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散る。アウト 盛田隆二

2004年に発刊、2009年に文庫化された小説です。(文庫版の)盛田氏の作品は過去概ね読んできましたが、その中ではちょっと異色の作品です。「散る。アウト」は「chill out」とかけていて、意味は「頭を冷やせ」とか「落ち着け」と言ったような意味です。

主人公は大学を卒業し、信州の精密機械メーカーに勤務し、順風満帆な生活をおくっていたものの、ある時から先物相場に手を出してしまいます。結局、その穴埋めでサラ金などから1千万円以上の借金を作ってしまい、妻は逃げだし職場からは追われ、借金取りから逃れるために東京の公園で寝泊まりしています。

日比谷公園で遠く中国やモンゴルから飛来する黄砂を浴びながら、死ぬことだけを考えていたところ、外国人との偽装結婚にスカウトされ、モンゴルへ飛び立つことになります。

そこで現地の女性と結婚式をあげ、証明書を発行してもらって帰国する予定が、同行していた男性がホテルで何者かに殺され、事件に巻き込まれてしまいます。その辺りから盛田作品には今までなかったハードボイルド的な展開となってきます。

モンゴルは元々社会主義国で日本との関係はそれほど深くはなかったものの、ここ数十年のあいだは様々なODA援助や資源輸入など関係は深まってきています。日本からも毎年2万人程度が観光やビジネスで訪れ、日本の国技と言える大相撲の力士ではモンゴル勢が上位を占めているのは両国の友好に貢献しています。

しかし、モンゴル国内はと言えばまだまだインフラ整備が遅れ、治安も悪く、ストリートチルドレンが多いなどアジアの中でも経済発展が遅れています。おそらくそのようなモンゴルの姿を著者が目の当たりにして、創作意欲をかき立てられたものと思います。

以前の社会主義国によくある外貨稼ぎのために観光客を誘致し、その観光客が辿るルートだけは見かけ上綺麗にしておくものの、一歩裏道に入ると腹黒い役人や様々な利権を手にするマフィアが暗躍し、捨てられた子供達が路上で必死に生きているという貧しい国の姿がよく伝わってきます。

主人公の日本人はモンゴルに着いてからは、ひ弱ながらも懸命に生きようともがきながら、やがては運命にまかせてロシアへ、そして再び日本へと帰ってきます。最後の終わり方がちょっと気に入りませんが、この主人公のその後を描いた続編を期待したいところです。

著者別読書感想(盛田隆二)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

盗作 (上)(下) (講談社文庫) 飯田譲治・梓河人

飯田譲治氏はどちらかといえば小説家というより映画監督や脚本家としてのほうが有名で、監督・脚本作品としては「NIGHT HEAD 劇場版」(1994年)、「らせん」(1998年)、「アナザヘヴン」(2000年)など、その他「世にも奇妙な物語」など数多くのテレビドラマの脚本等を書いています。

この小説は2006年に単行本、2009年に文庫化されました。梓河人氏との共作はこの「盗作」をはじめ、いくつかの小説でおこなわれていますが、実際この梓河人氏がいったいどのような人か調べてもよくわかりません。謎ですね。

この小説を読み始めたときは、女子高生の学園ドラマかと思いましたが、そうではなく、ちょっと精神世界に踏み込むオカルトチックなテーマのものです。

主人公の女子高生に、ある日突然天から神が降臨してきたような超常現象が起き、筆をとりがむしゃらに絵を描くことになります。そしてその絵を見ると誰もが呆然としてしまう傑作が出来上がっています。そしてその絵が全国的に話題になるも、やがてそれがあるモザイク絵とうり二つだということが判明し、盗作の疑惑をかけられてしまいます。

時は過ぎ、主人公は社会人になって東京で地味なOL生活をおくっていた時、やはり絵を描いた時と同じような突然のひらめきで、歌を作詞作曲します。これがまた大ヒットして多額の印税を手にすることになりますが、今度はオーストラリアの原住民アボジニが歌う曲とそっくりということがわかり、再び大きな非難を浴びてしまうことに。

本人は絵にしても曲にしても元の作品とはまったく接点がないのに、なぜそのような瓜二つの作品ができてしまうのかという奇妙な出来事に打ちひしがれてしまいます。自分の頭に浮かんだひらめきを作品にすることが芸術だと信じていたものの、それが盗作だと言うことになれば、創作とはいったいなんだという疑問にぶつかります。

そして盗作の疑惑をかけられたまま、逃げ出すように結婚してアメリカへ渡り、子供も授かり幸せな暮らしをおくっていた主人公は、三度自己の欲求を抑えることができず、夫の制止を振り切り、家を飛び出して今度は大河小説を書くことになります。その小説がなんとノーベル文学賞を受賞することになりますが、果たしてその作品は、、、という最後までドキドキハラハラの展開です。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

黄昏の百合の骨 (講談社文庫) 恩田陸

2004年発刊、2007年に文庫化されたミステリー作品ですが、初出は文芸誌メフィストで2002年だったということで、10年以上前に書かれています。デビュー後10年が経ち、人気作家として次々とヒット作品を発表していた頃でもあります。

三月は深き紅の淵を」(1997年刊)、「麦の海に沈む果実」(2000年刊)の続編で、主人公だった水野理瀬のその後が描かれていますが、実は読み始めてからそのことを知り、その前作は読んでいません。道理で複雑な人間関係がすでに知っているものとして次々登場し、この作品から読み始めると、その複雑な縁戚関係、人間関係がどうなっているのかがすぐにはつかめません。ちょっと失敗してしまいました。

そう言うときはいったん読むのを中止して、前作から読むのが筋なのですが、気がついたのがもう半分近く読んでからでしたので、ままよと最後まで読むことに。

貴志祐介氏の「黒い家」のように、とかく変な噂と謎が多く近所の人から「魔女の家」と呼ばれ、室内にはいつも白百合が飾られている家で、そこの住人が連続して事故死する事故が起きます。その亡くなった祖母の遺言で留学中のイギリスから帰ってきてその家に住むようになった主人公の高校生は、同居する伯母や京都から法事にやってきた従兄弟とその謎について調べていきます。

恩田陸氏の小説にしては、ちょっと過激なシーンが多くて驚きですが、ストーリーを盛り上げていくにはそのような場面も必要なのでしょう。そして最後の最後までドキッとさせられるのもちょっと意外な感じで、これですべてが終わったとは思えない結末となり、またそのうち続編が出てきそうです。もう出ているのかな?よく知らないけど。

著者別読書感想(恩田陸)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

兎の眼 (角川文庫) 灰谷 健次郎

灰谷健次郎氏は、貧しい家から苦労して大学を出て、小学校教員を務めながら小説を書いていた苦労人で、その中の短編小説「笑いの影」(1962年)では、部落解放同盟から差別小説と激しく糾弾を受け、身内の不幸などもあり、その後教師を辞めています。

小学校教員としての経験を生かして文筆業に入り、実質のデビュー作品となるこの「兎の眼」は1974年に発刊され、児童文学の傑作として、ミリオンセラーに輝き、1979年には壇ふみ主演で映画化もされています。ということで、今さらながらと言われそうですが、人からのお薦めで読んでみました。

児童文学というと、小学生向けの文部省推薦図書というイメージを持っていましたが、実際はそうではなく、この小説は小学生でも読みやすくなっていますが、それよりも子供を持つ親や、教員を目指す若い人達にぜひ読んでもらいたい小説です。

小学生の教師を主人公にした小説は、古くは壺井栄氏の「二十四の瞳」や、伊集院静氏の「機関車先生」、湊かなえ氏「往復書簡(二十年後の宿題)(映画「北のカナリアたち」の原作)など数多くありますが、その中でもこの作品は特に秀逸と言えるものでしょう。発刊当時ミリオンセラーを記録しているので、おそらく65才以上の人はよく馴染みがあるのではないでしょうか。

ストーリーはゴミ処理施設が近くにあり、その処理施設で働いている貧しい家庭も多い小学校へ赴任してきた新任の女性教師が、子供やその親、同僚の先生に支えられて差別や子供の教育を学び、自らも成長していく姿を描いています。

中でもゴミ処理場近くに住み一言も喋らず暴力的な性格の問題児が、ハエのことになると夢中になり、それをきっかけとして先生が文字を教え、心の交流をしていくところは感動します。またそのゴミ処理場で働く祖父が実は早稲田卒のインテリで、戦争中には壮絶な思いをして朝鮮人の友人を失った記憶を訥々と語るところなども、物語にいいスパイスを効かせています。

また教頭の反対を押し切り、知恵遅れの子供を養護学校に行くまでしばらくの間、普通の小学校で預かることを受け入れ、最初は様々な問題を起こし、生徒や父兄からの激しい非難や苦情をうけながらも、やがては生徒や同僚教師の助けが得られ、保護者達にもこれこそ本当の教育だと理解されていくところは感動さえ覚えます。

解説に書かれていましたが、この本を読むことで、教師を目指している若者から「このようなたいへんな試練があるのならとても自分には勤まらない」という感想が出てくるのはすごくまともなことで、単に「子供が好きだから」「人に教えることが好き」というだけで教師にはなってもらいたくはないと思う反面、そうした問題意識を心の隅に置いているのなら、もう立派な教師の卵になっているとも言えます。

この小説は40年前の小学校の姿ですが、登場する一部の保護者のモンスターぶりや、子供のことよりも自分の出世や学校の評判ばかりを考えている上司(教頭)などいまの学校となにも変わっていないようです。そうした発見ができるだけもこの小説をよむ価値はありそうです。久しぶりにいい本に出会えました。

 【関連リンク】
 5月前半の読書 すべてがFになる、マンチュリアン・リポート、砂の上のあなた、寝ながら学べる構造主義
 4月後半の読書 写楽 閉じた国の幻(上)(下)、なぜ日本でiPhoneが生まれなかったのか?、夕映え天使、純平、考え直せ
 4月前半の読書 竜の道 飛翔篇、ルームメイト、父・こんなこと
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すベてがFになる (講談社文庫) 森博嗣

森博嗣氏1996年のデビュー作として有名な同著ですが、その時すでにシリーズものを何作かは書いていてこの作品はシリーズ4作目となるそうです。

デビュー作にはインパクトのあるものからということで、この作品がデビュー作となったようです。

他にも似たようなタイトルの作品があり、もう読んだものとばかり思っていたらまだだでした。遅ればせながら。

森氏の作品にはこの作品を含む「S&Mシリーズ」の他に、「スカイ・クロラシリーズ」「Vシリーズ」「Gシリーズ」などが有名で、その他にも多数の著作物があります。

私が過去に読んだことがあるのは「Zシリーズ」の「ZOKU」だけです。あとアニメ映画になった「スカイ・クロラ」は見ましたが、それだけみても多才な人だということがわかります。

2005年に退職するまでは名古屋大学工学部助教授で、異色の作家と言えますが、工学部だけにSF的な発想と知識はお得意です。

ストーリーは、主人公のN大学助教授犀川創平と犀川の恩師の娘である西之園萌絵(犀川と萌絵でS&Mコンビ)が、天才プログラマ真賀田四季博士が幽閉されている真賀田研究所がある島へ行くことになり、そこで殺人事件に巻き込まれることになります。この著者が書く小説の登場人物名はいつもユニークです。

真賀田四季博士が島で軟禁状態にあるのは、若くしてアメリカの大学を卒業し、天才と言われていたものの、その後両親を刺殺したということによります。

精神病の末の犯行ということで、刑務所ではなく両親が作った研究施設の中で数十年ものあいだ幽閉され、医者の監視下におかれています。その中で起きた密室殺人の謎を解いていくわけですが、数学的な話しもあり複雑で内容を理解するのに結構疲れました。

この小説が発刊されたのは1996年なので、書かれたのがその前年1995年だとすると、社会ではWindows95が登場しインターネットが使われ始めた頃です。

しかしこの小説の中ではネットやPCがごく普通に使われていて、VR(バーチャルリアリティ)技術や、リモートコントロール、コンピュータの音声案内、自律的なロボットなど、当時としてはまだほとんど実現していなかった場面が展開されています。それが当たり前になった今では、この小説が示す近未来想定に共感を覚えます。

文庫版で500ページを超す長編で、それなりに科学的な興味と面白さもありますが、技術的な面以外では無理をしていて、突拍子もない素人っぽい部分が目立ち、子供騙しとまでは言わないまでも、いい大人が真剣に読んだり感想を書くものではないかなとも。またこういった漫画的な小説にあまりリアルさを求めてもいけないのでしょう。

著者別読書感想(森博嗣)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

マンチュリアン・リポート (講談社文庫) 浅田次郎

蒼穹の昴」「珍妃の井戸」「中原の虹」から続く近代中国・満州を描いたシリーズで、「中原の虹」を完結してから3年が経ち、すっかり忘れた頃にようやく文庫として登場しました。

簡単にシリーズをおさらいをしておくと、「蒼穹の昴」は清朝(1616年~1912年)末期、貧しい家の出身で踊り子だった李春雲が苦労を重ね宦官となり、やがて頭角を現し宦官の中でもトップの座に就きます。

そして悪女として名高い西太后に仕え、内憂外患の滅び行く清朝を懸命に守り建て直していこうとする姿を描いたものです。日中合作でドラマ化され、NHKで放送されてました。

続く「珍妃の井戸」は、清朝滅亡を一気に加速させることになる義和団の乱(1900年)が取り上げられています。

今までは清朝末期の話しといえば「ラストエンペラー」で有名な宣統帝、愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)を描かれることが多いのですが、浅田次郎氏は先の「蒼穹の昴」とともに西太后を中心して描いています。

そして「中原の虹」は義和団の乱のあと起きた日露戦争(1904年~1905年)が日本の勝利で終結した後、列強各国に蹂躙されていく統治者がいなくなった中国で、馬賊出身の張作霖(1875年~1928年)が東北部(満州)で勢力を増し、やがては長城を超えて北京へと進出していく過程と挫折が描かれています。

そしてこの「マンチュリアン・リポート」です。直訳すれば「満州報告書」。

清朝末期の1900年初頭、満州全域を制覇し、さらに清朝が滅亡した後、主導権争いで群雄割拠する北京へ入り、中国統一へ野心をのぞかせていた張作霖でしたが、北伐で勢力を増してきた国民党(国民革命軍)との争いに敗れ、地元奉天へ引き下がることを決め、その際に何者かによって列車ごと爆殺(1928年6月4日)されてしまいます。物語はその1年後から始まります。

裕仁親王(昭和天皇、当時27才)はその張作霖暗殺事件を曖昧にする田中総理大臣を更迭し、事件の真相を調べるため、軍紀を乱したと投獄されていた日本帝国陸軍の志津中尉に白羽の矢をたて中国へ送り込み、その中尉が定期的に送ってくる報告書という体裁で、真実に迫っていきます。

主人公は報告書を送る志津中尉と、その報告書の間に登場する25年以上前に西太后に贈られた英国製の蒸気機関車を擬人化した鋼鉄の公爵。

そう、張作霖を乗せて北京から奉天へ向かう時に使われた蒸気機関車です。とは言うものの、喋る英国の蒸気機関車といえば「機関車トーマス」か「チャギントン」がすぐに頭に浮かんできてしまい、シリアスなドラマになにか妙な感覚を覚えます。

清朝の後の中華皇帝に手が届く寸前のところまでいきながら思いを果たせず、暗殺されてしまう張作霖は、私の中では天下統一の前に倒れた織田信長や、自分が関わってきた新しい日本を見ずして倒れた坂本竜馬のイメージとダブります。

その暗殺には関東軍参謀が関わったという説が有力ですが、それ以外にもスターリンの命を受けておこなわれたなど諸説があり現在でも確定はされていません。

この暗殺、一般的には線路や列車に仕掛けられた爆弾が炸裂してというイメージが強いのですが、事実は線路同士が交差する上の橋を爆破して下を走る列車を押しつぶすというもの。しかも押しつぶせるのは、19輛編成のうち、せいぜい1~2輛という難しさです。

それには張作霖がその時に乗っている車輌を知らなければならず、また駅が近くてスピードは落としているものの、列車は走っているので、その車輌が通過するタイミングで爆破しなければならず、緻密な計画と練度の高い技術が要求されます。

そうした中でこの志津中尉に代弁させた浅田次郎氏が導き出した結論は、、、ということは読んだ人だけの楽しみとしておきましょう。そしてこのシリーズはここで終わってしまうにはなにか中途半端な気もするので、これに続く新たな小説が今後の楽しみです。

この浅田次郎氏のシリーズは史実を追い実在の人物の名前もたくさん出てきますが、基本的にはフィクションの小説であるということを十分理解しておかなければ、時々書評で見かけるようなトンチンカンな感想になってしまいます。それは史実とフィクションをごっちゃにしてしまっていることによるでしょう。

著者別読書感想(浅田次郎)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

砂の上のあなた (新潮文庫) 白石一文

ほかならぬ人へ」(2009年発刊)で直木賞を受賞し、その翌年に発刊された2010年の作品(文庫の発刊は2013年3月)です。

主人公は結婚して家庭に入った30代女性。子供が欲しくて計画妊娠など手を尽くしているその女性の元に、突然見知らぬ男性から「亡くなられたあなたの父親の手紙がある」と電話がかかってきます。

その手紙は主人公の父親から愛人に宛てたもので、筆跡や内容から父親が書いたもので間違いなく、死後はその愛人と一緒になりたいと書かれています。

もうそれだけでもひとつの大河ストーリーが出来上がりそうですが、話しは中盤以降、思わぬ方向へと進んでいきます。詳しくは書きませんが、まったく予想外の展開で、これは家族というより、なにか人間の縁とか運命を強く感じさせられるドラマに仕上がっています。

ただひとつの小説に「妊娠したい女性」「夫とのすれ違い」「亡くなった父の愛人」「突然現れた魅力ある男性」「自分の名前の謎」などいろんな展開を詰め込んでしまったがゆえに、話しがあっちへ飛んだりこっちへ戻ったりと散らかってしまった感はゆがめませんが、前半部分の緩やかでけだるい進行から、後半は展開の早い推理小説のような趣となります。

親が高齢で亡くなると、それまで背負ってきた長い人生には、実の子も知り得なかった様々な葛藤や歴史があり、それを子供が知ることが果たしていいことかどうかは賛否あるでしょう。ただ好きだった肉親に関することをもっと知りたいという欲求もまた起きるでしょう。

今年の暮れに映画上映される百田尚樹氏の「永遠の0」も、特攻で亡くなった祖父のことを孫達が調べ歩く小説ですが、若い人の自分のルーツ探しが今後流行していくかもしれません。

映画「真夏のオリオン」(原作は池上司氏「雷撃深度一九・五」)も、孫が亡くなった祖父のことを聞きに祖父の戦友を訪ねるところから始まっていました。

著者別読書感想(白石一文)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

寝ながら学べる構造主義 (文春新書) 内田 樹

街場のメディア論」や「下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉」など、社会の流行をバサバサと切る歯に衣着せぬ言論でお馴染みの著者ですが、その代わりに敵も多そうで、Twitterなどではよく非難の的となったりしてよく話題に上がっていたりします。

この本は2002年に発刊されたものですが、いかにも難解そうな思想哲学「構造主義」について、気楽に読んでも理解ができそうに工夫して書かれています。本は漫画しか読まないという人には無理かも知れませんが。

「構造主義」とは一言で言えば、、、と書こうと、Wikipediaを読んでみてもさっぱりわかりません。「狭義には1960年代に登場して発展していった20世紀の現代思想のひとつである。

広義には、現代思想から拡張されて、あらゆる現象に対して、その現象に潜在する構造を抽出し、その構造によって現象を理解し、場合によっては制御するための方法論を指す言葉である。」とこんな調子です。入り口でこれですから、興味がなければさらに深く突っ込んで学ぼうとは思いません。

本書ではそういう難解な説明は極力排除されているとはいえ、いきなり読むとやはりついて行けません。特に「寝ながら」読むとそのままぐっすり寝込んでしまいます。

マルクス、フロイト、ニーチェ、フーコー、ソシュール、バルト、レヴィ-ストロース、ラカンなど思想家達のこと、構造主義が出来上がってきた歴史的背景、その他関連する逸話など、寝ながらではとても理解できませんが、最低限の教養というか身だしなみとして知っておくことができるかもしれません。

巻末のあとがきに書かれていた「レヴィ=ストロースは要するに『みんな仲良くしようね』と言っており、バルトは『ことばづかいで人は決まる』と言っており、ラカンは『大人になれよ』と言っており、フーコーは『私はバカが嫌いだ』と言っているのでした。」というまとめが象徴的でした。

著者別読書感想(内田樹)


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写楽 閉じた国の幻 (新潮文庫)(上)(下) 島田 荘司

数多くの推理小説やエッセイ、ノンフィクションまで出している島田荘司氏の2010年の作品(文庫は2013年)です。私は過去に御手洗潔シリーズの「眩暈」を読んでいます。

写楽と言えば浮世絵師として日本人はもちろん、世界でもレンブラントやベラスケスと並ぶ「世界三大肖像画家」として有名ですが、謎が多い人物で、本名や生没年月日、出生地などはわかっていません。

それだけに推理小説などでは格好のテーマになり、皆川博子氏原作の「写楽」は篠田正浩監督により2009年に映画化もされています。

写楽が残したとされる作品は、江戸中期1794年から翌年にかけてわずか10ヶ月間だけで145点の錦絵を描いた(平均2日に1作)とされ、突然現れ、そして忽然と跡形もなく消えてしまいました。

「描いた」と書きましたが、写楽の浮世絵は版画なので、その下絵など原画は見つかっていません。

Sharaku_Otani_Oniji.jpg当時江戸で人気が高かった葛飾北斎や喜多川歌麿、作家十返舎一九などとも活躍した年代がかぶり、それら浮世絵師や戯作者が一時だけ別名で描いたものではないかという噂もありますが、現代では能役者斎藤十郎兵衛だったという説が有力となっています。

上記の映画「写楽」では大道芸人が書いたさらし首に感動した版元が、役者絵の浮世絵を描かせたという設定になっています。

しかしそれらの説にもいくつか錯誤や無理な解釈があるようで、「写楽は俺だ」と名乗っても別段差し障りがないはずなのに、そうしなかったのはどうしてか?

多くの人なら名誉なことなのでそうするし、例え本人が言わなくても、その周囲にいた人達が噂をしたり書き記しても不思議ではありません。しかし写楽の正体は固く隠され、作品を出した10ヶ月間しかその名前は登場してこないのです。

この小説では浮世絵を研究する学者が主人公ですが、自分の不注意で子供を回転ドア事故で亡くしてしまい、それが元で元々すれ違いの多かった妻に家から追い出され、過去に出した北斎の論文本にもインチキ学者とケチがつけられ、自殺を考えるまで追い詰められていきます。

ストーリーに幅を持たせるためなのか、本題の写楽とは関係のないこの私生活に起きる不幸が、どうも話しをとっ散らかしてしまっていて、しかもそれに関する話しがやたらと長いのが少し残念な気がしますが、その子供の事故が元となり、大学教授との出会いや江戸時代から脈々と続く日本とオランダとの関係を演出するため仕方がなかったのでしょう。

その主人公と知り合った大学教授、出版社の担当者などが協力し合ってその謎に近づいていくわけですが、もしかすると写楽研究がひっくり返るのでは?と思うような、現実に存在する新たな証拠を出してその推理を導き出しています。

そして著者渾身の結論を導き出した後、まだ今後の展開を匂わせる終わり方で、おそらくいつかその推理を補強する新たな証拠を積み上げた続編が書かれるのでしょう。それも楽しみです。

高層ビルに使われる回転ドアと写楽の浮世絵の関係など、想像を超えた展開と、日本人としてあまり認めたくない斬新な解釈と驚嘆の事実など、これは写楽に興味があるなしにかかわらず、華やかだった江戸庶民文化を知る意味でも、ぜひ多くの人にお勧めしたい作品です。

著者別読書感想(島田荘司)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

なぜ日本でiPhoneが生まれなかったのか? 上村輝之

著者上村氏は弁理士の他、様々な肩書きを持つ方で、こういう有能で多才な人はベタな商売までもお上手という見本のようなアドバルーン的な本です。いや皮肉ではなく感心してのことです。

内容は大きく前半部と後半部に分かれていて、前半部分はもの作りに重点を置いてきた日本メーカーの没落と、新しい価値観を創造してきたアップルやダイソンなどの違いを丁寧に解説。

そんな当たり前のこと知ってら!という方も、あらためて整理をしながら読んでおくと、後半主にページを割いて書かれている複雑なTRIZ(トゥリーズ)のことが素晴らしく思えてくるところがミソです。

旧ソ連で提唱され、今では多くの企業で採用されているTRIZとは、直訳すると発明的問題解決理論(なんのこっちゃ)のことですが、簡単に言えば思考理論の一種で、それを学ぶと創造的能力が向上し、企業にとっては競争力向上につながるというものらしいです。

クリティカルシンキングやロジカルシンキングを学んで実践したけれど、うまくいかず挫折した人にどうでしょうか。ちょうどリンゴダイエットやバナナダイエットに失敗した人にキウイダイエットを紹介するようなものかも知れません(違う)。

いま成功している企業もまた、多くの失敗をしているのが普通で、その成功すら10年後はどうなっているかわからない先行きが不透明で、いとも簡単にひっくり返される激しい企業競争の世界なので、これが正解!というものはどこにもないのですが、新興宗教と似ていてこのような多才な人が言うことなら信じてみようかと思わせるところがすごいです。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

夕映え天使 (新潮文庫) 浅田次郎

浅田次郎氏のお洒落な大人の感性を試されるような6編を収めた短編集です。それぞれのタイトルは、1.夕映え天使、2.切符、3.特別な日、4.琥珀、5.丘の上の白い家、6.樹海の人となっています。

そう言えば50冊以上持っている浅田次郎氏の小説を読むのは久しぶりだなと思って調べてみると2011年9月に「ハッピー・リタイアメント」を読んで以来、約2年ぶりのことです。なぜか少しあいだが空いてしまいました。

ただ浅田次郎氏の作品は文庫化されると内容やタイトルに関係なくすぐに買ってしまうので、昨年(2012年)、書店の文庫新刊コーナーで平積みされていた徳間文庫の「姫椿」を買ったら、2003年に新刊文庫で購入した文春文庫の「姫椿」と同じで(そりゃそうだ)、なにか詐欺に遭ったような気分でした。9年前に一度文庫化された本を新刊として売るなよまったく、出版社の策略に見事引っかかりました。

新装刊の場合だと、奥付の発刊日を見るとその作品が新しいものかどうかが判断付きますが、出版社が違う場合はそれではわかりません。売れっ子の作品は、そのように違う出版社から発刊されると新刊扱いになるので気をつけないといけません。

タイトルにもなっている「夕映え天使」は、ワケありの男女、と言ってもどこにでもいそうな中年男女の機微に触れるような味わい深い作品で、「切符」は親に捨てられた子供と祖父との暖かな日常に起きた出来事にまつわる話し、「特別な日」は定年退職の当日、本当なら自分が役員になれると思っていたのに、そうはならなかった本当の理由が終盤一気にわかるという浅田氏としては異色のSFチックな話しです。

「琥珀」は定年間近になって妻から離縁された刑事が、休暇でふと訪れた三陸の寂しい町で、時効間近の殺人事件の手配犯とバッタリ出くわすことになる話し、「丘の上の白い家」は貧しい家の少年とその仲間が出会った裕福な少女の思惑が引き起こした不幸な出来事で、いずれももう少し膨らませた内容で読みたいと思わせる秀作揃いです。

最後の「樹海の人」は少し趣が違っていて、浅田氏が自衛隊に入隊していた頃の出来事で、訓練のため富士山の樹海の中で1人取り残されサバイバル訓練をしていたときにふと現れた謎じみた男性のことを、自殺するために樹海に入ってきた自分の未来の姿ではないかという妄想じみた話し。

その訓練中に密かに持っていった本がトルーマン・カポーティの「ティファニーで朝食を」で、訓練から撤収する際、雨で濡れそびたその本を捨てていこうとしたら、謎の男性から持っていくよう渡されて、今でもちゃんと保管してある。

で、浅田氏が自衛隊に入隊したのは三島由紀夫が自衛隊で割腹自殺をしたことを機に決めたのは有名な話し。そして三島由紀夫が来日したカポーティと面会した後、「カポーティは自殺する」と予言していたという(結果は自殺したのは三島でカポーティは60才の時心臓発作で病死)。なにか連綿とした不思議なえにしを感じさせられます。

著者別読書感想(浅田次郎)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

純平、考え直せ 奥田英朗

2004年に「空中ブランコ」で直木賞を受賞している奥田氏の作品は、文庫になっている小説はほとんど読んでいます。この「純平、考え直せ」は2009年から2010年にかけて小説宝石に連載された作品ですが、4月末現在まだ文庫化はされていません。

著者の作品は昨年「オリンピックの身代金」を読みましたが、こちらはシリアスな小説で、1964年当時の高度成長まっただ中の日本を、浮かれたありきたりの視点ではなく、東京など大都市だけが繁栄し、東北の寒村など地方は貧しいまま置いていかれ、そこから出稼ぎに来ている肉体労働者と、贅沢で華やかな東京で暮らす人達とを対比をするやり方に感心しました。

この「純平、考え直せ」はユニークなタイトルですが、最近は映画にもなった朝井リョウ氏の「桐島、部活やめるってよ」(2010年2月刊)などもあり、こういう呼びかけるタイトルが流行ってきているのでしょうか。

主人公の純平は22才で新宿歌舞伎町を根城とするヤクザの見習い中。まだまだ下っ端で使いっ走りの身ながら、組員の半数は刑務所へ入っている中で、今まではどうにか無難にしのいできています。

ところが組同士の争いから、組の親分から抗争相手の幹部の命をとるため鉄砲玉として任命され、ようやく男を上げるときがきたと意気上がる中、なぜか周囲にいる人達からは心配され、そして様々な世話も焼かれ、あげくにはネット上にもその話しが掲載されてしまいます。

個人的には官僚やヤクザをヒーロー扱いするたぐいの話しは好かないのですが、そこは奥田氏の書いたものなので、不快感は感じずスラスラと読めます。

奥田流「サウスバウンド 」や「イン・ザ・プール 」などに共通するコメディタッチの軽いノリの小説です。

著者別読書感想(奥田英朗)


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704
竜の道 飛翔篇 白川道

2009年に単行本を発刊、文庫本は2011年刊の長編小説です。白川道氏と言えば、やはり自伝的なハードボイルド小説「病葉流れて」シリーズが有名ですが、この1月にはその5作目となる最新作「浮かぶ瀬もあれ 新・病葉流れて」が発刊されています。そのシリーズともどこか通じるストーリーで、「飛翔篇」と銘打ってあることからシリーズ化されていきそうです。

主人公は捨て子だった双子の男性、竜一と竜二で、二人は差別を受けてきた世の中や、唯一優しく接してくれた知人を死に至らしめた企業に報復をするため、壮大な計画を練り、それに向かって着々と準備に取りかかります。

兄の竜一はコインの裏として、自分の名前を捨て、他人になりすまし暴力団の会長の懐に潜り込み、闇世界へと入っていきます。弟の竜二はコインの表として、大検をとり、東大へ入学、キャリア官僚の道へと順調に進んでいきます。

竜一が闇の世界でのし上がっていくための資金を得る方法として株取引の話しが登場しますが、著者にとってはバブル期に投資顧問会社を経営していたこともあり、途中少々食傷気味になるぐらい満載されています。

「投資ジャーナル」を発行し投資顧問を主宰していた中江滋樹氏がモデルと思われる人物や、蛇の目ミシン工業の株買い占めで有名な仕手筋集団「光進」事件など、バブル時に起きたインサイダー事件や仕手戦、業界新聞やゴルフ場会員権乱発など、株や金融に関する事件や犯罪を取り入れたものとなっています。

いや、あの頃の金融・証券業界は今思えば、まったく気が狂っているというか、凄かったの一言です。この時代のことを描くにはモデルには事欠かないでしょう。

読んでいて本当は、表の道を着々と進めていく双子の弟竜二の成長にも関心があるのですが、そちらはあっさりしたもので、大検に通って、東大に入り、卒業して運輸省(現国土交通省)に入省、亡くなった親が入っていた莫大な生命保険を使って華麗なエリート人生を送っているとそれだけしか書かれていません。

そこの点はちょっと残念で、ストーリーの中で並行して竜一と竜二の太陽と月の明暗を対比しながらその生き様を読んでみたかったなと。

著者別読書感想(白川道)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ルームメイト (中公文庫) 今邑 彩

1997年に初出、2006年に文庫化されたミステリー小説です。著者は先月3月6日に57歳の若さで自宅マンションで病死しているのを発見されましたが、独居のため発見が遅れ、死後約1ヶ月ぐらい経っていたそうです。ご冥福をお祈りいたします。

若いうちは1人住まいの気楽さや、自分で稼いだお金を自由に使えることなどいいと思うことも多く、それが結婚しない男女を増やしている要因でもあるでしょうけれど、健康に不安を覚えてくる50代以降ともなると、くも膜下出血や脳梗塞、急性心筋梗塞など、身近に誰かいないと助かる命も助からないこともあり、こうした不幸な出来事が、現在30代40代のシングルが年齢を重ねていくにつれ今後増えそうな気がします。

著者は以前に乳ガンを患っておられたとのことで、急性の病気ではなかったのかも知れません。

私の身近な知人にも、突然倒れた両方のケースがあります。独居の人(30代)は、会社を無断欠勤したことで、不審に思い家族に連絡したところ、自宅で亡くなっているのが発見され、DINKSの人(40代)は、自宅で倒れたとき配偶者がたまたま会社が休みだったため救急車をすぐ手配をして助かり、その後多少後遺症は残ったものの現在も元気に活躍中です。

この小説では、今流行のルームシェアをした相手がとんでもない人だったというところからスタートしますが、もし著者もルームシェアでもしていれば、もっと長生きできたのにという流れでこの本を読んだわけではありません。

以前読んだ「いつもの朝に」がなかなかよかったので、そのうちに読もうとお亡くなりになる前に買っておいた本です。

さて余計な前置きが長くなりましたが、東京に出てきた女学生がアパートが見つからず困っていた時、ちょうど同じく困っていた見知らぬ自称女子学生と意気投合し、相手の発案で二人で共同でマンションを借り、ルームシェアすることになります。

ところがしばらくすると、不在がちとなり、いつもなら入金されるはずの家賃の半分が、約束の日になっても入らず、困って相手の実家へ連絡すると全然別の人が電話に出るということに。

また一方では、籍は入れていないものの、旅先で知り合い、その後一緒に住み始め、内縁関係にあった女性がある日突然いなくなり、なにか事件に巻き込まれたのでは?と探し始めた男性がいます。

やがてその女子学生のルームメイトと内縁の妻は同一人物ということが判明し、女子学生が消えた女性を大学の先輩と一緒に探すことになります。そこで判明した驚愕の事実と、さらなる事件へと発展していくわけですが、さすがにこれ以上は書けません。

ひとつ書いておくと、本文に登場しますが、ダニエル・キイス著のノンフィクション「24人のビリー・ミリガン 」を読んでおくとモロモロ心理状態など理解しやすいかもしれません。

最後に二つのエンディングがあり、どちらを選ぶかは読者次第ということになっています。ところが二つめのエンディングはなにが言いたいのかよく理解ができませんでした。

著者別読書感想(今邑彩)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

父・こんなこと (新潮文庫) 幸田文

「父」は1949年、「こんなこと」は1950年に発刊された二つの随筆です。

「父」は著者の父親幸田露伴が、太平洋戦争が終わり、その敗戦のまだ癒えない1947年に、焼け野原となった東京の下町から千葉県市川市へ移り住み、当時としては長寿の満80才で亡くなる数ヶ月間を描いた著者のデビュー作です。文庫版は1961年に「こんなこと」を含め発刊されています。

少し前に著者の自伝的小説と言われている「きもの」を読みましたが、そこでも父親像が深く描かれていました。と同時に明治から昭和にかけての庶民生活や同氏の生い立ちなどがイメージでき、とてもいいものでした。

文化勲章をもらうような有名な父親をもつとその家族、特に子供は様々なメリットもあれば逆にデメリットもあるようです。

例えば老いて病気がちになった際は岩波書店の創業者岩波茂雄氏の紹介で、日本医師会会長まで上り詰め武見天皇とまで言われた医師武見太郎氏が最期を看取るまで主治医としてついていたり、著名人だと言うことで優遇されることもままあります。

逆に、家族はそういう立派な父親に恥をかかせるわけにはいかないと、いつも気を張ることになり、身の回りの世話のためお手伝いさんを雇っても、すぐに喧嘩をして追い出してしまう自分勝手でわがままな病人でも、それが父親なら黙って受け入れざるを得ません。

また療養中には多くの見舞客が次々と来ますが、その相手もしなくてはならず、葬式にいたっては故人とどのような関係があるのかわからない数多くの参列者からお悔やみをうけることになります。

終戦後間もない時代だけに、現在の葬式と違い、業者がすべてを仕切ってやってくれるわけではありませんので家族はそれらの応対だけでもたいへんです。

随筆というのはこういうものだと言ってしまえばそれまでなのですが、1人の高名な人物が病床に伏せって、やがて息を引き取るまでの数ヶ月間を娘が記憶に頼り、日記か記録のごとく書かれているものなので、これ自体は読んで興味が湧くとか面白いものではありません。

ところどころに出てくる、父親との会話と過去の思い出話などには惹かれるところがあります。

「こんなこと」は、その外面は偉いさんであってもうちの中ではこうだったという、娘視点で父親と掃除の仕方やふすまの張り替え、家庭菜園など日常生活に関した父親との思い出が中心に語られています。

これは伝記とは違い、外面は有名人だったけど癇癪持ちで細かなことまでうるさかった父親の生の姿を残しておこうという娘の愛情と使命感で書いたのではないかと勝手に解釈しています。


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701
弁護側の証人 (集英社文庫) 小泉喜美子

1963年というから今から50年も前に書かれた小説で、著者は1985年に亡くなっています。

この著者の作品を読むのは初めてで、全然知らなかったのですが、私の好きなハードボイルド作家生島治郎氏の最初の妻だった方です。

読んでいると、なんの違和感もなくとても50年も前の小説には思えない新鮮さがあります。つまり法廷ドラマというのは何十年経っても進歩がないということなのでしょう。

そう言えば法廷サスペンス映画「十二人の怒れる男」は1957年制作ですが、モノクロ映画ということと、登場人物の服装がみな年代物という以外、ストーリーには古臭さは感じられず、見応えのあるものでした。

主人公は身寄りがなくストリッパーで生計を立てていた女性で、ふとしたきっかけで名門の大企業のオーナー会長家の跡継ぎとされる男性から求婚され、身分の違いを超えて男性の家族の反対を押し切り結婚したものの、当然その男性の家族、親戚、雇われ人からは白い眼で見られています。

そのような中、夫の父親で大企業の会長を務める父親が自宅で何者かに殺されてしまいます。あとはびっくり仰天な仕掛けがあったりしますので詳しくは書けませんが、途中であれれ?と、一番最初に戻って読み返してみたりと、してやられたぁって感じです。

最後はもう少し身寄りも財産もない主人公にとって、ハッピーエンドで終われるとよかったなぁと感じた物語です。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

十三の冥府 (光文社文庫) 内田康夫

いったい何作品あるのかわからないほど数多くある浅見光彦シリーズのひとつで、この作品もすでに2008年にテレビドラマ化がされています。

この浅見光彦シリーズの楽しみは、紀行もの小説の体をとっていますが、ちょっと切り口を変えて日本各地の歴史や伝承に絡めたミステリーが楽しめるということです。

その多くは有名な誰でも知っている観光地ばかりではなく、日本地図でしか知らないようなところもあり、読んでいるといつかは行ってみたいなと思わせるものです。

今回は青森が舞台です。青森といえば、私はまだ未踏の地で、ありきたりに、いつかは奥入瀬渓流、恐山、竜飛岬などに行ってみたいなとぼんやりと思っていましたが、この「十三の冥府」を読み、面白そうなところがいっぱいあるので、もっとジックリと各地を回ってみたいなという気になりました。

例えばシジミ料理が美味しい十三湖、ウミネコ繁殖地で有名な蕪島、ちょっとマニアックな戸来(へらい)のキリストの墓などなど。主人公も食べる十三湖のシジミラーメンはぜひ食べたいものです。

それはさておき、旅行ルポライター浅見光彦が行く先には不可解な死や殺人が起こり、傲慢無礼な刑事が登場しと水戸黄門のようなワンパターンですが、それでもはまってしまうとなかなか抜け出せないのもやっぱり黄門様と同じです。

こうした紀行ものとミステリーがうまくマッチした小説がテレビ2時間ドラマ(実質90分)には最適なのでしょう。見る方も読むだけではわからない当地の美しい風景も楽しめます。

今回のミステリーの謎は、細かなところでは違っていましたが、なんとなく中盤でわかってしまいました。ただ年齢も近く、顔もそっくりよく似た人同士が偶然知り合い、それを使ったアリバイのトリックというのは、ちょっと無理があるなぁって思わなくもない。

それなら時々見かけますがまだそっくりな双子が身代わりになるトリックのほうが現実的でしょう。

タイトルの「十三の冥府」はこの事件に関連して亡くなった人の数や、事件の鍵となる人が住む十三湖、そして忌み数である13をうまくかけたようです。

著者別読書感想(内田康夫)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ハルカ・エイティ 姫野カオルコ

私とほぼ同学年(1歳違い)の姫野カオルコ氏の作品は意外にも今回初めて読みます。この「ハルカ・エイティ」(2005年初出)は直木賞候補にあがったものの、残念ながら受賞には至りませんでした。

主人公は大正9年(1920年)生まれの持丸遙、本書発刊当時の2005年時点では85歳になる女性の、ほぼ一生を描いた大河小説で、そのモデルは著者の伯母とのことです。

嘘か誠かNHK朝の連続ドラマを狙っているという通り、過去の朝ドラのパターンが踏襲されています。

現代に生きる老女が過去を振り返るパターン(これは姪の作家聞いたことを書くパターン)で、その主人公は学生時代には品がよく仲のよい友達が多くのびのびと育ち、やがて太平洋戦争中のどさくさで見合い結婚し、夫はすぐに出征、残された夫の両親と厳しい時代を乗り越える。

戦争が終わり、夫は無事に帰ってきたものの、仕事がなかなか安定せず、当時としてはまだ珍しいキャリアウーマンになるべく偶然見掛けた幼稚園園長の仕事に応募し見事に就職。やがては教育委員会へと順調に出世していきます。

惜しいかなNHKが朝の番組で取り上げるには、仕事もうまくいかないのに次々と外で女に手を出す女癖の悪い夫や、30半ばにして女に目覚めて浮気を繰り返す主人公、そのような両親を見ていて距離を置こうとする一人娘と、あまりにも現実的すぎるかもしれません。

しかしこのような戦前から戦中を描いた作品を読むといつも思うのですが、吉村昭氏や井上ひさし氏ならいざ知らず、この姫野氏や浅田次郎氏や柳広司氏、北村薫氏など、戦後生まれにも関わらず、まるで見てきたようにその時代の風景をうまく描写します。

「小説家は読者を騙すのが仕事だ」と誰か作家先生が書いていましたが、「騙す」というのが違っているとしても、聞いたり読んだりしたものを自分なりに想像して表現することに長けているということなのですね。

戦国時代や江戸時代のことなら、例え事実に大きく反することを書いたとしても、小説なら許され、そしてそれが事実に反するということは誰にも証明ができないのですが、太平洋戦争前後のことならば今でもよく知っている100歳前後の人がまだ多く読者にいるはずです。

あとがきにも書かれていましたが、それに文句を付ける人も少なからず出てくるのでしょう。

著者別読書感想(姫野カオルコ)


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