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赤猫異聞 (新潮文庫) 浅田次郎

単行本は2012年、文庫版が2014年12月に発刊されました。文庫が出るとなにも考えずすぐ買ってしまう浅田次郎氏の長編時代劇です。

赤猫とは元々は「赤猫を這わす」ということから火付けや放火を意味する江戸時代からある隠語のようですが、それが転じて火事を意味することも多いようです。

ちょうど10年前、2005年に読んだ重松清著「疾走」の中では、主人公の兄の放火犯を「赤犬」と呼び、その家族を村八分にする土地の話しが書かれていたのを思い出しましたが、地域によって猫だったり犬だったりするのでしょう。

昔から「喧嘩と火事は江戸の華」と言われるぐらいに、江戸ではしばしば大きな火事に見舞われています。

そして、今で言う刑務所、江戸時代は牢屋敷と呼ばれていましたが、そこに閉じこめられていた罪人も、その大火が近くまで迫ってきた時には、一時的に解き放ちがおこなわれることがあります。

物語の時代は慶応から明治に変わり、その元年の暮れも押し詰まった頃、ちょうど江戸の牢屋敷で不可解な斬首の刑が実行されようとしていた時に、半鐘が鳴り響きます。火事が起き火が迫ってきたことから、牢につながれていた罪人達の解き放ちが実行されます。

その中でも重罪人と言われているのが「客分で招かれていた地場の親分に裏切られ、賭場の全責任をかぶらされた信州無宿繁松」、「旗本の次男で新政府の役人相手に夜な夜な辻斬りをしていた岩瀬七之丞」、「悪党の与力にうまく利用された末に捨てられた夜鷹の元締めで江戸三美人の白魚のお仙」の3人です。

解き放ちの際にこの重罪の3人だけは後々面倒だから大火事のどさくさに紛れて切って捨てようとした同心仲間を信義にもとると説得し、「三人のうち一人でも戻らなければ戻った者は死罪、三人とも戻れば全員が無罪、全員が戻らなければ牢屋の鍵役同心が切腹」という妙な条件を付けて解き放されることに決まります。

そして、時代は平和な明治に飛んで、その三人や番人から解き放ち後に起きた不思議な出来事を伝聞として書き残すため、役人が聴き取りに回るというストーリーです。

こういうストーリーは黒澤映画にもなった芥川龍之介の「藪の中」で使われたものと同様の流れですが、最後に「種明かし」と「浅田流泣かせ処」が用意万端整えられています。

とっても面白かったです。おそらく「壬生義士伝」同様、そのうち映画化が企画されるのではと思います。

著者別読書感想(浅田次郎)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫) 真梨幸子

2008年に単行本、2011年に文庫化された大ヒットしたミステリー小説です。最初はタイトルから受ける印象は、山田宗樹著の「嫌われ松子の一生」みたいな話しかなぁと思っていましたが、読んでいる途中には百田尚樹著の「モンスター」にも似ているか?と感じたり、過去に読んだいろんな作品が頭の中をよぎります。

ネットではこの小説の仕掛けについて喧喧囂囂と議論や感想が述べられていますが、私も最後まで読んだ後、ちゃんと内容が理解できていませんでした。

ネットでのネタ晴らしを読んで「あーそうなのか」ってわかったぐらいです。頭がよくて勘のいい人ばかりじゃないのだから、そんなにややこしい仕掛けにしなくてもいいのになっていう感想です。

最初からどうも凝りすぎていて途中でどうなっているのかスッキリしないまま読み進めていくことになりますが、こうした最後まで読んだあと、再び最初の話しを読み返して考えないと気がつかないというマニアックな内容がいいと言う人がいるのでしょうかね。

内容はとにかく、自分の都合で簡単に人を殺して、証拠隠滅のため解体したり、子供を虐待して死なせたりと、やたらと殺しやいじめのシーンが平板に出てくる後味の悪い小説です。

ま、ミステリー小説の中で殺人が起きるのは半ば常識ですが、それにしてもちょっとやり過ぎの感があって、あまりにも非現実的なホラー色、カルト色満載で、どこか未知の世界の出来事って感じですが、そういうのがたまらなく好きっていうマニアがいても、小説の世界ならば別に不思議ではありません。私個人的にはもういいですけれど。

著者別読書感想(真梨幸子)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

モップガール (小学館文庫) 加藤実秋

2007年に単行本、2009年に文庫化された小説で、その後シリーズ化され2012年には続編の「モップガール2 事件現場掃除人」が発刊されています。

また2007年には小説と設定が少し違っているようですが、北川景子主演でテレビドラマ化もされています(見たことありません)。

元々はテレビドラマ化をする目的で書かれたということで、登場人物、ストーリーともわかりやすくというか単純に描かれています。

内容はアルバイト募集の広告を見て、清掃会社で働くことになった主人公の若い女性は、仕事をしてみてビックリ、事件や事故の生々しい現場の後を掃除するいわゆる特殊清掃もおこなっている会社です。

次々人が殺される「殺人鬼フジコの衝動」のあとにまた生々しい殺人現場の小説かい!って思わなくもないですが、たまたま山積みにされた中から手に取ったのがそれというだけで、他意はありません。

作品は連続テレビドラマ化に便利なように、連作短編形式で、主人公の女性が特殊な各清掃現場で、突然体調に異変が起き、五感に直接訴えかけられ、それが事件の謎や真相を暴き出すという単純な流れです。

なので最初の1話を読んだ後は、その変形バージョンの繰り返しに過ぎず、やや興味も落ちてしまうのが難点かな。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

「意識高い系」という病~ソーシャル時代にはびこるバカヤロー (ベスト新書) 常見陽平

著者は典型的な元リクっぽい感じで、頭はいいのだろうけど、理屈が多くて好きには慣れないタイプの人だなと思っていましたが、面白そうなタイトルにひかれて読んでみました。

著者も自ら20代の頃は「意識高い系(笑)」だったと述べていて、その経験を元に、アラフォーになった現在(出版は2012年)振り返ってみて感じたことが書かれています。

Amazonのこの新書の書評では散々なことを書かれていますが、私は読んでみて意外?とすんなり納得のいくところも多々あり、バラエティ番組をボーとみているかのように楽しく面白く読めました。著者もプチ炎上商法をうまく利用されているそうなので、賛否両論あるのは承知の上のことでしょう。

私のような団塊世代と団塊ジュニア世代に挟まれたいわゆる「しらけ世代(笑)」にとっては、団塊世代に散々いいように使われ、振り回されたあげく、今度は団塊ジュニア世代から突き上げられたり、中途半端とバカにされてきて、その両世代には恨み神髄というか、気持ちは分かり合えないものと自覚しています。

著者はその団塊ジュニアど真ん中な人で、団塊世代の中にも少なからずいた自意識過剰気味なリーダー的存在と、文字通り親子そっくり似ていると言わざるを得ません。

いや、著作がつまらないというのではなく、人間的な暖かさがないというか、上から目線で下々を嘲笑している感じが、常に引け目や負い目を感じている人(私)にとっては、なんだか身につまされる思いがするのです。

内容は、「意識高い系(笑)」の若者の時代的な変化や生態を面白おかしくまとめたもので、一緒になって「あるある」と嘲笑した向きには著者と一体感がもてるのではと思われます。


【関連リンク】
 1月後半の読書 殺し屋ケラーの帰郷、模倣犯(1)~(5)
 1月前半の読書 羊の目、シティ・オブ・ボーンズ、日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率、ボトルネック、銀の匙
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殺し屋ケラーの帰郷 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション) ローレンス・ブロック

殺し屋 Hit Man」(1998)、「殺しのリスト Hit List」(2000)、「殺しのパレード Hit Parade」(2006)、「殺し屋 最後の仕事 Hit and Run」(2008)に次ぐシリーズ5作目の短編で、2014年11月に出版(翻訳版)されました。

同シリーズは2作目と4作目が長編ですが、その4作目「殺し屋 最後の仕事」では、大統領候補殺害の容疑をかけられ、全米に指名手配されるという罠にはめられたものの、その窮地をしのぎ、手をさしのべてくれた女性と結婚し、子供ができて、家のリフォーム会社を立ち上げ、ハッピーエンドでこのシリーズも終わったかのように見えましたが、この続編が出ていました。

この作品は1作目、3作目と同様の連作短編で、「ケラー・イン・ダラス」、「ケラーの帰郷」、「海辺のケラー」、「ケラーの副業」、「ケラーの義務」からなっています。

ハリケーンカトリーナによる住宅被害拡大で順調にいっていたリフォーム会社は、全米を揺るがしたサブプライムローン問題によって住宅バブルがはじけてしまい、ケリーは一気に失業状態になります。

と、そこへ殺人の委託を受ける昔の仲間ドットから電話がかかってきます。「また始めようと思うのだけど、あなたに知らせないわけにはいかないでしょ?」と。

ま、流れは以前と変わりありませんが、今までのようになにも悩みなくクールだった殺し屋も、今は妻と子を抱え、本業の共同経営者との関係もあり、その葛藤が加わります。

また仕事が暇になったらなったで、切手収集の趣味もさらに高じ、そのオークションの模様なども本作品では詳細に取り上げられたりと、マンネリ化を防ぐためか?なかなか努力の痕跡が見られます。

しかし切手の趣味は奥が深すぎて、興味がない素人読者には理解しがたく、なんだか著者の思い入れだけが空回りしているかなって感じられます。

著者別読書感想(ローレンス・ブロック)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

模倣犯(新潮文庫) (1)~(5) 宮部みゆき

2001年に単行本、2005年に文庫化された長編小説です。

2002年には森田芳光監督、中居正広主演で映画化もされましたが、著者はどうもその出来には満足していなかったようです。

ま、アイドルが主演する映画になにを期待するかでしょう。

なんといっても文庫本にして5巻、2500ページを超える大作だけに、わずか2時間の映画にそれだけのエッセンスを入れ込むのは誰がやっても難しいところです。

いっそ映画も3作6時間ぐらいで作ればよかったかも知れません。客は激減したでしょうけど。

登場人物ひとりひとりに対する背景や心情が念入りに、そう必要以上に念入りに、書き込まれていて、それがやや鬱陶しく感じられるかも知れません。

私は途中からどうでもよさそうな箇所はすっ飛ばして読みました。そうしないと、いつまでもどうでもいい著者の登場人物への思い入れに付き合わされることになります。

内容は連続誘拐事件を扱ったミステリー小説で、その内容は大きく3部に分かれています。

1部は若い女性の行方不明事件とその関係者と思われる遺体遺棄事件が勃発し、被害者やその遺族、犯人を捕まえようとする警察側が主体となって描かれます。そして犯人がエスカレートしていきます。

第2部は今度は犯人側の心理や、事件に至る背景、その関係者などが詳細に書きつらねられます。つまり謎だった犯人や動機などは早々に明かされていきます。

第3部では被害者、警察、ジャーナリスト、犯人、犯人の知人、遺族、加害者の家族など、過去に出てきたオールスターキャストが揃います。要はこのクライマックスに向けて第1部と第2部では淡々と仕込まれてきたという感じです。

とにかく長いです。大河小説や人の一生を描くように何十年と経過するようなものではなく、わずか数ヶ月~半年の出来事なのにです。集中して読むには目も肩も凝りました。

著者からすれば犯罪小説の歴史に残る壮大な人間模様を創り上げてきたのでしょうけど、ちょっと行き過ぎ感があります。

で、面白かったか?と聞かれればストーリーとしては面白かったです。同じ内容で文庫2冊にまとめてもらえれば、もっと面白かったでしょう。

著者別読書感想(宮部みゆき)

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羊の目 (文春文庫) 伊集院静

最近著者の作品で目に付くのは女性が主人公で甘ったるい恋愛ものが多く、食傷し少し敬遠気味でしたが、「これぞ待っていました!」といえる、人間味あふれるハードボイルド的な小説で、2008年単行本、2010年に文庫化されました。

侠客と言うと「ヤクザとどう違う?」とか「昔のギャンブラーでしょ?」とか言われそうですが、正式には「強きを挫き、弱きを助ける事を旨とした任侠を建前とした渡世人の総称」(wikipedia)ということで、江戸時代から昭和初期頃までに流行った伊達で粋な男の生き方を具現化した言葉です。

世知辛い自己中の今の世の中ではすでに死語となっていますが、実在した人物としては会津小鉄、国定忠治、清水次郎長など、フィクションでは木枯らし紋次郎などが侠客と言えます。

昨年亡くなった高倉健さんがデビュー初期の頃に演じていた役もそれに近いものがありそうです。

その侠客、任侠の世界とハードボイルドを描いたのがこの作品で、まだ日本が貧しかった戦前に生まれ、夜鷹だった母親に捨てられた子が成長し、育ててくれた親を命を賭けて守り抜くことを唯一の生き甲斐とし、汚れ仕事を引き受け、殺人罪で刑務所にもつながれ、戦後のヤクザの縄張り争いに巻き込まれます。

そしてその親にも裏切られ、果てはアメリカへ逃げたあとも地元のマフィアと血を血で洗う戦いに発展するという壮大な男の生き様を描いています。

ちょっと話しが時代を一気に飛び過ぎるきらいがありますが、それだけスピード感があって、430ページはあっという間に読む終わるなかなかワクワクする面白い小説でした。

著者別読書感想(伊集院静)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

シティ・オブ・ボーンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫) マイクル・コナリー

ボッシュシリーズの8作目で2002年の作品で日本語版は2005年に発刊されています。530ページを超える長編で、起承転結が丁寧に書き込まれていて、私にとってはこれぐらいがちょうどいい長さです。

ストーリーはロス郊外の住宅地の森の中から、近くの住人の犬が人間の骨を加えて戻ってきたことから20年前に起きた殺人事件が明らかになってきます。

20年前の骨の特定について、その行方不明者が簡単に判明するところは都合良く端折りすぎって気もしますが、その発見された骨によって、近隣に住む前科がある住人が自殺に追い込まれ、また別で捜査に当たっていた警察官が犠牲となります。

概ねこのシリーズはそうですが、主人公(ボッシュ刑事)の過去のいきさつを知らなくても、単独でも十分に読み応えがあり、楽しめます。それで面白いと思えば、過去にさかのぼってみるもよし、さかのぼらずに新しい巻を読むもよしです。

この8作目ではボッシュは離婚後の1人住まいで、事件現場で知り合った、既婚の新人女性パトロール警官に一目惚れをしてしまいます。

そして会ってすぐに自宅へ連れ込み、やがては警察署中に知れ渡るという軽率で妙な行動を起こします。

強いヒーローを描くのに疲れたのか、ちょっと色気を出したかったのか、不明ですが、その女性警察官が変な死に方をすることで、事件はボッシュの活躍で無事に解決しても精神的に重い荷物を背負うことになり、最後はロス市警を自主的に退職することになります。

著者別読書感想(マイクル・コナリー)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社+α新書) 浅川 芳裕

著者の浅川氏は1974年生まれの雑誌「農業経営者」の副編集長で、株式会社農業技術通信社の専務取締役です。

いわゆる農業ジャーナリストといったところでしょうか。この本は2010年に発刊されていますが、その後もこの手の本を出しておられ、2012年には続編とも言える「TPPで日本は世界一の農業大国になる」が発刊されています。

普通、記者やライターとして農業行政について書く場合、農林水産省やJA(農協)の発表することをそのまま書くことで楽もできるし、お金も得られるというものです。

この著者はタイトルを見てわかるように、真っ向そうした機関や組織を糾弾し、過去から延々と続けられている既得権益などに舌鋒鋭く批判をしていて、「おいおい、そこまで言っていいのか?」ってちょっと心配になったりします。

例えば、日本の農業は中国、アメリカ、インド、ブラジルに次いで世界第5位の生産額があり、先進国の中ではトップランクであるに関わらず、世界でも日本しか使わないカロリーベースの自給率を無理矢理官僚が算出して、自給率が30数パーセントしかないというのはナンセンスとしています。

自給率をカロリーベースに変更したのはそのほうが自給率が低く見えるからだそうです。

国が使うカロリーベースでの算出でおかしいのは、カロリーが低い野菜や果物は低くなりいくら作っても数字には反映されないことや、期限切れや食べ残しで破棄されている大量の食品も自給率が低くなるよう分母に含まれ実態とはかけ離れていることです。

カロリーベースではなく、国際標準である生産額ベースで自給率を見るべきだと至極まっとうな意見です。

なぜそういうことになっているかと言えば、食料自給率が低いと日本国民に植え付けることで危機感を煽り、農水省はその対策予算として多くの税金を得て、それが天下り先の機関に回り、傘下のJAや農家に補助金という形で回る仕組みが維持できるからと書かれています。

国際標準の生産額ベースで見ると日本の農業の自給率は決して低くなく、プロ農家の健全な育成にとって邪魔になっているだけの農水省や、票が欲しいがために主たる収入は農業以外という兼業農家にまで補助金を回そうとする政治家を厳しく糾弾しています

常識に考えてもいま米が余って減反政策などをおこなわれていますが、減反した農地でなにも作らず放置しておけば国から補助金がもらえ、その土地を市場のニーズに合わせて有効活用しようとすると補助金がもらえないという変な仕組みになっています。

つまり片一方では自給率を上げないように補助金(税金)がばらまかれているわけです。

そして農水省が「自給率を上げよう」と訴える広報宣伝費(もちろん税金)は何億円にも及び、それが広告代理店の電通を通じてマスコミにばらまかれ、新聞やテレビはそれで黙らされてしまい、大本営発表のカロリーベースの自給率を根拠に危機感を煽る手伝いをしています。そしてそれは小学生が使う検定済みの教科書にまで及んでいます。

とにかくこの本を読むと、農水省や政治家(この本では当時民主党政権だったため民主党への批判が強いですが自民党も同じです)への怒りが沸々とわいてくるのは間違いありません。

ブラックボックス化された農林水産業について、知らなかったことも多く、騙されていたってことがわかります。

この本一冊では巨大な利権構造を崩すまでには及ばないでしょうけど、やる気をなくす国の補助金などに頼らず、品質と生産性を上げ、世界と渡り合える農業を志す組織的な農業法人や農業だけで生活を支えるプロ農家も増えてきているそうで、少しホッとさせられます。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ボトルネック (新潮文庫) 米澤 穂信

著者は2001年にデビューした若手の推理小説作家で、この本が8冊目の長編小説となり2006年に単行本、2009年に文庫が発刊されています。

私はこの著者の作品を読むのは今回が初めてですが、9作目の作品「インシテミル」(2007年刊)が原作となり、数年前に「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」というタイトルで映画化されているのは知っていました。

どちらかと言えば、若者向けのライトな小説がお得意ジャンルらしく、本書も主人公は高校生、舞台は北陸の金沢で、事故で亡くなった恋人を偲び、その事故が起きた場所へ行ったときに、突然恋人が生きたままいる別の次元へ移ってしまうパラレルワールドもので、突飛押しもないはちゃめちゃなお気楽設定です。

ま、なんというのでしょうか、自分の高校生の頃と比べるとあまりにもその落差があり(もちろん小説の主人公のほうがずっと知性があり物知りで大人)、テレビドラマなんかでもよく出てくる「大人がかなわない都合よくたいへんよくできた子供」って感じがして、当然のごとく感情移入も懐かしさもなく、ふ~んって感じ。

本離れと言われる中・高校生にちょっとでも興味を持ってもらうために、こうした小説があるのは否定しませんが、中高生の感性を引きずったままの大人以外の大人が読むには少し無理がありそうです。

著者別読書感想(米澤穂信)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

銀の匙 (岩波文庫) 中勘助

著者は1885年(明治18年)生まれの詩人で、お金を得るために仕方なく書いたというのが本作品とのことです。本作品は元々夏目漱石の推薦で朝日新聞に連載小説として掲載され、1921年(大正10年)に出版されたものです。

内容は著者の自伝的回想録に近いもので、身体が弱く病弱だった幼年~少年時代の思い出を、元々は詩人である著者が、美しい日本語を使って書いています。

主人公が生まれたときは難産で母親の具合が悪く、幼児の頃ずと伯母に育てられていました。

主人公も病弱だったため友達が出来ずに、いつも近所の子供らにいじめられてばかりです。それ故に育ての親の伯母とは深い絆で結ばれていてその様子が叙情的に描かれます。

タイトルの銀の匙(さじ)は、幼児の頃、箪笥の引き出しをあけて、中をひっくり返してみたら、中から銀の匙が出てきて、それをなにか不思議に懐かしさを覚え、母親に頼んで自分のものにします。

そして大人になった今でも大切にその銀の匙を持っています。その銀の匙は、まだ物心が付かない赤ちゃんだった頃に、当時少しでも健康になるようにと漢方薬を飲むときに使われたものでした。

私はなにも事前知識がなくこの本を買って来て読みましたが、最後の解説などを読むと、この古典に近い小説は現代では失われつつある美しい日本語文章の最高のサンプルと言えるものだそうで、ところどころに古い言葉など意味がわからないところもありますが、読後はなにかまっとうな日本語に久しぶりに触れたような清々しい気分になれます。


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886
今年もやります、管理人が独断と偏見で選ぶ、昨年読んだ中から超お勧めベスト本です。

昨年2014年に読んだ本は113冊(月平均9.4冊)で、上・下巻など複数巻ある本を1話と勘定すると101話となります。

一昨年2013年は98冊86話でしたから、15冊15話増えましたが、2012年は130冊読みましたので、それと比べると減少しています。

今年増えた理由はよくわかりませんが、たぶん一昨年より昨年のほうが仕事が暇だったのでしょう(笑)。

読む本のジャンルはできるだけ偏らないように意識して気をつけてますが、やはり気楽に読めて好きなミステリー小説が多くなるのは仕方がありません。

それと昨年は「Amazonオールタイムベストブック」からピックアップしてきた本が結構入っています。

昨年読んだ113冊の本の内訳は、「ビジネス書やエッセイ、ノンフィクション」が26冊26話、「外国の小説」が17冊13話、「日本の小説」が70冊62話となっています。

まずはビジネス書やエッセイ、ノンフィクション部門です。

いくつか強烈に印象に残っているものもあれば、すっかり忘却の彼方というのもあります。小説よりもその落差が大きいです。

26冊の中で、強く印象に残っているのは、

 田舎暮らしに殺されない法 丸山健二
 田舎暮らしができる人 できない人 玉村豊男
 人間の土地 サン=テグジュペリ
 冷血 カーポティ
 宿命―「よど号」亡命者たちの秘密工作 (新潮文庫) 高沢 皓司
 嘘つきアーニャの真っ赤な真実 米原万里
 旅をする木 星野道夫
 医療にたかるな 村上智彦
 政治家の殺し方 中田宏

で、その中から、ベストを選ぶと「冷血」、次点に「人間の土地」となります。
この二つはいずれも世界の中でもベスト書籍にも選ばれるだけあって、それらと比べられるのも気の毒な話しです。でもここは独断で。

「冷血」の感想は「783 1月前半の読書と感想、書評」
「人間の土地」は「849 8月後半の読書と感想、書評」
にあります。

トルーマン・カーポティは、「ティファニーで朝食を」を書いて一躍有名になった作家で、この「冷血」は小説ではなく1959年にアメリカで起きた一家殺人事件の関係者を徹底取材し、事件の背景から逮捕に至るまでの経過、そして裁判で死刑が確定、執行されるまでをノンフィクションとして書き上げ1965年に発刊されたものです。

読んでいると、なんの恨みも罪もない一家全員をわずかばかりの金欲しさに殺害するという、身の毛もよだつという事件を起こした二人の犯罪者にことが周囲の多くの人から語られ、またその事件の前後の行動は決して重犯罪を起こす(した)ようには見えず、普通の人があまり深く考えずに殺人やその他にもモロモロの犯罪を平気で犯していく様子が平板に描かれています。

この作品以降、同様の手法で、実際に起きた事件を元にノンフィクションとして、または実際の事件を下敷きにしたフィクション小説が多く作られるようになりました。

ただ昔と違って現在では実名はもちろん、仮名で書いたとしても、それとわかるものなら名誉毀損で訴えられる可能性があり、例え事実だけを書いたとしても巨額の賠償金を科せられるおそれがあるだけに、作家としてはリスクを背負う難しいジャンルでしょう。


  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

次に17冊(13話)の海外小説部門ですが、特に面白かったのは、

 動物農場 ジョージ・オーウェル
 ある微笑 フランソワーズ・サガン
 殺し屋 最後の仕事 ローレンス・ブロック
 卵をめぐる祖父の戦争 デイヴィッド ベニオフ
 シッダールタ ヘルマン・ヘッセ
 春嵐 ロバート・B・パーカー

その中から私が選んだのは「卵をめぐる祖父の戦争」に決定!です。次点は「殺し屋 最後の仕事」と、パーカーの遺作ということもありオマケして「春嵐」の2作ということで。

「卵をめぐる祖父の戦争」の感想は、「797 2月後半の読書と感想、書評」
「殺し屋 最後の仕事」は、「789 1月前半の読書と感想、書評」
「春嵐」は「805 3月後半の読書と感想、書評 」
にあります。

「卵をめぐる祖父の戦争」(2010年)は、ユダヤ人の自分の祖父が経験した壮絶なる戦争体験を聞かされるという日本でもよくありがちな設定ですが、リアリティがあり、また歴史上の必然性があり、そしてウイットにも富んだ素晴らしい作品です。

460ページ超えとちょっと長めの作品ですが、一気に読み終えることでしょう。タイトルがちょっと変わっていますが、読めば真意がわかります。

「殺し屋 最後の仕事」は、これ単独ではベストとは言えず、今回は次点に入れましたが、過去から続いてきた「殺し屋ケリー」はたいへんよくできた傑作なシリーズ(前作までは連作短編)で、その総集編的な意味合いがありました。

結局今年にこの続編が出ていますので、これで最後ってわけではなかったのですが。もし読む場合は、シリーズの初め(「殺し屋」)から読むことをお勧めします。さすがにもう一般の書店には置いてないでしょうけど。


  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

さて70冊62話ともっとも数の多い日本の小説部門です。ミステリー系、純文学系、SF・ホラー系などジャンルに分けるべきかなと一瞬考えましたが、分別が面倒なので全部一緒くたで。

また諸般の事情により、昨年発刊された新作本よりも、古典作品を含め、数年前の小説がメインです。

印象に残り、さらに読後に面白かったなぁって思ったのは、

 親鸞(上)(下) 五木寛之
 博士の愛した数式 小川洋子
 二人静 盛田隆二
 東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン リリー・フランキー
 ダイスをころがせ! 真保裕一
 砂の女 安部公房
 塩狩峠 三浦綾子
 天地明察 冲方丁
 木暮荘物語 三浦しをん
 蝉しぐれ 藤沢周平
 それでも、警官は微笑う 日明恩
 西の魔女が死んだ 梨木香歩
 去年はいい年になるだろう 山本弘
 戦闘妖精・雪風(改) 神林長平

さて、その中で大賞は、、、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダン、ダン・・・ジャーーン

東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」(2005年) リリー・フランキー著です!

えっ?とってもありきたり?

う~ん、、、でも「事実は小説よりも奇なり」って言葉があるように、実体験を多少脚色はするだろうけど書いた小説って、やっぱり真に迫っていて面白い。どこにも創作の無理や矛盾がない。私は涙は流さなかったけど、最後の亡くなった母親をみんなが見送るシーンは多くの人がきっと涙したでしょう。

健さんの映画「南極物語」も、裕ちゃんの映画「黒部の太陽」も、もし完全創作だったらあれほどメジャーな話しにはならなかったでしょうし、事実を元にした作品はやっぱり強い。本来プロの作家はそうしたものに打ち勝たなければならないので大変でしょう。

「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」を読んだ感想は、「879 11月後半の読書と感想、書評」

最後まで悩んだ次点には「親鸞」(2010年)と「二人静」(2010年)。

「親鸞」は仏教になにも興味がなくても軽いエンタテーメントとして読める歴史小説で、タイトルをもう少しライトに違ったものにすれば若い人にも取っつきやすくていいのになと思います。

逆に団塊世代を含む高齢者向けだとしたら内容がちょっと奇抜すぎて子供向けっぽい感じです。

続編の「親鸞 激動編」(2012年)も昨年中に読みましたが、激動というには「親鸞」と比べるとインパクトは薄れていて、なんとなく歴史に沿って淡々と書かれたって感じです。もちろん事実とは違って創造の産物がメインです。

「親鸞(上・下)」の感想は「818 5月前半の読書と感想、書評」
「親鸞 激動編(上・下」は「879 12月前半の読書と感想、書評」

「二人静」は近年大きな社会問題となっている高齢の親の介護をしながら働くという難しさや、情緒不安定な子供を持つシングルマザー、そして大人の淡い恋愛をうまくマッチさせたとてもいいストーリーの小説です。

普通であれば重く暗澹となりそうなテーマでありながら、終盤では暖かみさえ感じることができます。

「二人静」の感想は「789 1月前半の読書と感想、書評」


その他「塩狩峠」や「砂の女」は古い小説ですが、多くの人にこれからもずっと読み継がれていくと思ういい小説です。

映画にもなった「博士の愛した数式」は80分間しか記憶が持たない前行性健忘という奇病を扱いながらも娯楽性も豊かで読んで気持ちがホカホカする小説でした。

あまり日本のSF小説は読まないのですが、1980年代に発刊され、当時は本屋に平積みされていてずっと気になっていた「戦闘妖精・雪風(改)」を今回ようやく読むことが出来ました。

30年以上も前に書かれたSF小説なのですが、たいへんよくできていて、今でも古臭さはまったく感じさせません。今後も国産のSF小説の代表作として長く読み継がれることでしょう。

「戦闘妖精・雪風(改)」の感想は、「805 3月後半の読書と感想、書評」


【過去のリス天年間優秀賞】
2013年の結果は「リス天管理人が選ぶ2013年に読んだベスト書籍」
2012年の結果は「2012年に読んだ本のベストを発表」

今年もいっぱいいい本に出会えますように!


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883
ファイアボール・ブルース〈2〉 (文春文庫) 桐野 夏生

11月に読んだ「ファイアボール・ブルース」(1995年)の続編にあたりますが、この作品は長編だった前作とは違い、「入門志願」「脅迫」「リングネーム」「判定」「嫉妬」「グッドバイ」「近田によるあとがき」の7つの連作短編からなり、それぞれが独立したストーリーとなっている2001年の作品です。

最近このような連作短編作品が多くなっているような気がします。これは雑誌や週刊誌などに連載をする都合上、一応1話完結の形式を取り、大きな流れはそのまま継続していくという、商業主義、ご都合主義的な臭いがプンプンしてあまり好きではありません。でもそれを出版社から求められて、断ることが出来る作家さんは日本には10名といないでしょうから仕方ありませんね。

主人公は前作と同様人気実力ともあるあこがれの女子プロレスラーの付き人をしながら、自らもなんとか勝ちたいと練習に励む女子レスラー近田です。

もっとも前作ではエース格のファイヤーボール火渡渉子を最大限に持ち上げ、近田はその陰に隠れてしまった存在でしたが、この作品ではちゃんと主人公となっています。

前作では殺人事件が起きるという派手な展開でしたが、今回はファンからの脅迫状はありますが、概ね女子レスリング団体の中のささやかなコップの中の嵐ってところで、地味ですがより現実的なストーリーです。

ただいかんせん、限られた見識の中での限られた人間関係を展開するので、読む側にそれほどの思い入れがなければ、アッサリし過ぎって言うか、淡々となんの印象も残らず、知らない間に終わっているとなりかねません。私がそうでした。

残念ながら前作での派手な女子プロデビューを超えられなかった2作目ということで、ちょっともったいなかったかな。

著者別読書感想(桐野夏生)

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夜中にラーメンを食べても太らない技術 (扶桑社新書) 伊達友美

2008年発刊と6年前の少々古い新書(古くても新書とはこれいかに)ですが、タイトルに釣られて買ってしまいました。新書は自らを売り込む絶好の機会ととらえ、そこからブレークしていく人も多いのですが、この著者もこの作品の後、自称「ダイエットの女王」様として大活躍されているようでなによりです。

私自身も一時期は腹囲がメタボ診断と下されるほどで、このままではいけないと思い、主として夕食に米を食べない糖質制限ダイエットをおこない、最近はクリアできていますが、それでも夜中にふと小腹が空いて深夜遅くまでやっているラーメン屋へ行きたくなることがよくあります。

我慢できれば一番いいのですが、つい家族や友人を誘ってみて、相手が行くと言えば「ま、仕方ないな」と勝手な言い訳をほざきつつ喜んで食べに行くこともあり、もし本当に夜中にラーメンを食べても太らないというのなら、その秘密をぜひ知りたいものです。

こうしたダイエットに限らず、なんかを指南しようとする人は、「今までのやり方はダメダメ、それはこういう理由、私のやり方はそれとは全然違ってこうこう」って流れが多く、押しつけがましいところが目立ちます。この本の内容もまさにその通りです。

例えば糖質ダイエットの問題として、「糖質を食べないと頭が働かない」など指摘しています。でも毎日朝から晩まで一切の糖分や糖質を断っている極端な人などいるわけもなく(いたらその人は精神的におかしくなっている人でしょう)、せいぜい夕食の1食から米飯を抜いているとか、昼はうどんやそばをやめてサラダだけ食べるとかが普通なのに、「様々な糖質は身体に絶対必要で糖質ダイエットはダメダメ」って否定されてもなぁと反感を覚えたりします。

また電子レンジで暖めると「容器のプラスチックが溶け出して身体に悪い」とか「中の栄養素が破壊される」とか、科学的に証明された根拠ではなく、「・・・と言われている」とか都市伝説じゃあるまいし「そんな話しを聞いた」レベルのことも書かれていたりして、ちょっとどうよ?って思う部分も。

ただ世間一般ですでによく言われているように、ラーメンやカレーライスや肉を食べる前に、先に野菜を食べておこう、身体に悪い食べ物を食べたときはいいものも食べて中和しておこうというのは、この本でもその理由を含めて書かれていますのであらためて参考になります。

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

Another (角川文庫)(上)(下) 綾辻行人

この作品は2009年に単行本、2011年に文庫版が発刊されているホラー・ミステリー長編小説で、その後2011年にシリーズ第2作目の「Another エピソード S」が、2014年からは3作目が野生時代での連載が始まっています。

またアニメや映画も作られていて、映画は山﨑賢人と橋本愛の主演で、2012年に公開されています。

主人公は東京から地方の公立中学校へ転校してきた中学三年生男子。母親は主人公を出産後に間もなく死亡し、研究者の父親と長く二人暮らしをしていましたが、父親の長期海外出張のため、母親の実家で祖父母と一緒に暮らしています。

しかしこの三年三組に転校してきてから、多くの謎に包まれます。というのも、25年前にクラスの人気者だった3年3組の生徒が事故で死亡しますが、クラスメイトや担任がその後もその亡くなった生徒がそのままいるかのように振る舞ったことで、翌年からそのクラスにだけおかしな怪事件が頻発するようになります。

主人公の生徒は事の真相について知らされず、その結果、クラスの中での決まり事を破ってしまいます。そのあたり、小説の中では「今はまだ教えられない」とか「今度話しをする」とか「今日のところはここまでね」とか、思い切り話しを引っ張って引っ張ってなかなか真相やヒントを明らかにせず主人公以上にイライラし、ただ紙の無駄遣いのような気もします。

民放テレビで盛り上げておくだけ盛り上げて、パッとCMに入る山場CMや、スポーツ中継を「このあとすぐ!」とか言っておきながら、30分後にようやく始まったりする騙しのテクを応用しているのか?と疑ってしまい、いらちな自分には不向きとも言える展開です。

内容的には創造性豊かで面白いストーリーだったのに、もう少しスピード感を持って(短気な)読者に配慮して書けば、詰まるところ上下巻に分けなくとも十分1冊に収まりそうな内容だったのがちょっと残念でした。

逆に鯨統一郎氏のように重い深いテーマでも、サラッと軽く短編にして書いてしまう作家さんもいたりして、それぞれが個性なのでしょうけど、作家さんの個性を見分けて選んで読む時代になってきたのかも知れません。

著者別読書感想(綾辻行人)


【今年1年間の読書】
 12月前半の読書 1秒もムダに生きない 時間の上手な使い方 岩田健太郎、骸の爪 道尾秀介、親鸞 激動編 五木寛之、旅をする木 星野道夫
 11月後半の読書 介護退職、沈黙の画布、東京タワー オカンとボクと、時々、オトン、わたしを離さないで
 11月前半の読書 何ものも恐れるな〈上〉(中)(下)、木暮荘物語、ファイアボール・ブルース、梅干しはデパ地下よりBARで売れ!?
 10月後半の読書 シッダールタ、おひとりさまの老後、正義を振りかざす君へ、宿命―「よど号」亡命者たちの秘密工作、肩ごしの恋人
 10月前半の読書 プラナリア、暗闇にひと突き、「反原発」の不都合な真実、クリムゾンの迷宮、監査難民
 9月後半の読書 マスカレード・ホテル、西の魔女が死んだ、オレ様化する子どもたち、ペンギン・ハイウェイ、動物農場
 9月前半の読書 暗く聖なる夜(上)(下)、ロード&ゴー、寝ても覚めても、やさしい人
 8月後半の読書 私の嫌いな10の人びと、人間の土地、きよしこ、奇面館の殺人、俺俺
 8月前半の読書 身を捨ててこそ・浮かぶ瀬もあれ 新・病葉流れて、田舎暮らしに殺されない法、秋田殺人事件・遠野殺人事件
 7月後半の読書 蝉しぐれ、博士の愛した数式、砂の女、嘘つきアーニャの真っ赤な真実、田舎暮らしができる人 できない人
 7月前半の読書 陽だまりの偽り、日曜日たち、人生を無駄にしない会社の選び方、佐賀のがばいばあちゃん、真夜中の神話
 6月後半の読書 月に繭 地には果実(上)(中)(下)、人間失格、去年はいい年になるだろう
 6月前半の読書 絆、クリフトン年代記第3部 裁きの鐘は、男の作法、きみの友だち
 5月後半の読書 塩狩峠、医療にたかるな、オレたちバブル入行組、それでも、警官は微笑う
 5月前半の読書 チルドレン、親鸞、政治家の殺し方、平成関東大震災
 4月後半の読書 下流志向-学ばない子どもたち、働かない若者たち、ダブルジョーカー、真珠湾 十二月八日の終戦、星の王子様
 4月前半の読書 慈雨の音(流転の海 第6部)、天使のナイフ、ある微笑み、ダイスをころがせ
 3月後半の読書 戦闘妖精・雪風<改>、グッドラック―戦闘妖精・雪風、春嵐、Facebookというビジネス
 3月前半の読書 三千枚の金貨、「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト、下町ロケット、ふたたびの恋
 2月後半の読書 神様のカルテ3、卵をめぐる祖父の戦争、シューカツ、迷惑メールやって良いこと悪いこと
 2月前半の読書 北帰行、天地明察(上)(下)、微笑む人、ジェノサイド(上)(下)
 1月後半の読書 二人静、ザビエルの首、真夜中の男、殺し屋 最後の仕事
 1月前半の読書 冷血、クリフトン年代記 第2部(上)(下)、八つ花ごよみ

◆◆◆◆◆◇◆◆◆◆◆◇◆◆◆◆◆

今年2014年も今日で終わりです。お世話になりました。
皆様におかれましても、よいお年を迎えられることを心より願っております。
また来年もよろしくお願いいたします。


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