1963年に発刊され、その後映画(1963年)やテレビドラマ(1963年、1970年、1984年、1991年)化されていますから、中高年以上の人にはお馴染みのストーリーなのかも知れません。私はまったく予備知識なく読みました。

物語の舞台は、大阪・船場の老舗木綿問屋「矢島商店」。タイトルにあるとおり、この問屋を経営する名門家は、過去代々番頭の中から婿養子をとる女系の家という設定です。

なんだかそれだけで、いかにも大正・昭和時代の家制度が華やかしき時代の上流社会の華麗なドラマですが、両親が亡くなったあとの華燭の三人娘(長女は出戻り、次女は既婚ではあるが)とくれば、それはもう話のネタには困りません。

有名な谷崎潤一郎著の「細雪」(1948年)も同じく大阪・船場が舞台で、美しい四姉妹を中心に展開される耽美な物語ですが、こちらの三姉妹は莫大な遺産相続を巡り、人間の欲望をむき出しにした壮絶なる家族同士の憎しみや、金持ち一家の傲慢さでドロドロしています。

亡くなった繊維問屋の当主(入り婿)には女系の三姉妹と、それ以外に今で言うところの愛人がいて、遺産相続の欲の固まりになっている三姉妹と分家させられた叔母、そして取引先からのリベートや先祖代々からの財産を横領しようとする老獪な大番頭も絡み、財産のぶんどり合戦が延々と繰り広げられます。

お金持ちの家の遺産相続ってこういうことが起きるのですねぇ、、、いや、お金には縁のない家に生まれた私を含めた大多数の人には関係のない話しですけど、他人事で遠い世界で起きていることだけに、派手なほど面白く、大いに娯楽として楽しめるってやつです。

結構、その財産分与について、それぞれのいやらしい思惑が詳細に長々と書かれていて、それをもって長編小説でございっていうのもなんだかつまらない気もしますが、こうした他人の懐をのぞき見るような小説が好きな人にはたまらないのかも知れません。私はそんな細かなことことはどうでもいいやって途中で飛ばし気味でした。

そして最後のどんでん返しは、それまでに溜まってきた鬱憤を一気に晴らす効果もあるのでしょうけど、それについてはここでは触れないで起きましょう。今までの事細かに書かれてきた遺産を巡る戦いはなんだったの?って終わり方です。

著者山崎豊子氏の小説と言えば、実際に起きた事件や史実を元にして、実在するモデルがいる小説と思われていますが、この女系家族までは自身の実家での経験やそれを元にした創作がベースになっていて、特定のモデルがいたわけではなかったそうです。この小説以降にそうした方向へ転換したようですね。

★☆☆

著者別読書感想(山崎豊子)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

定年後 年金前(祥伝社新書231) 岩崎日出俊

わかりやすいタイトルで、2011年に発刊された新書ですが、いよいよ自分も現実の問題として身近な話しとなってきたので興味を覚え買ってきました。

つまり会社の定年を迎える60歳と、年金が(フルに)受給できる65歳の間、お金の問題をどうしましょう?っていう話しが中心の本です。

たっぷり退職金がもらえた団塊世代以前や手堅い公務員はともかく、中小零細企業の勤務者や、途中で転職をしている人は退職金はあまりあてにはできません。最近は中小企業をはじめ、ベンチャー企業など最初から退職金を制度としては取り入れてない、あるいは廃止している会社も多いです。

国としては、「高年齢者雇用安定法」の改正をおこない、定年後はこれでなんとかしてくださいってことですが、これにはいろいろと抜け道や問題があって、ほどほどに機能するのは感覚的に半分ぐらいの人かなって思っています。

この本でも「罰則がない法律なので遵守しない会社も出てくるだろう」「定年延長ではなく再雇用制度を選ぶ企業がほとんどで、その場合給料は半分以下」「元部下の指揮命令下に入って、心穏やかな人は少ない」など様々な問題が書かれています。

ま、いずれにしても、親の財産でもなければ、いま50代以下の人で、年金だけで満足いく老後の生活がおくれる人は少なく、定年後もなんらかの収入を得ないと老後破産じゃないけど厳しい老後となるのは確実で、そうならないよう、いろいろとシミュレーションしながら考えましょうというノリの本です。

個人的には、そうした定年後の具体的な計画を作る際にいろいろと参考になり背中を押される話しで、当ブログで書いてきた中高年の危機的扇動雑談ネタと比べるとはるかに役に立つものと思います(反省してます)。

一応参考までに手前ミソですが当ブログの定年後や年金関連の過去記事のリンクを貼っておきましょう。

もらえる年金の額はモデルケースとは違うということ

年収600万円と1100万円の生活の違い

高齢者向けビジネス(第3部 仕事編)

旺盛な高齢者の労働意欲は善か悪か

仕事を引退する時、貯蓄はいくら必要か

高齢就業者と非正規雇用

中高年者の雇用不安


★★☆

【関連リンク】
 9月前半の読書 新編 銀河鉄道の夜、切れない糸、音もなく少女は、SOSの猿
 8月後半の読書 時が滲む朝、追風に帆を上げよ クリフトン年代記第4部、午前三時のルースター、八朔の雪
 8月前半の読書 超・格差社会アメリカの真実、恋する空港-あぽやん(2)、津軽殺人事件、恐山殺人事件



リストラ天国TOP
おやじの主張(リストラ天国 日記INDEX)
著者別読書感想INDEX
ブログ内検索
プロフィール
HN:
area@リストラ天国
HP:
性別:
男性
趣味:
ドライブ・日帰り温泉
自己紹介:
紆余曲折の人生を歩む、しがないオヤヂです。
============
プライバシーポリシー及び利用規約
Template & Icon by kura07 / Photo by Abundant Shine

Powered by [PR]


忍者ブログ